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欲求不満場面における態度がストレス反応に与える影響―身体的反応に着目して― [ PDF

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Academic year: 2021

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問題と目的 ストレスの問題は,現代人に非常に身近なものであ り,個人の心身の健康に大きな影響を与えている。ス トレスとは,「身体的健康や心理的幸福感を脅かすと知 覚された出来事(丸山・白川,2006)」であり,その出 来事に対して起こる反応がストレス反応である。 同じ出来事に直面しても,それをストレスと捉える かは個人で異なるため,ストレス反応の発現の仕方も 異なると考えられる。ストレスへの感受性には,スト レスに対する抵抗力が関係している(丸山 ・白川, 2006 )。 ス ト レ ス に 対 す る 抵 抗 力 の 一 つ と し て , Rosenzweig(1944)は,欲求不満耐性を挙げている。 欲求不満について,Rosenzweig(1944)は,「有機体 が何らかの主要な要求の充足を求める過程で,多少と も克服しがたい妨害や障害に出会ったときに生じるの が欲求不満で,このような妨害のある状況をストレス と言い,これに対応する生体の不快が緊張である」と 定義した。そして,欲求不満耐性を「心理生物学的な 適応に失敗することなく,すなわち不適切な反応様式 によらずに,フラストレーションに耐える個人の能力」 と定義した(Rosenzweig,1944)。 欲求不満事態に陥ると,心の内側では様々な防衛機 制が生じるが,それを実験的に明確化する試みの中で できた心理検査に,欲求不満場面において人間がどの ように反応するかに注目したP-F スタディがある(青 木,2008)。P-F スタディでは,日常で遭遇するような 対人ストレス場面がイラストで提示され,反応内容は, アグレッションの方向及び型からそれぞれ3 つのタイ プに大別される。欲求不満場面において心身に生じる ストレス反応は,発現や自覚の仕方に個人差はあるも のの,行動面,心理面,身体面に同時に現れ,相互に 影響を及ぼすものである(野村,1992)。荻田・遠藤・ 山本・松本(1996)は,P-F スタディと CMI を用い て,アグレッションの型及び方向と心身症状の関連を 示している。これらのことから,どのようなアグレッ ションの型及び方向によって対人ストレス場面に対応 するかは,心身の状態に大きく関わると考えられる。 以上のことから本研究では,個人にとってのストレ ス反応が,個人が置かれている状況や,個人の認知, 感情,身体的反応,行動などとの相互作用において, どのように自覚されているのかに着目し,以下の3 点 を本研究における目的とする。 ①欲求不満場面における振舞い方がストレス反応の 自覚の仕方とどのように関連しているのか検討する。 ②欲求不満場面において,心の中でどんなことを感 じ,その上で,どのように振舞うのかという欲求不満 場面における態度がストレス反応の自覚の仕方とどの ように関連しているのか検討する。 ③欲求不満場面において心身に生じる反応は,個人 の置かれている状況や,個人の認知,感情,身体的反 応,行動などとの相互作用の中から,どのように位置 づけられているのかに着目し,欲求不満場面における 自己理解の仕方について検討する。 研究1 投影法で示される欲求不満場面における態 度と自覚されたストレス反応の関連 1.目的:P-F スタディを用いて,対人ストレス場面に おける態度とストレス反応の自覚の仕方の関連につい て検討する。 2.