近 勝 彦
目 次
は じめに
1 電子マネーとは
1‑ 1 電子マネー出現の背景 1‑ 2 電子マネーの概念
1‑3 電子マネーの様 々なシステムの概観 2 電子マネーの課題
2‑ 1 経済学的課題 2‑ 2 法律的課題
2‑3 社会的国家論的課題 おわ りに
は じめに
情報通信技 術 の発 達 は, あ らゆ る企業 や家庭 の情報化 を もた らしつつ あ る。
家庭 において は,近 時,や っ と PC の普及が名 実 ともに本格化 し,イ ンターネ ッ トを家庭 でお こな う人 々 も増加 しつつ あ る。 ( 注 1)
企業 におい て は,特 に大企業 や情報処 理 の負荷 の多 い金融機 関 は早 い時期 か ら情報通信技術 を活発 に利用 していた。
注 1 第一回日本社会情報学会発表 ( 1 9 9 6 . ll .1 6 ) における橋元良明他の発表,『 電 子メール利用の実態 とインターネッ ト加入 による他 メディア利用時間の変化』
によると,インターネ ットを行 っている人は,睡眠時間やテ レビをみるなどの 活動が減少 していることなどが報告 されている
Oまた,テーマ部会 1の 「イ ンターネ ッ ト・コミュニティの可能性 と課題」参
照
〔 215 〕
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しか し,90 年 あた りを境 に して,情報技術 の大 きな トレン ドが変わ り始め, それはすでに 『 情報サー ビス事業 自書 1 9 9 3 』 ( 注 2) あた りで も指摘 されてい たのであるが,この 2 年で,その様相 は様変わ りした といって も過言ではない。
それは,かつて言 われていたネオダマ化が本格的に到来 したことを意味する。
まず, ダウンサイジ ングの議論があったが,現在 の PC はその MPU の処理速 度が200 MHZ もあ る もの もでてお り,様 々な高度 な情報処理が実現 しつつ あ
り,大型機 との代替の議論 は終幕 を向かえた。
マルチメデ ィア化 に関 しては,かつてのテキス トデー タ処理か ら画像や音声 の処理が一般化 し,カラープ リンター も急速 に市場 に投透 している。
その中で,もっ とも大 きな変化 を遂 げているのが,「ネオ」である。すなわち, ネ ッ トワーク化 とオープン化が同時進行で劇的に普及 し始めている
。それをも た らした技術 は O Sと通信技術 のイ ンフラの確立である 。 O Sに関 しては,現 在 はマイクロソフ ト社 のウイ ン ドウズで事実上 の標準 ( d e f a c t os t a nd a r d ) が 完成 し、通信技術 としてはイ ンターネ ッ トが確立 を遂 げた。現在 はこの情報通 信 インフラの上 に、 多様 なアプリケーシ ョンやサービスが展 開 している
。この ような技術 的基盤の確 立 に呼応す るように、情報通信 システムのグロー バル化や企業活動‑の本格的な導入がお こなわれた。
た とえば、 企業の組織 内部の応用 に関 しては、グループウエアやイ ン トラネ ッ トが導入 され、企業 の外部 との関係 では、製造業部 門では CALS ( 注 3) が, 流通業部門では, QR や ECR が普及 し始めている
。その よ うな情報環境整備 が進行 す る中,電子 商取 引 ( EC: El e c t r o n i cCo m‑
me r c e ) が、現実の もの と成 りつつある。しか し、その導入 のメ リッ トは多 い も 注 2 これによると,大型汎用機を中心 とした情報処理を第一世代 とすると ,1 99 0 年 を境 として,分散処理 /PC を中心 とした第二世代に移行すると予想されてい た。
また 『 情報化自書 1 9 9 3 』によれば,一方では情報化の見直しが始まると同時に, 他方,家庭 ・地域 ・社会の情報化が始まるとしている。
注 3 CALS とは, 「 Co mme r c eAtLi g h tS pe e d 」 の略で,一言でいえば,多様な 主体の情報共有によって,より早 く製品を作ることを目指 した競合製品デー
ターベースを中心 とした情報ネットワークシステムである。
のの、その障害や課題 も多い。 ( 注 4)
