「食塩水のこさと重さ」の単元にみる小学生の科学 概念の形成について −教育工学的分析による−
著者 松村 佳子
雑誌名 奈良教育大学教育工学センター研究報告
巻 8
ページ 31‑40
発行年 1985‑03‑16
その他のタイトル A Study on A Method Make A Concept of Science for Children −on the concentration and
weight of table salt solution−
URL http://hdl.handle.net/10105/4590
「食塩水のこさと重さ」の単元にみる 小学生の科学概念の形成について
一教育工学的分析による‑
松 村 佳 子 (物理教室)
A Study on A淑ethod Make AConcept of Science for Children
‑on the concentration and weight of table劾It solution ‑
by
Keiko MATSUMURA (Department of Physics)
Abstract
It is investigated how the concept of mass conservation, specific gravity; solub‑
ility and evaporational concretion is understood by children. The itemforthis study is the concentration and weight of table salt solution. The word association (WA) test entitled "Renso Game"is given to children in elementary schools in Nara and Osaka. The WA test is given before and after they learn the unit. Images formed in children on Science class are examined by the semantic differential (SD) method The cluster analysis method is also employed to compare the results of pre‑ and post‑
WA tests.
The findings are as follows;
Two types of children have a negative images on Science class. Some of them can understand the concept well and others have a poor understanding
Some children enjoy experimetal works even if they understand little the cone‑
ept of science. They are found to have very positive images on Science class.
Key words : Word Association Test Semantic Differential Method and
ICluster Analysis
I はじめに
近年理科の様々な内容に対する児童生徒の概念形成および理解・認識に関する調査研究が数多 くみられる.1ー7)それらの多くは、児童生徒に対するアンケート調査なりテストなりをもとにして
考察したものであるが、調査の集計等に統計的処理をほどこしたものはほとんどみられない。最 近筑波大学で理科(物理的内容、地学的内容)の内容に関して、生徒の概念形成について教育工 学的統計処理を用いて検討を進めている芝,9)
ここでは、概念学習の観点から、小学校5年生の単元「食塩水のこさと重さ」をとりあげ、こ の単元の学習前と後に「連想ゲーム」と名づけたWordAssociation(WA)テストを実施し、
単元学習前後における概念構造の変化を調べる。この単元に関して、指導要領では次のようになっ ている。
( 1 ) 固 体 が 水 に 溶 け る 量 を 調 べ 、 水 溶 液 の 濃 さ と重 さ と の 関 係 を 理 解 さ せ る 。 ア . 物 は 、 水 に 溶 け て も そ の 重 さ は 変 わ ら な い こ と 。
ィ . 濃 さ の 違 う同 体 積 の 水 溶 液 は 、 重 さ に 違 い が あ る こ と 。 ウ . 物 が 水 に 溶 け る 量 に は 、 限 度 が あ る こ と 。
工 . 水 溶 液 の 水 が 蒸 発 す る と溶 け て い た 物 が 水 と 分 か れ て で て く る こ と 。
項目のア、ィ、ウ、工はそれぞれ、質量(重さ)の保存、比重(温度が決まれば密度)、溶解度、
蒸発乾国に対応した内容になっている。児童が学習を通してこれら個々の概念をどのように理解 しているかをみるために、単元学習前と後との調査結果を教育工学的に分析し検討する。
Ⅱ 調査の方法
WA法は、ある概念を表わす刺激語を被験者に示し、その語からどのような言葉が連想される かを記述させるWAテストを行い、その結果を各種の分析方法によって分析して、被験者の概念 構造を明らかにしようとする方法である。今回実施したテストでは、教科書の「食塩水のこさと 重さ」の単元に出てくることばのうち、4回以上出現する 水、食塩水、食塩、重さ、じょう発、
