英語スピーチ・コミュニケーションの展開(その1)
英語発音基礎訓練のためのシラバス編成の試み(1)
長 澤 邦 紘*
(1985年9月28日受理)
Developing Teaching Strategies for
Speech Communication Activities in the Classroom(Part 1):
Designing a Syllabus for Phonetic Teaching in the Teacher Training Course(1)
Kunihiro NAGAsAwA
(Received September 28,1985)
Abstract
The purpose of this five−part series of papers is to identify the reasons for the Iack of speech communication activities in the English classroom in Japan, and propose ideas and strategies for developing successful speech com一 munication on the part of the teacher and students. Five major reasons are identified three of which are to be discussed in this series:1)The teacher has no confidence in his command of English;2)He has no idea of teaching Eng一 lish as communication;3) He has no repertoire of techniques for teaching speech communication. Programmes are offered to tackle these problems. The
、
?奄窒唐煤@of these is one for developing the teacher s pronunciation skills which is essential part of his classroom English. The pronunciation training is divided into two phases:basic training(subject of this paper)and more advanced training. The emphasis in the basic training is put on the correctness, audi一 bility and pleasantness of pronunciation and voice projection. The items of training are the consonants, the vowels, consonant clusters, rhythm and into一 nation in words and sentences and basics of oral interpretation.
序 論
この「序論」は本シリーズ「英語スピーチ・コミュニケーションの展開」全体に対する序と,本
.
e「英語発音基礎訓練のためのシラバス編成の試み」への序の2つの部分から成る。まず最初に本
*茨城大学教育学部英文科Department of English, Faculty of Education, Ibaraki University
シリーズ全体に対する序から記すことにする。
本シリーズの鍵概念である「スピーチ・コミュニケーション」とは,英語の教室でおこりうるあ らゆる種類の英語の言語事象のうち,伝達を目的として話されたものを意味する。いわゆる練習や ドリルは含まない。コミュニケーションのための言語活動と練習・ドリルの区別に関しては,教室 というものがすでに人為的な場であるから,そこで起こりうる外国語の言語事象はすべて練習であ り,真の意味でのコミュニケーションのためのものではないという意見がある。しかし,それでも やはり,教室という模擬的状況においてすら,より伝達的な言語活動と練習的な言語活動の区別が
● ●
あることも事実である。この区別をわれわれは,ある言語活動が(i)ある特定の言語形式の練習を
● ●
意図した活動なのか,㈲意味の伝達に主眼をおいた活動なのか,という言い方によってより明確に できるかもしれない。Littlew ood(1981:85)は前者を「コミュニケーションのための部分的ス キル」,後者を「全体的スキル」習得にかかわる言語活動とよんでいる。われわれのいう「スピーチ・
コミュニケーション活動」とは(五)の意味においてである。
スピーチ・コミュニケーション活動の重要性は日本の英語教育においても充分認識されていなが らも,実際の授業ではさまざまな理由によりその遂行が妨げられているのが実情である。本シリー ズの目的はそれらの原因を判別し,その上に立って,しかるべきスピーチ・コミュニケーション活 動が展開されるための条件を考えることにある。
日本の英語の教室においてスピーチ・コミュニケーション活動が活発におこなわれないのはおよ そ以下の理由によるものと考えられる。
1 授業時間が不足している:中学校における週3時間授業ということに端的にあらわれているよ うに,英語教育における絶対的な時間不足は教室におけるコミュニケーション活動を圧迫している。
言語材料についての教師の日本語による説明,そして多少のドリルで授業時間は終ってしまい,コ ミュニケーション活動までは時間がさけないというのが現実であろう。