その大 きな課題 の一つが電子 マネーである。電子マネーは,その言葉 どお り, 電子化 された通貨 の代替物であるか ら,決済手段 が通信 回線 を使 って行 える と い う根本的メ リッ トがある。 これが実現 し本格化すれば,産業経済 システムの 大変革 をもた らすか もしれない。現在 ,世界 の多 くの国や機 関が様 々な電子マ ネーの実証実験 を繰 り返 してい る。 ( 注 5 ) それは, この技術 や システムが産 業経済 にあたえる影響が大 きい ことを暗 に裏付 けている
。そ こで , 本論文 は, 電子 マネーの本質 と課題 を論 じた ものである。ただ , 電子マ ネーの論議 は極 めて多様 な内容 を含 んでいるので, ここで電子マ ネーに関す る すべ てを論 じることは就面の都合及 び筆者 の力 か らして不可能である。そ こで,
ここでは,電子マネーの社会 的経済的問題 に絞 って議論す ることにす る。( 注 6)
1 電 子 マ ネ ー とは 1‑ 1 電子 マネー出現 の背景
電子マネーは,それが社会的経済的 システムであ る以上,その要請 によって 出現す るといえる 。 勿論,電子 マネー を新 たなビジネス と捉 えて,それ を推進
してい こうと動 きも当然 ある。では,その社会経済的要請 とはなにか。
まず は,産業構造 の変化 である 。 グローバ ル経済化 の進展 によって,国内産 注 4 課題は,山積 しているが,大 きく分けて 3 つある。 1 つは,技術的要件の確立
であ り,この中にはさらに,要素技術やアプリケーション技術や国際標準への 準拠の問題がある。 2 つ 目はビジネスインフラの整備で,この中には,決済シ ステムやセキュリティーや標準化がはいる。 3 つ 目は,社会制度 として法制度 などがある。八木勤 『 電子商取引 [ EC] 入 門 』,中経出版,参照
注 5 電子マネーの実証実験としては , 『 スマー トカラークラブ』や 『 ェレクいノックマー ケットプレイス』など 2 0 以上存在 している。これは,この領域‑の行政と企業の 意欲と関心の高さを示 していよう。
注 6 電子マネーに関する問題は,極めて多岐の分野にわたる。本文の社会経済的議 論の他には ( この中にもまだ議論されていない課題を多 く残すが),技術的問 題がある
。たとえば ,I Cカー ドの問題や,セキュリティの問題 ( 暗号技術化
の問題)や各種の端末の問題がある。
『 情報通信学会誌 2/9 6 』 の特集を参照
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業 は厳 しい立場 におかれている。 しか も, 日本 は規制の存在 によ り,多 くの商 品が世界的にみて,極 めて高い。そこで,国内の生産活動は高い生産要素の購 入 を余儀 な くされ,低価格 な商品を生み出せな くなっている
。しか も,直近の 不況により,企業の設備投資 ( 技術投資)の比率は下がってお り, 日本の生産 性 は低減の傾向にある 。 そのうえ, 日本 はサービス産業の非効率性が 目立ち, 公共料金 も割高である
。それによって,先端的で,グローバル展開を行 える企 業 ほど海外 に生産拠点 を設けてお り,いわゆる産業の空洞化が懸念 されている のである
。グローバル展開を行 えば,当然に,国際的な情報通信 ネ ッ トワーク
を充実 しなければな らな くなる 。
また,他国の企業 との提携や取引が増 えれば,ネッ トワークの充実は経営の ための不可欠の要素 となる 。 とくに,先進国の企業の情報通信 ネッ トワークの 活用 は目覚 ましいのであ り, 日本企業のみが従来のコミュニケーシ ョン形態に
こだわる訳 にはいかな くなっているのである
。また , 新 しい製品開発の流れ として , 製販同盟 というものがある
。小売業者は 顧客 ともっとも身近 に接 しているので, 顧客情報の集積度が高い。 しか し, 商品 の開発能力 は当然に持 っていない。それに対 して, 製造業は製造能力 は有 してい るが , 顧客がいかなる要望 を持 ち, 商品のいかなるところに不満 を持 っているの かが分からなかった。 そこで, 製造業と小売業が製品の開発に関して共同すれば, 今 までになかった顧客志向の製品ができる可能性がでて きた。また, 巨大化 した小 売業がそのブラン ドカ をいか して , PB 商品を開発す るながれ もある。どち らに
して も, / J 、 売業 と製造業の結び付 きが強固にな り, それを推進 してい くには効率 的な情報のや り取 りが必要である。これ とは逆に, 情報通信 システムを活用する ことによって, 製造業 自らの直販 も可能 とな り始めている。すなわち, 卸売や小売 の情報機能 , マーケット機能が補 えれば,自らが行 うことも決 して不思議ではない。
