昭和学士会誌 第76巻 第4号〔469‑479頁,2016〕
骨粗鬆症治療に関する意識調査
―仮想症例を用いた,アンケート結果―
昭和大学医学部整形外科学講座
昭和大学病院整形外科外来骨粗鬆症治療センター
永井 隆士* 黒田 拓馬 坂本和歌子 石川 紘司 阪本 桂造 稲垣 克記
抄録:骨粗鬆症治療薬は,PTH 製剤,抗 RANKL 製剤,ビスホスホネート製剤,SERM 製剤 などが主体である.どの治療薬を選択するかは主治医の判断に委ねられている.骨折の危険性 が高い骨粗鬆症の症例では治療方法の選択に大差はないと考えられるが,骨粗鬆症の程度が中 等度から軽度の場合,治療選択に違いが見られる可能性がある.そこで本研究では,症例を提 示して近隣の開業医,勤務医を対象に骨粗鬆症の診断,治療選択の意識調査を行い,円滑な医 療連携のために,骨粗鬆症診療の情報を共有することを目的に調査を行った.当院設置地区お よび隣接地区である東京都品川区,目黒区,大田区,世田谷区における開業医と勤務医(標榜 科:内科,外科,整形外科,婦人科,麻酔科,脳外科)を対象に,仮想症例を提示して,無記 名式のアンケートを行い骨粗鬆症の診断,治療選択の意識調査を行った.症例の特徴は,1.
70 代前半,2.骨密度軽度低下,3.骨質劣化,4.臨床症状なし,5.母親の大腿骨頸部骨折 の既往歴あり,であった.330 人中 143 人から回答を得た(回収率 43.3%).アンケート対象 者が提示された検査項目リスト以外に考える追加の画像検査としては,胸腰椎のレントゲン撮 影(53%),腰椎または大腿骨の骨密度測定(31%)が多かった.血液尿検査では,これ以上 の検査は行わないと回答した医師は皆無であり,何かしらの検査の追加があった.骨代謝マー カーを測定すると回答した割合は 73%と多く,内訳は TRACP-5b(48%)や尿中 NTX(41%),
P1NP(27%)の順で多かった.治療方法では,運動療法や食事療法が 30 〜 40%を占め,薬 物治療ではビスホスホネート製剤(75%)とビタミン D3製剤(67%)であった.治療選択に 当たり参考となる知識の根拠は,治療経験(43%),骨粗鬆症診療ガイドライン(41%),学 会・講演会(24%)の順であった.著者の提示した検査項目以外に追加する検査項目として,
骨代謝マーカーの測定と回答した割合が 73%と多く,骨密度と併せて診断を行っていること が分かった.骨粗鬆症診断ガイドラインや治療経験を参考にして,本症例でも保存療法も含め 全員が骨粗鬆症治療を開始したいと考えていた.
キーワード:骨粗鬆症,アンケート,意識調査
個々の患者によって食事や運動習慣,生活環境も 異なる.骨粗鬆症の原因も,骨吸収亢進型なのか骨 質劣化型なのか,それとも混合型なのか,病態も異 なるため,一人一人に合った骨粗鬆症治療を選択す る必要がある.
骨 粗 鬆 症 治 療 薬 は, 近 年 PTH (parathyroid hormone) 製 剤, 抗 RANKL(Receptor activator of nuclear factor kappa-B ligand)製剤,ビスホス ホネート製剤,SERM(selective estrogen receptor modulator)製剤などが主体である.どの治療薬を
選択するかは主治医の判断に委ねられている.骨折 の危険性が高い骨粗鬆症の症例では,「骨折の危険 性が高い骨粗鬆症」に対して唯一保険適応を有して いる PTH 製剤を第 1 選択とする治療方針に異存は ないと考えられるが,骨粗鬆症の程度が中等度から 軽度の場合,骨粗鬆症診療ガイドラインでは治療薬 選択のアルゴニズムがないため1)治療選択に違いが 見られる可能性がある.新谷らによると,実際に骨 粗鬆症の治療に携わっている三重県内の整形外科 医 109 名を対象に行った骨粗鬆症治療薬に対する意 原 著
*責任著者
識調査では,患者の年齢別の新規処方薬で調べただ けでもビスホスホネート製剤,SERM 製剤,PTH 製剤,ビタミン D3製剤と治療薬が混在していた2). 近年の保険診療では,「特定機能病院」「地域医療 支援病院」「かかりつけ医院」などの役割分担が明 文化されているものの,「骨粗鬆症」に対して病院 勤務の医師や開業している医師,内科や整形外科な ど他科の医師が同じ治療方針を取るかどうかは不明 である.実際に,骨粗鬆症にて当院に紹介される患 者の前医の処方内容に戸惑う症例も少なくない.そ こで本研究では,症例を提示して近隣の開業医,勤 務医を対象に骨粗鬆症の診断,治療選択の意識調査 を行い,円滑な医療連携のために,骨粗鬆症診療の 情報を共有することを目的に調査を行った.
