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シンガーソングライターの歌詞における五十音の加齢による嗜好 の変遷

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Academic year: 2021

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シンガーソングライターの歌詞における五十音の加齢による嗜好 の変遷

Age-related transition in the choice of the words of Japanese singer-songwriters:from a phonetic point of view

1W110337-4 寺村 南希 指導教員 菅野 由弘 教授

TERAMURA Nanki

Prof. KANNO Yoshihiro

概要:本研究は活動歴の長い日本人歌手の歌詞中の五十音に着目し、歌詞において表現される言葉/音が年齢に よってどのように変遷するのかを分析していく事を目的としている。本研究では年齢が現在五十代後半から六十 代である八名のシンガーソングライターを対象に、これまでに発表された作品の中からシングル曲を取り上げ、

歌詞中の各音の段・行の増減と年齢との相関を検証し、統計学的に有意と判定された結果をもとに、年齢による 歌詞の傾向を発声器官による観点から考察した。母音の分析結果からは、咽頭が狭められる音は年齢とともに発 声しにくくなるという推察ができ、子音の分析結果からは、年齢とともに調音点が口唇・歯茎にある音は増加し、

調音点が口蓋側にある音は減少している事が判明した。このような考察から加齢による歌詞中の言葉の変遷が確 認できた。

キーワード:歌詞、加齢、調音位置

Keywords:words, aging, point of articulation

1.はじめに

あるテレビ番組の中で、歌手・井上陽水が「年 をとると、マ行が良くなってくる」というような 発言をしていた。陽水氏によれば、曲作りにおい て若い頃よりも「マ行」の柔和な音を感覚的に好 むようになったという。年齢により言葉の嗜好が 変わるというのは非常に興味深く、探求への誘い を感じた。果たして年齢により言葉の嗜好は変化 するのであろうか。またそれは陽水氏以外の歌手 にも当てはまるであろうか。或いは嗜好の原因は 加齢による身体的機能の変化が関連しているの であろうか。本研究では年齢の変化が歌詞中の言 葉の選び方にどのような影響があるかを、井上陽 水氏のほか、同様の活動歴を持つ幾人かの歌手の 曲をたどることで検証・分析し論じていく。

2.方法

「現在五十代後半から六十代の年齢」の「シン ガーソングライター」で「二十代から五十代の各 年代にかけて、五曲以上シングル曲を発表してい ること」を基準に歌手を選び、対象となる曲をそ

れぞれ「シングル曲の

A

面」として選定した。

さらに歌詞中の言葉を音節ごとに単音で分け、各 五十音を集計した後、それらを子音と母音ごとに 分類して歌詞中に占める割合を求めた。

3.結果

こうして得られた五十音の集計データを回帰 分析により統計的に処理した。データから散文図 を作成した後、子音・母音の割合と年齢との相関 があるかどうかの検定を行い、計28のデータが 有意と判定された(図

1・2)。

図1 井上陽水-マ行の割合

(2)

2

図2 中島みゆき-ア段の割合

4.考察

母音の集計結果において、年齢とともに「ア」

段の割合が減っているという傾向が見られた。

「ア」における咽頭は母音5音の中で最も小さく つぶれているという指摘がなされており、また加 齢による咽頭の運動性の低下も報告されている ことから、咽頭が狭められる音は年齢とともに発 声しにくくなると推察される。

子音の集計結果においては、正の相関のあるデ ータと負の相関のあるデータを調音の位置(図 3)と比較して分析すると、年齢とともに「マ」

行や「タ」行などの、調音点が口唇・歯茎にある 音は増加し、「ヤ」行や「カ」行などの調音点が 口蓋側にある音は減少しているという傾向を見 いだすことができた。舌面を口蓋に接近させる口 蓋側の音が減っているのは、加齢による舌筋力の 低下が影響していると考えられる。

5.結論(まとめ)

本研究の目的は年齢の変化が歌詞中の言葉 の選び方に対しどのように影響するのかを、シ ンガーソングライターの歌詞を対象に、検証・

分析することであった。

八名の歌手による計 330 曲の集計データか ら結果を分析・考察したところ、「加齢により 咽頭が狭められる音は発声しにくくなる」と推 察され、また「調音点が口唇・歯茎側に寄って いる音は増加し、口蓋側に寄っている音は減少 している」という傾向を見出すことができた。

以上の如く、年齢とともに歌詞中の言葉は変遷 し、またそれは加齢による発声器官の衰退が関

係していることが強く示唆された。  

自らの感情や思想を言葉で表現するシンガ ーソングライターでさえ、必ずしも自由に言葉 を選んでいるわけではなく、発声による身体動 作の不自由性に囚われている部分が大きいこ とを実証できたことに、本研究の重大な意義が ある。

 

 

参考文献:

(1)

城生佰太郎「一般音声学講義」勉誠出版

, 2008 (2)城生佰太郎ほか編「音声学基本辞典」勉誠出版, 2011 (3)城田俊「日本語の音:音声学と音韻論」ひつじ書房, 1993

(4)

児島久剛「高齢者の喉頭

(

発声

)

機能」日本気管食道 科学会会報, 45 (5) , 360–364, 1994

参照

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