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第2章 必修教科等の研究 10 学校保健 保健室の可能性を探る : 保健室を無駄なく,無理せず活用する方法

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Academic year: 2021

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10 学校保健

1.研究主題によせて (1)はじめに 「なんとなく」という言葉のように,今まで養護教 諭が仕事をするには,雰囲気や経験,さらには直感と いうものに頼る傾向があった。奥村1)は,「実践研究を 通して,筆者に養護教諭としての自信を深めさせたも のは感覚的な執務の蓄積ではなく,自分の学校の子ど もたちの実態から裏付けた内容をもとにした執務の展 開であった」としている。雰囲気や経験,さらには直 感という感覚的な判断は本来,専門性を唱える職業と しては説得力に乏しく,そこには信頼性だけでなく妥 当性も伴わないだろう。 さらに,岡田2)は「養護教諭の実践においても,経 験に頼ったり,判断に迷ったりすることも多い。しか しながら,専門職として科学的な根拠(エビデンス) を示して,行動することが今後一層求められるであろ う」としており,養護教諭の実践における根拠とは何 なのかを問うている。 また,養護教諭には保健室という活動の場が与えら れている。養護教諭にとって,保健室での取り組みは 活動の全てのベースとなる部分ではないかと考えてい る。 (2)研究のねらい 本研究では養護教諭の活動場所として与えられて いる「保健室」という条件を活かし,養護教諭がより 無駄なく,無理せず,他者を説得させることができる 取り組みができるという可能性を探りたい。 (3)研究仮説 保健室に既存する測定値や記録をデータとして整 理したり,数字として表示することが難しかった子ど もとの会話や子どもの状況を整理することで,雰囲気 や経験,直感などの曖昧な感覚に頼ることなく,判断 中尾 香織 し,子どもへの対応ができるのではないか。 2.保健室活用術 (1)保健室の『データ』を活かす 「来年,県で発表が当たっている・・・」,「あと少 しで学校保健委員会・・・」などと言いながら,慌て てアンケートをとったり,事例や講師を探したりして いないだろうか。実は,保健室はデータの宝庫である。 保健室に眠っている既存のデータを活かすことで十分 これらの課題はクリアできる。 ①定期健康診断の結果 一般的に,定期健康診断で得られた測定値や検査結 果はそれぞれの子ども個人のものである。しかしなが ら,学年や性別,あるいは学校という単位として扱え ば,市または県,さらには国レベルでの比較が可能で ある。 また,継続して測定しているデータを縦につなげる ことはとても有用である。これらは,個の成長を示す ことになり,保健指導のデータにもなりうる。例えば 成長曲線を書くことで,子どもたちが健全に成長して いるのか,あるいは成長障害を呈していないかなどが わかるようになってきた3)。子どもたちの成長には個 人差がつきものである。しかしながら,成長の遅れを 個人差とみるのか,成長障害と疑うのかでは,後の成 長に大きな差が出てくる。同じデータでも違う角度か ら眺めることで,新しい発見につながる。 また,定期健康診断の結果は限りなく個人の情報で あり,取り扱いには十分配慮しなくてはならない。そ のためにも,適切な統計処理方法を学ぶ必要がある。 ②来室記録(資料1,2) 保健室に来室する子どもの主訴は様々である。一時

保健室の可能性を探る

― 保健室を無駄なく,無理せず活用する方法 ― 本論の要旨 養護教諭には保健室という活動の場が与えられている。その保健室という条件を活かし,養護 教諭は専門職として科学的な根拠をもとに活動を展開することで,子どもたちの新しい姿を発見で きるのではないか。さらに,保健室を無駄なく,無理せず活用することで,保健室が持つ可能性を 探ることができるのではないか。 キーワード 保健室,活かす,根拠