研 究 方 法
当院設置地区および隣接地区である,東京都品川 区,目黒区,大田区,世田谷区における開業医と勤 務医(標榜科:内科,外科,整形外科,婦人科,麻 酔科,脳外科)を対象に,無作為抽出した 335 人に 郵送でアンケートを実施し,無記名で回答を得た.
送付した封筒内には,A4 サイズ 3 枚(主旨の説明 依頼 1 枚,質問用紙 1 枚,回答用紙 1 枚),切手貼 付済みの返信用封筒を同封した.宛先不明による返 送 5 件を除いた 330 人中,143 人から回答を得た(回 収率 43.3%).アンケートは,症例提示と医師個人 に関する予備質問 3 つ,症例に関する質問を 4 つと した.なお,提示した症例は,オリジナルの仮想症 例を使用した.
1.症例提示
年齢 / 性別:72 歳 / 女性.
身長 / 体重:154 cm/55 kg(BMI 23.2).
若年時体格:痩せ.
月経歴:初潮 14 歳.50 歳で自然閉経.
喫煙 / アルコール歴なし.
大腿骨近位部骨折家族歴あり.
現病歴:10 年前に健康診断で高血糖を指摘され,
75 gOGTT で糖尿病と診断された.その後,食事療 法・運動療法,およびα-グルコシダーゼ阻害薬で 治療を行い,経過は良好である.腎症,神経症,網 膜症はない.脂質異常症については,食事療法を 行っている.家族歴として,大腿骨近位部骨折(母 親)があるため,骨密度測定を行った.
検査結果:
血糖値;HbA1c 7.2%(NGSP 値)(正常値;4.3 〜 5.8)。
コ レ ス テ ロ ー ル 値;TG 160 mg/dl( 正 常 値;
130 〜 220),LDL-C 145 mg/dl(正常値;70 〜 120),
HDL-C 60 mg/dl(正常値;50 〜 149).
骨密度;橈骨 1/3 YAM 65%.
FRAX*:20%(*10 年間の主要骨粗鬆症性骨折 リスク).
2.予備質問
該当する□にチェックをお願い致します.
1)先生の年齢
□ 20 代,□ 30 代,□ 40 代,□ 50 代,□ 60 代,
□ 70 代,□ 80 代,□ 90 代 2)先生の主たる標榜科
□内科,□外科,□整形外科,□リウマチ科,□
その他( ) 3)先生の主たる勤務体制
□開業医,□ 200 床以上の勤務医,□ 200 床未満 の勤務医
3.質問
質問 1)他に行う予定の画像検査はありますか
(複数選択可).
□特になし,□胸腰椎 XP,□胸腰椎 MRI,□胸 腰椎 CT,□骨シンチ,□腰椎または大腿骨頸部 の骨密度,□その他( )
質問 2)他に行う予定の血液尿生化学検査はあり ますか(複数選択可).
□特になし,□骨代謝マーカー(□尿 NTX,□
血 NTX,□ BAP,□ P1NP,□ TRACP-5b,□
ucOC),□ 25(OH)D3 ,□ホモシステイン □ ペントシジン,□甲状腺機能,□副甲状腺機能,
□性ホルモン関連,□その他( )
質問 3)この症例に対する指導,治療はどうされ ますか(複数選択可).
