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博 士 ( 水 産 科 学 ) 粉 川 愉 記
学 位 論 文 題 名
ウイルス性神経壊死症における ウイルス混合感染の重要性とその対策
学位論文内容の要旨
我 が国の水産増 養殖業では、多くの魚種を対象とした生産技術が確立され てきたが、そ れに伴い様々な 病気が発生し大きな問題となっている。特にウイ ルス病では実 用的な治療法が なく、種苗生産施設などの隔離施設においては、
親魚選別、卵 消毒、飼育水の 殺菌等の防除対策に重点が置かれてきた。一方、
天然環境から の隔離が困難で ある養殖場においては、防除対策に加え予防免疫 等の積極的な 対策が不可欠で あり、魚類ウイルス病に対する様々なワクチンが 開発されてき た。しかしなが ら、開発された魚類ウイルスワクチンの多くは、
実験的には十 分な防御効果が 認められるものの、養殖現場において安定的な防 御効果が認め られず、市販に は至らなぃ現状にある。本研究では、養殖現場に 韜け るワ ク チン 効 果の不 安定性がウイ ルス混合感染 に起因すると 考えた。即 ち、養殖現場 で混合感染症が 発生した場合、一方の病原ウイルスに対するワク チンを投与し たとしても、他 方のウイルスよる死亡を抑えることは不可能であ り、これが現 場におけるワク チン効果の不安定性に繋がると考えた。そこで、
マハタEpinepカelusぷeptem fasciロtuぷのウイルス神経壊死症 (viral nervous necrosis,VNN)を モデルとし、 第1章では、VNNの原 因ウイルスである魚類ノ ダウイルスの 増殖性が、混合 感染しているレトロウイルスにより亢進されるこ とをin vitroで明らかにし 、次いで第2章で は、長崎県下 で発生したマハタの VNNは ノダ ウ イル ス 以外 の 病原 ウイ ル スが 存 在す る 混合 感染であるこ とを明 らかにした。 さらに第3章では 、ウイルス混 合感染にも対 応可能な新しい免疫 法で あるPoly(I:C) 免疫法の効果 およぴ用法・用 量についてマ ハタVNNをモ デルに検証し 、総合考察にお いてウイルス混合感染の重要性と対策について提 言した。
VNNの原 因ウイルスで ある魚類ノダ ウイルスは、ノ ダウイルス科べーター ノダ ウイ ル ス属 に 属す る エン ベ ロー プを 持 たな い 小型 球形のRNAウイ ルスで ―943ー
ある。本ウイルスの培養には、ストライプト・スネーク^ッドOpカicepカロlus ぷtrfロtuぷ 由来 のSSN‑1細 胞 が多 用され る。SSN‑1細胞が レト ロウイ ノレ ス
(snakehead retrovirus,SnRV)に持続感染していることが明らかにされている が、SnRVの 存在 がノダ ウイ ルスの 増殖 にどの よう に影響 して いるの かについ ては 明らか にさ れてい ない 。そこ で第1章で は、ま ず、 ブルー ギル 工epomiぷ mロcrocカir us由来BF‑2細胞を用い、SnRV持続感染細胞(PI‑BF‑2細胞)を作出 し、BF‑2お よびPI‑BF‑2細胞 のノ ダウイルス産生量を比較することでノダウイ ルス の増殖 性に 対するSnRVの影響 について検討した。その結果、PI‑BF‑2細胞 にお けるノ ダウ イルス の産 生量は 、BFー2細胞に比べ50‑100倍以上高くなった こと から、SnRVがノダ ウイ ルスの 増殖 性を大 幅に 亢進す るこ とが明 らかにな っ た 。ま た 、 魚 類 ノ ダ ウイ ル ス はRNAウ イ ル ス で あ るた め 、 通 常DNA型の ウ イル スゲノムは存在しない。しかし、ノダウイル′スを接種したPI‑BF‑2細胞に お い てノ ダ ウ イ ル ス のDNA型 ゲ ノ ムが 検 出 さ れ た 。 本DNA型 ゲ ノムは 、混 合 感 染 し て い るSnRV由 来 の 逆 転 写 酵 素 に よ り 産 生 さ れ た と 考 え ら れ た 。 次い で 第2章 で は 、 長 崎 県 下 で発 生 し た マ ハ タ のVNNに お いて、 ノダ ウ イルス以外のウイルスとの混合感染が起こっていることで、ノダウイルスワク チン で十分 な防 御効果 が認 められ ないことを実証した。まず、VNN罹病魚の脳 磨砕濾液または同脳磨砕濾液を中性界面活性剤であるTriton X‑100で処理し、
