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福岡平野東縁部に位置する
宇美断層の特徴について
下山正一
*1磯 望
*2千田 昇
*3岡村 眞
*4松岡裕美
*4池田安隆
*5松田時彦
*6竹中博士
*1石村大輔
*7松末和之
*8松山尚典
*8山盛邦生
*8A study of characters of the Umi fault along the eastern margin of the Fukuoka Plain, southwest Japan
Shoichi Shimoyama*1 Nozomi Iso*2 Noboru Chida*3 Makoto Okamura*4 Hiromi Matsuoka*4 Yasutaka Ikeda*5 Tokihiko Matsuda*6 Hiroshi Takenaka*1
Daisuke Ishimura*7 Kazuyuki Matsusue*8 Hisanori Matsuyama*8 and Kunio Yamamori*8
Abstract
The Umi fault was first described by Ikeda et al. (2004) as an active fault of about 9km in length. Fukuoka Prefectural Government organized a research committee for examination and investigation of the Umi fault in 2005. The present study is based on air-photograph analysis, geological and topographical field surveys, sound-reflection surveys in the marine areas, drilling and trenching, and tephrochronological studies. Some characters of the Umi fault are clarified through this intensive study.
The Umi fault extends father north and south than was previously known, but it does not extend as far north as Hakata Bay and the Genkainada Sea. The length of the fault is 17km at least. The average vertical slip rate in the late Quaternary is estimated to be 0.02-0.03m/kyr (Activity Rank C in Matsuda 1975). This slip rate of the Umi fault is lower than those of the neighboring Kego and Nishiyama faults. The last activity of the fault was confirmed to be younger than 4300y.B.P. by the trenching study at Yamaura.
The average recurrence interval of the activity is estimated at 29 kyr. This estimation is based on the assumption that the observed slip at the Yamaura trench (0.6m) occurred in one earthquake event and that the slip at Uenohara (1.9m), which is observed on middle terrace surface, formed immediately after the Aso-4 pyroclastic flow, is a result of repeated earthquake events of the same size slip.
活断層研究 29号 59〜70 2008 *1 九州大学大学院理学研究院 *2 西南学院大学人間科学部 *3 大分大学教育福祉科学部 *4 高知大学理学部 *5 東京大学大学院理学系研究科 *6 地震予知総合研究振興会 *7 京都大学大学院理学研究科 *8 応用地質株式会社
*1 Graduate School of Sciences, Kyushu University *2 Faculty of Human Sciences, Seinangakuin University *3 Faculty of Education and Welfare Science, Oita University *4 Faculty of Science, Kochi University
*5 Graduate School of Science, the University of Tokyo *6 Association for the development of earthquake prediction *7 Graduate School of Science, Kyoto University *8 Oyo Corporation CO., LTD
第1図 福岡市周辺の活断層の分布図
Fig. 1 Distribution map of active faults in and around Fukuoka City.
1 はじめに
