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日本金属学会誌第 79 巻第 1 号 (2015)1 8 ファンダメンタルパラメータ法を利用した蛍光 X 線分析によるチタン基板上リン酸カルシウム析出物の直接迅速定量 1 佐藤こずえ 1, 2, 3 小俣雅嗣 2 水平学 3 我妻和明 4 大津直史 1 1 北見工業大学機器分析センター 2 北見工業

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(1)

1 Mater. Trans.54(2013)817824に掲載

2 北見工業大学学生,現在東北大学金属材料研究所

(Undergraduate Student, Kitami Institute of Technology, Present address: Institute for Materials Research, Tohoku University)

3 Corresponding author, Email: kozue.satoh@imr.tohoku.ac.jp

ファンダメンタルパラメータ法を利用した 蛍光 X 線分析によるチタン基板上

リン酸カルシウム析出物の直接迅速定量 1

佐藤こずえ

1,

2,

3

小 俣 雅 嗣

2

水 平   学

3

我 妻 和 明

4

大 津 直 史

1

1北見工業大学機器分析センター

2北見工業大学工学部バイオ環境化学科

3ブルカー・エイエックスエス株式会社

4東北大学金属材料研究所

J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 79, No. 1(2015), pp. 18

2015 The Japan Institute of Metals and Materials

Direct and Rapid Quantification of Calcium Phosphate Precipitate on Titanium by X Ray Fluorescence Analysis Using Fundamental Parameter Method

Kozue Satoh

1,

2,

3

, Masashi Komata

2

, Manabu Mizuhira

3

, Kazuaki Wagatsuma

4

and Naofumi Ohtsu

1

1Instrumental Analysis Center, Kitami Institute of Technology, Kitami 0908507

2Department of Biotechnology and Environmental Chemistry, Kitami Institute of Technology, Kitami 0908507

3Bruker AXS K. K., Yokohama 2210022

4Institute for Materials Research, Tohoku University, Sendai 9808577

In the present study, we propose a characterization technique to determine the amount of calcium phosphate (CP) precipitate formed on a titanium substrate. The quantitative analysis of the CP precipitate on a metallic substrate is significant for researchers of metallic biomaterials because CP that spontaneously precipitates in a simulatedbody fluid gives information on the bioactivity of the metallic biomaterials. We focused on Xray fluorescence(XRF)analysis and adopted the thinfilm fun- damental parameter method(thinfilm FP method)because it allows direct(nonpretreatment)and rapid quantitative analysis without any reference materials. We show that XRF analysis using the thinfilm FP method can be adequately applied to the quantitative analysis of the CP precipitate in the simulatedbody fluid immersion test. We also show that the density of the CP

precipitate layer can be estimated by combining the XRF results with images of crosssectional scanning electron microscopy (SEM).

Consequently, XRF analysis combined with the thinfilm FP method can provide a convenient means to evaluate the CP precipitate on a titanium substrate, which improves the accuracy and accessibility of the simulatedbody fluid immersion test.

[doi:10.2320/jinstmet.J2014026]

(Received April 11, 2014; Accepted October 17, 2014; Published January 1, 2015)

Keywords:Xray fluorescence analysis, fundamental parameter method, thin film, calcium phosphate, titanium, metallic biomaterial, bioactivity

1.

緒 言

金属生体材料は,人体機能の再生・再建のための医療用デ バイスとして広く利用されている.特にチタンおよびチタン 合金は,生体内においても耐食性が高く,細胞毒性は低いた め,歯科インプラントや人工股節などの硬組織代替材料とし て臨床応用されている13).しかしながら,金属チタンその

ものは硬組織に対する適合性が低いため,生体埋入後,チタ ン表面と骨とが強固に接合するまでには長い時間を必要とす る4).このことが原因で,治療期間の長期化や深刻な臨床的 問題を引き起こす可能性がある.そこで現在,チタン表面の 硬組織適合性を向上させるために様々な表面処理技術が研究 されている513).その研究過程において,表面改質による性 能の向上を実験的に評価する必要がある.動物実験14)や細 胞培養試験15,16)は,人体環境の模擬性が高いため信頼性の高 い評価結果が得られる方法として知られている.しかし高い 技術,特別な設備,および長い時間を必要とするため,研究 過程において多数の試料を迅速に評価するのは困難であり,

動物の犠牲も避けられない問題である.そこで小久保らは,

生体外で実験可能な金属生体材料の硬組織適合性の評価法と

(2)

Table 1 Composition of conventional simulatedbody fluid.

