巨大災害・巨大リスクと保険
平成24年度大会シンポジウム
パネルディスカッション
【司会・福田弥夫】それではこれからパネルディスカッションを始めてまい ります。本日は朝から総論的課題として堀田先生と山本先生,それから各論 的課題として黒木先生,それから篠目さん,松尾さん,明田さん,江利口さ ん,以上の方々からお話をしていただきました。
そこでここからは,それらの中から浮かび上がってきました問題点,テー マを取り上げまして,パネルディスカッションの形式で議論を進めていきま す。何分パネルディスカッション自体は45分,フロアとの質疑応答が25分と 時間の制限がございますので,効率的に進めていきたいと思います。皆さん の協力をよろしくお願いいたします。
さて,これまでの報告によりまして,論点として私は次の3点に絞らせて いただきたいと思います。それは,まず将来,近い将来なのか,遠い将来な のか,それはまた地震の予知の問題とも関連しますが,かなり大きい確率で 起きるであろう巨大災害・巨大リスクに対して,私たちが今早急に対応しな ければならないのは何なのかということがまず第1点。それから,これと関 連いたしまして,巨大災害・巨大リスクに対する官民の果たすべき役割は一 体何なのだろうか,ということが2点目。それから3点目として,巨大災害
・巨大リスクの対応方法と国際的な連携を含めた将来的な展望をこれからど うしていけばよろしいのか,という3点についてこれからお話をしていきた いと思います。
まず1点目,将来発生が確実視されている巨大災害・巨大リスクに対しま して,今早急に対応すべきものは一体何なのだろうかということを,各パネ
ラーの方から,ご自身の報告にさらに付け加えることがございましたら,お 願いいたします。
まず堀田先生からお願いします。
【堀田一吉】保険は,戦後,理論的にも技術的にも非常に大きく発展しまし た。今後も,段階的に改善が図られていくものと確信しています。しかしな がら,依然として巨大災害をすべてカバーするほどのキャパシティを持つに 至っていません。
巨大リスクにおきましては,いわゆるリスクコントロールといいますか,
言葉を替えれば減災ということが,とくに重要だと思います。その意味で,
まず強調させていただきたいのは,全体としての災害コストを見た上で,そ のリスクのコントロール,まず減災をどうするかと。ここにおいては保険の 枠を越えて,国を挙げてこの取り組みに従事しなければなりませんし,これ は国と個人という間に,さらには地域のコミュニティーなどを含めたいろい ろな多段階での取り組みが図られるべきだろうという考えを持っています。
【司会】続きまして,黒木先生。
【黒木松男】第1点として,先ほどの損害保険業界の危険準備金の限度で再 保険スキームの自動改定システムを作り上げるという点については,これは 特に財政民主主義という考え方と抵触する危険性があります。財政の民主主 義からしますと,国会の議決がなければ予算編成ができないわけで,国会の 議決なしで,地震施行令の再保険スキームの規定を変えてしまうということ になり,これは大きな問題だということになります。これはもう国家緊急事 態であるという意味で,そういうものを容認することが重要かと思います。
これが第1点です。
第2点については,先ほどの報告では保険料率についてお話ができなかっ たのですけれども,保険料率に関して,今回の東日本大震災におけるリスク
をどの程度震源モデルの中に地震保険調査推進本部が入れ込んでいくか,ど のような推進モデルを作るのかということが,国民としても最も重要な観点 かと思います。具体的な保険料率がどうなっていくのか,特に堀田先生から 問題提起がありました津波のリスクをどの程度見込んでいくのかということ は,太平洋沿岸に居住の方々にとっては大きな利害関係を有する事項であろ うと思います。そういう点ではあまり偏った震源モデルは出ないかと思いま すけれども,損害保険料率算出機構から地震保険料率の案が近く発表される ようです。慎重な判断が要求されると思われます。
【司会】ありがとうございました。篠目さん,何かございますか。
【篠目貴大】私どものような現場の立場からすると,巨大災害としての南海 トラフの大地震,巨大地震,それから首都直下地震といった部分につきまし ては,やはり政府等から発表される情報をいかにかみ砕いて,企業や消費者 の皆さまにお伝えしていくのかというところに尽きるかなと思っております。
津波が何メートルとか,震度がこれぐらい,それによって全体を俯瞰した ときに,自社がどういう被害状態になるのかといったところを,われわれリ スクマネジメント会社としてしっかりとお伝えしていくことが非常に重要な のかなと思っています。
あと,BCPの側面を先ほどお話ししましたが,やはり南海トラフの巨大 地震の場合,一部南関東や東海から九州地方までずっと被害を受けることに なりますので,今まで企業さんが自社の力で被害想定していた部分を,はる かに超えるような部分があると思います。
私どものほうでも長年主に台風リスクと,それから地震リスクにつきまし ては,いわゆるインハウスモデルというものを外向け,内向けのために開発 してきておりますので,そのあたりも使いながら,各企業さんにおけるリス クを解決するために,まずは被害の実態がどうなのかというところを正確に 伝えてまいりたいと考えております。
【司会】ありがとうございました。松尾さん,いかがでしょうか。
【松尾 繁】先ほどの報告の中でも簡単に触れさせていただきましたけれど も,今すぐにという時間軸でいうとなかなか難しい部分はあるのですけれど も,われわれ保険会社である以上は,やはり想定外という言葉を今後二度と 使ってはいけないのだろうというふうにも思っております。モデル化できて いないリスク,先ほども申し上げたようなタイの洪水ですとか,あとは今般 の津波も今まではなかなか細かい部分まで信頼性の高いリスク評価モデルが できておりませんでしたので,今急ピッチでそういうところのモデルの高度 化というようなことを進めております。こういうことを可能な限り定量化し て,すべての事象を想定内のリスクに収めていくということを,不断の努力 として継続していく必要があると考えています。