2 教師自身が自分の英語に対して自信がもてない:英語教師は,概して,英語をコミュニケーシ ヨンの手段として使うことに不慣れであるため,まず自分自身が英語を使って授業をおこなおうと いう、気にならない。そしてそうであれば,生徒に対しても英語を使うチャンスを与えたり,英語を 使うことを奨励したりするという考えもおこらないわげである。
3 教師のもつ英語教育目的論の中に「コミュニケーション」という概念が欠如している:これは 上記2の問題と密接に関係があるが,自分自身が英語を意味伝達の手段として使ったことがあまり なければ,そのことを自分がたずさわっている教育の目的の一部として考えるということはおこり にくい。このような教師の場合,授業は日本語による言語材料の説明とドリルだけで終ってしまい,
たとえ時間に余裕があったとしても応用展開の段階であるコミュニケーション活動までは発展して ゆかないのである。そして更に悪いことには,そこでおこなわれるドリル自体も有意味なドリルと いうよりは機械的で無味乾燥なドリルに終ることが多いのである。
4 教師がコミュニケーション活動のための方法論をもっていない:コミュニケーションとしての 英語教育という目的意識もあり,英語にも自信をもっているが,コミュニケーション活動をどのよ
うに自分の授業にとりいれてゆけばよいかがわからない場合がこれである。ここでいう「方法論」
には実際の言語活動例の知識も含まれる。これらの教師に要求されるのはこの種の言語活動例の蒐
集と,それらを授業に組み入れてゆく方略(strategies)の開発である。
5 スピーチ・コミュニケーション活動は「受験英語」にとっては不要である:現在の日本の中学 校・高等学校における英語教育が「受験指向型」であることは多くの人の認めるところであろう。
このような状況にあっては,コミュニケーション活動を重視するような授業は「受験」という目的 にとっては非能率なもの,あるいは的はずれなものと考えられる。「受験英語」には「英会話」はな いからである。
以上の5つの問題点のうち教員養成機関あるいは現職教員再訓練の責任当局が中心的に取り組ま なければならないのは2,3,4の問題であろう。本シリーズではこれらの問題に対処するため,
問題領域を以下のように設定する。
1教師が教室において用いる英語(広義の「教室英語」)の基礎となるべき英語発音のための訓練 はどのようなものであるべきか。
2 教師の教室英語の運用力を高めるためにはどのような訓練が必要か。
3 外国語教育の目的論の中で「コミュニケーション」がもつ意義はどのようにして認識されるべ
きか。
4 コミュニケーション活動を授業の中で生かすにはどのような方法論が必要か。
「教室英語」ということばは,普通,あいさつとか指示のことばなどの狭い意味で用いられること が多いが,ここでは教師が教室内で用いるあらゆる種類の英語をいう。willis(1981:48 f)は教 室英語を教授・学習の対象になる英語と,それを教えるために教師が使う英語に分けている。われ われのいう教室英語はこの両者を合わせた概念である。
上記1の問題領域は本稿と本シリーズの「その2」において扱われる。英語発音上の技術とそれ に対する教師の自信の有無は教師が教室英語を用いる上で大きな効果の差を生み出すものと思われ るので,教師のスピーチ・コミュニケーション活動の基礎として発音訓練を位置づけるのである。
これは基礎訓練(本稿扱い)とより上級の訓練(「その2」扱い)に分かれる。本槁で扱う発音訓練 の内容は呼吸法,母音や子音などの単音,語,文の発音,基礎的なオーラル・インタープリテーシ
ヨンである。「その2」ではいわゆる「スピーチ」(public speaking),ドラマ,ディベート等が扱 われる。ディベートは上記問題領域2の英語運用力開発のためのプログラムに組み入れてよい性質 のものである。
問題領域3の外国語教育における「コミュニケーション」の意義については,世界の外国語教育 史,日本の英語教育史,現行の学習指導要領等の中に位置づけて検討される。
問題領域4に関連しては,直接教授法(Direct Method)や耳と口による教授法(Audio−lingual Method)などの方法論にも触れるが,主として Communicative Language Teaching の呼び名 で総祢される方法論を中心に検討する。ここではまた,それらの教授法を実行する上で教師が使う べき英語も問題になるので,第2の問題領域をも同時に考えることになる。教室英語の中味とその 使用程度は教授法の選択と大いに関係してくるので,教室英語の訓練は教授法の実地訓練と平行し ておこなわれるのが現実的であり効果的だと思われる。
本シリーズの最終回(予定では「その5」)では,スピーチ・コミュニケーションにおける社会言
語学的な側面が考察される。英語が最も有力な「世界共通語」の一つになっている事実は事実とし
て,この言語がそれを生み,はぐくんだ社会の文化を背後に背負っていることも事実である。外国
語教育としての日本の英語教育の状況の中では,この文化はどの程度に教えられるべきなのか。英
語学習に英語文化の学習も含ませることの妥当性と可能性が検討される。
本稿の目的は,教室英語の基礎となるべき教師の英語発音の技術を開発するためのシラバスを作 成することにある。本シラバスはこの数年間すでに筆者がある授業の中で実行してきたことを再述 したものにすぎず,その意味で,従来のシラバスのもつ処方的,指導的な性格をももつ一方,記述 的,記録的( retrospective record [Candlin(1984:35)])な性格をもつものである。また,
小論で「シラバス」という語を使う場合,それは当該授業の目的・目標の記述と教授細目の選定と 順序づけだけでなく,授業のための方法論と評価の方法に関する記述も含めるものとする。シラバ スという概念から「評価」や「方法論」を除外する考えもあるが,Candlin(1984:31), Bell