Concentration(×10-3mol・L-1)

Na 142.0

K 5.0

Mg2+ 1.5

Ca2+ 2.5

Cl 147.8

HCO3 4.2

HPO42- 1.0

SO42- 0.5

して,擬似体液浸漬試験を提案した12,13,17).この擬似体液 は,ヒト血漿とほぼ同等の無機イオン濃度を有する水溶液 で,過飽和のカルシウムイオンやリン酸水素イオンを含んで いる(Table 1).この溶液に,硬組織適合性を有する金属材 料を浸漬させた場合,金属表面にリン酸カルシウム(以下

CP

と略す)が自発的に析出する.この

CP

の析出挙動が生体 環境における金属材料表面での骨形成と因果関係を持つため,

CP

の析出速度から硬組織適合性を評価することができる.

したがって試料表面に析出した

CP

を簡便かつ迅速に定量で きる分析技術が求められている.これまで

CP

量は,走査型 電子顕微鏡(SEM)により析出初期段階で観察される

CP

粒 子(種結晶)の単位面積あたりの粒子数を計数することで評価 されてきた1823).しかしこの方法は,試料準備が簡便であ るという利点を持つが,局所的な表面観察による相対的な評 価であり,CPが試料全面に析出した試料については評価が 不可能となる上に,定量的な結果を得ることはできない.こ れ以外に,CPが試料表面を被覆した場合に適用できる定量 法としては,断面

SEM

像から

CP

層の厚さを見積もる方法

20,21),析出物を酸溶液中に溶解させた後,高周波誘導結合

プラズマ発光分光分析方法(ICP

OES)により,カルシウム

およびリンを化学的に定量する方法があるが24),いずれの 方法も供試材の準備が煩雑でかつ破壊分析である.したがっ て上述の方法では,日常運用が可能な迅速定量分析法として の条件を充足しておらず新たな分析手法の開発が必要といえ る.我々の研究グループでは,SEMや

ICP OES

に代替で きる

CP

析出物の定量法として蛍光

X

線分析(XRF)に着目 した.XRFは,直接(前処理なし),迅速そして非破壊分析 であるという利点を持つが,一方で,本研究で扱うチタン基 板上の

CP

析出物のような分析例の少ない試料に関しては予 め定量値の正確さを評価する必要がある.阿部らは,ICP

OES

にて値付けした標準試料を用いて,CP析出物を定量す るための検量線を作成することができ,その検量線を用いる ことで試料表面に存在する原子あるいは

CP

化合物の単位面 積当たりの質量および,カルシウムに対するリンの原子比 (以下[Ca]/[P]比と表す)を正確に定量することができたと 報告している25).しかしながら,検量線を作成するには,

予備の化学分析等,時間を要する操作を必要とし,加えて,

チタン基板上に

CP

を析出させた標準試料の入手は困難であ る.そこで我々は,ファンダメンタルパラメータ(FP)を利 用した

XRF

分析法の適用を試みることとした.FP法は,

理論計算に基づき定量値を算出する解析手法であるため,標 準試料を必要としないという利点がある26,27).この方法で

は,試料中の分析元素の原子数と,X線を入射させた際そ の試料から発生する蛍光

X

線の強度との関係を記述するた めの

Sherman

により提案された方程式に基づき解析を行う.

FP

法のプログラムにおいて組成等の定量結果は,実測した 蛍光

X

線強度と

Sherman

方程式に基づき算出された理論強 度とが一致するまで繰り返し計算を行うことにより得られ る.ここで注意すべきなのは,試料中に共存する元素群が,

分析元素の蛍光

X

線の吸収あるいは二次励起を引き起こす ことにより,その強度を変動させる場合があるということで ある.これは,マトリックス効果と呼ばれる現象である.さ らに,このマトリックス効果は,共存元素の種類や含有量だ けでなく,試料中におけるそれらの分布にも大きく依存す る.したがって

FP

法を用いて定量結果を算出する場合に は,これらすべての要素を考慮すべきである.市販の

XRF

装置に搭載されている一般的な

FP

法のアルゴリズムは,組 成が均一なバルク試料を仮定している.一方,チタン基板上 に

CP

を析出させた試料は,カルシウムおよびリンがチタン 表面に局在している.したがってこのバルク

FP

法を用いた 場合,カルシウムおよびリンの局在分布が考慮できないの で,マトリックス効果を正確に見積もり補正することができ ないために,この試料を正しく定量することができないと予 想される.そこで本研究では,薄膜試料の解析に特化した

FP

法である薄膜

FP

法に着目した2831).薄膜試料の場合の マトリックス効果は,均一な組成を持つバルク試料に比べ,

非常に複雑で,薄膜部分とバルク部分でマトリックス効果が 変化する.よって,試料の構造(薄膜層の順序,層ごとの組 成,および基板の組成)を考慮に入れて定量結果を算出しな ければならない.このため,薄膜