また,情報通信 システムをフルに活用 した新 しいビジネスや業態が多数出現 し始めている。 なぜ なら, この代表的なビジネスであるオンライン市場では, 以下の ような特徴 を持 っているか らである。
第一は,ネ ッ トワークビジネスは必ず しも巨額の設備投資を必要 としないた
めに,様 々なアイデアで多様 なサービスを行 う企業が出て くる 。 また,ネ ッ ト ワークは国内はおろかグローバルな顧客へのアクセスを可能 とするので,アイ デア次第では膨大な市場 を素早 く手 に入れることが可能 となる 。 そ して,ネッ
トワークを活用すれば,マスカス タマーサービスが実現で きるのである。
第二は,消費者の購買行動の変化である 。 我々は豊かになることを欲 してい る
。ここでいう豊か とは勿論,経済的豊か さのみではな く精神的豊か さも含 ん でいるが, どち らにして も,モノや情報の消費 をおこなって効用 を得 ているこ とには違いない。その とき,豊かであると感 じられる条件 は,多 くの中か らモ ノや情報 を選択で きることであろう 。 すなわち,豊か さとは選択可能性の増大 であるといって も過言ではない。そこで, EC が実現すれば,いつで も, どこ で も商品を注文で きることになる。すなわち, よく言われるように,時間や距 離の制約 を超 えて,消費が実現で きるのである。 また,その前提 として,商品 やサービスに関する多 くの情報 を自分か ら入手で きるようになる。 これによっ て,これまでの ように小売業 との情報の非対称性が解消でき,小売業者の言い な りの販売や価格 に対抗する基礎が得 られるようになるのである。
このような財の供給者 と需要者の大 きな変化の他 にも,以下のようなよ り直 接的なメ リッ トが EC にはあるがゆえに,多 くの課題が議論 されているにもか かわ らず,あ らゆる領域で応用が進んでいるのである
。まず, 消費者にとっては, 第一に, 現金の取 り扱いに関 してのメ リッ トがある。
た とえば,ある程度の金額であれば, 保管が大変であるが, 電子マネーであれば, まさに電子情報それ自体であるので,い くらで も物理的にか さ張るということ はない。保管の方法 としては ,I Cカー ドの中に入れてお くか ,PC のハー ドデ ィ ス クの中に入れているかの違いである。 ( これ らは後で見 るように電子マネー のシステムの違いであ り,本来的な差異ではない。 )また,この場合,電子マネー は暗号化 した り,その電子情報 をみた り,取 り出す ときには,専用の鍵が必要 なので,セキュリティも安心である 。 ただ,電子マネー といえども,物理的媒 体の上 にデータとして存在す ることは必要であるので,媒体 自体 を盗み出す こ
とは可能であるが,いわば,金庫 自体 を盗みだ した として も,それを明け られ
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るかは別問題であることに似ている。 ( ただ し,金庫 な ら最終的には物理力で 破壊 して,内容物 を取 り出せ るが, I Cカー ド内のデータは暗号化 の レベルに
より事実上不可能であるものもある。 )
また,少額の場合,一般 には硬貨で支払 う場合が多いが,硬貨の持 ち運びに 比べて,簡易であると言われる。ただ,すべての店や 自動販売機が電子マネー を受け付 けて くれなければ,コインも持たなければな らず, 2 重 となるが,そ れは電子マネー市場の広が りの問題であ り,本質的なものではない。
第二 は,現在 であれば,現金 を手 に入 れる時 には,銀行 に行 くか,銀行 の CD/ ATM のあるところに行かなければならないが,電子マネーであれば,電 子的データゆえ,情報 を伝達で きる端末であれば, どこで も電子マネーを入手 で きることになる。た とえば,公衆電話機か らで も取 り出す ことが可能であろ う
。それゆえ,電子マネーの入金や送金 は相手が銀行である必要す らない。た とえば,遠隔地に住 んでいる親か ら電話回線 を通 じて,級. 行の しまっている時 間に,送金 して もらうことも可能 となるのである。
これは,大 きな社会経済的意味を他 にもつ
。なぜ な ら,銀行 を介 さず に貨幣 的価値 を他者 に譲 り渡す ことがで きるので,現在のような銀行への手数料が省 けるのである。 す なわち, 現在の ように銀行が貨幣の流通を言わば独 占的に行 っ ていたことに対する革新 を意味するのである。 これは消費者の貨幣に対す る自 己管理能力の向上 を促す ことになるのである
