科学技術リテラシーの育成を指向した数学・理科・
技術教育の連携 : 技術教育への数学教育からのア プローチ
著者 長崎 栄三
雑誌名 年会論文集
巻 36
ページ 41‑42
発行年 2012‑08
出版者 日本科学教育学会
URL http://hdl.handle.net/10297/8016
科学技術リテラシーの育成を指向した数学・理科・技術教育の連携
-技術教育への数学教育からのアプローチ-
Cooperation among Mathematics, Science & Technology Education toward Fostering Science Literacy
: Approach to technology education from mathematics education
長崎 栄三 NAGASAKI Eizo
静岡大学大学院教育学研究科
Graduate School of Education, Shizuoka University
[要約] 科学技術リテラシーの育成を指向した数学・理科・技術教育の連携を考える一環として,技術教 育への数学教育からのアプローチについて,その意義,利用・応用可能性,数学的活動の 3 点 から検討した。技術教育への数学教育からのアプローチの数学教育にとっての意義としては,数 学の社会有用性の涵養,子どもの数学の理解の促進,そして,数学観の変革が挙げられた。技 術教育での数学の利用・応用可能性については,数学の特性,数学の内容,数学の方法の 3 点 から考えられた。技術教育における数学的活動においては,数学教育から技術教育へアプロー チをする際には,最近の数学教育の中心にある数学的活動が有用であることが述べられた。
[キーワード] 科学技術リテラシー,数学的リテラシー,数学教育,技術教育
1.はじめに
科学技術リテラシーの育成を指向した数学・理 科・技術教育の連携は,この 2 年間の議論におい て明らかにされてきたように,それぞれの教育の 共通性と独自性の上に構築される。そこで,今回 は,このような立場に立ちつつ,技術教育への数 学教育のアプローチ,すなわち,技術教育に数学 教育はどのような貢献ができそうなのかについて,
数学教育の立場から思考実験的に考察する。た だし,数学教育の独自性として,数学教育は,科 学技術リテラシーの育成を目指すとともに,数学 教育の人間形成的・実用的・文化的目的をもとに 考えるということを念頭に置いておくものとする。
そこで,技術教育への数学教育からのアプロー チについて,その意義,利用・応用可能性,数学 的活動という 3 点から考察する。このような考察は,
現代社会で見えなくなっている数学を,技術や人 工物の中に見出すことだとも言えよう。なお,技術 とは「目的を達成するために習得した知識を適切 に組み合わせて具体的な形にすること」(文部科 学省,2008),または「人間が人間の要求や欲求 のための集積してきた知識や情報の集積」(桜 井,2006)などとする。また,後者の定義では「技術 で作られるもの」を人工物としている。
2.技術教育への数学教育からのアプローチの数 学教育にとっての意義
技術教育への数学教育からのアプローチの数
学教育にとっての意義としては,数学の社会有用 性の涵養,子どもの数学の理解の促進,そして,
数学観の変革が挙げられる。
数学は,人間が作り上げてきた技術や人工物と 関係していることを知れば,数学の社会的有用性 の涵養につながる。現在の日本の子どもたちは数 学の社会的有用性の意識が国際的に低いことが
PISAやTIMSSによって指摘されている。そのよう
な中で,数学と技術や人工物の関係を積極的に 取り入れることは有意義なことである。さらに,認 知科学の知見から,子どもは実世界でよりよく思 考 す る こ と が 明 ら か に さ れ て い る ( 稲 垣 ・ 波 多 野,1989)。そこで,子どもの生活にある,自然物 や人工物を対象に数学を思考すれば,数学のよ り深い理解へとつながる。そして,技術との連携を 深め,数学の応用に気づくことは,子どもだけで はなく教師の数学観の変革に導くであろう。現代 では,数学とは人間や社会を離れた理想的なも のであるというプラトン主義の数学観から,数学は 人間が社会で作り出してきたものであるという社会 的構成主義の数学観(Earnest,1991)への転換が 求められている。
3.技術教育での数学の利用・応用可能性
数学の利用・応用可能性があるからこそ技術教 育へのアプローチが可能になる。そこで,技術教 育における数学の利用・応用可能性を,数学の特 性,数学の内容,数学の方法の3点から考える。
ISSN 2186-3628 日本科学教育学会年会論文集 Vol.36(2012)
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数学の特性としては,パターンとしての科学,
