日本小児循環器学会雑【誌 13巻5号 720〜722頁(1997年)
委員会報告
心臓移植についてのアンケート調査結果
神谷 哲郎
日本小児循環器学会移植委員会
松田 暉 門間 和夫 安井 久喬
1997年のU本移植学会による調査では,わが国で現 実に心臓移植を受けた患者は32例,そのうち小児(16 歳未満)は10例(全体の31%)と少なく1),しかもこれ
らはすべて外国での移植例である.わが国における小 児の心臓移植については,いまだこれを充分に論じる だけの独自の情報に欠けている.
今回,わが国の小児循環器疾患 専門医 が小児の 心臓移植についてどのように考えているか,移植委員 会としてアンケート調査をおこなった.その結果の概 略を報告する.ただしこれはpreliminaryな調査であ り,この結果に基づいて,今後移植委員会ワーキング グループによってさらに調査を進める予定である.
この調査は,日本小児循環器学会の評議員(248名)
に対して1996年4月,心臓移植に関するアンケートを 発送し,167名(67.3%)から回答をえて集計した.回 答者を診療科別に分けると,外科52名(回答者の31%),
内科2名(回答者の1%),小児科115名(回答者の69%)
であった.なお,アンケートの設問を表に示した.
心臓移植に対する意見(アンケート質問1の項参照)
として,如何なる理由といえどもやるべきでないとい うものが全体の3.0%,条件が許せばやってよいという ものが91.7%であった(図1).外科医は,回答者全員 がやってよいと回答した.
過去5年以内に心臓移植による治療が不可欠と考え られた症例の経験の有無(アンケート質問2の項参照)
について,経験があったという答えが全体の21.3%に みられた.施設問の重複に留意しつつ適応と判断され た例数をみると全体で558例が数えられ,うち62.4%が 死亡していた(図2).
ここで国際的な心臓移植の趨勢をみると,心臓移植 例数として1982年から1995年までの問に世界の217施 設から34,326例が登録され2),また小児(16歳未満)に ついては同じ時期に,2,233例(全体0)6.5%)が登録 されている2).医学的にみて心臓移植の成績は安定し,
表アンケート調査川紙
竹問1.心臓移植について(項日の・つに○)
A.如何なる理山といえどもやるへきでない.B.条件が許せぱやってもよい. C.どちらともいえない.
D.わからない.E.その他
ただし,Bの場合には条件を併記, A, C, Eでは理由を併記.
質問2.心臓移植の適応症例について
過去5年間に心臓移植による治療が不,1∫欠と考えた症例の経験について A.あり.B.なし.
Bの場合には例数も回答.
このうち過去5年間に死亡した例の有無と例数 A.あり.B.なし.
Bの場合には例数も回答.
このうち過去5年間に心臓移植のために外国へ紹介された例の有無と例数,その原因疾患 A.あり.B.なし.
Bの場合には例数もIiJl答.
質問3.小児を対象とする心臓移植についての特別な問題点 A.あり.B.なし.
Bの場合には具体的な意見もllll答.
別刷請球先 (〒565)大阪府吹田市藤白台5−7−1 国立循環器病センター小児科
神谷 哲郎
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llノ」、8占1:ξ 13 (5), 1997 721 (103)
外科医
小児科医
全体(含内科医)
刀
!『
53名 /
|
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114名
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/
口条件が許せばよい
■いかなる理由でも不可圏どちらともいえない
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1ノ:」■
169名
膨
1 I I I !
0 20 40 60 80 100
頻度(%)
日本小児循環器学会移植委員会,1996
図1 診療科目別にみた心臓移植に対する意見
外科医による判断 小児科医による判断 全体(内科医を含む)
移植のため外国へ紹介
〆死亡:1eneac P・O・OOOOI
0
25例 致命率,40% 口生存
■死亡
0 100 200 300 400 500 600
例数
日本小児循環器学会移植委員会,1996
図2 過去5年間に心ψ蔵移植の適応ありと判断された 例数とその生命予後
脳死問題の解決 移植の適応 国民多数の同意 施設の医学的水準 ネットワークの確立
0 10 20 30 40 50 頻度(%)
日本小児循環器学会移植委員会.1996
図3 わが国における心臓移植の問題点(頻度θ)高い ものからの5項目)
ドナーの例数不足
小児での脳死問題 小児での意思の確認 小児での移植の適応 移植後の発育・発達
θ ノ
方
り
り一 μ一 n;169
.
