1 研究主題によせて
(1)はじめに
今年度,小学校での初任からの3年を終えて転任 を経験した。本校に赴任して初年度をむかえるにあ たり,もちろん生徒たちの顔も名前も知らない。一 切の人間関係が築けていない生徒たちを相手に,本 校で養護教諭としてどのようなことができるだろ うかと考えた。また,職員もほとんどが初対面であ った。学校によって子どもたちの持つ健康課題や保 健室の在り方,ニーズ等は様々だが,学校の中で保 健室が組織的に円滑に機能し,子どもたちの健康の 保持増進や健康・安全な学校生活をサポートするた めには,周りの職員の養護教諭や保健室に対する理 解や協力を欠かすことができない。
そこで,「保健室の機能」とは何か,「養護教諭の 職務の専門性」とは何かという基本的なことを一つ ずつ見直し,丁寧に実践していきたい。
(2)研究のねらい
近年,子どもたちの心身における様々な健康問題 への支援や解決に向け,健康観察や健康相談,保健 指導の充実などが求められるようになり,養護教諭 の果たす役割はますます大きくなっている。養護教 諭が,「職務の専門性」を生かしながら「保健室の 機能」を充実させることが大切である。そのことに よって,学校保健活動の推進すなわち子どもたちの 健康の保持増進を図ることに繋がる。そこで,自ら の保健室経営の可能性を探りたい。
(3)保健室の機能と養護教諭の職務の専門性(図1)
「子どもの心身の健康を守り,安全・安心を確保 するために 学校全体としての取組を進めるため の方策について」(中央教育審議会答申,2008.1) には「Ⅱ-2.学校保健に関する学校内の体制の充
実」の中で「(1)養護教諭 ①養護教諭は,学校 保健活動の推進に当たって中核的な役割を果たし ており,現代的な健康課題の解決に向けて重要な責 務を担っている。(後略)」さらに「⑧子どもの健康 づくりを効果的に推進するためには,学校保健活動 のセンター的役割を果たしている保健室の経営の 充実を図ることが求められている。(後略)」と述べ られている。
図1 本論の要旨
学校保健法(昭和33年法律第56号)が一部改正され,平成21年度より学校保健安全法が施行された。今,
子どもの心身の健康問題の多様化・複雑化に伴い,その問題の解決に向けて,学校全体で組織的に対応していく ことが求められている。学校という組織の中においては,「保健室の機能」と「養護教諭の職務の専門性」を十 分に意識し生かした保健室経営を実施することが,学校保健活動の推進に繋がる。本校に赴任して初年度を迎え るにあたり,自らの保健室経営を一から見直し,今後の附属中学校の学校保健活動推進の基盤となるような活動 を展開していきたい。
キーワード 保健室の機能 養護教諭の職務の専門性 学校保健活動の推進
10 学校保健
「保健室経営」を一から見直す
―学校保健活動の推進を目指して―
正田 理沙子
保健室の機能
保健室は,学校教育における保健センターとしての 役割がある。
①健康診断,発育測定などを行う場としての機能
②個人及び集団の健康課題を把握する場としての機能
③健康情報センター的機能
④健康教育推進のための調査及び資料の活用・保管の 場としての機能
⑤疾病や感染症の予防と管理を行う場としての機能
⑥児童生徒が委員会活動等を行う場としての機能
⑦心身の健康に問題のある児童生徒の保健指導、健康 相談、健康相談活動を行う場としての機能
⑧けがや病気などの児童生徒等に救急処置の場として の機能
⑨組織活動のセンター的機能
養護教諭の職務
医学的背景と教育的背景の二面により子どもの心 身の成長を支援するところに専門性がある。
①学校保健情報の把握 ⑥学校環境衛生の実施
②保健指導 ⑦保健組織活動
③救急処置及び救急体制 ⑧感染症予防
④健康相談活動 ⑨保健室の運営
