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様々な PBL 授業の実践とその振り返り 高山 進
はじめに
筆者は過去数年来、共通教育ばかりでなく専門教育にお いても、またセミナータイプの授業ばかりでなく講義科目 においても、さらに実地体験型授業においても PBL 教育 を導入しようと模索してきた。実は、高等教育創造開発セ ンター(HEDC)兼任教員として PBL 教育を学び始めた 2005 年当初から、そのような汎用的力があることを知り、
講義科目に応用しその改善につなげることが可能である ことをかつて報告したことがある
1)。その後実践の幅を一 回り広げたので、試行錯誤を整理し、 PBL 教育が「成功」
するための要因を整理したい。
1.共通教育科目 PBL セミナーG「生物多様性を はぐくむ商品づくり」
1)2010 年度
「環境にやさしい商品」という概念とその基準は社会的 に十分模索されてきた。端的には「グリーンコンシューマ ー10 原則」としてグリーンコンシューマー全国ネットワ ークが整理し、幅広く認知されてきた
2)。一方、「生物多 様性をはぐくむ商品」という概念は「生物多様性条約 COP10 会議」(2010 年 10 月)を経るなどして社会的に注目され るようになってきた。この授業では、社会的に未確立では あるが必要性の高い課題に対して、若い感性を活かした
「商品づくり」企画に取り組んでもらうことを目的とした。
すでに各地で行われている関連する事例の分析を手掛か りにするが、最終的には「COP10 会場で売りたい、生物多 様性にやさしい、私が欲しい商品」を提案してもらう、と いう設定にした。したがって類型的には「プロジェクト型 PBL」
3)であった。
プロジェクトに入る前提として、①「環境にやさしい商 品」という概念とその基準を学び、②生物多様性の損失や 劣化を引き起こす要因の理解をし、③現実におこなわれて いる関連するコミュニティビジネスの実例を調べ学んで もらった。その上で、④「生物多様性の問題解決を目指し た」コミュニティビジネス(社会的企業)の手法
4)を参考に、
「架空の事業企画の場合は、現実の事例を取り込めるとこ ろは取り込みながら、細かいところは気にせずに思いきっ たアイデアで勝負してください」という指示を出すことで
「自己決定的」にアイデアを膨らませてもらった。
学生にとって身近な「生き物」「商品」から入って、あ まり普段考えたことがないと思われる「生物多様性と社会」
「社会的企業」 「コミュニティビジネス」 「地域の問題解決」
といった課題に果敢に乗り出していってもらうのがこの 授業の意図である。最終的には、生物多様性に関する問題 の解決を目指しながら、
同時に自分たちが(世の中が)受 け入れる商品が作れるか、継続できるビジネスにすることができるか、を熟慮してもらうことを意図した
5)。 PBL 教育の基礎要件として、三重大学高等教育創造開発 センターは次の 3 つを上げた。
① 問題との出会い、解決すべき課題の発見、学習による 知識の獲得、
討論を通じた思考の深化、問題解決という学習過程を経る学習を行う (問題基盤性)
② 学習は、学生による自己決定的で能動的な学習により
進行する (学習自己決定性)③ 学生による自己省察を促し、能動的な学習の過程と結
果を把握する評価方法を使用する(形成的評価)本授業においては、「問題解決という学習過程を経る学 習」や「学生による自己決定的で能動的な学習」という要 素を意識的に組み込もうとしたのである。
ところが、学生のアイデアは面白いのだが、
パートナーを大手企業にして売り上げを過大に見積もりすぎる等、提 案内容の現実味を欠く事例が多く出てしまった。この年の
展開から、筆者は PBL 教育においては「現実の事例に学ぶ」(いわゆる「調べ学習」)という側面と「学生の自己決定 に任せる」(調べたことをもとにしながらも企画・提案と いった「創造」の要素を加味する)という二側面のバラン スが重要なポイントになり、どちらが過大(過小)になり すぎても PBL の良さが失われることに気づかされた。
2)2011 年度
