【特集】
OECD 高生産量化学物質点検プログラム:第 29 回初期評価会議概要
OECD High Production Volume Chemicals Programme: Summary of 29th SIDSInitial Assessment Meeting
松本真理子1、宮地繁樹2、菅谷芳雄3、広瀬明彦1
1:国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター総合評価研究室 2:(財)化学物質評価研究機構安全性評価技術研究所
3:(独)国立環境研究所環境リスク研究センター
Mariko MATSUMOTO1, Shigeki MIYACHI2, Yoshio SUGAYA3, Akihiko HIROSE1 1. Division of Risk Assessment, Biological Safety Research Center, National Institute
of Health Sciences 2. Chemicals Assessment and Research Center, Chemicals Evaluation and Research Institute, Japan
3. Research Center for Environmental Risk, National Institute for Environmental Studies
要旨:第29回のOECD高生産量化学物質初期評価会議が、2009年10月20-22日にオ ランダのハーグで開催された。この会議では計21物質(初期評価:17物質;選択的初期 評価:4物質)について審議され、20物質の初期リスク評価結果(初期評価:17物質;
選 択 的 初 期 評 価 :3 物 質 ) に 合 意 が 得 ら れ た 。 日 本 は 、 政 府 が 原 案 を 作 成 し た Benzaldehyde, 4-methoxy-(CAS:123-11-5)および4-(1-Methylethenyl)phenol(CAS:
4286-23-1)の計2 物質の初期評価文書を提出し、合意された。本稿では、第29 回初期
評価会議の討議内容の概要を報告する。
キーワード:経済協力開発機構、高生産量化学物質、SIDS初期評価会議、リスク評価
Abstract:The 29th SIDS (Screening Information Data Set) Initial Assessment Meeting was held in Hague, the Netherlands on 20th-22nd October, 2009. The initial assessment documents of 21 substances (SIDS Initial Assessment: 17 substances;
Initial Targeted Assessment: 4 substances) were discussed, and the conclusions of initial risk assessment for 20 substances (SIDS Initial Assessment: 17 substances;
Initial Targeted Assessment: 3 substances) were approved at the meeting. The Japanese Government submitted the SIDS initial assessment documents for two substances, Benzaldehyde, 4-methoxy-(CAS:123-11-5)and 4-(1-Methylethenyl) phenol(CAS:4286-23-1)prepared by the Japanese Government, and both were approved at the meeting. This paper reports the summary of the 29th SIDS Initial Assessment Meeting.
Keywords: OECD, HPV, SIDS Initial Assessment Meeting, Risk Assessment
化学生物総合管理 第6巻第2号 (2010.12) 189-198頁
連絡先:〒158-8501 世田谷区上用賀 1-18-1 E-mail: [email protected] 受付日:2010年4月22日 受理日:2010年9月17日
はじめに
