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におい かおり環境学会誌 44 巻 4 号平成 25 年 ら, 口臭に対しても抑制効果を発揮する可能性があることが十分考えられた. そこで, 本研究では, ユーカリ抽出物の口臭抑制効果を調べるために, ユーカリ抽出物を配合したチューインガムを用いて無作為化比較対照試験を行った. 本研究は大阪大学歯学

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― 特 集 ―

食品の香り研究の新展開

ユーカリ抽出物配合チューインガムの口臭抑制効果

永田 英樹

 ユーカリ抽出物の口臭抑制効果を調べるために,ユーカリ抽出物配合チューインガムを用いて無作為化比 較対照試験を行った.被験者を無作為に高濃度群(0.6% ユーカリ抽出物配合チューインガム摂取),低濃度 群(0.4% ユーカリ抽出物配合チューインガム摂取)およびプラセボ群(プラセボガム摂取)に分け,12 週 間ガムを摂取させた.試験開始時,4,8,12 および 14 週目に官能スコア,総揮発性硫化物レベルおよび舌 苔スコアを測定した結果,高濃度群,低濃度群ともプラセボ群と比較して有意な改善が認められた[Tanaka et al, J. Periodontol., 81, 1564-1571,(2010)].本解説では前述論文の研究を中心に概説する.

1. 緒言

 口臭の多くは口腔内に原因が存在するといわれてい る.特に,舌背に存在する舌苔から産生される揮発性硫 化物(VSCs : volatile sulfur compounds)は口臭の主た る原因となる1).VSCs は,歯周病原性細菌をはじめと するタンパク質分解活性の強い口腔細菌が剥離上皮細胞 や白血球を構成するシステインやメチオニンなど含硫ア ミノ酸を含むタンパク質を分解することで産生される. したがって,口腔由来の口臭をコントロールするために は,舌苔や歯の表面や歯周ポケットに存在するプラーク を抑制する必要がある.従来,舌苔やプラークの除去に は,舌ブラシや歯ブラシを用いた機械的除去が主流であ る.口臭に対する機能性食品としては,キウイフルーツ に多く含まれるアクチニジンというプロテアーゼを含有 したタブレットによる舌苔除去効果2)や口臭抑制効果3) が報告されている.また,緑茶が VSCs の濃度を減少さ せ,一時的な口臭抑制効果があることが示されている4) しかし,口臭抑制効果を示す機能性食品に関する報告は 少ないのが現状である.  ユーカリ樹はオーストラリア原産の常緑高木で,現在 では世界各地で広く栽培されている.Eucalyptus globulus は代表的なユーカリ種で,従来,その葉や精油成分は医 薬品,健康茶,食品素材および香料として利用されてき た.ユーカリ葉の成分としては,ユーカリ油の主成分で あるシネオールがよく知られているが,口腔細菌に対 してはユーカリ油を除いたユーカリ葉エタノール抽出 成分に強い抗菌作用があることが報告されている5).E. globulus 葉の 60% エタノール抽出物は,う蝕原性細菌

Streptococcus mutans や Streptococcus sobrinus に 対 す る静菌作用を有し,S. sobrinus のグルコシルトランス フェラーゼによる不溶性グルカン合成を阻害する5).ノ トバイオートマウスを用いた動物実験で,ユーカリ葉抽 出物はう蝕抑制効果を示すことが報告されている6).一 方,歯周病原性細菌に対する抗菌効果も報告されてい る.ユーカリ葉抽出物は,Porphyromonas gingivalis や Prevotella intermedia など種々の歯周病原性細菌の増殖 を抑制し7),その作用にはユーカリ葉抽出物の主成分で ある macrocarpal A,B および C が関与していること が報告されている8).また,macrocarpal A,B および C は,P. gingivalis の産生するアルギニン特異的タンパ ク質分解酵素やリジン特異的タンパク質分解酵素活性を 抑制することが報告されている8).さらに,ユーカリ抽 出物配合チューインガムを用いた無作為化比較対照試験 において,ユーカリ抽出物の歯周病予防効果が認められ ている9).被験者を年齢,性別,歯肉炎指数(GI : gingival index)により層別化し,高濃度試験ガム摂取群,低濃 度試験ガム摂取群およびプラセボガム摂取群の 3 群に分 け,12 週間ガムを摂取させた結果,試験ガム摂取群は 両群ともプラセボガム摂取群と比較して,歯面プラーク 蓄積量,GI,プロービング時の出血部位数および歯周 ポケット深さ(PPD : periodontal probing depth)にお いて有意な改善が認められた.これは,試験ガムから溶 出されたユーカリ抽出物がプラークの蓄積量を減少する ことにより,歯肉の炎症を抑制したものと考えられる.  歯周病原性細菌の多くは VSC 産生に強く関わってい る10).ユーカリ抽出物は歯周病原性細菌の増殖を抑制し, 臨床的にも歯肉の炎症を抑制する効果がみられたことか 永田 英樹(ながた ひでき) 大阪大学大学院歯学研究科口腔分子免疫制御学講座(予防歯科学教室) 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1-8 E-mail : nagatah@dent.osaka-u.ac.jp