北部九州では古第三紀層を切るNW-SE系の地質境界断 層が多く分布している(久保ほか,1993).そして,この 地質境界断層群にほぼ一致するように,活断層群が分布し ている.それらの活断層群は,西より警固断層,宇美断層, 西山断層,福智山断層,小倉東断層と呼ばれ,小倉東断層 以外はNW-SE系の活断層であるが,小倉東断層はこれら と共役関係にある活断層でNE-SW系である(九州活構造 研究会,1989;渡辺,1989;千田ほか,1996;渡辺ほか, 2002;池田ほか,2004など).これらのことより,北部九 州の活断層は,古第三紀層を切る地質境界断層が第四紀後 期に再活動したものと考えられる(下山,2007). 今回注目した宇美断層は都市圏活断層図「太宰府」(池田 ほか,2004)において初めて示された活断層で,池田ほか (2004)によると全長約9kmで,西側隆起を伴う.また宇 美断層の位置は福岡平野東縁にあり,その反対側には同じ く活断層である警固断層が存在する(第1図).2005年の 福岡県西方沖地震は,警固断層の北部延長部が活動して生 じたと考えられて,その影響は警固断層だけでなく宇美断 層にも及ぶと考えられる(福岡県,2006).しかし,宇美 断層は地形学的に認識されたが,通過位置および長さ,そ れに活動度が不明であった.そのため,福岡県が宇美断層 調査検討委員会を設置して,2005,2006年度に調査を行い, 2007年に報告書が完成した(福岡県,2006,2007). 本稿は宇美断層の通過位置および長さ,それに活動度に ついて,おもに福岡県宇美断層調査検討委員会(福岡県, 2006,2007)の調査結果を記述し,あらためて議論したも のである.2 宇美断層の概要
福岡平野は東西を地質境界断層で挟まれた構造性凹地 である.その東縁には古第三紀層と三郡変成岩および白 亜紀花崗岩とが接する地質境界断層が存在し(山口ほか, 1983,1984;唐木田ほか,1994),この地質境界断層がほ ぼ宇美断層と一致している.地質境界断層は西傾斜で西側 に新しい地層,東側に古い地層が接しているので,西(平 野側)下がり東(山地側)上がりの正断層であったと考え られる.しかし,池田ほか(2004)は,現在福岡刑務所の ある高位段丘面上で,明瞭な西上がりの逆向き低断層崖を 認めた.したがって現在の宇美断層は,西上がり東落ちの 逆断層である.このことから千田(2006),下山(2007) は地質時代における応力場の変化あるいは逆転を指摘して いる.動きのセンスから,宇美断層は北部九州に多く存在 するNW-SE系の断層と同様の,西上がりを伴う左横ずれ 断層だと考えられている.西上がりの逆向き低断層崖が認 められた福岡刑務所のある高位段丘面付近を除くと,宇美 断層の南北延長部には,リニアメントはあるものの明瞭な 活断層地形や活断層露頭が認められず,はっきりとした通 過位置がわかっていない.また,宇美断層の全長について も明らかにされていない.3 調査結果
第2図に調査範囲を示す.池田ほか(2004)で示された 宇美断層を宇美断層中央部とし,南北をそれぞれ,北部延 長部,南部延長部と呼ぶことにする.福岡県の調査におい て,2005年度は,宇美断層の通過位置や変位量を求めるた めに主に中央部での地形・地質調査の他,群列ボーリング やトレンチ調査が行われた(福岡県,2006).2006年度には, 2005年度の結果を踏まえて,主に宇美断層の北部延長部で の反射法探査,群列ボーリング,トレンチ調査,海上音波 探査が行われたほか,南部延長部での地形調査が行われた (福岡県,2007). 3.1 断層露頭 須恵町上須恵(第2図のLoc.1)で第四紀の砂礫層を切 る断層が発見された.これは古第三紀層とその上の第四紀 層を切っているもので,走向・傾斜がN38°W,48°Sの西上 がりの逆断層であった.第四紀層は赤色土化しており,礫 はクサリ礫化していた.この特徴は北部九州の高位段丘礫 層に共通している(松井,1963)が,火山灰など直接年代 を知ることのできる試料は得られなかった.また,断層粘 土を伴っているが破砕帯は伴っていない.この地点は池田福岡平野東縁部に位置する宇美断層の特徴について 活断層研究 29号 61 ほか(2004)で示された宇美断層位置よりも西に300mず れており,地質境界断層ではないため,副次的な断層であ る可能性がある.ただしリニアメントと一致しており,断 層主部がこの地点を通る可能性は十分にあると考えられ る. 3.2 ボーリング調査 福岡県(2007)の調査ではLoc.2,Loc.3,Loc.4で断 層を横断する群列ボーリングが行われ,宇美断層の通過位 置や垂直変位量が明らかになった(第3図). 宇美町上の原(Loc.2)では低位段丘面上で断層トレー スに直角方向に,100m間隔で2列の群列ボーリングが行 われ,古第三紀層と白亜紀花崗岩の地質境界断層とその破 砕帯が検出され,その断層が基盤上面とその上の段丘構成 層を変位させていることが確認された.2列の群列ボーリ ングのうち,北側の測線では地形の変位は明瞭ではなかっ たが,群列ボーリングの中央でコア中に上位から第四紀砂 礫層,古第三紀の砂岩・頁岩,第四紀砂礫層,花崗岩が並 び,西傾斜の断層面を打ち抜いたことが確認できたことか ら,断層位置が特定された(第4図,第5図).基盤の垂 直変位量は約0.5mであった.南側測線では,変位量を直 接知ることができなかったが,基盤上面の高度差は約1.2m と推定された.しかし,この断層がどこまで段丘構成層を 切っているのかはわからなかった.また,段丘構成層の 年代は,火山ガラス分析によって砂礫層中からATテフラ が検出されていることから,この段丘面はATテフラ降灰 (約26-29ka:町田・新井,2003)以後に形成されたと考え られる. Loc.3はLoc.2からの宇美断層南東延長線上の中位段丘 面上の地点である.第4図の地形断面では中位段丘面上に は明らかな西上がりの逆向き低断層崖が認められ,段丘面 の垂直変位は1.9mである.古第三紀層と白亜紀花崗岩の地 質境界断層は露出していないが,Loc.3で断層を挟んで群 列ボーリングが行われた.ボーリングの結果,中位段丘構 第2図 宇美断層周辺の地質と活断層線 1 :古第三紀堆積岩 2 :白亜紀花崗岩 3 :三郡変成岩 4 :トレンチサイト 5 :活断層線(千田ほか,1996;池田ほか, 2004) 6 :本調査で明らかになった活断層線 7 :推定活断層線 8 :海上音波探査の範囲 □枠は第 3 図および第13図の範囲 を表す.