経済協力開発機構(OECD: Organisation for Economic Co-operation and Development)で は、高生産量化学物質「(少なくとも加盟国の1ヶ国において年間 1,000 トンを超えて生産ま たは輸入されている化学物質(HPV: High Production Volume Chemical)」に対し加盟各国の 分担により、初期リスク情報を収集・評価するHPV点検プログラムを行っている。加盟各国は 企業と協力しつつ、それぞれ担当する化学物質のリスクの初期評価に必要なスクリーニング情 報データセット(SIDS: Screening Information Data Set)の項目の情報収集や試験を行い、
初期評価文書として、初期評価プロファイル(SIAP: SIDS Initial Assessment Profile)、初期 評価レポート(SIAR: SIDS Initial Assessment Report)および網羅的資料集(Dossier: SIDS Dossier)の3文書を作成し、初期評価会議(SIAM: SIDS Initial Assessment Meeting)に提 出して審議を受けている。このプログラムは、1990年の理事会決定に基づき、化学物質による 有害な作用からヒトおよび環境を保護するとともに、各国の化学物質規制の体制整備・国際協 調の場を提供する環境保健安全プログラムの一環として行なわれている。OECDの化学物質対 策におけるHPV点検プログラムの位置づけ、今までの成果および初期評価文書作成方法などの 詳細は江馬(2006)が報告している。日本政府が担当し結論および勧告が合意された化学物質 の初期評価文書については、高橋他(2006a, b, c; 2007a, b, c; 2009)が報告している。また、
第1回から第18回までのSIAMの概要については松本他(2006)を参照されたい。
1993年の第1回SIAMから2000年3月の第10回SIAMまでは、加盟国政府が提案国とな り審議を行ってきたが、1998年秋に国際化学工業協会協議会(ICCA: International Council of Chemical Association)がHPV点検プログラムへの参加を表明し、第11回 SIAM (2001年) から産業界がICCAイニシアティブとして初期評価文書の作成に協力している。これらのICCA イニシアティブの初期評価文書は、原則として担当国政府を通じて提出されているが、スポン サー国(初期評価書文書原案作成を担当する単独または複数の国)が決まらない物質について は、産業界が経済産業諮問委員会(BIAC:Business and Industry Advisory Committee)を 通じて直接、初期評価文書を提出することも可能である。
現在のOECDのHPV点検プログラムでは、2005年から2010年の間に1000物質の評価を 終えることを目標として進められているが、実現は難しい状況にある。そこで、2010年以降の プログラムの進め方として、新たな手続き方法や評価手法の導入が検討されている。
第 29回SIAMは2009年10月20-22日オランダのハーグで開催され、加盟国から25名、
非加盟国(イスラエル)から1名、欧州委員会(EC: European Commission)から2名、産業 界から16名の44名が参加した。日本からは、政府専門家(3名)、行政(1名)および産業界(2 名)が出席した。本稿では第29回SIAMでの討議内容として、第28回SIAM以降のHPV点検 プログラムの進捗状況、初期評価文書の審議結果および本プログラムの全般的な懸案事項に関 する討議内容について報告する。なお、本稿は第29回SIAMの会議報告書(OECD 2009a) を参照して作成した。
1.第28回SIAM以降のHPV点検プログラム進捗状況
(1)初期評価文書の公開状況
SIAM で合意された初期評価文書は、化学物質政策についての方針決定機関である「ハザー ド評価タスクフォース」および化学物質の安全管理の全般的な方針を決定する「OECD化学品 委員会および化学品・農薬・バイオテクノロジー作業部会合同会合(Joint Meeting)」に提出 して承認を得る。承認が得られたSIAPについては、OECDがHPVデータベース(OECD 2009b) を通じて公開している。DossierはIUCLID(International Uniform Chemical Information
Database)というデータベースを用いて作成されているが、出力方法をエクスポートファイル
化学生物総合管理 第6巻第2号 (2010.12) 189-198頁