(1981:36ff),Yalden(1983:96)などにみられるように,評価や方法論の問題もこれに含め る考えがより妥当と思われるのでこれに従うことにする。
本シラバスはその骨子を南大阪地区発音研究会(現在は「発音研究会」と名称変更)の英語音声 訓練のそれに多くを負っている。しかし,本稿では同研究会のシラバスからの借用関係については
いちいち触れない。同研究会のシラバス,活動内容については長澤(1980)を参照されたい。
1 授業の目的と目標
本授業の目的は,学生が将来英語教師となるにあたって最低限要求される英語発音に関する知識 と技術を身につけることである。その到達されるべき具体的目標は次の通りである。
1 英語の子音と母音の発音ができる。
2 基本的な子音連結の発音ができる。
3 語における正しいアクセントのつけ方ができる。
4 文における正しいアクセントのつけ方ができ,正しいイントネーションで読むことができる。
5 オーラル・インタープリテーションの基礎的な技術を身につける。
上記の目標では,単音,語,文いずれのレベルにおいても「正しい」発音が求められているが,
教師の英語発音の条件としては「正しさ」だけではまだ不充分である。教師の英語発音は「正しさ」
も含め,次の3つの条件をそなえていなければならないと思われる。
1 正確(℃orrect)であること。
2 明瞭(audible)であること。
3 聞きやすい音声(pleasant)であること。
上言己1の要件は自明であると思われるので,2と3にっいて付言する。英語教師に限らず,教師 の声が教室全体によく聞こえるというのは必須の条件である。英語音声の場合は生徒の側に日本語 よりも聞きとりの困難さが加わるので,教師はより意識的に明瞭に発音しなければならないだろう。
Tench(1981:19f)はこれを「聞き手の理解力と寛容度に合わせて,発音の正確さ・明瞭度を調
節する」という言い方でとらえている。日本の中学校・高等学校の生徒のように話された英語への
理解力が低く,また,あいまいな発音に対する寛容度も低いと思われる学習者に対しては,教師は
明瞭な発音が要求されるわけである。しかも,事柄は,その場になったら声を大きくすればよいと
いう程単純なものではない。仮に小さな声でそれらしい英語の発音ができても,いざ教壇に立って 大きな声で発音すると,もとの「よい発音」がくずれるということがよくある。外国語のように発 音に技術的な困難さを伴なう場合は,大きな声で発声するという教壇上での要求に合わせて練習も 大きな声でしておくのが妥当なやり方であろうと思われる。
教師の声が(日本語であれ英語であれ)聞きやすいものであるか,聞きづらいものであるかとい うことは,授業批評の場ではほとんど問題にされることがない。それは,多分,声というものが教 師の人格の一部と考えられているからにほかならない。しかし,授業を取り仕切る教師の声という
ものが授業そのものの効果に影響を与えないと考えるのは不自然であろう。仮にある教師の英語音 声が上述の最初の2つの条件(正確さと明瞭さ)をそなえていたとしても,たとえばその声が余り
キンキンしていて聞きづらいとしたらどうであろうか。生徒は実際に耳をふさがないまでも,心理
的に耳をふさぎ,教師の話す内容に集中する度合が減ることは明らかである。聞きづらい声の主な 一
タイプは,(特に女子学生で)(i)キンキンしすぎる声,(i)地声と裏声の間を絶えず行き来している 声(いわゆる「引っくり返る声」),価)のどをつめた無理な声,そして(特に男子学生で) (iv)低くて 抑揚のない声などである。(i),(i五〉,(iv)とも声量そのものは充分であることが多く,問題はその声の 質である。われわれの授業の目的はこれら「問題」のある声を多少でも聞きやすい声に改造するこ
とを含んでいる。それはもはや英語の発音ではなく人間の性格を問題にしていることではないのか,
という反問が出されるかもしれない。それに対するわれわれの基本的な態度は,教師の「性格」と は言えないまでも,授業あるいは生徒に対する教師の心の構えというものは声にあらわれるものな ので,声の改造という作業を通して,たしかに教師の心のありようを問題にする,ということであ る。そして実際のところ,生徒とコミュニケーションをはかる,ということをはっきり意識した発 声を心がければ声は少しずつ変わってゆくものなのである。たとえば,平坦なしゃべり方というの は性格と切り離せない手の下しようのない問題に受けとめられがちであるが,たとえば「生徒の顔 を見ながら話せ」と示唆するだけで抑揚は自然についてくるのである。つまるところ,聞きやすい 声とか聞きづらい声というものは,いわゆる「ほれぼれするような美声」とかガサガサした「悪声」
という生理学上の産物のことではなく,生徒とのコミュニケーションをはかろうとしている声なの か,それを拒否しようとしている声なのかという区別にほかならないのである13
以上述べた英語教師の英語発音上の基礎的技能は,彼が教室英語を用いるにあたって要求される 要件であって,教室外の一般的状況下で彼が用いる英語について求められるものではない。教室外
の実際のコミュニヶ一ションの場面では発音はくずれるのが普通であり,またそれでよいからであ る。上記の技能は教室内でのいわば「用意された」英語使用場面で要求される水準である㌣
さて,本シラバスの目的を論ずる最後にあたって,このような音声訓練が見習い教師にとってな ぜ必要かということを更に一般的な角度から考えてみたい。そもそもわれわれは教師の側から生徒 の側へのコミュニケーションが成り立つための前提としての教師の英語発音について論じ始めたの であった。教師から生徒へのコミュニケーションにとって英語発音の重要性はどのようなものであ ろうか。英語教師が教室で英語音声を使って授業をする上で,その英語が片仮名的発音でなく多少 とも本格的な英語音声になっていなければならない理由は,それが英語を教える上で自明のことで あるということ以外におよそ以下のことが考えられる。
