Painlev´e 方程式の解の増大度について
三重大学大学院
教育学研究科教育科学専攻理数
·
生活系教育領域No.218M021
川 瀬 朋 大
2020
年2
月12
日序文
日常における物理現象には様々な微分方程式が表れる.しかし,たいていの場合その微分方程式の一般解は 初等関数で記述できない.そこで微分方程式を考察する上でしばしば関数の種類を増やす立場がとられる.本 論文の考察の対象であるパンルヴェ方程式もこの立場をとる方程式である.
パンルヴェはピカールが提案した「
2
階の代数的常微分方程式で動く分岐点を持たない例を見つける」とい う問題を機にして研究を行った.そのような方程式を調べた結果,線形方程式,楕円関数の方程式,求積でき る方程式とは別に新しい6
つの方程式を発見した.そして1906
年に弟子のガンビエとともに論文にまとめ発 表した.これが現在のパンルヴェ方程式にあたるものである.パンルヴェは,このまま研究を続けていくと思 われたがこの論文を発表する同時期に政界に身を転じ1917
年と1925
年に2
度のフランスの首相を務めてい る。また航空学にも興味を持ち始め,初めて飛行機に乗った数学者としても名をはせた。パンルヴェ自体がこ のように数学から離れたこともあってかパンルヴェ方程式自体もだんだんと数学界から姿を消していくことに なる。パンルヴェ方程式は役に立たないものと思われたが,
1970
年代に数理物理の分野で大きな変化がもたらさ れる。統計力学の分野でIII
型のパンルヴェ方程式が現れたのである。また,ソリトン波とよばれる非線形波 動の分野でもパンルヴェ方程式が表れ特殊関数として注目され始めたのである。これ以降パンルヴェ方程式は 様々な研究者によって研究され詳しく調べられることとなった.本論文ではこのパンルヴェ方程式に関する解を初等関数で近似し評価することが目的である.そこで,
1
章 では木村俊房「常微分方程式II
」における微分方程式の基礎理論について触れる.2
章では,まずI
型パンル ヴェ方程式の解の近似を行う.その際,1
章で用いた形式的変換と優級数を用いることによって解の近似を行 う.次にII
型パンルヴェ方程式の解の近似を行う.ここでは形式的変換におけるQ = 0, P = 0
のときのケー スに焦点をあて,解の近似を行う.その際,I
型パンルヴェ方程式のときと同様の方法に加え,ルーシェの定 理を上手く使い,解を近似する.最後に本論文の作成にあたり,丁寧かつ厳しい指導をしてくださった川向洋之教授に感謝し,序文とする.
目次
1
微分方程式の基礎理論4
1.1
一変数正則関数. . . . 4
1.2
多変数正則関数. . . . 4
1.3
優級数法. . . . 5
1.4
優級数法を用いた存在定理の証明. . . . 5
1.5
問題提起と記法の導入. . . . 8
1.6
変数変換. . . . 9
1.7
形式的変換の合成. . . . 10
1.8
変換の効果. . . . 12
1.9
形式的変換の存在. . . . 13
1.10
形式的変換の収束性. . . . 16
2
パンルヴェ方程式の解の評価19 2.1
パンルヴェ方程式とは何か. . . . 19
2.2 I
型パンルヴェ方程式の解の評価. . . . 20
2.3 II
型パンルヴェ方程式の解の評価. . . . 21
1
微分方程式の基礎理論本章では
2
章に必要な微分方程式の基礎的な理論について考える.1.1
一変数正則関数一変数の正則性の定義について確認しておく.
《定義
1.1.1
》複素平面C
の開集合D
で定義されたf
を考える.D
の点a
に対し,D
に含まれる円板| x − a | < r
において収束するベキ級数によってf (x) = ∑
∞k=0
c
k(x − a)
k(1.1)
と表されるとき,
f
はx = a
において複素解析的であるという.f
がD
の各店で複素解析的であるとき,f
はD
において正則であるといわれ,(1.1)
の右辺をf
のx = a
におけるTaylor
展開という.正則性について次の定理が成り立つ.
【定理
1.1.1
】f : D → C
がD
において正則であるための必要十分条件は,f
がD
において微分可能なこ とである.1.2
多変数正則関数多変数の正則性ついて定義する.