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配合したチューインガムを用いて無作為化比較対照試験 を行った.

2. 材料と方法

2.1 被験者  本研究は大阪大学歯学部倫理委員会の承認を得て行わ れた.試験は 2006 年 2 月から 2006 年 6 月まで行われ, 大阪近郊在住で歯肉の状態に違和感をもつ 20-49 歳の男 女 149 名の応募を得た.書面にて応募者の同意を得た後, 後述の方法で GI と PPD を測定し,血液検査と尿検査を 行った.以下の条件に該当する被験者は試験対象から除 外した;1)3 か月以内に抗生物質による治療や歯周治 療を受けた者,2)全身疾患の既往がある者,3)血液検 査や尿検査で異常が発見された者,4)24 歯未満の者,5) 歯肉の炎症がみられない者(GI が 0 の者),6)6 mm を 超える歯周ポケットが 1 カ所でもある者.149 名の応募 者から上記の除外基準や口腔内の状態をもとに 100 名 を選択し,無作為化比較対照試験を開始した.被験者 は,GI,年齢および性別により,それぞれ 10:8:7 の 重みでランク付けした後,コーディネーターにより乱数 表を用いて無作為に次の 3 群に割振られた;1)高濃度 群(n=33,0.6% ユーカリ抽出物配合チューインガムを 12 週間摂取[ユーカリ抽出物 90 mg /日]),2)低濃度 群(n=33,0.4% ユーカリ抽出物配合チューインガムを 12 週間摂取[ユーカリ抽出物 60 mg /日]),3)プラセ ボ群(n=34,ユーカリ抽出物を配合していないチュー インガムを 12 週間摂取).100 名の被験者は試験開始 2 週間前に全顎の歯肉縁上歯石の除去処置を受けたが,3 群 33 名,計 97 名のデータを解析した. 2.2 供試したチューインガム  ユーカリ抽出物は以下のように調整した.無農薬で栽 培された樹齢 8 年以上の E. globulus より得られたユー カリ葉を水蒸気蒸留によりエッセンシャルオイル成分を 除去したものを用いた.E. globulus 葉を 80℃の熱水で 90 分間抽出し,抽出液を除去した後,残渣を再度 60%(重 量 %)エタノールで 1 時間還流抽出した.60% エタノー ル抽出物を濾過し,アラビアガムを加え,減圧濃縮後, 噴霧乾燥したものをユーカリ抽出物とした.ユーカリ抽 出物には,0.74% macrocarpal A,0.36% macrocarpal B および 0.8% macrocarpal C が含まれていた.本研究に 使用したチューインガムはロッテ中央研究所(埼玉)か ら供給された.試験食は市販品と同品質のシュガーレス 糖衣粒ガム(1.5 g /粒)とし,ユーカリ抽出物 0.6% 配 合チューインガム(高濃度群用),ユーカリ抽出物 0.4% 配合チューインガム(低濃度群用)およびユーカリ抽出 物無添加ガム(プラセボ群用)とした.試験食の配合比 率を表−1 に示す. 2.3 研究デザイン  図−1 に本研究のデザインを示す.被験者は,割振ら れたチューインガムを 1 日 5 回(食後 3 回と食間 2 回, 1 回につき 2 粒を 5 分間咀嚼),12 週間摂取した.試験 期間中は糖アルコールを含む市販のガムやキャンディ等 の摂取を控えること以外は日常生活習慣を変えること のないように指示した.試験開始時,試験開始後 4,8, 表− 1 試験ガムおよびプラセボガムの配合比率 試験ガム プラセボガム 高濃度 低濃度 ユーカリ抽出物(%) 0.6 0.4 0.0  ユーカリ抽出物(mg /粒) 9.0 6.0 0.0   macrocarpal A(μ g /粒) 66.3 44.2 0.0   macrocarpal B(μ g /粒) 32.4 21.6 0.0   macrocarpal C(μ g /粒) 72.0 48.0 0.0 炭水化物(%) 80.5 80.7 81.1  キシリトール(mg /粒) 666.0 666.0 666.0  マルチトール(mg /粒) 508.0 511.0 511.0  アラビアガム,スターチ(mg /粒) 34 34 40 ガムベース(%) 13.7 13.7 13.7 その他(%) 5.2 5.2 5.2 合計(%) 100.0 100.0 100.0 数値は重量 % で示した.