【司会】明田さん,いかがでしょうか。
【明田 裕】私も時間が足りなくて報告では割愛したところでございますが,
生保の災害関係特約の地震,噴火,津波の免責条項ないし削減支払い条項と いうのがございますが,私はこの規定を削除するということ自体を,検討の 俎上に乗せてもいいのではないだろうかと考えております。
これはレジュメの中にも書いておるのですけれども,そのことによって多 分お客さんの安心感というのはだいぶ増す,つまり,お客さんにとっての災 害関係特約の値打ちが何割か上がるというふうなことがあると思いますし,
一方でこの災害関係特約の上乗せで災害死亡の保障をしているわけですが,
そのウエイトというのは実は昔に比べると随分下がっているということであ ります。それだけその影響が小さくなっているということです。
どういうことかと申しますと,今から30年前,これはレジュメの中にござ いますけれども,1980年当時は,普通死亡が377兆円,それに対して災害死 亡の上乗せが291兆円ということで,大体8割ぐらい上乗せがあったという
ことなのですが,この2010年度決算で見ますと,普通死亡が850兆円に対し て災害死亡が189兆円ということで,2割ぐらいになってきている。ですか ら,その影響度というのはだいぶ下がってきております。これは旧簡保契約 が入っておりませんけれども,そういう数字になっているということでござ います。
ただ,個別の会社で見てまいりますと,これは様相がいろいろでございま して,災害死亡の上乗せ自体をやってない,そういう特約自体がないという 会社もあれば,災害死亡が普通死亡に近いくらいの額があるという会社もご ざいますので,この辺は会社によって事情も違いますし,また慎重な検討が 必要だろうとは思いますが,そういうことも検討の俎上に乗せていったらど うかというふうに考えております。
【司会】ありがとうございます。
それでは2点目に行きたいと思います。2点目は,巨大災害・巨大リスク に対する官民の果たすべき役割は何か,この違いについての議論なのですけ ども,先ほど堀田先生がお話しされましたリスクコントロール,減災,災害 防止,これは非常に官の役割であると,これはもちろんだと思いますが,官 民の果たすべき役割の違いにつきまして,堀田先生いかがでございましょう か。
【堀田】官民の関係性は,対象とするリスクの性質によって異なるのだろう と思います。巨大リスクは国を挙げて取り組まなければならない非常に大き な課題ですので,この官民協力は非常に重要です。とくに,リスクコントロ ールに向けてのいわゆる調査研究は,やはり官主導で国家の英知を結集する ぐらいの試みが必要です。それがいずれファイナンスとしての保険にも反映 されていくわけです。
リスクファイナンスの基本は,やはり個人が主体的に取り組むべきである と思います。例えば地震保険に関しても,これは個人財産を守る自助の保険
だということを明確にしておくべきであり,その上での官の関与のあり方が 問われるわけです。政府再保険は,まさに政府が再保険会社としての役割を 担うものであり,ここには,社会保障的要素は含まれていないというのが私 の解釈であります。政府は,民間保険をより機能させるための存在であり,
その関係を明確にしておくべきです。
【司会】ありがとうございました。山本先生,いかがでしょうか。
【山本哲生】今の点ですけれども,私は報告のときは社会保険として地震保 険を制度設計するという形でお話しさせていただいたのですけれども,例え ば国の関与の仕組みを今の制度から変えたほうがいいとか,そういうことを 特に主張するつもりはありません。例えば報告のときにもお話ししました,
保険料のリスク細分化をどうするかという点で連帯を考えるかどうかという 点でも,社会連帯から構成するかどうかという話にかかわってくるように,
社会連帯から地震保険を構想するといっても,いろいろなレベルがあります ので,一概に国の関与を強めるべきであるという話にはならないと思います。
要するに具体的な問題は,細かい政策判断の問題に委ねられるのであろうと いうふうに思います。
若干補足させていただきますと,今の話と同じことなのですけれども,地 震保険を社会連帯から構想するとして,そういう社会連帯というものがある のかについて,先ほどは事前,地震が起こる前の段階では実際の意識にはあ まりない,弱いかもしれないけれども,統治団体,国が主導して社会連帯を つくっていくことは,地震が発生した後の状況から見ると必ずしも不合理な ものでもない,そういう風に言える余地もあるのではないかと申し上げまし たが,仮にいずれかの形で地震保険について適切な社会連帯が事実あるとし て,報告でも申しましたが,あくまで前提事実としてあるということであり まして,前提事実としてあるから,社会連帯を基礎として地震保険を構想し なければならないとか,したほうがいいとかいうふうには必ずしもならない。
そこでも政策判断がかかわってくるので,社会連帯があるから当然にやるべ き,社会連帯に合わせて構想するべきだという話にはならなくて,やはりこ こでも細かな政策判断から一つ一つ積み重ねられると,そういうことが必要 になるのだろうと考えております。
【司会】ありがとうございました。黒木先生,いかがですか。
【黒木】保険責任に関して,民間が実際上,危険準備金がなくなった段階で は,危険準備金により積み立てられたものによる貢献が出来なくなるわけで すが,ただ,地震保険をつくるとき,また阪神大震災後の議論の中で,再度 地震保険をどうするかという議論の中で提出されたものが税方式です。公的 資金で行うのか,それとも社会保険方式で行うのかということで,社会保険 方式になったのはやはり官ではできない部分があるということがあったと思 うのです。なおかつ公的年金保険,国民健康保険及び公的介護保険との大き な違いとしては,区役所や市役所が窓口になることは,地震保険の保険料の 徴収や保険金の支払いについてもできないことはないのですけれども,査定 はやはり市役所や区役所に任せるのではなく,ノウハウを蓄積した損害保険 業界がそういう人材の養成とかあるいは確保をなさっていらっしゃいますの で,そういう部分での民間の貢献には大きなものがあり得ると思います。