連絡先:〒158-8501 世田谷区上用賀 1-18-1 E-mail: [email protected] 受付日:2010年4月22日 受理日:2010年9月17日
にすることによって、生データのやり取りが可能となる。SIARおよびDossierについては国連 環境計画(UNEP:United Nations Environment Programme)が、またエクスポートファイル およびSIAPについては、OECDがそれぞれウェブサイトで公開している(UNEP 2009;OECD 2009c)。
初期評価文書の公式発表は、UNEPのスタッフ入れ替えのため滞っており、公式発表総数は 第24回SIAM開催時と同様398物質であった。OECD事務局はUNEPからの公式発表を待つ 間、OECDのウェブサイトで合意された文書を公開することを伝えた。現在、約210物質の初 期評価文書がOECDのウェブサイトから入手可能となっている。また、EUの初期評価文書を 基にして評価を行った物質については、EUのウェブサイトに公開されており、その数は約90 物質に及ぶ(EC 2009)。
(2)最終版の初期評価文書提出状況について
SIAMが終了した後、スポンサー国または産業界はSIAMでの審議をもとに最終版の初期評 価文書(SIAR、Dossierおよびエクスポートファイル)を作成し、SIAM後3ヶ月を目途にOECD 事務局に提出することになっている。最終版の初期評価文書の提出が6 ヶ月以上滞っている場 合、スポンサー国または産業界は状況説明と提出予定期日を示す必要がある。現在、約250物 質の最終報告書が未提出状況である。OECD事務局は、初期評価文書の最終化について何か問 題がある場合は連絡するように伝えた。
2.第29回SIAMでの審議状況
(1)初期評価文書の審議結果
初期評価文書の審議は、スポンサー国または産業界が初期評価文書の原案をオンライン会議 用掲示板(CDG: Committee Discussion Group)に掲載し、CDG上で行う事前討議(コメント の提出、コメントへの返答、コメントに応じたSIAPの修正)およびSIAMでの対面討議で行わ れる。第29回SIAMでの初期評価文書の審議は、CDGでの事前討議を基に修正したSIAPを用い て行われた。日本は、政府が原案を作成したBenzaldehyde, 4-methoxy-(CAS:123-11-5)お よび4-(1-Methylethenyl)phenol(CAS:4286-23-1)の初期評価文書を提出した。今回の会議 で審議された物質は表1の通りであった。中でも、次の物質については、通常の審議と異なる点 があったため特筆する。
1)Benzaldehyde, 4-methoxy- (CAS: 123-11-5)
日本が担当したBenzaldehyde, 4-methoxy-の遺伝毒性は、in vitroの試験から結論が出せな かったために、類縁物質であるBenzaldehyde, 4-ethoxy-(CAS:10031-82-0)のin vivoの試験を 用いて評価を行った。SIAMは、類縁物質の試験結果を引用する正当性をSIARに示すよう勧 告した。
2) Cyclohexasiloxane, dodecamethyl- (CAS: 540-97-6)
米国/ICCAが担当したCyclohexasiloxane, dodecamethyl-については、米国EPAがシロキサ ン類の物性予測を推算ツールのEPISUITEで確認することになった。また、生物濃縮試験に よる生物濃縮係数および藻類に関する試験の結果をCDGに掲載することになった。
3) Calcium phosphate (3:2)(CAS: 7758-87-4)
韓国が担当したCalcium phosphate (3:2)については、イオン解離した物質および溶解度に ついてSIARに記載することとなった。また、事務局がSIAPの構造式を書き換えることで合 意された。
化学生物総合管理 第6巻第2号 (2010.12) 189-198頁
連絡先:〒158-8501 世田谷区上用賀 1-18-1 E-mail: [email protected] 受付日:2010年4月22日 受理日:2010年9月17日
(2) 選択的初期評価文書の審議結果
OECDでは未評価の物質を早く評価するために、環境影響またはヒト健康影響について、有 害性評価に最も関連の強い一つもしくは複数のエンドポイントに焦点を絞って評価する手法
(選択的評価:Targeted Assessment)の導入について検討している。なお、選択的評価手法 の概要ついては、松本他(2009)を参照されたい。