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12 週目およびガム摂取終了後 2 週目(試験開始後 14 週 目)に口腔内診査,口臭検査および全身検査を行った. 被験者には,試験開始時,試験開始後 4 および 8 週目に 4 週間分の割振られたガムを配付した.摂取しなかった ガムは次回の検査時に持参してもらい,ガムの摂取状況 を調べた.ガム摂取時間は,毎回,検査時に口頭で確認 した.平均のガム摂取率は,高濃度群,低濃度群および プラセボ群で,それぞれ96.6%,99.4%および99.7%であっ た.高濃度群で 2 名(69.5% と 77.6%),低濃度群で 1 名 (79.8%)およびプラセボ群で 1 名(78.6%)が 80% 未満 のガム摂取率であったが,すべてデータ解析に含めた. 2.4 口腔内診査  臨床的な歯周検査はキャリブレーションを受けた 5 名 の訓練された歯科医師が行った.診査者は被験者がどの 群に属するのかわからないようにした.5 名の診査者の PPD の測定に対するκ値は 0.7 であった.

 GI は Löe and Silness の方法に従い評価した11)

 PPD は第 3 大臼歯を除く全歯を対象とし,各歯の近 遠心頬側隅角部 2 点,頬側中央 1 点,近遠心舌側隅角 部 2 点および舌側中央 1 点を計測した.University of North Carolina probe(Hu-Friedy, Chicago, USA)を用 いて歯肉縁から歯周ポケット底までの距離を 0.5 mm 単 位で記録した.  ユーカリ抽出物配合チューインガムの影響をみるた め,歯,歯肉,口腔粘膜および舌を視診により診査した. 2.5 舌苔量の測定  舌苔スコア(tongue-coating score)は舌苔の広がり と厚みから算出した12).舌苔の広がり(area score)は 次のように判定した;0:舌苔なし,1:舌苔が舌背の 3 分の 1 未満,2:舌苔が舌背の 3 分の 1 以上 3 分の 2 以下, 3:舌苔が舌背の 3 分の 2 を超える.舌苔の厚み(thickness score)は以下のとおり判定した;0:舌苔なし,1:舌 乳頭が見える薄い舌苔,3:舌乳頭が見えない厚い舌苔. 舌苔スコアは次の式から求めた;

tongue-coating score = area score × thickness score.

2.6 口臭測定  口臭はガスクロマトグラフィーを用いた VSC 測定に よる検査と官能試験による検査により評価した.口臭測 定はすべて午後 4 時 30 分から午後 6 時 30 分の間に行っ た.被験者には口臭検査の 4 時間前からは飲食をしない ように指導し,測定当日の昼食後は,間食,喫煙,ガム の摂取および歯口清掃を中止してもらった.  官能試験は,被験者に安静にしてもらい 30 秒間閉口 鼻呼吸をしてもらった後,肺や室内のにおいで薄まらな いように中程度の力でサンプリングバッグ(ジーエルサ イエンス,東京)に 2-3 秒呼気を吐き出してもらった. この操作をサンプリングバッグに呼気が適量採取できる まで 3-4 回繰り返した後,訓練された 3 名の評価者がサ ンプリングバッグから約 10 cm の距離でにおいを評価し た.官能スコアは次のように評価した;0:においなし (嗅覚閾値以上のにおいを感知しない),1:非常に軽度 (嗅覚閾値以上のにおいを感知するが,悪臭と認識でき ない),2:軽度の口臭(悪臭と認識できるにおい),3: 中等度の口臭(悪臭と容易に判定できる),4:強度の口 臭(我慢できる強い悪臭),5:非常に強度の口臭(我慢 できない強烈な悪臭).3 名の評価者の平均値をその被 験者の官能スコアとした.官能試験の評価における 3 名 の評価者の一致率は >71% であった(κ=0.77).  VSC レベルはガスクロマトグラフ(GC-14 B,島津製 作所,京都)を用いて測定した.10 mL の口腔内の気体 をガスタイトシリンジにより吸引し,70℃でガスクロ マトグラフカラム(Chromosorb W AW-DMCS-ST,島 津製作所)に注入した.硫化水素,メチルメルカプタ ンおよび硫化ジメチルの濃度は,パーミエーター(PD-1 B,ガステック,神奈川)で各 VSC の標準サンプルを 図−1 研究デザイン