FP

法を用いて解析を行う 場合は,レイヤー構造モデル(layer structure model)と呼ば れる追加のパラメータを自ら設定しなければならない.他 方,薄膜

FP

法を用いて算出した定量結果は,そのアルゴリ ズムが不完全となる場合があるため,1~10の相対的な不 確かさを持つという報告例がある28).したがって,解析手 法(薄膜

FP

法)の点でも定量結果の正確さを十分に検討する 必要があり,さらに必要な場合にはそれぞれの元素の感度係 数を補正することが求められる.本研究では,チタン基板上 の

CP

析出物を試料とした場合に,正確な定量結果を得るた めのレイヤー構造モデルを構築するために,いくつかのレイ ヤー構造モデルを用いて定量結果を算出し,それらの結果を 比較することによって,モデル中の個々のパラメータが定量 結果にどのように影響するかを調査した.さらに,最適なレ イ ヤ ー 構 造 モ デ ル を 用 い た 場 合 の 薄 膜

FP

法 を 利 用 し た

XRF

の定量値と参照値である

ICP OES

の定量値とを比較 することにより,XRFの定量結果の正確さを議論した.加 えて,XRFによる解析結果を用いて

CP

析出層の厚さが決 定できるかどうかについても検討を行った.最後に,これら の実験結果と実際の分析例を踏まえて,擬似体液浸漬試験に おける

CP

の定量に関して,本法の分析特性についてまとめ る.

(3)

Table 2 Chemical composition of the CPprecipitate layer which was prepared by soaking in conventional simulatedbody fluid, determined by ICPOES.

Composition(mass)

Ca 63.8

P 32.6

Mg 2.9

Na 0.6

advisory value: determined by using the calibration curve which is pre

installed in ICPOES equipment.

Fig. 1 Xray diffraction pattern of CPprecipitate layer on a Ti substrate which was prepared by soaking in simulatedbody fluid for 2 d.

Table 3 Experimental parameters of XRF analysis.

Lines

Rh tube

Crystal Detector 2u )

Counting time

(s) Tube

voltage (kV)

Tube current

(mA)

Ca Ka 50 60 LiF(200) Proportional

counter 113.105 100 P Ka 30 100 Pentaerythritol Proportional

counter 89.407 100

2.

実 験 方 法

2.1 試料の作製

予め表面改質した純チタン板を擬似体液に浸漬させること により,その最表面に

CP

析出物を得た.擬似体液への浸漬 時間を変化させることにより,様々な厚さの

CP

析出層を持 つ試料を準備した.詳しい実験手順を下記に記す.CP(第三 リン酸カルシウム)粉末試薬と水を混合し作製したスラリー 中に,チタン基板(10 mm×10 mm×1 mm)を埋没させた 後,大気中にて加熱処理を行うことにより表面改質を行っ

32,33).この処理を施すことにより,少量のカルシウムおよ

びリンを含有する数百

nm

厚の二酸化チタン層を形成するこ とができる32).続いて,表面改質したチタン基板を

1

試料 につき

4.8 mL

の従来型擬似体液(c

SBF

17))に浸漬させるこ とでその表面に

CP

を析出させた.表面改質したチタン基板 は

1

つの円筒形のボトル中に

15

個程度,水平に置き擬似体 液に浸漬させた後,恒温槽にて

310 K

に保持した.1日から

33

日の間,擬似体液浸漬を行うことで,最大で

6

mm厚の

CP

を析出させた.浸漬終了後,溶液から試料を取り出し,

蒸留水にて洗浄した.析出物の組成を

ICP OES

にて分析し た結果を

Table 2

に示す.XRFの測定を行う前に,斜入射

X

線回折法(D8 ADVANCE, Bruker AXS K.K., Germany) を用いて,析出物が

CP

であることを確認した.X線回折測 定は,単色の

Cu Ka

線を視斜角

で試料に入射させて行っ た.Fig. 1は,2日間擬似体液浸漬を行った試料の代表的な

X

線回折パターンであり,CP析出物がハイドロキシアパタ

イトであることを示している.同様の方法で,本研究におけ るすべての試料の

CP

析出物が,浸漬期間や析出量によら ず,ハイドロキシアパタイトであることを確認した.

CP

析 出 層 の 表 面 形 状 や 試 料 の 断 面 像 の 観 察 は ,

SEM

(JCM

5000 Neo Scope, JEOL, Japan)を用いて行った.二次

電子像モードにて加速電圧が

10 kV

の条件で測定した.断 面

SEM

観察用の供試材は,試料をシリコンウエハーと樹脂 により固定した後,切断機にて断面を切り出し作製した.