【松尾】地震保険に関して言いますと,保険業界として従来から申し上げて きたこととしましては,今の地震保険制度の中で民間が請け負う部分につい ては,やはり基本的には積み立てられた準備金の範囲内で支払うという形で 限定ができないだろうかという要望を従来からさせていただいております。
現行の地震保険の制度としましては,期間中の限度額というものが設定さ れておりませんで,1事故当たりで東日本大震災のときは5.5兆円を総支払 限度額として制度がありましたけれども,あの事故が発生したときには準備 金も民間損保部分だけで約7,800億円ぐらいですか,一時的に不足するとい
う事態がありまして,また2事故,3事故が発生したときには,われわれも 極端な話,債務超過に陥る可能性もゼロではなかったということにはなりま す。ですので,ノーロス・ノープロフィット,要はリスクマージンを適切に 頂戴できていない地震保険制度の中においては,やはりそれだけのリスクを われわれが負うことは,株主に対する説明責任という点でも難しい部分も出 てきますし,なかなか困難だろうなと考えます。
一方でできることは何かといいますと,今まで果たしてきましたように,
保険の契約の入り口のところで広く国民の皆さまにご加入をいただくような 普及の活動ですとか,あるいは震災のときの迅速,適切な保険金の支払いと いったことがあります。
今回の津波のときでも,例えば航空写真を駆使して,上から写真を撮りま して,被災地域のところで一定の区画の範囲を決めて,全損の支払いの範囲 を認めて大幅に支払いの実務を簡素化するとか,あるいは津波で罹災した場 合の全損,半損,一部損をどういうふうに定義するかというようなことも,
損害保険会社から政府のほうにも働き掛けて,認定基準の一部明確化を実現 したとかいうこともありましたので,そういうところでわれわれの査定ノウ ハウも生かしていきながら貢献ができればというふうに考えております。
企業分野に関して言うと,当然ながら政府のサポートがない自助努力の世 界でありますので,東日本大震災でも6,000億近い支払いということが先ほ どトーア再保険の江利口さんからもご報告がありましたけれども,そういっ た部分では引き続き保険の引受けを厳格にではありますけれどもやっていく ことで,私企業のお客さまからの負託にも応えていきます。
個人の分野におきましても,私どもが生損一体で販売させていただいてい る超保険,こちらでは今地震保険の上乗せということで,地震保険の差額部 分を保険金額の100%まで補償する仕組みを設けていたり,あるいは自動車 保険についても,車両が津波で被害を受けた場合には,見舞金のような性格 ですけれども,全損時には50万円の支払いをしたりするとか,そういう形で,
できるところはわれわれも手当てをしながら対応していくということは,今
後も継続して取り組んでいきたいと考えております。
【司会】ありがとうございます。江利口さん,何かございますか。
【江利口耕治】公的な地震保険スキームにつきましては,日本ばかりではな く,例えばアメリカの
CEA
(California Earthquake Authority)です と か,ニュージーランドのEQC
(Earthquake Commission),あるいはトル コのTCIP
(Turkish Catastrophe Insurance Pool)といったスキームが あるかと思います。これらとの比較において,日本の家計地震スキームの特 徴として,まず認識すべきことの一つは,その突出したリミットだと思いま す。つまり,6.2兆円という他にはない巨額なPML
に基づいてスキームが 設定されているという点です。これを,仮にですが,伝統的再保険で消化す るようなことを検討しようということになった場合に,再保険の実務に携わ る者といたしましては,これだけの巨額の地震キャパシティを再保険市場に 求めていくことは現実問題極めて困難,と感ぜざるを得ない訳であります。また,今,申し上げましたアメリカの
CEA
ですとか,ニュージーランド のEQC
といった地震スキームにおいては,海外に再保険を求めている例が 実際にはあるわけですけれども,先程もご説明申し上げましたように,再保 険の場合,どうしてもマーケットサイクルあるいは,ロス回収後の相当な価 格変動ですとか,そういったものが避けられない面があります。こうしたボ ラティリティは最終的には消費者,加入者に転嫁されるものという点を踏ま え,何がベストなのかということを考えますと,個人的な見解にはなります が,やはり日本の地震保険スキームにおいて,政府再保険が果たす意義は極 めて高いと感じております。【堀田】今の話で,午前中の黒木先生のご報告の中で,地震保険
PT
の議論 について非常に詳細なコメントをいただきました。私,PTに参加しており まして,正直,黒木先生のご期待に沿えるような結論にまでは,今回の議論では行かないような印象を持っております。
PT
で議論をしていて感じることは,地震保険に対する理念や捉え方が,メンバー間で必ずしも一致しておらず,時々,議論が噛み合わないことがあ りますが,実はそうした議論が非常に重要だと思います。
一つ,二つ申し上げると,費用保険なのか財物保険なのかという点につい て,もう見解が違っておりまして,これが解決されないまま議論がその上に 繰り返されている。そうすると,結局何を議論しているか分からないという ことが起こります。
それと準備金の話ですが,保険会社が準備金の範囲内だけでその責任を負 いたいというのですが,そういう気持ちはよく理解できるのですけども,も う一方で,保険会社というのはやはりリスクを取るということが本業であっ て,その準備金の範囲内だけでしかやりませんというのであれば,これは単 なる保険取り扱い会社ということになってしまうと思うのです。
私の報告で少し申し上げたように,中小地震と巨大地震というのは根本か ら性質が違うので,これを切り分けてスキームをもう一度作り替えたらどう かと考えています。中小地震に関しては100%民間に任せるが,巨大地震は 政府が担う。今3rdレイヤーというのがございますけど,私の主張は,3
rdレイヤーはなくして,すべて国に任せるべきだということです。中小地