⑤健康診断、健康相談
保健室経営の充実⇒学校保健活動推進
2 生徒の実態と健康課題
第二次性徴期であり,思春期にもさしかかる中学 生は,身体と心が非常にアンバランスである。さら に友人や先輩・後輩との人間関係を意識し,自分と はどんな人間かと考え、社会的意識が発達する。そ のため,メンタルヘルスに関する問題が顕著に現れ やすい時期である。
平成18年度調査結果(表1)より,小学校と比 較して中学校・高等学校では,けがの手当てによる 来室より体調不良による来室の割合の方が高いこ とがわかる。また,来室理由の割合が小学校から高 等学校へと年齢が上がるにしたがって次第に高く なる項目と低くなる項目があるが,中学校が最も高 い割合を示している項目は「先生との話」「身長・
体重・視力等を測る」「なんとなく」(表中の網かけ 部分を参照)である。
不定愁訴の裏には心の健康問題が隠れているこ とが多く,同報告書による心の健康に関する問題の ある児童生徒数(千人当たり)(表2)を理由別に 見ても,中学生でメンタルヘルスに関する問題が顕 著化していることがうかがえる。
本校の過去の保健室利用状況は、けがの件数より 病気の件数が1.5~2倍以上多い年がここ数年間 は続いている。しかし、今年度に限っては病気の件 数が昨年度と大差ないのに対し、けがの件数が昨年 度より2倍以上多く、病気の件数を上回っている。
病院へいくような大きなけがの件数には大差なく、
軽微なけが(四肢の軽い打撲やさかむけなど)や昨 日 以 前 の け が , 帰 宅 後 の け が に よ る 来 室 者 が 気になる(保健室はあくまで学校で発生したけがに 対する応急処置を行う場であることはその都度説 明している)。生徒たちは無意識かもしれないが「自 分を見てほしい」という心理が働いるように感じる。
ただ、養護教諭が替わったことにより、けがの件数 のカウントの仕方に違いがあれば、要因のひとつと して考えられるため、来年度の動向を注意深く見て いく必要がある。
保健室から見た本校生徒は,学習や学校行事にま じめに取り組み,一生懸命な姿が見受けられる。ま た,休み時間に保健室に来室する生徒たちは,自分 で時間を意識して授業に遅れることなく教室に向 かう。具合の悪い友人やケガをした友人を保健室に 連れて来たり,その友人の荷物の整理や教科担当へ の連絡を積極的に協力するなど,他者へのおもいや りや優しさを感じる場面がたくさんあった。一方で,
生徒たちの自尊心の低さを感じる場面も多々ある。
本校は,ほとんどの生徒が附属小学校から進学して おり,幼稚園から入園している者であれば,中学校 へ入学するまでにすでに9年の付き合いとなる。そ のような環境の中で,個人に対するイメージや人間 関係が固まってしまっている部分がある。加えて,
個人の評価について学力に重きを置くなど,集団と しての価値観にも偏りを感じる。また,親や先生な ど大人からどう見られるか,どう評価されるか,周 りと比べてどうかということを気にしすぎて,自分
来室理由 小学校 中学校 高等学校
けがや鼻血の手当て 34.5 15.6 12.1
体調が悪い 14.3 21.9 29.4
熱を測る 2.0 4.0 4.5
休養したい 0.7 1.9 3.8
困ったことがあるので話を
聞いてほしい 0.8 1.6 2.1
先生との話 2.1 4.1 3.7
自習時間だから 0.1 0.1 0.2
身長・体重・視力等を測る 1.8 6.6 4.8
手洗い・うがい・爪切り 0.8 1.8 2.4
友達のつきあい・付き添い 16.3 15.7 14.6
お見舞い 1.7 2.6 3.0
呼ばれたから 0.6 0.6 1.5
委員会活動 14.4 6.6 3.3
連絡 1.7 1.8 3.1
身体や病気のことについて