1 生徒にとって教師の発音と板書の文字は教師の力量のうち最も目につくものであり,生徒が教
師の「実力」をいち早く判断するための有力な手がかりになる。たとえ中学1年生といえども教師 の力量を判断する力をそなえていることを疑う教師はいないであろう。そしてまた,自分の生徒に
「この先生はたいしたことがない」と判断されることが自分の授業の有効性に影響しないと考える 教師もいないであろうと思われる。
2 上記1とやや似た問題であるが,生徒による教師評価がはっきりした表現をとる。たとえば,
時折 she を/si:/と発音したり,逆に season を/∫i:zn/と発音したりする教師がいる。その ような場合の生徒を観察していると「/∫i:zn/だって!」と小声でささやきかわしたり,教師が1 時間のうちに何回まちがって/si:/とか/∫i:zn/と言うかをノートにつけて楽しんだりしている。
これは教師の音声上の欠陥が生徒の注意を授業とは関係のない方向にそらしてしまい,学習の成立 をむずかしくしているケースである。
3 もし仮に英語教師がかなり英語的な発音で授業をおこなうならば,その音声上の日本語との差 異がまず生徒の耳を強く打ち,未知のものへの関心を掻き立てる要因になるだろう。それは英語学 習という異文化体験への格好の導入役となるかもしれない。
4 もし仮に英語をコミュニケーションの手段として教えたいと考える教師がいたとした場合,そ の教師は教室において自分が積極的に英語を使うと同時に,生徒にも大いに英語を口に出して使っ てみることをすすめるであろう。その時教師自身が日常の自然な態度と発音で英語を使うことがで きるかどうかの問題は生徒の活動意欲に大きく影響すると思われる。教師が自然な英語を使っては じめて,教室内に「英語を使う雰囲気」とでもいうべきものが生まれ,生徒から外国語を使うとい う気おくれを取り除くことも期待できるのである。
以上述べた4つの点はすべて1つの点に収敏してゆくように思われる。それはこれらが生徒の英 語学習への重要な動機づけの要因と関連しているということである。このようにしてみれば,教師 の英語発音の問題も「よければそれに越したことはない」という装飾的な意味合いではなく,生徒 の学習意欲や授業の効果というものと密接にかかわるものとしてとらえ直す必要があると思われる。
2 教授細目一その編成と指導のねらい
前述したように,本シラバスはある授業の中で実行されているものであり,そのために本シラバ スに立脚した教材作成の試みもなされている(長澤:1985)。本節で述べようとしている教授細目 の編成は長澤(1985)でおこなった教材配列とほぼ一致しているので,ここでは編成の概要のみを 示し,詳細は上記教材への参照にゆだねたいと思う。教授細目にそった指導のねらいを中心にここ では述べてみたい。まず,教授細目は以下の通りである。
1 日英語発声法の比較
・日本語と英語における呼吸法,発声法,構音法の一般的相違
・受講者各人の日本語音声の特徴の確認 2 横隔膜呼吸法
・英語の発音・発声における横隔膜呼吸の必要性
・横隔膜呼吸の方法 3 英語子音の発音 4 英語母音の発音 5 子音連結の発音
6 語のアクセント・リズム・イントネーション
・語における音節アクセントの原則
・第2次アクセントをもつ語のリズムとイントネーション 7 文のアクセント・リズム・イントネーション
・文強勢とリズム
・音調核
・文におけるイントネーションの一般的原則 8 対話文の読み方
・対話文のイントネーセヨンの一般的特徴
・英語音声による感情表現 9 説明文の読み方
・説明文のイントネーションの一般的特徴
・休止についての原則
・休止におけるイントネーションの型
10詩の朗読
・詩の韻律に則した英語のリズム
11英語の歌
・歌の拍子に則した英語のリズム 12 英語ニュースの読み方
・基本となるピッチの保持
・リズムの保持
13物語の読み方
・テンポ,音の強弱,音色の変化,間
・音声による心理・態度の表現
以下,各教授細目の内容とその指導のねらいについて記すことにする。
1 日英語発声法の比較
ここでは日本語における発音・発声法と英語におけるそれの違いを概念的に知るほか,自分の日 本語音声がどのような性質のものであるかを確認する。日本語の発声は,成人男子の場合は浅い横 隔膜呼吸,成人女子の場合は胸式呼吸によるといわれ,英語の発声は深い横隔膜呼吸によるといわ れている。英語と比較した場合の日本語の発音・発声上の特徴として以下の点が言及される逡
ω 談話中に息を吸う場合,1回の吸気量が少ないため,小まめに何回も吸う。
② ものを言う時,一度吸った息をはき切らないで,途中で浅い息継ぎをする。
③ 口腔でつくられた音は共鳴のため上方(頭部)へ向かう。(英語は下方一胸部一へ向かう)
(4)発音に際して顎の上下の開きが狭い。
⑤ 喉に緊張を伴なった発声である。
(6)子音の独立性が弱い。(教授細目3「英語子音の発音」の説明参照)
受講者が自分の日本語音の特徴を確認する作業は一編の日本語の詩を朗読することによっておこ なわれる。確認されるべき内容は音量,音質,ピッチ(声の高低)のほか,不明瞭・不正確な発音 があるかどうかである。日本語での不明瞭・不正確な発音とは,「サ」行子音が充分出ないとか,
「ナ」行子音がいわゆる舌足らずだというような類である。このような単音レベルの問題点のほか に,唇や舌の動きがおそい,顎が上下によく開かない,話し方が単調だ,声が高すぎる,声が小さ すぎて聞こえないというような問題が指摘されるのである。そして,これらの問題は,ほとんどの 場合,そのまま英語発音・発声上の問題として持ち越される。それゆえ,英語発音上の問題点の多