震であれば,民間で引受ける能力を十分持っているわけですので,リスクで うまく吸収できるような仕組みをつくることができるように思います。【司会】堀田先生,今の件に関連しまして,例えば今回の東日本大震災のと きも出てきた話なのですが,民間の保険会社が適用しているいわゆる地震保 険と,それから全共連などの建物更生共済 むてき などは全然システムが 違うし,政府再保険にもかかってない。この点については,先生,どうお考 えですか。
【堀田】確かに
PT
の中で,私の頭の隅に常に共済の存在はありまして,そもそも共済は民間ですべてリスクを引き受けているのに,なぜ損保のほうは 国が一緒でないとできないと主張し続けるのかなと思うことがあります。
共済の仕組みと,民保の地震保険とは,商品構造が全く違うものですから,
いきなり政府再保険の中で一本化することはできないと思いますが,もし本 当に再保険の制度の中にすべての地震災害を取り込むのであれば,根本的な 地震保険の組み直しを考えなければならないと思います。例えば一言だけ申 し上げると,今の地震保険というのは,火災保険に地震保険が付帯する形に なっておりますけど,もし地震保険だけ単独でつくることができれば,これ は今の自賠責保険方式になるかどうか分かりませんけれども,国を挙げて一 つの制度を共有することができる可能性もあると考えております。
【松尾】小損害については民間のほうで対応できればというお話が今ありま したけれども,自助努力でできる部分というのは,先ほど申し上げましたよ うに,企業分野のマーケットではやっておりますけれども,そうするとアベ イラビリティーというよりはアフォーダビリティーの問題が出てくるかなと いう懸念が一つあるかと思います。
私どもも,仮に小損害の自然災害について民間の責任の範囲内で引き受け るという話になりますと,今の地震保険の恐らく倍以上の保険料という形に ならざるを得ないのではないかと考えております。
なおかつ,ニュージーランドの地震などで,同国では地震保険は民間が運 営していて再保険のほうに流してはおるのですけれども,その再保険料も相 当高騰しておりまして,地震後の保険料が3倍近くになったというような事 例も発生してるやに聞いておりますので,そういったことがないような制度 が果たして民間だけでできるのかというようなことも,十分考慮した上で検 討していかないといけない。
また,民間だけの保険制度であれば,地震が発生した直後は,私どもも発 生保険金の額が分からない中では,新規の引き受けとかも停止せざるを得な いというような事態にもなりかねませんが,そういったところが今の地震保
険では震災直後に加入が増えたとかいうようなこともありますので,どこま でそういう性格,即ち被災者の生活の安定に寄与するというようなところを,
100%民間で賄える部分があるのかどうかという議論は,慎重にすべきと思 っております。
もう一つ,小損害と大損害,こちらのストラクチャーを分けて見たらどう かというご意見がありましたけれども,こちらについても地震ですと1事故 が72時間という短い期間で設定されておりますので,どの事故が3月11日の 事故で,どの事故が例えば4月7日の事故だったかというようなところの区 分けも,実際の査定上非常に困難でした。実際,現場でお客さまとそういう ところでお話し合いが行なわれたというようなケースもあったように聞いて おりますので,ここはあくまで国民の生活に資するということであれば,一 つのストラクチャーの中で議論をしていったほうが,保険金の特にお支払い,
出口のところでの分かりやすさという点では,有効な点はあるのかなとは考 えています。
【司会】ありがとうございます。先ほどの堀田先生に出てきた共済との関連 につきまして,山本先生は連帯という言葉を強調されました。それについて 何かご意見はございますか。
【山本】共済の場合,私の報告は国家,統治団体などが関与してという場合 に,例えば保険料一律でやる場合にはどういう問題があるかという話でした けれども,民間のほうでのルール設定であれば,多分これは福田先生がお聞 きになりたい話とは違っていると思うのですけれども,私のような議論は特 にする必要はないだろうと思います。
【司会】ありがとうございました。それでは,3点目の論点に移りたいと思 います。3点目は,巨大災害・巨大リスクの対応方法と国際的な連帯を含め た将来的な展望についてのコメントないしご意見をお伺いできればと思いま
す。
堀田先生からお願いできましょうか。
【堀田】日本が世界に比して非常に巨大リスクを抱えている国だということ はよく承知しておりまして,その意味で国内だけで消化するのには限りがあ るというふうに思います。その意味で日本に置かれている現状を考えると,
国際的な視野で保険市場のキャパシティを拡大させるための方策を同時に考 えていかなければならないと。具体的にはもっと再保険市場において日本の 保険会社がプレゼンスを高めることも必要です。再保険というのは,国どう しのバーターの関係を持っていると思います。いろいろな形でこちらがリス クを引き受けることによって,世界の再保険会社も日本のリスクを引き受け る。それは,地球規模での巨大リスクへの備えになるのだろうと思います。
さらにもう一つだけ言っておくと,巨大リスクというのは相対的な位置付 けでありまして,例えば発展途上の国々にとっての巨大リスクとは,日本に とってはそれほど大きくないかもしれないけれども,その国の経済レベルか らするとキャット・リスクになるわけです。
ということになると,発展途上の国々においても,やはり保険の手当てと いうのが非常に重要になってくると思います。その意味で,日本がそういう 国々に対して果たすべき役割も今後高まっていくだろう。最近マイクロイン シュアランスなんていう,小さな規模ではありますけれども,これがやがて 大きな成果に発展していくことを私は期待しているところです。そういう意 味で,このキャット・リスクの問題というのは,日本の問題であると同時に やはりグローバルの問題としてとらえるべきだろうと考えております。