教えてほしい 0.4 0.5 0.7
資料や本を見る 0.7 0.4 0.3
なんとなく 5.3 10.8 7.2
その他 1.5 3.1 3.0
無回答 0.3 0.3 0.4
合計 100.0 100.0 100.0
(保健室の利用状況に関する調査報告書 財団法人 日本学校保健会)
表1 来室理由別保健室利用者の割合(H18) (%)
小学校 中学校 高等学校 千人当たり
の児童数
千人当たり の生徒数
千人当たり の生徒数 身体症状から来る不安や悩み等 3.2 13.6 16.9
いじめ 1.3 7.8 1.8
友達との人間関係 6.7 29.4 24.4
児童虐待 1.5 1.5 0.4
家族との人間関係 3.5 11.2 10.1
摂食障害 0.2 1.3 1.9
睡眠障害 0.3 2.7 4.3
性に関する問題行動 0.2 4.4 5.7
自傷行為 0.2 3.7 3.3
精神疾患 0.2 2.0 3.4
発達障害(疑い含む) 10.3 7.0 1.2
その他 1.3 6.0 8.1
(人/1000) (H18)
(保健室の利用状況に関する調査報告書 財団法人 日本学校保健会)
表2 心の健康に関する問題のある児童生徒数
けが 病気
150 342
(全校生徒数357名)
けが 病気
393 387
(全校生徒数359名)
表3 本校における保健室利用件数 平成23年度(H23.4.9~H24.2.8) (件)
平成24年度(H24.4.9~H25.1.31)(件)
学 校 保 健
を適切に評価できない生徒が多いように思う。ただ,
自分の思いを言葉で表現する能力が高い生徒が多 く,体調不良を訴え保健室に来室した際には勉強の ことや友人のこと,家族のこと,自分自身のことな ど様々な胸の内を素直に話すことができる。また,
生徒が自分でストレスを自覚した上で保健室に相 談しにくるケースも少なくない。視野を広げて自分 を見つめ,自分の個性や良さに気づき,自分を認め ることで自信をつけさせることが課題である。
3 保健室経営の具体的展開
「2 生徒の実態と健康課題」を念頭に置き,保 健室の機能の充実を図った。その中でも特に力を入 れた部分を以下に6点に分けて述べる。
(1)「ほけんだより」の工夫(図2)
担任,担当教科を持たない養護教諭にとって,「ほ けんだより」は,単に保健情報を発信するだけでな く,養護教諭の思いや願いを全校に伝える大切な機 会でもある。しかし,発行しても生徒たちや保護者 に読んでもらえなければ意味がない。多くの生徒や 保護者が読みたくなるような工夫が必要だ。中学生 では,配布プリントが保護者まで届かないというこ とが往往にしてあるだろうが,生徒が読み,面白い と思えば保護者に渡す率も上がるのではないかと 考えた。そこで工夫のポイントを以下の4点に示す。
・表面を生徒用,裏面を保護者用とし,生徒と保護 者へ発信する内容を分けて,月に一回程度発行した。
・教科書や多くの配布プリントは活字であり,さら にICTの普及により生徒たちが活字に触れる機 会は非常に多い。そこであえて生徒用面を手書きで 作成することで,紙面に目が留まるようにした。
・一方的に何かを啓発するだけでなく,できるだけ 生徒の目線に立って考え,生徒との日常会話からヒ ントを得て,生徒が興味を持つような内容を盛り込
むよう努めた。
(例)体臭,制汗剤,ニキビ,携帯電話トラブル,
防災訓練,給食について等
・保健的な内容に限らず,生徒たちの日頃の頑張り や取り組みに対し,称賛したり感謝のメッセージを 記すようにした。また,どんな些細なことでもいつ でも保健室に相談しに来て良いということも随所 に載せるようにした。
(2)空間の工夫(保健室のレイアウト)