方法 1)調査協力者および調査手続き 調査協力 者:大学生50 名(男子 32 名,女子 18 名 平均 19.3 歳,SD = 1.95)調査手続き:事前に研究主旨を説明し, 協力に承諾する学生に調査を依頼した。調査は,2018 年7 月〜8 月に個別自記入形式で行った。 2)調査 内容①フェイスシート:性別,学年,学部を尋ねた。 ②P-F スタディ青年用(Rosenzweig,1948 林・一 谷・中田・秦・津田・西尾・西川,1987)③ストレス 反応尺度(尾関,1993):ここ 1 ヶ月の心身の状態や 行動について,4 件法(0:全くあてはまらない〜3:非常 にあてはまる)で回答を求めた。④ストレス状況にお

欲求不満場面における態度がストレス反応に与える影響

―身体的反応に着目して―

キーワード:欲求不満場面,対人ストレス,ストレス反応,心身相関 人間共生システム専攻 合原 弥邑

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ける身体反応:ここ1 ヶ月の対人ストレス場面につい て想起を求め,その時の身体の感じについて回答を求 めた。 3)倫理的配慮 書面及び口頭にて,研究主旨 や倫理的事項の説明を行った。協力者には,倫理的配 慮に関する文書と調査の教示文章,P-F スタディ,ス トレスに関する質問紙を封筒に入れて渡し,回収時は 封緘した封筒を回収した。また,質問等はメールで問 い合わせ可能であることを伝えた。 3.結果と考察 P-F スタディの各指標の数値とストレス反応尺度の 各下位尺度得点および総得点を用いて,相関分析を行 った結果を表1 に示す。 障害優位型(O-D)は,欲求不満場面において障害 を強調するだけの反応であり,欲求不満の解消には至 らないため,ストレス反応の自覚が高くなると推察さ れた。また,無責方向(M-A)は,ストレス反応の自 覚の高さと関連が示された。この結果から以下のこと が考えられる。1 点目は O-D 型の結果と同様に,M-A 方向の反応では欲求不満の解消には至らないことが影 響している可能性が考えられる。2 点目は,研究 1 に おいては調査協力者の発言のみに着目しており,内面 で感じていることは考慮できていないため,もし,内 面で感じていることと,言動との間に不一致が生じて いる場合,ストレス反応の自覚が高まる可能性が考え られる。したがって,内面で感じていることも含め, 欲求不満場面における態度を捉える必要がある。評定 因子について,他責固執(e)は欲求不満の解決を他者 に求め,自責固執(i)は欲求不満を自ら解決しようと する反応である(秦,2007)。研究 1 の結果から,ス トレス反応が自覚される程度の高低には,欲求不満場 面において,解決に向けた何かしらの対処行動をとる ことが関係していることが推察された。しかしながら, 研究1 においては,欲求不満場面における言動の背景 にある内面の状態は検討できていないため,研究2 に おいて,内面も含めて欲求不満場面における態度を検 討することとした。 研究2 外的反応と内的反応に着目した欲求不満場 面における態度と自覚されたストレス反応の関連 研究3 認知行動モデルで示される欲求不満場面に おける態度と自覚されたストレス反応の関連 1.目的:言動の背景にある心理状態も含めて欲求不 満場面における態度を捉え,それがストレス反応の自 覚の仕方とどのように関連しているのかについて検討 する。また,欲求不満場面において心身に生じる反応 は,状況や,個人の認知,感情,身体的反応,行動な どとの相互作用の中から,どのようにストレス反応と して関連付けて理解されるのかについて,伊藤(2008) の認知行動モデルを用いて,インタビュー調査により 検討する。特に,身体に生じる反応が,自分が置かれ ている欲求不満な状況や,そのときの自分の心の動き とどのように関連づけられているのかに着目して検討 を行い,欲求不満場面における自分自身の状態の理解 の仕方について考察する。 