【黒木】私は1997年に1年間アメリカのハーバード・ロー・スクールに在外 研究の経験がございまして,そのときはちょうど阪神大震災の後だったので すが,アメリカも1992年にノースリッジ地震を経験していまして,巨大災害 のリスクマネジメントに関して大いに議論されていました。ハーバード・ビ
ジネス・スクールの図書館に行って調べましたら,その中でワーキングペー パーの論文を見つけました。その論文の中ではその先生は フランスがいい,
フランスのものをアメリカは導入できないのか と。フランスの自然災害基 金を称賛しておりました。フランスの場合は洪水なのですけども,そういう ようなことで国際的な議論になっているような部分がありまして,そういう 意味では,その国家ごとにさまざまな工夫や努力やまた悩みを抱えているわ けですが,それを共有して,そのイニシアチブをそれは
OECD
がとるのか,それとも国連が主導するのかいろいろな選択肢があろうかと思いますが,今 後異常気象が多くなってくるような世界を考えた場合には,そのような国際 的な協力あるいは検討というものが必要になってくると私は考えます。
【篠目】個別企業が抱える巨大リスクということであれば,やはりまだキャ ットボンド等による
ART
のところがあまり知られていないというか,浸透 し切っていないかなというところがありますので,そういったところを保険 会社グループのほうでいろいろと挑戦していく必要があるのかなと思ってい ます。あとはやはり海外のリスクを受けてというところは,それぞれやっている のだと思うのですけれども,その辺のリスク評価の技術を特にベンダーモデ ルとかも用いながら高めていくところが重要なのかなと思っています。
【松尾】国際的な連携というのとはちょっと話がそれるかもしれませんけれ ども,私どもは正に国内に限らず,海外でも事業展開をしておりまして,国 内の自然災害に限らず,海外の自然災害も現地の拠点のほうでリスクテイク をしていくということを従来からやっております。その取り組みの一つとし て,2000年に,トウキョウ・ミレニアム・リーという再保険の専門会社をバ ミューダに立ち上げまして,主に自然災害のリスクに特化した引き受けとい うのを,12年前に開始をしております。
日本の損保は歴史的に国内の引き受けが非常に多いので,ピークリスクと
しては国内の風水災,地震というところが出ておりますけれども,今後グロ ーバルな展開をしていく中で,こういったところの地域分散をしていくと,
当然ながら分散効果が計れてきますので,そういったことの取り組みを継続 してやっていきたいと考えております。
【福田】ありがとうございます。
先ほどの地震保険の性格についてはやはり大きな問題があるのかと思いま す。費用保険なのか財物保険なのかということで,先ほどの黒木先生のご報 告では費用保険でスタートしているのは,これも財物保険で見ていいのだと いうことでありますけれども,堀田先生,この辺はいかがですか。
【堀田】財物保険でいいのだというよりも,むしろ財物保険の構造になって いると。しかし,機能が費用保険になっている。この点は,黒木先生と全く 一致していると思います。
ただ,その機能がもし費用保険だというふうに確定するのであれば,実は 保険という仕組みに必ずしもこだわる必要はなくて,いわゆるデリバティブ の方式ですね,一定の災害が起きたら,定額補償を行うという形も成り立つ 話なのだろうと思います。逆に保険というスキームがいいということであれ ば,やはり実損型の保険にできるだけ近づけるべきだと考えます。つまり,
機能としての費用保険であることを強調するのであれば,もう少し柔軟な制 度設計が可能ではないかと思っています。
現在のスキームでは,迅速性,適正性,公平性という3つの基準のうち,
迅速性を最も優先した結果,3段階の簡略した査定になっています。もし本 当に適正にかつ公正にじっくりやるということであれば,これは迅速性をや はり後退させざるを得ないということであります。共済はそういう意味では 適正性であることに主眼が置かれていて,従って実損填補型のスキームを取 られているという理解をしております。
【司会】ありがとうございました。それでは,ただ今からフロアの皆さんと の質疑応答に入りたいと思います。
質問票は配布しませんでしたので,質問に際しましては手短に明確に,ご 意見ではなく,まずご質問いただき,それに対してパネラーからの答えを引 き出すと,そういう形で展開していきたいと思いますので,ご協力のほど,
よろしくお願いいたします。
それでは質問のある方,挙手願います。
【早稲田大学 大谷孝一】大谷でございます。財務省はこの数年の間に, 地 震保険に関する懇談会 , 地震再保険特別会計に関する論点整理に係るワー キンググループ ,そして 地震保険制度に関するプロジェクトチーム の 3つの地震保険に関する委員会を立ち上げましたが,私はこの3つのすべて にかかわっておりましたので,まず黒木先生にお伺いしたいと思います。本 当は意見も幾つか申し上げたかったのですが。
今堀田先生が言われたように,この地震保険の
PT
では今全く何も決まっ てない状態で,それぞれの委員が勝手に意見を述べている。これから数回で まとめていき,来年度の予算,それから再来年度の予算にもかかると思うの ですけども,その中で地震保険の改定をするということなのですね。黒木先生は,総論的課題,強 性,そして商品性の問題について列挙して おられますが,これは財務省のホームページに出ておりますので,むしろこ れからの
PT
に関係して,先生のご意見をお伺いさせていただければ,われ われにとってとても参考になります。そこで強 性については,何とかこのまま行きそうな感じはするのですが,
商品性については,先ほど幾つか先生のコメントをいただいている部分もあ るのですけれども,レジュメ 地震保険の各論的課題 の②(付保割合の設 定の仕方)と⑤(保険料率の改定),ついでに③(損害区分の3区分の合理 性),この3つについてもう少し先生のコメントがいただければ有り難いの ですが。
【黒木】はい。番号としては②と⑤ですね。
【大谷】3番(③)のほうも時間があれば。
