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[15] 1970 Chiu [16, 17] [18-22] [20] Chiu [23] [24] [25] Chiu [16, 17] Chiu G 2

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噴霧燃焼

Spray Combustion

Ⅱ. 液滴群の燃焼

Droplet Group Combustion

      大阪大学  香月 正司

      赤松 史光

      斎藤 寛泰

1.

はじめに

はじめに

はじめに

はじめに

 エネルギー資源,とりわけ化石燃料の枯渇が 叫ばれる中,今もって我々の生活は石油をはじ めとする化石燃料の燃焼に大きく依存してい る.一方,化石燃料の燃焼が地球規模での環境 破壊を引き起こす要因となっていることも紛 れもない事実であり,より高度な燃焼制御にも とづいたクリーンな燃焼技術の出現が早急に 望まれる.  液体燃料の燃焼形態としては,高負荷燃焼が 可能で制御の応答性が良いという理由から,工 業的には噴霧燃焼が多用されている.しかし, 噴霧燃焼は,燃料の微粒化,油滴の気相への分 散,蒸発,燃焼といった素過程が同時に相互作 用を及ぼしあいながら進行する複雑な反応性 二相乱流現象であるために究極の複雑現象と もいわれるほどであり,その燃焼制御にも試行 錯誤的なものが多く存在する.  今,1mlの液体燃料が直径 20 µm の油滴に 微粒化されたとすると,約 2.4 億個もの油滴が 出現することになり,実際の噴霧火炎中には天 文学的な数の油滴が存在していることになる. しかも,微粒化によって生成される油滴は本質 的に粒径分布を有しており,この油滴粒径の違 いがすべての複雑さの原因となっている.  計測の面から考えると,噴霧火炎内の現象や 構造をよく理解するには,分散相である液滴と 気相の両方を観測する必要がある.しかし,過 去に用いられたサンプリングプローブ法では それぞれの相の情報を分離することがむずか しいうえに,時間分解能が低く,複雑な火炎構 造の変化に対応できる計測ができない.また, 現在ガス火炎に対して用いられている種々の レーザ計測法の中にも,油滴の存在によって容 易には適用できないものがある.したがって, ガス火炎と比べると,噴霧火炎に関して計測可 能な量の数がどうしても制限されてしまうた め,実験的知見が未だ十分に得られていないと いうのが実情である.このような理由から,噴 霧火炎中で複雑に絡み合いながら進行する現 象すべてを完全に解明することは,現段階にお いては不可能に近いといえる.  歴史的に,噴霧火炎を解明するアプローチと しては,現象を細分化し,場を単純化する方法 がとられ,すでに前号で述べられたように,ま ず単一油滴あるいは油滴列の蒸発,着火,燃焼 挙動について多くの研究が行われた[1-12].し かし,単一油滴の燃焼で得られた知見のみによ って実際の噴霧燃焼の解明が完全にできるわ けではなく,両者の間になおも隔たりがあるこ とが指摘されている[13].  その後,噴霧火炎中における燃料液滴の観察 やガス組成の測定から,噴霧火炎の巨視的構造 を理解しようとする研究が行われ[14],ガス拡 散火炎との対比に力点をおいた実験的研究が

(2)

行われた[15].  つづいて,1970 年代後半に Chiu らによって, 油滴の密集度による火炎構造の変化を推測し た油滴群燃焼仮説が提唱された[16, 17].これに 対し,中部,赤松らは,噴霧火炎中における油 滴の群燃焼挙動を,実験的に解明することを試 みた[18-22].その際,時間平均的統計量のみの 測定ではなく,高時間・高空間分解能を有する 多チャンネルの同時時系列データを詳細に解 析することにより,群燃焼仮説の実験的裏付け を示すことに成功している[20].その結果,噴 霧火炎は Chiu らが当初描いた油滴群燃焼の概 念をはるかに越えた複雑な構造を持つことが わかった.すなわち,噴霧火炎は単滴燃焼の集 合体ではなく,流れ場中の乱れや油滴間相互干 渉の影響が噴霧火炎の燃焼特性を支配してい ること,また,噴霧の不均一性が作りだす群挙 動の時間的・空間的変化が,噴霧の燃焼機構と 深く結びついていることなどが明らかとなっ た.  一方,予混合ガス火炎の特徴である火炎伝ぱ 現象が噴霧火炎中にも存在し,この伝ぱ火炎の 存在が噴霧燃焼において重要な役割をもつと いう認識から,小笠原と水谷は液体燃料粒子群 中での火炎伝ぱ挙動を実験・理論の両面から詳 細に考察した[23].また,のちに著者らの行っ た実験においても,未燃噴霧流中を火炎が伝ぱ し,多くの小粒径油滴を消失させた後に,残存 した油滴群が群燃焼挙動を呈することが確認 されている[24].  これらの事実から,噴霧火炎中には油滴の群 としての燃焼挙動が存在し,油滴群燃焼を考慮 に入れた噴霧燃焼機構の解明およびモデリン グを進めることが必要であるといえる.  ここでは,噴霧燃焼が『油滴群』の燃焼とし てどのように扱われているのか,また,計測技 術や機器の発達とともにどのような現象を捉 えることが可能になってきたかという点に重 点をおいて話を進めることにする.