《定義
1.2.1
》C
n の開集合D
で定義された複素数値関数f
を考える.D
の点(b
1, · · · , b
n)
に対して,D
に含まれる多重円板| y
1− b
1| < r
1, · · · , | y
n− b
n| < r
nがとれて,この多重円板において絶対収束するベキ 級数によりf (y
1, · · · , y
n) = ∑
k1,···,kn≥0
c
k1···kn(y
1− b
1)
k1· · · (y
n− b
n)
kn(1.2)
と表されるとき,f
は(b
1, · · · , b
n)
において複素解析的という.f
がD
の各点において複素解析的であると き,f
はD
において正則であるという.(1.2)
を右辺をf
の点(b
1, · · · , b
n)
におけるTaylor
展開という.多変数の正則性についても一変数とよく似た定理が成り立つ.
【定理
1.2.1
】f
がD
で正則であるための必要十分な条件は,f
がD
において連続かつ各変数について偏微分可能なことである.
この定理において,
f
がD
で連続であるという条件を取り去ることができることが知られている.つまり 以下の定理が成り立つ.【定理
1.2.2
】f
がD
で整型⇐⇒ f
が各変数について偏微分可能.1.3
優級数法《定義
1.3.1
》2つのベキ級数∑ c
k1···km(x
1− a
1)
k1· · · (x
m− a
m)
km, (1.3)
∑ C
k1···km(x
1− a
1)
k1· · · (x
m− a
m)
km(1.4)
に対し
| c
k1···km| ≤ C
k1···km(k
1, · · · , k
m= 0, 1, · · · )
が成り立つとき,(1.4)
は(1.3)
の優級数という.【定理
1.3.1
】(1.4)
が| x
1− a
1| < r
1, · · · , | x
m− a
m| < r
mにおいて絶対収束すれば,(1.3)
も| x
1− a
1| <
r
1, · · · , | x
m− a
m| < r
mにおいて絶対収束する.関数
f (x
1, · · · , x
m)
は領域| x
1− a
1| < r
1, · · · , | x
m− a
m| < r
mにおいて正則かつ有界:| f (x
1, · · · , x
m) | ≤ M
とする.f
の(a
1, · · · , a
m)
におけるTaylor
展開をf (x
1, · · · , x
m) = ∑
c
k1···km(x
1− a
1)
k1· · · (x
m− a
m)
km とすれば,1変数のときと同様に係数の評価式| c
k1···km| ≤ M r
k11· · · r
mkm
(k
1, · · · , k
m= 0, 1, · · · )
が成り立つ.したがって
∑ M r
1k1· · · r
kmm(x
1− a
1)
k1· · · (x
m− a
m)
km(1.5)
はf
のTaylor
展開の優級数である.(1.5)
は| x
1− a
1| < r
1, · · · , | x
m− a
m| < r
mにおいて収束し,その和は( M
1 −
x1r−1a1)
· · · (
1 −
xmr−mam)
に等しい.1.4
優級数法を用いた存在定理の証明優級数法を用いた解の存在と一意性について次が成り立つ.
【定理
1.4.1
】微分方程式y
j′= f
j(x, y
1, · · · , y
n)
(j = 1, · · · , n) (1.6)
の右辺はすべて| x − a | < r, | y
j− b
j| < ρ
(j = 1, · · · , n)
において正則かつ有界| f
j(x, y
1, · · · , y
n) | ≤ M
とする.そのとき,
x = a
で正則かつ初期条件y
j(a) = b
j(j = 1, · · · , n)
を満たす解が| x − a | < r (
1 − exp − ρ (n + 1)M r
)
(1.7)
において存在し,ただ1つである.《証明》
x − a, y
j− b
jを新しい変数として取り直せばよいので,始めからa = 0, b
j= 0
としても一般性を失 わない.f
j のx = y
1= · · · = y
n= 0
におけるTaylor
展開をf
j(x, y
1, · · · , y
n) = ∑
k,l1,···,ln
c
k l1···lnjx
ky
l11· · · y
nln(1.8)
とする.| f
j(x, y
1, · · · , y
n) | ≤ M
と| x − a | < r, | y
j− b
j| < ρ
(j = 1, · · · , n)
から| c
k l1···lnj| ≤ M
r
kρ
l1+···+ln(1.9)
を満たす.