。第三は,遠隔地の取引業者 との取引が可能 となることである。現在では,た とえば,インターネッ トを通 じた取引では,業者の淀供す る情報 をみて ( た と えば, HP など)注文 して も,うまく決済がで きない。たとえば,クレジッ トカー
ドの暗証番号 を打ち込んで決済する方法 もあるが,個人のカー ド暗証番号が他 人に漏洩す る危険性があ り,米国では犯罪が多発 している 。 ( 注 7)そ こで, 業者 との決済 に介 しては,別に電話などで確認 をす るなどしている。また,商 品の引 き渡 し時に,代金 と引 き換 えで支払っているのが現状である 。 そこで, 注 7 ハフナ‑,マルコフ 『 ハッカーは笑う』 ,NTT 出版および,『 コンピュータネッ
トワーク』,集英社,参照
セキュリティ機能の高い電子マネーを送信す ることによって決済がで きれば, 双方の トラブルはかな り解消 され よう
。( 現在 は,入金の詐欺や逆 に商品の詐欺が横行 している。)
業者のメ リッ トは, さらに大 きい。第一 に,現金の取 り扱 いコス トが削減で きる。特 に,入 出金の管理が容易 になる。た とえば,現在 は,その 日の売上金 は夜 間金庫 な どを使 っているが,安全面 に不安がある。 システムによっては, 個人の個別的な支払い と同時に自動的に銀行や電子的貯蔵所 に転送 されれば, 現金の運搬 に関する費用が大幅 に削減で きる。
また,店員 による金銭の抜 き取 りなどか起 きに くくな り,お金の管理が飛躍 的に楽 になるのである。
第二 は,当然 に,遠隔地の見知 らない人 とのネッ トワークによる取引が可能 となるのである。現在 は,不知である人 とは,信頼性 の問題で取引が阻害 され ていたが,今後 は,活発化 しよう
。第三は,極めて少額の価値 の移転が容易 になる。た とえば,なん らかの情報 を有料で購入 しようとした場合, 少額の価値物であれば, 代金の郵送やクレジッ
トカー ドでは費用が割高 とな り, ビジネスが成立 しない。そ こで,デジタルマ ネーであれば,小 さい単位 の価値 データを伝送で きるので,可能 となる。業者 としては,市場 は全 国はては海外 か らで もアクセスで きるので,一回あた りの 取引は小 さいけれ ど トータル としては大 きな利益 を上げ られる可能性がある
。この ような電子マネーは単 に支払いの手段 とい う機能の提供 にとどまらず,そ れを基礎 として新 しい ビジネス とくに新規の情報産業 を多数創 出す ることを可 能 にす ると言われている。
第四に,現在 は,現金の支払いの替わ りに, クレジ ッ トカー ドが多 く利用 さ れるが ( 外 国では小切手 も利用 されているが),電子マネーではクレジッ トカー ドの加盟 を必要 としない し,クレジッ トカー ド‑の手数料 を支払 う必要 もな く なるのである。
この ように電子マネーには,多 くの利便性があるがあるゆえ,世界中で電子
マネーの実験が行われているのである。
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1‑2 電子マネー概念
電子マネー とは何 か。 ここで当然の ように問題 になるのは,貨幣 とは何 かで ある。 なぜ な ら,電子マネーが貨幣であるかは貨幣の定義 にかかっているか ら である 。 これに関 して,貨幣の本質 を考 えることは学者の言わば,趣味の問題 であるとする意見 もある 。( 注 8) しか し,その議論 は法律 の適用 を巡 る問題や、
今後の システムの進展 には大 きな意味 を持つので無関心ではい られないのでは ないだろうか。特 に,電子マネーは,単 に新 しい貨幣の登場 とは異 な り,金融 システム,ひいては経済 システム 自体へ の変革 をもた らす可能性 を秘めている ので,やは り議論 を避 けて通れないのではないだろうか。
とはいえ,貨幣に関する議論 は,貨幣学説 といわれる極めて古典的テーマで もあ り,その学説史的展 開をすべて把撞す ることは極めて困難であると同時 に, あま り実 りのある議論で もない ように思 われる
。そ こで,電子マネーの特徴 と その問題点 との関係 を中心 に論 じることにす る。
