*1 インテリア研究所
インテリア・住宅関連材料のVOC評価に関する研究
室内環境におけるVOCリスク評価
古賀 賢一*1 脇坂 政幸*1
Research on Evaluation of VOC Emission from Interior Materials
The Proposal of the VOC Risk Value in Indoor Environment Ken’ichi Koga, Masayuki Wakisaka
2003年に導入されたJIS小形チャンバー法によるVOC(揮発性有機化合物)測定システムが利用可能となり,各種の 問い合わせ等に対応できるようになった。しかしながら,メーカー・消費者共にVOCに対し誤った認識を持ってお り,木材由来の僅かなVOCが検出されただけでも,問題と考えているケースがほとんどである。また,定められた VOC基準そのものがあいまいであり,各種の評価方法と基準値間の対応がほとんどできていない等の問題点がある。
この状況を改善することを目的とし,VOCリスク評価の手法を提案し,その検証を行った。本研究のVOCリスク評 価値は,個々の要素のVOCリスクを厚生労働省・WHOの室内基準濃度に比較して%で表すものであり,VOCリスクの 定量的評価方法として妥当であると考えている。
1 はじめに
近年の住環境におけるシックハウス症候群等の健康 被害の要因として,VOCが挙げられている。現在,健 康被害のメカニズムはまだ十分に解明されてはないが,
各省庁や業界団体においてVOCについて室内濃度指針 値等1)を定め,その被害を軽減しようと働きかけてい る。
中でも,2003年施行の改定建築基準法は,住宅に使 用する材料をそのホルムアルデヒド放散量に応じて規 制しており,シックハウス等の根本的な改善が期待さ れている。
しかしながら,問題とされるVOCは数多く,当所で も測定は可能であるが,ホルムアルデヒド以外には基 準値がない為,測定値の大小の程度を判断できない状 況にある。このため,メーカー等の問い合わせに対応 できない場合が多い。
また,前述の改定建築基準法のホルムアルデヒド基 準と,JIS小形チャンバー法の試験規格が厳密には一 致しておらず2),その適用が問題視される場合がある。
このような諸問題を解決する目的で,本研究では厚 生労働省・WHOの安全基準に合致したVOCリスク評価の 手法を提案し,その検証を行った。
2 研究,実験方法 2-1 材料のVOC測定
本 研 究 の VOC 測 定 は 昨 年 度 報 告 の 通 り3), JIS A1901:2003小形チャンバー法に準じて行った(図1)。
図1 JIS小形チャンバー法の測定イメージ
条 件 は チ ャ ン バ ー 容 積 ~ 20 ℓ・ 温 度 28 ℃ ・ 相 対 湿 度 50%・換気回数0.5回/hである。
今 年 度 は 基 本 的 な 材 料 と し て , 木 質 系 の 板 材 の 合 板・MDF(ミディアムデンシティファイバーボード)の2.5mm厚のものを 使用した。共にホルムアルデヒド放散量等級は最も放 散の少ないF☆☆☆☆を選定し測定を行った。
測定は,JIS法で推奨しているサンプルボックスを 用い,チャンバーに試験体を設置後2,4,8時間と1,
2,4,7,14,28日の時点で行った。
2-2 VOCリスク評価値の算出
本研究では,小形チャンバー法の測定値より,想定 される条件での各VOC濃度をHoetjer式による相関で求 め3),その値と厚生労働省・WHOの室内基準濃度と比較
清浄空気 汚染空気
試験体
して,VOCリスク評価値を%で求めることとした。
Hoetjer式は以下の通りである。
L n kCe Ce C1 = 1 + 1 ×
C:気中VOC濃度(µg/㎥) n:換気回数(/h) L:試験体表面積/空気容積(/m)
Ce:換気が無い場合の平衡濃度(µg/㎥)
k:物質移動係数(m/h) [Ce,kは正の値の実験定数]
試験体の設置枚数が1,2,3枚(L=1.11,2.39,3.89) でのチャンバーからの排出空気中のVOC濃度Cを測定し,
式(1)に代入して,実験定数Ce・kを最小2乗法で求めた。
このCe・kを用い,想定される条件からn・Lを決定す ると,その条件でのVOC濃度Ccが計算できる。
求 め た Ccの 対 応 す る 室 内 基 準 濃 度 Csに 対 す る 比 率 を%で表したものをVOCリスク評価値Er[式(2)]とした。
当所のVOC測定システムでは,現在55物質とVOC類の 総量であるTVOC3)の定量が可能であり,内,室内濃度 の基準が定められているのは9つである。総ての計算 を表計算ソフト上で行うシステムを作成し,簡便で計 算ミスを無くすよう工夫した(図2,3)。
図2 Hoetjer式相関用ワークシートのイメージ
図3 VOCリスク評価値用ワークシートのイメージ
2-3 VOC放散長期履歴の相関
VOCによる健康被害は,年単位の慢性的摂取が原因
といわれている。そのため,VOCの放散の履歴を年単 位で把握する必要があるが,設備・費用の面で年単位 の測定は困難である。