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にたくさんの子どもが来室するので,一人ひとりの様 態や様子を記録するために「来室記録」を作成し,記 入している学校が多い。「来室記録」は個人情報のかた まりではあるが,家庭または学校での子どもの様子や, 保健室にいるとなかなか覗くことができない授業の様 子をかいま見ることができるので,充実させたい。 「来室記録」を作成するにあたり,注意したい点が 2つある。1つは記入の仕方である。本校は中学校な ので,発達段階を配慮して「いつ・どこで・どうした のか」などの基本的な問診は,自分で記入させるよう にしている。自分で記入することで,来室した目的を はっきりさせ,自分の行動を振り返らせるためである。 二つめは「来室記録」の中に,情報収集のアイテム を忍ばせておくということである。記入は自分でする ので,用紙にこちらが知りたいと思う内容を加えてお けば,子どもから記入してくれている。本校の場合, 睡眠時間や食事の有無を記入欄に設けている。他には, 排便の有無や,前日の過ごし方などもたずねることが できる。 発表の前にわざわざアンケートをとらなくても,普 段の生活の中で子どものデータを得ることができる。 そして,そのデータを適切に処理すれば子どもたちの 新しい実態が見いだせる可能性があると考えている。 ③環境衛生検査結果 学校環境検査は学校種や生徒数に関係なく,どの学 校でも実施されている。毎年,学校薬剤師の協力を得 て実施しているが,大きな問題が無ければ,そのまま “異常なし”として片づけられてしまうことが多い。 結果などは,意外と他の職員に知らされることが少な い。そして,検査結果はそのまま保管されてしまうこ とになる。逆に“しなければならない”ならば,なお さら利用すべきではないだろうか。 まず,検査項目ごとの結果を校内の案内図に書き込 んでみた。照度検査の場合(資料3),過去数年間だけ でも同じ教室を測定していることが多いことがわかっ た。中学校では,移動教室も多いため,特別教室の測 定もしていかなくてはならない。さらに,同じ教室で あっても季節や天候,さらには測定する時間帯などに よっても値は全く違う。それぞれの場合で,必要な対 応も変わってくる。地図に書き込むことで,検査のム ラを発見するだけでなく,教室の実態が明らかになり, 子どもたちの学習環境が明らかになる。なんとなく行 ってきた検査などから,その学校独自の学習環境が発 見できるかも知れない。 他の先生たちが想像する以上に保健室には数字が あふれている。先に紹介した定期健康診断の結果や来 室記録,そして環境衛生検査結果,さらには日本スポ ーツ振興センターの書類,健康観察,健康相談活動の 記録などなど・・・。これらを上手に活用すれば,保 健室で同じ執務をしていても,得られる情報には差が でてくるだろう。そこで,これからの養護教諭に求め られるのは,データを生み出す能力とデータを読む力。 さらにはデータを活かす能力だろう。 (2)保健室で『子ども』を活かす 毎日のようにケガをして来室する子どもや,休み時 資料1 資料2 資料3

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間ごとに「しんどい」と言って来室する子ども。「ああ, またか・・・」と思いたくなくても,思ってしまうこ とがある養護教諭が多いのではないだろうか。一方で, 保健室での何気ない声かけや気配りでスッと楽になる ことができる子どもも多いことは事実なのだろう。広 田4)は「保健室または養護教諭のところへ来た子ども たちは,①教室にいるときの自己概念からの解放,② 生徒としての役割からの解放,③わたしのニーズへの 応答の3点を得ているとしている。つまり,子どもた ちは保健室と養護教諭に教室と他の教諭との関係のな かで,これらをもたらすポジションにあるという価値 を見いだしていることになる。 ①健康相談活動 保健室で子どもたちと接する中で,子どもたちが背 負うしんどさが伝わってくることは多々ある。頻回来 室傾向生徒の心のしんどさに気づくきっかけは「来室 記録」が多い。 資料4の生徒は,主訴で頭痛・腹痛・気分が悪い・ しんどいと記入し,その内容は「じーーーーん」・「ず どーん」というものであった。原因はその他で「いろ いろ」と記入しており,何が原因で身体の調子が悪い のかわかっているのだろう。話す場を求めているのだ と考え,時間をとると,しんどさを話し始めた。 記録をよく見ると,身体のしんどさを通し,自分自 身の思いを伝えようとしている様子がよくわかる。子 どもたちはその場では言葉にできなくても,記録とし て残れば,養護教諭が改めて見直すことで気づきにつ ながる。 また,来室記録をデータとして記録し,整理するこ とは,来室時の状況(曜日・時間割・時間帯など)や 主訴などを把握することができ,支援の手だてとして も役立っている。 ②特別支援 平成19年度より特別支援教育が本格的に実施され ることになっている。何年かの準備段階はあったもの の,定着している学校もあれば,まだ違和感が残って いる学校があることは事実だろう。 特別支援教育を実施する中で,保健室は支援の場と して認められている。同時に,保健室は特別支援が必 要な子どもを発見する場にもなりうると考えている。 例えば,何度同じ注意をしてもケガを繰り返して来 室を繰り返す子どもがいる。「3度注意しても変化無け れば指導を疑う・・・」と言われている5)。同じ指導 をしても1回で聞けるのか,あるいは3度注意しても 変化が無く,ケガを繰り返すのならば,ちがった形の アプローチを考えて行かなくてはならない。そして, ここで本人に非があるのか,あるいは何らかの支援が 必要なのかを見極めていく必要があるだろう。こうい った日常生活の繰り返しが特別支援を必要とする子ど もの発見につながり,やがて保健室で行う支援につな がることになるのだと考えている。 また,子ども自身が人とのちがいを意識したり,感 じたりすることもある。その際,健康問題としてとら え,相談に来ることも考えられる。子どもの声を聞く 場として,保健室の役割は大きいと感じている。 特別支援教育という性質上,多くの目と多くの人手 が必要だ。担任だけに任せるのではなく,養護教諭が 保健室でできる範囲の支援を行うことは学校教育現場 では大切なことだと考えている。 ③虐待 学校の中で子どもの身体に触れることを許されて いるのは養護教諭だけである。もちろん,脈を採る時 も「触るよ」と声はかけるようにしている。触れるこ とによる発見はとても多く,皮膚の状態や栄養状態な どもわかるが,不自然な位置にあざができていたり, ケガをしている生徒を発見することも多々ある。これ らの場合,子どもたちは多くを語らず済ませようとす るが,私たちにはそれらを記録し,報告する義務があ る6)。私たちは“義務だから”ではなく,子どもに何 が起こっているのかを知るために,子どもの状態を把 握するための努力は惜しんではいけない。その子ども のためにだけ時間をとることで広田4)が言う,“私だけ のニーズ”を満たしてやることができる。報告の義務 ではなく,養護教諭としての義務だろう。 資料4