□特になし,□運動療法,□食事療法,□ PTH 製剤,□ビスホスホネート製剤,□抗 RANKL モノクロナール抗体(デノスマブ),□ SERM 製 剤,□活性型ビタミン D3製剤,□ビタミン K 製 剤,□カルシウム製剤,□カルシトニン製剤,□
その他( )
質問 4)質問 3 の治療方針を決めるにあたり,一 番参考になったのはどれですか(1 つのみ).
骨粗鬆症治療に関する意識調査
a:追加して行う画像検査 図 1
胸腰椎レントゲン撮影 76 人,追加検査は必要ない 39 人,腰椎または大腿 骨の骨密度測定 45 人の順であった.
b: 勤務体制別,年代別にみた胸腰椎レントゲン撮影,腰椎または大腿骨の骨 密度測定の割合(他に検査が必要と回答した人のうち,それぞれの検査を 必要と回答した人の割合)
胸腰椎レントゲン撮影は勤務体制別による差はなかったが,腰椎または大 腿骨の骨密度測定は,開業医よりも勤務医で多かった.胸腰椎のレントゲ ン撮影は,年代が高くなるほど多くなった.腰椎または大腿骨の骨密度測 定の割合は,年代が高くなるほど少なくなった.
a
b
□治療経験,□骨粗鬆症診療ガイドライン,□学 会・講演会の情報,□雑誌,教科書,論文,□同 僚医師の勧め,□ MR の資料・説明
結 果 1.予備質問
1)年代
30 代 11 人,40 代 42 人,50 代 46 人,60 代 33 人,
70 代 8 人,80 代 3 人であった.
2)標榜科
整形外科 73 人,整形外科以外 69 人(内科 58 人,
外科 4 人,産婦人科 1 人,産婦人科・内科 1 人,内 科・外科 2 人,内科・外科・整形外科 1 人,脳外科 1 人,麻酔科 2 人)であった.
3)勤務形態
開業医 110 例,200 床未満の勤務医 16 人,200 床 以上の勤務医 17 人であり,大多数が開業医であっ た.
2.質問
1)追加して行う画像検査(図 1a,b)
追加して行う画像検査では,胸腰椎のレントゲン 撮影が 76 例と最多であった.次に,腰椎または大 腿骨頸部の骨密度測定,追加検査の必要なしの順に 多かった(図 1a).開業医,勤務医(200 床未満,
200 床以上)で分けると,胸腰椎のレントゲン検査 は,どの群も 75%前後で差がなかったが,腰椎ま たは大腿骨の骨密度測定では,開業医で少なく,病 院勤務医で選択率が多かった(図 1b).年齢別では,
若い世代ほど,腰椎または大腿骨の骨密度を測定す るという回答が多かった(図 1b).
2)追加して行う血液尿生化学検査(図 2)
追加して行う血液尿生化学検査では,骨代謝マー カーが圧倒的に多かった.追加検査なし,副甲状腺 機能,甲状腺機能の順に多かった(図 2).骨代謝 マーカーの内訳では,TRACP-5b(tartrate-resistant acid phosphatase 5b)50 人,尿中 NTX(urine cross- linked N-terminal telopeptide of type I collagen)
43 人, P1NP (type Ⅰ procollagen N-terminal propeptide)28 人,BAP(alkaline phosphatase)
21 人,血清 NTX 16 人,ucOC(undercarboxylated osteocalcin)3 人,DPD(deoxypyridinoline)1 人 であった(重複選択あり).
3)指導方法,治療方法(図 3a,b,c,d)
全体の 40 〜 50%で運動療法および食事療法の併 用を勧めていた.本症例に経過観察(特になし)を 選択した回答は皆無であった.投薬では,ビスホス ホネート製剤(107 例),ビタミン D3製剤(96 例)
が大多数を占めていた.SERM を選択した症例は
図 2 追加して行う血液尿検査
骨代謝マーカーが 104 人と圧倒的に多かった.28 人がこれ以上の検査は行わないと回答した.
骨粗鬆症治療に関する意識調査
41 例であった(図 3a).運動療法,食事療法の処方 の割合を調べると,勤務形態では差はなかった.