求める解が存在したとすれば,
x = 0
で正則でx = 0
のとき,y
j= 0
となるので,x = 0
でのTaylor
展 開は,y
j= ∑
∞ν=1
α
νjx
ν(j = 1, · · · , n) (1.10)
と表せる.これを
(1.6)
へ代入すると∑
∞ ν=1να
νjx
ν−1= ∑
k,l1,···,ln
c
k l1···lnjx
k( ∑
∞ν=1
α
ν1x
ν)
l1· · · ( ∑
∞ν=1
α
νnx
ν)
ln(1.11)
が成り立つ.ここからは定理を
(i)
「形式解が一意的に存在すること」と(ii)
「求めた形式解が(1.7)
の範囲で収束するこ と」の2
段階に分けて証明を行う.(i)(1.11)
を満たすベキ級数(1.10)
がただ一つ存在することを証明する(1.11)
の両辺の定数項を比較してα
1j= c
00···0j(j = 1, · · · , n) (1.12)
を得る.
(1.11)
の右辺をx
のベキ級数に整理したときのx
N−1の係数p
Njを求める.そのために(1.11)
の項c
k l1···lnjx
k( ∑
∞ν=1
α
1νx
ν)
l1· · · ( ∑
∞ν=1
α
nνx
ν)
ln(1.13)
を 考 察 す る .(1.10)
は1
次 の 項 か ら 始 ま る か ら ,(1.13)
をx
の ベ キ 級 数 に 整 理 す る と(1.13)
はk + l
1+ l
2+ · · · + l
n次の項から始まる.したがってx
N−1の項を含むためにはk + l
1+ l
2+ · · · + l
n< N
で な け れ ば な ら な い .次 に ,α
N1x
N, α
N+11x
N+1, · · · , · · · , α
Nnx
N, α
N+1nx
N+1, · · ·
はN
次 以 上 で あ る か ら ,α
N1, α
N+11, · · · , · · · , α
Nn, α
N+1n, · · ·
はp
Nj に 無 関 係 で あ る .し た が っ てp
Nj はα
11, α
21, · · · , α
N−11, · · · , α
1n, · · · , α
N−1nおよびc
k l1···lnj(k + l
1+ l
2+ · · · + l
n< N)
のみから決まる.したがって
p
Nj= P
N(α
νi, c
kl1···lnj) (j = 1, · · · , n)
とおける.
P
N はα
νi(1 ≤ i ≤ n, ν < N )
,c
k l1···lnj(k + l
1+ · · · + l
n< N)
の多項式でありその係数は正の 整数である.
(1.11)
の左辺のx
N−1の係数はN α
NjなのでN α
Nj= P
N(α
νi, c
k l1···lnj) (1.14)
を得る.(1.12)
と(1.14)
から,α
νjはν
に関する帰納法で順次一意的に決まる.よって解が存在したとして もただ一つである.(ii)
形式解が収束することを証明する.微分方程式
y
′j= ∑
k,l1,···,ln
C
k l1···lnj
x
ky
l11· · · y
lnn(j = 1, · · · , n) (1.15)
を考える.
(i)
から右辺のベキ級数は収束に関係なく形式解y
j= ∑
∞ν=1
A
νjx
ν(j = 1, · · · , n) (1.16)
をもつ.再び
(i)
の論法を用いると係数A
νjはA
1j= C
00···0j(1.17)
N A
Nj= P (A
νi, C
k l1···lnj
) (1.18)
から定まることが分かる.