こさ、体積、つぶ の8語を刺激語として選んだ。テスト用紙の例を次に示す。実際の調査用紙
(刺激語「水」の場合を示す)には10個まで連想語を書けるようにし、時間を2分間に限って、
刺激語に対する連想語を思いつくまゝに記入させた。
練 習
太 陽
・〔れい〕 太 陽 ……… (
〔れい〕 太 陽 ……… (
3
月 ) うちゅう )
さあ やってみよう。「はじめ。」の合図で はじめなさい。
太 陽 ……… ( 太 陽 …=…・(
太 陽 ……… (
注意 同じ言葉を 同じページで 2度書いてはいけません。
「食塩水のこさと重さ」の単元にみる小学生の科学概念の形成について一教育工学的分析による−
水
1 水 ‥= (
2 水 ……・ (
3 水 ‥‥‥‥・(
4 水 …… (
5 水・ ( 6 水・ (
7 水 ……… (
8 水 ……・ (
9 水 ……… (
10 水 ……… (
また、次に示すような反対の意味をもつ22の形容詞対からなるSD法の尺度を用い5段階スケー ルによって、理科に対するイメージを調査した。ここで用いた形容詞対は菊池10)が児童生徒のも つ学校に対するイメージの分析に用いたものの中から選んだ。記入時間は5分間とした。調査は、
奈良・大阪の公立小学校4校20クラスにお願いし、WAテストとSD諏査とを同時に実施した。
理科に対する感じ
とても
すこし
えない ともい どちら
すこし とても
(1)おもしろい
(2)ら く な
(3)のんびりした
(4)あたりまえの
(5)かんたんな
(6)よ い
(7)たのしい
(8)たしかな
(9)大 切 な 00)活ばつな
(11)つ よ い
(12)親しみやすい
(13)いきいきとした
(14)ほんとうの
(15)あてになる
(16)やさしい
(17)変化のある
(18)はっきりした
(19)あかるい
(犯 しずかな 佗1)親 切 な 勉)たんじゅんな
たいくつな
つ ら い
きゅうくつな
かわった むずかしい
わ る い
つまらない あやふやな
どうでもよい ト十→ 十一」 不活ばつな
よわい 親しみにくい
くたびれた
う そ の
たよりない
こ わ い
きまりきった ぼんやりした
く ら い
やかましい ぶっきらぼうな ふくざっな
「食塩水のこさと重さ」の単元にみる小学生の科学概念の形成について一教育工学的分析による−
Ⅲ 分 析 法
WAテストに用いられた異なる刺激語から連想された言葉のうち、どちらの刺激語からも連想 されている言葉の占める割合が、2つの刺激語間の関連度を表わす測度になる。刺激語間で連想 語の現われる傾向の類似性に従って、刺激語をグループ化する(クラスター分析)方法を採用し、
その結果を樹形図で表わした。クラスター分析はSASプログラムパッケージを用い、電子計算 機を用いて逐行した。
体 積
こ さ
じ ょ う 発
水
ぶ さ
水 体 つ 重 じ こ 塩 食
積 ぶ さ 発 さ 水
図−1 概念を表わす樹形図
図1はある児童に対する単元学習前後の概念構造を示した樹形図である。これをみると授業前 には、水、じょう発がクラスター(a捲成し、つぶ、塩、体積、こさがクラスター(b)を成している。
クラスター(a)は日常経験による概念を、つぶと塩も又日常経験による概念の結びつきを示してい るものと云える。授業後には、つぶ、体積、重さ、水が1つのクラスター軸を、塩、こさ、食塩 水、じょう発がクラスター(B)を成している。仏はり、授業の中で、水の体積を測ったり、重さを 測ったりというような作業をしたであろうことが推測され、そして、(B)からは、塩を入れること により、濃さのちがう食塩水を作ったり、又その食塩水を蒸発させるといった内容のことを学習 したのであろうことが推察される。このように、実際の授業を見ていなくても、刺激語に対する 児童の連想語をクラスター分析することにより、概念構造を推測することができるので、WA法 は児童が概念をどのように理解しているかをみるために有効であると考える。
SD法においては、SD尺度の左端から右端へ1点から5点までの得点を与えて、授業の前後 における得点の差が(+)か(−)かにより、理科に対するイメージの評定の変化をみた。ここ では、尺度1−18について評定した。単元学習後と前との得点の差が(−)になると、この単元 の学習により理科に対するイメージがよくなったと評定し、(+)になると悪い方に変化したと
評定した。図2にSD尺度の評定の例を示す。
とても
すこし
えないともいどちら
すこし
とても
(1)おもしろい
(2)ら く な
(3)のんびりした
(4)あたりまえの
(5)かんたんな
(6)よ い
(7)たのしい
(8)たしかな
(91大 切 な 0鴫 活ばつな 仙 つ よ い 任か 親しみやすい 個 いきいきとした
(1心 ほんとうの 個 あてになる 個 やさしい 8第 変化のある
㈹ はっきりした
たいくつな つ ら い きゅうくつな かわった むずかしい
わ る い つまらない あやふやな どうでもよい 不活ばつな
よわい 親しみにくい
くたびれた
う そ の
たよりない
こ わ い
きまりきった ぼんやりした
l pre 一一一一一細 pOSt
図2 理科に対するイメージ
実線は授業前、破線は授業後における評定を結んだものである。「食塩水のこさと重さ」の単 元を学習した後には、学習前よりも理科がより ≠おもしろい、らくな、たのしい′ ものに変化し
ているが、同時に少し きゅうくつ〝な教科になっていることもわかる。全体としての得点の差 は−10となり、この単元の学習により、理科に対するイメージが非常によいものに変ってきてい るのがわかる。
「食塩水のこさと重さ」の単元にみる小学生の科学概念の形成について一十教育工学的分析による−
