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ドッジボールを教材にした体育授業による投能力および投動作の変化

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Academic year: 2021

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(1)

緒言

女性の投運動のパフォーマンスは、児童から成人 になるまで一貫して男性より低い1)。例えば、19歳 の女性のハンドボール投げの結果は、同年代はおろ か、12歳の男性よりも低い1)。投運動はスポーツの 基礎的な動きの一つであり、女性にみられる投能力 の低さは生涯スポーツの実践の障壁となり得るとい う指摘2)もある。

投能力および投動作は、幼児期から児童期にかけ て著しく発達する3、4)。加えて、投能力・投動作の 発達は、発育に伴う変化よりも、練習の効果が大き いことが報告されている4)。その報告4)によると、

練習の効果は、男性において7~8歳で、女性にお いて8~10歳で顕著であるという。また、女性が 投運動を経験する機会がなく、顕著に発達する時期 が出現しないまま成人を迎えている可能性があると いう指摘もある2)。すなわち、女性の場合、幼少期 において投運動の経験の少なさや投運動の未習熟 が、投能力・投動作の発達に影響を及ぼし、それが

成人まで継続すると推察される。一方で、成人女性 であっても、投運動を系統立てて指導することで、

投能力に改善がみられることが報告されている2、5)。 また、成人女性の投能力の改善には、筋力等の体力 要素よりも、投動作(技術的要素)の改善が大きく 貢献することが示されている2)

投運動を多用するスポーツには、野球、ソフト ボール、ハンドボール、水球、ドッジボール等があ る。特にドッジボールは、幼児に人気のボール遊び の一つである6)。さらに、ドッジボールは、成人も 楽しめるスポーツである7、8)。実際、フレッシュマ ンキャンプやレクリエーション等の課外活動におい て、学生間の交流を深めるためにドッジボールが用 いられている9、10)。また、ドッジボールはボールさ えあれば気軽に始められるスポーツである。すなわ ち、ドッジボールは、気軽にかつ楽しみながら投運 動を遂行できるスポーツである。

成人女性や女子学生を対象に、投能力・投動作の 改善について取り組んだ先行研究は極めて少ない2、5)

ドッジボールを教材にした体育授業による投能力および投動作の変化

-女子学生を対象にして-

1

岩沼聡一朗 

2

小林亮太 

1

大橋信行 

1

橋口剛夫

1帝京科学大学教育人間科学部学校教育学科

2帝京科学大学総合教育センター

Effect of physical education class with Dodgeball on ball throwing performance and throwing motion in female university students

1

Soichiro IWANUMA 

2

Ryota KOBAYASHI 

1

Nobuyuki OHASHI 

1

Takeo HASHIGUCHI

1Faculty of Education & Human Sciences, Department of School Education, Teikyo University of Science

2Center for Fundamental Education, Teikyo University of Science

Abstract

The purpose of the present study was to examine whether female students were able to improve ball throwing performance and throwing motion by taking physical education classes with Dodgeball. Twenty-six female university students (18.1±0.3 years old) were voluntarily participated in this study. Physical education class was carried out one day per week for two weeks. Measuring Handball throwing performance and analyzing throwing motions were performed before and after the physical education class period. Kinematic analysis of the throwing motion was performed by video taken from a side view.

Also, the throwing motion was evaluated from immature pattern (score 1) to mature pattern (score 5) on seven viewpoints.

After the physical education class period, ball throwing motions, including step length, rotation of the trunk, the horizontal displacement of center of gravity and whip-like motion were significantly improved. The arm of the non-throwing side became to be drawn quickly to their trunk during phase from taking-back to ball release. The change in ball throwing performance was related to the changes in throwing motion. These results suggested that physical education class with Dodgeball could positively affect to improve their ball throwing motion.

キーワード:運動能力、動作分析、kinematics、観察評価、大学体育

(2)

122

その上、それらの研究はソフトボールなどの小さな ボールを用いて技術練習をしたものである。投運動が 生涯スポーツの実践の障壁となっているならば、様々 なスポーツへの応用を念頭に置き、投運動の改善につ いて検討すべきである。つまり、小さなボールだけで なく、大きなボールを用いた投能力・投動作の改善に ついても検討する必要がある。また、成人女性や女子 学生を対象に、特定のスポーツを介入課題に用いて投 能力・投動作の改善に取り組んだ研究は皆無である。

そこで本研究では、女子学生を対象に、ドッジボール を教材にした体育授業を受講することで投能力および 投動作が改善されるかについて検証することを目的と した。

方法 対象者

一般体育授業を受講する女子学生26名(1年生:

18.1±0.3歳、平均±標準偏差)を対象にした。身 長、体重は1.58±0.07m、51.7±7.2kgであった。い ずれの対象者も、投運動を多用するスポーツ(野 球、ソフトボール、ハンドボール、水球、ドッジ ボール等)の競技経験はなかった。測定に先立ち、

対象者に本研究に関する説明をし、同意を得た。本 研究は帝京科学大学人を対象とする研究に関する倫 理審査委員会の承認を得た上で実施した。

研究デザイン

事前測定(介入前)を実施し、1コマ(90分間)

×2週の体育授業(介入)を行い、事後測定(介入 後)を実施した。事前測定、事後測定は、介入日と は別の日に実施した。事前測定と事後測定では、投 能力および投動作の測定を同様に実施した。測定の 方法、内容等、および体育授業の詳細は、以下のと おりであった。

投能力の評価

人工芝のグラウンド上でハンドボール投げを実施 した。新体力テスト11)の方法にならい、間に2分 以上の休憩をはさみ計2回投球させた。投球時およ び投球直後に半径1mの円(投球位置)から出た場 合には無効とし再び測定した。ボールは、屋外グラ ウンド用ハンドボール2号球(ヌエバX3600、モル テン)を用いた。投球時には、オーバーハンドで投 球するように指示した。測定前には、ウォーミング アップとして準備体操、キャッチボールを実施し た。測定されたボールの投距離はm(メートル)単

位とし、1m未満を切り捨てた。2回のハンドボー ル投げ測定の内、投距離が大きかったほうの記録を 各対象者の代表値とした。

投動作の評価

上記のハンドボール投げ測定と同時に、投球位置 の右側方(投球方向に対する右側方)7mから投球 動作を撮影した(撮影速度:60fps)。ビデオカメラ

(GZ-RX600、JVC)は、グラウンド地面から1.0m の高さに三脚で固定した。

得られた映像を基に、映像分析ソフトウェア

(Kinovea)を用いて投動作を分析した。成人女性 を対象にした投動作の研究12)によると、1)投球動 作開始から主動作開始前まで[動き出しから非投球 側の足の踏み出し(接地)まで]における非投球側 上腕角度、2)肘関節が耳珠点を通過する際の投球 側前腕角度、3)前方へ踏み出した際のステップ長 が、投能力と関係する動作因子であると報告されて いる。そこで本研究も上記3点の動作分析(量的分 析)を行った。非投球側上腕角度は、体幹部(胸骨 上縁と両大転子の中点を結んだ線分)と非投球側上 腕部(肩峰と肘関節を結んだ線分)のなす角とし た。投球側前腕角度は、前腕部(肘関節と手関節を 結んだ線分)と水平面のなす角とした。ステップ長 は、軸足(後側)のつま先から踏み出した足(前 側)のつま先までの長さと定義した。分析には、2 回のハンドボール投げ測定の内、投距離が大きかっ たほうの映像を採用した。

また、各対象者の投運動の映像から、高本ら13)

の観察評価基準(付録1)を用いて、投動作を観点 別に質的評価した。7つの評価観点(「投げ手腕」、

「体幹後傾」、「フォロースルー」、「体重移動」、「足 の踏み出し」、「体幹回転」、「投げ手反対腕」)にて それぞれ1~5点で評価した。評価する際には、通 常再生、スロー再生、コマ送り、一時停止の機能を 使用しながら映像を観察した。評価については、上 記の観察評価法の熟練者1名(バイオメカニクスの 専門家)がそれぞれ1回行った。本評価に先立ち、

評価の信頼性を確認するため、20名分の映像を基 に、同一評価者が同一映像をそれぞれ2回評価し た。 そ の 際 の 級 内 相 関 係 数[ICC(1、1)] は、

0.78-1.00(全ての評価観点

p

<0.01)であった。投動 作の観察評価も上記の量的分析と同様に、2回のハ ンドボール投げ測定の内、投距離が大きかったほう の投動作を評価した。

(3)

体育授業

ドッジボールを教材にした授業を1コマ(90分 間)×2回(週1回)実施した。授業の主な構成は、

準備体操、キャッチボール、ドッジボールの試合で あった。詳細は表1にまとめた。ドッジボールの試

合では、公式ルールを採用せず、受講者や授業環境 に応じてルールをいくつか変更した。ボールはバ レーボール4号球(ソフトタッチ、モルテン)を用 い、コートもバレーボールコート(9×18m)を使 用した。授業では一貫して「引いて、投げる」を合 表1 体育授業の構成

(4)

124

言葉に進行した。この合言葉は、投運動の経験の少 ない女性への指導では、動作速度が比較的低い準備 動作局面から指導することが効果的である、という 知見14)を基に、著者らが考案したものである。ま た、授業中、運動課題の説明をするのみにとどめ、