保健体育審議会答申(1997.9)には保健室につい て「いじめ,保健室登校等心身の健康問題で悩む児 童生徒へのカウンセリングの実施など,保健室の役 割の変化に対応する観点から,保健室の機能を見直 す必要がある。」と示されている。本校の保健室は 普通教室の一部屋分の大きさがあり,保健室内に個 室が2部屋ある(いずれも普段は休養のためのベッ ドルームだが,検診や相談などプライバシーに配慮 が必要な場面で使用できる)。しっかりとスペース が確保されていることを生かし,物品の配置や間仕 切りを工夫し,円滑な保健室運営ができるレイアウ トを模索した。工夫のポイントを以下の3点で示す。
・救急処置コーナー,身体測定コーナー,健康相談 コーナー(ほっとスペース),休養スペースなどを 分けることで保健室の利用目的の違う生徒が一つ の空間で混同しないようにした。(図3)
・生徒が入ってきたとき,養護教諭の顔が見えるよ うにデスクの配置を考えた。
・ほっとスペース(図4)ではマットを敷き,上靴 を脱いで上がれるようにした。ロッカーを間仕切り にすることで,入室者からは見えにくい半個室にし た。使用するマットは,学校薬剤師に相談し,ダニ
図3
図2
椅子 処置台 机
椅子 テーブル
救急セット
マット テーブル
養護教諭 デスク ソファ
ベッド ベッド 衝立
流し台
身長計 体重計 座高計
ロッカー (本)
薬品庫 扉
扉
書庫 書庫
ほっとスペース
測定コーナー
休養スペース
鏡
救急処置コーナー
ソファ
がわきにくく清潔が保ちやすい素材の物を使用し た。
4月から何度かレイアウトを変え,模様替え後は 生徒たちに感想を聞き,生徒の意見を参考にしなが ら改善を重ねた。また,できるだけ扉は開放して保 健室の中の様子が見えるようにし,誰もが入りやす いよう心がけた。
(3)応急処置および保健指導
けがに対する救急処置や体調不良に対する手当 てを行うときは,保健指導を行うチャンスでもある。
けがの処置の際は,自分で最初にすべき手当て(異 物の除去=傷口をきれいに洗う)について話をした り,身体の構造や機能について説明したり,けがの 発生原因について考えさせたりする。体調不良によ る来室の際は,自分の健康観察をさせ,生活を振り 返ったり,心と身体のつながりについて話したり,
来室後の行動(教室に戻る,保健室で休養する,早 退する)についてできるだけ自分で決めさせるなど している。
(4)健康観察および組織活動
朝の健康観察は,生徒会組織の係会活動として各 学級の保健係が毎日朝の会で実施している。まずは,
朝の健康状態を自分で把握することの大切さなど 健康観察の重要性について,保健係の生徒たちにし っかりと伝えた。すると,それ以降の係会で「健康 観察が点呼状態」「マスクをしてしんどそうなのに 元気と言っている」など問題視する声が保健係の生 徒たちから上がってきた。そして,健康観察実施時 の工夫を交流したり,学級のみんなに健康観察の大 切さを伝えることで意義のあるものにしようと取 り組んだ。同時に,職員打ち合わせで生徒の思いと 健康観察の重要性を再度呼びかけ協力を求めた。ま た,健康観察記録をもとに,その日訴えがあった生 徒にはできるだけ声をかけるように心がけた。
(5)健康相談
児童生徒等の様々な健康問題に組織的に対応す るため,健康相談は学校医や学校歯科医が行うもの
に留まらず,養護教諭を中心として関係教職員の協 力のもと実施されなければならない。健康相談にお いては,医学的背景と教育的背景の二面により子ど もの心身の成長を支援するという養護教諭の職務 の専門性を特に意識して行った。
また,養護教諭の特権として,子どもたちと自然 にスキンシップをとることができる点がある。メン タルヘルスに関わる健康相談をする際には,カウン セリングマインドをもって関わることはもちろん のこと,「心の手当て」として捉え,ときには字の ごとく生徒のからだに「手」を「当て」ることで安 心感を与え,意思伝達を効果的にするようにした。
