• 検索結果がありません。

難治性精神疾患に対する脳神経回路再生療法の可能性

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "難治性精神疾患に対する脳神経回路再生療法の可能性"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

7

1

はじめに ―神経幹細胞機能異常仮説から―

11 海馬の神経新生は新たな学習・記憶に関わるか 成体脳における新たな神経細胞の産生 神経新生 の存 在が明らかとなって以降,この神経細胞代謝の脳における 機能的役割と,神経疾患・精神疾患の病態との関連が注目 され,精力的な解析研究が進められている.また,神経新 生能は,加齢,ストレス,グルココルチコイドによって抑 制され,反対に,刺激の豊かな環境,種々の抗うつ薬・気 分安定薬・非定型抗精神病薬などの向精神薬によって促進 されることが示され,脳の神経回路網は,新たな神経細胞 の誕生〜発達・成熟〜死によって,その形成・維持・修復 の各機能が保たれているものと推察される.実際,近年の 研究で,海馬の顆粒細胞下層で増殖した神経幹細胞が神経 細胞に分化,発達を進め,

CA3

領域の神経細胞へ投射経路

を発達させ,徐々に成熟した神経細胞として機能していく ことが示されている.さらに,海馬領域の詳細な解析によ って,この神経幹細胞〜幼若神経細胞〜成熟神経細胞への 細胞代謝が,全体の神経回路のうちの一定の割合で起きて いる状態が考えられており,

1

)新たな神経細胞の新生・発 達が, 新たな記憶保持の分子メカニズム と深く関わるこ と,

2

)入れ替わる神経細胞の割合が,海馬の可塑性機構 と深く関わることが推察されている1

12 精神疾患の病態に神経新生異常が関わる可能性 脳の神経新生の機能異常については,これまでに,脳虚 血障害,パーキンソン病,ハンチントン病,アルツハイマ ー病,うつ病,統合失調症,アルコールによる脳障害など,

種々の神経精神疾患で報告がなされ,その病態形成におけ る重要性が推察されている2.このうち,うつ病,およびア

総説(学内研究紹介)

難治性精神疾患に対する脳神経回路再生療法の可能性

鵜 飼   渉 , 橋 本 恵 理 , 石 井 貴 男 , 吉 永 敏 弘 , 館 農   勝 , 齋 藤   諭 , 齋 藤 利 和

札幌医科大学医学部神経精神医学講座

The neural network reconstruction as a new therapy for treatment-resistant neuropsychiatric disorders

Wataru U

KAI

, Eri H

ASHIMOTO

, Takao I

SHII

, Toshihiro Y

OSHINAGA

, Masaru T

ATENO

, Satoshi S

AITO

, Toshikazu S

AITO

Department of Neuropsychiatry, Sapporo Medical University School of Medicine

ABSTRACT

Neural stem cells (NSCs) have recently been identified in mammalian brains, including human. The long-standing dogma of no new neuron was overturned by the discovery of NSCs in the adult brain. NSCs are primordial and uncommitted cells with two characteristic properties; self-renewal and multipotency. NSCs give rise to various types of cells in the central nervous system including neurons, astrocytes and oligodendrocytes. NSCs attract interests of a large number of researchers in various scientific fields because of their possibility of becoming innovative therapeutic strategy for neurodegenerative disorders previously considered untreatable. Recent clinical neuroimaging studies have suggested that morphological brain changes occur and progress in the course of depression, Alzheimer's disease and schizophrenia. The analysis of potentials of psychotropic drugs on NSC function may reveal the pathophysiological importance of neural network impairment and its repair. Furthermore, the studies using stem cells such as intra- venous NSC transplantation can be a useful method to clarify the neural network reconstruction mechanism damaged in neuropsychiatric disorders.