2.2 XRF測定

ターゲットをロジウムとするエンドウィンドウ型

X

線管 を備えた波長分散型

XRF

装置(S8 Tiger, Bruker AXS K. K.,

Germany)を使用した.試料から発生した蛍光 X

線は,試料 ホルダーからの蛍光

X

線等の不要なシグナルを除去するた めに,直径

8 mm

のマスクを通過した後検出された.解析に 用 い た ソ フ ト ウ ェ ア は い ず れ も

Bruker AXS

社 製 で ,

Quant

Express ver. 2.0( バ ル ク FP

法 ) お よ び

ML Quant ver. 2.0(薄膜 FP

法)である.その他の測定条件は,Table 3 にまとめて示す.蛍光

X

線強度の統計的な変動の影響を抑 制するため,Ca Ka線および

P Ka

線の積算時間を,それぞ れ

100 s

とした.使用する

XRF

装置の感度(検出効率)が実 測される蛍光

X

線強度に与える影響を補正するために,

Ca Ka

線および

P Ka

線の感度係数の補正を行った.補正 は,市販のハイドロキシアパタイトの粉末(Taihei Chemical

Industrial Corp., Japan[Ca]/[P]比=1.67)を使用し,

[Ca]/[P]比の定量値を基準に行った.結果,通常のバルク

FP

法を用いて算出した[Ca]/[P]比は,1.66±0.01(n=5)で あり,感度係数は十分に補正できたと考えられる.一方,薄 膜

FP

法の解析に用いるレイヤー構造モデルは,チタン基板 上の

CP

析出物に適合するように構築されねばならない.こ こでは,析出物であるハイドロキシアパタイト中の水素と酸 素による吸収効果および,基板であるチタンによる二次励起 効果に焦点を当て,これらに起因するマトリックス効果が補 正可能となるようモデルを作成した.ハイドロキシアパタイ ト([Ca10(PO4)6(OH)2])中の水素と酸素の組成比は十分に大 きいため,そのマトリックス効果も無視できない程大きいと 推測できるが,本実験で使用した

XRF

装置は,試料から発 生した水素および酸素の蛍光

X

線を検出することができな い.そこで,レイヤー構造モデルにおいては,CP析出物層 中のカルシウムおよびリンはそれぞれ,化学量論的なハイド ロキシアパタイトの構造を考慮し,Ca5

OH

および

P

3

O

4の組 成の酸化物相として存在すると仮定した.

(4)

Fig. 2 Comparison of the atomic ratio of Ca to P([Ca]/[P]

ratio) in the CPprecipitate layer determined by ICPOES, XRF with the thinfilm FP method(TFFPXRF), and with the general FP method(FPXRF).

2.3 ICPOES測定

作製した

CP

析出物の定量参照値を得るため,XRFで測 定したものと同一の試料を

ICP OES(SPS3000, SII Nano Technology Inc., Japan)にて測定した.以下に ICP OES

分 析用の供試材の調製方法を記す.試料を

7 mol/L

硝酸溶液

16 mL

中に入れ,CPを完全溶解させるため,約

373 K

に加 熱した.放冷後,溶液を蒸留水にて

50 mL

に定容した後,

カルシウムおよびリンの濃度を

ICP OES

にて測定した.発 光線には,Ca I 317.933 nmおよび

P I 213.686 nm

を選択 した.XRFにより求めた定量値との比較のために,ICP

OES

にて求めた分析元素濃度は,単位面積あたりの質量 (g/m2)に換算した.

3.