まず,貨幣が,貨幣 としての使用 日的以外の用途 において も一般的な使用価 値 と交換価値 とをもつ財貨か らなっている場合, これ を実物貨幣 といい,かつ ては,食料や衣服や家畜 な ど,多様 な有用物が財貨 として扱 われていた。 この ような貨幣 を商品貨幣 ( c o mmodi t ymo ne y) と呼 ばれいた。 この延長線上 に ある貨幣は,金属貨幣 ( me t a ll i cmo ne y) である。す なわち,貴金属 の価値 で もっ て貨幣足 らしめていたのである
。これ に対 して, そ れ 自身が 商 品価 値 を もた ない名 目貨 幣 は,信 用 貨 幣 ( c r edi tmo ne y) である。名 目貨 幣 には,「 信用貨幣のほか にも,法律 によっ て強制通用力 を与 え られることによって貨幣 となった政府紙幣,不換銀行券等 があるが,それ らは政治的な統一体 としての国家が確立 され,交換経済がその 領域内において完結 された体系 をなす場合のみ,国内貨幣が成立す る」 と言わ れている 。
注 8 貸幣の定義にこだわることは,「 科学的必然性をもったものというよりは,む
しろ半ば趣味の問題」,という見解は,電子マネーを考える上でも大 きな意味
をもとう。サミュエルソン『 経済学』,都留重人訳,岩波書店,上巻,参照
ここで,実物貨幣 と名 目貨幣 と電子 マネーの特徴 を比較 してみ よう。 これ を 整理 した ものが以下の図表である
。特 徴 実 物 貨 幣 名 目 貨 幣 電 子 マ ネ ー
交 換 価 値 性 ある ある ある
運搬の容易 さ ある ある 非常にある
( 名目貨幣ほどではない) ( 電子的送信可能) 非 破 壊 性 金属は高い ある 電子データゆえ低い 均 質 性 あまりない ある ある ( 逆に非均質にも) 可 分 割 性 貴金属はある ある ある ( データ処理)
以上の ような貨幣の属性か ら見 る比較では,電子 マネーに貨幣 として見劣 り す る ものはないが,む しろ,システム ( 情報技術) の在 り方 に よって極 めて優 位 であった り,不利であった りす る ものであ り,本来的に電子マ ネーは中立的
に機能す る ように思われ る 。
た とえば,第‑ に関 して言 うと,重量や容積 な どによる交換 の不便 さの度合 いであるが,電子マネーは電子 デー タゆえ,それ 自体 は極 限的 に軽 い。しか し, その媒体 は必要であるか ら, I C カー ドか PC な どの磁気媒体 は必要であるが, 量 とい う概念が無 いゆえ,価値 は無限に媒体 に記憶/保有 させ ることは可能で ある
。第二 に関 しては,運搬 の容易 さであるが,電子マネーは電気信号 とな り,世 界 のあ らゆる ところに届 くので,極 めて優位 であ り, これは他 の有体物 である 前 2 者 とは大 き く異 なる
。第三 に関 しては,非破壊性 であるが,電子 デー タはそれ 自体,磁気パ ター ン
であるに過 ぎないので,電気的に消滅す る
。しか し,その とき,何 らかの対策,
た とえば,消滅 を証明で きる履歴保存 のシステムを完備 しておけば,全 く問題
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がない。ただ,その とき, 履歴や証拠 をどの ように残 してお くことがいいのかは, 別の問題である。
第四に関 しては,均質性であるが,電子マネーは,電子情報 にす ぎないので, 本来的に均質であるか どうかの議論が無意味である
。第五 に関 しては,可分割性 であるが, これ も第四 と同 じである。
第六 は,価値 の安定性であるが,電子マネーはそれ 自体 はまった く価値 を持 たないゆえ,その価値性 は,紙幣 と同 じく,発行者お よび管理者の管理 にかかっ ている。それゆえ,安定性があるかないかは電子マネー本来の問題ではない。
最後 に,識別性であるが, これはデー タを支 えるシステムそれ 自体の問題で あ り,それ 自体 あるとも無い とも言 えない。
この ような議論か ら言 えることは, このような比較 は,実物貨幣 と紙幣 など の名 目貨幣 との旧来の比較 には意味があるが,電子マネーに関す る議論で はあ
ま り有意義ではない ことが分かる
。そ こで,今度 は,貨幣価値学説か ら電子マネーを捉 えてみ よう
。貨幣価値学 説 とは,「 貨幣 は何 によ り, どれほ どの価値 をもつのか とい う貨幣価値 の量的 根拠 を問題 にす る 」 ものである。 「これは,貨幣 はなにゆえに貨幣た りうるか を問題 にする貨幣本質論 とは異 なる」 とされるが,貨幣の重要 な一面 を明 らか にす るので,みてみ よう