(Received Jun 11, 2007) Key words: Neural stem cell, Neurogenesis, BDNF, CREB, NRSF/REST

(2)

ルツハイマー病においては,その罹患期間と相関して海馬 の体積が減少することが報告されている.アルツハイマー 病の剖検脳においては,海馬の神経新生が増加している所 見が得られており,これが何らかの神経新生機能の異常を 示唆しているものと推察されている3.海馬は,成体脳の中 では最も神経新生がさかんな領域の一つとして知られてお り,脳の萎縮の原因となる神経回路網の異常・脱落に対す る神経新生異常の関与の可能性が強く示唆されている4 また,近年の画像診断学の発展によって,統合失調症の脳 においても,前頭前野や海馬の萎縮の進行が明らかとなり,

新しく開発が進められた非定型抗精神病薬がこの脳の形態 変化を抑制することが報告されたことなどから,その病態 における神経新生機能異常の問題が指摘されている5.さ らに近年の研究で,アルコールが神経幹細胞の機能に特異 的に影響を及ぼすことが見出され,アルコールによる脳障 害,およびアルコール依存症からの回復の過程における神 経新生機能の変化の意義の解明研究が急速に進むなど6 神経新生の異常が種々の精神疾患の病態に深く関わる可能 性が示唆されている.近年,神経精神疾患の領域では,こ の神経新生を増強することの治療的意義に関する研究が精 力的に実施されており,本報では,薬剤抵抗性の難治精神 疾患に対する新たな治療手段の可能性について,我々の研 究を含め関連する研究を紹介したい.

2

うつ病 ―解明進む神経新生異常の関与―

近年,神経幹細胞からの神経新生の異常としてのうつ病 の病態解明への取り組みが始まっている78.しかしなが ら,神経幹細胞の機能変化の分子メカニズムに関してはい まだ不明な点が多く,神経幹細胞の役割をうつ病の病態解 明・治療へと還元する研究・試みがますます求められてい る.

我々はこれまでに,気分障害の病態における

cAMP/

CREB

細胞内情報伝達系の重要性を報告し,抗うつ薬が,

これらの機序に関連して神経幹細胞の分化を促進させるこ と ,ま た ,神経幹細胞に お け る 脳由来神経栄養因子

BDNF

)の発現を増加させることを報告した.また,うつ 病自殺者死後脳における小胞体ストレス蛋白質の増加の報 告,双極性障害の病態と小胞体反応系の低下や,気分安定 薬バルプロ酸による小胞体ストレス蛋白質の増加,さらに,

慢性的な抗うつ薬の投与または

ECT

によってユビキチン化 に深く関与する蛋白の発現上昇などの報告で示唆されてい るうつ病の病態における細胞内小器官,小胞体の機能異常 の報告に着目し,小胞体ストレス負荷時の神経幹細胞の機 能変化に対する抗うつ薬の影響について調べ,抗うつ薬の 処置が小胞体ストレスによる神経幹細胞の神経分化抑制を 軽減すること,並びに,小胞体ストレス関連蛋白質

GRP78

の発現増強を抗うつ薬の処置が抑制することを明らかとし た.そこで今回,抗うつ薬が神経幹細胞の神経分化を促進 させる細胞内の分子機構について,転写因子のレベルでの

調節機序について検討を進めた.これまでに,神経幹細胞 の神経細胞への促進的分化に関わる転写因子として,

Mash1

Math1

Math3

Neurogenin1

Neurogenin2

Pax6

NRSF

などが報告されている911.このうち今回 は,非神経組織や未分化な細胞に多く発現し,

BDNF

をは じめ,突起伸展を促進し神経可塑性に関与する

SCG10

神経活動に必須とされるⅡ型

Na

チャンネルなど,多数の 神経特異的遺伝子群の発現に関わる転写抑制因子である

NRSF

に着目した1213.まず,

NRSF

の機能変化を誘導す るメカニズムとして,細胞外からのシグナルを核内へと伝 える細胞内シグナル伝達経路

MAP

キナーゼカスケードが どのように関与しているのかを調べた.本カスケード上の主 要分子

ERK

の活性変化に着目してその影響を検討し,

10

30 nM

thapsigargin

を処置した神経幹細胞において,

ERK

の活性化型である

p-ERK

の発現の著名な低下を明ら かとした.さらに,

ERK

の活性変化が神経幹細胞の分化,

ならびに

NRSF

DNA

結合活性にどのように影響するの かを,

ERK

活性化抑制作用を有する

MEK

阻害剤

U0126

を用いて解析した.その結果,

U0126

を処置した神経幹細 胞の神経細胞への分化は抑制され,神経分化を抑制した濃 度において,

U0126

NRSF

DNA

結合活性を有意に増 強した.次に,神経幹細胞に小胞体ストレスを負荷した際

NRSF

の機能変化について調べ,小胞体ストレスによっ

NRSF

の標的配列への結合活性が有意に増強するととも に,

NRSF

の蛋白発現量も増加することがわかった.つま り,小胞体ストレスを処置することによって,

NRSF

が神 経特異的遺伝子群の発現抑制に働く転写制御エレメントに より強固に結合し,神経の最終分化に関わる遺伝子群の発 現を抑えることによって,神経細胞の新生が抑制されるも のと考えられた.これらの結果から,抗うつ薬の神経細胞 分化促進作用に,小胞体の機能変化,および