年代別では,70 歳以上では,運動療法および食事
療法を選択する割合が高かった(図 3b).ビスホス ホネート製剤と SERM 製剤の選択の割合を勤務形 態別でみると,ビスホスホネート製剤は 200 床未満
a:実際に行うとした場合の治療方法図 3
何もしないという回答は皆無であった.運動療法と食事療法を除いた薬物 治療では,ビスホスホネート製剤とビタミン D3製剤が多かった.SERM 製剤は,薬物治療の中では 3 番目であった.
b:勤務体制別,年代別にみた運動療法と薬物療法選択の割合
運動療法,食事療法ともに,開業医,勤務医で特に差はなかった.運動療 法,食事療法ともに,年代が高い方が選択する割合が多かった.
a
b
の病院で,SERM 製剤は開業医で多く選択されて いた(図 3c).整形外科医と非整形外科医による,
ビスホスホネート製剤と SERM 製剤の処方の割合
を調べると,ビスホスホネート製剤に大差はみられ なかったが,SERM 製剤は,非整形外科医の方が 多く選択していた(図 3d).
図 3
c:勤務体制別,年代別にみたビスホスホネート製剤と SERM 製剤の割合 ビスホスホネート製剤は,200 床未満の勤務医で 90%以上が選択した.
SERM 製剤は,開業医で約 30%であり,勤務医では 20%弱であった.ビ スホスホネート製剤は,どの年代でも広く選択されていた.SERM 製剤は,
70 歳以上で多い傾向があった.
d: 整形外科医と非整形外科医による,ビスホスホネート製剤と SERM 製剤 の処方の割合
ビスホスホネート製剤に大差はみられなかったが,SERM 製剤は,非整 形外科医の方が多く選択していた.
c
d
骨粗鬆症治療に関する意識調査
4)治療方針の決め方(図 4a,b)
治療方針を決める根拠または影響を与えたものを 調査した.治療経験(62 例),骨粗鬆症診療ガイド
ライン(59 例),学会・講演会(35 例),雑誌・教 科書・論文(16 例)であった(図 4a).この項目で は,一番影響を受けたものということで,回答選択
図 4 a:治療方針を決める根拠または影響を与えたもの
治療経験(43%),骨粗鬆症診療ガイドライン(41%),学会・講演会(24%)
の順であった.
b:勤務体制別,年代別にみた,治療方針を決めるため根拠の割合
200 床以上の勤務医では,治療経験と骨粗鬆症診療ガイドラインの割合が高 く,学会や講演会からと回答した割合が低くなった.年齢とともに治療経験 から判断することが多かった.ガイドラインは若い世代ほど参考にしていた.
a
b
肢は 1 つ選ぶように設定してあったが,29 例で複 数回答が選択されていた.先出した 4 項目を勤務形 態別に調べてみると,200 床以上の病院勤務医では,
骨粗鬆症診療ガイドラインと治療経験で治療方針を 決めている割合が多かった(図 4b).世代別では,
年齢が高いほど教科書や論文をよりどころにしてい る割合が多く,若い世代ほど学会や講演会,骨粗鬆 症診療ガイドラインを参考にしている割合が多かっ た(図 4b).
考 察
本症例は,著者が作成した仮想症例であり実在し ている症例ではない.制作側として本症例の特徴 は,1)70 代前半,2)骨密度軽度低下,3)骨質劣 化,4)症状なし,5)母親の大腿骨頸部骨折の既往 歴ありの症例であった.当科において本症例を診断 および治療する場合,骨密度の低下は軽度であるが 糖尿病の治療中であること3),母親の大腿骨頸部骨 折の既往歴があることから,骨粗鬆症治療は必要で ある1).年齢と骨密度を考慮した場合,骨密度が軽 度から中等度の低下例では,閉経直後から 70 歳代 は SERM 製剤,70 歳代以上ではビスホスホネート 製剤,抗 RANKL 抗体製剤を選択する4).糖尿病の 場合,コラーゲン架橋の劣化による脆弱骨折が問題 となる5)が,コラーゲン架橋の改善が期待できる薬 剤は,ビタミン D3製剤と SERM 製剤,PTH 製剤,
ビタミン K 製剤である5).そのため,本症例では SERM 製剤を主体にビタミン D3製剤(エルデカル シトール製剤,アルファカルシトール製剤)を併用 し,運動療法や食事指導を行って治療を検討する症 例と考える.ただし,SERM 製剤の副作用の 1 つ として懸念されている下肢静脈血栓症の既往があれ ば,SERM 製剤以外を検討する必要がある.また,
骨代謝マーカーの亢進があればビスホスホネート製 剤や抗 RANKL 抗体製剤を選択することもある.