■ ● ● ● ■ ● o
くは(あるいは少なくともいくつかは)英語発音の能力の問題というよりは,その人間の言語音を つくる能力にかかわる問題といえる。英語発音訓練の入口の段階でこのようなことを強調する意味 は,英語発音学習に対して一般の学生がもつ誤った認識 自分の発音が悪いのは英語ができない からだとか,英語の「センス」がないからだというような認識一を捨てさせ,英語発音の得手,
不得手は主として生理学上の問題だと割り切って取り組む態度を身につけさせるという点にある。
英語発音の技能を「知力」や「学力」から切り離して考えるこの接近法は,発音学習の動機づけの 面からいえば,マイナスに働くよりはむしろプラスの方向に働くことが多い。
2 横隔膜呼吸法
深い前屈の姿勢,椅子にかけた姿勢,立った姿勢での横隔膜呼吸の要領が説明,実演される。通 例2,3回の練習でふだん胸式呼吸をしている女子学生も横隔膜呼吸ができることを発見する。問 題は呼吸のための呼吸の時だけでなく,英語音を発音・発声する時も常時この呼吸法ができるかど うかということになる。横隔膜呼吸法は発声を伴なわない呼吸法のみの練習から始め,子音や母音 の単音の練習,そして語,文の発音・発声,そして必要があればオーラル・インタープリテーショ ンの段階でも随時注意を向けられることになる。
横隔膜呼吸法によらなげれば英語がしゃべれないということでは勿論ないが,横隔膜呼吸によっ た方が英語発音上次のような点で有利であることははっきりしている。
1 英語発音の特徴である chest voice (胸郭に共鳴させる音声)が得られやすい。
2 英語特有のイントネーションがつけやすい。
3 英語特有の強さアクセントがつけやすい。
4 教室で要求される明瞭な音声が得られやすい。
言語の発音・発声においては呼吸法と共鳴法は密接に結びついているもののようで,英語におい て chest voice を得ようとするならば,横隔膜呼吸による深い吸気が是非必要と思われる。この ような共鳴法から生み出される音声は,結果的には,上記4の明瞭な音声にもつながってゆくが,
日本語と比べた場合,子音にしろ母音にしろ「深い」と感じられる響きをもったものになる。
2の呼吸法とイントネーションの問題も密接に結びっいていると思われる。日本語では一つ一つ
の語が本来もっているアクセントがそのまま文のアクセントの構成要素となるため,文全体として
は絶えずピッチのこまかい上下動がおこっている。一方英語では,語本来がもつアクセントはその 多くは文の中ではかくれてしまい,文強勢をもつ語においてのみあらわれる。しかも英語では強勢 がおかれる音節は長く発音されるので,その強勢のある音節でイントネーションの変化があったと しても,それは日本語の場合のように鋭い上下動ではなく,比較的ゆるやかな線を描く高低の変化 である。そして顕著な音調の変化を含むイントネーション上の1つの単位( tone−unit )4)は日 本語と比べてはるかに長い語群である。それゆえ,強さアクセントも伴なった形で英語のイントネ 一ションを構成しようとする場合は,日本語の場合よりもはるかに多くの吸気のささえを必要とす るのである。ここにまた横隔膜呼吸が要求される理由がある。
3の強さアクセントと呼吸法の関係はほとんど説明の必要はないであろう。日本語のように音の 高低ではなく強弱によってアクセントをつける英語においては,絶対的な吸気の量が必要なのであ る。日本語式の浅い呼吸によって英語の強さアクセントをつけようとすると多くの場合失敗する。
@ ! 3 英語子音の発音
授業ではまず一つ一つの子音のつくり方が説明,実演される。受講生は単音としての子音の発音 に慣れてきたら,次に1音節か2音節の短い単語の語頭,語中,語末にあらわれる子音を単語の発 音として練習する。
英語子音の発音練習を母音の練習の前におこなう理由は.(1)ある意味で子音の発音が母音よりも やさしい。(2)子音の方が母音よりも重要である,という2つによっている。これは一般的に流布し ている考えとは逆だと思われるので少々説明の必要があるであろう。子音の方が母音よりも発音が
やさしいという意味は,子音の発音の仕方はある程度ことばで説明して教えられるということであ る。大まかな言い方ではあるが,たとえば/t/の発音ならは,「舌先を強く歯茎に押し当てて,強 い息とともに声を伴なわないで破裂させる」という言い方で指導できる。(「歯茎」とはすべての場 合 alveolar ridge の意味で使う。)これに対して,たとえば母音の/お/は,「舌の前よりの部分 を×センチ×ミリメートル持ちあげて」とは言えないのである。母音では舌のどの部分かどれ位高
くなるかでその音価が決まるのであり,唇の形などは補助的な働きをするに過ぎないが,その舌の 位置を学習者にことばで指示することはできないであろう。次に,子音の方が母音よりも重要だと
いう意味は2つある。ひとつは,イギリス英語,アメリカ英語,オーストラリア英語とさまざまな 種類の英語がある中で,その共通部分の多くは子音であり,「お国なまり」は多く母音にあらわれ
るからである。つまり,子音にはこれだけ覚えておけばだいじょうぶという共通の部分が多いとい うことである。理由の第2は,英語の子音に比べて圧倒的に弱い子音をもつ日本語になれた学習者 に対しては,初めの段階で英語の子音の強さを強調しておくことが重要と思われるからである。
以下,英語子音の指導上考慮すべき点をいくつかあげる。
(1)英語子音の指導で最も重要なことは,日本語にはないその際立った響きを強調することである。
● ● ●
加えて,CV(子音+母音)という音節構造をもつ日本語では,子音が母音と同時に発音される部分 があるのに対して,英語の子音は後続母音から完全に独立した形で発音される見)一般に,英語の非 持続音(破裂音,破擦音)は日本語の類似音より強く,持続音(摩擦音,鼻音など)は日本語の類 似音よりも長い。