【黒木】はい。②の付保割合の設定の仕方でございます。現在の付保制限が 30〜50%という制限を課しているのですが,これを維持すべきかそれとも引 き上げるべきかという問題でございますけれども,これは耐震強度の問題で すが,免震構造とか制震構造を取っているような,住宅性能表示制度がされ ているような最近における建物については,あるいは耐震診断をしたものに ついては,30〜50%ではなく,もう少し幅を持たせてあげて,ご本人の選択,
その当事者の選択によって,100%までできるぐらいのことがあってもいい のではないか。特にマンション関係については,私はそう思います。
仙台において最新の免震装置を備えたマンションが,写真立てさえも落ち なかったという
NHK
のニュースがありましたけれども,震度5強でも全 然びくともしないというような状況になりますと,リスクとしては非常に小 さいわけですので,そのような最新技術を施したようなマンションについて は,100%まで良いのではないかと考えております。⑤についてですが,保険料率の改定については,これも山本先生や堀田先 生も言及されましたけれども,社会連帯ということを考えていきますと,私 は個人的には全国一律でいいのではないかと考えております。
損害保険料算出機構は2区分とか3区分をお考えになっていらっしゃるよ うですが,先般北海道で日本地震学会がございまして,その際に 地震予知 については,国民に対して満足のいく地震予知情報は提供できないのが現状 です という日本地震学会会長の方の発言がニュースになっておりました。
文科省の下部機関,特別な機関としての地震調査研究推進本部の震源モデル は現在70万モデルという非常に多くのモデルがあるわけですが,それに対し て私も含めて一般の方々がどれだけ信頼を置けるかという問題があります。
そこで,現時点では,全国一律料率にすることにも合理性があると考えてお
ります。ただ,全国一律の地震保険料にすることには大変多くの労作業が必 要になります。また,今までの加入者との不公平感が出てきますので,そう いう意味ではこれも非常に微妙な困難な問題です。私は現時点では全国一律 の保険料率に抜本的に変更するという選択肢もありうると考えております。
以上でよろしいでしょうか。
【大谷】私ばかり時間を取ってはいけませんけれど,②の問題は,恐らく保 険法制定以降,新価基準になりましたので,これについては30〜50%で十分 ではないかという意見のほうが多かったように思いますね。
保険料については,等地区分が一つになるということは恐らくないだろう と思うのですが,その場合に等地間の差,他の等地との境目にある県にはか なり問題があると思うのです。例えば今一番問題になっているのは静岡県と 長野県ですけれども,静岡県の長野県側の家と,長野県の静岡県側の家では,
2.47倍の保険料格差があるのですね。危険率からすれば恐らくこの2件の家 はほとんど同じだろうと思われるのですから,この保険料格差は不合理だと 思われるのです。
埼玉県の和光市と東京都の練馬区の成増の間の県境は路地で区切られてい るのです。それでいて,東京都のほうが埼玉県より1.27倍の保険料の差があ る。この両地はほとんど危険率が同じなのに,そういう差別があるわけで,
ですからすべて一律にするというのは一つのお考えだと思いますが,なかな かそこまではいかないだろうと思いますね。
もう一つは,保険者の責任を危険準備金におさえるべきだという意見に対 しては,私も本当はそのほうがいいと思うのですけど,堀田先生はそうでは なくて,それでは保険会社としての役割を果たさないのではないかと言われ るけれど,やはりノーロス・ノープロフィットの原則がありますので,責任 準備金を超える保険責任の部分については,結局保険会社が負担をしなけれ ばいけない。そうなると,地震保険に対する保険者の責任以外の部分につい ても払わなくてはいけないということになるわけで,これは,やはり少し問
題かなというふうに思いますね。
3rdレイヤーについては,堀田先生と同じ意見なのですけど,地震保険 はやはり官民一体の保険であるから,3rdレイヤーについても少しでも民 間の保険会社は責任を負いなさいという考えですけど,これはもうなくても いいのではないかと思います。
【司会】堀田先生,今の大谷先生のご意見についていかがでしょう。
【堀田】準備金に関しては,やはりそれにはもちろん準備金の範囲を超えて リスクを引き受けるということであれば,それに対するリターンも保障する ということを暗に含んでいます。ノーロス・ノープロフィットについても,
それに固執すると積極的な引受インセンティブが引き出せない可能性があり ます。要するに手数料だけを受けるというようなスキームですけど。
私は保険会社がこれまでかなりの程度までリスクの引き受けのスキルを養 ってきているわけですので,小さなものであれば保険会社自身が自らの資本 で十分引き受けられると思います。例えば,自然災害による大規模な損害が 毎年のように起こるわけですけど,これに関しては基本的に民間が独自で引 き受けております。ところが,地震に関しては,非常に警戒をされるわけで すが,中小規模の地震災害に限定して引き受けるならば,民間単独で引き受 けられる領域が存在していると思います。
【司会】松尾さん,どうぞ。大谷先生からのご指名でございますので。
【松尾】今の件に関して申しますと,先ほどの話と重複はするのですけれど も,やはりノーロス・ノープロフィットというものをどう考えるかというこ とはあるかと思います。今の地震保険の体系も,私どもは広く被災者の生活 の安定に寄与するというところに可能な限り貢献をしていくということで,
今堀田先生のほうからも,必ずしもノーロス・ノープロフィットに限らず適
正な利潤をというお話があったのですけれども,先ほど申したように,恐ら くその地域格差が地震のモデル上はお値段としては発生し得ます。
細かく言いますと,例えば今われわれはモデルの中では,50メートルとか 100メートル四方のメッシュという形で土地を区切って,その範囲内でそれ ぞれ被害がどれぐらいかというのも計算したりはするのですけれども,極論 すれば,1つ路地を変えればお値段が変わるということは,地質が違います ので理論上は当然あり得るわけです。
