ネットワークの効率性・冗長性に着目した公共交通網の都市間比較
02503230 東京大学 長谷川 大輔 HASEGAWA Daisuke
1.はじめに
近年,我が国が目指す都市空間像であるコンパク ト・プラス・ネットワーク型の都市構造の形成に向 け,地域公共交通計画の策定が進められている[1].
これらの計画では,近年の交通事業者のドライバー 不足等の事情を鑑みて,ネットワークの整備量,す なわち路線長を抑えた上での路線再編成が検討され ている.その場合,拠点を中心としたハブ・アンド・
スポーク型の路線が効率的となるが,ハブ以外の地 点への移動については減少するため,地域全体でみ るとアクセシビリティが低下する恐れもある.その ため,ネットワークにはある程度の冗長性が求めら れる.こうした効率性と冗長性はトレードオフの関 係となるため,実際の都市における効率性と冗長性 の配分の把握は,適正な公共交通整備を計画する上 で重要な観点となる.都市の公共交通網の性能評価 に関する既存の研究としては,鉄道網と人口分布の 適応度
[2]
や,トラムのネットワーク網を対象とした,中心性指標とアクセシビリティ指標を用いた都市間 比較[3]がなされているが,バス路線まで含めた都市 全体のネットワークでの評価や,路線の優等種別の 考慮がなされていないという課題が存在している.
そこで本研究では,我が国の鉄道や航空路線,バ スといった複数の交通手段の路線をグラフ構造化し たネットワークデータを構築する.それを用いて,
国内の主要都市で高頻度で運行される公共交通路線 の効率性と冗長性を評価し,都市間での路線密度か らみた整備水準別の性能比較を目的とする.それに より,効率性と冗長性指標と実際の路線網を比較し,
公共交通網の改善について考察する.
2.全国公共交通ネットワークデータの構築
経路検索エンジン「駅すぱあと」2018年
7
月版を基に,全国の駅・停留所をノード,公共交通の路線 別の隣接駅間,乗り換え可能駅間をエッジとして結 んだ無向グラフとして,全国公共交通ネットワーク を構築した(図1).取得対象の交通手段は鉄道,航 空路線(
ANA
,JAL
),バス路線(高速バス,路線バ ス,コミュニティバス),フェリーであり,エッジの 属性には乗車時間,移動距離,一日の運行本数より 算出した平均待ち時間を付与している.ただし,鉄 道・バス路線の特急や急行といった優等種別に関し ては,その種別ごとに停止駅の一覧,乗車時間・平 均待ち時間が取得可能である.これらは路線におけ る短絡路として見なせるため,別々の路線として扱 った.また,乗り換え可能な駅・バス停として登録 されている場合は一つの駅として集約した.なお,ネットワーク全体のノード数は
162,374
,エッジ数は721,643
である.3.都市内の公共交通の効率性・冗長性評価
構築したネットワークデータより,エッジが対象 の都市内に内包され,かつ実用的な頻度を有する路 線である,平均待ち時間が
30
分以内であるノード・エッジのみを抽出し,一定のサービス水準を有する 都市別ネットワークを構築する.ここから,駅間の 移動距離,ノードの人口カバー率,およびクラスタ 係数を用いて,ネットワークの性能評価を行う.ま ず,効率性については
2015
年国勢調査1km
メッシ ュ人口より,ノードのあるメッシュの人口の合計を,対象都市のポリゴンに重なるメッシュの人口の合計 で除することで求めた人口カバー率よって評価する.