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2.7 全身検査

 試験期間中,チューインガムの安全性を確認するため に,すべての被験者に全身および口腔の状態について問 診を行った.また,被験者の体重,脈拍および血圧を測 定した.血液検査と尿検査は Japan Medical Laboratory (大阪)により行われた.検査は夕方の実施であったため, 当日の昼食後は水以外の摂取を禁止した.血液検査項目 では,白血球数,赤血球数,ヘモグロビン,ヘマトクリッ ト,MCV,MCH,MCHC, 血 小 板 数,AST,ALT, ALP,γ-GTP,血糖,総ビリルビン,コリンエステラーゼ, 総鉄結合能,不飽和鉄結合能,尿素窒素,尿酸,クレ アチニン,総コレステロール,中性脂肪,CPK,LDH, 総タンパク,アルブミン,A/G,鉄,ナトリウム,カリ ウム,塩素,無機リン,カルシウムおよびマグネシウム を測定した.尿検査では,糖,タンパク,ウロビリノー ゲン,潜血および尿沈渣を測定した.さらに,被験者に, 試験ガム摂取時刻,排便回数,便の状態(正常,便が軟 らかい,下痢),腹部症状(痛み,張り,グル音,おな ら等),腹部症状の発生時刻およびその消滅時刻,その 他気になる症状を日誌に記載させた. 2.8 統計解析  試験開始時の群間の差はχ2 exact test と分散分析

(ANOVA : analysis of variance) で 解 析 し た. 試 験 開始時と試験開始後の各測定時との平均値の比較には Dunnett test を用いた.官能スコア,総 VSC レベルお よび舌苔スコアにおける 3 群間の比較には,反復測定 による ANOVA と Games-Howell pairwise comparison test を用いた.P<0.05 を統計学的に有意とした.  表−2 に試験開始時における被験者の特性を示す.試 験開始時には,性別,年齢,GI,PPD,官能スコア, 総 VSC レベルおよび舌苔スコアにおいて群間で有意な 差はみられなかった. 3.2 ユーカリ抽出物配合チューインガムの口臭抑制効果  試験期間中の官能スコア,総 VSC レベルおよび舌苔 スコアを表−3 にまとめた.高濃度群および低濃度群に おいて,官能スコアは,試験開始時と比較して試験開始 後 4,8,12 および 14 週目で有意に減少したが(P<0.05), プラセボ群では有意な変化はみられなかった.高濃度群 の総 VSC レベルは,試験開始後 8 および 12 週目に顕著 な減少を認めた(P<0.05).舌苔スコアに関しては,高 濃度群で,試験開始時と比べ試験開始後 8,12 および 14 週目に有意な減少を認めた(P<0.05).  官能スコア,総 VSC レベルおよび舌苔スコアの試験 開始時の値を調整した反復測定による ANOVA により, すべての口臭指標において,摂取ガムと時間の間に有意 の交互作用を認めた(表−3).  図−2 にユーカリ抽出物配合チューインガム摂取に よる口臭関連要因の試験期間中の変化を示す.官能ス コア,総 VSC レベルおよび舌苔スコアにおいて,高濃 度群と低濃度群はプラセボ群と比較して有意な減少を示 した.高濃度群では,官能スコアにおける平均差-0.66, 95% 信頼区間-1.01‐-0.30,P=0.0004,低濃度群では, 平均差-0.63,95% 信頼区間-0.98‐-0.27,P=0.0007 で あった.総 VSC レベルにおいては,高濃度群では,平均 差 -0.23 ppm,95% 信 頼 区 間 -0.44‐ -0.03,P=0.0252, 低濃度群では,平均差-0.23 ppm,95% 信頼区間-0.43‐ -0.02,P=0.0292 であった.舌苔スコアにおいては,高 濃度群では,平均差-1.08,95% 信頼区間-1.82‐-0.34, P=0.0047,低濃度群では,平均差-0.93,95%信頼区間-1.66 表− 2 試験開始時の被験者の特性 高濃度群 (n = 32) (n = 32)低濃度群 プラセボ群(n = 33) 有意差* 男性/女性 16 / 16 13 / 19 19 / 14 なし 年齢(歳) 33.7 ± 8.6 33.4 ± 8.7 34.7 ± 8.8 なし GI 0.83 ± 0.31 0.85 ± 0.36 0.80 ± 0.34 なし PPD(mm) 2.20 ± 0.25 2.24 ± 0.23 2.21 ± 0.23 なし 官能スコア 1.85 ± 0.55 1.98 ± 0.52 1.72 ± 0.63 なし 総 VSC レベル(ppm) 0.25 ± 0.38 0.25 ± 0.40 0.15 ± 0.26 なし 舌苔スコア 1.53 ± 1.32 1.53 ± 1.72 1.03 ± 1.22 なし 値は平均±標準偏差を示す.