結果と考察

3.1 薄膜FPおよびバルクFP法を利用したXRFとICP

OESにて定量したCP析出物層の[Ca]/[P]比の比較

CP

層の[Ca]/[P]比は,CPの化学形態および析出メカニ ズムを知る重要な手掛かりとなる数値である.XRFにて測 定した蛍光

X

強度に対し,薄膜

FP

法(TF

FP XRF)およ

びバルク

FP

法(FP

XRF)を用いてそれぞれ算出した CP

析 出層の[Ca]/[P]比を

ICP OES

により求めた参照値と比較 した(Fig. 2).薄膜

FP

法を用いて算出した[Ca]/[P]比は,

ICP OES

による値と比べやや低い値を示す傾向にあるも の,ほぼ一致した.一方,ハイドロキシアパタイトのバルク 材を仮定し,バルク

FP

法を用いて算出した[Ca]/[P]比は,

ICP OES

や薄膜

FP

法による値と比べ著しく低い値を示し た.この結果は,[Ca]/[P]比の定量結果の正確度は薄膜

FP

法を用いることにより大きく改善されることを示しており,

薄膜試料の解析には薄膜

FP

法の適用が必須といえる.ここ で,バルク

FP

法を用いた場合,カルシウムと比較し相対的 にリンの量を多く見積った理由について考察する.化学量論 的なハイドロキシアパタイトに対する

Ca Ka

線および

P Ka

線の線吸収係数はそれぞれ,22.58 m2/kgおよび

64.39 m

2/

kg

である.よって,十分な厚さを持つバルク材を仮定した

場合,正しい定量結果を導くには,元素固有の蛍光

X

線の 脱出深さ(試料内部で発生した蛍光

X

線が,試料外部へ脱出 する確率)の違いを補正する必要がある.試料中のリンから 発生した蛍光

X

線は,その線吸収係数が大きいため,カル シウムから発生したそれと比較して相対的にバルクのハイド ロキシアパタイトから脱出する確率が低い.よって,バルク

FP

法を用いた場合,この吸収分を考慮し定量結果が大きく 算出される.しかしながら今回の薄膜試料の場合,CP析出 層の厚さは,最も厚い場合でも

10

mm以下であり,吸収効 果の補正が必要でないくらい十分薄かったと考えらえる.し たがって,不適切なマトリックス効果の補正が行われたため に,正しい定量結果を導くことができなかったと考えられ る.また,XRDパターンから,析出した

CP

はハイドロキ シアパタイトであると同定できるが(Fig. 1)一方で,ICP

OES

により定量した[Ca]/[P]比の平均値は

1.62

であり,

化学量論的なハイドロキシアパタイトの値(1.67)よりもわず かに低い結果を示した.擬似体液中で析出させた

CP

層中に は,ICP

OES

(Table 2)または

XRF

のいずれの分析手法を 用いた場合でも,少量のナトリウムおよびマグネシウムの存 在が確認できた.これらのイオン種は正の電荷を持つため,

CP

の析出過程において同じく正電荷を持つカルシウムイオ ンサイトに置換される34,35).加えて,擬似体液中の二価の陰 イオンである炭酸イオンが,三価の陰イオンであるリン酸サ イトに置換し,カルシウムイオンの欠乏を生じさせることが 報告されている36,37).このような理由から,本実験で作製し た

CP

析出物の[Ca]/[P]比も,化学量論的なハイドロキシ アパタイトの値より僅かに小さくなったものと考えられる.

3.2 薄膜FP法およびICPOESにより求めた単位面積あ たりの質量の比較

まず,正確な定量結果を得るためのレイヤー構造モデルの 構築を目指し,モデル中の個々のパラメータが定量結果にお よぼす影響について調査した.今回は,基板のチタンを考慮 する場合としない場合の

2

つのモデルを作成し検討を行っ た.CP析出層中のカルシウムおよびリン,それぞれの単位 面 積 当 た り の 質 量 ( 図 中 で は

mass thickness

と 表 現 す る ) を,薄膜

FP

法を用いて上記の

2

つのモデルにて定量結果を 算出し,これらの結果を

ICP OES

にて求めた参照値と比較 した(Fig. 3).図中の破線は,XRFと

ICP OES

の定量値が 一致したときの理想的な場合を表す.レイヤー構造モデルに おいて,基板であるチタンを考慮した場合,カルシウムおよ びリンの単位面積当たりの質量は,考慮しない場合と比較し て,それぞれ

12および 3程度正確さが改善された.以

下,この理由について考察する.XRF測定の際,入射

X

線 により表面

CP

析出層が励起されると同時に基板のチタンも 励起され,チタンの蛍光

X

線も発生する.この蛍光

X

線が

CP

析出層を二次的に励起することによっても

Ca Ka

線およ び

P Ka

線が発生し得る(二次励起効果).しかし,正しい定 量結果を導き出すには,解析の過程において,入射

X

線に より発生した分析元素の蛍光

X

線とチタンの蛍光

X

線によ り二次的に励起され発生したものとを区別し,本質的でない 後者の強度を差し引く必要がある.レイヤー構造モデル中に

(5)

Fig. 3 Correlation of the mass thickness of(a)Ca and(b)P in CPprecipitate layer determined by ICPOES, and XRF with the thinfilm FP method whose layer structure model considers the Ti substrate(●)or does not consider it(△). The dashed line in this figure represents that the analytical value would agree with each other completely.