Fig. 2 Geological map and an active fault line in and around the Umi fault area.
1: Paleogene sedimentary rocks, 2: Cretaceous granitic rocks, 3: Sangun metamorphic rocks, 4: Trench sites, 5: Active fault line (Chida et al., 1996; Ikeda et al., 2004), 6: Settled active fault line which became clear by this study, 7: Estimated extention of active fault line, 8: Dotted flame area is the range of marine sound wave inquiry in the Hakata bay, □-frame expresses ranges of Figs. 3 and 13.
第3図 宇美断層中央部におけるトレンチ・ボーリングサイトの詳細位置及び地形区分・断層線図
1 :沖積低地 2 :低位段丘面 3 :中位段丘面 4 :高位段丘面 5 :活断層(位置やや不明瞭) 6 :活断層 7 :活断層 (伏在部) 8 :ボーリングサイト 9 :トレンチサイト
地形区分・断層線は池田ほか(2004)による.
Fig. 3 Map shows the detailed position of the trenching site (Loc.5), boring sites (Locs. 2, 3 and 4), geomorphological classification and fault line in the central part of the Umi fault area (added to Ikeda et al., 2004).
1: Alluvial low land, 2: Lower terrace, 3: Middle terrace, 4: Higher terrace, 5: Estimated active fault line, 6: Settled active fault line, 7: Active fault line (lies under sediments), 8: Boring sites, 9: Yamaura trenching site.
第4図 上の原地区の低位段丘(Loc.2)および中位段丘(Loc.3)上での地形断面(福岡県,2006,2007より一部改変)
Fig. 4 The geomorphological section on the Lower (Loc. 2) and Middle (Loc. 3) terraces in Uenoharu district (partly changed from Fukuoka Pref., 2006 and 2007).
福岡平野東縁部に位置する宇美断層の特徴について 活断層研究 29号 63 成層と古第三紀層と白亜紀花崗岩を確認し,断層を挟み込 むことができた(第6図).さらに,地形勾配に基づく基 盤上面の垂直変位量は約5.7m,上にのる中位段丘構成層 上面の変位量が約2.4mであると推定された.ボーリング コアからは段丘構成層の年代値を直接知る試料は得られな かった.しかし,Loc.3の約300m南西の地点の露頭で中 位段丘構成層とそれを覆う黄色細粒土(ローム)層が発見 され,これらの火山ガラス分析が行われた.その結果,黄 色細粒土層はK-AhとATテフラの火山ガラスを混入してお り,溝田ほか(1992)で報告された風成塵起源の風積土に 酷似する.中位段丘構成層は礫層で,最上部のみ基質支持 の礫層で基質は橙色粘土である.この橙色粘土からは多く の自形で粗粒の角閃石と磁鉄鉱のほかハイドレーションの 進んだ微量の火山ガラスが検出された.自形鉱物が多いこ とより橙色粘土は火山灰起源のものであると考えられる. 角閃石と濃い色ガラス,それと磁鉄鉱を含む火山灰の特徴 は北部九州の主要テフラのうちAso-4火砕流堆積物の特 徴と一致する.火山ガラスが少ないのは風化により火山ガ ラスが加水分解されて橙色の粘土(アロフェン)に変化し たためであると考えられる.色調は北部九州のAso-4火 砕流堆積物のサブユニット,鳥栖ローム層と八女粘土層 のうち鳥栖ローム層(Aso-4b)に一致する(郷原ほか, 1964;町田・新井,2003)ので,中位段丘構成層の最上部 の橙色粘土まじり礫層はAso-4テフラ層準(あるいはそ の直後)と考えられる.よって,中位段丘構成層上面の形 成年代はAso-4火砕流時の約90ka(松本ほか,1991;町 田・新井,2003)あるいはその直後である. 宇美町障子岳の福岡刑務所付近(Loc.4)は池田ほか (2004)により宇美断層が認められるきっかけとなった高 位段丘面上の地点である.ここで断層を挟んで群列ボーリ ングが行われた.地表には古第三紀層と白亜紀花崗岩の間 の地質境界断層の露頭はないがボーリング調査により両方 の地層が確認され,境界位置に断層破砕帯も確認できた (第7図).