今回の会議では4つの選択的初期評価文書が初めて提出された。提出方法やCDG上の事前討 議は通常の初期評価文書の評価と同様に行われ、SIAMでの審議は、選択的初期評価プロファイ ル(ITAP:Initial Targeted Assessment Profile)を用いて行われた。SIAMは、選択されたエ ンドポイント以外の情報(OECD加盟国によるレビューがなされていない情報)はITAPに記載 しないことに合意した。今回の会議で審議された物質は表1の通りであった。中でも、次の物質 については、通常の審議と異なる点があったため特筆する。
1)物質カテゴリー:Anthracene oils (CAS: 90640-80-5、90640-81-6、90640-82-7、91995-15-2、 91995-17-4)
ドイツが担当した選択的評価による物質カテゴリー(Anthracene oils)については、本会 議で合意されたが、REACH規則で調整した結果、EU内で結論が変わる可能性がある。もし 評価が変わった場合は、CDG上に掲載され、フルレポートは欧州化学物質庁 (ECHA:
European Chemicals Agency) より出版されることになった。
2)1,2-Benzenedicarboxylic acid, bis(2-methoxyethyl) ester (Di(methoxyethyl)phthalate)
(CAS: 117-82-8)
カ ナ ダ が 担 当 し た 1,2-Benzenedicarboxylic acid, bis(2-methoxyethyl) ester (Di(methoxyethyl)phthalate)については、Joint meetingで承認されるより前に、国内で行っ ている選択的評価の評価文書としてカナダで公表されることが伝えられた。
3) Phenol, 4,4 -(3H-1,2-benzoxathiol-3-ylidene)bis[2,6-dibromo-3-methyl-, S,S-dioxide, monosodium salt(CAS: 62625-32-5)
カナダが担当したPhenol, 4,4 -(3H-1,2-benzoxathiol-3-ylidene)bis[2,6-dibromo-3-methyl-, S,S-dioxide, monosodium saltについては、今回のSIAMで審議した結果、物理化学的性質の 実測値などの情報が不足しているため、選択的評価に適していないとされ、合意に至らなか った。
(3)HPV点検プログラムにおける全般的な懸案事項の討議結果 1) 初期評価文書のCDG上での審議について
2009年3月に行われた専門家会議では、2010年以降のHPV点検プログラムの方針につい て審議された。専門家会議は、有害性の低い物質や毒性評価が複雑でない物質の評価文書に ついては、CDG上における書面審議を利用するよう勧告した。今回のSIAMに先だって、表 2に示す4つの評価文書が書面審議の対象としてCDG上に掲載された。
今回のSIAMでは、OECD事務局がタイムスケジュールについて以下の3つの候補を提示し た。
候補1
通常の SIAM と同様のスケジュールで提出し、各国がレビューに当たる。修正版初期評 価文書をCDGに掲載してから、1週間以内にコメントがない場合は承認されたと判断され 化学生物総合管理 第6巻第2号 (2010.12) 189-198頁
連絡先:〒158-8501 世田谷区上用賀 1-18-1 E-mail: [email protected] 受付日:2010年4月22日 受理日:2010年9月17日
る。もし承認されなかった場合はSIAMで対面審議されることになる。
候補2
各SIAMの間(5月中旬および11月中旬)に提出期限を設け、4週間のレビュー期間お よび2週間の修正期間の後、1週間以内に修正した初期評価文書にコメントがない場合は承 認されたものと判断される。もし承認されない場合は次回のSIAMで審議される。OECD 事務局は、一つの初期評価文書に対し最低2カ国のレビューが必要であるとした。
候補3
任意の時期に初期評価文書を提出し、4週間のレビュー期間および2週間の修正期間の後、
1週間以内に修正した初期評価文書にコメントがない場合は承認されたものと判断される。
もし承認されない場合は次回のSIAMで審議される。OECD事務局は、一つの初期評価文 書に対し最低2カ国のレビューが必要であるとした。
SIAM出席者は、「候補1」はSIAMで審議する物質を優先的に取り扱う懸念があるので、
好ましくないとした。また、「候補2」と「候補3」の比較では、「候補2」が事前にレビ ューの予定が立てられるので好ましいとした上で、最終確認の期間を1週間ではなく3週間 設けたほうが良いとした。
