A. 研究目的
中国・四国地区 9 県のスモン患者の現状を把握し、
問題点を検討する。 またスモン患者の経年による症状 や環境の変化も検討する。 またフレイルについても検 討した。
B. 研究方法
中国・四国地区で検診を実施し、 スモン現状調査個 人票を用いて平成 10 年度から平成 30 年度の 21 年間 における面接検診結果の推移を検討した。 スモン現状 調査個人票の内容のデータ解析・発表に際しては口頭 または署名により同意を得た個人票のみを使用した。
ま た 、 65 歳 以 上 で 介 護 保 険 を 利 用 し て い な い 歩 行 可能な平成 30 年度の患者でフレイルの診断を行った。
診断には Fried の概念を用いスモン検診データベース
を利用した齋藤らの代替指標を利用した
1)。 代替の指 標は 1. Shrinking (体の縮み):体重が前回 (1〜3 年 前) の測定から 5%以上減少した場合陽性とした。 2.
Exhaustion (疲れやすさ):個人票には同様の質問項 目がないため、 代替として、 精神徴候の 「不安・焦燥」、
「心気的」、 「抑うつ」 の 「影響がある (++)」 を陽性 とした。 3. Low activity (活動の少なさ):「1 日の生 活 (動き)」 が 「一日中寝床についている」、 「寝具の 上で身をおこしている」、 「居間や病室で座っているこ とが多い」、 「家や施設の中をかなり移動する」、 「とき ど き 外 出 」 で あ る こ と を 陽 性 と し た 。 4. Slowness (動作の緩慢さ):10 m の歩行速度が 12.5 秒以上を陽 性とした。 5. Weakness (弱々しさ) 握力が男性で 26 kg 未 満 、 女 性 で 18 kg 未 満 を 陽 性 と し た 。 歩 行 速 度 と握力のカットオフ値はアジアのサルコペニアの診断
中国・四国地区におけるスモン患者の検診結果 (平成 30 年度)
坂井 研一 (国立病院機構南岡山医療センター脳神経内科) 川井 元晴 (山口大学大学院医学系研究科神経内科) 鳥居 剛 (国立病院機構呉医療センター脳神経内科) 花山 耕三 (川崎医科大学リハビリテーション医学教室) 三ツ井貴夫 (国立病院機構徳島病院臨床研究部)
越智 博文 (愛媛大学大学院医学系研究科老年・神経・総合診療内科学) 高橋 美枝 (高知記念病院神経内科)
峠 哲男 (香川大学医学部看護学科健康科学)
阿部 康二 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経内科学) 土居 充 (国立病院機構鳥取医療センター神経内科)
研究要旨
中国・四国地区で検診を実施し、 スモン現状調査個人票を用いて平成 10 年度から平成 30 年 度 の 21 年 間 に お け る 面 接 検 診 結 果 の 推 移 を 検 討 し た 。 身 体 面 で は 歩 行 を は じ め と し て ADL の低下が目立ち、 異常知覚や自律神経障害は増強している。 精神面では不安や抑うつ、
記憶力の低下を抱える患者が多い。 またスモン検診データベースを利用した齋藤らの代替指
標を利用してフレイルの診断を行った。 歩行可能なスモン患者 50 名であっても身体活動の少
なさや筋力低下のため、 8 名がフレイルと診断された。 今まで軽症と考えられていた患者に
おいても予備能力は低下しており、 今後は療養面での介入がますます必要になると思われた。
基準 (AWGS) の値を使用した。 これらのうち 3 項目 以上陽性であった場合をフレイルと診断した。
C. 研究結果
中国・四国地区における平成 30 年度の面接検診受 診者は 115 人 (岡山 37 人、 広島 16 人、 山口 5 人、 鳥 取 3 人 、 島 根 10 人 、 徳 島 21 人 、 愛 媛 10 人 、 香 川 8 人、 高知 5 人)、 検診率は 41%。 中国・四国地区では 一昨年から引き続き検診率が 4 割を越えた。 全体の中 での訪問検診率は 20%であった (表 1)、 なお岡山県 で は 独 自 に ア ン ケ ー ト も 実 施 し て お り 、 88 名 (62.9
%) の 患 者 か ら 返 答 を 得 て い る 。 患 者 の 平 均 年 齢 は 80.9 歳であり、 徐々に平均年齢は上昇している (図 1)。
年月を経るに従い、 平均年齢の変化よりも患者の年齢 構成が大きく変わってきている。 平成 3 年度、 15 年 度、 30 年度のスモン患者の年齢構成を表 2 に示した。
平成 3 年度では 64 歳以下が 37.2%あったのが、 平成 30 年度では 0%と検診受診の全員が 65 歳以上の高齢 者であった。 逆に 75 歳以上は平成 3 年度は 32.0%だっ
たのが、 平成 30 年度は 79.1%とほぼ 8 割を占めてい る。
歩行は加齢の影響もあってか、 平成 12 年度は歩行 不能と車椅子移動を加えたものが 8%だったのが、 平 成 30 年度には 20%まで増加した。 (図 2)。 患者の障 害度も重症化しており、 障害度が中等度以上は 7 割程 度である (図 3)。
視力がほとんど正常なのは 16.5%のみであり、 中等 度以上の異常知覚を呈しているのが 66.1%、 胃腸症状
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表 1 中国・四国地区の面接検診状況 (人数)
71.471.071.871.471.6 72.972.9
74.174.775.0 76.477.0
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80.180.180.680.9
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図 1 面接検診者の平均年齢
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38.5% 49.6%
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表 2 面接検診者の平均年齢と年齢構成
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図 2 面接検診者の歩行状況
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図 3 面接検診者の障害度
が気になるまたは悩んでいるのが 47.0%などとスモン の後遺症で苦しむ患者は多い。 近年は患者の高齢化に より障害要因としては、 スモン単独というのは徐々に 減少し、 スモンと併発症による、 またはスモンと加齢 によると見なされるものが増加している。
障害要因としては、 平成 9 年ではスモン単独が 44.0