② 英語の子音が後続母音から独立して発音されるのならば,一つ一つの子音にそれぞれ独立した
口形を与えるのも一つの方法であろう。この訓練では中津(1975)が与えている口形に基本的には 依拠しつっ,一部変えて実行している。一般の英語音声学書では口形に対する言及が少なく(中に は口形写真や図を示すだけですましてしまい)学習者の注意を口形に向けるのには不充分である。
たとえば teバという語を発音する場合,一般の日本人学習者は/i:/のために口を横に引くとい うことは意識しても,/t/の発音のために独立した口形を与えるということは想像もしない。
/i:/の口形で/t/も発音してしまうのが普通である。経験では,やはりこのやり方では英語ら しい子音の響きは得られにくい。口形の方法論についてはかつて長澤(1977),長澤(1980)で 述べたのでここでは詳述しない。
(3)英語の「強い子音」という概念は[th],[ph],[kh]などの帯気音の練習の中で特に強調 される。
(4)子音指導の要の一つとして歯茎を使って発音する音を重視する。英語子音の中で歯茎を使って 発音する音は/t,d, n, t∫, d3,1/であるが,これらは一般の日本人学習者がなかなかその強い響き を習得できない音である。
(5)日本の中学校・高等学校では米音を教える場合が圧倒的に多いのが現状であるが,ここでは,
/1/については母音の前ではいわゆる「明かるい/1/」,それ以外では「暗い/1/」を教える。
日本人にとっては母音の前では「明かるい/1/」の方が発音しやすいからである。アメリカ式の 母音の前の「暗い/1/」は知識としては与えるが練習はしない。母音+/r/の環境では,常に
秩f−colouring を伴なった母音を教える。/r/はどのみちその発音原理をしっかりと覚えなけ ればならない音だからである。
4 英語母音の発音
前述したように,母音の発音には子音におけるような明確な手がかりはなく,「耳で覚える」とい う要素がきわめて大きい。そのためには,模範となる音をきく→それを真似て自分で発音する(録 音する)→それを再生して模範の音と比べる→不完全ならば工夫してやり直す(録音する)……
という手順を踏む。「工夫」の中には試行錯誤的にやってみることも含まれるが,授業中の教師のコ メント(当該学習者に対して出されたものだけでなく,他の学習者に対して出されたものをも含め)
や音声学書から得られるヒントなどを手がかりにする。また母音の練習においては,当該音が日本 語の類似母音から「どちらの方角にどれ位へだたっているか」を考えることは有益であろう。この 意味で,基本母音の位置と日英語母音の相対的位置関係を教えておくことは必要であろう。
英語母音の発音にあたって日本人学習者が最も困難を感ずるのは,長く発音されるべき母音(長 母音,二重母音,/εe/などの開口母音)を長く発音できないということである。この点が克服で きないと,あとあと英語のリズムの習得にも重大な支障をきたすことになる。母音の発音ではその 正しい音価の習得はなににも増して重要なことであるが,同時に,口の構えをしっかりと固定し,
母音を同じ音量と音程で増幅的に引きのばして発音するような練習が是非必要である曽
母音練習のための単語を選択し,教材(長澤:】985)の中に配列した時の考慮の一部には次のよ うなものがあった。
(1)有声子音の前の母音は無声子音の前の母音に比べて長くなる。( sat 一 sad )
(2》つづり字に引っぱられて誤って発音されがちな/o/の異音に注意する。( village ,
vow旦1 , r㏄Ωgnize などにおける/θ/)
(3)/。:/と/ou/の対照。(学生は bought を boat と発音しがち)
(4)/i:/と/i/の対照。(/i/が/i:/の音価の短いものになりがち)
(5)/u:/と/u/の対照。(/u/が/u:/の音価の短いものになりがち)
(6)日本語の「ア」ですべて代用しがちの/おe,o:,A,o,o/をまとめて提示した。
5 子音連結の発音
英語の子音連結のうち,語頭にあらわれる基本的なものを中心に扱う。ここでのねらいは,上記 細目3と4の段階でおこなった子音と母音の発音が正しくできているかという復習の意味が一つに はある。もう一つは(これが主なねらいであることは言うまでもないが)子音連結の本来の意味,
っまり,子音がある特定の組み合わされ方をした場合,その子音が単独でもっていた音価と違った ものになるということを理解し,その発音を身につけることである。練習にあたっては次の点に特 別の注意が払われる。
(D 単独で発音する場合でも日本人学習者が不得手とする/1/や/w/があらわれる組み合わ せ。(/sl.,pl−,bL, spL,sw−,tw.,dwrkw−/)
(2)第1子音の気音が第2子音の前半を無声化する場合。(/kL,kr./など)
(3)/r/が後続するため,本来の舌の位置と音価が変わる/t//d/の発音。(/tr.,dr.,
str−/)
(4)多くの日本人学習者が/.tr−/,/−dr−/と誤って発音する/−tL/∠dL/の連結。
6 語のアクセント・リズム・イントネーション
語のアクセントの学習で強調すべきことは,日本人学習者の多くがこれまで教えられてきたよう
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に母音にアクセントをおくのではなく,当該音節全体におくということである。また「アクセント をつける」ことが主として「高く発音する」ことである日本人学習者に対して,英語のアクセント というものが次の3つの要素から成ることに注意を喚気する。
1 アクセントのある音節は強く発音する。