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保健室は子どもの体や心の声を聞く場として受け 止められているが,子どもを上手に『活かす』場であ ると考えている。そのためには養護教諭に“子どもを 見る目”を育てて行かなくてはならないだろう。子ど もを見ていくにはやはり経験が必要だろう。しかしな がら,新任の養護教諭にはその経験がない。だからと いってあきらめてしまうのではなく,工夫や研修で乗 り越えていけると考えている。 (3)保健室の『時間』を活かす 朝から病院に1件行けば昼休み。いつの間にか,夕 方・・・。何事も起こらない日がないくらい,慌ただ しく毎日が過ぎていく。報告書類や日本スポーツ振興 センターの災害共済給付申請などは,提出期限ギリギ リまでたまっていることもよくある。 そんな日々の中でも,執務の質を変えることなく, 方法を変えることでゆとりの時間を得ることができる のではないだろうか。 ①健康観察(資料5) 市販の健康観察簿では欲しい項目があっても,手書 きで加えなくてはならない。特に学級数が多い学校で は,その作業を毎月加えることはとても時間がもった いない。また,新しい学級編成を組んだときは,1枚 目に氏名印を押したり,休祭日に斜線を引いたりと, 意外と健康観察は手間がかかっている。 そこで,本校では Excel で健康観察を作成し,使用 している。同じように,独自の形式で作成している学 校も多いのではないだろうか。本校が Excel を使って 健康観察簿を作成している理由は,Excel が一般的に 利用されていることや,自分のやりやすい形に加工で きるためである。 ②学級保健簿(資料6) 学校保健簿を教務手帳のように手書きで記入して いる人も多いはず。教務手帳の良さは,手軽に持ち運 べ,見たいときにすぐに見られることだと思う。しか しながら,1人で全生徒のデータを管理することは大 変である。そこで,学級保健簿を Excel で作成すれば, データを一度入力しただけで,あとはいろいろな形に 加工することができる。統計をとることはもちろん, (個々の子どもの成長という)縦のつながりを見つけ ることもできる。また,そういう発見に必要な関数な ども一度作成しておけば,あとは sheet をコピーする だけで対応できるので,手間はかからない。大規模校 でも充分に対応できる。さらに,それぞれの養護教諭 が必要な項目のページを作成し,管理できるので,1 つのファイルでいろいろなことが把握できることにな る。 ③健康診断結果個票(資料7) これは定期健康診断の結果を個人別に返却する際に 利用している。ほとんどの市町村では定期健康診断の 結果を小学校1年生から中学校3年生までの成長の記 録を一覧表として利用しているところが多い。しかし ながら,毎年,定期健康診断ごとに一覧表に手書きし ていくのはかなりの労力である。 本校では先に紹介した学級保健簿のデータをもと に,定期健康診断の個票を作成し,子どもたちに返し ている。その際,定期健康診断は学年によって検査項 目が異なるため,学年に応じて作成している。しかし ながら,現在の健康診断結果個票では,単学年のみの データしか返すことができていない。今後は,縦に継 続してみることができる形で返すことができるように していく必要がある。その際には,成長曲線を同時に 描くなどの図形も共に返すことができればと考えてい る。 年度末にこれらのデータをすべて1枚のCDに“○ ○年度 学校保健”と名付けて保管しておけば,文書 管理の面でもわかりやすい。転勤の時の引き継ぎも便 利だろう。 限られた時間を活用するには,それなりの工夫が必 要である。その方法としてパソコンの普及は非常にあ りがたい。また,本校でこのようなデータの整理を行 うにあたり役に立ったのは個人番号=「ID番号」の 使用である。年度ごとに1人に一つの番号があり,お かげでその番号一つで個人を認識することができるよ うになった。ただ,保健室でデータを処理する際には 大学の学籍番号のように年度や学級が変わっても変わ ることのない,子ども1人に一つの番号が必要である。 そうすることで,1人の子どもを縦に継続して把握す ることができる。子どもの成長を長い目で見守るため である。 また,使用している数式も簡単な Excel の教本を見 本校の健康観察の特徴 ○事前に休日を指定しておけば,休日は塗りつぶし て出てくる。 ○名簿は一度コピーすれば,毎月,年度・月・学級 を指定するだけで,名簿と曜日,休日が変わる。 *ハッピーマンデーや閏年にも対応。 ○個人情報保護の観点から,表紙付きで丈夫なPP フラットファイルを採用。