2.

油滴群の燃焼

油滴群の燃焼

油滴群の燃焼

油滴群の燃焼

2-1. 油滴群燃焼理論  低揮発性燃料を用いて,非常に希薄な条件下 で燃料噴霧を燃焼させる場合,個々の油滴がそ れぞれ個別の火炎に包まれて,単滴燃焼すると 考えられる.しかし,ガスタービン燃焼器や通 常の噴霧バーナの燃焼にあっては,一般にその ような条件からは離れており,むしろ油滴群と しての燃焼挙動が支配的であるといわれてい る[25].  燃料噴霧中には,大小さまざまな粒径を持つ 油滴が存在し,これらの流れ場への追従性のち がいから,噴霧流中には必然的に不均一な油滴 数密度の場が形成されることになる.したがっ て,噴霧流中には,場所によって油滴数密度の 高い領域が存在し,このような油滴の密集効果 は,局所的な燃料過濃領域を作り出す結果とな る.油滴の密集領域内部では,酸素が不足気味 になり,火炎がその内部へ進入していくことが できず,油滴群は一つの大きな群火炎を形成し て,拡散的な燃焼形態を呈する. しかし,形 成される油滴群が,すべてこのような群燃焼形 態を示すというわけではなく,油滴群内に含ま れる油滴総数や油滴間距離の違い,すなわち油 滴の密集度の違いによって燃焼形態が変化す るはずである.この点をふまえて,Chiu らは油 滴の群燃焼形態をモデル化し理論解析した[16, 17].当初,Chiu らは,次式で示される群燃焼 数 G を用いて,油滴の群燃焼形態を分類してい る.

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(

.

Re

Sc

)

n

( )

d

/

l

Le

.

G

=

1

5

1

+

0

276

1/2 1/3 T2/3 ここで,Le はルイス数,Re は油滴レイノルズ 数,Sc はシュミット数,nTは直径 D の球形油滴 群に含まれる油滴の総数,d は油滴直径,l は平 均油滴間距離である.この G によって分類され る 4 つの燃焼モードを図 1 に示す.すなわち, (a) G < 10-2「単滴燃焼」 個々の油滴は,十分な酸素濃度をもつ雰囲 気中で,全周炎に包まれて燃焼する. (b) 10-2 < G <1「内部群燃焼」 油滴群中心部で酸素が不足し,群火炎が形 成されるが,その周囲には単滴燃焼が存在 する. (c) 1 < G 102「外部群燃焼」 油滴群内部への酸素の供給が大きく不足し, 油滴群外部に群火炎が形成される. (d) 102 < G 「外殻燃焼」 油滴群最内部では油滴の蒸発がまったく起 こっておらず,その周囲に油滴の蒸発領域 と火炎領域が存在する. に分類される.また,油滴群に含まれる油滴総 数 nTと無次元油滴間距離 S,および G との関係 を示すと図 2 のようになる.Chiu らは,多くの 工業用オイルバーナでは,外部群燃焼が生じて いると述べている[17].  噴霧燃焼を油滴群の燃焼として取り扱い,初 めてその挙動を理論解析した「油滴群燃焼理 論」ではあるが,モデルの構築過程で,次のよ うな仮定が置かれていることに注意しなけれ ばならない. ① 油滴塊は球形であり,静止雰囲気中に存在す る. ② 油滴群は,均一粒径油滴からなる. ③ 群火炎は非常に薄いシート状に形成される. すなわち,いずれの仮定も実現象とは大きく異 なっており,この理論の妥当性の評価には,実 験的裏付けが不可欠であった. 2-2. 油滴群の燃焼挙動の実験的解明  油滴群の燃焼を実験的に観察することは,そ れほど容易なことではないが,これまでに多く 低温部 蒸発滴 群火炎 群火炎 全周炎 蒸発滴 (c) 外部群燃焼 (d) 外殻燃焼 (b) 内部群燃焼 (a) 単滴燃焼 図 1.油滴の群燃焼形態[32] EXTERNAL SHEATH COMBUSTION EXTERNAL GROUP COMBUSTION SINGLE DROPLET COMBUSTION NAL GROUP COMBUS-TION