ERK

シグナ ルの変動を介した転写抑制因子

NRSF

の活性変化の関与が 考えられ,これがうつ病の病態基盤に何らかに関わる可能 性が考えられた.

3

アルコール脳障害 ―神経分化の特異的変異 の可能性―

31 アルコールによる神経細胞障害のメカニズム 以前より,アルコール依存症患者では論理的思考,計画 立案能力と記憶能力の低下が著しいことが指摘されていた が,それに結びつく脳内での病態様式は長い間不明であっ た.しかしながら,一生にわたって続く脳内神経細胞の新 生現象が報告されて以後,アルコール過剰摂取によって海 馬の神経細胞新生が阻害され,回復期にはその新生が増強 されていることが判明し,アルコール長期・多量摂取によ る脳の構造と機能の損傷メカニズムは急速に理解が深まっ てきている.さらに,神経幹細胞の機能修飾,あるいは神 経幹細胞の移植療法を念頭とした新たな治療戦略を背景に,

アルコールによる神経幹細胞の機能変化の解析がさまざま

(3)

に進められている.

長期的・過度のアルコール摂取は脳細胞そのものにダメ ージを与えるが,その機序に神経細胞内情報伝達系変化の 関与が考えられてきた.アルコール依存症の患者死後脳

(大脳皮質領域),末梢血血小板を用いた我々の研究では,

アルコール依存症群において有意なⅠ型およびⅧ型アデニ ル酸シクラーゼ(

AC

)の量的減少を認めている14.また,

エタノールの慢性摂取による線条体

CREB

活性の減少が報 告され15,我々も,培養神経細胞を用いてアルコールによ る転写因子

CREB

活性の低下と

CREB

によって発現制御 される脳由来神経栄養因子(

BDNF

)の減少を報告してお 16,アルコールが神経細胞内において

cAMP-CREB

報伝達系を負にレギュレートしていることが明らかとなって いる.加えて,これまでの我々を含む複数の研究者の報告 で,アルコールは急性処置(培養細胞では

0.5-2

時間)で

cAMP

系を活性化し,

BDNF

等の発現も増加させるが,

より長期の慢性的な処置(培養細胞では

24

時間以上)で は,

cAMP

系を低下させ,

BDNF

の発現を低下させること が分かっており17,我々はこの慢性的なアルコールの摂取

による

cAMP-CREB-BDNF

シグナル伝達系の減弱と神経 細胞障害の増強との関連に焦点をあて,アルコールによる 脳ダメージを直接誘発するメカニズムとして解析研究を進 めている.

32 神経新生の異常と神経回路網の変異の可能性 アルツハイマー病における認知・記憶の障害に結びつい た海馬・前頭葉の萎縮や,再発を繰り返すうつ病患者,あ るいはコルサコフ症候群に代表されるアルコール性健忘症 候群における海馬の萎縮に対する,共通した生物学的病態 基盤の存在が推察できる.アルコールは

BDNF

の産生低下 などを介して神経細胞そのものの生存を低下させることで,

神経系に障害を誘導する可能性がある.一方,我々は,ア ルコールが脳の神経系に及ぼす影響はそれだけではなく,

新たに神経細胞を産生・供給する機能としての神経新生の 異常も関与するのではないかと考えた.