/
O lO 20 30 40 50 頻度(%)
日本小児循環器学会移植委員会,1996
図4 わが国における小児の心臓移植の問題点(頻度 の高いものからレ)5項目)
小児において,心臓移植が現実的に選択可能な治療∫三 段の一つとして国際的に確立しているといえる.
小児での心臓移植適応疾患の国際的な実績として,
1歳以トでは先×性心疾患が約8割,1〜5歳では先 天性心疾患と心筋疾患が約5割ずつで,6〜15歳では 心筋症が6割程度と,先天性心疾患を上回っている2).
一方,小児期での適応疾患の変遷をみると,1984年頃 には心筋症が約6割を占めていたものがその後次第に 減少し,1989年には先天性心疾患との比率が逆転して,
以後は先天性心疾患が過半数を占めている2).また別 に,わが国での移植適応疾患として,近畿小児心筋症 研究会が1992年におこなった心臓移植適応患者の疾患 別頻度の調査結果がみられる.これによれば,近畿地 区2〔}施設からの集計で,小児循環器疾患 専門医 が,
後視的に過去5年間に適応ありと判断した小児16例に ついてみると,拡張型心筋症が全体の約半数ともっと も多く,先天性心臓病がこれについで約1/4を占めてい
た3).
これまでに,心臓移植に対するわが国の循環器疾患 専門医 の意見として,たとえば1991年,日本循環器 学会評議員219名に対しておこなわれた,脳死および心 臓移植についてのアンケート調査結果がみられる4).
それによれば,回答をえた169名(回収率77.2%)のう ち,119名(70.4%)がわが国で心臓移植を実施すべき であるとし,内科系評議員133名だけについてみると,
93名(69.9%)が実施してよいという意見であった.
この内科系評議員(そのほとんどが内科医)の移植実 施可という回答より,今回の小児循環器学会評議員の 中の実施可の回答が有意に高かったが,これが,診療 科に基づく考え方の違いの反映であるのか,二つの調 査の間の5年間という時間の流れの影響を受けている のか明確ではない.
ところで,前記心臓移植委員会のアンケート結果で は,わが国で心臓移植をおこなう際に必要な条件(ア ンケート質問1−Bの項参照)としてあげられたもの は,その頻度の順に,図3のようであった.また,小
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722−(lO4)
児に対する心臓移植についての問題点(アンケート質 問30)項参照)として図4のごとくあげられた.
この中で,わが国固有の問題と考えられる項目につ いて補足する.その一つは小児における脳死の判定で あり,他の一つは小児での意志の確認である.わが国 の脳死判定は,厚生省班会議によるいわゆる 竹内基 準 によるものとされようが,この基準では,6歳未 満の脳死については判定から除外されており,このま までは脳死の判定ができないことになる.したがって,
6歳未満のドナーは現われえないことになるが,しか し6歳未満にも心臓移植の適応患者が存在すること は,諸外国の移植の実績の示している通りである.何 らかの方法による幼児での脳死判定の可能性を探るべ きであるといえよう.
一方小児における移植に対する意思の確認につい て,わが国では,法的に成人とみなされるのは20歳以 上であるが,15歳以上20歳未満の場合には成人に準じ て扱うことが可能であるとされている.したがって,
14歳以下の場合には保護者(親権者)の裁量の範囲と なる.ところで,1997年5月の現時点では,わが国に おいて臓器移植法案(いわゆる臓器移植中山案)が衆
日本小児循環器学会刹f誌 第13巻 第5号
院本会議で可決され,参院で審議中の状態にあるが,
このいわゆる臓器移植中山案では,臓器の摘出は死者 が臓器を提供する意思を生存中に書面で表示してお り,遺族が摘出をこぼまない場合に限定されている.
この場合には,小児,特に14歳以下からの心臓提供は 法的にみてありえないことになり,これは小児患者救 済の切り捨てにつながりかねない.
以上,1996年におこなわれた日本小児循環器学会移 植委員会による同学会評議員を対象としたアンケート 調査結果を報告し,その問題点についてふれた.
文 献
1)日本移植学会:海外渡航心臓移植患者のリスト.
1997年,東京
2)Ilosenpud JD, Novic RN, Bennett NE、 et a1:
The registry of the International Society for Ileart and Lung Transplantation:Thirteenth official report−1996. J Herat Lung Trans pl l996;
15:655 674
3)尾内善四郎,浜岡建城:第2回近畿心筋症研究会 報告.1992,京都
4)L」本循環器学会理事会:理事会の見解.Jpn Circ J,Xv 0155.1995