GROUP COMBUSTION OF LIQUID DROPLETS

N: T O T A L NU MB E R O F DRO P L E T S 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 G=10 10 10 2 3 4 5 6 7 8 2 3 5 6 7 8 9 10 S= 0.05 ( 1 + 0.276 Re Pr )1/2 1/3 ( d/r )l -1 -2 2 4 図 2.G 値と油滴の群燃焼形態[17]

(4)

の研究報告がなされている.本節ではそのうち のいくつかを取り上げ,どういったことが明ら かになってきたのかについて述べることにす る. (Ⅰ)均一粒径油滴群の燃焼  油滴群の燃焼挙動を実験的に解明する目的 で,均一粒径の油滴群の燃焼を調べた研究があ る.特に,均一粒径油滴群中での火炎伝ぱ挙動 を調べたものには,Burgoyne と Cohen の研究 [26],小笠原と水谷の研究[23],林と熊谷の研究 [27]などがある.  小笠原と水谷は,乱れのある噴霧中での火炎 伝ぱ現象の解明を念頭において,最も単純で理 想化された場での火炎伝ぱ現象,すなわち,均 一粒径粒子群中での火炎伝ぱ現象を実験・理論 の両側面から調べている.図 3 は,分級風洞に よる比較的粒径のそろったテトラリン粒子群 に点火し,希薄可燃限界濃度を調べたものであ る[23].この結果から,油滴の直径が増すほど 希薄可燃限界が低下していることがわかる.ま た,写真撮影による詳細な火炎観察から,巨視 的にはなめらかに伝ぱするように見える火炎 面が,実は不連続面であり,粒子間には火炎の 存在が認められないことを報告している.これ は,先に燃焼を開始した粒子からの熱を受けて, 高温にさらされた後続の各粒子がある着火遅 れの後に次々と独立して拡散燃焼するためで あると説明している.したがって,希薄でかつ 油滴径が大きな均一噴霧粒子群中では,いわゆ る単滴燃焼に近い形での油滴燃焼が生じてい ると考えられる.さらに,得られた知見をもと に,およそ 40 µm以上の希薄粒子群に対する火 炎伝ぱ機構のモデル化を行い,理論解析を行っ ている.しかし,水谷らは,実際の噴霧は油滴 径も数密度も一様でなく,均一粒径油滴群の燃 焼と実際の噴霧燃焼との間には大きなギャッ プが存在することを指摘している[28]. (Ⅱ)噴流型噴霧火炎中における油滴群燃焼  噴流型の噴霧火炎中では,次項で詳述する 「予混合噴霧」の場合とは異なり,気相と油滴 のスリップ速度が大きいのが特徴である.また, 噴霧火炎が本来持つ油滴の蒸発,気相との混 合・燃焼という過程の複雑さに加えて,噴射ノ ズル近傍で生じる微粒化現象や強い乱れの発 生のために,火炎構造は一層複雑さを増す.し たがって,実験的な観察自体が困難な上に,得 られた結果から噴霧燃焼に関する普遍的な解 釈を行うことも容易ではない.とはいうものの, 実用燃焼炉では至極一般的な噴流型の噴霧火 炎に対する知見を得ることは非常に重要であ る.  小沼と小笠原[15]は,単純噴孔噴射ノズルを 用いて灯油の噴霧火炎を形成し,油滴粒径およ び空間分布,飛行速度分布,温度分布,ガス成 分分析等を行って,噴流型噴霧火炎の火炎構造 に迫った.その結果,油滴の存在領域がノズル 下流の狭い領域に限られること,多くの油滴は 個別に火炎を形成して燃焼するのではなく,油 滴からの燃料蒸気がガス拡散火炎のような火 炎を形成して燃焼しているという結論を得る に至った.また,同様の条件下でガス燃料を用 Burgoyne & Cohen 軽  油 テトラリン 小笠原・水谷 小笠原・水谷 油滴直径 µm 瞬間 燃空 比 m / ma f 図 3.均一油滴群の希薄可燃限界[23]

(5)