初めに,アルコールを神経幹細胞に処置することによっ て,神経細胞の生存に影響を与える濃度よりかなり低濃度 で神経幹細胞から神経細胞への分化が特異的に障害される

1 エタノールによる神経幹細胞分化の方向付けの変化

グラフ左下:神経幹細胞を各濃度のエタノールに96時間暴露し,その生存率をMTT法を用いて評価した.100mMまでの濃度におい て細胞の有意な生存率低下を認めなかったが,同様の処置により,神経幹細胞から神経細胞への分化がエタノールの濃度依存的に抑制さ れた(*p0.05.グラフ右上下:一方,細胞特異的な蛋白の抗体を用いた評価で,エタノールの濃度依存的に神経幹細胞からアストロ サイト,およびオリゴデンドロサイイトへの分化がそれぞれ促進された(*p0.05

(4)

ことを見出した.またこの時,神経幹細胞の増殖や遊走能 はそれほどはっきりとした変動を示さなかったことから,今 のところ我々は,この神経幹細胞から神経細胞への分化の 抑制という現象が最も特異的なアルコールによる神経幹細 胞の機能異常ではないかと考え,神経幹細胞内のシグナル 伝達系分子の変化を含め,さまざまな面からの解析を進め ている.そして最近,米国ノースカロライナ大学の

Nixon K

らは大変興味深い報告を示した.慢性アルコール依存症の 動物モデルを用いた検討で,アルコールの依存状態におい ては,脳の海馬での神経新生,つまり,新たな神経細胞の 産生は阻害されるが,その後の断酒期において,ニューロ ン新生が著しく増強しているというものである18.彼らは,

このことは慢性アルコール依存症における認知機能の低下 と脳容積の減少,並びに断酒期におけるそれらの改善と密 接に結びつく現象であると指摘している.また,アルコー ル依存症はしばしばうつ病を伴うが,このこととうつ病に おけるニューロン新生の阻害との共通性,さらには断酒に よる認知機能の改善のメカニズムとして神経新生の変化を 推察している.我々はさらに,神経幹細胞からグリア細胞 へ分化についての検討を進め,神経細胞への分化とは全く 逆に,グリア細胞への分化が増加することを見出し報告し 19.この実験結果の生理学的な意義は非常に大きいと考 えられた.すなわち,脳内での神経幹細胞の供給が低下し,

代わりにグリア細胞が増えることは,長期のアルコール摂 取によって脳の神経回路網が修復・改変していく際に多大 な影響を及ぼしうることを示すものと考えられた(図

1

次に我々は,アルコールによって変化する,神経幹細胞 において分化の方向性を決定するメカニズムについての検 討を進めた.神経幹細胞にアルコールを処置した際の核内 転写因子

NRSF

REST

DNA

結合活性変化を解析した 結果,神経細胞に直接的な生存機能の障害を生じさせない 濃度のアルコール処置が神経幹細胞の分化決定に重要な転 写因子の活性を変化させるという重要な知見が得られた20 アルコールによって神経幹細胞から神経細胞への分化が減

2 エタノールによる神経幹細胞の分化制御に関わる細胞内シ グナル伝達経路(想定)

少し,逆にグリア細胞への分化が増強することを示したが,

これには,本転写因子

NRSF

REST

の活性変化が大き な役割を担っていることが推察された(図

2

33 新たな治療法開発にむけて

これまでの検討で,比較的高濃度のアルコールが細胞内 のシグナル伝達系の一つ

cAMP

系の変化を介して

BDNF

の発現量を変化させ,細胞生存機能を変化させる一方,よ り低濃度のアルコールによって神経細胞を新たに産生する 神経幹細胞の機能,とりわけ神経細胞やグリア細胞への分 化機能が変化するということが示唆され,アルコールがこ

2

通りの作用を通して脳の神経回路網の維持・修復機能 に影響を及ぼしていることが考えられた.これらの結果は,

アルコールが,なぜ発達期・成長期の脳機能,さらには成 長後の脳機能維持にも重大な影響を及ぼしうるのかについ ての解明の糸口になりうるものと考えている.また,最近,

BDNF

遺伝子ノックアウトマウスの行動学的解析から,脳

BDNF

の発現低下がアルコール摂取行動や異常運動の更 新に深く結びついているとの報告がなされ,

cAMP-CREB- BDNF

システムの機能低下が,アルコールによる脳神経回 路網の障害という観点にとどまらず,アルコールの依存病 態そのものにも関与しうる可能性も推察されてきている.