具体的な技術指導や個別指導を行わなかった。

統計処理

全てのデータは平均値±標準偏差で示した。投能 力(投距離)および投動作(非投球側上腕角度、投 球側前腕角度、ステップ長)について介入前・後で の比較には、対応のある

t

検定を用いた。介入前・

後での投動作(観察評価)の比較には、二元配置分 散分析を用いた。ここで有意差が認められた場合に は、事後検定として多重比較検定(Tukey’s HSD 法)を行った。介入前・後の投能力の変化と投動作 の変化の関係については、ピアソンの積率相関係数 を算出し検定した。一連の統計処理には、統計解析 ソフトウエア[R(ver.2.8.1)、CRAN]を用いた。

有意水準は、

p

<0.05とした。

結果

介入前・後の投能力および投動作の結果は、表2 に示した。介入前・後の投能力および投動作の平均 値を対応のある

t

検定にて行ったところ、投能力

(投距離)において有意差は見られなかった。投球 主動作前の最大非投球側上腕角度は、介入前・後に 有意な変化がなかった。投球側の肘関節が耳珠を通 過した際の投球側前腕角度は介入後に有意な変化が 見られなかった。非投球側足部の投球方向へ踏み出 した際のステップ長は介入後に有意な増加が認めら れた[

t

(25)=4.55、

p

=0.00]。

介入前・後での投動作の観察評価による評価点の 変化について二元配置分散分析を用いて検証したと ころ、介入前・後[F(1)=52.40、

p

=0.00]およ び評価観点[F(7)=11.75、

p

=0.00]でそれぞれ

主効果が認められ、それらの交互作用は認められな かった(表3)。各評価観点において介入前・後を 比較したところ、「投げ手腕」には変化がみられな かったが、それ以外の6つの評価観点および評価点 の平均において有意差が認められた(図1)。

介入前・後の投能力の変化と投動作(非投球側上 腕角度、投球側前腕角度、ステップ長、観察評価点 の平均)の変化との関係は、非投球側上腕角度を除 表2 介入前・後の投能力、投動作

表3 介入前・後の投動作の観察評価

図1 介入前・後での投動作の観察評価点(評価観点別)

(5)

いた全てで有意な正の相関関係が認められた(表 4)。

考察

本研究では、ドッジボールを教材にした体育授業

(介入)が女子学生の投能力・投動作を改善し得る かについて検証を行った。その結果、投動作は介入 後に有意な改善が認められた(表2、表3、図1)。

投能力は介入後に有意な改善が認められなかったが

(表2)、その変化に個人差があることが伺えた。介 入前・後での投能力の変化は、非投球側の足の踏み 出し(ステップ長)の変化、投球側の前腕角度(傾 き)の変化と関連していることが示された(表4)。

投動作は量的分析と質的評価の視点から検討し た。いずれの視点からも、非投球側の足の踏み出し

(ステップ長)に顕著な増加が示された(表2、図 1)。ソフトボールやテニスボールといった小さい ボールを用いて介入や練習の効果を検証した先行研 究2、5)でも同様の結果が報告されている。授業内で は、体幹の回転と連動させて非投球側の足の引き上 げと踏み出しをするように指示したが、足のステッ プ長の増大に関する直接的な教示をしなかった。

ドッジボールの試合では、敵陣の選手に捕られない ように、できる限り速いボールを投げる必要があ る。野球選手を対象にした研究15)や投動作発達初 期の幼児を対象にした研究16)では、ステップ長の 大きさと投球速度の高さとの関連性が示されてい る。本研究で示されたステップ長の顕著な増加は、

教示による効果というよりも、ドッジボールの試合 という課題を遂行する中でもたらされた効果と考え られる。

投球側の前腕角度(傾き)は介入後に有意な改善 が認められなかったが(表2)、投球側の前腕角度 における介入前・後の変化が投能力の変化と有意な 正の相関関係にあることが認められた(表4)。こ の角度は上肢がムチのように振る舞う指標として用 いられている12)。投運動では腰部、肩関節、肘関

節、手関節、ボールの順に最高速度を迎えること で、上肢はムチのように振る舞い、ボールへ効果的 に力学的エネルギーを与えることができる19)。すな わち、上肢がムチのように振る舞えるようになるか 否かは、投能力の改善を考える上でのポイントとな り得ることを示唆している。