骨密度に関しては,YAM(young adult mean)
値 80%以上は正常,70%未満は骨粗鬆症,70 〜 80%は骨減少状態とされる1).本症例では,YAM 値 65%であり,骨粗鬆症と診断される.FRAX
(Fracture Risk Assessment Tool) は, WHO
(World Health Organization)による骨折評価ツー ルである.このツールは,骨密度を測定しなくて も,問診で 10 年後の骨折リスクを評価できる利点
がある.一般的に 15%以上は骨折リスクが高いと されており,本症例では 20%とやや高い数値と なっている6).骨強度は,骨密度 70%,骨質 30%
からなると規定されており7),骨質には糖尿病や肺 気腫,動脈硬化症,高脂質血症が悪影響を及ぼす.
本例では,糖尿病および高脂質血症があるため,骨 質の劣化も憂慮される.
追加検査では,胸腰椎のレントゲン画像,骨代謝 マーカーが多かった.骨粗鬆症の場合,臨床症状が なくても椎体骨折を来していることがある.この場 合は,痛みを伴わないため,患者本人の自覚症状は ない.そのため,骨粗鬆症の発見は,骨折などの有 痛症状がでるか,健診などで二次健診を勧められた 場合にしか発見できない.患者本人が骨粗鬆症を疑 う方法として,「母や祖母が骨粗鬆症であった」,
「最近身長が縮んできた」,「背中が丸くなってきた」
などの症状があれば医療機関の受診が勧められる.
骨粗鬆症の診療ガイドラインでは椎体骨折の有無が 大事になっており,ガイドラインに沿って治療方法 を選択している傾向が強いことが分かった.本症例 では橈骨の骨密度は測定されているが,腰椎や大腿 骨の骨密度は測定されていない.そのため,143 例 中 45 例で腰椎か大腿骨頸部の骨密度を追加すると 回答した.腰椎か大腿骨頸部の骨密度を測定すると 回答した割合は,開業医よりも勤務医で多かった.
開業医では,設置場所やコストの面で腰椎や大腿骨 を測定できる機器をおいている割合が少ないことが 要因と考えられる.一方で,腰椎や大腿骨の骨密度 測定は,若い世代ほど検査を行う割合が多かった
(勤務医 19 人,開業医 26 人).
骨代謝マーカーに関しては,無回答を除いた 140 例中 134 例が骨代謝マーカーを測定すると回答して いた.残りの 6 例は,5 例で甲状腺または副甲状腺 関連,1 例で血清カルシウムとリンを測定すると回 答した.骨粗鬆症診療にあたり,骨代謝マーカーを 測定することが定着していると考えられる.骨代謝 マーカーでは,TRACP-5b が一番多かったが,尿 中 NTX が 2 番目に多かった点も注目すべきである.
TRACP-5b や P1NP は,腎機能の影響を受けにく く,日内変動も少ないため受け入れられやすいもの と思われる.尿中 NTX は,早朝第 2 尿による測定 が必要である.日中の随時尿とは違い,煩わしさが 否めないが多くの医師が尿中 NTX を選択してお
骨粗鬆症治療に関する意識調査
り,検査手法の煩わしさ以上に項目の信頼性が浸透 していると考えられる.
本症例に対する治療方法では,運動療法および食 事療法除いた薬物治療では,ビスホスホネート製剤
(75%)とビタミン D3製剤(67%)が圧倒的に多 かった.ビスホスホネート製剤は,年代,勤務体制 を問わず幅広く支持されていた.一方,SERM 製 剤に関しては,70 歳以上の開業医で多く選択され ている傾向があった.70 歳以上では,整形外科標 榜は 3 人,整形外科以外が 8 人と整形外科医が少な いためと考えられる.標榜科が整形外科と非整形外 科でビスホスホネート製剤と SERM 製剤で違いが あるか調査したところ,ビスホスホネート製剤では 大差はなかったが,SERM 製剤は非整形外科医で 多く選択されていた(図 3d).整形外科医が SERM 製剤を選択しない理由は,SERM 製剤は適応年齢 が決まっていること,整形外科医としては,人工股 関節・膝関節置換術などで術後の大きな副作用であ る下肢静脈血栓症に敏感になっており,意図的に避 けたのではないかと考える.一方で,ビスホスホ ネート製剤の方が SERM 製剤よりも骨吸収抑制作 用と骨密度増加効果が大きいため8,9),ビスホスホ ネート製剤を処方することで骨粗鬆症治療全般をカ バーできると考えている可能性もある.