(1.15)
の右辺の級数が(1.8)
の右辺の優級数と仮定する.つまり,| c
k l1···lnj| ≤ C
k l1···lnj(k, l
1, · · · , l
n= 0, 1, · · · ; j = 1, · · · , n) (1.19)
である.このとき,級数(1.16)
は(1.10)
の優級数であることを帰納法を用いて証明する.まず,
| α
1j| = | c
00···0j| ≤ C
00···0j= A
1j(j = 1, · · · , n)
である.次に| α
νj| ≤ A
νj(ν = 1, · · · , N − 1 ; j = 1, · · · , n) (1.20)
が成り立つと仮定する.このとき,(1.14)
,(1.19)
,(1.20)
およびP
N の係数が正の整数であることより| α
Nj| = N
−1| P
N(α
νi, c
k l1···lnj) |
≤ N
−1P
N( | α
νi| , | c
k l1···lnj| )
≤ N
−1P
N(A
νi, C
k l1···lnj)
= A
Nj(j = 1, · · · , n)
となる.以上より| α
νj| ≤ A
νj(ν = 1, 2, · · · ; j = 1, · · · , n) (1.21)
が示された.これは級数
(1.16)
は(1.10)
の優級数であることを示している.不等式
(1.9)
によって級数∑ M
r
kρ
l1+···+lnx
ky
l11· · · y
nln(1.22)
は(1.8)
の優級数である.級数(1.22)
の和はM
(1 − x/r)(1 − y
1/ρ) · · · (1 − y
n/ρ)
である.したがって微分方程式dy
jdx = M
(1 − x/r)(1 − y
1/ρ) · · · (1 − y
n/ρ) (j = 1, · · · , n) (1.23)
の解で領域(1.7)
で正則かつ初期条件y
j(0) = 0
を満たすものの存在を示せばよい.方程式
(1.23)
および初期条件はy
jについて対称であることからY (0) = 0
を満たすdY
dx = M
(1 − x/r)(1 − Y /ρ)
n の解をY = ϕ(x)
とすれば,y
j= ϕ(x) (j = 1, · · · , n)
は方程式
(1.23)
の解である.この微分方程式は変数分離型であるから∫
Y( 1 − Y
ρ )
ndY =
∫
xM
1 − x/r dx + C (C
は任意定数)
となる.初期条件Y (0) = 0
から解を求めるとϕ(x) = ρ {
1 −
n+1√
1 + (n + 1)M r
ρ log
( 1 − x
r )}
となる.この解の特異点は
log
の中を0
にする点と根号の中を0
にする点である.実際に求めてみるとx = r, r
(
1 − exp − ρ (n + 1)M r
)
である.よって
ϕ(x)
は領域(1.7)
で正則な解となっている.以上より形式解の収束性が示せた.1.5
問題提起と記法の導入前節では解をベキ級数の形で求めることにより存在定理を証明した.この考え方をさらに発展させる.
具体的には次の形式的微分方程式
y
′j= ∑
a
kl1···lnx
ky
l11· · · y
lnn(j = 1, · · · , n) (1.24)
を形式的変換y
j= z
j+ x ∑
′a
kl1···lnjx
kz
l11· · · z
nln(j = 1, · · · , n) (1.25)
によってz
j′= 0 (j = 1, · · · , n) (1.26)
にできることおよび形式的変換
(1.25)
は(1.24)
が収束ベキ級数のとき収束することを示すことが目標である.なお
(1.25)
で用いた∑
′は
k + l
1+ · · · + l
n≥ 1
を満たす(k, l
1, · · · , l
n)
についての和を表すものとする.まず記号の準備から始める.
m
個の変数x
1, · · · , x
mとn
個の変数y
1, · · · , y
nとの形式的ベキ級数全体C[[x
1, · · · , x
m, y
1, · · · , y
n]]
を 簡単にG
で表す.x = (x
1, · · · , x
m),
y = (y
1, · · · , y
n), k = (k
1, · · · , k
m),
l = (l
1, · · · , l
n), x
ky
l= x
k11· · · x
kmmy
1l1· · · y
lnn| k | = k
1+ · · · + k
m,
| l | = l
1+ · · · + l
n.
とすると,(1.24)
の右辺は簡単に∑
|k|+|l|≥0
a
klx
ky
lと表される.
G
のn
個の元の列(a
kl1x
ky
l, · · · , a
klnx
ky
l)
は,a
kl= (a
kl1, · · · , a
kln)
とおくことにより,∑ a
klx
ky
lと書ける.
次に以下の
n
個のG
の元φ
1= y
1+ ∑
′′a
kl1x
ky
l, .. .
φ
n= y
n+ ∑
′′a
klnx
ky
l,
の列(φ
1, · · · , φ
n)
を考える.ここで∑
′′は
| k | + | l | ≥ 2
を満たす(k, l) = (k
1, · · · , k
m, l
1, · · · , l
n)
について の和を表すものとする.φ = (φ
1, · · · , φ
n),
p
kl= (p
kl1, · · · , p
kln)
とおき,さらにφ = y + ∑
′′p
klx
ky
l(1.27)
と書く.このような
φ
の全体をT
で表し,その元を形式的変換と呼ぶ.最後に
T
に含まれる変換の中で特別な形をした変換について定義する.《定義
1.5.1
》T
の元でφ = y + ∑
|k|>0
′′
p
klx
ky
l(1.28)
の形をしているものの全体を
T
0と表す.特に,
m = 1
のときには,T
0に属する変換はy + x ∑
′p
klx
ky
l(1.29)
と書ける.ここで
∑
′は
k + | l | ≥ 1
を満たす(k, l)
についての和を表す.この定義を踏まえると
(1.25)
はT
0の元であることが分かる.1.6
変数変換前節では形式的変換による準備を行った.本節ではもう少し一般的な変換について変数変換が満たす式を見 ていこう.