* 割合にはχ2 exact test を,連続変数には ANOVA を用いた.

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‐-0.19,P=0.0137 であった.反復測定による ANOVA により,官能スコア,総 VSC レベルおよび舌苔スコア において,摂取ガムと時間の間に有意の交互作用を認め た(それぞれ,P<0.001,P=0.0342 および P=0.0029).ポ ストホックテスト(Games-Howell pairwise comparison test)により,高濃度群および低濃度群の口臭指標の値は プラセボ群の値と比較して有意に減少していることを確 認した(P<0.05). 3.3 ユーカリ抽出物配合チューインガムの副作用  試験期間中の口腔内診査では,いずれの群においても 歯肉,口腔粘膜および舌への異常所見はみられなかった. 高濃度群に歯への着色を訴える者が 1 名いたが,診査時 には特に着色傾向は認められなかった.体重,脈拍およ び血圧は,いずれの群においても臨床的に問題となる異 常変動値は認められなかった.血液検査においては,食 事の影響を除くため食後 6 時間以内の中性脂肪および食 後 4 時間以内の血糖値は解析数値より除外した.いずれ の群においても臨床的に問題となるような変動はみられ なかった.尿検査でも,試験期間中に試験食と因果関係 が考えられる陽性反応は認められなかった.  4 名の被験者(高濃度群 1 名,低濃度群 2 名およびプ ラセボ群 1 名)に一過性の下痢が認められたが,他に重 篤な全身症状はみられなかった.