エン ベロー プを 持っウ イル スを除 去し た脳磨 砕濾 液から 調製 したホ ルマリン 不活化ワクチンを投与したマハタを、病魚磨砕濾液で攻撃したところ、病魚脳 磨 砕 液不 活 化 ワ ク チ ン 投与 区 で の 生 残 率 は96% で あ っ た の に 対し、Triton X‑100処理 脳磨砕 濾液 不活化 ワク チン投与区の生残率は57%となり、両区で大 きな差異が認められた。次いで、病魚脳磨砕濾液のマハタに対する半数致死量
(LDso)を求めたところ、同液のLDsoはノダウイル ス量に換算して101.5TCIDso
/fishであった。これに対し、同脳磨砕濾液より分離した培養ノダウイルスの LDsoは103.4TCID50/fishであった。即ち、病魚脳磨砕濾液のマハタに対する LDsoは、培養ノダウイルスの約1/100であることが示された。以上の結果から、
病魚脳磨砕濾液にノダウイルス以外の病原ウイルスが存在することが示され、
長 崎 県下 のVNNマ ハ タ は ウ イ ルス混 合感 染症で ある ことが 明ら かにな った 。 エンベロープを持たないノダウイルスの病原性は、Triton X‑100で処理しても 低下しないが、病魚脳磨砕濾液をTriton X‑100で処理するとその病原性は半減 した 。さら に、Triton X‑100処理 病魚 脳磨砕 濾液 にSnRVを添 加して もその病 原性が戻らなかったことから、病魚脳磨砕濾液中に存在するノダウイルス以外 の病 原ウイ ルス は、エ ンベ ロープ を持 っウイ ルス である が、SnRVと は異なる ―944―
ウイル スであると考えられた。
第2章では、ウ イルス混合感 染において、病 魚脳磨砕濾液をホルマリンで 不活 化 した ワ クチン を投与するこ とで十分な防 御効果が誘導可 能であること を示したが 、病魚脳磨砕 濾液を安定的かつ大量に生産することは困難である。
そこで第3章では、ウイルス混合感染症を視野に入れた新しい免疫方法として、
インターフ ェロン(IFN)誘導物質であるPoly(I:C)を用いた免疫法の有効性 およぴ用法・用量について検討した。まず、Poly(I:C)を投与したマハタをノ ダウイルスで攻撃したところ、一尾の死亡も認められず、Poly(I:C)の投与によ り、マハタ が抗ウイルス 状態になることが確認された。また、これらの生残魚 からノダウ イルスに対す る特異抗体が検出されたこと、さらに生残魚をノダウ イルスで再攻撃しても死亡が認められなかったことから、Poly(I:C)に続きノ ダウイルス を接種するこ とで、ノダウイルスに対する特異免疫が誘導されるこ とが明らかになった。次いで、Poly(I:C)の用法・用量について検討したとこ ろ、Poly(I:C)を50 p,g/fish以上投与し、投与直後から4日以内にウイルスを 接種するこ とで、ウイル スに対する免疫が誘導可能であることが明らかになっ た。本Poly(I:C)免疫 法は、魚類体内でIFNを誘導することで魚類を抗ウイル ス状態(非 特異的)とし 、この間に病原ウイルスを接種することで接種したウ イルスに対 する特異免疫 を誘導する方法である。即ち、未同定のウイルスある いは分離・ 培養が困難な ウイルスに対 しても応用が可 能である。従って、第2 章で述べたウイルス混合感染症に対してもPoly(I:C)免疫法が十分有効である と考えられた。
以上、本研究 では、ノダウイルスワクチンが効かなかった原因がウイルス 混合 感 染症 で ある こ とを 明ら か にし た が、 こ れは マハタVNNに限 定されるも のではない 。養殖現場で 期待されたワクチン効果が認められない場合、一病気 に一病原体 という概念に 囚われることたく、ウイルス混合感染症を疑い、対策 を立てる必要があると考える。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 I
主 査 教授 吉水 守 副 査 教授 都木 靖彰 副査 准教授 西澤豊彦
学 位 論 文 題 名
ウイルス性神経壊死症における ウイルス混合感染の重要性とその対策
我が国の水産増養殖業では多くの魚種を対象とした生産技術が確立されてきたが、それに 伴い様々を病気が発生し問題となっている。特にウイルス病では実用的な治療法がなく、種苗 生産施設など隔離施設においては、防除対策に重点が置かれている。一方、天然環境からの隔 離が困難である養殖場においては、予防免疫等の防疫対策が不可欠であり、魚類ウイルス病に 対する様々なワクチンが開発されてきた。しかし、開発されたワクチンの一部は、実験的には 十分な防御効果が認められるものの、養殖現場において安定的た防御効果が認めらないものも ある。本研究では、養殖現場におけるワクチン効果の不安定性がウイルス混合感染に起因する と考えた。マハタEpinephelus septemfasciatusのウイルス神経壊死症(viral nervous necrosis, ヽNN)をモデ ルとし、 第1章では 、¥rNNの原因 ウイルス である魚 類ノダウイルスの増殖性が 混合感染しているレトロウイルスにより亢進されることをin vitroで明らかにし、次いで第2 章では、長 崎県下で 発生した マハタのVNNはノダウ イルス以 外の病原ウイルスが存在する混 合感染症であることを明らかにした。さらに第3章では、ウイルス混合感染症にも対応可能な