そういったところとかも,どこまで反映させて制度をつくるのかとか,あ るいは今,火災保険,風災なんかを保険会社は,引き受けているではないか ということはあるのですけれども,ここは普通保険約款のほうで基本的に,
火災保険に入れば必ず風災のカバーも提供しますという形でやっていますの で,それなりに保険料自体を頂戴しているということがありますけれども,
地震のほうはまだ逆選択性というのがなかなかぬぐい切れてない部分も正直 あるのかなと思います。都道府県ごとに値段の格差は付けられておりますけ れども,それでもやっぱり地震に関する認識が高い,例えば宮城県などはや っぱり加入率が相当高かった。現時点では地震保険の付帯率でいいますと80
%ぐらいですかね。それぐらいになっているとか,逆選択性の問題もありま すので,そういった点が風災リスクは若干少ないかなというところと,地震 の方がいわゆる大数の法則に乗りにくいという性質のリスクかなと思ってお ります。
風災は,先ほども申しましたように台風は年平均2.5個上陸しており,地 震と比べて毎年のようにお支払いをしているというところがありますので,
われわれとしても大体どれぐらいになるというのは,地震よりは目処がつき やすいというところがあるのですけれども,本当にひとたび南海トラフの巨 大地震が起こったときに,どの程度いくのかというのも,われわれはまだ分 からない部分が正直ございます。そういった中でどこまで引き受けできるの かというところは,今後も慎重に議論をする必要があるかなと考えておりま す。
【司会】大谷先生,議論はこのくらいでよろしゅうございましょうか。それ では次に松島先生,お願いいたします。
【明治学院大学 松島 惠】松島でございます。
最初に山本教授ですが,ご主張のとおりで,仮に社会保障制度に基づいた 地震保険のことを考えますと,現行のこの地震保険制度の官民の役割分担と いう考え方を基本的に覆すのかどうかということでございます。よろしゅう ございますか。
それから,ついでですからもうお一方にご質問いたします。
黒木教授につきまして,この地震保険の加入者の側からの意見として,ア ンケート調査があろうかと思うのですが,私の耳に入ってくるところにより ますと,現行のこの付保割合の30〜50%,仮に全損になった場合に,最高火 災保険金額の50%,それでは役に立たない,だから何とかもう少し割合を,
例えば70%,100%に引き上げられないかという意見がありますが,そうな りますと,仮に巨大地震が起きたときには,この支払額がべらぼうに増える と思います。
それから,二重債務の問題を解決しようとして,そういう方々に地震保険 を強制・義務化させるといった付保義務化の方法については,お考えになら ないのかということです。
さらに,先ほどもご議論の中でありましたけれども,火災保険と地震保険 を区分して,火災保険とセットじゃなくて,地震保険だけに加入するという,
これは家財の場合は考えられますけれども,建物についてもそういうことは 考えられないのかどうか。仮に考えられるとして,関東大震災というような 巨大地震が再来したような場合のその支払額,しかもそれが単独で起きた場 合,本日のご報告もありましたように,比較的短時間に巨大地震が起きた場 合に,現在の支払総額というのは当然不足するだろうと思うのですが,その ような場合のシミュレーションといいましょうか,つまり現行では確かに総 支払限度額で,関東大震災級のものが1回起きた場合には,対応できるだろ
うと思いますが,ところが,もっとその支払額が増えるような場合の70%に なった場合の付保率,100%になったような場合の総支払限度額についてど のように考えなければならないのかといったようなシミュレーションについ てお教えいただきたい。
【山本】どうもありがとうございます。私,ちょっとミスリーディングだと 報告でも申し上げたのですけれども,社会保険という言葉を非常に広い意味 で使っておりますので,私の検討では,特に社会保険というか,社会連帯を 基礎に地震保険を構築するからといって,当然に今の官民の役割分担を替え るとか,そういうことを意図しているわけではありません。先ほど黒木先生 がおっしゃられていましたように,保険料率区分をなくすというような限り でも,社会連帯から考えるということもあり得るように,社会連帯から構築 するとしても,いろいろなレベルがあり得ますので,私としては当然に官民 の役割分担を替えるとか,そこまで想定してお話ししたわけではありません。
【松島】どうもありがとうございました。
【司会】松島先生,今のシミュレーションの問題はどなたへのご質問という ことでしょうか。
【松島】黒木教授にお願いします。
【司会】仮に付保率を上げた場合とか,加入者が増えた場合のシミュレーシ ョンということですね。
【黒木】私はスーパーコンピューター 京 のようなものを自由に駆使でき るのであれば松島先生がおっしゃったような形のものを個人的にもやってみ たいと思います。恐らく損害保険料率算出機構ではそのようなことをシュミ
ュレートはしていると思うのですね。ですから,その辺のことを私も損害保 険算出機構の方にお聞ききしたいと思います。
【堀田】今回の大震災の結果,準備金は全部で1兆2,000億しかもう残ってい ないわけです。ということは,仮にそれだけの大きな災害があれば,今の準 備金で払えない。つまりそれはどういうことになるかというと,政府が借り 入れる形になるしかないのですね。ですから,それからさらに大きくなった らどうしましょうといっても,同じようなことになるのだろうと思います。
私は限度額に関しても,これは無制限にするべきだというふうに言ってい るぐらいでして,6兆2,000億という数字の意味がよく分からないというふ うに指摘してきました。多分答えの一つは,やはり3rdレイヤーのところ にへばりついている1.6%,これがリスク量として民間にかかっているわけ です。もし国が100%責任を負うということであれば,これは国の信用の下 で無制限にしておかないと,地震保険そのものに対する信頼性をむしろ損ね ると思います。シミュレーションについては,仮定の置き方次第で,結果は 大きく異なってしまうことに注意が必要です。