2011 年度は上記の課題を意識して改善したことがいく つかある。第一に、時間の関係で「環境にやさしい商品」
に関する学習をカットした。
第二に、昨年のビジネスワークシートを改善し、「5P のビジネスモデル」「地域資源分 析」の二つのワークシートを用いて、2010 年度の学生の
作品を分析し、非現実的になっている部分の改善点を考えさせた。第三に、現実の事例を参照しやすいように下記 4 つのデータベースを紹介した。
PBLセミナー「生物多様性を育む商品づくり」
第3セッションの指示(2011.11.24)
課題1:以下のホームページに掲載されている「商品」の 中から、その販売拡大が、その地域の生物多様性の育成に
つながる事例を選び出し、3 つのワークシートに書きこみ ながら、
①その「商品」のさらなる普及方法を考察し、
②どのような筋道で生物多様性の育成につながるのか、そ の論理を考えなさい。
○「三重のバイオトレジャー」
URL
表示○「三重の食応援ブログ」
URL
表示- 34 -
○「三重ブランド」
URL
表示○「三重の里いなか旅のすすめ」
URL
表示課題 2:農山漁村には資源は豊かであるが、経営資源
(「人」
「もの」「金」)が不足している。また都会の人が何を求め ているのかの情報も不足している。「農山漁村の資源」と、
人の移動(Iターン、Uターン等)も含めた「都市のニー ズ」を具体的で説得力を持ってつなぐことができれば、人
が集まり、事業化ができる。上記商品の販売・普及を通じ て、またその地域自治体の政策を通じて、
農山漁村の資源と都市のニーズを組み合わせることができるアイデアを 模索しなさい。
進め方:24 日にグループで検討しその販売・普及が、そ
の地域の生物多様性の育成につながりそうな事例を 4 つ
選ぶ。事例を一人一つ分担をして、①各自自己学習をして選ん
だ商品の説明をする。②上記課題1,2 について資料を作成 し、 12 月 1
日にメモを持ち寄ってアイデアを共有します。そして 12 月 8
日には学生に次の指示を出し、学生のスタンスを明確にした。
PBLセミナー「生物多様性をはぐくむ商品づくり」
ラストセッションの進め方(2011.12.8)
○設定:あなたは地域おこしの支援をめざす学生集団 です。
あなたが注目した商品の特長をさらに活かし、かつ現在
抱える問題点を解決する提案、売り上げを適度に伸ばし、かつ地域に貢献する提案を「その地域にいるパートナー」
もしくは「都会のパートナー」に提案してください。
○できる限り事実に立脚するように努力してもらいたい
が、若干の「想像」を含めることは構わない。
○「パートナー」は企業、団体、行政、愛好者集団、NPO
等であるが、大手のものをねらう必要はない。
○まず現在とりあげている商品・
事業について正確に把握 する
・5P
のビジネスモデル ワークシートで把握する。
/・資源分析ワークシートで把握する。/・その商品の 魅力の源を把握する。地域の特徴とのかかわりを押さえ
る。/・他の類似商品と多様な側面で比較する。
○そこにある課題を発見する
・供給力不足か/・顧客の不足か/・担い手不足か
/・販売ルートの未確立か/・商品の魅力を引き出しき
れていないのか
○課題の解決法を考察する(成功すれば地域おこしに
なる)
・
その地域にいるパートナー、
協力してくれる都会のパートナーを発見する。
/・その地域にある別の資源と結 び付けて商品の質を上げる。
/・商品の魅力アップ策を 考える。
他の資源との絶妙の組み合わせを探求する。/・フラッグシップ商品を考案する。一つ完成品を作る。
/・担い手を増やす方策を進める。顧客に参加してもら
う。/・行政の政策を変える働きかけをする。
○課題解決に向けて動く
・パートナーへの提案書をまとめる/・他の資源との組
み合わせ方について通の意見を聞く/・行政へのロビー イングを行う。
○生物多様性(社会的意義)とのかかわりをアピールする
・どのようなつながりかを論理的に把握する。
・アピールの仕方はひかえめに背景情報として提供す
る。商品に魅力があるから買ってもらいたい。なおか つこの商品にはこんな「生物多様性(社会的意義)と のかかわり」があるのです、とアピールする(このス タンスが現実的な対応の仕方)。
