ベクトルと行列 参考資料 1 2020年度第
2ターム
学芸学部数学科
1年 担当
:原 隆
(学芸学部数学科・准教授
)※ ご参考までに、以下の文献の該当箇所を載せておきます
(必ずしも購入する必要はありません
)。
[新井他
]新井啓介,池田京司,出耒光夫,國分雅敏,藤澤太郎,三鍋聡司,宮崎桂,山本現
『ベクトルと行列
[基礎からはじめる線形代数
]』培風館
[
梶原
]梶原健『行列のヒミツがわかる
!使える
!線形代数講義』日本評論社
[齋藤
]齋藤正彦『線型代数入門』東京大学出版会
■ベクトルの内積
O a b θ
定義
(ベクトルの内積
; [新井他
]定義
1.31, [梶原
] 2.4節冒頭
, [齋藤
] p. 6)0
でないベクトル
*1aと
bのなす角
θを
0≤θ≤πを満たすようにとると き、ベクトル
aと
bの 内積
inner product (または スカラー積
scalar product) a·bを
a·b=|a| |b|cosθと定める
*2。
※ 内積の基本的な性質
([新井他
]定義
1.31,命題
1.31, [梶原
] 2c (4) – (5), [齋藤
] p.6など
)⋆
内積
a·bは スカラー量
⋆ a·a=|a|2, a·b= 0 ⇔ a
と
bは 直交
⋆ a·b= 1
2(|a|2+|b|2− |b−a|2) (“
余弦定理
”)命題
1.1 ([新井他
]命題
1.37の一部
, [梶原
] 2c (1) – (3), [齋藤
] p. 6 [1.3] (7) – (9))ベクトルの内積について以下が成立する
(但し
kは実数
)。
(1) (
交換法則
) a·b=b·a (2) (そう
双線形性
) a·(b+c) =a·b+a·c, (a+b)·c=a·c+b·c “和の内積は内積の和
” (ka)·b=a·(kb) =k(a·b) “スカラー倍の内積は内積のスカラー倍
”※ 交換法則と
(2)の第
2式
(ka)·b=a·(kb) =k(a·b)は定義からほぼ明らか
(図形的な意味も 理解しておこう
!)。問題は
(2)の第
1式
[いわゆる
所謂
“分配法則
”]で、上記の
(高校で学んだ
)内積の 定義だけを用いて図形的に証明しようとすると結構大変
(証明はこの資料の最後を参照
)。
■ベクトルの成分表示と内積
x
y z
O ex ey
ez
1 1
1
平面ベクトルの成分表示
*3x y
,
空間ベクトルの成分表示
*3"x y z
#
は
それぞれ
其々
xy
=xex+yey,
x y z
=xex+yey+zez
という意味
(ex,ey,ezは 基本ベクトル
;右図参照
)。
*1
以下、単に「ベクトル」と表記したときは、特に断らない限り
平面ベクトルでも空間ベクトルでも構わない。*2
ベクトルの内積を表す記号として
(a,b),⟨a,b⟩なども良く用いられる。特に『線形代数学Ⅰ
,Ⅱ』の講義の教科書
(三 宅敏恒『線形代数学
—初歩からジョルダン標準形へ』培風館
)では記号
(a,b)が用いられているが、記号への親しみや すさを重視して、この講義では高校の頃に慣れ親しんだであろう記号
a·bを用いることにした。
*3
高校では
それぞれ
其々
(x, y), (x, y, z)と表していたもの。
このことと 内積の双線形性
(命題
1.1 (2))を用いると
x y z
·
x′ y′ z′
= (xex+yey+zez)·(x′ex+y′ey+z′ez)
=xx′e| {z }x·ex
=1
+XXXXXxy′ex·ey+XXXXXxz′ex·ez+XXXXXyx′ey·ex+yy′ey·ey