2 アクセントのある音節は長く発音する。
3 アクセントのある音節は高く発音する。
逆に,アクセントのない音節は弱く,短く,低く発音する。
語におけるリズムとかイントネーションということが問題になるのは第2次アクセントをもつ語 の場合である。第2次アクセントをもつ語の発音における日本人学習者の一般的傾向は,(i)第2次 アクセントの部分に充分な強勢がない。(11)第2次アクセントの部分が高く発音されない。この2つ である。英米人のこの種の語の発音をきいていると,第2次アクセントは第1次アクセントとほぼ 同等か,あるいは時によっては第1次アクセントよりも強い場合さえある。そこでこの授業では,
「第1次アクセントと第2次アクセントは均等の強さで発音する」という原則に従うことにしてい る。また,第2次アクセント部分の高さに関しても第1次アクセント部分の高さと同じ高さを要求 する。それゆえ,たとえば 曲moc厳tic という語では,強勢は・… (強弱強弱),リズムは一
)_)(長短長短),イントネーションは゜.へ.(高低高低)というような音型が生まれることに
なる。
7 文のアクセント・リズム・イントネーション
文の中でもアクセントをもつ語ともたない語(厳密には音節)があること,また,どのような種 類の語がアクセントをもちうるのか,もちえないのかということに関する一般的な原則を知る。(文 強勢の原則については,奥田(1975)と0 Connor(1982)を参照する。)
文の中に強勢をもつ語ともたない語が存在するといっても,すべての語が「強い」と「弱い」の 2種類の強さに分類されるというわけではない。実際の音声は多種多様な強さであらわれる。しか し,この基礎訓練の段階ではあまり精密な強弱の度合を要求するのは現実的でないので,「強い」
と「やや強い」と「普通」(つまり「弱い」)の3つの分類にとどめる。その上,音の強弱の「原則」
もあくまで相対的なもので,たとえば文を読む速さによっても変わってくるのである。He speaks English.という文を例にとると,これを普通の速さで(つまり,かなり速く)読む場合, speaks は単音節の主動詞という理由で文強勢はうけないのが普通である。この文を中学校1年生向けに比 較的ゆっくり読む場合は主動詞という理由で文強勢をうけることになる。
イントネーションの指導にあたっては「音調核」という概念を用いる。ひと息で読まれる語句あ るいは文の中には,最低1か所,強勢をもち顕著なピッチの変化が見られる音節があると考え,そ の音節を「音調核」7)( nucleus または tonic syllable )と呼ぶ。文中のどの語(音節)を高く 読むのかというイントネーションの原則を知らせる場合, breath group (ひと息で読まれる語群)
という概念との関係で音調核を説明するというやり方は大変有効である。すでに文強勢に関する原 則を知っていれば,breath groupの最後の文強勢を受ける語(音節)の中で音調の大きな変化が起
こると考えればよいのである。ひと息で読まれる語群の長さは個人により,また場合により違って くるわけであるが,その場合場合に合わせて,読み手(あるいは話し手)は音調核をつくることに
なる。
英語の文を読む場合の日本人学習者のイントネーション上の癖は次のようなものである。
(1》文強勢をもつすべての語のピッチが高くなる。
(2)文中の最初の語のピッチが高く,第2,第3番目の語のピッチが低くなる。(Ihave a book.
Iwent to the store.はそれぞれ゜..噺と゜...噺 のようになる。)
(3)下降調で終る場合,文末の音調が下がり切らない。(Iwent to the store。が・… へ とならないで上記②のようになる。)
(4)音調核でのピッチの移動がなめらかにおこなわれず,変化が鋭い。
⑤ 休止におけるイントネーションが常に下降調になる傾向がある。
これらの問題点に対処するためには,それぞれ,
(1)音調核のある語以外の文強勢をもつ語は,音調をあげないで強勢のみによるアクセントのかけ 方を練習する。
② 文強勢の原則を強く意識させる。
③ 文末で音調が下がるという時,その下がり切った音程というのは本人の声の最も低い音程であ ることを強調す謂
(4)音調核でピッチの移動がなめらかにおこなわれないのは,その音節を長く発音できないことと
関係がある。アクセントにおける音の長さを強調する。
(5)休止におけるイントネーションにはFall(、), Rise(ノ), Level(→), Dive(ヘノ)などが あることを知らせ,意味により使い分けることをすすめる。また,最も一般的な休止でのイントネ 一ションはDiveであるので,これの多用をすすめる。
8 対話文の読み方
教授細目8から13までは「序論」において「オーラル・インタープリテーション」と呼んだ領域 である。この中で扱われるのは対話文,説明文,詩,歌,ニュース,物語であるが,これらが「オ
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一ラル・インタープリテーション」とよばれる理由は,そこでの訓練のねらいが与えられたテキス トの意味をいかに解釈して音声表現するかということにあるからである。対話文も学習者が自発的
に話すことばを用いるのではなく,すでに印刷されているテキストを用いるのである。すべてこの ・
意味で,ここでおこなわれる作業はテキスト文の音声による解釈,つまりオーラル・インタープリ テーションなのである。対話文,説明文,物語という領域は中学校・高等学校の教科書において最 も多く扱われるものであり,これに詩が多少加わるという程度である。歌とニュースを扱う理由は 後述する。