(6)職員やスクールカウンセラー(以下SC)と の関わり
「1 研究主題によせて」でも述べたように,組 織的な学校保健活動の推進に職員の理解と協力は 欠かせない。日々,学級担任や関係職員とその日の 情報交換を行うようにしている。また,毎回の職員 会議で生徒指導部からの報告の中で「保健室より」
として生徒たちの保健室から見た様子を全体に伝 えている。
本校のSCは,週に3回,8:30~17:00 に附属学校園(幼・小・中・特)のSCとして勤務 してくださっている。保健室には,目立つところに カウンセリングルームから出されるお便りを掲示 し,生徒の健康相談を行う中でカウンセリングルー ムを紹介するようにした。もちろん保健室でもいつ でも相談にのるということを伝えた上で,保健室に はないカウンセリングルームの良いところ(SCは 教職員でない,予約が取れる,自分だけの時間が確 保される,中断がない等)を伝えるようにした。ま た「私(養護教諭)も困ったときや悩んだときに話 を聞いてもらうときがあるよ」と,生徒たちがSC を身近に感じられるようにした。実際,養護教諭が 行う健康相談において,その進め方や問題の捉え方,
対処などについてカウンセラ―の視点からアドバ イスをもらうなど,積極的に相談している。
4 考察
(1)「ほけんだより」の工夫
目の前の生徒たちと関わる中で養護教諭として 感じたことや伝えたいこと,気づいた課題について 発信するという意識をもって作成してきた。「ほけ んだよりに相談事があれば来ていいと書いていた ので来ました」と訪れる生徒がいたり,保護者に「家 で高校生の姉も読んでいます」と言っていただいた りするなど,効果を実感できる場面もあった。しか 図4
学 校 保 健
し,生徒の行動や生活態度,意識に変容が見られる かといえば,まだまだであると思う。情報を知識と して取り入れるだけでなく,学びや気づきがあった り,生活に生かしたりできるよう,「ほけんだより」
以外の手段とも合わせて継続した取り組みが必要 である。今後も,生徒が心で感じる「ほけんだより」
を目指したい。
(2)空間の工夫(保健室のレイアウト)
教室の移動が多く,休み時間は次の授業の準備,
放課後は班活動,と時間に追われがちな中学生。な かなかゆっくり話を聞いてあげられない現状があ る。改まった相談でなくても,保健室に立ち寄った ときに悩みや愚痴をポロっとこぼせるように,と養 護教諭のデスクのすぐ傍に半個室のほっとスペー スを設けた。実際は,体調不良でソファで休養しな がら何気なく話す中で相談ごとに移行することが 多く,ほっとスペースの使用頻度はそれほど多くな かった。しかし,同じ生徒でも普段はソファに座る が何かに悩んでいるときはほっとスペースに腰を 下ろすなど,生徒の行動から小さな心のSOSに早 く気づくことができたケースがあった。また,自分 の身体の成長や変化に興味関心を強く持っている 生徒たちは,身長などを測りに来たり,様々な質問 をする。生徒たちのニーズを考えると体や心,健康 のことを学べる場として,不十分だったと思う。今 後,保健室内の掲示物に力を入れ,生徒用の本や資 料も充実させていきたい。
(3)応急処置および保健指導
例えば,体温の正しい測り方(体温計の使い方)
など「この時期に誰かに習う特別な知識」というよ り「生活する中で自然に身につくようなこと」につ いて「中学生ならこれくらいは知っているだろう」
といった自分の勝手な予想と現実とは違っていた。
経験や興味関心の持ち方などは人によって違い,生 徒の健康観や健康管理能力を育てるには,個々の生 徒を見る必要がある。生活スタイルや意識,知識量 等をその都度確認しながら,どんな言葉がけや指導 内容が望ましいか,一人ひとりの生徒の現状に応じ た個別の保健指導を心がけていきたい。