2) Joint Meetingからの報告
OECD事務局は、2009年6月に行われたJoint Meeting が、OECDの化学物質点検に関 する専門家会議で合意された2010年以降のHPV点検プログラムの方針を承認したことを伝 え、今後の作業計画を報告した。2010年以降のプログラムでは、あくまで評価手法や対象物 質の範囲を広げることになるだけで、従来の評価手法は2010年以降も継続し、中断されない ことが強調された。英国は、REACH対応による近年のヨーロッパ諸国のSIAMへの貢献度 の低下に懸念を示した。ドイツは環境やヒト健康影響に対する懸念があり更なる調査が必要 とされる優先順位の高い物質の評価について、OECD 加盟各国が協力的な姿勢で臨むべきで あるとした。
3) 国や地域の評価プログラムの評価文書を提出する方法について
今回の SIAM では、国や地域の評価プログラムの評価文書をHPV点検プログラムに提出 する方法について審議された。国や地域での評価が既に公表されているか否かに応じて、次 のような方法があるとされた。
スポンサー国や地域内で公表されていない場合
草案の段階での評価書を SIAMに提出する場合には、SIAMでの審議を反映させた評価 文書を公表することになる。公表については、OECD のデータベース上で行う方法と、国 や地域で公表しOECDのデータベースからリンクさせる方法がある。
スポンサー国や地域で既に公表されている場合
・国や地域の評価書をSIAMに提出し、SIAMでの審議で修正が必要になった場合は国や 地域の評価文書を書き直し、OECDのデータベースからリンクさせる。
・国や地域の評価書をSIAMに提出し、SIAMでの審議で修正が必要になった場合でも書 き直しは行わず、HPV点検プログラム内での評価との相違点を付属文書に示す。公表につ いては、OECDのデータベース上で行う方法と、国や地域で公表しOECDのデータベース 化学生物総合管理 第6巻第2号 (2010.12) 189-198頁
連絡先:〒158-8501 世田谷区上用賀 1-18-1 E-mail: [email protected] 受付日:2010年4月22日 受理日:2010年9月17日
からリンクさせる方法がある。
SIAMは既に公表されている評価書については、書き直しを行わない方が望ましいとした。
付属文書にはレビューを行った国名を入れる必要はないとした。また、コメントに対する返 答の全てをそのまま載せることは簡単ではあるが、不要な情報を含む場合もあるので、変更 点を簡潔に述べた文書を別に作成したほうが良いとした。付属文書の公表はOECDもしくは 国や地域のいずれかが行う。また、HPV点検プログラム内での評価スケジュールと国や地域 の評価スケジュールが異なる場合があるが、OECD 事務局は HPV 点検プログラムの評価ス ケジュールになるべく合せるよう努力することを求めた。
4)優先順位の低い物質の選定について
有害性の低いと考えられる物質を HPV 点検プログラム内の評価保留物質と定める試みに 対して、EUがREACHのAnnexIVに掲載される物質のリストを、また米国がEPAの定め た低有害性物質のリストを提示した。その結果、両リストに掲載されていた次の7物質をHPV 点検プログラム内の評価保留物質とすることに合意が得られた。
z D-glucitol (CAS: 50-70-4) z Glucose (CAS:50-99-7) z Sucrose, pure (CAS:57-50-1) z D-mannitol (CAS:69-65-8) z Carbon dioxide (CAS:124-38-9)
z Syrups, hydrolyzed starch(CAS:8029-43-4) z Maltodextrin (CAS:9050-36-6)
SIAMはさらに評価保留物質を増やしていくためには、何らかの基準(例えばGHSの利用 など)を定める必要があるとした。
5) 選択的評価について
今回のSIAMではOECD事務局がHPV点検プログラムのマニュアルのガイダンスについ て概要を説明した。SIAM は若干の修正を求めたもののガイダンスの概要に合意した。日本
はSIAM30に化審法の評価を基にした選択的評価文書を提出する意向を示した。
6) 選択的カテゴリー評価について
OECD 事務局は選択的カテゴリー評価の概念について大まかに説明をした。カテゴリー評 価は以前からHPV点検プログラムで利用されており、物質カテゴリーを構成する物質に不足 情報がある場合、物質カテゴリー内の他の化学物質の毒性情報から不足情報を補い評価をし ている。選択的カテゴリー評価では、限定されたエンドポイントのみについて、カテゴリー 評価を行うこととなる。しかし、カテゴリーの正当性を示すためには、選択されたエンドポ イントと関連の強い物理化学的特性などに対して、信頼性の高い情報が必要とされる。