2.方法 1)調査協力者および調査手続き 調査協力 者:大学生7 名(男子 1 名,女子 6 名 平均 20.1 歳, SD = 1.36)調査手続き:調査は,2018 年の 12 月に行 った。研究1 で使用した P-F スタディ青年用とストレ ス状態を測定する質問紙調査を一対一の対面形式で実 施し,その後別日程でインタビュー調査を行った。 2)調査内容 研究1 と同様。P-F スタディにおいて は,外的反応としての発言内容に着目する標準的な実 施法に加えて,欲求不満場面において心の中で何を思 ったり考えたりしたかという内的反応に着目する質疑 法(秦,2007)も実施した。インタビュー調査では, 伊藤(2008)の認知行動モデルを用いて,質問紙にて 記述を求めた,ここ1 ヶ月で遭遇した対人ストレス場 面に関する 50 分間の半構造化面接を行った。 3) 倫理的配慮 書面及び口頭にて,研究主旨や倫理的事 項の説明を行った。P-F スタディについては,結果の フィードバックを希望する者には,調査の分析が全て 終了した後にフィードバックを行うことを説明した。 3.結果と考察 協力者A 氏~G 氏のうち,ストレス反応尺度の得点 が低かった B 氏,C 氏,得点が高かった G 氏の 3 名 の事例を取り上げて考察する。 情動的反応 認知・行動的反応 身体的反応 総得点 障害優位(O-D) .260 .247 .356* .312* 自我防衛(E-D) -.018 .031 -.060 -.017 要求固執(N-P) -.076 -.130 -.240 -.151 他責(E-A) -.194 -.093 -.109 -.156 自責(I-A) .145 -.006 -.086 .041 無責(M-A) .271 .282* .266 .301* 他責逡巡(E’) .187 .152 .271 .221 他罰(E) -.189 -.074 -.104 -.146 他責固執(e) -.217 -.181 -.336* -.264 自責逡巡(I’) .111 .008 -.133 .015 自罰(I) .170 .033 .050 .107 自責固執(i) -.332* -.359* -.413** -.400** 無責逡巡(M’) .026 .098 .112 .078 無罰(M) .171 .056 .010 .103 無責固執(m) .179 .095 .150 .162 ** p < .01,* p < .05 表1. P-Fスタディの各指標とストレス反応尺度の各下位尺度得点および総得点間の相関係数(n = 50) アグレッションの型 アグレッションの方向 評定因子

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障害優位 (O-D) 自我防衛 (E-D) 要求固執 (N-P) 合計 障害優位 (O-D) 自我防衛 (E-D) 要求固執 (N-P) 合計 他責 (E-A) 1(-) 0(-) 4(+) 20.8%(-) 他責 (E-A) 5 2 1 33.3% 自責 (I-A) 1(-) 6(+) 2 37.5% 自責 (I-A) 5(+) 1.5(-) 3.5 41.7%(+) 無責 (M-A) 0(-) 4.5 5.5(+) 24% 無責 (M-A) 3(+) 2(-) 1(-) 25% 合計 8.3%(-) 43.8% 47.9%(+) 100% 合計 54.2%(+) 22.9%(-) 22.9% 100% 場面 スコア スコア 3 m E' 11 M E' 13 m E 16 I I' 23 m E' はい,すみませんでした どうしよう,相手の人めっちゃ怒ってるよ… わかった。とりあえず荷物を邪魔になら ない場所に置こう。 