このように現実社会に関わる学生のスタンスを、架空で はあるがリアリティを持って設定することによって単な る「調べ学習」から一歩脱皮して、企画力、説得力、提案 力、を発揮する動機づけが生じることになり、「4 つの力
(とりわけ生きる力)」の養成につながるのではないかと
思えた。また、「問題解決のプロセスでより高度な理解を 得る」というPBL 教育の利点は、このようにモチベーシ
ョンを与えることで高度に発揮されると思われた。PBL教育の醍醐味を実感させられた私にとっての飛躍の経験 であった
6)。
2.専門科目「地域環境管理学」と「環境政策学」
この二つの科目はともに生物資源学部資源循環学科循 環社会システム学講座の学生を主な対象とする授業で、
「地域環境管理学」が 2 年生後期に、
「環境政策学」が3 年 生前期に行われる。これらの授業の基本パターンは以下の ようになっている。
「地域環境管理学」パターン
この授業のねらいは、 2010 年 10 月に名古屋で行われた 生物多様性条約COP10の議論の中心テーマを振り返 り、その考え方や合意を日本の中で政策的に進めていく際
事業者等のメリット
地域課題の
解決 消費者のメ
リット
貴パートナーの協力で相乗的な新たなメリット( 「三 方よし」関係)が生まれます。自分たちは地域を社 会をよくしたい、というスタンス。
- 35 - のポイント、困難の克服方法、留意点などを、理念的かつ
具体的に考えることにあります。授業の進め方は講義、自 己学習、グループワークを組み合わせて進めます。第
1 回 イントロダクション講義+アイスブレイク
第2 回 イントロダクション講義
セッション1:テーマ
1 (講義+自己学習+グループ ワーク)
第
3 回 講義で基本を解説。
自己学習の課題提出、関連 資 料配布。第
4 回 課題についてグループワーク。歴史的な流れ 講義、自己学習の課題提出、関連資料配布。
第
5 回 課題についてグループワーク。歴史的な流れ 講義、自己学習の課題提出、関連資料配布。
第
6 回 現代の状況から考察し、まとめを行う。
●学習記録その1提出
セッション2:テーマ
2(講義+自己学習+グループ ワーク)
第
7 回 講義で基本を解説。
自己学習の課題提出、関連 資 料配布。第
8 回 課題についてグループワーク。日本の事例を 講義、自己学習の課題提出、関連資料配布。
第
9 回 課題についてグループワーク。
アメリカの事例を講義、自己学習の課題提出、関連資料配布。
第
10 回
縦割りではなく統合政策を進める方策を考察し、まとめを行う。
●学習記録その2提出
セッション3:テーマ
3 (講義+自己学習+グループ ワーク)
第
11 回 講義で基本を解説。関連資料配布。
資料をMoodle に置き、次週までにそれを参照し政策提案ワークシート に
記入(宿題)。第
12 回
宿題についてグループ討論、発表を黒板に書く。すでに出されている政策提案を配布。
第
13 回 関連するビデオを見る。関連する資料配布。
第
14 回 「地域ブランド化」に関する二つの意見を比較 し全体討論。
●学習記録その3提出 成績評価方法
各自が学習記録(ポートフォリオ)を作成し、提出す る。
:100%全員 Moodle に登録すること。
「地域環境管理学」
パターンの特徴は毎回講義を行うがコンパクトに要領よく行うことを心掛け、
毎時間にグループワークを必ず含める。グループは座席の位置をもとに 3
人か4
人単位でその場で決める。グループワークのテーマは前の回に必ず出す課題と、
宿題として配り読んでくることを義務付けた文書 (資料)の解釈についてのディスカッ ションである。グループディスカッションの内容をクラス 全体に簡潔に報告してもらうこともある。セッションの最 後の回は全体討論とまとめを行う
7)。2011 年度の場合、
セッション 1 のテーマは「生物多様性損失の根本原因を歴
史的に考えてみる」、セッション2 のテーマは「日米の干
潟再生政策の比較を事例に、内湾計画、環境アセスメント、統合政策(沿岸域統合管理)といった政策手段の在り方を