| {z }
=1
+XXXXXyz′ey·ez
+XXXXXzx′ez ·ex+XXXXXzy′ez·ey+zz′e| {z }z·ez
=1
=xx′+yy′+zz′
と計算出来る。
命題
1.2 (成分表示されたベクトルの内積
; [新井他
]命題
1.33, [梶原
] 2C, [齋藤
] p. 6 (1) – (2))
x y z
·
x′ y′ z′
=xx′+yy′+zz′
babababababababababababababababababab
ポイント
内積の 双線形性 によって 内積の計算を 文字式のように
“展開
”して計算出来る
!!⇝
基本ベクトル
ex,ey,ezの内積だけ を真面目に計算すれば良い
(めちゃくちゃ
滅茶苦茶簡単
!!)“
線形性
”という便利な性質を用いてベクトルや図形を調べる理論が
“線形代数
”■平行四辺形の面積と
2次行列式
a b
命題
1.3 (平行四辺形の面積公式
; [新井他
]命題
1.43, [齋藤
] p. 7 (10))ベクトル
a, bで張られる平行四辺形の面積は
p|a|2|b|2−(a·b)2
で ある。
【証明】 「平行四辺形の面積
=底辺の長さ
×高さ」を使って計算する
(講義で説明します
)。
□ここで 成分表示された 平面ベクトル
a=x y
と
b= x′y′
の張る平行四辺形の面積を計算して みると
|xy′−x′y|
となることが確認出来る
([齋藤
] p. 7 (11);講義ではきちんと計算します
)。
定義
(2次行列式
; [新井他
]定義
1.46, [齋藤
] p. 22)2
次正方行列
h a b
i
=
x x′ y y′
の 行列式
determinant det x x′y y′
または
x x′y y′
を
detx x′ y y′
定義
= +xy′−x′y
+ −
と定める
(“たすき
襷 掛け
”)。
定義から「行列式の 絶対値
=平行四辺形の面積」だが、行列式の 符号
±にも意味がある
;命題
1.4 (行列式の符号の意味
; [新井他
]命題
1.53, [齋藤
] p. 7 [1.4])平面ベクトル
a,bに対して以下が成り立つ。
(1) det h
a b i
>0 ⇐⇒ a
からみて
bは 反時計回りの位置
(2) deth a b
i
<0 ⇐⇒ a
からみて
bは 時計回りの位置
b a
a
b det
[ a b
]
>0 det
[ a b
]
<0
2
次行列式
=平行四辺形の
“符号付き面積
”O x
y
b
b′ π 2 y′
x′ y′
−x′
【証明】
aと
bの成分表示を
a ="
x y
# , b =
"
x′ y′
#
とすると、
vを
時計回りに
π2
回転したベクトル
b′の成分表示は
b′="
y′
−x′
#
となる
*4 (右 図を参照
;斜線で表した
2つの直角三角形が合同であることに注目せよ
)。 ここで
aと
b′の位置関係を調べてみると、
bが
aから見て反時計回りの 位置にあるときは
aと
b′のなす角
θは鋭角となり、
bが
aから見て時計 回りの位置にあるときは
aと
b′のなす角
θは鈍角となる
(次ページ上部 の図を参照
;各自で図を描いて確かめてみてください
!!)。したがって
a·b′=|a| |b′|cosθ (
>0 (a
から見て
bが反時計回りの位置にあるとき
),<0 (a
から見て
bが時計回りの位置にあるとき
) · · · ○1が成り立つ。一方で
det a b
= det
x x′ y y′
=xy′−x′y =xy′+y(−x′) =a·b′ · · · ○2
が成り立つので、