さっきもお別れを言ったばかりだったような… まあ仕方ないかな 前の人,帽子が邪魔になってるのに気づいてくれ ないかな 大丈夫です 早く寝たい ではいつだとお会いできますか 聞いていた話と違うな… GCR値 46.2%(-) GCR値 7.7%(-) ※(+)は標準+1SD以上,(-)は標準-1SD以下。 反応内容 外的反応 内的反応 表4. C氏(P-Fスタディ) 外的反応 内的反応 【B 氏について】 表2 の通り,B 氏は,内的反応と外的反応の不一致が少なく,欲求不 満場面において,他者にアグレッションを感じることは少なく,状況を不可避の事態と捉え,自ら解決を図る態度を 取ることが示された。したがって,B 氏には,そもそも欲求不満が生じていないことや,生じていたとしても自ら対 処できるために,ストレス反応の自覚も低くなると考えられた。また,図1 の通り,B 氏は,欲求不満場面において, 自身が置かれている状況と,そこで自身に生じる反応とを関連付けることや,自身に生じる反応同士をそれぞれに関 連付けることで,自分の状態を理解していると考えられた。よって,B 氏は,自身のストレス体験を理解でき,何に どのように対処していけば良いか考えることができるために,ストレス反応の自覚も低くなると推察された。 【C 氏について】 表4 に示す通り,C 氏は,欲求不満場面において,内心では不満や当惑を抱きながらも,それを表出せずに謝罪し て対応することや,他者や時間の経過に解決を委ねる態度をとることが示された。また,図2 から,C 氏は,欲求不 満場面において,自分の思考などの認知的側面は意識しやすいが,そこで自分が感じている感情や身体的反応は,意 識しにくいと考えられた。特に,自分の身体の反応や感覚については,ストレス状況と結び付けた理解が難しいこと が窺われた。よって,C 氏は,ストレス反応尺度の得点が低いものの,それには,欲求不満場面に対して,“なるよう にしかならない”と考えて自身に生じる欲求不満を軽視し,トラブルに発展しないよう穏便に済ませようとする態度 を取ることで,自分の心身に生じている反応に気づかないままで過ごしていることが関係していることが推察された。 障害優位 (O-D) 自我防衛 (E-D) 要求固執 (N-P) 合計 障害優位 (O-D) 自我防衛 (E-D) 要求固執 (N-P) 合計 他責 (E-A) 2 1(-) 2 20.8%(-) 他責 (E-A) 4.5 2(-) 1.5 34.8% 自責 (I-A) 5(+) 1.5(-) 4(+) 43.8%(+) 自責 (I-A) 2.5 4 1 32.6% 無責 (M-A) 0.5 6(+) 2 35.4% 無責 (M-A) 2 5(+) 0.5(-) 32.6% 合計 31.3% 35.4%(-) 33.3%(+) 100% 合計 39.1% 47.8% 13%(-) 100% 場面 スコア スコア 2 I/i I/i 4 M M 11 M M 14 M M 24 M M 反応内容 元気な赤ん坊だな笑 いくつぐらいなんだろう? しょーがない。ミスは誰にでもある。 内的反応 申し訳ないことをしてしまった。 しっかりお母様に謝ろう。 車の故障はしょうがないことだから 全然気にしなくて大丈夫ですよ。 大丈夫かな。 天気も悪いし,どこかで事故に遭っていなかったら いいけど。 全然大丈夫ですよ。 気になさらないでください。 何かあったんですかね…心配です そうなんですね。それは大変でしたね。 外的反応 そうなんですか! すいません,それでは今からお母様の 所に謝りに行って参ります。 いえいえ,構いませんよ。お送りして いただいてありがとうございました。 ※(+)は標準+1SD以上,(-)は標準-1SD以下。 表2. B氏(P-Fスタディ) 外的反応 内的反応 GCR値 53.8% GCR値 33.3%(-) 情動的反応得点 認知・行動的反応得点 身体的反応得点 総合得点 7点 1点(-) 3点 11点(-) 表3. B氏(ストレス反応尺度) ※(+)は研究1における平均値+1SD以上,(-)は研究1における平均値-1SD以下。 ・ 出番の少ない役の人が手伝ってくれた。 立ち位置に困った時などに,台本を書いた人に聞いてくれた。 ・ 本番になれば,まあどうにかなるかなあと思った。一緒に劇に出た人が本番 に強い人ばかりだったので,この人たちとならどうにかなりそうと思えた。 認知:頭の中の考えやイメージ ・ あみだくじで役決めをした際に,準主 役を引いてしまった →「外れ引いたな…」 ・ 何で 5 分間を埋めるために余興をし なければいけないんだろう… 気分・感情 ・ 本番が近づくにつれて 結構憂鬱な気持ち ・ どうにかなるかなあと いう気持ち(本番はそう 思って乗り切った) 身体的反応 特になし。 普段も 8 時過ぎには学内にいるので, 疲れたりすることはなく,そこまで大変 ではなかったと思う。 行動 ・ 通学中にバスの中で台本を頑張って覚えた。 ・ 毎週曜日を決めて朝 8 時くらいから練習した。 ストレスを感じる出来事や変化 (自分・他者・状況) 部活のイベントで,出し物をしなくて はいけなかった。 ・ 5 分くらいの劇で,間を繋ぐためのもの だった。 ・ 毎年一年生が担当していて,去年は好評 だったらしい。 サポート資源 いろいろ手伝ってくれた友達 :もともと仲が良かった。家も近いの で,帰りのバスで話したりしていると きに,アドバイスをくれたりした。 物事にもよるけど,なるよ うにしかならないと思う。 コーピング(対処法) 状況 練習を始めたのが直前だったの で微妙に完成していなかった。 直前に台本がコロコロ変わって セリフが覚えられなかった。 去年の先輩は 2 ヶ月くらい練習していたらしい。 自分たちは直前の 3 週間くらいに押し込んでし まった…先輩より費やした時間は短いと思う…。 本番を終えて… セリフをたくさん飛ばしてしまった人がいて,どうしたらいいか困ってしま う部分もあったけど,どうにか終わって良かった。でも,今回の劇の動画を来年の一年生に見 せなきゃいけないので,それが一番きつい…。 図 2 C 氏(インタビュー内容) 情動的反応得点 認知・行動的反応得点 身体的反応得点 総合得点 5点(-) 2点(-) 1点 8点(-) 表5. C氏(ストレス反応尺度) ※(+)は研究1における平均値+1SD以上,(-)は研究1における平均値-1SD以下。 認知:頭の中の考えやイメージ ・ 相手の話をどう終わらせにかか ろうか? ・ 相手が言ってほしいことは何か な?言ってほしいことを言って あげよう。 気分・感情 ・ 時間がすごく長く感じた。 他の人ともペアになったことはあ るが,この相手と話しているとき が特に時間が長く感じた。 ・ きついなあ。 身体的反応 ・ 無理矢理気持ちを上げようとするか ら落ち着かない身体の感じ。 ・ それまではどっしりと座っていたけ ど,身体が前のめりになったり,手を 動かしたりしていた。 行動 ・ 相手が言ってほしいことを言った。 ・ 相手を褒めた。(「それすごいね!」とか) ストレスを感じる出来事や変化 (自分・他者・状況) 興味があまりない話を聞かされた。 ・ 同じ学部だが,そんなに話したことがない人 と話しているときだった。 (決められた時間の中で話すような活動でペ アになった相手だった) ・ 自慢話のような内容の話だった。 サポート資源 自分の考え方 :普段から良いところをよく考 えるようにしている。嫌なことが あっても,次は良いことがある し,良いことがあるとそれが連鎖 していくと考える。良い部分を見 つけるようにしていると,嫌な気 持ちが頭の中からなくなる。 話を聞いていて相手に嫌悪感を感じることに対して,なるべく その相手の良い部分を考えるようにした。 コーピング(対処法) 状況 無理矢理気分を盛り上げようとする感じ。 自分のきつい気持ちも上げようとした。 それで首が重くなった。首におもりが 乗ったような感覚がした。 姿勢から来るものだったと気づいた。 無理に落ち着かせようとはしなかっ た。無理に動きを止めるとムズムズし てくる感じがした。 図 1 B 氏(インタビュー内容)