【松島】よろしいですか。そうしますと,例えば現在50%ですが,70%だと か100%とか付保割合が大きくなれば,限度額を設ける意味がなくなるとい うことですか。
【堀田】ケースごとにさまざまな数字が出るのだろうと思います。おっしゃ るように付保率というか限度額を上げれば,当然
PML
は上がるということ で,いろいろなシミュレーションが考えられると思いますけれども,仮にPML
が9兆円になりましたといっても,今の準備金が1兆2,000億しかな い中では,残りの部分は,結局,政府絡みで対応せざるを得ないというのが 現実なのだろうと思います。【松島】当然,政府の関与が必要だと思います。
【堀田】政府というのはそういう意味では今の地震保険のスキームにおいて は再保険会社としての位置付けでありますから,政府が資金をどうやって調 達するかということになります。ただしこの場合に大事なのは,今の仕組み の中では,そのお金は結局保険料から取るということが大原則で,税金が入 ってくることは基本的に認められていない枠組みになっています。恐らく 100年,200年という単位で返すという話になって,これはわれわれが生きて いる時代の話ではなくて,むしろもう3代,4代先のところまでこのスキー ムの中でやっていくということになります。これはもう,民間保険の考えて いる領域をはるかに逸脱した問題だというふうに私は思っております。
【松島】それほど困難であるということですね。はい,分かりました。
【司会】それでは時間もなくなってきましたけれども,もうお一方どなたか いかがですか。
【元 戸大学 刀禰俊雄】私はユーザーの立場からしますと,今の地震保険 は非常に不足すると思うのですね,それは,いったん被災しますと,松島先 生が言われたように,火災保険の50%しか付保できないという規定があるか らだと思うのですね。これを取り払うには,単独で火災保険と切り離して募 集することがなぜできないのだろうかと。実際,東京23区のように密集地帯 では火災保険は付けますけれども,地方に行くとなかなか,自分の家が火の 用心しておけば,少し離れている隣家から火はまさか類焼してこないという ので,火災保険の付保率も低い。当然地震保険もほとんど付いていないとい うことですね。
ところが,長野県であったり,宮城県であったり,地方の方でも結構山あ いで地震が起こっているということを考えますと,やはり地震保険をもっと
増やすためには単独で付保できるということがなぜできないのだろうか,堀 田先生,黒木先生,あるいは損保の松尾さんでも結構ですけれども,一つお 聞きしたいと思います。
もう一つは,山本先生に最後にどうしても聞きたいのですけれども,今日 の山本先生のご報告は,私はレジュメを拝見したりお話を聞いたりして何か 目から鱗が落ちたような,地震保険に対して社会連帯で社会保険化も考えら れるということで,非常に強いインパクトを受けたのですけれども,大谷先 生のご質問やいろいろ伺いますと,だいぶトーンを引っ込められたというこ とで,今日はああいう社会連帯あるいは社会保険化ということを,学会で報 告されたということは,山本先生は個人として本音はやっぱりそういうのが あっていいのではないかと思われていると考えるのですけれどもその点をも う一度確認したいと思います。
【司会】では1点目,地震保険単体だけで引き受けられないのかというのが 刀禰さんのご質問なのですが,これはどなたが答えましょうか。
【刀禰】さっき堀田先生は,それもいいのではないかとおっしゃいましたね。
ですから堀田先生にお願いします。
【堀田】私は,地震保険を単独にする方法もあると思いますし,むしろ地震 リスクを火災保険の中に入れてしまい,主契約の中に入れてしまうという方 法もあります。後者は,ちょうど建更(建物更生共済)と同じですね。選択 肢として,両方考え得るのだと思います。ただ地震保険というのに,積極的 に国が関与するのであれば,やはり火災保険と分離して単独の地震保険のス キームを国民の共有のものにしていくという方向性が,公平な考え方には合 致するのではないかなと思っております。
【司会】2点目は,黒木先生,手短にお願いします。
【黒木】単発,分業するという問題は難しいかなと思うのです。ノーロス・
ノープロフィットが地震保険では原則ですので,なるべく付加保険料も下げ なければならないわけです。火災保険に加入するときの地震加入意思確認欄 という欄を設けることによって,火災保険では地震免責条項があり保険金は もらえませんので地震保険に入りますかという話になり,場合によっては地 震保険の加入が促進されるという場合があります。従ってそれを取っ払いま すと,これは地震保険の付加保険料部分が増えてしまう可能性がある。そう いう点ではやはり私は地震保険を火災保険から分離しないほうがいいのでは ないかというふうに個人的には考えています。
【刀禰】それはそうなのでしょうけども,その説は 角を矯めて牛を殺す という諺に当たると思うのですね。ですから,結局私が申しましたのは,地 震保険料は高いという印象がある。それから一旦被災すると半分しか出ない というマイナスの2つの要素があります。それを改善するためにやっぱり普 及率を上げる。普及率を上げることによって,保険料が安くなる,あるいは 給付が上げられるということになってくる,普及率を上げるためには何をす るかというと,やはり単独で切り離してやっていくほうがベターではないか と思うのですけれども……
【司会】刀禰さん,それはご意見として承っておきます。
【刀禰】ですから業界では難しいのだろうと思いますので,それ以上は申し ませんが。
【司会】山本先生,いかがですか。
【山本】ご期待を裏切って悪いような気がするのですけれども,私がなぜこ ういう報告をしたかといいますと,例えばプロジェクトチームなどでも連帯
という言葉が出てくるのですけれども,仮に連帯で構想するとしたら,多分 いろいろなことを考えなければいけないのだろうなと思いまして,その辺の ことをちょっと明らかにしたいという動機で報告したということです。
【司会】ありがとうございました。時間となりました。
本日のご報告ならびにパネルディスカッションでの議論が,皆様方のご研 究の参考になれば幸いです。今日は,朝から長時間にわたりおつきあいいた だきありがとうございました。