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平成26年度 博士論文審査結果報告書 (平成27年3月5日

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平成26年度 博士論文審査結果報告書

(平成27年3月5日 提出)

1 審査員氏名 (主査)三上 和彦 ㊞ 水野 利英 ㊞ 菅 万理 ㊞

2 提出者氏名 (2009年度入学 経済学研究科 ED09E003番)

吉川 丈 3 論 題

第3セクター企業に関する理論・実証分析 ―混合寡占市場における部分的民営化の考察―

4 論文の概要

本論文は、第3セクター企業を、広く「政府と民間が共同で運営にあたる事業体」

として捉え、市場におけるその経済的特質を理論的・実証的に考察したものである。

本論文は、次のとおり、3章から構成されている。

第1章 第3セクター企業の設立経緯と民営化

第2章 “Co-opetitive”な混合寡占市場における私企業の参入と社会厚生 第3章 日本の鉄道事業者に対する効率性分析

―第3セクター鉄道と私鉄の技術効率性比較―

第1章「第3セクター企業の設立経緯と民営化」では、第2章における理論分析、

および第3章における実証分析の対象となる「第3セクター企業 」について、日本に おける過去と現在の状況を概観している。

総務省の統計によれば、日本における 第3セクター企業の設立は、1982年前後から 増加し始め、1992年にピークを迎えている。その後、設立件数は 減少に転じているが、

一方で、1998年ごろからは、観光・レジャー施設の運営や都市開発に係わる第3セク ター企業の法的整理件 数が増加している。こうしたことから第3セクター企業の数は 減少傾向にある のであるが、その理由について、吉川氏は、①公的部門からの損失補 填を想定した過大投資、②収益性を無視した経営、および③官民間の馴れ合いから生 ずる経営のゆるみ、の3点を挙げている。また、最近では、「地方公共団体の財政の 健全化に関する法律」の制定・運用が、地方自治体による 第3セクター企業の整理を 促進したことも指摘している。

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第2章「“Co-opetitive”な混合寡占市場における私企業の参入と社会厚生」では、

第3セクター企業と私企業からなる寡占市場の特徴を、理論的な手法を用いて分析し たものである。

最初に、表題に含まれる 「co-opetitive」という言葉 について説明を加えておく必 要があろう。この言葉は「co-operation」(協調)と「competition」(競争)の2語 が掛け合わせて作られた造語「co-opetition」に由来するもの であり、一般の辞書に 掲載されている 用語ではない。通常、市場において、企業は互いに競争し合うのであ るが、同時に、 意図する意図せざるにかかわらず、協調的な行動をとることも珍しく ない。例えば、ある携帯電話会社が自己の通信エリアを拡大するために基地局を増設 したとしよう。このとき、ライバルの携帯電話会社の顧客も、通信できる相手や機会 が増えるという意味で便益を受け、彼らが利用する 携帯電話サービスに対する支払許 容額が増大する。これは、ライバル携帯電話会社の利潤を引き上げる方向に作用する ことになる。

さて、本章において 第3セクター企業は、社会厚生と私的利潤の加重平均を目的関 数とする事業体として描写されている。これは、第3セクター企業が公的に所有され ている部分と私的に所有されている部分の双方があるという側面を反映し たものであ る。第3セクター企業 が株式会社形態を取る場合は、社会厚生と私的利潤にかかる荷 重は、公的部門と私的部門が所有する株式比率に依存するものであると解釈できる。

一方、私企業の目的関数は、その企業の私的利潤のみから構成される。

経済モデルの構造は 、オーソドックスな二段階のクールノー・ゲームである。第一 段階で、企業は、消費者の製品に対する支払許容額 を増大させる 投資を行う。この投 資は、全ての消費者の支払許容額を引き上げるため、当該企業のみならずライバル企 業に対しても正の外部性を及ぼすことになる。第二段階で、企業は生産量を決定する。

こうした設定の下で、吉川氏は次の3つの市場構造について検討している。すなわち、

(1)第3セクター企業による独占、(2)第3セクター企業と1私企業による複占、

および、(3)第3セクター企業と2私企業による寡占、である。

これらの分析により得られた主たる結論は、次の通りである。

第3セクター企業が存在する市場において、私企業の参入は必ずしも総投資量を増 大させるとは限らない。特に、第3セクター企業における公的部門の所有割合が比 較的小さい場合、私企業の参入は総投資量を減少させることがある。

第3セクター企業が存在する市場において、私企業の参入は常に消費者余剰を増大 させる。

第3セクター企業が存在する市場において、私企業の参入は必ずしも生産者余剰を 減少させるとは限らない。特に、第3セクター企業における公的部門の所有割合に よっては、私企業の参入は生産者余剰を増加させることがある。

第3セクター企業が存在する市場において、私企業の参入は必ずしも社会厚生を増 大させるとは限らない。特に、第3セクター企業における公的部門の所有割合が極 めて小さい場合、私企業の参入は社会厚生を減少させることがある。

これらの結論のうち、④にお ける「私企業の参入が社会厚生を減少させる場合があ る」という現象は、一般的な競争政策の知見に反するものである。こうした結論が得 られる理由は、①において、「 私企業の参入は総投資量を減少させる場合がある」と いう事実に起因するものであると考えられる 。つまり、市場における企業数が増える ことにより、投資に関する「ただ乗り」への誘因が生じ、各企業が投資額を減らす結