その基盤上面の勾配より推定される垂直変位量 は約9.2mであった.この値は,現在,土地改変のため失 われた西上がりの逆向き低断層崖の変位量を改変前の地形 図から読み取った値である約8mと調和的であった.ただ し,この段丘構成層の年代を正確に知るための試料は得ら れなかった. 3.3 トレンチ調査結果 宇美断層のトレンチ調査が山浦と江辻の2箇所で行われた. Loc.5の山浦地区のトレンチ調査は,明瞭な変位地形が 認められた高位段丘の南の,太宰府市大字北谷字山浦の沖 積地で行われた(第3図).ここではまず,断層トレース をまたぐ方向で群列ボーリングが行われた.基盤上面のず れが認められた箇所でトレンチが掘られ,断層が出現した. トレンチの壁面図を第8図に,写真を第9図に示す.第8 図に示したように地層は,上から人工改変土,第四紀砂礫 層,古第三紀層,白亜紀花崗岩となっており,トレンチ壁 第5図 上の原地区の低位段丘(Loc.2)での断層を挟んだ地質断面(福岡県,2006,2007より一部改変) 1 :耕作土 2 :黄色細粒土層(ATガラスを含む) 3 :礫混じり土 4 :砂礫層(低位段丘構成層) 5 :古第三系(濃い部分 が破砕帯) 6 :花崗岩(濃い部分が破砕帯) 7 :活断層(実線は確認,破線が推定) 8 :ボーリング位置 縦:横= 1:1 Fig. 5 Geological section across the fault on the Lower terrace (Loc.2) in Uenohara district (partly changed from Fukuoka, 2006 and 2007). 1: Cultivation soil, 2: Yellow fine grain soil (including AT volcanic glasses), 3: Soil with Gravels, 4: Gravels (the Lower terrace deposit),
5: Paleogene sedimentary rocks (the dark part is a crush zone), 6: Granitic rocks (the dark part is a crush zone), 7: Active fault (solid line is confirmed, dashed line is estimated), 8: Boring sites, The ratio of length and breadth is 1 : 1.
面には明瞭な西上がり逆断層形態の活断層が観察された. この断層は古第三紀層と白亜紀花崗岩の地質境界断層であ り,上の第四紀砂礫層を切っていた.第四紀砂礫層の14C 年代値は約4,300年前を示しており,その基底面の垂直変 位量は約0.6mである.さらに,火山灰分析の結果,K-Ah(約 7.3ka:町田・新井,2003),ATテフラの混入が確認され たためK-Ahテフラの降灰以降と考えられる.これらをま とめると,宇美断層は約4.3千年前以降に少なくとも1回 第6図 上の原地区の中位段丘(Loc.3)での断層を挟んだ地質断面(福岡県,2006,2007より一部改変) 1 :黄色細粒土層(K-Ah,ATガラスを含む) 2 :礫混じり土(Aso-4ガラスを含む) 3 :砂礫層(中位段丘構成層) 4 :古 第三系 5 :花崗岩 6 :活断層(推定) 7 :Aso-4層準 8 :ボーリング位置 縦:横= 4:1
Fig. 6 Geological section across the fault on the Middle terrace (Loc.3) in Uenohara district (partly changed from Fukuoka Pref., 2006 and 2007) .
1: Yellow fine grain soil (including K-Ah and AT volcanic glasses), 2: Soil with Gravels (including Aso-4 volcanic glasses), 3: Gravels (the Middle terrace deposit), 4: Paleogene sedimentary rocks, 5: Granitic rocks (the dark part is a crush zone), 6: Active fault (estimation), 7: Boring sites. The ratio of length and breadth is 1 : 4.
第7図 山浦地区の高位段丘(Loc.4)での断層を挟んだ地質断面(福岡県,2006,2007より一部改変)
1 :人工改変土 2 :砂礫層(高位段丘構成層) 3 :古第三紀堆積岩 4 :花崗岩 5 :推定される断層の範囲(断層の傾斜は 山浦トレンチによる) 6 :推定基盤上面 7 :ボーリング位置,白抜き部分は破砕帯 縦:横= 1:1
Fig. 7 Geological section across the fault on the Higher terrace (Loc.4) in Yamaura district (partly changed from Fukuoka Pref., 2006 and 2007).