考える」、セッション 3 のテーマは「三重県志摩市の「里
海政策」を通して、生物多様性の保全と利用の統合政策を考える」というものであった。
一方「地域環境管理学」
履修後に受講することになる「環境政策学」のパターンは以下のものである。
「環境政策学」パターン
環境政策に関する 3 つのテーマを取り上げ、それぞれの テーマを PBL 学習により深めることを目標にする。2011 年度はテーマ 1 が「原子力発電事故とエネルギー、環境政
策」、テーマ2 が「日本とドイツの包装廃棄物政策の比較 から考える3Rごみ政策のポイント」、テーマ 3 が「生物 多様性条約愛知ターゲット 11 を東海地域から考える」で あった。
第
1 回 イントロダクション講義
第2 回 イントロダクション講義
セッション1:テーマ1(PBL方式)
第
3 回 講義で基本を解説。グループで作業を開始。
自己学習ができるよう課題を整理する。
第
4 回 グループワーク、
パワーポイント作成。自己学習の課題を再整理。
第
5 回 グループワーク、パワーポイント作成。
第
6 回 グループごとにクラス全体に向けて発表する。
●学習記録その1提出
セッション2:テーマ2(PBL
方式)
第
7 回 講義で基本を解説。グループで作業を開始。
自己学習ができるよう課題を整理する。
第
8 回 グループワーク、
パワーポイント作成。自己学習の課題を再整理。
第
9 回 グループワーク、パワーポイント作成。
第
10 回 グループごとにクラス全体に向けて発表する。
●学習記録その2提出
セッション3:テーマ3(PBL
方式)
第
11 回 講義で基本を解説。グループで作業を開始。自
己学習ができるよう課題を整理する。第
12 回 グループワーク、パワーポイント作成。自己学
習の課題を再整理。第
13 回 グループワーク、パワーポイント作成。
第
14 回 グループごとにクラス全体に向けて発表する。
●学習記録その3提出 成績評価方法
1.各自が学習記録(ポートフォリオ)を作成し、提出 する。
:50%2.レポート 2000字程度で文章化する。:40%
3.期間中生物多様性(条約)関係のイベント(現場体
験でも良い)に参加する。
:10%全員 Moodle に登録すること。
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「環境政策学」
パターンの特徴は、講義を必要最小限にとどめることである。すなわちイントロダクションの2回 と各セッションのはじめと最後に簡潔に行うのみである。
途中過程はできる限りグループワークを優先する。ただし
そのためには次のような準備が求められる。
環境政策学 2011 第 2 セッションの進行
テーマ: 「日本とドイツの包装廃棄物政策の比較から考え る3Rごみ政策のポイント」
日本のごみ政策は建前では3R政策を重視しているが、
その優先順位に関しては政策の中に反映できておらず、
「リサイクル」を政策の中心に置いているように感じられ る。
容器包装リサイクル法はドイツの包装廃棄物規制令を参考にして作られたと言われていて、
形は似ているが大事な部分で異なっている。両国のごみ政策を比較して、「3
Rごみ政策のポイントは何か」を考える。Ⅰ.資料
1.日本の容器ごみ政策
①容器包装リサイクル法とは?(容器包装リサイクル協 会) URL
表示②容器包装リサイクル法を取り巻く現状 URL
表示③家庭系ごみ中のプラスチック類の排出実態と容器包装 リサイクル法の仕組み
URL
表示④「リターナブル容器研究会」報告書 URL
表示⑤「活きびん維新の会」の主張
URL
表示⑥
「プラスチック容器包装リサイクル推進協議会」の主張 と3R事例
URL
表示2.ドイツの容器ごみ政策
①ドイツのごみ政策―包装廃棄物対策を中心に―
URL
表示②ドイツにおける「循環経済」と「ドイツ・デュアル・
システム」
URL
表示③ドイツ循環経済法 URL
表示④諸外国における容器包装の回収・リサイクルに関する
状況 (p.4~p.19)URL
表示3.容器ごみ政策のあり方についての議論
①容器包装リサイクル法の意義と問題点 URL
表示②ペットボトルリサイクルの課題とリユースペットボト