さて,対話文の練習においては,英語という言語が普通どのように話されるのかということを主 としてイントネーションの特徴から説明する。一般にピッチの上下幅が大きいのが特徴である。ま た,対話文は発話者の意見,態度,感情などを表現することが多いので,その音声も語の強め方,
音色,イントネーションの変化などで多彩なニュアンスを形づくる。中学校第1学年,第2学年程 度の対話文でこれらの要素の音声表現を試みる。
9 説明文の読み方
説明文における音声表現上の特徴は,対話文に比べて(ニュースの棒読み口調ほどではないとし ても)かなり音調が抑制されるということである。学習者の中にはややもすると上記の対話文を読 む調子で説明文も読んでしまう傾向があるので,その音調のおさえ加減を指導するのがここでの眼 目になる。また,説明文においては対話文よりも長い文が用いられるのが普通なので,休止の問題 が出てくる。学習者の呼吸量に応じて,しかも文意にさからわないで,文中での息継きを工夫する こと,また休止におけるイントネーションもその場合場合によって変化をつけることが必要となる。
(休止におけるイントネーションの型については,上記細目7を参照。)
10 詩の朗読
中学校あるいは高等学校における英詩の学習というものは,たとえ教科書に題材がある場合でも,
なおざりにされるのが普通であるが,「その時」にそなえる意味もあり,ここでは詩を扱う。しかし,
詩を音声訓練の中で扱うより大きな意味はほかにあって,それは英語のリズムをつかませる(ある いは再確認させる)ということである。定型詩は一定の韻律をもって書かれており,))_(短短 長)とか_)(長短)のようなリズムがくり返されるので,学習者にとっては英語のリズムを感得
しやすいのである。
11英語の歌
歌は拍子による一定のリズムをもつので,詩と同様,英語のリズムがつかみきれない者にとって は又とない練習の機会となる。また歌では,特にアクセントをかけられた母音が引きのばされるこ とが多いので,リズムの練習と同時に,母音の音価をチェックする場にもなる。アクセントのある 母音を同じ音程でまっすぐに引きのばすという練習は,母音習得には思いのほか効果的である。
12 英語ニュースの読み方
英語ニュースの朗読練習のねらいは,アクセントのつけ方を音の高低ではなく強弱によってつけ ることを徹底することにある。ニュースの朗読というものが,感情表現を伴なわない(従ってイン
トネーションの起伏がほとんどない)音声を要求されるものであってみれば,文のアクセントは,
自然,高低よりも強弱のそれに多くを依存することになるからである。この練習は,アクセントを 音の高低に頼りがちな日本人学習者からその癖をとり去り,彼らにとってむずかしい英語の強さア クセントを強調するのによい場である。また,ニュース朗読はいわゆる棒読み口調となるわけであ るが,その棒読みの基盤となるピッチ(音程)を学習者各人が再確認するのもこの練習のねらいの ひとつである。もうひとつのねらいは,速い朗読の中で音の連結がうまくおこなわれているかどう かをチェックすることである。
13 物語の読み方
音声基礎訓練の総仕上げとして物語朗読を位置づける。素材は初歩的なものが選ばれるが,それ でも物語朗読にはオーラル・インタープリテーションの重要な要素がほとんど含まれている。テン ポの緩急,音の強弱,音色の変化,間,地の文と会話文の対照,登場人物の心理表現,そして物語 全体に対する作者の態度さえ音声による解釈の対象になる。
本節の最後にあたって,以上概説した教授細目の配列について一言付け加えておきたい。呼吸法,
子音,母音,子音連結,語,文に関する細目は英語発音の習得上基盤になるものから順次積み上げ てゆくように配列されていることは明らかであろう。しかし,オーラル・インタープリテーション の領域における素材の間にはそれ程厳密な段階性はない。オーラル・インタープリテーションをた とえば物語の読み方から始めて悪い理由はどこにもない。このシラバスでは,前述したような意味 で,物語朗読に総仕上げとしての位置づけをしたにすぎないのである。実際,授業でのこれらの素 材の扱いはきわめて流動的である。つまり,年度によってこれらの素材を全部扱うこともあれば,
全部は扱いきれず,これらの中から選択して学生に与えるというようなこともある。その場合は,
受講者の問題点に合わせて,たとえば感情表現の乏しい者には劇的要素の大きな物語とか詩を,イ ントネーションに変な節がつく者には英語ニュースをというように素材を選択して与えるのである。
(第3節「方法論」,第4節「評価」そして「結語」は次稿で扱う。)
注
1)話し手が聞き手とコミュニケーションをはかろうとしているのか,あるいは(無意識のうちにでも)それ を拒否しようとしているのかという態度の違いが,発声の時のからだの構えにあらわれ,そして声にもあら われるということを,筆者は演劇家・竹内敏晴氏の「よびかけのレッスン」を体験して知った。竹内(1977)
はこのことに若干ふれている。
2)英語を母国語としない英語教師の英語運用力の規準を「教室英語でミスをしない」ことにおく考えについ .
てはStrevens(1974:21)を参照。
3)ここでの情報の一部は鳥居・兼子(1962:37)に負っている。
4)Roach(1983:121 ff)参照。
5)たとえば/si/における2音の関係の違いを国広(1981:3)は次のように図式化している。 ・
日本語 英 語
[Z][ユコ
6)このような母音の増幅的練習法は小神野泰子氏の方法からとり入れている。この方法はノ」、神野(1981)に その一端がうかがえる。
7)Roach(1983)の用語によっている。 Gimson(1980)は同じ用語を違う意味で使っている。
8)0 Connor(1982:112)はその低い音節を「うなるような声で発音せよ」と言っている。
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