4. 考察

 反復測定による ANOVA とポストホックテスト(Games-Howell pairwise comparison test)による群と時間の交 互作用の解析により,高濃度群や低濃度群の官能スコア, 総 VSC レベルおよび舌苔スコアの平均値はプラセボ群 のそれらと比較して有意に減少していることが示され た.この結果から,ユーカリ抽出物配合チューインガム の長期摂取は,プラセボガムと比較して,舌苔量を減少 させ,口臭を抑制することが明らかとなった.口臭に対 表− 3 試験期間中の官能スコア,総 VSC レベルおよび舌苔スコア 指標 試験開始時 4 週目 8 週目 12 週目 14 週目 * 官能スコア 0.032  高濃度群   平均(95% 信頼区間) 1.9 (1.7 ‒ 2.1) 1.5 (1.3 ‒ 1.7) 1.5 (1.2 ‒ 1.7) 1.4 (1.2 ‒ 1.6) 1.5 (1.3 ‒ 1.7)    ** 0.029 0.019 0.010 0.050  低濃度群   平均(95% 信頼区間) 2.0 (1.8 ‒ 2.2) 1.6 (1.4 ‒ 1.7) 1.6 (1.5 ‒ 1.8) 1.7 (1.5 ‒ 1.9) 1.7 (1.5 ‒ 1.8)    0.004 0.018 0.047 0.030  プラセボ群   平均(95% 信頼区間) 1.7 (1.5 ‒ 1.9) 1.6 (1.5 ‒ 1.8) 1.7 (1.5 ‒ 2.0) 1.9 (1.7 ‒ 2.1) 2.0 (1.8 ‒ 2.2)    0.950 1.000 0.453 0.130 総 VSC レベル(ppm) 0.023  高濃度群   平均(95% 信頼区間) 0.3 (0.1 ‒ 0.4) 0.2 (0.0 ‒ 0.3) 0.1 (0.1 ‒ 0.1) 0.1 (0.1 ‒ 0.1) 0.2 (0.1 ‒ 0.2)    0.594 0.042 0.047 0.315  低濃度群   平均(95% 信頼区間) 0.3 (0.1 ‒ 0.4) 0.2 (0.1 ‒ 0.3) 0.2 (0.1 ‒ 0.2) 0.2 (0.1 ‒ 0.2) 0.2 (0.1 ‒ 0.2)    0.877 0.190 0.307 0.314  プラセボ群   平均(95% 信頼区間) 0.1 (0.1 ‒ 0.2) 0.2 (0.1 ‒ 0.3) 0.2 (0.0 ‒ 0.3) 0.2 (0.1 ‒ 0.4) 0.3 (0.1 ‒ 0.4)    0.964 0.946 0.714 0.564 舌苔スコア < 0.001  高濃度群   平均(95% 信頼区間) 1.5 (1.1 ‒ 2.0) 1.4 (1.0 ‒ 1.7) 0.9 (0.6 ‒ 1.2) 0.7 (0.5 ‒ 1.0) 0.7 (0.5 ‒ 1.0)    0.908 0.030 0.003 0.004  低濃度群   平均(95% 信頼区間) 1.5 (0.9 ‒ 2.1) 1.4 (0.9 ‒ 1.9) 1.1 (0.7 ‒ 1.4) 0.8 (0.5 ‒ 1.1) 0.9 (0.6 ‒ 1.2)    0.964 0.367 0.053 0.116  プラセボ群   平均(95% 信頼区間) 1.0 (0.6 ‒ 1.5) 1.0 (0.7 ‒ 1.3) 1.1 (0.7 ‒ 1.5) 1.1 (0.8 ‒ 1.4) 1.3 (0.9 ‒ 1.7)    1.000 0.998 0.998 0.713 * 官能スコア,総 VSC レベルおよび舌苔スコアの試験開始時の値を調整した反復測定による ANOVA ** Dunnett test を用いた試験開始時と測定時点との間の有意差 (Tanaka et al, l., 81, 1564-1571,(2010)18)より改編して転載)

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するユーカリ抽出物の有効性は,高濃度群において試験 開始時と比べて試験開始後 8,12 および 14 週目の官能 スコアや舌苔スコアが有意に減少したことや試験開始後 8 および 12 週目の総 VSC レベルが有意に減少したこと からも確認された.  ユーカリ抽出物は種々の歯周病原性細菌の増殖を抑制 するとともに7),有力な歯周病原性細菌 P. gingivalis の 主要な病原因子であるアルギニン特異的タンパク質分解 酵素やリジン特異的タンパク質分解酵素活性を阻害する ことが報告されている8).さらに,プラセボガムでは舌 苔スコアの有意な減少はみられなかったことから,試験 群における舌苔スコアの減少はユーカリ抽出物が口腔細 菌に影響を及ぼした結果かもしれない.舌苔は口臭の主 要な発生源の一つであるため,舌苔量の減少により総 VSC レベルや官能スコアなどの口臭指標が改善された ことが推測できる.しかし,ユーカリ抽出物の歯周病原 性 細 菌 Fusobacterium nucleatum や P. gingivalis に 対 する抗菌作用は殺菌的ではなく静菌的であることが示さ れている7).したがって,in vivo における舌苔細菌叢に 及ぼすユーカリ抽出物の影響を明らかにするためには, さらなる研究が必要である.また,ユーカリ抽出物配合 チューインガムはプラーク蓄積量を抑制することが報告 されており9),プラークの減少も口臭指標の改善に寄与 している可能性が考えられる.  ユーカリ抽出物は,長年,食品を含む多様な目的に使 用されてきており,安全な成分であると考えられている. 本研究でも,口腔や全身の重篤な副作用はみられなかっ たが,一過性の下痢が 4 名に認められた.糖アルコール は過剰摂取により腹部症状や催痢性を示すことが報告さ れている13), 14).キシリトール単回投与の催痢性におけ る最大無作用量は男性 0.37 g/kg,女性 0.42 g/kg13),マ ルチトールは男女ともに 0.3 g/kg14)と報告されている. 本試験の 1 日摂取量 10 粒あたりに含まれる糖アルコー ルはキシリトール 6.7 g,マルチトール 5.1 g であり,体 重 60 kg と仮定すると催痢性の最大無作用量以下である ことから,これらの一過性の下痢は個人の身体状況に起 因する可能性が高いと考えられる.また,ラットを用い た研究で,オスのラットには 1 日平均 310 mg/kg,メス 図− 2 口臭や舌苔量におよぼすユーカリ抽出物配合チューインガムの効果 A : 官能スコア,B : 総 VSC レベル,C : 舌苔スコア 値は試験開始時の値からの平均の変化量±標準誤差を示す . ■ : 高濃度群,◆ : 低濃度群,○ : プラセボ群