JIS小形チャンバー法の解説書4)によると,VOC放散 の初期段階においては,放散速度と経過時間の関係が 指数式によって相関できるとある。
試験体設置から2時間~28日後の測定値を用い,合 致する相関式を検討した。
2-4 VOC付加法による検証
研 究 当 初 は , 未 加 工 の 板 材 を 使 用 し て い た た め , VOC放散が乏しく,ほとんどのVOCが検出できずに,実 験精度の検証が困難であった。
そのため,多くのVOCが検出でき,その含有量をあ る程度制御できるように,試験体を作成する方法(VOC 付加法)を考案した(図4)。
図4 VOC付加法による試験体作成
これは,市販のVOC混合標準液に,更に典型的なVOC を加えて新たに調整した混合標準液を,板材の裏面に シート材に含ませる形で加える手法である。これによ り多くのVOCについても検出可能となり,また,板材 そのもののバラツキをカバーでき,各種の検証の為に より良い試験体になると考えられる。
3 結果と考察
3-1 板材のVOCリスク評価
VOC放散が安定するのは,試験体設置後1日程度必要 であったので,1日経過後の測定値を用いてVOCリスク 評価との算出を行った。基本の板材の測定では,試験 体設置後1日で検出できたVOCは15程度であった(表1,
2)。
(1)
(%) (2) 100 / ×
=Cc Cs Er
表1 2.5mm厚合板の設置1日後チャンバー法測定結果
成分 L=1.11 L=2.39 L=3.89 ホルムアルデヒド 189.50 214.30 274.90 アセトアルデヒド 148.00 277.60 209.00 アセトン 26.40 15.90 54.80 酢酸エチル 5.71 18.72 31.68
ベンゼン 0.43 0.32 0.00
1-ブタノール 0.00 2.90 6.17
トルエン 1.21 0.62 4.13
ノナナール 0.84 0.50 0.58
ドデカン 0.96 2.63 4.56
デカナール 0.98 0.61 0.52
TVOC 541.89 776.39 1010.35 排気空気中VOC濃度C(µg/m3)
表2 2.5mm厚MDFの設置1日後チャンバー法測定結果
成分 L=1.11 L=2.39 L=3.89 ホルムアルデヒド 43.20 43.00 67.50
アセトアルデヒド 296.40 277.60 371.20 アセトン 103.80 178.20 322.10 2-ブタノン 0.00 0.82 0.00
ベンゼン 0.00 0.18 0.00
トルエン 0.30 0.34 1.52
α-ピネン 1.71 0.00 0.00
デカン 0.71 0.00 0.00
ウンデカン 0.31 0.15 0.00
ノナナール 12.32 10.99 14.61
デュレン 0.08 0.06 0.06
ドデカン 23.34 18.97 23.73
デカナール 1.80 2.19 2.24
テトラデカン 0.23 0.40 0.37 TVOC 524.00 1013.53 941.95
排気空気中VOC濃度C(µg/m3)
(L=試験体表面積/空気容積(/m))
これをHoetjer相関した結果は表3,4のようになっ た。(Ce・kが正常な値となった成分のみ表記した。)
表3 設置1日後の2.5mm厚合板のHoetjer相関結果
成分 Ce k 相関係数R2
ホルムアルデヒド 298.91 0.75 0.83 アセトアルデヒド 331.19 0.39 0.66 アセトン 29.73 1.47 0.03
ベンゼン 1.84 0.11 0.25
トルエン 1.39 1.10 0.03 TVOC 1433.05 0.27 0.99
表4 設置1日後の2.5mm厚MDFのHoetjer相関結果
成分 Ce k 相関係数R2
ホルムアルデヒド 65.76 0.77 0.47 アセトアルデヒド 350.36 2.04 0.25 アセトン 988.23 0.05 0.98 トルエン 2.00 0.07 0.64 ウンデカン 0.48 0.47 0.05 ノナナール 13.39 3.57 0.10 デカナール 2.54 1.13 0.97 テトラデカン 0.58 0.31 0.88 TVOC 1797.05 0.19 0.90
表3,4の結果を基に,高さを一般的な2.3mで床面を 総て対象の板材とし,換気回数を0.5回/hとした室内 を想定し,この条件での各板材のリスク評価値を表5,
6に算出した。(評価が可能な成分のみ表記した。)
表5 2.5mm厚合板のリスク評価値Er
成分 室内基準濃度
Cs(µg/m3)
予想室内濃度 Cc(µg/m3)
リスク評価値 Er(%)
相関係数 R2 ホルムアルデヒド 100 117.58 117.58 0.83
アセトアルデヒド 300 84.20 28.07 0.66
トルエン 260 0.68 0.26 0.03
TVOC 400 273.81 68.45 0.99
表6 2.5mm厚MDFのリスク評価値Er
成分 室内基準濃度
Cs(µg/m3)
予想室内濃度 Cc(µg/m3)
リスク評価値 Er(%)
相関係数 R2
ホルムアルデヒド 100 26.38 26.38 0.47