ルの推奨―ドイツの取り組みに学ぶ―URL
表示Ⅱ.進行
5 月 24
日 両法の概要を解説、その後4
班に分けて文書を分担(1-③、1-④⑤、1-⑥、2-④)
5 月 31
日4
班でグループワーク、その後、班を越えて情報交換、最後に各自が4区分の別の資料を宿題として選
ぶ。また3-②文書p.7-19 を共通の宿題とする。
6 月 7
日 4班でグループワーク、3-②文書p.7-19 に ついても議論に含める。最後に3-②文書 p.20-30 と 3-①文書を選択して宿題とする。
6 月 14
日 「3Rごみ政策のポイントは何か」について全体フリーディスカッション
この進行の場合は班のメンバーは固定・継続するが、
他の班へ内容を紹介しあい、
刺激を受けて他の班の資料も読み進めながら全体テーマをグループディスカッションで きるように誘導している。
得られる資料の質はテーマによって多様であり、基本パターンを臨機応変に修正しながら その時の最適な進め方を模索している。
上記で紹介した 3 つのテーマのほかに「流域の生態系サ ービスの機能を活かすダム政策のあり方を考える」「内湾 に発生する
貧酸素水塊を解消するための政策を考える」「事例を通して環境アセスメントのあり方を考える」「地
域資源を保全しながら活用する統合政策のあり方を考える」といったテーマを試みている。
3.専門現地実習科目「社会調査演習」
「社会調査演習」は生物資源学部資源循環学科循環社会 システム学講座 3 年生前期と夏休み 2
泊3
日の現地実習を組み合わせた
4 単位の科目である。前期授業のうち8コマを使いアンケート調査の方法を学び、前期の残り6コマで 実習先の情報に触れ、現地調査の準備をした。現地調査は
三重県志摩市でヒアリング調査をおこない、得られたデータを整理・解析し、レポートにまとめた。合わせて、志摩
市の政策に対する提案を試みた。現地実習のねらいを「志摩市におけるいくつかの政策項 目の現状を調査し、
統合政策としての「志摩市里海創生計画」、すなわち生態系と共生した「稼げる」「学べる」「遊 べる」政策に対して、「よそもの、若者の感覚で提案を試 みる」と設定した。志摩市里海創生計画は、基礎自治体で ある市が部署を越えた統合政策を打ち出そうとしている
点で、全国的にもユニークな政策となっている。この試みがどのような動機、プロセスで進められ、どんな壁を越え ようとしているのかをまず理解し、そのうえで
5つの班に 分け、事前準備の過程で次の
5つの個別テーマを確定した。
「社会調査演習」5 つの班分けとそのテーマ A 班:英虞湾沿岸休耕地の干潟再生と利用プラン作成
○テーマ:<「再生される(された)干潟」という「場所資 源」の価値をどのように推定し、アピールできるのか。そ
の干潟をどのように利用、
保全し、稼ぐことができるのか。またこの課題を実現するための政策的な課題は何か。>
- 37 -
浄化能力、生産力の把握の方法について理解する。干潟に戻せる可能性がある場所について、さまざまなケースに 分けて考える。地主の同意が得られそうなケース/得られ そうもないケース 地主のメリットは何か。
干潟化したときに利用しやすい立地、
利用しにくい立地 いかなる立地を想定するか。市がとるべき政策としてポイントは何か。
干潟化を阻む国の政策を知る。都市住民から見てどのよう
な価値を想定できるのか。
○事前学習:略
○ヒアリング対象:
①三重県水産研究所による干潟再生試 験/②国の政策との摩擦/③農地地主さんの意見/④伊
雑ノ浦淡水化反対運動(郷土史家)B 班:ウバメガシを利用した炭焼きビジネスの展開可能性 を探る
○テーマ:<志摩市のウバメガシという「もの資源」の現 存量を前提に、持続可能で森を豊かにする利用を図り、ビ
ジネスとしても成立させる
5P戦略を打ち出すための基礎調査を行う。また志摩市としての関与の在り方を考える>
ここで 5P とは:
pruduct(商品、サービス)、price(価 格)、place(販売場所)、promotion(価値をいかにアピー
ルするか)、person(①どんな人に買ってもらいたいか、②ビジネスの体制)である。