いた乱流拡散火炎についても詳細な計測を行 い,両者の火炎構造を比較した.両者の実験デ ータには類似点が多く見られ,噴流型噴霧火炎 の構造がガスの乱流拡散火炎の構造に非常に 近いことを見いだしている.図 4 は,小沼らの 描いた噴流型噴霧火炎のモデルである.このモ デルによると,噴霧火炎はおよそ 3 つの領域に 大別される.すなわち,(A)油滴の数密度が高く, 油滴の蒸発が盛んに生じる燃料過濃領域(この 領域では多量のすす発生が認められる),(B)油 滴粒径,数密度がともにかなり減少し,可燃性 混合気が多量に存在する領域,および(C)間欠的 な燃焼により燃焼が完了する領域である.この ように,より実際的な噴霧火炎においては,単 滴燃焼よりはむしろ,巨視的な油滴群の燃焼と しての取り扱いの方が重要であることを実験 的に確認した点で,興味深いものである.  池田らは,実機の噴霧燃焼炉に用いられてい る循環流保炎型の圧力噴霧式ガンタイプバー ナを用いて,流速測定,温度測定,ガス濃度計 測を行い,バーナ近傍の乱れと保炎機構を調べ て い る [29] . レ ー ザ ド ッ プ ラ 流 速 計 ( Laser Doppler Velocimetry: LDV)による乱流の渦スケ ールと,CO,CO2の濃度変動から得られる燃焼 反応のスケールの算出,および両者の比較が行 われているが,そのオーダはほぼ同じであるこ とを実験的に確認し,これらの時間スケールが 保炎機構の解明に有用であることを示した.ま た,河原らは,同じ噴霧火炎を用いて,火炎発 光計測と位相ドップラ法(Phase Doppler Particle Analyzer: PDPA)による粒子計測を同時に行う ことにより,油滴クラスタの群燃焼形態につい ての考察を行っている[30].その結果,ノズル 近傍では油滴クラスタは外殻燃焼および外部 群燃焼を,下流部では内部群燃焼を行うという 結論を得ている.図 5 に池田,河原らが用いた 噴霧火炎の直接写真を示す.  このほかにも,例えば,Cessou らは,PDPA 計測と OH ラジカルのレーザ誘起蛍光法(Laser Induced Fluorescence: LIF)を行って,メタノー ルを用いた噴流噴霧火炎の保炎領域における

図 4.噴霧火炎のモデル[15]

(6)

火炎構造を調べている[31].その結果,図 6 に 示すように,火炎基部付近から燃焼反応領域が 二つに分かれていき,火炎が二重構造をもつこ とを明らかにしている. (Ⅲ)予混合噴霧火炎中における油滴群燃焼  「予混合噴霧」とは,微粒化直後の噴流の複 雑さを回避するために,微粒化の完了した油滴 を空気流中に浮遊させて供給するタイプの噴 霧[32]であり,ガス予混合火炎における燃料と 空気の分子レベルの混合,いわゆる「予混合気」 とは異なることに留意しなければならない.予 混合噴霧は,燃料噴霧と気相との間のスリップ を極力抑えた二相流であるが,粒度分布や乱れ は存在して構わない.水谷らによって導入され た[33]この「予混合噴霧」を用いて噴霧火炎を 形成し,油滴の群燃焼挙動を調べた研究報告が いくつかなされている[19-22].  図 7 は,赤松らが用いた予混合噴霧火炎の直 接写真である[22].バーナポートから上方に噴 出する予混合噴霧を,ポートの周囲に環状に配 置した水素の拡散パイロット火炎で保炎した ものである.目視では,(a)のように見える火炎 も,多数の不均質な火炎塊から構成されている ことが(b)の短時間露光写真によって確認でき る.実は,これこそが噴霧火炎中の油滴群燃焼 の存在を端的に物語っている.赤松らは,この 火炎に対し,図 8 のような光学系を適用して, 油滴のミー散乱光信号,OH ラジカル自発光信 号,CH バンドの火炎発光信号,および油滴粒 径と飛行速度の計 5 信号を同時時系列でモニタ し,油滴の群燃焼挙動を観察した[22].得られ た時系列データから,個々の油滴クラスタに対 する群燃焼数の導出を試みた結果,赤松らの用 いた噴霧火炎では,火炎下流に向かうにつれて 外部群燃焼から内部群燃焼の形態でクラスタ 図 6.二重火炎構造(浮き上がり位置から 燃焼反応領域が二重になる)[31] (a)長時間露光写真  (b)短時間露光写真   (1/15 sec)    (1/1000 sec) 図 7.予混合噴霧火炎の直接写真[22] 図 8.5 信号同時時系列測定の光学系[22]