Poly (I:C)を用いた免疫法の効果およぴ用法・用量について魚類ノダウイルスをモデルに検証
し 、 総 合 考 察 に お い て ウ イ ル ス 混 合 感 染 の 重 要 性 と 対 策 に っ い て 提 言 し た 。 魚類ノダウイルスの培養には、ストライプト・スネーク^ッド〔)phicephalus str iatus由来の SSN‑1細胞が多用される。SSN‑1細胞はレトロウイルス(snakehead retrovirus,SnRV)に持続感 染していることが明らかにされているが、SnRV の存在がノダウイルスの増殖にどのように影 響し て いる の か は明 ら かに さ れ てい な い。 そ こ で第1章 で は、 まず、 ブルーギ ルLepomis macrochir us由来BF‑2細胞を 用い、SnRV持続感染細胞(PI‑BF‑2細胞)を作出し、BF‑2および PI‑BF‑2細胞のノダ ウイルス 産生量を 比較する ことでノ ダウイル スの増殖性に対するSnRVの 影響にっいて検討した。その結果、PI‑BF‑2細胞におけるノダウイルスの産生量は、BF‑2細胞 に比べおよそ100倍高くなったことから、SnR.Vがノダウイルスの増殖性を大幅に亢進するこ とが明らかになった。
次いで第2章 では、長 崎県下で 発生した マハタのM蜘Nにおい て、ノダウイルス以外のウ
イルスとの混合感染により、ノダウイルスワクチンで十分な防御効果が認められないことを実 証した。まず、VNN罹病魚の脳磨砕濾液または同脳磨砕濾液を中性界面活性剤であるTriton
X‑100で処理し、エンベロープを持っウイルスを除去した脳磨砕濾液から調製したホルマリン
不活化ワクチンを投与したマハタを、病魚磨砕濾液で攻撃したところ、病魚脳磨砕液不活化ワ クチン投与区での生残率は96%であったのに対し、Triton X‑100処理脳磨砕濾液不活化ワクチ ン投与区の生残率は57%となり、両区で大きな差異が認められた。次いで、病魚脳磨砕濾液 のマハタに対する半数致死量(LDso)を求めたところ、同液のLDsoはノダウイルス量に換算し てloi.s TCIDso/fishであったのに対し、培養ノダウイルスのLDsoはl03.4 TCIDso/fishとたり、
病魚脳磨砕濾液のマハタに対するLDsoは、培養ノダウイルスの約1/100であることが示された。
以上の結果から、病魚脳磨砕濾液にノダウイルス以外の病原ウイルスが存在することが示さ れ 、 長 崎 県 下 のVNNマ ハ タ は ウ イ ル ス 混 合 感 染 症 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。 第3章では、ウイルス混合感染症を視野に入れた新しい免疫方法として、インターフェロ ン(IFN)誘導物質であるPoly (I:C)を用いた免疫法の有効性および用法・用量について検討し た。まず、Poly (I:C)を投与したマハタをノダウイルスで攻撃したところ、死亡は認められず、
Poly (I:C)の投与により、マハタが抗ウイルス状態になることが確認された。また、これらの生 残魚からノダウイルスに対する特異抗体が検出されたこと、さらに生残魚をノダウイルスで再 攻撃しても死亡が認められなかったことから、Poly (I:C)に続きノダウイルスを接種すること で、ノダウイルスに対する特異免疫が誘導されることが明らかになった。次いで、Poly (I:C)の 用法・用量にっいて検討したところ、Poly (I:C)を50 Vg/fish以上投与し、投与直後から4日 以内にウイルスを接種することで、ウイルスに対する免疫が誘導可能であることが明らかにな った。
以上、本研究は、現場でノダウイルスワクチンの効果が不安定であった原因がウイルス混 合感染症であることを明らかにし、その対策としてPoly (I:C)免疫法が応用可能であることを 示したものである。これらの成果は水産科学に寄与するところ大と考え、審査員一同は申請者 が 博 士 ( 水 産 科 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 の あ る も の と 判 定 し た 。
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