今回のSIAM では、従来の物質カテゴリー化とは別に、信頼できる予測結果を出すことがで きる物質の領域(適用領域:Applicably domain)で物質カテゴリーを定義する方法が紹介さ れた。例えば、化学物質の構造に加え、物理化学的特性や、環境運命、毒性的特性などが適 応領域に使用されうる。適用領域を用いたカテゴリー評価では、物質カテゴリーを構成する 全ての物質を個別に評価する必要はないが、それぞれの物質が適用領域内にあるか否かを評 価する必要がある。
化学生物総合管理 第6巻第2号 (2010.12) 189-198頁
連絡先:〒158-8501 世田谷区上用賀 1-18-1 E-mail: [email protected] 受付日:2010年4月22日 受理日:2010年9月17日
SIAM は選択的カテゴリー評価の概要に合意するとともに、更なる審議のためにはより具 体的な事例調査が必要であるとした。
7) 既存のカテゴリー評価に化学物質を追加する方法について
OECD事務局は、過去のSIAMで審議され合意された物質カテゴリーに、新たに化学物質 を加える方法を具体例(物質カテゴリー:Short chain (C2-C8) saturated linear and branced alkyl methacrylates)をもとに説明した。OECD事務局は、既存の結論と異なる結論になる かもしれない場合などには、新たな試験を実施し確認する必要があるかもしれないとした。
SIAMはOECDが作成した化学物質の追加方法に合意した。
8)(Q)SARの毒性予測結果の利用について
(定量的)構造活性相関「(Q)SAR:(Quantitative) Structure-Activity Relationships」 は、化学物質の構造と活性との間に成り立つ数量的関係を示し、構造的に類似した化学物質 の毒性を予測することを目的として注目されている。OECD 事務局は、(Q)SAR の毒性予測 をHPV点検プログラム内で使用していくために必要とされる活動内容を紹介した。SIAMは OECD 事務局の活動内容案に概ね合意したが、(Q)SAR の使用に際して規則を作る必要があ るとした。2010年4月には HPV点検プログラムと(Q)SARアプリケーションツールボック ス管理グループとの合同会議が予定されており、活動内容や事例研究などについて討議され る。今回の会議では、個別の化学物質の審議の際に、デンマークが提出した(Q)SARの毒性予 測をどのように取り扱うかについて議論された。SIAMは、(Q)SARの毒性予測は有用な情報 であるとした。
(4)SIAM前・SIAM後の進捗状況
OECD 事 務 局 は CDG に 掲 載 さ れ て い た 米 国/ICCA が 作 成 し た n-Butyl acetate (CAS:123-86-4)およびChlorotrifluoroethylene(CAS:79-38-9)の初期評価文書についてのレビ ュー期間が終了したことを伝えた。米国/ICCA はデンマークからのコメントに応じて初期評価 文書を修正することになっている。修正されたSIAPについては、今回のSIAMで審議した物 質と共にタスクフォースに提出される。
(5)その他の連絡事項
OECD 事務局は、IUCLID5.2 のベータ版が使用可能になることや、e-ChemPortal(OECD 加盟国や国際機関が有している既存化学物質のハザード情報などに関するデータベースを一括して 検索できるポータルサイト)に新たな機能が加えられることを伝えた。また、2007年版のHPV リストがOECDのWebサイトで公開されたことを伝えた(OECD 2009d)。
おわりに
今回のSIAMでは、2010年以降のOECDの化学物質点検に関する専門家会議の計画案をも とに、様々な評価手法の導入などの可能性について審議された。今回のSIAMでは、新しい評 価手法の導入として 4 物質の選択的評価文書が提出され、3 物質が合意された。日本は、国内 の化審法評価をもとに作成した選択的評価文書を次回のSIAMに提出する予定である。今後も OECD加盟各国が協調し、未評価の化学物質の初期評価を早く終える方法を模索していくべき であると考えられた。
化学生物総合管理 第6巻第2号 (2010.12) 189-198頁
連絡先:〒158-8501 世田谷区上用賀 1-18-1 E-mail: [email protected] 受付日:2010年4月22日 受理日:2010年9月17日
参照資料:
1. EC(2009)European Commission, Existing chemicals. http://ecb.jrc.ec.europa.eu/exi sting-chemicals/
2. OECD (2009a) Draft Summary Record Twenty-eighth SIDS Initial Assessment Meeting (SIAM28). ENV/JM/SIAM/M(2009)1
3. OECD (2009b) OECD integrated HPV database. http://cs3-hq.oecd.org/scripts/hpv/
4. OECD (2009c)Screening Information Datasets (SIDS) for High Production Volume Chemicals in IUCLID format.
http://www.oecd.org/document/55/0,3343,en_2649_34379_31743223_1_1_1_1,00.html OECD (2009d)The 2007 OECD List of High Production Volume Chemicals
http://www.oecd.org/document/9/0,3343,en_2649_34379_35211849_1_1_1_1,00.html 5. UNEP (2009) Chemicals Screening information dataset (SIDS) for high volume chemicals.
http://www.chem.unep.ch/irptc/sids/OECDSIDS/sidspub.html
6. 江馬 眞(2006):OECD の高生産量化学物質安全性点検プログラムとその実施手順.化 学生物総合管理, 2-1, 83-103
7. 高橋美加, 松本真理子, 川原和三, 菅野誠一郎, 菅谷芳雄, 広瀬明彦, 鎌田栄一, 江馬 眞 (2006a):OECD化学物質対策の動向(第8報).化学生物総合管理, 2-1, 147-162
8. 高橋美加, 松本真理子, 川原和三, 菅野誠一郎, 菅谷芳雄, 広瀬明彦, 鎌田栄一, 江馬 眞 (2006b):OECD化学物質対策の動向(第9報).化学生物総合管理, 2-1, 163-175
9. 高橋美加, 松本真理子, 川原和三, 菅野誠一郎, 菅谷芳雄, 広瀬明彦, 鎌田栄一, 江馬 眞 (2006c):OECD 化学物質対策の動向(第11報).国立医薬品食品衛生研究所報告, 124, 62-68 10. 高橋美加, 松本真理子, 川原和三, 菅野誠一郎, 菅谷芳雄, 広瀬明彦, 鎌田栄一, 江馬 眞
(2007a):OECD化学物質対策の動向(第10報).化学生物総合管理, 2-2, 286-301
11. 高橋美加, 松本真理子, 川原和三, 菅野誠一郎, 菅谷芳雄, 広瀬明彦, 鎌田栄一, 江馬 眞 (2007b):OECD化学物質対策の動向(第12報).化学生物総合管理, 3-1, 43-55
12. 高橋美加, 松本真理子, 川原和三, 菅野誠一郎, 菅谷芳雄, 広瀬明彦, 鎌田栄一, 江馬 眞 (2007c):OECD化学物質対策の動向(第13報).国立医薬品食品衛生研究所報告,125,101-106 13. 高橋美加, 松本真理子, 川原和三, 菅野誠一郎, 菅谷芳雄, 広瀬明彦, 鎌田栄一, 江馬 眞
(2009):OECD化学物質対策の動向(第14報).化学生物総合管理,4-2,225-236
14. 松本真理子、高橋美加、平田睦子、広瀬明彦、鎌田栄一、長谷川隆一、江馬 眞 (2006):
OECD 高生産量化学物質点検プログラム:第 18 回初期評価会議までの概要.化学生物総 合管理, 2-1, 104-135
15. 松本真理子、宮地繁樹、菅谷芳雄、広瀬明彦 (2009):OECD高生産量化学物質点検プ ログラム:第28回初期評価会議概要.化学生物総合管理, 5-2, 201-209
化学生物総合管理 第6巻第2号 (2010.12) 189-198頁
連絡先:〒158-8501 世田谷区上用賀 1-18-1 E-mail: [email protected] 受付日:2010年4月22日 受理日:2010年9月17日
表1 第29回SIAMで審議された化学物質
CAS/
物質カテゴリー 化学物質名 スポンサー 区分 結論
96-05-9 Allyl ester methacrylic acid US/ICCA 合意
123-11-5 Benzaldehyde, 4-methoxy- JP 合意