営利ビジネスとして成立するのか地域住民参加で地域通貨と組み合わせたビジネスが いいのか、両選択肢それぞれに 5P
戦略を立てて実現可能性を判断する。また国立公園内にあるウバメガシという条
件を売りにして、持続的な伐採方法を守る商品をアピールする宣伝方法を考える。
志摩市とその周辺で除間伐をすでに行っている人、炭焼
きをおこなっている人のお話を伺う。こうした炭焼きビジ ネスを支援する志摩市の政策のポイントを考える。
○事前学習:略
○ヒアリング対象:①炭生産(磯部町)/②区有林管理(磯 部町恵利原)/③皆伐による崩落現場(浜島町浜島)/④ ウバメガシ現存量推定(下川さん)
C 班:観光客、若者向け体験型・学習型施設の現状と新 たな可能性
○テーマ:<志摩市内で現在行なわれている体験型・学習
型企画メニュー、活動の現状を把握し、里海政策にふさわ しい新たな主体の組み合わせ、
メニューの展開の可能性があるのか>
現在おこなわれている施設の活動・学習メニューの中
身、利用者数や利用者の反応などをまず十分に理解する。志摩市に、本格的なエコツアー(自然を深く体験し、自然
と共生してきた志摩文化を深く理解できる)を起こすため にはどのような展開が必要なのか、
誰と誰がどのように組むとより大きな効果が生まれるのかを考える。
近鉄観光は 徐々に体験型のツアーメニューに力を入れてきている。また合歓の郷も里山体験を売りにしようと転換を始めてい る。合歓の郷にはまた素晴らしい里山、
里海のフィールドがある。また、地元の自然保護団体、ボランティアグルー プが活動しており、新たな展開の可能性が感じられる。
○事前学習:略
○ヒアリング対象:①志摩自然学校/②志摩半島野生生物 研究会/③波切地区街中散策/④横山ビジターセンター D 班:伝統的な海産物を都会にアピールするための調査
○テーマ:<
「里海政策」と典型的に結びつくいくつかの
「もの資源」を選択し、その資源の特徴、背景、歴史、
資 源量の推移、環境変化との関係を理解し、里海政策の展開方向とその際のアピールの仕方、
ブランド化の方法、製造、販売の方法をどうするか。>
「もの資源」をアオサに絞ることを提案したい。その理
由はまず「あおさプロジェクト」というすぐれたホームページが存在すること。
第二に、全国の生産高の 3割を占めるという志摩市の典型的な特産品であること。
第三に近年の英虞湾、的矢湾の環境悪化の影響を受けて生産高が徐々 に減少していて、
里海政策との関連が強く出る商品であること。
第四に、さまざまな利用方法が想定される食品であること、である。
とりわけかつてアオサ養殖の中心であった伊雑ノ浦が 現在劣化しており、この件を教訓にした今後の対応が求め られている。
里海政策と海産物というテーマを考える上で 格好の材料である。イセエビの刺し網オーナー制の取り組み、
安乗フグの取り組みにも学ぶ。
○事前学習:略
○ヒアリング対象:①アオサのり業者(的矢湾)/②あの
りふぐの取り組み/③イセエビの刺し網オーナー制に取 り組む漁師/④特産品 LLP
E 班:新しい観光ニーズを受け止める様々な動きと里海 政策
○テーマ:<新しい観光ニーズ」とは何かを把握し、里海 政策と新しいニーズに対応した観光戦略が基本的にどの
ように親和性を持っているのかを模索する。その視点を持 って、すでに志摩市で始められているいくつかの試みを聞 き取り、この親和性が確かに志摩観光の新しい魅力を作り うる方向なのか否か、問題点があるとすればそれは何か、
を考える。>
近鉄観光、志摩市観光協会、合歓の郷はこの「新しい観 光ニーズ」への変化、もしくは「里海観光」をどう受け止
めているのだろう。また、里海政策の真骨頂は従来異なる
部署間の連携にあるとするなら、「里海観光」に向かって 観光と漁業者、農業者の連携をどう図っていくかが問われる。
○事前学習:略
○ヒアリング対象:①志摩市観光協会/②志摩の小宿経営
者
/③海ほうずき/④海女小屋/⑤志摩いそぶえ会テーマ設定方法は、6 月はじめの時点で私から
5つのテ ーマ枠組みを提案し、学生が選択をし、数回の準備学習を 経て上記のねらいを固めた。
志摩市は前例のない政策を何とか切り開こうと部署横 断で模索中であり、「里海創生計画検討委員会」を立ちあ