こうしたことを踏まえ,現在我々は,マーキングした神経 幹細胞を経静脈的に移植し,脳内に移行した神経幹細胞の 増殖・分化などの各細胞機能・動態を

in vivo

で探ることが できるようにした,神経回路網の変異イメージングシステ ムを構築するとともに,

NRSF/REST

などの転写因子系を 調節することが病態の治療的意義にどう関わるかについて の検討を進めている(図

3

4

4

統合失調症 ―小胞体機能異常の可能性―

統合失調症の生物学的病態仮説として,

Weinberger

らに よって神経発達障害仮説が,

Lieberman

らによって神経変 性仮説が提唱されているが,いずれの仮説においても,統 合失調症の病態における脳の形態学的的・構造学的異常の 問題が重要視されている.また,最近の脳画像研究におい て,初発統合失調症患者において,治療に用いた薬剤によ り,その後の脳の形態変化に違いが見られたことが報告さ れ,病態の進行に伴う脳の構造変化に加え,治療薬による 脳の形態変化の可能性も注目されている21

これまでに我々は,培養細胞,動物モデル,および死後 脳を用いて,統合失調症における細胞内情報伝達系変化,

ならびに細胞機能変化の解析を行い,その変化と治療薬の 臨床効果発現との関連について調べてきた22.最初に我々 は,統合失調症の治療に対する従来薬である定型抗精神病 薬ハロペリドールと,近年開発され,臨床での使用が増加 している非定型抗精神病薬リスペリドン,およびオランザ ピンが,神経細胞の生存機能に及ぼす影響について比較検 討し,非定型抗精神病薬のリスペリドン,オランザピンの

(5)

みが,栄養因子除去による細胞障害から神経細胞を保護す る効果を有することを示した.最近の統合失調症の縦断的 研究において,統合失調症における脳の進行性の形態変化 が指摘されるとともに,用いた治療薬の種類によって,進 行する脳の形態変化に違いがあることが報告された.我々 は,これらの知見,および臨床的報告から,実験的に認め られる定型・非定型抗精神病薬の神経保護効果,並びに神 経新生促進効果の差異が,統合失調症の臨床における脳の 形態変化と病理の進展に関係しているとの仮説を立てた.

上述したように,定型抗精神病薬のハロペリドールに比べ,

非定型抗精神病薬のリスペリドン,およびオランザピンの

みに,神経細胞を保護する効果が認められるが,このこと については,現在,薬剤が持つ神経栄養因子的機序が推察 されているものの,詳しい細胞内メカニズムについてはいま だ不明のままである.

最近,統合失調症の分子生物学的研究が進展する中,遺 伝学的リスクファクター解析の研究において,統合失調症 と小胞体ストレス応答反応の機能変化との関係が報告され た.統合失調症の患者において,細胞内の小器官の一つ,

小胞体ストレス応答シグナル分子

XBP-1

の遺伝子変異が多 いという指摘である23.また,統合失調症の患者死後脳に おいて,小胞体の機能に変化が生じていることを示す所見 が認められたとの報告もなされた.そこで次に我々は,非 定型抗精神病薬オランザピンの神経細胞保護効果における 小胞体機能変化の関連について解析を進めることとした.

小胞体ストレス誘導剤タプシガルジンによって神経細胞に 障害を誘発した際の,オランザピン併用処置の影響を調べ,

オランザピンがタプシガルジンによる神経細胞障害を顕著 に抑制することを明らかとした24.このことから,オランザ ピンが細胞ストレスによる小胞体機能変化に何らかに影響 を及ぼすことによって,その細胞保護効果を発揮している 可能性が考えられた.小胞体へのストレスは,細胞内のカ ルシウムホメオスタシスに影響を及ぼし,酸化ストレス増 大を起こすなどしてアポトーシスの増加に結びつくと考えら れている.また,新生蛋白質の機能的修飾の場である小胞 体へのストレスが細胞の生存に不可欠な機能蛋白質の産生 低下を起こし,細胞死を増加させることも指摘されている.

従って,オランザピンは小胞体ストレスを軽減させる機序 で神経細胞死の増加を抑制する作用を有することが推察で きる.

5

おわりに ―将来展望―

近年の脳画像学的診断の発展により,うつ病や,統合失 調症,アルコールによる脳障害などの精神疾患の病理にお ける,脳の形態学的な変化の関与が明らかとなってきてい る.抗うつ薬に加え,非定型抗精神病薬の投与が,脳内の 神経細胞・神経幹細胞の新生・生存能を変化させ神経回路 の機能変化を起こし,それが治療薬の臨床効果発現と結び ついているとの仮説とあいまって,これらの精神疾患の脳 病理における共通した神経回路網変異の機序を類推させる.