Ⅳ 結果とまとめ
今回は、授業の前後における児童のもつ概念構造の変化を個人について分析してみた。調査し たあるクラスの中から無作為に11人を選び出し、WAテストに基づいて、刺激語をグループ化し たものを図1、図3〜7に示す。
図1については、前述したように授業前には日常経験による概念を示すと思われるもの(クラ スター(a)および(b))のみであった。授業後には、作業をしたことを覚えていると思われるクラス ター(A上(B)が現われている。これとほとんど同じ傾向が11人中6人にみられた。図3は授業前に は、水とじょう発、塩と食塩水とがクラスターを作っており、日常経験による概念の結びっきが みられ、授業後には、クラスター(A)から 濃さと重さ、比重〝の概念が形成されていることがわ かり、クラスター(B)からは食塩水から結晶を作るという 蒸発乾固〝についての概念が形成され ていることがうかがえる。図4は授業前には日常経験によるものと思われるクラスター(a)がみら れ、授業後には、クラスター仏)から溶解に関する実験をしたことがうかがわれ、クラスター(B)か ら ≠蒸発乾固〝ぉよび、濃さと重さ〝 についての概念形成がみられる。上記2つの例に示す児童 は、この単元の指導目標である、比重〝ぉよび、蒸発乾固〝の概念が理解できたことが推測でき、
授業の効果があったと評価してよいと思われる。図5に示す児童は授業前には、刺激語間の概念 の結びつきはみられないが、授業後にはクラスター紬と(Cはり作業したことが記憶に残っている
と推察でき、クラスター(Bはり 濃さと重さ〃の概念ができているとみてよいであろう。図6お よび図7からは、授業後に水と食塩とがクラスターを成すのがみられる他は、概念形成を示すも のはみられない。
つ ぶ
食 塩 水
重 さ 塩
こ さじょう発 体 積
水
図3 概念を表わす樹形図
重 さ
こ さ
つ ぶ じ ょ う 発
食 塩 水
塩
体 積 水水 食 塩 じ 体 っ 垂 こ
よ う
発 積 ぶ さ さ
図4 概念を表わす樹形図
食 塩 水
じ ょ う 発 重 さ
塩つ
こ体
水
積 さ ぶ
塩
重 さ つ ぶ
食 塩 水
体 じょう発 積
こ さ
水
図5 概念を表わす樹形図
「食塩水のこさと重さ」の単元にみる小学生の科学概念の形成について+教育工学的分析による一
食 じょう発
塩 水
つ ぶ 重 さ 体 積
こ さ塩
水
重 さ じ ょ う 発 塩食 塩 水
つ ぶ 体 積
こ さ水
図6 概念を表わす樹形図
重 さ
食 塩 水
つ ぶじ ょ う 発 体 積 こ さ
塩
水
塩食 塩 水
重 さ つ ぶ 体 積
こ さ じょう発水
図7 概念を表わす樹形図
このようにみると、実験などの作業をした内容は児童の記憶に残っているが、作業を含めた授 業の中で、指導目標である概念のいくつかでも理解できているように患えるものは少ないことが わかる。又この分析から授業効果がみられない児童が11人中2人在り、全体として20%ぐらいは理 解できていない者がいるであろうと思われる。
次に児童が理科に対してもっているイメージに対するSD法による評定をWAテストの分析結 果と比較してみる。授業効果がみられ、単元の指導目標である概念の理解が得られたと思える児 童のうち、男子は授業の前後で全体として−2〜+2の差がみられ、全体的な理科に対するイメー ジの変化はあまりないが、女子の場合には+4〜+9と(+)に片寄っている。このことから、
このような単元では男女差がみられ、女子にとって理科の勉強かつらい、又は親しみにくい教科 として受けとられているように思える。理解がよいと思える男子にも、上記の傾向がみられた。
授業効果がみられなかった児童は男女とも(+)に片寄る傾向がみられ、理科に対するイメージ は悪くなると患える。作業したことのみが残っていると思える児童は、女子でも(一)側に大き く片寄り、実験を楽しくやったであろうことがうかがえる。この単元のように概念の理解を要求 する学習では、授業の進め方等に工夫をしないと、理科嫌いの児童が出てくることが予想される。
WA法およびSD法による分析は、以上述べてきたように、児童個人についてのプロフィール を得て、児童個々の理解のし方を把握して個人的指導における参考にすることもできるし、クラ ス全体を対象とした分析より、授業展開と児童の理解のし方との関連についての考察もできる。
今後の課題として、クラス毎の児童のもつ概念構造およびイメージの変化をみて、この単元の授 業の進め方のよりよい方法をさぐるべく考察を進めていく予定である。
最後に、貴重な時間をいただいて調査にど協力下さった小学校の先生方に心から感謝申し上げ ます。また、調査資料整理に協力して下さった木村雅人君に謝意を表します。
参考文献
1)北村太一郎:日本理科教育学会研究紀要 2)松森靖夫:日本理科教育学会研究紀要 3)池田俊夫:日本理科教育学会研究紀要 4)石川 正:日本理科教育学会研究紀要 5)滝川洋二:日本理科教育学会研究紀要 6)松森靖夫:日本理科教育学会研究紀要
vol.23、No.1(1982) p.65 vol.23、No.2(1982) p.27 vol.23、No.2(1982) p.37 vol.24、No.1(1983) p.g vol.24、No.2(1983) p.19
vol.24、No.2(1983) p.27
7)三島嶽志、前田健悟:日本理科教育学会研究紀要 vol.25、No」(柑84) p.65 8)東原義訓:筑波大学大学院教育研究科修士論文(1980)
9)吉岡亮衛、中山和彦:日本科学教育学会第8回年会(1984)資料 10)菊池章夫:福島大学学芸学部論集13号の3(1962) p.11