1: Artificial altered soil, 2: Sand and Gravel layer (the Higher terrace deposit), 3: Paleogene sedimentary rocks, 4: Granitic rocks, 5: Active fault (estimation), White band is a crush zone, 6: Estimated basement top, 7: Boring sites. The ratio of length and breadth is 1 : 1.
福岡平野東縁部に位置する宇美断層の特徴について 活断層研究 29号 65 活動したことが明らかである(福岡県,2006).なお,こ のトレンチでの横ずれが断層粘土の条線に基づいて議論さ れたが多くの異なる方位が認められたため,横ずれ成分は 不明である. Loc.6の江辻地区のトレンチ調査が,宇美断層の北西延 長部である福岡県糟屋郡粕屋町大字江辻で行われた(第2 図).ここは,千田ほか(1996)では図幅外のために図示 されていなかった場所で,下流側が微高地となっている沖 第8図 山浦地区(Loc.5)のトレンチ壁面図(福岡県,2006より一部改変) 1 :盛土 2 :砂礫層 3 :頁岩 4 :炭質頁岩 5 :砂岩 6 :断層粘土 7 :破砕を受けた花崗岩 8 :花崗岩 グリッドは 1 m間隔
Fig. 8 Sketch of trench walls at Yamaura trenching site (Loc. 5) (partly changed from Fukuoka Pref., 2006)
1: Artificial reclaimed soil, 2: Sand and Gravel layer, 3: Shale, 4: Coaly shale, 5: Sandstone, 6: Fault gouge, 7: Crushed granitic rock. 8: Granitic rock, Grid space is 1 m.
第10図 江辻地区(Loc.6)のトレンチ壁面図(福岡県,2007より一部改変)
1 :旧砂礫層 2 :シルト岩 3 :凝灰岩 4 :破砕を受けた石炭 5 :粘土(破砕による) 6 :頁岩 7 :14C年代測定試料 採取場所
グリッドは 1 m間隔
Fig. 10 Sketch of trench walls at Etsuji trenching site (Loc. 6) (partly changed from Fukuoka Pref., 2007)
1: Older sand and gravel layer, 2: Siltstone, 3: Tuff, 4: Crushed coal, 5: Clay (by the crush), 6: Shale, 7: Sampling point for 14C dating. Grid is a 1m interval.
積面上である.前調査として反射法探査,群列ボーリング を行い,基盤上面のずれが認められた箇所で二段のトレン チが掘られた.その二段目の壁面図と写真を第10図および 第11図に示す.図と写真で示したように古第三紀層中に西 傾斜の破砕帯が存在する.トレンチ最下部では,その破砕 帯中の断層粘土を伴う断層が第四紀砂礫層(旧砂礫層1) の基底部分を切っていたため,西上がり逆断層形態の活 断層が確認された.この垂直変位量は約0.06mである.た だし,この場所のトレンチは約6mと深く,地下水位が高 く,周囲が砂礫層であることから,掘削後湧水に伴う崩壊 が激しく,壷状に掘られた二段目の観察時間が数時間しか とれなかった.断層に切られた第四紀砂礫層の年代につい て検討した.第10図に示したように,断層に切られている 砂礫層中の木片の14C年代値は20,870±140yBPを示してい る.一方,火山ガラス分析の結果,K-Ahガラスは認めら れずATガラスのみ混入が認められた.これらを総合する と,約2万年前以降に少なくとも1回活動したことが明らか である(福岡県,2007).しかし,この砂礫層のさらに上 第9図 山浦地区(Loc.5)のトレンチ北壁面における断層の拡大写真(福岡県,2006に加筆) RS:盛土 Qg:第四紀砂礫層 Tr:第三紀頁岩層 Gr:白亜紀花崗岩
Fig. 9 Macrophotograph of the trench north wall at Yamaura trenching site (Loc. 5) (partly changed from Fukuoka Pref., 2006) RS: Artificial reclaimed soil, Qg: Quaternary sand and gravel layer, Tr: Tertiary shale layer, Gr: Cretaceous granitic rock
第11図 江辻地区(Loc.6)のトレンチ南壁面最下部に出現した断層の写真(福岡県,2007に加筆) Qg1:第四紀砂礫層 Tr:第三紀シルト岩,凝灰岩,石炭層(黒)
Fig. 11 Photograph of the lowest part of the trench south wall at Etsuji trenching site (Loc. 6) (partly changed from Fukuoka Pref., 2007) Qg1: Quaternary sand and gravel layer, Tr: Tertiary shale, tuff and coal (black) layers.