今後,こうした精神疾患の脳障害の機序の問題について,

脳神経回路網の

1

)発達

2

)修復

3

)再構築,の観点で神経 細胞・神経幹細胞の機能変異を中心に解析を続け,精神疾 患における脳ダメージの進行予防・治療法の確立へ結び付 けていきたいと考えている.

参考文献

1 Kitabatake Y, Sailor KA, Ming GL, Song H. Adult neu- rogenesis and hippocampal memory function: new cells, more plasticity, new memories? Neurosurg Clin N Am 3 アルコールによる脳の神経回路の形成・修復機能の変化に

ついて,ラットFASモデルを用いたin vivo解析を試み た.

妊娠10-14日のラットにエタノールを強制経口投与し,生後

1ヶ月目に標識した神経幹細胞を静脈内に投与した.さらに1 ヵ月後に行動薬理学評価,並びに脳内での移植細胞の検出・

解析を実施した.

4 FASモデルにおける不安・認知の障害を高架式十時迷路で 評価した.

FASモデルラットでは,open arm timeおよびtotal arm

entryが増加するが,神経幹細胞を移植した群ではその行動変

化の改善が認められた.

(6)

2007; 18: 105-113.

2 Elder GA, De Gasperi R, Gama Sosa MA. Research update: neurogenesis in adult brain and neuropsychiatric disorders. Mt Sinai J Med 2006; 3: 931-940.

3 Greenberg DA, Jin K. Neurodegeneration and neurogene- sis: focus on Alzheimer's disease. Curr Alzheimer Res 2006; 3: 25-28.

4 Warner-Schmidt JL, Duman RS. Hippocampal neurogen- esis: opposing effects of stress and antidepressant treat- ment. Hippocampus 2006; 16: 239-249.

5 Halim ND, Weickert CS, McClintock BW, Weinberger DR, Lipska BK. Effects of chronic haloperidol and cloza- pine treatment on neurogenesis in the adult rat hippocam- pus. Neuropsychopharmacology 2004; 29: 1063-1069.

6 Crews FT, Mdzinarishvili A, Kim D. Neurogenesis in adolescent brain is potently inhibited by ethanol.

Neuroscience 2006; 137: 437-445.

7 Jacobs BL, Praag H, Gage FH. Adult brain neurogenesis and psychiatry: a novel theory of depression. Mol Psychiatry 2000; 5: 262-269.

8 Malberg JE, Eisch AJ, Nestler EJ, Duman RS. Chronic antidepressant treatment increases neurogenesis in adult rat hippocampus. J Neuroscience 2000; 20: 9104-9110.

9 Kageyama R, Ohtsuka T, Hatakeyama J, Ohsawa R.

Roles of bHLH genes in neural stem cell differentiation.

Exp Cell Res 2005; 306: 343-348.

10Ross SE, Greenberg ME, Stiles CD. Basic helix-loop- helix factors in cortical development. Neuron 2003; 39:

13-25.

11Hack MA, Saghatelyan A, de Chevigny A, Pfeifer A, Ashery-Padan R, Lledo PM, Gotz M. Neuronal fate determinants of adult olfactory bulb neurogenesis. Nat Neurosci 2005; 8: 865-872.

12Kraner SD, Chong JA, Tsay HJ, Mandel G. Silencing the type II sodium channel gene: A model for neural-specific gene regulation. Neuron 1992; 9: 37-44.

13Mori N, Stein R, Sigmund O, Anderson DJ. A cell type- preferred silencer element that controls the neural-specif- ic expression of the SCG10 gene. Neuron 1990; 4: 583- 594.

14Sohma H, Hashimoto E, Shirasaka T, Tsunematsu R, Ozawa H, Boissl KW, Boning J, Riederer P, Saito T.

Quantitative reduction of type I adenylyl cyclase in human alcoholics. Biochim Biophys Acta 1999; 1454:

11-18.

15Yang X, Horn K, Wand GS. Chronic ethanol exposure impairs phosphorylation of CREB and CRE-binding activity in rat striatum. Alcohol Clin Exp Res 1998; 22:

382-390.