チタン基板を考慮しなかった場合,考慮した場合に比べ定量 結果が大きく算出された理由は,この

2

つの蛍光

X

線を区 別せずに定量したからであると考えられる.Ti Ka線の二次 励起効果の寄与を見積もるために,6mm厚の化学量論的な ハイドロキシアパタイトに対する透過率を計算したところ,

22の Ti Ka

線がハイドロキシアパタイト中に吸収され分 析元素の励起に関与し得ることが明らかとなった.よって,

理論的な側面からも

Ti Ka

線による二次励起効果は無視で きない程大きいと結論付けることができる.また,レイヤー 構造モデルにおいてチタン基板を考慮した場合,考慮しない 場合と比較して,定量結果の正確さの改善度合いがカルシウ ムの方が大きかった理由について考察する.カルシウムおよ びリンに対する

Ti Ka

線の二次励起効果の寄与を理論的に 見積もると,カルシウムの

K

吸収端(6.47×10-13

J)はリン

K

吸収端(3.44×

10

-13

J)と比較して,Ti Ka

線(7.23×

10

-13

J)に近接しているため,カルシウムの方が二次励起効

果の影響を非常に受けやすいことがわかる.したがって,チ タン基板上

CP

析出物を分析する際は,特にカルシウムにつ いて,チタンによる二次励起効果の補正が必須であるといえ る.

以上のように

Ti Ka

線の二次励起効果を考慮した場合に

おいても,Fig. 3は

XRF

による定量結果と

ICP OES

によ る参照値の間には差異があることを示している.次に,この 理由について考察する.カルシウムとリンのいずれの場合に も,ほぼすべてのプロットが破線の下にあり,薄膜

FP

法に より求めた単位面積あたりの質量は,ICP

OES

により求め た値より約

10~18高いことが明らかとなった.この理由

1

つとして,実試料とモデルとのレイヤー構造の違いが 考えられる.解析に用いたレイヤー構造モデルは,基板の純 チタンとその上に存在する化学量論的なハイドロキシアパタ イトの薄層のみを考慮し作成した.一方で,実試料の

CP

層 中には少量のナトリウム,マグネシウムおよび炭酸イオンが 含まれている.また,基板の

Ti

CP

層の間に表面処理に て形成した数百

nm

厚の二酸化チタン層が存在する32).もう

1

つの要因として,試料表面の粗さによる影響が考えられ る.一般に蛍光

X

線分析において,試料表面の粗さが検出 される蛍光

X

線の強度に影響することが知られている.し たがって,これらの複合的な要因により薄膜

FP

法と

ICP

OES

により求めた値に差が生じたものと考えられる.しか しながら,薄膜

FP

法と

ICP OES

の定量結果を比較すると,

CP

の析出量によらず,高い直線相関を示した.したがって 薄膜

FP

法による解析を行った場合,得られる定量結果は薄 膜中の各元素の存在量を反映したものであり,ICP

OES

に よる定量値を基に真値への校正が可能であることを示唆して いる.加えて,CP析出量の異なる複数の試料を分析した場 合,薄膜

FP

法により求めた定量値は

ICP OES

により求め た値と比較して,桁数が変わる程の大きな差異はなく,薄膜

FP

法を利用した

XRF

により簡易的な定量分析は十分可能 であった.以上の結果から,薄膜

FP

法を利用した

XRF

は,前処理なしで約

15

分の短時間の測定により,概数値を 目的とする分析結果を算出できることが明らかとなった.実 用面を考えると,擬似体液浸漬試験における

CP

の定量評価 の目的は,多数の試料について析出量の大小を比較すること である.本法は,短時間で析出量の大小関係を正しく評価で きたため,この目的に十分適した分析手法であると考えられ る.

3.3 CP析出層の密度評価

CP

の密度を予め求めることができれば,XRFにより求 めた定量結果から

CP

析出層の膜厚を求めることが可能とな る.そこで本節では,XRFの定量結果と断面

SEM

観察に より求めた膜厚を組み合わせることにより密度の推定を試み た.Fig. 4(a)は,XRFにより求めた

CP

析出物の単位面積 あたりの質量を断面

SEM

観察により見積もった膜厚に対し てプロットした図である.直線の傾きは

CP

析出物の密度を 表す.また,30日間擬似体液浸漬して得た

CP

析出試料の 代表的な断面

SEM

像を

Fig. 4(b)に示す.CP

の単位面積あ たりの質量と膜厚には,高い直線関係が認められたため密度 の算出が可能であり,その値は,1.05×106

g/m

3と推定す ることができた.分析対象とした

CP

は溶液中で成長させた 析出物であるために,化学量論的な固体のハイドロキシアパ タイト(3.15×106

g/m

3)と比較して密度が小さくなったもの と考えられる.また廣本らは,CPの析出条件(浸漬溶液の

(6)

Fig. 4 (a)Mass thickness of the CPprecipitate layer deter- mined by XRF with the thinfilm FP method as a function of the thickness estimated from crosssectional SEM images.