科学の言葉,抽象化・記号化,直観と論理,数学 化,などが挙げられている。技術教育で,数や図 形における規則性の探究を行う時には,パターン としての科学が,数式・表・グラフ・図形などによる 表現を行う時には,科学の言葉が,そして,事象 の数値化を行う時には,数学化が必要になろう。
数学の内容としては,数式・図形はもとより関数 や確率・統計が主たるものとして挙げられる。技術 教育で扱う事象が,確定事象の場合には関数が,
不確定事象の場合には確率・統計が利用・可能 になる。関数は事象の予測・再現を可能にする。
また,私たちが生きている 3次元空間を技術の対 象として2次元で考えるための図法を使える。
数学の方法としては,主として,数学化と一般 化と確証が挙げられる。技術教育で,技術や人工 物について科学的に探究をするときには,多くの 場合,数学化が必要と思われる。また,条件に即 して最適化などを考える場合にも数学化をして一 般化や確証などの数学的処理を行うであろう。
4.技術教育における数学的活動
数学教育から技術教育へアプローチをする際 には,最近の数学教育の中心にある数学的活動 が有用であろう。数学の内容や方法は,数学に方 向づけられた子どもの活動によって創り上げられ ていくと考えるものである。例えば,この種の活動 としては,数学的活動としての「数えること,位置を 示すこと,測ること,デザインすること,遊ぶこと,
説明すること」(ビショップ,2010)や,算数・数学の 力としての「算数・数学を生み出す力,算数・数学 を使う力,算数・数学で表す力,算数・数学で考 え合う力」(長崎・滝井,2007)が提唱されている。
このような数学的活動は,技術教育で必要とさ れる子どもの活動にも結びつくと思われる。例え ば,「デザインをすること」は,数学教育だけの活 動ではなく技術教育への発展性も持っているであ ろう。また,「説明すること」や「考え合う力」も,同 様な発展性を持っているであろう。既成の学問理 論から見るとそれぞれの学問間の共通性は見え にくくなっているが,子どもの活動に戻ってみると 共通性の萌芽は多々あると思われる。技術的活 動と数学的活動の両者が顕在化するのもよいが,
片方の活動がもう一方の活動に内在していること を指導者が意識することも大切であろう。
また,このような活動を通して,現代社会で重視 され始めているジェネリックスキル,例えば,批判 的思考やコミュニケーション力など(日本学術会 議,2010)の育成に両者が貢献していることも表 明できるであろう。
5.おわりに:技術教育への数学教育からのアプロ ーチの今後の課題
科学技術リテラシーは,現在・将来の社会,す なわち,持続可能な社会,民主主義的な社会,生 涯学習社会などを視野に置いている(科学技術 の智プロジェクト,2008)。そこで,数学教育・理科 教育・技術教育の連携は,そのような社会におけ る科学技術の考え方や特性,そして,その教育の 意義や役割を考える場となるべきであることを再 認識しておきたい。なお,本稿ではICTの利用に ついて触れられなかった。ICT が子どもの学習を 促進するという面から,これらの教育の連携を考 えることも必要だと思う。
先に述べたように,数学教育では,数学的活動 や算数・数学の力などの分析がなされている。し かし,これらは,数学という文化を創り上げることを 目標として数学の文化を分析的に考察したもので ある。科学技術リテラシーの育成や技術教育への アプローチを考えた場合,それらに必要とされる 数学的活動・数学の力という面からの分析も必要 と思われる。現在,私たちは,大人が社会で必要 な数学的リテラシー(長崎,2011)を,一般の社会 を数学で読み解くという立場から分析することを今 後の課題と考えている。そのような一環として,技 術を読み解く数学における数学的活動や算数・
数学の力の分析を考えてみたい。
[文献]
ビショップ(湊三郎訳):数学的文化化,教育出版,
2010.
Ernest, P.: The Philosophy of Mathematics Edu- cation. The Falmer Press,1991.
稲垣佳代子・波多野誼余夫:人はいかに学ぶか 日常的認知の世界,中公新書,1989.
科学技術の智プロジェクト:総合報告書,科学技 術の智プロジェクト,2008.
http://www.science-for-all.jp/
文部科学省:中学校学習指導要領解説 技術・
家庭編,2008.
長崎栄三・滝井章編著:算数の力 数学的な考え 方を乗り越えて,東洋館出版社,2007.
長崎栄三編:数学教育におけるリテラシーについ てのシステミック・アプローチによる総合的研究,
日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究
(B)による研究の報告書.2011, http://hdl.handle.net/10297/5762,
日本学術会議:回答 大学教育の分野別質保証 の在り方について,日本学術会議,2010. 桜井宏:社会教養のための技術リテラシー,東海
大学出版会,2006.
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