微分方程式
(1.6)
においてf
jはx = y
1= · · · = y
n= 0
で正則とする.変数変換y
j= φ
j(x, z
1, · · · , z
n) (j = 1, · · · , n) (1.30)
によって(1.6)
はz
′j= g
j(x, z
1, · · · , z
n) (j = 1, · · · , n) (1.31)
に移ったとする.ここでφ
jはx = z
1= · · · = z
n= 0
は正則で,φ
j(0, 0, · · · , 0) = 0
を満たし,逆変換z
j= ψ
j(x, y
1, · · · , y
n) (j = 1, · · · , n) (1.32)
が存在してψ
jもx = y
1= · · · = y
n= 0
で正則とする.そのとき(1.31)
は次のようにして(1.6)
から得られ る.
(1.32)
をx
で微分してdz
jdx = ∂ψ
j∂x +
∑
n ν=1∂ψ
j∂y
νdy
νdx (j = 1, · · · , n)
(1.6)
からdz
jdx = ∂ψ
j∂x +
∑
n ν=1∂ψ
j∂y
νf
ν(j = 1, · · · , n)
したがって
g
j(x, z
1, · · · , z
n) = ( ∂ψ
j∂x +
∑
n ν=1∂ψ
j∂y
νf
ν)
yν=φν(x,z1,···,zn)
(1.33)
であって,g
j= (x, z
1, · · · , z
n)
はx = z
1= · · · = z
n= 0
で正則である.この
(1.33)
の右辺を0
にできれば1.5
節の目標は達成できる.しかし,いきなりこの変換を考えることは難しい.そこで,変換によって定数項,
1
次の項,2
次の項,· · ·
,と順に消していくことを考える.そのため には変換の合成と1
変換の効果を考える必要がある.これを次節以降で触れていくこととする.1.7
形式的変換の合成
T
の二つの元φ
とψ = y + ∑
′′q
klx
ky
l(1.34)
に対して,その合成
ψ ◦ φ = ((ψ ◦ φ)
1, · · · , (ψ ◦ φ)
n)
を次のように定義する.第j
成分ψ
j= y
j+ ∑
′′q
kljx
ky
l に(φ
1, · · · , φ
n)
を代入したものを(ψ ◦ φ)
j= y
j+ ∑
′′p
kljx
ky
l+ ∑
′′q
kljx
k(y + ∑
′′p
KLx
Ky
L)
l(1.35)
とする.この式の第2
項,第3
項は2
次以上の項からなるから(ψ ◦ φ)
j= y
j+ ∑
′′r
kljx
ky
l と書ける.r
kl= (r
kl1, · · · , r
kln)
とおいてψ ◦ φ = y + ∑
′′r
klx
ky
l(1.36)
と定義する.
(1.35)
からr
klj= p
klj+ q
klj+ P
kl(p
KLi, q
KLj) (1.37)
と書けることが分かる.ここでP
klはp
KLi( | K | + | L | < | k | + | l | ; i = 1, · · · , n)
とq
KLj( | K | + | L | < | k | + | l | )
との多項式で係数は正の整数である.写像
e = y,
すなわちe
j= y
j に対して明らかにφ ◦ e = e ◦ φ = φ
(φ ∈ T )
が成り立つ.
T
の任意の元φ
に対してψ ◦ φ = e (1.38)
を満たす
ψ ∈ T
が存在する.実際,φ, ψ, ψ ◦ φ
を(1.27), (1.34), (1.36)
とする.(1.37)
を使うと,ψ ◦ φ = e
はp
klj+ q
klj+ P
kl(p
KLi, q
KLj) = 0 (1.39)
と同値である.| k | + | l | = 2
のときは特にp
klj+ q
klj= 0
である.これと
(1.39)
から,| k | + | l |
に関する帰納法によって,q
kljが一意的に定まる.φ ∈ T
に対し(1.38)
を満たすψ ∈ T
をφ
の逆変換といいφ
−1と書く.これを基に再度形式的微分方程式の変換を考えていこう.