福岡平野東縁部に位置する宇美断層の特徴について 活断層研究 29号 67 位の砂礫層および境界が断層によって切られた証拠は得ら れなかった. 3.4 海上音波探査 宇美断層の北側延長部分を確認するため,第2図で示し た海域(凡例8の点線)で海上音波探査が行われた.これ には高知大学所有の(株)カイジョー製:SP-3W型地層探 査機を使用した.玄界灘側では完新世の堆積物がほとんど 堆積しておらず,音響基盤が露出していた.博多湾側では 完新世の堆積物が堆積している.その結果,完新世の堆積 層中に黒い反射面が見られた(第12図).この反射面は反射 の特徴と層序からK-Ah火山灰層と解釈され,これが変位 を受けていない.完新世の堆積層基底面も切れていない. これらより,少なくともこの海域には活断層が延びていな いと考えられた(福岡県,2007). 3.5 南部延長部での調査 福岡県の2006年度の調査は,主に北部延長部について行 われたが,筆者らのうち,石村は南部延長部の空中写真判 読,現地調査,地形面測量などを行った.南部延長部を写 真判読したものが第13図である.南部延長部では谷筋の 左横ずれがいくつか確認され,Loc.7の吉木地区の低位段 丘面上でも変形地形が確認された.その断面を第14図に示 す.測量は同一の段丘面(低位段丘上位面)上で行い,ま た圃場整備前の地形図からも微地形を読み取った.この結 果から測線上で傾斜が一旦緩くなる場所の存在が確認され た.これは西上がりの逆断層により変形したものだと考え られ,それから見かけの垂直変位量は最大約3.0mと推測 できる(第14図).しかし,さらに南延長部の筑紫野市山 家地区ではこのような変形地形は確認できなかった.
4 考察
4.1 宇美断層の北西端について 江辻地区のトレンチ調査により,空中写真判読位置に活 断層が発見された.この場所は池田ほか(2004)で図示さ れた宇美断層から北西に続くリニアメント上にあり,トレ ンチに出現した活断層の走向・傾斜も宇美断層の延長部分 と考えて矛盾はない.宇美断層中央部で見られた垂直変位 は北に行くほど小さくなる傾向にある.そのため,江辻ト レンチは宇美断層の北西端に近い場所と考えられる.さら に北西延長部の博多湾東部海域における海上音波探査の結 果,博多湾東部では活断層が検出されなかった(福岡県, 2007).このことから,現在考えられる北西端として,江 辻地区から連続するリニアメントが認められる限界までを 宇美断層と考えた.リニアメントと海上音波探査の比較が 許されると仮定すると,新たな北西端は福岡市東区青葉付 近となる(第2図の実線の北西端). 4.2 宇美断層の南東端について 山浦地区のトレンチ調査により活断層が検出されたた め,池田ほか(2004)で図示された南東端までは,ほぼ確 実に活断層が続いている.山浦地区から南東に続くリニア メントは一旦途切れるが,活断層による地形の垂直変位が 第12図 博多湾への宇美断層延長部横断位置での音波探査結果(福岡県,2007より一部改変) 黒い帯はK-Ah火山灰,さらに下の反射面は音響基盤と解釈される.Fig. 12 Profile and result of the sound wave inquiry at across the Umi fault extension to the Hakata bay (partly changed from Fukuoka Pref., 2007).
第13図 宇美断層南部延長部の地形面区分図と活断層線(右 上は谷屈曲部分の拡大)
1 :高位段丘面 2 :中位段丘面 3 :低位段丘面1 4:低位段丘面 2 5 :トレンチサイト 6 :活断層線 7:推定活断層線
Fig. 13 Geomorphological classification map and active fault line (the top right corner, expansion of the valley flexuosity) in the Umi fault southern extension area.
1: Higher terrace, 2: Middle terrace, 3: Lower terrace 1, 4: Lower terrace 2, 5: Trenching site, 6: Active fault line, 7: An estimated active fault line.
第14図 吉木地区の低位段丘面 2 上(Loc.7)での地形断面図
Fig. 14 Geomorphological cross section on the Lower terrace 2 in Yoshiki district (Loc.7).
