解析
I
・講義ノート
第5回
(2020
年6
月16
日(
火)
配信分)
第5回本題
教科書
§ 5
を一通り読んだ皆さんの中には、§ 3
の中間値の定理、ワイエルシュトラスの定理に続き、ここでも、ロルの定理、平均 値の定理と
(
その前後も含めて)
やや抽象的な記述が続いているの に戸惑っている人もいるのではないでしょうか?結論だけ見ると当たり前に見えるこれらの定理たちが、なぜわ ざわざ取り上げるに足る定理なのかと言うと、皆さんもよく知っ ている初等関数のような、実はかなりよい条件をたくさん満たし ている関数とは違って、
§ 3
では「閉区間[a, b]
で連続」、ここでは「閉区間
[a, b]
で連続かつ開区間(a, b)
で微分可能」と言う、たったこれだけの条件しか満たさない
(
或いは実はもっといろいろよ い条件を満たしているのかもしれないけれども、少なくとも現段 階ではそう言う情報は無い)
関数についても、同じ結論が得られ るからです。一般に、数学における定理や公式には、仮定もしくは条件がつ いていて、それを満たさないものについては、結論が成り立つか どうかは保証されません。つまり、この仮定もしくは条件は取扱 説明書であって、使用にあたっては、これを熟読し、使用してよ いのかどうか確かめてから使わないと、大事故を引き起こす危険 性があるわけです。
これが数十頁にもなると、とても読む気がしなくなりますが、
だからこそ、専門性の高い特別な事例につき、強い力を発揮する こともあるわけで、それは一概に悪いことではもちろんありま せん。
ですが、たった一行の説明書なら、確認作業もすぐ終了し、い つでも
(
と言うのは言葉の綾ですが)
使えると言う利便性がありま すし、他と組み合わせて使える応用範囲も広いわけです。これら四つの定理の主張を、改めてまとめて書いてみると…
関数
f (x)
は閉区間[a, b]
で連続で、f (a) = α, f (b) = β
とする。中間値の定理
α < β (β < α)
のとき、任意のγ ∈ (α, β )((β, α)) (
中間値)
に対し、f (c) = γ
をみたすc ∈ (a, b)
が、少なくとも一つ存在する。ワイエルシュトラスの
(
最大値最小値の)
定理
f (c
+) = max
x∈[a,b]f (x) (
最大値)
、f (c
−) = min
x∈[a,b]f (x) (
最小値)
をみた すc
+, c
−∈ [a, b]
が、少なくとも一つずつ存在する。さらに
f (x)
は開区間(a, b)
で微分可能とする。ロルの定理
α = β
のとき、f
′(c) = 0
をみたすc ∈ (a, b)
が、少なくとも一つ存在する。平均値の定理
f
′(c) = β − α
b − a (
平均値(
変化率))
をみたすc ∈ (a, b)
が、少なくとも一つ存 在する。ロルの定理は平均値の定理の特別な場合ですが、平均値の定理の証明にはロ ルの定理が必要でした。
たとえば、関数
f (x) = − x 2 + 1
を閉区間[ − 2, 2]
で考えると、もちろん連続です。
x 2 ≥ 0
よりf (x) ≤ 1
なので、x = 0 ∈ [ − 2, 2]
のとき等号成立で最大値
f (0) = 1
をとります。一方
x 2 ≤ 4 (x ∈ [ − 2, 2])
よりf (x) ≥ − 3
なので、x = ± 2 ∈ [ − 2, 2]
のとき等号成立で最小値f ( ± 2) = − 3
をとります。
これらの事実の内、最大値並びに最小値の存在だけなら、具体 的に計算しなくてもわかると言うのが、ワイエルシュトラスの定 理が主張していることです。
さらに、この
f (x)
は開区間( − 2, 2)
で微分可能で、導関数はf ′ (x) = − 2x
です。
f (x)