SERM 製剤に関しては,FRAX を用いた骨折リ スク別の骨折抑制効果が認められている10).ラロキ シフェンやバゼドキシフェンは,骨や脂質代謝では AF1 活性が高いためエストロゲン様作用を示し,
乳房や子宮では AF2 活性が高いためアンタゴニス トとして作用する11).そのため,50 代後半から 80 歳くらいまで広く選択可能な薬剤である.運動療法 および食事療法は,勤務体制に大きな差はなかった が,70 歳以上で高い傾向が認められた.70 歳以上 で多い理由としては,経験論や「医療の基本は食事 や運動」と意識している医師が多いのかもしれない.
治療選択にあたり参考となる知識の根拠に関する 質問では,治療経験(43%),骨粗鬆症診療ガイド ライン(41%),学会・講演会(24%)の順であっ た.それぞれの医師が,各種の方法で知識を得てい ることが伺えた.
本研究の問題点として,提示したデータの範囲で どのような検査や治療方針を立てるのかを問うこと が目的であったため,提示した情報には意図的な情
報の制限や不足があった.そのため,「提示した データだけでは情報が少ない」,「もっと情報がない と回答できない」と言った意見もあり,今後同様の アンケートを実施する場合には,質問項目に修正が 必要かもしれない.アンケートの対象は,当院の周 辺区域で骨粗鬆症治療を行っている可能性の高い標 榜科を対象としたが,実際に骨粗鬆症診療に携わっ ていない医師も含まれている可能性がある.都市圏 内一定区域を対象としているため対象に隔たりが あるかもしれない.しかしながら,東京都の 65 歳 以上の人口 2,642,231 人(20.4%)に対して,区南 部(品川区,大田区)209,970 人(20.0%),区西 南 部( 世 田 谷 区, 目 黒 区, 渋 谷 区 )250,125 人
(18.8%)と 65 歳以上の高齢者の割合に大差はなく,
地域による隔たりは少ないと考えられる12).今回,
年代別に分けて検討を行ったが,70 歳以上は 11 人 と少数であった.無作為抽出の限界でもあり,今後 は対象となる地域を拡大して対象数を増やして検討 する必要がある.
結論を要約すると,当院設隣接地区(品川区,目 黒区,大田区,世田谷区)の開業医と勤務医を対象 に,仮想症例(1.70 代前半,2.骨密度軽度低下,
3.骨質劣化,4.臨床症状なし,5.母親の大腿骨頸 部骨折の既往あり)を提示して,骨粗鬆症の診断,
治療選択の意識調査を行った.著者の提示した検査 項目以外に追加する検査項目として,骨代謝マー カーの測定と回答した割合が 73%と多く,骨密度 と合わせて診断を行なっていた.骨粗鬆症診断ガイ ドラインや治療経験を参考にして,本症例でも保存 療法も含め全員が骨粗鬆症治療を開始したいと考え ていた.非整形外科医と比較して整形外科医では SERM 製剤を選択する割合が低かった.専門にし ている科によって薬剤の選択に違いが認められた.
円滑な医療連携のためにも,骨粗鬆症診療に対する 考え方や情報を共有することは大切である.
謝辞 本研究に当たり,アンケートにご協力いただきま した先生方に厚く御礼申し上げます.
利益相反
本研究に関して,利益相反はありません.
文 献
1) 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員 会.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015 年版.東京: ライフサイエンス出版; 2015.
2) 新谷 健,笠井裕一,榊原紀彦,ほか.三重県 内整形外科医における骨粗鬆症治療薬に対する 意識調査.中部整災誌.2015;58:265‑266.