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ながら作成できるものばかりなので,いろいろな場面 で応用することができる。 3.まとめ (1)成果および今後の課題 1日のうち,養護教諭は保健室でほとんどの時間を 過ごしている。その中で,事務処理や報告などに費や す時間は少なくない。しかしながら,その時間をどの ように配分し,使っているのかは人によってちがいが ある。養護教諭の仕事は,突然,病院に行くことや, 子どもたちの相談に耳を傾けることもあり,計画通り に仕事ができないことが多々ある。 このような状況を受けて,私たち養護教諭はしっか りと子どもたちの実態を見つめるための,仕掛けを新 たに準備するのではなく,既存のものをより精度のよ いものにしていく必要があるのではないだろうか。 また,それらによる成果は雰囲気や経験,さらには 直感といった感覚的な観点で取り組まれたものではな く,誰が見ても納得するような方法で導き出された根 拠がなくてはならない。保健室のデータや時間を活か すことで子どものみかたを精選すること。さらには, 子どもを活かせるみかたを育てる必要がある。 本研究の活用術は夏期休業中に県内の養護教諭を 対象に提案する場を設けることができた。特に統計や パソコンなどに苦手意識を持っている養護教諭が多い ように感じた。実際,パソコンの機能は日進月歩であ る。最新の技術を習得しておく必要はないが,意識を 高く持ち続ける努力は必要だろう。そのためには,自 身で気をつけて日々研修をしていく必要があるだろう。 (2)おわりに 養護教諭は子どもたちには“保健室の先生”として 浸透している。保健室は養護教諭から切り離すことは 不可能だろう。保健室を充分に活用すること,そして, 無駄なく無理せず保健室経営をすることが,養護教諭 が専門職として活躍するためは必要なのではないだろ うか。 4.引用・参考文献 1)奥村陽子 養護教諭の研究を実践に生かすことの 意義,日本養護教諭教育学会誌 8(1),11-15,2005 2)岡田加奈子 養護教諭の実践におけるエビデンス の構築にむけて-根拠に基づいた思慮深い実践の ために-,日本養護教諭教育学会 8(1),74-81,2005 3)日本養護教諭教育学会第14回学術集会ランチョ ンセミナー 「低身長と成長ホルモン」 4)広田理絵 子どもたちが保健室または養護教諭の ところで得ているもの,日本養護教諭教育学会誌 9(1),42-51,2006 5)第 52 回日本学校保健学会 特別支援教育と養護教 諭の役割 6)児童虐待の防止等に関する法律 第五条(児童虐 待の早期発見),公布 平成12年5月24日法律 第82号 資料5 健康観察 年度と月を指定 学級を指定 年度初めに休日を指定 別の sheet に名 簿を入力済み

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資料6 学級保健簿 ○本校のシートの種類 ・測定・検査結果(学級分) ・検診・健康調査結果(〃) ・結核健康診断結果(〃) ・要管理生徒 ・振興C ・精密検査結果(学年分) ・配慮事項生徒名簿 ・眼科相談 *各学校により必要なシート を作ってください。 資料7 健康診断結果個票 ここでIDを入力すれば1年生の sheet からデー タをひっぱってきます。 各学年の sheet には学級保健簿をコピーしたデ ータの一覧があります。

参照

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