16Sakai R, Ukai W, Sohma H, Hashimoto E, Yamamoto M, Ikeda H, Saito T. Attenuation of brain derived neu- rotrophic factor (BDNF) by ethanol and cytoprotective effect of exogenous BDNF against ethanol damage in neuronal cells. J Neural Transm 2005; 112: 1005-1013.

17McGough NN, He DY, Logrip ML, Jeanblanc J, Phamluong K, Luong K, Kharazia V, Janak PH, Ron D.

RACK1 and Brain-Derived Neurotrophic Factor: A Homeostatic Pathway That Regulates Alcohol Addiction.

J Neurosci 2004; 24: 10542-10552.

18Nixon K, Crews FT. Temporally specific burst in cell proliferation increases hippocampal neurogenesis in pro- tracted abstinence from alcohol. J Neurosci 2004; 24:

9714-22.

19Tateno M, Ukai W, Yamamoto M, Hashimoto E, Ikeda H, Saito T. The effect of ethanol on cell fate determina- tion of neural stem cells. Alcohol Clin Exp Res 2005; 29 (12 Suppl): 225S-229S.

20Tateno M, Ukai W, Hashimoto E, Ikeda H, Saito T.

Implication of increased NRSF/REST binding activity in the mechanism of ethanol inhibition of neuronal differen- tiation. J Neural Transm 2006; 113: 283-293.

21Lieberman JA, Tollefson GD, Charles C, Zipursky R, Sharma T, Kahn RS, Keefe RS, Green AI, Gur RE, McEvoy J, Perkins D, Hamer RM, Gu H, Tohen M, HGDH Study Group. Antipsychotic drug effects on brain morphology in first-episode psychosis. Arch Gen Psychiatry 2005; 62: 361-370.

22Ukai W, Ozawa H, Tateno M, Hashimoto E, Saito T.

Neurotoxic potential of haloperidol in comparison with risperidone: implication of Akt-mediated signal changes by haloperidol. J Neural Transm 2004; 111: 667-681.

23Kakiuchi C, Ishiwata M, Umekage T, Tochigi M, Kohda K, Sasaki T, Kato T. Association of the XBP1-116C/G polymorphism with schizophrenia in the Japanese popu- lation. Psychiatry Clin Neurosci 2004; 58: 438-440.

24Kurosawa S, Hashimoto E, Ukai W, Toki S, Saito S, Saito T. Olanzapine potentiates neuronal survival and neural stem cell differentiation: regulation of endoplas- mic reticulum stress response proteins. J Neural Transm 2007; 114: 1121-1128.

別刷請求先

060-8556 札幌市中央区南1条西17丁目 札幌医科大学医学部神経精神医学講座 TEL011-611-2111(内線 3518 FAX011-644-3041

E-mail[email protected]

参照

関連したドキュメント

 膵の神経染色標本を検索すると,既に弱拡大で小葉

32) Braga TT, Correa-Costa M, Guise YF, Castoldi A, De Oliveira CD, Hyane MI, Cenedeze MA, Teixeira SA, Muscara MN, Perez KR, Cuccovia IM, Pacheco-Silva A, Gonçalves GM, Camara NO.

Fatiguing inspiratory muscle work causes reflex sympathetic activation in humans. 19 ) Sheel AW, Derchak PA, Morgan BJ, et al: Fatiguing inspiratory muscle work causes

⑫ 亜急性硬化性全脳炎、⑬ ライソゾーム病、⑭ 副腎白質ジストロフィー、⑮ 脊髄 性筋萎縮症、⑯ 球脊髄性筋萎縮症、⑰

鈴木 則宏 慶應義塾大学医学部内科(神経) 教授 祖父江 元 名古屋大学大学院神経内科学 教授 高橋 良輔 京都大学大学院臨床神経学 教授 辻 省次 東京大学大学院神経内科学

The commutative case is treated in chapter I, where we recall the notions of a privileged exponent of a polynomial or a power series with respect to a convenient ordering,

Amount of Remuneration, etc. The Company does not pay to Directors who concurrently serve as Executive Officer the remuneration paid to Directors. Therefore, “Number of Persons”

脳卒中や心疾患、外傷等の急性期や慢性疾患の急性増悪期等で、積極的な