(7)

が燃焼していることを確認した(図 9 参照). また,異なる群燃焼数をもつ様々な油滴クラス タ内部において OH ラジカル自発光信号が検出 される割合は,かなりのばらつきは見られるも のの,全体的には群燃焼数が増加すると減少す る傾向にあることを確かめた(図 10 参照).Chiu らが理論的な考察から定義した群燃焼数を実 際の噴霧火炎中の油滴クラスタに対して求め たという点でこの結果は非常に興味深い. (Ⅳ)微小重力下での油滴群燃焼  ミクロンオーダの粒径の燃料油滴が燃焼す る場合,自然対流の影響はほとんどないと考え られるので,静止雰囲気中で油滴を燃焼させた 場合は,通常重力下であっても,現象はほぼ球 対称となるはずである.しかし,ミクロンオー ダの微小な油滴の燃焼挙動を実験的に観察す ることは容易ではない.一方,観察が容易な大 粒径の油滴の燃焼では,自然対流の影響が大き くなり対称性が保てなくなる.その解決手段と して,微小重力環境の利用がある [6].この場 合,大粒径の噴霧を作り出すことは無理なので, 液滴列を利用することになるが,微小重力環境 と液滴配列の組み合わせの工夫によっては,単 滴燃焼と噴霧燃焼の大きな隔たりを埋める有 効な実験手法となる.  図 11 は,ガラス棒の先に懸垂された燃料液 滴を平面上に配列し,微小重力下で燃焼させた 場合の火炎の様子である[34].試料間間隔が広 くなるにつれ,火炎形態が群火炎型から単滴燃 焼型へ変化していく様子がはっきりとわかる. また,このことは,燃料液滴の幾何的配置によ って,群火炎が形成されるか否かが決定される ことを示している.  このほかにも,加圧した燃料蒸気と空気の混 合気を急速減圧させることにより,燃料蒸気を 凝縮させて均一燃料油滴群をチャンバ内に生 成し,微小重力下で燃焼実験を行った例も報告 されており[35],油滴として存在する燃料の当 量比が混合気の形成過程に影響を及ぼし,火炎 伝ぱ速度をも変化させることが確認されてい る. 図 9.群燃焼数の導出結果[22] (a) h = 35 mm (b) h = 70 mm (c) h = 100 mm (d) h = 130 mm 図 10.群燃焼数とクラスター内部に燃焼が 生じている割合[22]

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(Ⅴ)油滴群中の火炎伝ぱ  噴霧流中における火炎伝ぱ機構や燃料噴霧 の蒸発・燃焼挙動,さらに,それらの現象に影 響を及ぼす要因を明らかにすることは,種々の 噴霧燃焼器内における火炎の安定化や,ひいて は実用燃焼器の性能改善を推進するうえで非 常に重要である.  油滴群中の火炎伝ぱ現象解明への実験的ア プローチは,かなり以前より行われており,数 多くの研究報告がなされている[23, 27, 36-41]. しかし,統一的な見解に至っているとは言い難 く,今後も現象解明を行っていく必要性がある.  噴霧流中では,大きく分けて二つの異なる伝 ぱ機構があるといわれている.一つは,油滴か ら油滴へ火炎が移動していく,いわゆるリレー タイプのパターン,もう一つは,油滴間に存在 する燃料蒸気と空気の予混合気中を火炎が伝 ぱした後,高温領域で油滴が燃焼するというパ ターンである[23].どちらのパターンが支配的 になるかは,燃料噴霧の揮発性や,粒度分布等 の噴霧特性によるとさ れ,また,その伝ぱ速 度は,噴霧特性により 大きく異なる[42].  図 12 は,未燃噴霧流 中を火炎が伝ぱし,急 速に燃料噴霧を焼失さ せていく様子を捉えた ものである.津島らは, 火炎中の燃料噴霧の断 面画像撮影と火炎自発 光計測を同時時系列で 行い,この燃料噴霧の 消失が火炎の伝ぱによ るものであることを明 らかにした.また,こ の火炎伝ぱにより残存した噴霧の一部が油滴 クラスタを形成し,拡散燃焼する様子を観察し ている[24].  図 13 は,Williams が描いた燃料噴霧中を伝ぱ する火炎の概念図[43]である.燃料が揮発性に 富むもので,かつ油滴の粒径が十分に小さい場 L = 10 mm L = 10 mm L = 14 mm L = 10 mm L = 20 mm L = 20 mm L = 20 mm L = 16 mm L = 30 mm L = 30 mm L = 30 mm L = 32 mm (A) Butanol (B) Large Butanol (C) Hexanol (D) Hexadecanol

