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アジ研ワールド・トレンド No.246(2016. 4)
世界中でテロの脅威が叫ばれるな
か、
「
イ
ス
ラ
ム
国
」
に
対
し
て
戦
う
「クルド人」武装部隊(
「ペシュメル
ガ
」)
が
に
わ
か
に
注
目
を
集
め
て
い
る。
シ
リ
ア
と
ト
ル
コ
国
境
の
町、
コ
バ
ニ
(
ア
イ
ン・
ア
ル
=
ア
ラ
ブ
)
で
の
攻
防
戦とクルド人部隊の勝利については
記憶に新しいのではないだろうか。
一
方
で、
「
ク
ル
ド
人
」
と
は
ど
の
よ
うな人々なのか、そして彼らが「イ
スラム国」に対して勇敢に戦う背景
には何があるのか、といったことに
ついて、メディアは多くを伝えてい
な
い。
「
イ
ス
ラ
ム
国
」
=
ス
ン
ナ
派
の
イスラム原理主義集団、という理解
から、クルド人をシーア派であると
誤解している人々は世界的にも多い。
しかし、クルド人において多数派な
のは実はスンナ派であり、そもそも
「
イ
ス
ラ
ム
国
」
と
の
戦
闘
は「
宗
派
対
立」ではないのである。
本稿では、メディアを通じてはな
かなか理解できないクルド人と彼ら
の住む「クルディスタン」の歴史・
文化を知るための資料を紹介し、事
件を理解する手助けとなることを目
指
し
た
い。
同
時
に、
「
イ
ス
ラ
ム
国
」
との関係でのみ語られがちなクルド
人とクルディスタンについて、身近
に感じてもらえれば幸いである。
クルド人はトルコ・イラン・イラ
ク・シリアを中心に、その国境地帯
に
暮
ら
す
民
族
で
あ
る。
「
国
境
地
帯
に
暮らす」のは、彼らの居住地「クル
ディスタン」がこれらの国々の国境
線によって分断されているからに他
ならない。
S・
C・
ペ
レ
テ
ィ
エ(
著
)、
前
田
耕
一(
訳
)『
ク
ル
ド
民
族:
中
東
問
題
の
動
因
』(
亜
紀
書
房、
一
九
九
一
年
)
は、一九八〇年代に至るまでのクル
ド人の歴史と、イラク・イラン・ト
ルコの各国における状況をバランス
よく解説している。残念ながら、日
本語訳には引用文献目録がついてい
ないが、クルド人についての基礎的
な歴史および状況を整理したもので、
ま
ず
参
照
す
べ
き
書
の
ひ
と
つ
で
あ
る
(
ま
た、
引
用
文
献
に
つ
い
て
は、
原
著
を参照することで知ることができる。
Stephen
C.
Pelletiere,
The
Kurds
: an
unstable
element
in
the
Gulf,
Boul
-der
, Westview , 1984
)。
川上洋一『クルド人もうひとつの
中
東
問
題
』(
集
英
社
新
書、
二
〇
〇
二
年)
は、新書で入手しやすく、読み
やすい。元新聞記者の視点および経
験をもとに、国際紛争・問題という
観点からクルド人と「クルド問題」
に焦点をあてている。ニュースや新
聞報道を理解するための基礎的な知
識固めとしておすすめしたい。
クルド人と彼らのおかれる状況は
各国において異なる。そのなかでも
特にトルコのクルド人が直面してい
る問題を分析した書として、
イスマ
イ
ル・
ベ
シ
ク
チ(
著
)、
中
川
喜
与
志・
高
田
郁
子(
編
訳
)『
ク
ル
デ
ィ
ス
タ
ン
=
多
国
間
植
民
地
』(
柘
植
書
房、
一九九四年)
があげられる。著者は
トルコ人社会学者であり、本書の執
筆
当
時、
「
ク
ル
ド
人
問
題
」
を
取
り
上
げることがタブーであったトルコに
おいて問題提起した渾身の書。トル
コ人でありながら、トルコのクルド
人に対する対応を的確に批判・分析
した。日本語訳があるのは今のとこ
ろ本書のみだが、著者はこの他にも
クルド人およびクルディスタンを扱
ったいくつかの著書を出版しており、
そのために獄中生活も経験している。
繰り返しになるが、クルド人はイ
ラク戦争や対イスラム国との関係で
語られることが多いため、実際には
多くのクルド人が私たちと同じよう
に日々生活し、家族と語らい、友人
たちと遊び、学校にも通い、テレビ
を見て談笑するのだという当たり前
のことを見落としがちである。そう
したクルド人に日常にふれ、身近に
感じるための書物として、以下のも
のを紹介したい。
勝又郁子『クルド・国なき民族の
い
ま
』(
新
評
論、
二
〇
〇
一
年
)
は、
イラクのクルド人を中心に、著者が
実際に交流したクルド人たちとの体
験を含めて、クルド人を描いた良書。
普段あまり伝えられることのないク
ルド人の日常生活や文化にふれるこ
とができ、クルド人をより身近に感
じられるのではないか。一方で、彼
らの厳しく悲惨な歴史についても学
ぶことができる。
トルコのクルド人および「クルド
問題」を扱ったものとしては、
小島
剛
一『
ト
ル
コ
の
も
う
一
つ
の
顔
』(
中
公新書、一九九一年)
がある。著者
は言語学者であり、言語学者の視点
からトルコとそこに暮らすクルド人
について紹介している。本書は著者
のトルコでの生活および研究をもと
に執筆されており、先に紹介した勝
又氏の著書同様、トルコにおけるク
ルド人の日常生活と彼らの直面する
困難について鮮明に描かれている。
本書には続編として、
小島剛一『漂
流するトルコ―
―
続「トルコのもう
一つの顔」
』(旅行人、二〇一〇年)
もあり、およそ二〇年を経てトルコ
におけるクルド人と彼らのおかれて
いる状況がどのように変わったのか、
その変化を追うことが可能である。
あわせておすすめしたい。
クルド人について日本語で読むこ
とのできる資料は残念ながら多いと
はいえないが、それでもこれらの著
作はこれまでのクルド人に対するイ
メージを大きく変える一冊になるの
ではないだろうか。
(
の
せ
み
き
/
ア
ジ
ア
経
済
研
究
所
図書館)
クルド人とクルディスタンに関する読書案内
能勢
美紀