G
の元である形式的微分方程式dy
jdx = f
j(j = 1, · · · , n) (1.40)
を考える.形式的微分方程式
(1.40)
を与えることはf = (f
1, · · · , f
n) ∈ G
nを与えることである.方程式
(1.40)
に対し,T
に属する変換φ = z + ∑
′′p
klx
kz
l(1.41)
を考える.
(1.41)
の逆変換をψ
とし,ψ = y + ∑
′′q
klx
ky
l(1.42)
とする.
ここで
(1.41), (1.42)
の第j
成分をy
j= φ
j= z
j+ ∑
′′p
kljx
kz
l, (1.43)
z
j= ψ
j= y
j+ ∑
′′q
kljx
ky
l(1.44)
とし,
(1.40)
に(1.43)
を施すと,1.6
節からdz
jdx = ∂ψ
j∂x +
∑
n J=1∂ψ
j∂y
Jf
Jとなる.以下,便宜上
z
1, z
2, · · · , z
nをy
1, y
2, · · · , y
nに置き換えたものを「変換φ = (φ
1(x, y), · · · , φ
n(x, y))
で得られる方程式」と呼ぶことにするまた,変換された方程式を
g = (g
1, · · · , g
n)
と表し,簡単にg =
( ∂ψ
∂x +
∑
n J=1∂ψ
∂y
Jf
J)
◦ φ (1.45)
と書くことにする.
方程式
f = (f
1, · · · , f
n)
と変換φ = (φ
1, · · · , φ
n)
とから方程式g = (g
1, · · · , g
n)
を導くことは,E × T
からE
への写像を与える.すなわちE × T −→ E :
(f , φ) 7→ g. (1.46)
である.
(1.45)
において使われる演算:φ
からψ = φ
−1を作る演算T → T
,微分演算G → G
,積および 和の演算G × G → G
,代入の演算E × T → E
はすべて連続であるから,写像(1.46)
は連続となる.これを 命題としてまとめる.【命題
1.7.1
】形式的微分方程式y
′= f
と形式的変換φ
とに形式的微分方程式y
′= g
を対応させる写像E × T → E : (f , φ) 7→ g
は連続である.特に,
T
の列{ φ
ν}
∞ν=1がφ ∈ T
に収束するとき,(f , φ
ν) 7→ g
ν, (f , φ) 7→ g
とすれば,{ φ
ν}
∞ν=1はg
に収束する.1.8
変換の効果次に,方程式
(1.40)
をy
′= 0
にするために必要な変換の効果について見ていく.形式的微分方程式
(1.40)
をy
′= f = ∑
a
klx
ky
l(1.47)
の形で表し,次の2種類の変換で
(1.47)
がどう変わるかを調べる:φ = y + qx, (1.48)
φ = y + x ∑
k+|l|=ν
q
klx
ky
l(ν ≧ 1) (1.49)
変換
(1.48)
はT
には属さないが,(1.47)
に変換(1.48)
を施すには1.6
節を基に考えればよい.(1.49)
はT
0に属する変換である.まず変換
(1.48)
の効果を調べる.(1.48)
は明らかに逆変換ψ = y − qx
をもつ.ψ
の第j
成分ψ
jはψ
j= y
j− q
jx
である.変換された方程式をy
′= g = ∑
b
klx
ky
l(1.50)
とすれば,
g
の第j
成分g
jは,f = (f
1, · · · , f
n)
とおいて,∂ψ
j∂x +
∑
n J=1∂ψ
j∂y
Jf
J= f
j− q
j にφ = (φ
1, · · · , φ
n)
を代入したものである.g
j= ∑
a
kljx
k(y + qx)
l− q
j.
定数項に注目するとb
00= a
00− q
が得られる.したがって,
q = a
00とおくとb
00= 0
とできる.次に,
a
00= 0
として(1.49)
の効果を調べてみよう.変換された方程式を(1.50)
とする.φ
の逆変換ψ
はψ = y − x ∑
k+|l|=ν
q
klx
ky
l+ x ∑
k+|l|>ν
r
klx
ky
lと書ける.
ψ
の第j
成分ψ
jに対して,∂ψ
j∂x = − ∑
k+|l|=ν
(k + 1)q
kljx
ky
l+ ∑
k+|l|>ν
(k + 1)r
kljx
ky
l,
∂ψ
j∂y
J= δ
jJ− ∑
k+|l|=ν
l
Jq
kljx
k+1y
l−eJ+ ∑
k+|l|>ν
l
Jr
kljx
ky
l−eJ.