図 11.球状疑似油滴群の火炎形状[34]

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合,蒸発および酸化剤との混合は燃焼反応領域 に到達する前に完了すると考えられるので,ガ ス燃料の予混合火炎に類似した燃焼形態をと るはずである.この場合,均質な予混合気の燃 焼(いわゆる均質燃焼)が噴霧火炎構造の支配 因子となる.逆に,油滴径が大きいか,あるい は低揮発性の燃料油滴の場合,油滴は燃焼反応 領域に到達するまでに蒸発および酸化剤との 混合を完了することができないため,周囲に拡 散火炎を伴った油滴が散在する,いわゆる不均 質燃焼領域が形成されるとしている.実際には, これらの領域が混在した燃焼反応領域が形成 されているものと考えられる.Williams は,不 均質性こそが,噴霧中の火炎伝ぱ過程を支配し ていると考え,これを詳しく解析している.し かし,均質燃焼部分は考慮していないことや放 射の影響を無視するなど,いくつかの仮定のも とでの解析にとどまっている.  また,図 14 は小笠原らがモデル化した火炎 伝ぱ機構の模式図[23]である.火炎伝ぱモデル の基本概念には実験で得られた知見が反映さ れている.すなわち,油滴周囲に形成された拡 散火炎からの熱伝導によって未燃混合気の温 度が上昇し,これが後続の未燃油滴を加熱する. その後,ある着火遅れの後に未燃油滴の着火が おこる,というものである.図中(b)は,等温面 を平面に近似して,平面状火炎面を仮定したも のである.  このほかにも,火炎伝ぱを理論解析した報告 はいくつかあるが[42],例えば,モデル化を容 易にするために,油滴を格子状に配置したり, ふく射による熱輸送を無視するなど,かなり条 件を限定した上での解析にとどまっているこ とが多い.実際は,油滴の密集による蒸発特性 の変化や,ふく射伝熱も重要な影響因子であり, さらなる改良が必要である.  また,伝ぱ火炎の通過により着火した火炎中 の微粒子が強い輝炎発光を呈する際,この輝炎 からのふく射伝熱が粒子群中の火炎伝ぱ速度 を増加させることが,花井らによって実験的に 確かめられている[44].周期的に発生する輝炎 からのふく射伝熱によって,火炎の伝ぱ速度が 増減速を繰り返す現象を模式的に示したもの が図 15 である.これは固体粒子群中のもので あり,液体噴霧の場合とは異なると考えられる が,火炎伝ぱに及ぼすふく射伝熱の重要性を示 すものである.  ところで,伝ぱ火炎近傍の燃料噴霧の挙動や, 火炎構造の観察には,対向流や衝突流場中に形 成される噴霧火炎を用いることがある[45-52]. これらの火炎では燃焼反応領域が空間にほぼ 定在するため,伝ぱ火炎近傍の構造や火炎伝ぱ 初期混合物 蒸発過程 不均質燃焼過程 平衡反応生成物 均質燃焼過程 単純蒸発 流れの方向 燃料+酸化剤+生成物 酸化剤+生成物 or 燃料+生成物 or 生成物 図 13.噴霧火炎波の概念図[43] 燃焼粒子 拡散火炎 等温線 熱流線 未燃粒子 (a) (b) 燃焼粒子 拡散火炎 熱流線 未燃粒子 等温線 仮想的な 平面状火炎面 図 14.火炎伝ぱ機構のモデル化[23]

(10)

機構の観察に適している.また,実験結果と数 値計算との比較もよく行われている.若林らは 図 16 に示した対向流噴霧火炎に対して,噴霧 の PDPA 計測や粒子追跡法(Particle Tracking Velocimetry: PTV)と局所からの火炎発光測定を 併用して,噴霧流中を伝ぱする火炎の構造の観 察と,蒸発速度の見積もりなどを行っている[53, 54]. 2-3. 「修正」油滴群燃焼理論  前述したように,赤松らの実験[20]では,同 じ群燃焼数をもつ油滴クラスターでも,クラス ター内における OH ラジカル自発光の検出割合 が異なることが観察されている(図 10 参照). この実験事実をうけて,Chiu は,群燃焼数の修 正を行った.すなわち,当初 Chiu らが提唱し た,油滴の幾何的配置のみで決まる Geometrical

Group Combustion Number, G0に,蒸発に関する

修正係数, Gasification correction factor, Cvを乗じ たものを新たに群燃焼数 G と定義した[55].し たがって,同じ G0をもつ油滴クラスタでも, 場合によって異なる G 値をとることがあり,当 然,群燃焼の形態も異なってくることになる. このことは,油滴クラスタの燃焼状態が G0の みでは整理できないという実験事実に則した ものである.  この油滴群燃焼数の修正は,実験的知見と理 論的考察が有効に結びついた結果であり,この 点で有意義である.