999-97-3 Silanamine, trimethyl-N-trimethylsilyl- US/ICCA 合意 540-97-6 Cyclohexasiloxane, dodecamethyl- US/ICCA 合意
4286-23-1 4-(1-Methylethenyl)phenol JP 合意
7758-87-4 Calcium phosphate (3:2) KO 合意
物質カテゴリー
(2CAS) Propanolamines
122-20-3 2-Propanol, 1,1',1''-nitrilotri- 110-97-4 2-Propanol, 1,1'-iminodi-
US/ICCA 合意
109-52-4 Pentanoic acid US/ICCA 合意
109-52-9 116-53-0
Commercial mixture of n-pentanoic acid
and 2-methyl-1-butyric acid US/ICCA 合意
物質カテゴリー
(5 CAS) Anthracene oils 90640-80-5 Anthracene oil
90640-81-6 Anthracene oil, anthracene paste 90640-82-7 Anthracene oil, anthracene-low
91995-15-2
Anthracene oil, anthracene paste, anthracene fraction
91995-17-4
Anthracene oil, anthracene paste, distn.
Lights
DE 選択的評価
(環境) 合意
117-82-8
1,2-Benzenedicarboxylic acid, bis(2-methoxyethyl) ester (Di(methoxyethyl)phthalate)
CA 選択的評価
(ヒト健康) 合意
68515-42-4 Phthalic acid, di-C7-11-branched and
linear alkyl esters CA 選択的評価
(ヒト健康) 合意
物質カテゴリー
(3 CAS ) Long chain chlorinated paraffins UK/ICCA 合意 化学生物総合管理 第6巻第2号 (2010.12) 189-198頁
連絡先:〒158-8501 世田谷区上用賀 1-18-1 E-mail: [email protected] 受付日:2010年4月22日 受理日:2010年9月17日
CAS/
物質カテゴリー 化学物質名 スポンサー 区分 結論 85422-92-0 Paraffin oils, chloro-
63449-39-8
Paraffin waxes & hydrocarbon waxes, chlor (LCCP)
85535-86-0 Alkanes, C18 - 28, chloro
62625-32-5*
Phenol, 4,4 -(3H-1,2-benzoxathiol- 3-ylidene)bis[2,6-dibromo-3-methyl-, S,S-dioxide, monosodium salt
CA 選択的評価
(環境) 不合意
註)1. ICCAは国際化学工業協会協議会による原案提出を示す。
2. euは欧州連合でのリスク評価文書を基にしたことを意味する。
3. 略号は、CA:カナダ、DE:ドイツ、JP:日本、KO:韓国、UK:英国、US:米国である。
表2 CDG上で書面審議されている物質
CAS/
物質カテゴリー 化学物質名 スポンサー
50-21-5 Lactic acid US
105-45-3 Methyl acetoacetate US
61898-95-1 Cyclopropanecarboxylic acid,
3-(2,2-dichloroethenyl)-2,2-dimethyl-, methyl ester US 物質カテゴリー
(3 CAS ) Sulfosuccinates 576-26-1 2,6-Dimethylphenol
23386-52-9 Butanedioic acid, sulfo-, 1,4-dicyclohexyl ester, sodium salt
2373-38-8 Succinic acid, sulfo-, bis(1,3-dimethylbutyl) ester, sodium US
註)USは米国
化学生物総合管理 第6巻第2号 (2010.12) 189-198頁
連絡先:〒158-8501 世田谷区上用賀 1-18-1 E-mail: [email protected] 受付日:2010年4月22日 受理日:2010年9月17日