また,今後保健体育科教員や学級担任に働きかけ,
集団の保健指導の機会も積極的につくっていきた いと思う。
(4)健康観察および組織活動
保健係の意識を向上させることで,健康観察板の 提出が朝の会終了後すぐに揃うようなった。一日の
始まりの段階で,生徒たちの様子を把握できること で,気になる生徒への声かけがしやすくなった。学 級の生徒一人ひとりの自分の心身の健康状態への 向き合い方は,保健係の呼びかけ以降も劇的に良く なったとは言えず,今後も保健係や担任,養護教諭 が継続的に呼びかけていく必要がある。
(5)健康相談
保健室での対応を通して特に気になったのは「頭 痛」である。体調不良による保健室利用時の理由(頭 痛・腹痛や下痢・気分が悪い・吐き気や嘔吐・しん どい・その他)として最も多かったのは頭痛だ。
387件(H24.4~1)のうち,141件で頭 痛を訴えている(全体の36.4%)。そして本人 が記入する病気の記録によると,そのうちの51件 で原因(思いあたること)が「わからない」と答え ている。「頭痛」の要因としては,外傷によるもの,
感冒や感染症によるもの,脳腫瘍などの病気による もの,偏頭痛,熱中症,心因性のものなど様々な要 因が考えられる。頭痛の訴えがあった場合,その経 過について詳しく本人に聞き取りを行い,担任に報 告,必要に応じて保護者に連絡して普段の様子や訴 えと照らし合わせ,専門医受診を勧めるケースが何 件かあった。生徒との付き合いが長くなるほど生徒 のバックグラウンドが見えてくるため,メンタルヘ ルスに関する問題に繋がりやすい。しかし,器質的 な疾患を見逃すことがないよう,内科的訴えに対し てはまず医学的な見地から原因を探ることを忘れ ないようにしたい。
また,健康相談を進める中で,家庭や学校生活に おける人間関係の悩み,将来についての迷いや不安,
自分自身の存在意義など,多感な生徒たちの心の揺 れを感じ取ることができた。多くの生徒が、自分の 個性や良さ,欠点も含めて自分をどんな人間か捉え,
自分を認めるというステップを超えようとしてい る段階にあると感じる。「集団の中で他人と比べた 自分」ではなく「ありのままの自分自身」にスポッ トをあてて自分を捉えてほしいと強く願う。乗り越 えるのは生徒自身であるが,そこへ一歩でも近づけ るような言葉がけや関わりを意識していきたい。特 に,自分への評価が低いあまりそれが非常に困難で ある生徒に対しては,学級担任をはじめとする関係 職員とタイムリーに連携を図ることで継続した細 やかな支援をしていきたい。
(6)職員やSCとの関わり
本校の教職員は非常に協力的で,保健室に対する 理解も得られている。ケガや嘔吐,感染症発生のと
きには素早く対応に当たるなど,緊急時の体制が整 っており,職務を進める上で非常に助けられた。一 方,教職員への情報発信が少なかったことは反省す るべき点であり,理解と協力が得られることに感謝 しながら,生徒たちの健康課題や保健室運営につい てもっと情報を発信していかなければならない。
「カウンセリングを受けるのは特別なこと」と敷 居を高く感じている生徒や「カウンセリングルーム は病んでいる人がいくところ」と間違った認識をも っている生徒もいる。ありがたいことに,SC自ら 生徒との交流を深めるため,休み時間など保健室に よく来てくださる。保健室での出会いがきっかけで カウンセリングを受けることになったケースがい くつかあった。保健室に行くことを特別だと思って いる生徒はそれほど多くないと思われる。生徒たち の学校生活の中に違和感なく保健室があり,そこで ごく自然にSCと生徒たちの繋がりができる場と なるよう,さらにSCとの繋がりを深めていきたい。