%を占めていたが、 平成 24 年度からは 2 割程度に低 下 し 、 30 年 度 は 12.2% と さ ら に 低 く な っ た 。 そ れ に 対してスモン+併発症は、 平成 9 年が 49.5%であった のがここ 6 年間は 7 割程度である (図 4)。
分野別に何が問題であるかは。 福祉サービスの問題 と住居や経済の問題は約 2 割で、 これは平成 9 年当時 から大きな変動はない。 医学的な問題は近年は 7 割程 度を前後している。 家族や介護の問題は平成 23 年で は 5 割を越えていたが近年はやや低下して 4 割前後と なっている (図 5)。 Barthel Index は徐々に低下傾向 を示しており、 平成 15 年度では平均値 85.6 であった のが今年は平均値が 76.5 であった (図 6)。 年度によ り多少上下するが、 全体的には低下傾向であり患者の
ADL が徐々に低下してきていることを示している。
歩行は加齢の影響もあってか、 平成 12 年度は歩行 不能と車椅子移動を加えたものが 8.3%だったのが、
平成 30 年度には 20.0%まで増加した (図 7)。 外出に つ い て は 外 出 不 能 と 介 助 で 可 を 合 わ せ た も の が 平 成 12 年度では 17.1%だったのが平成 30 年度には 35.6%
までに増加した (図 8)。 異常知覚も近年悪化してお り異常知覚高度が平成 12 年度では 9.7%だったのが平 成 30 年度には 18.3%となっている (図 9)。 同様に自
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図 6 Barthel Index 平均値
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図 5 面接検診者の分野別問題率 (問題ありとやや問題ありの合計)
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図 4 面接検診者の障害要因
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図 7 歩行
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図 8 外出
律神経障害も悪化しており、 尿失禁が常にある患者は 平 成 12 年 度 で は 4.6% だ っ た の が 平 成 30 年 度 に は 13.9%となっている (図 10)。 また便失禁が常にある 患者は平成 12 年度では 2.3%だったのが平成 30 年度 には 7.8%と増加している (図 11)。
身体面だけでなく精神面でも悪化がみられており不 安・焦燥が有る患者は平成 12 年度では 24.5%だった
のが平成 30 年度には 28.7%へ (図 12)、 抑うつが有る 患者は平成 12 年度では 17.1%だったのが平成 30 年度 には 20.9%と高い数字を示している (図 13)。 平均年 齢の上昇もあってか記憶力の低下があると答えた患者 は平成 12 年度では 25.9%だったのが平成 30 年度には 35.7%と増えている。
生活面では一人暮らしが増加しており平成 12 年度 で は 18.1% だ っ た の が 平 成 30 年 度 に は 28.7% と な っ ている (図 14)。 それに伴い主な介護者が配偶者であ
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図 9 異常知覚 程度
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図 10 自律神経症状 尿失禁
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図 11 自律神経症状 大便失禁
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図 12 不安・焦燥
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図 13 抑うつ
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図 14 家族構成
る比率が減少し、 ヘルパーや施設職員という回答が増 加している (図 15)。
中四国のスモン患者の中で 65 歳以上で介護保険を 利用していない歩行可能な患者は 50 名であった。 使 用可能だったデータの中では、 活動の少なさ (身体活 動低下) に 46 名中 34 名が、 動作の緩慢さ (歩行速度 低下) には 24 名中 14 名が、 弱々しさ (筋力低下) に は 47 名中 22 名が該当した (表 5)。 指標 5 項目のうち 3 項目以上陽性でフレイルに当てはまるのは 8 名であっ た。
D. 考察
中国・四国地区では面接による検診率は平成 10 年 度の 26%に比べて 24 年度は 39%まで上昇したが、 平 成 26 年度は 36%に検診率が低下していた。 しかし平 成 28 年度からは持ち直してその後は 4 割を越えてい る。 研究班班員並びに患者会等の熱心な活動による成 果と思われる。 また、 近年は患者の高齢化を反映して いるためか 2 割程度が訪問検診を受けている
2)。
面接検診者の障害要因としてスモン単独は減少傾向 であるが、 併発症や加齢による障害を伴う患者が増加 している。 これも高齢化の影響と考えられる。 今後、
患者が年齢を重ねるにつれて医療または療養のサポー トがさらに必要になることは確かである。
フレイルとは高齢者の虚弱、 すなわち 「高齢期にお ける生理的予備能力低下のためにストレスに対する脆 弱性が増大した状態」 である。 そのためフレイルは生 活機能障害、 要介護状態、 死亡などの転帰に陥りやす い。 フレイルには身体的問題 (身体的フレイル)、 精
神心理・認知的問題 (精神心理的フレイル)、 社会的 問題 (社会的フレイル) の 3 つのドメインがありそれ ぞれが相互に影響し合って負の健康アウトカムにつな がると考えられている (図 16)
3)。
スモン患者には独歩不可能な程度に障害が強い者も 多いが、 一見障害が軽く見えても要介護状態の前段階 の患者もいると考えられる。 今回は身体的フレイルを
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図 15 主な介護者
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表 3 フレイルの判定基準
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表 4 フレイルの判定基準
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