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【G 氏について】 表6 より,G 氏は,欲求不満場面において,内心では様々に感じたり考えたりしていることがありつつも,言動に はそれが十分に表現されないのだと考えられた。また,心の中で感じていることが十分に表出されないために,どの ように感じたり考えたりしているのかが相手から判断しづらい態度を示すことに繋がっていることが推察された。こ のように,内面と言動に不一致が生じており,また,自分の思いや考えが伝わりにくいことによって,欲求不満が解 消されないために,ストレス反応の自覚が高まると考えられた。また,G 氏は,図 3 より,欲求不満場面において, 極端な対処を取ることにより,欲求不満の解消が困難になり,それがG氏にとってのストレスに繋がることが推察さ れた。また,G氏は,情動的側面のネガティブな変化から身体的な不調を意識しやすいなど,欲求不満場面において, 自身に生じるネガティブな変化や反応だけを意識化しやすく,よって,それらをストレス反応が自覚される程度が高 くなるのだと考えられた。 総合考察 研究1~3 を通して,欲求不満場面における態度とストレ ス反応の自覚の仕方には,関連が示された。研究1 より,欲 求不満場面における解決に向けた行動の有無がストレス反応 の自覚の高低に影響を与えることが示され,研究2,3 より, 自身の内面の感情と,言動とに不一致がある場合,ストレス 反応の自覚が高くなる可能性が示された。また,研究2,3 か ら,欲求不満場面において,心と身体の繋がりに着目して, 自身の状態を理解することがストレス反応の自覚の仕方と関 連していることが示された。しかしながら,本研究では,ス トレス状況における自身の認知面のみに着目し,感情や身体 的反応を自身や状況と切り離して理解する者においてもスト レス反応の自覚が低いという結果も示された。また,心と身 体の繋がりに着目していても,そこでの自分の状態の理解の 仕方には個人差があることも示された。このように,欲求不 満場面における自己理解の仕方には個人差が示されたため, 今後,その個人差に関係する要因や,その個人差によって生 じる影響についても検討が必要であると考えられる。また, 日常生活で遭遇する様々なストレスに対処していくうえで, 心と身体の繋がりに着目して自身の状態を理解することの有 用性を検討し,ストレスに対する予防的アプローチや,スト レスマネジメントについての示唆を得ることに寄与したい。 文献 青木佐奈枝(2008)P-F スタディ 小川俊樹(編集)現代のエスプ リ別冊 投影法の現在,至文堂,pp.175-184 秦一士(2007)新訂P-F スタディの理論と実際,北大路書房 林勝造(代表)(2007)P-F スタディ解説2006 年版,三京房 伊藤絵美(2008)事例で学ぶ認知行動療法,誠信書房 丸山愛子・白川佳子(2006)社会に適応すること 山崎晃・浜崎隆司(編著) 新・はじめて学ぶ心の世界,北大路書房,pp.201-220 野村忍(1992)ストレスがもたらす身体反応 教育と医学,40(1),997-1002 荻田純久・遠藤史子・山本玲子・松本和雄(1996)大学生の心身保健学的考察 (第1 報)−P-F スタディと心身症状との関連から− 第38 回日本教育心理学 会総会発表論文集,545 尾関友佳子(1993)大学生用ストレス自己評価尺度の改訂−トランスアクショ ナルな分析に向けて− 久留米大学大学院比較文化研究科年報,1,95-114 Rosenzweig,S.(1944)An outline of frustration theory. In J.M.Hunt(Ed.)