最も大きく現れている場所が山浦地区〜上の原地区である ことから,山浦地区のすぐ南が南東端であるとは考えにく い.このため宇美断層は南東にさらに延びていることが予 想された.調査の結果,リニアメントは更に延びており, 南東延長部の太宰府市九重ヶ原から筑紫野市吉木地区まで 谷の屈曲の連続や段丘面上の変位地形(撓曲を含む)とし て再び出現していることがわかった.よって,宇美断層 の南東端が筑紫野市吉木地区まで延長すると考えられる (第2図南東端のLoc.7).その結果,宇美断層の長さは 17-18kmとなる. 4.3 宇美断層と地質境界断層との関係 今回の調査で,山浦地区から上の原地区までの宇美断層 中央部での宇美断層の通過位置がほぼ確定した.主断層の 位置は古第三系と白亜紀花崗岩との境界断層に一致してい る.ただし,上の原地区の北西延長部で新たな活断層露頭 がLoc.1で発見され,ここでは活断層は地質境界断層では なく,断層を挟んで古第三紀堆積岩同士が接していた.し かし,地形面の変位の累積が少ないため,この断層は主断 層に近接した副次的な断層であったと考えられる.山浦ト レンチでも古第三系と白亜紀花崗岩との境界断層に一致し ている.山浦トレンチでは断層を挟んで西側(平野側)の 第三紀層が上がり,東の白亜紀花崗岩類(山地側)が下 がっており,地形と逆であることから,当初の正断層運動 から逆断層運動に断層運動が逆転したと思われる. 一方,北西延長部と南東延長部では宇美断層は地層境界 断層から離れており,断層を挟んで同一地質が接している. 4.4 変位速度の算出 現在までに判明した変位基準の変位量と年代の数値を用
福岡平野東縁部に位置する宇美断層の特徴について 活断層研究 29号 69 いて変位速度を計算した.宇美断層を代表する変位基準の 変位量と年代として宇美断層中央部のLoc.2,3,4のデー タを用いた(表1).Loc.2では低位段丘構成層の垂直変 位量は0.5-1.2m,年代値は上の砂礫層からATテフラを検出 しているので約29kaとした.Loc.3では中位段丘構成層の 垂直変位量が5.7m,構成層上面の垂直変位量が2.4m,年 代値はその上のローム層からAso-4テフラを検出してい るので約90kaとした.Loc.4では高位段丘構成層の垂直変 位量が9.2m,年代値が得られる試料が無かったので北部九 州における他の高位段丘の年代を用いて,約300ka(町田, 1996)と仮定した.これらの計算結果を第1表に示す.こ れより,宇美断層の垂直成分の変位速度は0.02-0.03m/ky という結果が得られた.これは,松田(1975)の活動度C に相当する.宇美断層は横ずれ活断層だと考えられている が,水平成分が垂直成分の数倍だとしても,その変位速度 は活動度Bに入るか入らないかである.このことからも, やはり宇美断層の活動性は比較的小さいと考えられる.こ れは,断層変位地形がほとんど見られないことと調和的で ある. 4.5 最新活動時期とおおよその活動周期 福岡県(2007)によれば,山浦トレンチでは4,300年前 以降に1回の活動が,江辻トレンチでは20,000年前以降に 1回の断層活動が確認された.この1回の活動による変位 量は山浦トレンチで0.6m,江辻トレンチで0.06mである. 前者は宇美断層中央部での,後者は末端での変位量と考え られる.宇美断層中央部での1回の垂直変位量0.6mをもと に議論すると,Loc.2では低位段丘構成層の基底面形成以 降に1-2回の活動,Loc.3では中位段丘構成層上面の垂 直変位量が2.4mなので,4回の活動と考えられる.この 変位基準面の年代はAso-4火砕流の年代(約90,000年前) に近いので,4,300年前から現在までに1回,約90,000年前 と4,300年前との間に3回と見積もられる.すると活動の 平均間隔は約29kaとなる.江辻トレンチで20,000年前以降 に1回しか活動していないことと矛盾しない.しかし,こ のような中央部区間での活動歴に関する推定は次の2つの ことを仮定して行ったものである.1山浦トレンチでの垂 直変位量(0.6m)はその場所での一回の断層活動(複数 回の活動の累積値ではなく)で生じた.2上の原中位段丘 地区(Loc.3)でも同様の一回変位量(0.6m)をもって9 万年前以降繰り返し活動している.このような仮定の当否 とこのような中央部区間での仮定を宇美断層の全体を代表 すると見なしたことの当否が今後検討されることが望まし い.