○, 21 ○を合わせて題意が示された。
□*4
後程学習する
回転行列 rotation matrixを用いて次のように考えることも出来る
;b′は
bを
(反時計回りに
)(−π 2 )
回転したものである。
(−π 2
)
回転を表す回転行列は
A−π2 = [
cos(
−π2)
−sin(
−π2) sin(
−π2)
cos(
−π2) ]
= [
0 1
−1 0 ]
であるから、
b′=A−π
2b= [
0 1
−1 0 ] [
x′ y′ ]
= [
y′
−x′ ]
となる。
a
b
b′
θ:
鋭角
ab b′
θ:
鈍角
a
から見て
bが反時計回りの位置にあるとき
aから見て
bが時計回りの位置にあるとき
■発展
:内積の双線形性
(分配法則
)の図形的な証明
【命題
1.1 (2)の証明の概略】
([梶原
] 2cの証明も参照
*5)同様なので
a·(b+c) =a·b+a·cのみ示す。また、
bと
cが平行なとき
(即ち
c=kbと書け るときは
) (ka)·b=a·(kb) =k(a·b)を用いて
a·(b+c) =a·(b+kb) =a·((1 +k)b) = (1 +k)(a·b)
=a·b+ka·b=a·b+a·(kb) =a·b+a·c
と簡単に確認出来るので、以下では
bと
cが 平行でない場合 を考えよう。
いつもの様に
a, b,cの始点を揃えて考える。すると
bと
cを同時に含む平面
Πが唯一つ存在 する。
Step 1. a
が平面
Πに含まれるとき
*6Π
O
A C
D
B′ C′
D′
B E a
c b
b+c c
ℓ
c′
c′
b′ (b+c)′
◦
◦ a
を含む直線
ℓへの
b,c,b+cの正射影を
それぞれ
b′, c′及び
(b+c)′で表すことにす ると、内積の定義から
a·b+a·c=|a| ×(b′
の
“大きさ
”) +|a| ×(c′の
“大きさ
”), a·(b+c) =|a| ×((b+c)′の
“大きさ
”)と解釈出来る。したがって
(∗) (b′
の
“大きさ
”) + (c′の
“大きさ
”)= ((b+c)′
の
“大きさ
”)を示せば良いが、これは上の図より
(厳密には上の図の
△OCC′と
△BDEが合同ゆえ
OC′=BEとなることから
)ただ
直ちに分かる。
※
(ちょっと上級者向けの
)注意 上の図では、直線
ℓへの
b及び
cの正射影
b′,c′が始点
Oに 関して
aと 同じ側 にある図が描かれていますが、
b′や
c′が
Oに関して
aと反対側 にある とき も、講義で扱った様に
b′や
c′が 「負の
“大きさ
”を持つ」 と解釈することにすれば、や はり全く同様の手順によって
(∗)を示すことが出来ます。
*5[
梶原
]の
2cの証明では、暗にすべてのベクトルが同一平面上にあることを仮定してしまっているので、空間ベクトル に対しては不十分な証明となっています
(本資料の
Step 1.の場合しか考えていません
)。
*6
つまり
a,b,cが
同一平面上にあるときなので、平面ベクトルの場合は
Step 1.のみ考えれば十分です。
Step 2.
一般のとき
(aが平面
Πに含まれないとき
)Π O
a
a′ c b
Π O
a
a′ a′′
ℓ
x
x
を含む直線
ℓへの
aの正射影
a′′は
a′の
ℓへの正射影と一致する
b
と
cを含む平面
Πへの
aの正射影を
a′とする
(右図参照
)と、
Π上の任意のベクトル
xに対して
(⋆) : a·x=a′·x
が成り立つことが下の図から分かる
*7。した がって、
a·(b+c) (⋆)= a′·(b+c)
Step 1.