Personality and the Behavior Disorders. New York : Ronald Press. pp379-387 サポート資源 コーピング(対処法) 認知:頭の中の考えやイメージ ・ 仕事量の差が大きすぎる。なぜ私が? 何も係についていない人もいる。 ・ 何で部活をしているんだろう?と思った。 辞めようと思った。 ・ 部活を続けるとしても,来年はもう絶対係 はしない。人の言うことは聞かないで自由 にやっていこう。 気分・感情 ・ しんどい気持ち(つらい) ・ 頑張れば頑張るほど空回りして, 居心地が悪い ・ リーダーにどうせわかってもらえ ないだろう… 身体的反応 ・ つらい気分(頭で感じた) 泣いた。涙が出た。無気力。 ・ 耳鳴りや頭痛もあった。 (このせいかはわからないけど…) 行動 ・ 地元の友達に連絡した。 ・ 日記を書いた。 ・ 部員に呼び掛けてみんなを集めてから 決めなければいけなかったが,それをし なかった。 ストレスを感じる出来事や変化 (自分・他者・状況) 部活で係をしていて,板挟みになった。 ・ 他大学と合同で開催するイベントの係。 ・ 係は 3 人でやっている。 ・ イベントに向けて,決めないといけないこと があったので,他の部員に呼び掛けて一緒に 決めるようにリーダーから言われた。LIN Eで呼びかけるも,部員からの反応はなく, 居心地が悪かった。 地元の友達:その友達の大学と合同 でイベントを開催する。その友達は, 自分の良くない面も知っているが, それでも一緒にいてくれる。 大学の友達:同じ部活。交換日記を渡 した友達。話を聞いてくれた。 日記(交換日記):嫌だったことを書いたが, 人に見せるのは良くないと思って上から紙 を貼って別のことを書いた。書いたら翌日 には吹っ切れた。 音楽:好きな音楽。歌う,聴く,演奏 すること含めて。 決めないといけないことが 決まった。 ・ 地元の友達に連絡した。 ・ 日記を書いた。 ・ リーダーと仲良くすることを諦めた。 リーダーのことは,不満があってもそれを我慢して抱える人だから好きだったのに,SNS に 投稿するなんて…。そうする自分が嫌だってことも言っていたのに…。嫌いなら嫌いと直接 言ってくれた方が良いのに…。 状況 係の仕事は,あまりやる気がなかったが頼まれたので引き 受けた。やる気があって日受けていたらまた違ったかもし れない。今は部活に対してあまりやる気がないし,兼部を始 めたので,ほかにも居場所や逃げ場はあると感じる。 リーダーのことは,大学で一番仲の良い友達だと思っていたが, SNSに自分の悪口を書かれていたと知り,交友関係は諦めた。 部活が班に分かれて活動しているので,自分の班 の 1・2 年生のLINEグループを作らなければ いけなかったが,グループを作ろうと班の人と話 したところで終わっていて,実際にグループを作 って呼びかけるのが遅くなった。 しんどい・つらい度 80% 今は 15~20%。ちょっとつらい。 …。) 図 3 G 氏(インタビュー内容) 情動的反応得点 認知・行動的反応得点 身体的反応得点 総合得点 29点(+) 21点(+) 21点(+) 71点(+) 表7. G氏(ストレス反応尺度) ※(+)は研究1における平均値+1SD以上,(-)は研究1における平均値-1SD以下。 障害優位 (O-D) 自我防衛 (E-D) 要求固執 (N-P) 合計 障害優位 (O-D) 自我防衛 (E-D) 要求固執 (N-P) 合計 他責 (E-A) 2.5 2 1.5 25% 他責 (E-A) 4.5 3 3.5(+) 45.8% 自責 (I-A) 1(-) 5.5(+) 2.5 37.5% 自責 (I-A) 4.5(+) 3 1 35.4% 無責 (M-A) 3(+) 3.5 2.5 37.5% 無責 (M-A) 2 1.5(-) 1(-) 18.8%(-) 合計 27.1% 45.8% 27.1% 100% 合計 45.8%(+) 31.3%(-) 22.9% 100% 場面 スコア スコア 1 E':M' e 2 I I/i 11 E':M' E' 17 I I'//e 24 M E 申し訳ありません 不注意で申し訳ないことをしてしまった。どうやってお詫びしようか。 表6. G氏(P-Fスタディ) 外的反応 内的反応 GCR値 53.8% GCR値 26.9%(-) ※(+)は標準+1SD以上,(-)は標準-1SD以下。 反応内容 外的反応 内的反応 そうでしたか クリーニング代払ってほしいなぁ そうでしたか。分かりました。 眠い。出なければ良かった。 ごめんなさい キー,どこにやったかなぁ…。どうしようもないしタクシーで行ってもらおう。 仕方ないですね… ちゃんと管理してほしかった。 仕方ないけど弁償してほしい。 でも貸した自分も悪かった。やっぱり人に貸す時は 返ってこないものだと思わないといけないなあ。

参照

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