ここで
δ
jJ= {
1 (j = J)
0 (j ̸ = J) , e
J= (0 | {z } · · · 01
J
0 · · · 0)
である.f
Jは1
次以上の項のみからなることに注意して∂ψ
j∂x +
∑
n J=1∂ψ
j∂y
Jf
J= ∑
k+|l|≤ν
a
kljx
ky
l− ∑
k+|l|=ν
(k + 1)q
kljx
ky
l+ · · ·
を得る.ここで
· · ·
の部分はν + 1
次以上の項からなる.これにφ
1, · · · , φ
nを代入したものがg
jであるから,g
j= ∑
k+|l|≤ν
a
kljx
k(y + x ∑
q
KLx
Ky
L)
l− ∑
k+|l|=ν
(k + 1)q
kljx
k(y + x ∑
q
KLx
Ky
L)
l+ · · · .
右辺のν
次以下の項を調べ,(1.50)
と比べてb
klj= {
a
klj(k + | l | ≤ ν) a
klj− (k + 1)q
klj(k + | l | = ν)
が得られる.このことは
(1.50)
のν
次より低い次数の項の係数は(1.47)
の対応する係数と同じ,つまり不変 であり,ν
次の項の係数はb
kl= a
kl− (k + 1)q
kl という変化を受けることを主張している.特に
q
kl= a
klk + 1
とすれば,b
kl= 0 (k + | l | = ν )
とできる.以上により,変換
(1.48)
を施すによって定数項を0
にでき,その変換された方程式に(1.49)
を施すことに よってν
次の項を0
にできることが分かった.1.9
形式的変換の存在これまでの準備をもとに形式的微分方程式
(1.47)
をy
′= 0
に変換する形式的変換φ = y + x ∑
k+|l|≥0
p
klx
ky
l(1.51)
の構成法について述べる.まず2つの注意を述べておく.
変換
(1.51)
は逆変換φ
−1をもち,φ
−1も同じ形φ
−1= y + x ∑
k+|l|≥0
q
klx
ky
l をもつ.変換
(1.51)
はT
に属する変換ではない.しかし,(1.51)
は1.8
節で考えた1次変換ϕ
1= y + p
1x
と
T
の変換ϕ
2= y + x ∑
′p
kl2x
ky
l の合成ϕ
2◦ ϕ
1に等しい.逆も正しい.以上を踏まえた上で形式的微分方程式と形式的変換について次の定理が成り立つ.
【定理
1.9.1
】形式的微分方程式(1.47)
に対して,形式的変換(1.51)
が存在し,(1.47)
は(1.51)
によってy
′= 0 (1.52)
に変換される.このような変換
(1.51)
は一意的に定まる.《証明》変換
ϕ
1= y + qx (1.53)
によって
(1.47)
がy
′= g = ∑
b
klx
ky
l(1.54)
に移ったとする.前述の結果から
q = a
00とすればb
00= 0
となる.(1.53)
をこのようにとる.次に変換ψ
1= y + x ∑
k+|l|=1
q
kl1x
ky
l(1.55)
を行う.
(1.55)
によって(1.54)
がy
′= g
1= ∑
b
kl1x
ky
l になったとする.前述の結果からb
kl1=
{ b
00((k, l) = (0, 0)) b
kl− (k + 1)q
kl1(k + | l | = 1)
である.よってq
kl1= b
kl/(k + 1) (k + | l | = 1)
ととるとb
001= 0, b
kl1= 0 (k + | l | = 1)
とできる.一般にN − 1
個の変換ψ
ν= y + x ∑
k+|l|=ν
q
klνx
ky
l(ν = 1, 2, · · · , N − 1)
を順次行い,y
′= g
N−1= ∑
b
klN−1x
ky
l が得られb
klN−1= 0 (k + | l | ≤ N − 1)
が満たされているとする.次に変換ψ
N= y + x ∑
k+|l|=N
q
klNx
ky
lを行い
y
′= g
N= ∑
b
klNx
ky
l が得られたとする.b
klN=
{ 0 (k + | l | < N)
b
klN−1− (k + 1)q
klN(k + | l | = N)
が成り立つ.よって
q
klN= b
klN−1k + 1 (k + | l | = N )
とおくとb
klN= 0 (k + | l | ≤ N )
とできる.よって帰納的に形式的変換の列ψ
ν= y + x ∑
k+|l|=ν
q
klνx
ky
l(ν = 1, 2, · · · ) (1.56)
と形式的微分方程式の列