アセトアルデヒド 300 223.91 74.64 0.25
トルエン 260 0.12 0.05 0.64
テトラデカン 330 0.12 0.04 0.88
TVOC 400 257.36 64.34 0.90
(アセトアルデヒドはWHO基準・他は厚労省基準)
表5,6において,放散量の大きいTVOC等では良い相 関でリスク値が評価されているが,相関の良くないも のが多い。
VOC付加法により,試験体1枚当たりVOCを1µgずつ付 加し,リスク評価した結果は表7,8のようになった。
表7 VOC付加2.5mm厚合板のリスク評価値Er
成分 室内基準濃度
Cs(µg/m3)
予想室内濃度 Cc(µg/m3)
リスク評価値 Er(%)
相関係数 R2
スチレン 220 0.53 0.24 0.98
TVOC 400 270.58 67.64 0.96
表8 VOC付加2.5mm厚MDFのリスク評価値Er
成分 室内基準濃度
Cs(µg/m3)
予想室内濃度 Cc(µg/m3)
リスク評価値 Er(%)
相関係数 R2
エチルベンゼン 3800 0.45 0.01 0.96
キシレン 870 0.96 0.11 0.98
スチレン 220 0.66 0.30 0.97
ジクロロベンゼン 240 1.54 0.64 0.99
TVOC 400 672.23 168.06 0.98
表7,8の結果からは,未加工の板材では検出できな かった成分についても,放散量さえあれば評価が可能 であると考えられる。今後は,VOC測定の精度を向上 させることにより,多くの成分でリスク評価できるよ う検討する。
VOCリスク評価値は,個々の要素ごとに数値化でき るので,複雑になりがちなVOCの問題を単純化して考 えることのできるツールに成り得ると考えている。
3-2 VOC放散長期履歴の相関
未加工の板材では,ほとんどのVOCが数日内で検出 できなくなってしまう為,VOC付加を行ったものにつ いて相関を試みた。
図5に測定結果のグラフの一例を示す。
y = 464.67e-0.1595x R2 = 0.9945
0.1 10 1000
0 500 1000
図5 1µgVOC付加2.5mm厚合板の キシレン濃度の履歴(L=2.39)
図5の●で示した測定初期については,JIS小形チャ ンバー法の解説書4)の通り,指数式で相関できている。
図6は図5の測定結果を,累乗式で相関したものであ る。
y = 29.918x-0.6455 R2 = 0.9663
0.1 1 10 100 1000
1 10 100 1000
図6 1µgVOC付加2.5mm厚合板の キシレン濃度の履歴(L=2.39)
図6の○で示した測定後期については,両対数のプ ロットでは直線性が見られ,累乗式による相関が可能 であるように見える。
その他のVOCについても同様の相関を試みたところ,
多くのものについて,累乗式での相関が成立すること が確認できた(図7)。
y = 7.8394x-0.4085 R2 = 0.9739 0.1
1 10 100 1000
1 10 100 1000
トルエン トルエン
y = 16.157x-0.63 R2 = 0.9672 0.1
1 10 100 1000
1 10 100 1000
エチルベンゼン エチルベンゼン
図7 1µgVOC付加2.5mm厚合板の 他VOCの測定例(縦・横軸は図6と同様)
累乗式での相関が可能な場合には,相関線の外挿に より,数年程度の予想が可能と考えられる(図8)。
y = 29.918x-0.6455 R2 = 0.9663
0.01 0.1 1 10 100 1000
1 10 100 1000 10000 100000
図8 1µgVOC付加2.5mm厚合板の キシレン濃度予想(L=2.39)
年単位までの拡張が妥当であるかは,今後検証して いく必要があるが,実際の測定が困難である以上,こ のような取扱いを行うのが現実的であるというのが筆 者の主張である。
4 まとめ
2005年度は,VOCリスク評価値とVOC放散長期履歴の 相関について検討した。
総てのVOCについて検証できたというわけではない が,測定精度を向上させることにより,多くのVOCで 利用可能であるということは確認できた。
5 参考文献
1)改定建築基準法に基づくシックハウス対策関連の告 示(国土交通省)
シッ ク ハ ウス (室内 空 気 汚 染)問 題 に 関 する 検 討会 中間報告書-第8回~第9回のまとめ(厚生労働省)
㈳全国家具工業連合会 室内環境配慮マーク 等:各HPよりダウンロード可能
2)シックハウスと木質建材 資料集:p.39-56,㈶林業 科学技術振興所
3)福 岡 県 工 業 技 術 セ ン タ ー 研 究 報 告 , No.15, p.71- 74(2005)
4)JIS使い方シリーズ シックハウス対策に役立つ小形 チャンバー法 解説:p.120-122,㈶日本規格協会 経過時間(h)
キシレン濃度C(µg/㎥) [対数軸]
経過時間(h)[対数軸]
キシレン濃度C(µg/㎥) [対数軸]
経過時間(h)[対数軸]
キシレン濃度C(µg/㎥) [対数軸]
1 年 5 年