= a′·b+a′·c
(⋆)= a·b+a·c
が成り立つ。
□※
(どうでも良い雑談
)例えば
[新井他
]命題
1.37 (6)では「内積の成分表示を用いると 分配法則が容易に証明出来
る」などと書かれています。確かに「お説ご
もっと
尤 も」ではありますが、講義でも繰り返し強調 したように
(双
)線形性を使えば、図形
(ベクトル
)の性質が 文字式を計算するような感覚で 簡単に計算出来る
(!!)ところが線形代数学の醍醐味なのですから、
むし
寧ろ 線形性 をスター ト地点として、
(双
)線形性を用いて内積の成分表示を導き出す のが正しい姿勢であると個人 的には考えています。このような信念に基づいて、この講義では証明が複雑になってしまうの も
いと
厭わず 双線形性 をベクトルの内積の定義から直接
(図形的に
)証明する 方針を貫きまし た
*8。今回の内積の成分表示の計算のときのように 常に 線形性をスタート地点にして考える 習慣を早めにつけておくと、今後『線形代数学』を見通し良く、楽しく勉強出来るようになる のではないかと思います。
*7
より正確には次の通り
;ベクトル
a′は
aの
Πへの正射影なので、正射影の定義から
a−a′は平面
Πと直交しま す。したがって
a−a′は
Π上の直線
ℓとも当然直交しています。一方で
a′′は
a′の
ℓへの正射影なので、正射影 の定義から
a′−a′′も
ℓと直交します。したがって
ℓは
a−a′と
a′−a′′で張られる平面
(図の黄色い三角形
)と 直交しているので、特に
ℓと
a−a′′も直交することが従います。直線と平面の直交条件については、後日改めて講義 で扱う予定です。
*8
勿論学期末試験には出題しませんので、証明を丸暗記しようなどとは思わないで下さい。「こんな感じで図形的に証明
することも出来るんだ〜」と感じとっていただければ十分です。
■演習問題
演習問題
1-1. (平面ベクトルの計算
)xy
平面上の点
A(1,3), B(−2,2),C(2,−1)に対し、
a=−→OA,b=−−→
OB,c=−−→
OC
とおく。
(1)
ベクトル
6a−5b+cの成分表示を求めなさい。
(2) |2b+c|
を計算しなさい。
(3) a−kb
と
cが直交するような実数
kを求めなさい。
演習問題
1-2. (空間ベクトルの計算
)xyz
空間上の点
A(1,2,0), B(2,−1,1), C(1,1,−3), D(0,1,−1)に対し、
a = −→OA, b = −−→
OB, c=−−→
OC,d=−−→
OD
とおく。
(1)
ベクトル
3a+ 2b−cの成分表示を求めなさい。
(2)
ベクトル
a,b d−kcが同一の平面に含まれるときの
kの値を求めなさい。
(3)
ベクトル
bと
cの張る平行四辺形の面積を計算しなさい。
演習問題
1-3. (平面ベクトルの張る平行四辺形の面積
)平面ベクトルに関する以下の設問に答えなさい。
(1) a =
"
1 2
# ,b=
"
3 4
#
とするとき、
aと
bの張る平行四辺形の面積を求め、ベクトル
bがベク トル
aからみて時計回りの位置にあるか、反時計回りの位置にあるかを答えなさい。
(2) c=
"
3 1
# ,d=
"
−1 2
#
とするとき、
cと
dの張る平行四辺形の面積を求め、ベクトル
dがベク トル
cからみて時計回りの位置にあるか、反時計回りの位置にあるかを答えなさい。
演習問題
1-4. (2次行列式の基本性質
)∗平面ベクトル
x="
a c
# ,y=
"
b d
#
に対して
det hx y i
= det
"
a b c d
#
と表記する。
(1)
等式
det hx y i
=−det h
y x
i
が成り立つことを証明しなさい。また、この等式の
“図 形的な意味
”を考察しなさい。
(2)
任意の実数
kに対して等式
det hkx y i
= det h
x ky i
=kdet h
x y i
が成り立つこと を証明しなさい。また、この等式の
“図形的な意味
”を考察しなさい。
(3)
任意の
x′="
a′ c′
# ,y′ =
"
b′ d′
#
に対して等式
det hx+x′ y i
= det h
x y i
+ det h
x′ y i
および
det hx y+y′ i
= det h
x y i
+ det h
x′ y′ i