(b)Typical example of the crosssectional SEM image of the CP sample which was prepared by soaking in simulatedbody fluid for 30 d.

pH

等)によりハイドロキシアパタイトの性質が変化し得る と報告している38,39).よって,使用する溶液や実験条件によ り

CP

析出物の密度も変化する可能性があるため,XRFの 定量結果から

CP

析出層の膜厚を見積もる場合は,密度につ いて個別に検討を行う必要があると考えられる.しかしなが ら,一度,CP析出物の密度を求めることができれば,XRF により求めた単位面積あたりの質量から,CP析出層の膜厚 の推定も可能となることが示唆された.

3.4 従来法との比較

擬似体液浸漬試験で

CP

析出物の定量を行う場合におい て,薄膜

FP

法を利用した

XRF

と従来の分析法とを比較 し,それぞれの特徴について議論した.1つめの方法は,試 料の表面

SEM

像から析出初期段階で観察される

CP

粒子の 単位面積あたりの粒子数を計数する方法である14,1823).この 方法は,試料準備が簡便であるという利点を持つが,局所的 な表面観察による相対的な評価であり,CPが試料全面に析 出した場合は評価が不可能となる上,定量的な結果を得るこ とができないという欠点を持つ.しかしながら実用上の点を 考えると,前処理なしに迅速な評価が行えることから,析出 速度が大きく異なる試料に対しては,有効な手段であると考 えられる.2つめの方法は,SEM像にて

CP

析出粒子が観 察されるまでの日数を調査する方法である22,23).この方法 は,多数の試料を必要とし,析出速度の僅かな違いを識別で きないという欠点を持つ.これらの

SEM

の表面観察法に比 べ,薄膜

FP

法を利用した

XRF

の場合,試料は少数で良 く,今回の実験結果から僅か

0.01 g/m

2オーダーの析出量の 違いまでもが識別可能であることが明らかとなった.加えて

XRF

の場合は,電子線では測定困難な

CP

等の非導電性の 物質も容易に分析することができる.3つめの方法は,断面

SEM

像から

CP

層の厚さを見積もる方法である20,21).この 方法は,樹脂埋めや研磨等の供試材の準備に技術と時間を要 するため,多数の試料を迅速に分析するのは困難であり,分 析試料の破壊を伴うという欠点を持つ.よってこの方法も,

特別な技術を必要とせず迅速で非破壊に分析が可能な

XRF

と比較しいくつかの欠点があるといえる.ICP

OES

を用い た方法は

2

つあり

1

つは,試料を浸漬させた後の擬似体液 に残留しているカルシウムおよびリンを定量することで

CP

の析出量を推定する方法である22,23).この方法は,容器への 付着やコンタミネーションによりカルシウムおよびリンの濃 度が変化し得るため,必ずしも正確な値が得られるとは限ら ない.またこの方法は,擬似体液中のカルシウムおよびリン の濃度変化を検出しなければならないため,浸漬期間が長期 化し,結果を得るまでに時間がかかるという欠点も持つ.2 つめの方法は,析出物を酸溶液中に溶解させた後,カルシウ ムおよびリンを定量する方法である24).1つめの方法と比較 して正確な値を得ることができるが,供試材の準備が煩雑で 試料の破壊も伴う分析法である.また,この方法で得た分析 値は,固体を直接分析できる

XRF

に比べると間接的な情報 である.一方で,薄膜

FP

法を利用した

XRF

は,CP析出 層の[Ca]/[P]比および単位面積当たりの質量を前処理なし に同時に定量することができる上,密度を仮定すれば単位面 積当たりの質量から析出層の膜厚も導出可能である.XRF の測定結果を薄膜

FP

法にて解析する際以下の点に注意しな ければならない.本実験で利用したレイヤー構造モデルにお いて,CPは化学量論的なハイドロキシアパタイトと仮定し た.よって,これに比べカルシウムの組成比が高い,析出初 期の

CP

に対しては正確な定量値の算出が困難であると予想 される40).以上の点に注意を払えば,薄膜

FP

法を利用した

XRF

は,擬似体液浸漬試験におけるチタン基板上

CP

析出 層の定量に非常に適した分析手法であり,今後,生体材料の 研究・開発を進める上で大いに役立つものと考えられる.

3.5 薄膜FP法を利用したXRFの分析例

擬似体液中で形成した

CP

析出層の代表的な表面

SEM

像 を,薄膜

FP

法を利用した

XRF

により定量した単位面積あ たりの質量と共に

Fig. 5

に示す.浸漬日数はそれぞれ,1日 (a),2日(b),および

5

日(c)である.浸漬日数の増加に伴 い,CP析出量の相対的な増加が観察できるが,これらの像 からは定量的な変化が判別不可能である.一方,XRFによ る定量結果から,2日間および

5

日間浸漬した試料の

CP

析 出量は,1日浸漬した試料と比べ,それぞれ

1.5

倍および

2.3

倍であることが明らかとなり,SEM観察と比較して,

析出量を定量的に明確に区別することが可能であることを示 唆している.