が最大値をとるx = 0 ∈ ( − 2, 2)
では、f ′ (0)= 0
です。これがロルの定理が主張していることです。
一方
f (x)
が最小値をとるx = ± 2 ̸∈ ( − 2, 2)
では、f ′ ( ± 2) = ∓ 4 ̸ = 0(
複号同順)
です。端点はロルの定理の守備範囲 外です。0
x- 6
y
y = −x2+ 1
−2 2
−3 1
今、
f (x)
を考える範囲を閉区間[ − 2, 0]
に狭めても、f (x)
はもちろん連続で、開区間
( − 2, 0)
で微分可能です。
x = − 2
からx = 0
までの平均変化率はf (0) − f ( − 2)
0 − ( − 2) = 1 − ( − 3)
0 − ( − 2) = 2
ですが、
x = − 1 ∈ ( − 2, 0)
でちょうどf ′ ( − 1) = 2
になります。これが平均値の定理の主張していることです。
0 -
x 6
y
y = −x2+ 1
−2
−3
1
代わりに、関数
g (x) = − 2 | x | + 1
を閉区間[ − 2, 2]
で考えても、もちろん連続です。
2 | x | ≥ 0
よりg (x) ≤ 1
なので、x = 0 ∈ [ − 2, 2]
のとき等号成立で最大値
g (0) = 1
をとります。一方
2 | x | ≤ 4 (x ∈ [ − 2, 2])
よりg (x) ≥ − 3
なので、x = ± 2 ∈ [ − 2, 2]
のとき等号成立で最小値g ( ± 2) = − 3
をとります。
ここでもやはり、最大値並びに最小値の存在だけなら、具体的 に計算しなくても、ワイエルシュトラスの定理が保証してくれ ます。
さらに、この
g (x)
は開区間( − 2, 2)
上x = 0
以外では微分可能で、導関数は
f ′ (x) = 2 (x ∈ ( − 2, 0)), − 2 (x ∈ (0, 2))
です。しかし、
f (x)
が最大値をとるx = 0 ∈ ( − 2, 2)
では、残念ながら微分不可能で、
f ′ (0)
は存在しません。微分不可能な点はロルの 定理の守備範囲外です。0
x- 6
y
y =−2|x|+ 1
−2 2
A AA
AA
−3 A
1 接線ではない!
たとえば、地表すれすれからボールを真上に投げ上げたとき、
途中から重力に負けて落ちて来ますが、このときの高さ
y
を時刻x
に関する関数と考えると、(
高校の物理でも学んだように)
2次関数
y = − a(x − b) 2 + c
になります。微分可能で、最初と最後が 同じ高さなので、途中で一瞬だけ動きが止まりますが、それは一 番高いところにいる瞬間です(
ロルの定理)
。地表 -
時刻 空 6
最高点
!
東京大阪間
(
およそですが)500km
を2.5
時間で走る新幹線は、平均時速
200km
ですが、発車直後や停車直前は当然ゆっくり走るので、逆に時速
200km
より速く走っている時間帯も当然あるわけ です。従って、加速または減速する途中で、ちょうど時速
200km
の瞬間が、この場合
(
仮に途中駅で一切停車しなかったとしても)
少なくとも2回はあることが、
f (x) (
位置情報)
についての平均値の定理を用いなくても、
f ′ (x) (
速度)
についての中間値の定理から導か れそうに思えますが、そのためにはf ′ (x)
が連続(
運転がそこそこ滑らか
)
であることが前提として必要です。この前提が満たされなくても、
f ′ (x)
が存在しさえすれば(
速度が計れさえすれば
)
ちょうど時速200km
の瞬間があることを保障 するのが、平均値の定理と言うわけです。2回あることを示すには、時速
200km
を超えている時間帯で、時間を区切って適用すれば大丈夫です。
東京 -
時刻 新大阪 6
! !