5 結論
宇美断層は北西端が福岡市東区青葉付近,南東端が筑紫 野市吉木地区まで延長すると考えられる.その結果,宇美 断層の長さは17km以上となる. 宇美断層は宇美断層中央部では古第三系と白亜紀花崗岩 との境界断層に重なるが,北西延長部と南東延長部では断 層を挟んで同一地質が接している. 宇美断層は横ずれが主体であると考えられていること, 年代値の不確かさなど多くの問題が残るが,水平成分が垂 直成分の数倍だと仮定したとしても,宇美断層は活動度C に相当すると考えられる.今回の調査により宇美断層は周 辺の警固断層や西山断層よりも活動性が低い. 宇美断層中央部のデータを総合すると,最新活動時期は 4,300年前以降で,1回の垂直変位量は0.6mである.断層 活動の平均間隔は約29kaとなる.ただし,各トレンチで は最新活動時期の情報しか得られず1つ前の断層活動が記 録されていなかったため,正確な過去の活動歴は不明であ る.謝辞
東 康裕・平島研二氏をはじめ福岡県総務部消防防災安 全課からは宇美断層調査の機会を与えていただいたほか調 査成果の公表を快諾して頂いた.ボーリング調査とトレン チ調査に際しては,応用地質株式会社のスタッフから多大 の御協力を頂いた.これらの皆様に深く謝意を表する. 第1表 宇美断層の上下変位速度文 献 千田 昇,2006,福岡平野の活断層,月刊地球,号外,活断層・ 古地震とアクティブテクトニクス,54,112-117. 千田 昇・岡田篤正・中田 高・渡辺満久・鬼木史子,1996, 25,000分の1都市圏活断層「福岡」,国土地理院技術資料D・ 1-No.333. 福岡県,2006,宇美断層に関する調査業務委託報告書,227p. 福岡県,2007,宇美断層に関する調査業務委託報告書,183p. 郷原 保真 ・新堀 友行 ・鈴 木 康司 ・ 野村 哲 ・ 小森 長 生 , 1964,北九州の第四紀層に関する諸問題,資源研彙報,62, 83-108. 池田安隆・千田 昇・越後智雄・中田 高,2004,25,000分 の1都市圏活断層図「太宰府」,国土地理院技術資料,D・ 1-No.435. 唐木田芳文・富田宰臣・下山正一・千々和一豊,1994,地域 地質研究報告50,000分の1地質図幅および同説明書,福岡地 域の地質,地質調査所,192p. 久保和也・松浦浩久・尾崎正紀・牧本 博・星住英夫・鎌田 耕太郎・広島俊男,1993,「福岡」20万分の1地質図幅,地 質調査所. 九州活構造研究会,1989,九州の活構造,東京大学出版会, 562p. 町田 洋,1996,大分市丹生台地における高位段丘と加久藤 テフラ,日本第四紀学会露頭集編集委員会(編):第四紀 露頭集−日本のテフラ−,日本第四紀学会,75. 町田 洋・新井房夫,2003,「新編火山灰アトラス−日本列島 とその周辺−」,東京大学出版会,336p. 松田時彦,1975,活断層から発生する地震の規模と周期につ いて.地震,28,269-283. 松井 健,1963,筑後平野周辺の赤色土の産状と生成時期 −西南日本の赤色土の生成に関する古土壌学的研究,第1報, 資源研彙報,60,1-12. 溝田智俊・下山正一・窪田正和・竹村恵二・磯 望・小林 茂,1992,北部九州の緩斜面上に発達する風成塵起源の細 粒質土層,第四紀研究,31,101-111. 松本哲一・宇都浩三・小野晃司・渡辺一徳,1991,阿蘇火山 岩類のK-Ar年代測定−火山層序との整合性と火砕流試料へ の適応−,日本火山学会講演予稿集,1991-2,73. 下山正一,2007,北部九州の第四紀変動−福岡県西方沖地震 の背景−,月刊地球,29(2),139-144. 渡辺満久,1989,北部九州において新たに見出された活断層— 小倉東断層—,活断層研究,7,93-97. 渡辺満久・松田時彦・千田 昇・下山正一・岡村 眞・鈴木 貞臣・北九州市防災対策部,2002,小倉東断層の活動性, 活断層研究,22,83-98. 山口 勝・富田宰臣・亀山徳彦・下山正一・野井英明,1983, 福岡県土地分類基本調査表層地質図5万分の1「太宰府」図 幅および同説明書,福岡県,34-41. 山口 勝・富田宰臣・首藤次男・亀山徳彦・下山正一,1984, 福岡県土地分類基本調査表層地質図5万分の1「福岡・津屋 崎・神湊」図幅および同説明書,福岡県,33-46,47-57. (2008年8月4日受付) (2008年9月2日受理) キーワード 活断層,宇美断層,長さ,トレンチ調査,福岡平野東縁