3.

噴霧燃焼に適用される種々の計測法

噴霧燃焼に適用される種々の計測法

噴霧燃焼に適用される種々の計測法

噴霧燃焼に適用される種々の計測法

 前述したように,噴霧燃焼に対する実験的ア プローチは多くの困難を伴う.噴霧火炎中の燃 焼挙動を解明するにあたって,把握しておきた い情報には,例えば,次のようなものが挙げら れるであろう. ① 火炎形状および火炎中の燃料噴霧挙動 ② 噴霧油滴の粒径および飛行速度 ③ 温度分布 ④ ラジカル自発光分布 ⑤ 化学種濃度分布 以下,各項目に対する計測法について列挙する. ①火炎形状および火炎中の燃料噴霧挙動  火炎の様子を直接写真撮影し,目視による観 察を行うことは,現象解明の考察を行う上で重 図 15.微粒子群の燃焼機構[44] 図 16.対向流噴霧火炎[53, 54]

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要である.比較的容易で単純な観察法ではある が,実は直接写真にこそ多くのヒントが含まれ ている.例えば,図 7 に示した予混合噴霧火炎 では,長時間露光写真ではほぼ均質に見える火 炎でも,短時間露光写真により,多くの火炎塊 から成り立っていることが明らかになってい る.また,この事実は,油滴の群燃焼挙動の存 在を示唆するものである.  さらに,高速度カメラの技術の進歩により, かなり高速の現象が捉えられるようになり,燃 焼の分野のみならず,多くの物理現象の解明に 対して用いられている.噴霧燃焼の分野では, 例えば,レーザシート法と高速度撮影を併用す ることにより,噴霧火炎中の燃料噴霧の挙動を 時系列で観察することが可能となった.とりわ け,噴流火炎のような高速の現象に対しては, 有効な計測法である.図 12 中の時系列画像は, 著者らが用いている予混合噴霧火炎内の燃料 噴霧挙動を可視化したものである.時系列画像 からは,さまざまな情報を抽出することができ, 特に時間スケールの小さい乱流現象に対して は,もはや欠くことのできない計測法である. ②噴霧油滴の粒径および飛行速度  1964 年に Yeh と Cummins[56]によって測定原 理が発表された LDV は 1970 年代に急速な進歩 を遂げ,実用化の段階に達した[57].また,速 度と粒径を同時に計測できる PDPA も開発され, 粒子計測に多用されて現在に至る.これらの計 測法を火炎中に適用する際に問題となるいく つかの誤差要因について詳細な検討も行われ ており[58-60],今や PDPA は噴霧火炎構造の解 明に対して強力なツールとなっている.  このほか,油滴からのミー散乱高強度が粒径 の 2 乗に比例すること[61]を利用して,粒子径 の評価を行ったり,ホログラフィー法による粒 径計測[62]などが行われている.さらに,干渉 画像法に光学的改良を加えて,噴霧油滴径の空 間分布計測を行った研究報告[63]もなされてい るが,噴霧燃焼場への適用には誤差評価を含め, いま少し検討の必要性があるものと思われる.  また,二次元的な速度ベクトル場の把握に, 画像の濃淡を利用して速度ベクトルの算出を 行う粒子画像相関法(Particle Image Velocimetry: PIV)や,可視化された個々の油滴を追跡する PTVも用いられている.PDPA や LDV は,一点 における粒子の情報しか得られないが,PIV や PTV を用いることで速度の瞬時二次元情報が 把握できる.また,後者のうち PTV は,粒子を ラグランジュ的に追跡できるため,例えば,油 滴の粒径・速度履歴などを求めることが可能で ある. ③温度計測  噴霧火炎中の高精度な温度計測は,困難を極 めており,現段階では不可能であると言わざる を得ない.油滴の存在がその主たる原因である. 熱電対などの接触法による温度計測が事実上 不可能であるため,可能性としては,レーザ計 測などの非接触法に頼らざるを得ないが,噴霧 燃焼場の温度計測は未だ成功した例を見ない.  高温高圧雰囲気中における油滴温度[64],あ る い は 蒸 発 中 の 噴 霧 の 液 相 温 度 分 布 [65] は EXCIPLEX法により計測された例があり,非接 触計測が可能になったといえる.  温度情報の把握は燃焼制御にとって不可欠 であり,噴霧燃焼場に対する光学的温度計測法 の適用とその精度の向上は今後の最重要課題 である. ④ ラジカル自発光分布  火炎中の化学種からの火炎自発光計測は,燃