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果、市場における総投資量が減少するのである。こ うした効果が働くため、結果とし て、私企業の参入が社会厚生を減少させてしまう可能性が生じてくるのである。

第3章「日本の鉄道事業者に対する効率性分析 ―第3セクター鉄道と私鉄の技術 効率性比較―」は、日本の鉄道産業における第3セクター企業の効率性を 、統計的な 手法を用いて計測したものである。

分析の対象は、日本において 旅客輸送を行う鉄道事業者であり、貨物輸送を行う鉄 道事業者は含んでいない。また、費用構造が異なると考えられる路面電車や観光鉄道 は考察から除外している。その上で、総務省の定義に従って「資本金の25%以上を 地方公共団体が出資している鉄道事業者」を第3セクター鉄道事業者と捉え、私営鉄 道事業者との効率性比較を行っている。

推計方法としては、確率的フロンティア分析を用い ている。これは、通常の回帰分 析で用いる誤差項を、本来の誤差項と非効率性を表す項に分解し、後者より事業体の 非効率性を測定しようとする手法である。本論文においては鉄道産業が分析の対象に なっているが、これまでには医療(病院)や教育(学校)などの分野において、この 分析方法が用いられてきた。

分析の主たる結論は、「第3セクター鉄道事業者の技術効率性の平均値 と私営鉄道 事業者の技術効率性の平均値との間には、統計的に有意な差は認められない」という ものである。この結論を素直に解釈すれば、第3セクター鉄道事業者は私営鉄道事業 者より効率性が低いということはなく、「第3セクター鉄道事業者を民営化すること により、事業体としての効率性を高めることができる」という主張に疑問符が付 され ることになる。またこれは、「公営企業は効率が悪い」という一般的な認識とも異な る結論になっている。

5 論文の評価

本論文の長所として、次の3点が挙げられる。

第一に、第3セクター企業をテーマに据えた研究としての希少性がある。産業組織 論で取り上げられる企業は、必ずしも明示的ではないものも多いが、そのほとんどは 民間営利企業を想定しているものと考えられる。一部、混合寡占と呼ばれる、異なる 経営形態の企業が混在する市場の分析もなされているが、その多くは民間営利企業と 公企業の複占を扱ったものである。そうした中で、まず、第3セクター企業を主たる 分析対象として選んだという点は、希少性の点で評価に値するものであると思われる。

第二に、各章では、一見私たちが共有する一般認識とは異なる結論が得られている 点も、評価できる点である。第2章における「私企業の参入は時として社会厚生を減 少させることがある」という結論は、「競争は望ましいもの」というミクロ経済学の 一般的な見解に反するものである。また、第3章における「第3セクター鉄道事業者 は私営鉄道事業者より効率性が低いとはいえない」という結論は、「効率性の点では、

公営は民営に劣る」という一般的な見解に反している。こうした結論が、フォーマル な理論・実証分析を通して得られたものであるという点は、意味のあることであると 思われる。

第三に、全体としてみれば、本論文は、理論分析と実証分析の両方を含むものであ り、さらに理論分析の一部にはシミュレーション分析も用いられている。これは、第 3セクター企業の研究における幅広い分析方法を提示したという点で、評価できる点 であろう。

一方、本論文には不十分な点も見られる。

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第一に、第二章の理論分析において、経済モデルの設定に必ずしも説得的ではない 部分が見られる点である。例えば、本章で用いられている企業のモデルでは、一定の 投資量をより多くの企業で分担して行うようにすると、費用の総額が小さくてすむよ うな設定になっている。これは、市場構造と厚生分析との関連を示す結果に中立的で はない影響を与えているものと思われる。また、一部シミュレーション分析が用いら れているという点は上で述べたとおりであるが、これは逆に言えば、作成した経済モ デルが解析的には解けないような複雑なものであった、ということを意味している。

一般に、二段階ゲームは解が複雑になりやすい。そのため、有意義な結果を得るため には、問題の本質を失わない範囲内で、いかに単純な経済モデルを作るかが重要な鍵 となる。この点については、今後、さらにモデル・ビルディングの技術を高めていく ことが望まれる。

第二に、分析で得られた結論に対する経済的解釈が、必ずしも分かり易い形で記述 されていないという点が挙げられる。理論分析においては、構築した経済モデルを解 くことにより、何らかの結果は得られる。また、実証分析においては、集めたデータ に回帰分析を施すことにより、やはり何らかの結果は得られる。しかし、経済学とし て重要なのは、そこで得られた結果をいかに解釈するかである。著者は、論文中で得 られたそれぞれの結論について、何らかの解釈を試みているが、それらは微視的な傾 向が強く、結果として、読み手にとって解りづらいものになっているように思われる。

分析を細かく丁寧に行う必要があることは言うまでもないが、結果の解釈については、

筋を当てた状態でもっと大掴みにするという力量も必要であろう。この点については、

今後の課題としてさらなる成長を期待したい。

6 判定

論文の内容および所定の試験の成績を考慮し、本論文の提出者は博士(経済学)を 授与される資格があるものと判定する。

参照

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