微分可能だが導関数は連続でないような関数については、次回 お話します。
次に、続いて教科書
§ 5
で扱われている逆関数について、教科 書と被る部分も多いのですが、後の利用に備えて、少し整理して おきましょう。合成関数の微分の公式
(f ◦ g ) ′ (x) = f (g(x)) ′ = f ′ (g(x))g ′ (x)
に、あらかじめ
x
とy
を入れ替えたx = f (y )
の逆関数y = f − 1 (x)
を、g(x) = f − 1 (x)
として代入すると、1 = (x) ′ = (f ◦ f − 1 ) ′ (x) = f (f − 1 (x)) ′ = f ′ (f − 1 (x))(f − 1 ) ′ (x)
より、逆関数の微分の公式
(f − 1 ) ′ (x) = 1
f ′ (f − 1 (x))
が得られました。
さて、三角関数は一般に一対一ではないので、一対一になるよ うに定義域を
x =
sin y (y ∈ [ − π 2 , π 2 ]) cos y (y ∈ [0, π]) tan y (y ∈ ( − π 2 , π 2 )) cot y(:= tan 1 y ) (y ∈ (0, π))
のように制限して、
y =
Sin − 1 x (x ∈ [ − 1, 1]) Cos − 1 x (x ∈ [ − 1, 1]) Tan − 1 x (x ∈ R)
Cot − 1 x (x ∈ R)
により逆三角関数を定義しました
(
教科書53
〜55
頁参照)
。0
x- 6
y
y = Sin−1x
−1 1
−π2
π 2
y = Cos−1x π
0
x- 6
y
y = Tan−1x
−π2
π 2
π y = Cot−1x
一方、それぞれの定義域の範囲では、
(sin y) ′ = cos y =
√
1 − sin 2 y (cos y) ′ = − sin y = − √
1 − cos 2 y (tan y) ′ = cos 1
2y = 1 + tan 2 y
(cot y) ′ = − sin 1
2y = − 1 − cot 2 y
なので、逆関数の微分の公式から、
(Sin − 1 x) ′ = √ 1
1 − sin
2(Sin
−1x) = √ 1
1 − x
2(x ∈ ( − 1, 1)) (Cos − 1 x) ′ = 1
− √
1 − cos
2(Cos
−1x) = − √ 1 1 − x
2(x ∈ ( − 1, 1)) (Tan − 1 x) ′ = 1
1+tan
2(Tan
−1x) = 1+x 1
2(Cot − 1 x) ′ = 1
− 1 − cot
2(Cot
−1x) = − 1+x 1
2が得られます
(
教科書57
頁の問)
。一方、双曲線関数
(
教科書41,45
頁参照)
もx = cosh y
は一対一ではないので、一対一になるように定義域を
x =
sinh y(:= e
y− 2 e
−y) (y ∈ R)
cosh y(:= e
y+e 2
−y) (y ∈ [0, + ∞ )) tanh y(:= e e
yy− +e e
−−yy) (y ∈ R)
coth y(:= e e
yy+e − e
−−yy) (y ∈ ( −∞ , 0) ∪ (0, + ∞ ))
のように制限して、
y =
sinh − 1 x (x ∈ R)
Cosh − 1 x (x ∈ [1, + ∞ )) tanh − 1 x (x ∈ ( − 1, 1))
coth − 1 x (x ∈ ( −∞ , − 1) ∪ (1, + ∞ ))
により逆双曲線関数を定義します。
0 - x 6
y
y = sinh−1x
1
y = Cosh−1x
0
x- 6
y
y = tanh−1x
−1 1
y = coth−1x
一方
cosh 2 y − sinh 2 y = 1
より、それぞれの定義域の範囲では、(sinh y) ′ = cosh y =
√
sinh 2 y + 1 (cosh y) ′ = sinh y =
√
cosh 2 y − 1 (tanh y) ′ = 1
cosh
2y = 1 − tanh 2 y (coth y) ′ = − sinh 1
2y = 1 − coth 2 y
なので、逆関数の微分の公式から、
(sinh − 1 x) ′ = √ 1
sinh
2(sinh
−1x)+1 = √ 1
x
2+1
(Cosh − 1 x) ′ = √ 1
cosh
2(Cosh
−1x) − 1 = √ 1
x
2− 1 (x ∈ (1, + ∞ )) (tanh − 1 x) ′ = 1
1 − tanh
2(tanh
−1x) = 1 − 1 x
2(coth − 1 x) ′ = 1
1 − coth
2(coth
−1x) = 1 − 1 x
2が得られます。
以上で得られた導関数を列挙すると、
√ 1
1 − x
2(x ∈ ( − 1, 1)) − √ 1 1 − x
2(x ∈ ( − 1, 1))
1
1+x
2(x ∈ R) − 1+x 1
2(x ∈ R)
√ 1
x
2+1 (x ∈ R) √ 1
x
2− 1 (x ∈ (1, + ∞ ))
1
1 − x
2(x ∈ ( − 1, 1)) 1 − 1 x
2(x ∈ ( −∞ , − 1) ∪ (1, + ∞ ))
となり、基本的な有理関数、無理関数が並びます。
これらは、この講義でも後で扱う積分の内、特に置換積分にお いて、大変重要な役割を果たします。
逆双曲線関数
sinh − 1 x, Cosh − 1 x, tanh − 1 x, coth − 1 x
を具体的に求め
( log
を用いて表し)
、それらを微分することで、今回求め た微分の公式を、確かめてみましょう。第4回練習課題の解答
x ̸ = 0
のとき、g ′ (x) = (x 2 ) ′ sin 1
x + x 2
sin 1 x
′
= 2x sin 1
x + x 2
− 1
x 2 cos 1 x