また,健康相談は養護教諭を中心として関係教職 員の協力のもと実施するという観点から,教職員が 健康相談に関する知識や技術の習得や向上に取り 組むことは必要なことである。私自身,生徒たちの 健康相談を進める中で疑問や迷いを感じたときは SCに相談することがある。すると,その中で新た な発見や気づき,学びがたくさんあり,その後の生 徒への対応に生かすことができる。今後,SCと連 携しながら職員研修などを積極的に計画・実施して いきたい。
5 まとめ
(1)課題と展望
生徒たちと接してきた時間はまだ短いが,この9 か月で保健室から見えてきた生徒たちの実態を踏 まえ,今後の展望を述べたいと思う。
まず,本校生徒は積極的に物事へ取り組む姿勢も やり抜く力も十分にある。そのことを生かし,生徒 たちが主体的に心身の健康の保持増進を図れるよ うに働きかけていきたい。具体的には,保健係の活 動を充実させていく。はじめに生徒たちに自分たち の生活を振り返って健康課題や健康目標を考えさ せる。また,個人情報に配慮した保健室の利用状況 や,ケガや病気の手当て,健康相談等をする中で養 護教諭が日頃感じている課題を明示する。生徒の自 覚や気づきと,養護教諭の課題意識や願いを交流さ せることで,有効な呼びかけに繋げたい。その方法 や内容については生徒たちの意思を十分に尊重す るが,全くの生徒任せにしてしまわず,生徒目線と 養護教諭目線とをかけ合わせて見えてきた本校生
徒の健康課題に共に取り組んでいきたい。
次に,感情が大きく揺れ動く思春期の生徒たちに,
“自信”をつけさせたい。校内授業研究会等でたく さんの先生がいる中でも積極的に発表する生徒が 多くいるなど,自己表現能力が高く堂々としている ため,一見自信を持っているように見える。しかし,
そんな生徒が保健室で見せる姿は,周りと比べて自 分を低く評価していたり,逆に自信と自慢を履き違 えている者も少なくない。他人の評価で自分の価値 を決めず,ありのままの自分を認め,自分がもって いる力や良さを伸ばすことで自信をつけていって ほしい。
最後に,日々の保健室運営で健康相談・個別の保 健指導にあたる時間は大きい。逆に言えば,なんら かの心身の健康課題をもった生徒が保健室を求め てやってくる。生徒を支援する上でやはり欠かせな いのは周りとの連携である。前任校が小学校だった こともあり,生徒たちのリアルな悩みや抱えるもの の大きさは,想像以上だった。養護教諭一人にでき ることには限界がある。学級担任等の教職員やSC と密に連携を図ることで生徒一人ひとりの生活背 景や人間関係などを考慮し,現状に応じた支援を,
役割を決めてタイミングよく実施していきたい。
(2)おわりに
私の実践は,今まで私が出会ってきた先輩養護教 諭の実践や教えから多くのことを学ばせていただ き,それらを参考にしながらの実践の工夫であり,
同じ職場の先生方の理解と協力,そして子どもたち の存在が支えとなって可能となった。どれも基本的 なことであり,どこの保健室でも実践されているよ うな内容であるかもしれない。しかし,それらを振 り返りながら着実に実践することで、生徒や教職員 との関係づくり,保健室経営の土台づくりができた のではないか。
その上で,養護教諭として今の子どもたちに伝え ていきたいこと,可能なことは何か,普遍的に子ど もたちに必要な力は何かを探求し続けていきたい。
6 参考文献
・教職員のための子どもの健康相談及び保健指導の 手引,平成23年8月文部科学省
・保健室利用状況に関する調査報告書,財団法人 日本学校保健会
・新版・養護教諭執務のてびき,監修・植田誠治・
河田史宝 石川県養護教諭研究会・編
・学校保健の動向平成24年度版,公益財団法人日 本学校保健会