- 38 - げつつあり、その過程で「里海創生」に関わる様々なアイ
デアを検討委員、関係組織、志摩市の各部署から募ることを考えていた。私自身は検討委員会の会長を引き受けるこ とになっていたのだが、タイミング良く私から志摩市にこ の調査授業の企画を相談する運びになった。また、「よそ もの 若者
バカ者と地域おこし」のテーマでインターネットには様々な意見や事例が紹介されており
8)、そこで先 の「よそもの、若者の感覚で提案を試みる」というねらい を設定することになったのである。授業の趣旨に賛同をし ていただいた志摩市里海推進室の方々の多大な協力を得 て、ヒアリング対象の方々を紹介していただいた。
ねらいの設定の適切さと絶妙のタイミングが重なり、学
生は授業でありながら「実際に役に立てる」現場に身を置 くことになり、
真剣な探求の動機を与えられることになった。実際最終日に行われた学生の発表会に、市職員が 10
名近く参加してくれて、温かい中にも厳しいコメントやア ドバイスを述べていただいた。また、その後学生の提案概要が「志摩市里海創生検討委員会」の資料の一つとして配
布されることにもなった。こうして、学生にはもったいない機会が与えられ、企画力、説得力、提案力、を発揮する
動機づけが現実的なものになり、普段の授業には見られないほどの頑張りを発揮せざるを得なくなった。
このように学生が現実社会に対して役に立つ場面を作 り、その場面に学生を信頼して送り出し真剣勝負をさせる シチュエーションづくりこそ PBL 教育にとって大事な要
素と思われる9)。
なお、学生の提案内容については実施報告書
10)を参照 していただきたい。
おわりに
以上本稿で報告してきたいくつかの実践をもとに PBL
教育が「成功」するための要点を列記してきた。ここで「成 功」としている規準は、第一に学生のモチベーションを喚 起できたかどうか、
第二に成果としての発表の質が良かったかどうか、を主に定性的にもしくは教師の目から見て捉
えて判断をしているが、一部学びの振り返りシートで確認をすることもできた。
共通教育 PBL セミナーの実践から、筆者は、PBL 教育に おいては「現実の事例に学ぶ」側面と「学生の自己決定に 任せる」という二側面のバランスが重要なポイントになり、
どちらが過大 (過小)になりすぎても PBL の良さが失われ ることに気づいた。そこで、2 年目に、現実社会に関わる 学生のスタンスを、架空ではあるがリアリティを持って設 定することによって、単なる「調べ学習」から一歩脱皮し て、企画力、説得力、提案力、を発揮する動機づけが生じ るような場面づくりを心掛けた。それによって 1 年目に比 べ「成功」の度合は向上したと実感できた
11)。
専門科目「地域環境管理学」と「環境政策学」は学生が連
続して履修する形であり、前者は講義をベースに置きながら PBL の特徴である自己学習とグループワークを取り入 れて進めており、後者は講義を必要最小限にとどめ、基本
的に自己学習とグループワークで進めていけるように設
計している。いずれも講義のみで進める場合よりは学生の 姿勢はずっと積極的になっていると評価している(かつて講義のみでおこなっていた時と比較して)。
専門現地実習科目「社会調査演習」においても、単なる
「調べ学習」から一歩脱皮して、企画力、
説得力、提案力、を発揮する動機づけが生じるような場面づくりを意識的 に追求した。
結果的に、現地志摩市側の条件もうまく重なることにより、
「よそ者、若者」である学生の提案が現実に 意味を持つ場面を設定することができた。これが 2011 年度の「社会調査演習」の「成功」のカギになったものと理解 している。
注
1) 高山進、共通教育通常科目「環境-文明史」の進行方 法-大人数授業における PBL 方式導入の試み-、
大学教育
研 究 -三 重 大学 授 業
研 究 交 流誌、
第16
号(2008),p.1-10。
2) 「グリーンコンシューマー10 原則」とは 1. 必要なも のを必要な量だけ買う。 2. 使い捨て商品ではなく、
長く使えるものを選ぶ。 3. 包装はないものを最優先し、
次に最小限のもの、容器は再使用できるものを選ぶ。 4.