4.

結 論



XRF

による測定結果を薄膜ファンダメンタルパラ メータ(FP)法にて解析した場合,リン酸カルシウム析出層

(7)

Fig. 5 Comparison of SEM images of sample surface and mass thickness of the CPprecipitate layer determined using the thinfilm FP method:(a)soaked for 1 d,(b)soaked for 2 d, and(c)soaked for 5 d.

のリンに対するカルシウムの原子比([Ca]/[P]比)は,一般 的な

FP

法による解析結果と比べ,その正確さに大きな改善 が認められた.薄膜

FP

法による解析結果は,ICP

OES

に より求めた参照値とほぼ一致したことから,実用上利用可能 な値を算出できたものと考えられる.



XRF

による測定結果を一般的な

FP

法にて解析した 場合,分析元素の蛍光

X

線の試料内部での吸収や二次励起 の影響を十分に補正することができなかったために正確な定 量結果を得ることができなかった.特に,リン酸カルシウム 薄層を定量解析する際は,Ca Ka線および

P Ka

線の吸収補 正に注意する必要がある.

 薄膜

FP

法により算出したリン酸カルシウム析出物中 のカルシウムおよびリンの単位面積当たりの質量は,析出量 によらず,ICP

OES

により求めた参照値と比べ僅かに高い

値を示した.しかし,桁数が変わる程の大きな誤差はなく,

0.01 g/m

2オーダーの析出量の差異が識別可能であったこと から,概数値を目的とする分析に対しては実用上十分利用可 能であると考えられる.

 薄膜

FP

法の解析に必要なパラメータであるレイヤー 構造モデルが定量結果に及ぼす影響について検討を行った.

このモデルにおいて基板であるチタンの存在を考慮した場 合,しない場合と比較して,カルシウムについて

12リン

について

3程度,定量結果の正確さに向上が認められた.

入射

X

線により励起されたチタンの蛍光

X

線はリン酸カル シウム析出物への吸収率(励起効率)が比較的高いため,二次 励起効果を考慮しなければ正確な定量結果が得られないこと が明らかとなった.特に,カルシウムの

K

吸収端が

Ti Ka

線に近接しているため,二次励起効果の補正が必須といえる.



CP

の密度を予め求めることができれば,XRFによ り求めた定量結果から

CP

析出層の膜厚を求めることが可能 となる.XRFにより求めた単位面積当たりの質量と断面

SEM

観察により求めた膜厚を組み合わせることにより密度 の推定を試みた.両者に高い直線関係が認められたことから 密度の算出が可能であり,その値は,1.05×106

g/m

3であ った.よって

XRF

の定量結果から,リン酸カルシウム析出 層の膜厚の推定も可能であることが示唆された.

 薄膜

FP

法を利用した

XRF

は,従来の分析手法と比 較すると,前処理なしに迅速かつ非破壊な分析が可能である ことから,多数の試料を簡便に定量できるという利点をもつ.

 薄膜

FP

法を利用した

XRF

は,リン酸カルシウム析 出物の[Ca]/[P]比,単位面積当たりの質量およびその膜厚 を同時に算出することができる.したがって,本法は,擬似 体液浸漬試験におけるチタン基板上

CP

析出層の定量に非常 に適した分析手法であると考えられる.

XRF

および

SEM

の測定にあたり,北見工業大学山根美 佐雄氏,徳田奨氏,および東北大学金属材料研究所阿部千景 氏にご協力頂きましたことに感謝いたします.

文 献

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1309.

Table 1 Composition of conventional simulated body fluid. Concentration (×10 -3 mol・L -1 ) Na + 142.0 K + 5.0 Mg 2+ 1.5 Ca 2+ 2.5 Cl - 147.8 HCO 3 - 4.2 HPO 4 2- 1.0 SO 4 2- 0.5 して,擬似体液浸漬試験を提案した 12,13,17) .この擬似体液 は,ヒト血漿とほぼ同等の無機イオン濃度を有する水溶液 で,過飽和のカルシウムイオンや
Fig. 1 X ray diffraction pattern of CP precipitate layer on a Ti substrate which was prepared by soaking in simulated body fluid for 2 d.
Fig. 2 Comparison of the atomic ratio of Ca to P ([Ca]/[P]
Fig. 3 Correlation of the mass thickness of (a) Ca and (b) P in CP precipitate layer determined by ICP OES, and XRF with the thin film FP method whose layer structure model considers the Ti substrate (●) or does not consider it (△)
+3

参照

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