ネットワークの冗長性は,ネットワークの密度を測 る指標として一般的なクラスタ係数[4]では,ノード 数
3
,もしくは4
の閉路(cycle)
しか測定されないた め,本研究では一定のノード数がα以下で構成され た閉路の数を全体のノード数で除した値を冗長性を 測る指標として用いる.(以下,閉路率と称する). 閉路の数が多いほど,あらゆる地点にアクセス可能 なネットワークが構築されていると言え,簡便にネ ットワークの冗長性を測ることができる.αは対象 地域の閉路内ノード数の平均値である14
とした.分 析の対象は東京23
区を一つの地域として見なした 特別区,および政令指定都市のうち,市内を走行す る主要なバス会社が未対応であり,バスデータの整 備状況が不十分と判断した岡山市,新潟市を除いた,計
19
地域で実施した.4.分析結果
図2は人口カバー率,閉路率と,ネットワークの 整備量の指標として,都市別ネットワークの路線長 図1 全国公共交通ネットワーク
航空鉄道 バスフェリー
2-C-5
日本オペレーションズ・リサーチ学会2021年 春季研究発表会
を可住地面積で除した路線密度との関係を示してい る.効率性を重視したネットワークである場合,閉 路率は低く,カバー率が高い図の右下の方に位置す る.一方,閉路率が高く,人口カバー率の低いネッ トワークであれば,冗長性を優先した,都心部の回 遊性の高いネットワークであると言える.これを見 ると,同程度の路線密度である福岡市・京都市・横 浜市・東京特別区や,神戸市・名古屋市・大阪市・
札幌市において冗長性と効率性のトレードオフ関係 が見られることがわかる.このうち,神戸市と札幌 市における路線を示した地図が図 3である.どちら の都市も 30 分以下の運行頻度の路線が山間部であ る郊外部まで整備されている地域であるが,神戸市 は海岸部を中心に鉄道・バス路線が整備されていて,
郊外部に関しても,複数方面へのバス路線が整備さ れており,回遊性の高い路線網が整備されている.
一方,札幌市は中心部は格子状の道路構造に沿った 交通網になっているが,東西方向への路線に比べ南 北方向への路線は少なく,郊外部から中心部に向か う路線が一方向で構成された,効率性を重視した路 線網であることがわかる.
5.おわりに
本研究では,複数の交通手段を反映した全国公共 交通ネットワークを用い,国内主要都市における高 頻度の路線のネットワークの効率性と冗長性を閉 路率と人口カバー率を用いて評価した.今後は任意 の二点間の経路・所要時間によるアクセシビリティ 評価結果と,閉路率との対応関係を確認する.また,
最新の運行ダイヤの反映によって,新型コロナウィ ルスの影響による公共交通の運行自粛
[5]
によるア クセシビリティへの影響についても評価を行う.本研究は東京大学
CSIS
共同研究No.1051
,1059
の 成果の一部である.参考文献
[1] 国土交通省(2020): 「地域公共交通網形成計画の策定状 況」.https://www.mlit.go.jp/toshi/city_plan/content/001349491.pdf
(2020年12月28日アクセス)
[2] 安成光・松橋啓介・鈴木勉 (2017): 市街地形状と鉄道網 の連携度に関する世界大都市間比較分析, 都市計画論 文集, 52(1), 34-41.
[3] Luo, D., Cats, O., van Lint, H., and Currie, G. (2019):
Integrating network science and public transport accessibility analysis for comparative assessment. Journal of Transport Geography, 80, 102505.
[4] Lind, P. G., Gonzalez, M. C., and Herrmann, H. J. (2005):
Cycles and clustering in bipartite networks. Physical review E, 72(5), 56127.
[5] 熊本日日新聞(2021) :「熊本市電、54本減便へ 新型コロ ナ感染拡大で乗客減」. https://kumanichi.com/news/id54418
(2021年1月9日アクセス)
図2 都市別の人口カバー率と閉路率,
路線密度の関係
札幌市 仙台市
さいたま市
千葉市 特別区
横浜市
川崎市 相模原市
浜松市 静岡市
名古屋市 京都市
大阪市 堺市 神戸市
広島市 北九州市 福岡市
熊本市
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16
0.7 0.75 0.8 0.85 0.9 0.95 1
閉路率
路線による人口カバー率 可住地路線密度
(km/ km2) 30.0 15.05.0
図3 都市別の人口分布とバス・鉄道路線別運行頻度
神戸市 札幌市 運行頻度