3) Vestergaard P. Discrepancies in bone mineral density and fracture risk in patients with Type 1 and Type 2 diabetes--a meta-analysis.
. 2007;18:427‑444.
4) 永井隆士.骨粗鬆症の診断と治療.ペインクリ ニック.2014;35:509‑518.
5) 日本骨粗鬆症学会生活習慣病における骨折リス ク評価委員会編.生活習慣病骨折リスクに関す る診療ガイド.東京: ライフサイエンス出版;
2011.
6) FRAX. Fract Risk Assess Tool. (2015 年 12 月 24 日アクセス)https://www.shef.ac.uk/FRAX/
tool.aspx?country = 3
7) Osteoporosis prevention, diagnosis, and thera- py. . 2000;17:1‑45.
8) Nagai T, Sakamoto K, Matsunaga A, . Ef-
fects of 3 years of treatment with a selective estrogen receptor modulator for postmeno- pausal osteoporosis on markers of bone turn- over and bone mineral density.
. 2012;24:301‑308.
9) Nagai T, Sakamoto K, Munechika K, . Re- lationships between markers of bone metabo- lism used in the treatment of osteoporosis.
. 2011;23:165‑171.
10) 萩野 浩.FRAX を用いた骨折リスク別のバゼ ドキシフェンの骨折抑制効果と薬剤選択が医療 経済に与える影響.骨粗鬆症治療.2014;13:41‑
47.
11) Evans GL, Bryant HU, Magee DE, . Ral- oxifene inhibits bone turnover and prevents further cancellous bone loss in adult ovariec- tomized rats with established osteopenia.
. 1996;137:4139‑4144.
12) 東京都福祉保健局.介護サービス量等の見込み
[圏域別]・区中央部圏域・区南部圏域.(2015 年 12 月 22 日アクセス) http://www.fukushihoken.
metro.tokyo.jp/kourei/shisaku/koureisyakeikaku/
05keikaku2426/05keikakuhtml/part5̲chapter2.
html
骨粗鬆症治療に関する意識調査
SURVEY ON THE TREATMENT OF OSTEOPOROSIS
Takashi NAGAI, Takuma KURODA, Wakako SAKAMOTO, Koji ISHIKAWA, Keizo SAKAMOTO and Katsunori INAGAKI Department of Orthopaedic Surgery, Showa University School of Medicine Showa University Hospital Orthpaedic Surgery, Osteoporosis Treatment Center
Abstract Therapeutic agents primarily used for osteoporosis include PTH, anti-RANKL, bisphos- phonate, and SERM. We investigated the difference between patients with high-risk osteoporosis and those with mild to moderate osteoporosis. In this study, we assessed the responses of nearby physicians in private and public practices, in an awareness survey regarding the diagnosis and treatment selection of osteoporosis. To achieve smooth medical cooperation, this study was aimed to share information of osteoporosis. We presented a hypothetical patient to physicians in private and public practices of our hospital wards and hospital wards in Shinagawa, Meguro, Ota, and Setagaya in Tokyo. Further, these physicians completed an anonymous, written questionnaire designed to survey their awareness of diagno- sis and treatment options for osteoporosis. Of the 330 physicians, 143 responded to the questionnaire
(response rate: 43.3%). Common imaging tests (in addition to bone densitometry) were thoracolumbar radiography (53%) and bone mineral density measurement of the lumbar spine and/or femur (31%).
Physicians who reported that they did not perform further blood and urine testing additionally reported that they included other types of tests. A total of 73% physicians reported that they had measured bone metabolism markers, including (in descending order) TRACP-5b (48%), urinary NTX (41%), and P1NP
(27%). With regard to treatment, therapeutic exercise and dietary therapy accounted for 30%〜40% of the patients, pharmacotherapy included bisphosphonates (75%) and vitamin D3 (67%). In addition to the inspection items we indicated, we found that diagnosis was based on bone mineral density measure- ment, and 73% of physicians reported that they would perform additional measurements of bone metabo- lism markers. Furthermore, all physicians considered initiating osteoporosis therapy, including conserva- tive therapy, for the hypothetical patient based on clinical practice guidelines for osteoporosis and their treatment experience.
Key words: osteoporosis, questionnaire, survey
〔受付:2 月 19 日,受理:3 月 3 日,2016〕