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焼反応領域の特定や火炎構造の把握に用いら れている.特に,明確なバンド構造をもつ OH, CH,および,C2ラジカルが計測の対象となる ことが多い.  火炎自発光信号のポイント測定は,これまで ガラスレンズを用いた単純な集光光学系によ り行われることが多かった[18, 20-22].しかし, ガラスレンズには,球面収差の影響で空間分解 能が低いことや,屈折率が波長依存性をもつた めに生じる色収差により,焦点位置が集光する 光の波長によって異なるなど,計測精度に問題 があったことは否めない.最近では,これらの 収差の問題を解決したポイント測定用のカセ グレン光学系[66]を用いて,火炎中の局所から の自発光計測が比較的高空間分解能で行われ ている[67].なお,カセグレン光学系を応用し た火炎の自発光計測については文献[68]を参照 されたい.  ラジカル自発光計測は,燃焼反応と強い相関 があり,火炎診断法として有効である.ガス火 炎においては,各ラジカル自発光の強度比から 局所の当量比計測が行われている[69, 70].しか し高温域では,OH ラジカルの自発光と燃焼反 応が対応しないことや,噴霧火炎中の輝炎領域 においては,すすからの連続スペクトル発光が ラジカル自発光に重畳した形で検出されるた め,発光信号の解釈を正しく行う必要がある. ⑤ 化学種濃度分布  化学種の濃度分布計測に有効な計測法とし ては,LIF 法やコヒーレント反ストークスラマ ン分光法(Coherent Anti-Stokes Raman Scattering: CARS)などがあり,ガス火炎に対しては,す でに用いられている.一方,噴霧火炎に対して

LIF 法が適用された例もいくつか報告されてい

る[71-75].例えば,Allen と Hanson は,ヘプタ

ンの噴霧火炎に対して平面レーザ誘起蛍光法 (Planar Laser Induced Fluorescence: PLIF)およ

び C2H2の平面多光子解離法(Planar Multi-Photon Dissociation: PMPD)を適用し,OH ラジカルの 濃度分布と蒸気濃度分布の可視化を行ってい る[71-73].噴霧火炎中での LIF では油滴の存在 が少なからず影響を及ぼすため,その計測結果 の判断には注意が必要である.また,PLIF は火 炎中の化学種分布を瞬時かつ 2 次元で捉えるこ とができるほか,自発光計測のような光路上の 積算値ではなく断面からの情報のみを計測で きるという大きな利点を有している.しかし, 噴霧火炎構造の解明の際に重要な時系列計測 は行われていない.  ここに挙げたすべての情報を,同時に時系列 で得ることができれば,燃料噴霧の燃焼機構や 噴霧火炎構造の詳細はかなり明らかにされる はずであるが,現在のところそれは不可能であ り,これらのうちのいくつかを組み合わせて計 測することになる.また,時空間的に不均一な 現象である噴霧火炎に対して,一時点の情報を 得るだけでは不十分であり,多チャンネルの信 号を同時かつ時系列で計測する必要がある.

4. おわりに

おわりに

おわりに

おわりに

 ここでは,国内外の多くの研究者によって報 告されている実験結果や理論的知見を交えて, 『油滴群』としての燃焼が,噴霧燃焼の特質の 重要な部分を占めるとする立場から,噴霧燃焼 を見てきた.これまで報告されてきた数多くの 知見を見ると,ゆっくりとした歩みではあるが 噴霧燃焼の現象解明が着実に進んでいること を実感させてくれると同時に,多くの問題点が

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依然残されていることも痛感させられる.  昨今の計測技術のめざましい進歩により,一 昔前には推測するしかなかった現象が,実際に 観察可能となったことで,現象解明の速度は飛 躍的に増加したはずである.今後は,実験によ って得られるデータと,理論モデルや数値シミ ュレーションによる詳細な解析とを補完的に 利用することによって解明を進めることがよ り重要になってくるであろう.  そう遠くない将来,すべての現象が明らかに なり,「噴霧燃焼は究極の複雑現象である」と いう認識が過去のものになる日が来るかもし れない.また,そう願いたいものである.

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参照

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