作るとき、使うとき、捨てるとき、資源とエネルギー消 費の少ないものを選ぶ。 5. 化学物質による環境汚染と 健康への影響の少ないものを選ぶ。 6. 自然と生物多様
性を損なわないものを選ぶ。 7. 近くで生産
・製造されたものを選ぶ。 8. 作る人に公正な分配が保証されるも のを選ぶ。 9. リサイクルされたもの、リサイクルシス テムのあるものを選ぶ。 10. 環境問題に熱心に取り組 み、環境情報を公開しているメーカーや店を選ぶ。
http://www.green-consumer.org/10rules_main.html
(2012 年
4月
9日参照)3)
三重大学高等教育創造開発センター『三重大学版 Problem-based Learning の手引き-多様な PBL 授業の
展開』で類型化されている4つのパターンの一つ。
4) 「1.Purpose:目的・達成目標 取り組んでいる社
会的課題は何か。2. Partnering:提携
誰(どんな組
織)とどのように提携・連携しているか。3.People:組織・人事 どんな組織で運営しているか、スタッフの
給料を調達する方法は。4.Promotion:
宣伝・広報 マ スメディア、
自主メディアでどのように広報しているか。5.Profit:利益・成果 社会的インパクトと事業の将
来」小暮真久『20
円で世界をつなぐ仕事』日本能率協会マネジメントセンター,2009
5) 実は生物多様性条約の大事なポイントの一つは生物
多様性の「保全」と「適切な利用」を切り離さない視点で あった。
6) 筆者は、コミュニティビジネスのコーディネート役を 果たそうとする株式会社地域資源バンク NIU
が主催す
る「地域ぐるみビジネス講座」を受講し、「特定非営利
活動法人えがおつなげて」の代表曽根原久司氏から先に
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紹介した二つのワークシートとその用い方を教えていただいた。また三菱地所株式会社エコッツエリア部門の
近江哲也氏が三重大学生物資源学部でおこなっている 集中講義「地域計画学」の最後の発表会に参加し、ラストセッションの指示につながるヒントを得た。
7) 講義科目における PBL 方式導入の鍵は、「問いを示し
た後すぐ講義する」のではなく、素材を与えておき、あ る程度の解説をした後問を出し、学生は 1
週間考えるとともにオープンな場で解答を披露し合い、その後教師の
見解を聞く、というスタイルにある。問いの面白さを示し、すぐに答えを与えない授業方法が、かつて共通教育 において次のような反応をもたらした。「下手したら、
専門科目よりも真面目に受けた授業かもしれません。で も、本来、興味があったのは完ぺきに専門科目のほうで す。でも、なんか興味がどんどん湧いてきたのです。そ れは、
先生が毎回、私たちに考える時間をくれたというのが、一番大きな理由だと私は思います。」注(1)参照。
8) 「地域活性化の先進的な事例をいくつか見ていくと、
必ずそのキーマンに「よそ者」の存在があります。地域 活性化の視点でみるなら、よそ者は地域の人たちが当た り前と思っている既成概念や本来価値があるものを客
観的な角度(または新しい視点)でその土地の人たちに 見せてくれます。また、しがらみがないからこそ、自由な発想や行動が可能となります」
http://www.sawacom.net/jichi/yosomono/
(2012 年
4月
9日参照)。福井県鯖江市、島根県海士町では若者の提案を市の政策に取り入れている。
9) 同志社大学が 2006
年度から開始している「プロジェ クト科目」は、現実社会の企業・団体(地方自治体等を
含む)・個人が提案するプロジェクトを正規の授業として認定し、
担当教員とともに学生の学びを支え、公開発 表を経て単位の認定を行う PBL 授業である。その趣旨として次のように説明されている。「この「プロジェクト 科目」は、地域社会や企業の方々に講師をお願いし、地
域社会と企業がもつ「教育力」を大学の正規の教育課程の中に導入することによって、学生に生きた智恵や技術 を学ばせるとともに、「現場に学ぶ」視点を育み、実践 的な問題発見・解決能力など、いわば学生の総合的人間 力を養成することを目的としています。」
http://www.doshisha.ac.jp/students/curriculum/
pbl/index.html (2012 年4