「体幹回転」、「体重移動」の評価観点に関して、

介入後に有意な改善が認められた(図1)。過去の 投運動に関する介入研究2、5、18)では体幹の回転や 腰部の移動速度(前後方向)の改善が報告されてお り、本研究はそれらの先行研究を支持した。投運動 において必要な投動作を力学的な観点からまとめる と、①身体全体を使って大きなエネルギーを発揮す ること、②それを効率よくボールに伝えること、と なる17)。本研究で示された「体幹回転」、「体重移 動」における有意な改善は、体幹におけるより大き な変位や回転を意味し、それは体幹がボールになす 仕事を大きくし、より大きな運動エネルギーを与え ることを示している。一方で、投運動における運動 エネルギーの効率的な伝達とは、基幹部から末端部

(体幹→肩→肘→手)に順次伝達されることを指す20)。 本研究では体幹から投球側の上肢への協調的な連動 については検討しておらず、今後さらなる検討が必 要である。

介入前・後で非投球側の上腕角度に変化がみられ なかった(表2)が、「投げ手反対腕」の評価点が 有意に向上した(図1)。介入前の「投げ手反対腕」

の評価点は3.0±0.8点であり、非投球側上肢の前方

(投球方向)への振り出しが見られた。この評価観 点における4点以上は、体幹方向への引き戻しが評 価基準に加えられる。したがって、本研究では、介 入により非投球側上肢の前方への振り出しの大きさ に著しい変化が現れなかったものの、テークバック からリリースにかけて非投球側上肢を体幹方向へ引 き戻す動作が見られるようになったことを示してい る。非投球側上肢を体幹方向へ引き戻すことで、体 幹の回転において慣性モーメントをより小さくする ことができ、角速度(回転の速度)を上げることが できる。ドッジボールの試合で、より速いボールを 投げようとする中で、より効率的な動作(すなわ ち、非投球側上肢の引き戻しによる体幹の角速度の 向上)が現れるようになったと考えられる。

介入前・後の投能力の変化と投動作の変化との間 に有意な正の相関関係が認められた(表4)。女性 の投能力が男性より低い1)理由として、投運動の経 験の少なさによる投動作の未発達4)が指摘されてい 表4 介入前・後の投能力の変化と投動作の変化の関係

(6)

126

る。一方、成人女性の投能力の向上には、主として 投動作の改善が貢献する5)ことが報告されている。

これらのことより、女性では、ボールの大きさに依 存せず、投動作の改善が投能力の向上に寄与するこ とが示唆された。

キャッチボールをする際には、「引いて、投げる」

を合言葉にした。投運動の経験が少ない女性への指 導の場合、動作速度が比較的低いテークバック時に は動作を意識しやすいため、指導は準備動作局面か ら始めるよう提唱されている14)。授業内のキャッチ ボールでは、上記の合言葉と、運動課題を段階的に 与えることを中心にした。また、ドッジボールの試 合が授業の半分を占める構成とした(表1)。投動 作の改善が示されたことは、ドッジボールが投動作 を改善し得る教材であったことを示している。加え て、個別の技術指導や運動課題以外の補足の教示を 行わなかったが、運動課題で課された動作や合言葉 で示された動作以外でも改善が認められた(例:

フォロースルー、投げ手反対腕、図1)。このこと から、受講学生が授業内での運動経験の中で自ら感 じ、考え、投動作を改善させたことを示唆する。女 性の場合、投能力の低さが投運動を含むスポーツの 制限因子となり、ひいては生涯スポーツの実践の障 壁となり得る2)と言われている。授業を通じて投能 力・投動作の改善に向けて取り組んだことが、学生 のこれからの生涯スポーツの実践にどのような影響 を与えるかについては、今後の検討が必要である。

本研究において、2回の体育授業は、投能力を改 善するほどの影響度として認められないが、投動作 を改善することが示された(表2、表3、図1)。

先行研究2)によると、成人女性の投能力の改善に は、筋力等の体力要素よりも、投動作(技術的要 素)の改善が大きく貢献する。ドッジボールを教材 とした授業によって投動作が有意に改善されたこと は、投能力の改善に向けた試みとして好ましい傾向 であると推察される。実際、介入前・後における投 動作の変化が、投能力の変化との間に有意な相関関 係が認められた(表4)。同様の授業の回数をどれ ほど増やすことが、投能力を顕著に改善し得るかに ついては、今後の検討課題である。

まとめ

女子学生を対象とし、ドッジボールを教材に体育 授業を実施したところ、投動作の改善が示された。

また、介入前・後での投能力の変化は個人差があ り、投動作の変化と関連することが明らかとなっ

た。ドッジボールは、ソフトボール等の小さなボー ルを用いて練習・指導をした先行研究2、5)と同様に、

投動作の改善に効果が期待できることが示された。

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付録1 投動作の観察評価基準(高本ら、2003)

参照

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