*反復測定による ANOVA と Games-Howell pair comparison test による群間の有意差 <0 .05 (Tanaka et al, ., 81 1564-1571,(2010)18)より改編して転載 )

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には 350 mg/kg のユーカリ抽出物を 13 週間与えても全 身状態や臨床所見,生化学試験(血液試験と尿試験)あ るいは病理学的観察による毒性はみられなかった(未 発表データ).本研究で用いたユーカリ抽出物の量は高 濃度群で 90 mg /日,低濃度群で 60 mg /日であった. 体重 60 kg と仮定すると高濃度群と低濃度群の 1 日あた りの摂取量はラットによる実験で得られた無作用量のそ れぞれ 200 分の 1 および 300 分の 1 に相当する量であり, ユーカリ抽出物による副作用が現れる危険性は低いと考 えられる.ユーカリ抽出物配合チューインガムの長期摂 取および過剰摂取における安全性については,前田らが 詳細に報告している15), 16)  本研究の限界としては,被験者の選定が嗅覚閾値レベ ルに基づいていないことがあげられる.本研究は,ユー カリ抽出物配合チューインガムが歯周組織の健康に及ぼ す影響を調べた研究9)と同時に行ったため,歯肉炎を有 するが深い歯周ポケットはみられない被験者を対象とし た.Tanaka et al10)の研究では,総 VSC レベル 0.25 ppm 以上または官能スコア 2 以上を基準として口臭を有する 被験者を定義している.この基準にあてはめれば,本研 究では,各群とも約半数の被験者が口臭なしに分類され る.Miyazaki et al17)によると,6-23% のヒトに 1 日の なかで社会的に容認できるレベルを超えた VSC が検出 されたという.したがって,ユーカリ抽出物配合チュー インガムは非常に軽度から中等度の口臭を有するヒトに 対する口臭抑制および口臭予防素材として利用できるか もしれない.ユーカリ抽出物配合チューインガムの臨床 的な口臭抑制効果をより明らかにするためには,より強 い口臭を示す被験者を対象とした無作為化比較対照試験 が必要であろう.

結論

 ユーカリ抽出物配合チューインガムは官能スコア,総 VSC レベルおよび舌苔スコアを長期間抑制した.ユー カリ抽出物配合チューインガムは舌苔量を減少すること により口臭を抑制する効果があることが示唆された. 謝辞  本研究は,株式会社ロッテからの受託研究(J050801012) として行った.

キーワード

:チューインガム,ユーカリ樹,口臭,無 作為化比較対照試験,揮発性硫化物

参考文献

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(8)

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Correla-M., Shimizu, K., Osawa, K., Shizukuishi, S. : Effect of eucalyptus-extract chewing gum on oral malodor : a double-masked, randomized trial, J. Periodontol., 81, 1564-1571, (2010).

Effect of eucalyptus-extract chewing gum on oral malodor

Hideki NAGATA

Department of Preventive Dentistry, Osaka University Graduate School of Dentistry 1-8 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japan

Abstract To evaluate the effect of eucalyptus extract on oral malodor, a double-masked, randomized, controlled trial with chewing gum containing eucalyptus extract was conducted. Subjects were randomly assigned to the following groups; a high-concentration (use of 0.6% eucalyptus-extract chewing gum) group, a low-concentration (use of 0.4% eucalyptus-extract chewing gum) group, and a placebo (use of chewing gum without eucalyptus extract) group. The intake period was 12 weeks. The organoleptic score, level of total volatile sulfur compounds (VSCs), and tongue-coating score were recorded at baseline and 4, 8, 12, and 14 weeks. Group-time interactions revealed significant reductions in the organoleptic score, level of total VSCs, and tongue-coating score in both concentration groups compared to the placebo group [Tanaka et al, J. Periodontol., 81, 1564-1571, (2010)].

Key words : chewing gum, eucalyptus, halitosis, randomized controlled trial, volatile sulfur compound

参照

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