。まず, この中には,素材価値説 ( s o f E wet t heor i e) といわれ る ものがあ り, これは素材 の価値 をもって貨幣価値 の大 きさを説明 しようとい うものである 。
( 注 9)
これに対 して、 労働価値説 ( l a bourc os tt he or y) とい うものがある
。これは、
貨幣の価値 をその生産に要 した労働量 によって説明 しようとい うものである
。さらにこれには、実物費用説 ( 注 1 0 ) と労働 に支払 われた賃金 によって説明す 注 9 シーニア‑ 『 経済学』 AnOut l i neo ft heSc i e c eo fPo l i t i c a lEc o no my1 8 3 6 ,第
6 版,浜田恒‑釈,春秋社,参照
注 1 0 マルクス,岡崎次郎訳 『 マルクス‑エンゲレス全集』第 23 巻,大月書店,参照
る貨幣費用説 ( 注11 )がある。
さらに、限界効用説 ( Gr e nznut z ent heo r i e) がある。 これは,金属貨幣が貨 幣 としての中心的存在では無 くなった ときにおこった。すなわち,限界効用で 貨幣価値 を計 ろうとした ものである。 貨幣 と財貨 との間で交換が行われるのは, 両者の限界効用が均等なときであるというものである。 しか し,貨幣はそれ 自 体直接的欲望 を満たさないか ら,効用 はない。
そ こで,貨幣の効用 は貨幣の交換価値であるとされる
。それは昨 日の貨幣の 購買力か ら導かれるので,はじめの貨幣の役割をした財貨の主観的使用価値 に
さかのぼるとする ( 注1 2 ) 0
この ような考 えか らす ると,貨幣の効用は,それを貨幣 として用いることを 人々が容認 した ときか ら,生 じた と言 えな くはない。 この考 えか らすると,電 子マネーは,それが使用 され,人々の信任 を受ければ,貨幣 と同種の もの,ま
たは貨幣その もの とな りうることを意味 しているのではないだろうか0
最後 に,貨幣本質論 をみてみ よう 。 これは,別 こゆえ,貨幣は貨幣 と成 るか を問 うものである
。これには,大 きくわけて,金属主義 と名 目主義がある
。金 属主義では,金属貨幣のみが価値尺度た りうるものであるか ら,紙幣は独立 し
た貨幣ではな く,その代替物かその引 き換 えられるとい う期待のゆえに,貨幣 としての機能 をもつ とされる。
これに対 して,貨幣を財貨 と関係のない手段 ない し概念 と考えた ものを,名 目主義 とい う 。 これには,主に 4 つの説がある。
第一 は,国定説 ( s t aa t l i c heThe o r i ede sGe l de s ) と呼ばれる もので,最終 的には,国家がその権限 より認定 した証券的な支払い手段 であるにす ぎない と する。 この説 によると,何が貨幣であるかは,国家の法制であるとい うもので ある ( 注1 3) 0
第二 は,職能学説 ( Funkt i ons t he or i ede sGe l de s ) と呼ばれるもので,社会 注11 リカー ド, D. 『 経済原論』,東経夫訳,弘文堂,参照
注 1 2 ミ‑ゼス, L.『 貨幣及び流通手段 の理論』, 日本評論社,参照
注 1 3 クナ ップ 『 貨幣国定説』,宮 田喜代蔵訳,岩波書店,参照
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が貨幣 として番認す るものを貨幣 としようとい うものである
。これは,貨幣の 本質はその職能にあるとするものであるが,国定説 との違いは,前者が,形式 的法的側面 を重視す るのに対 して,本説 は,社会的経済的意義 を重視 した もの である 。 ( 注1 4)
第三は,指図証説 ( Anwe i s ungs t he o r i e ) と呼ばれるもので,貨幣 とは,個 人が社会のために した財貨 ・用役の給付 の象徴であ り,社会 に流通す る財貨 ・ 用役 を獲得す る請求権であるとする。 ( 注 1 5 )
最後 は,抽象説である
。この説 によると,貨幣は一般的な抽象 的計算単位で あ り,財貨の価値 を相互 に比較する単位 にす ぎないか ら,それ 自体 はなん ら具 体性 をもたない とい う。 ( 注1 6)
これ らの説 を,踏 まえて,電子 マネー を考 えてみ ると, まず,紙幣が貨幣の 中心であ り,允換紙幣であることか ら,金属主義 は当然 に とれない。 さらに, 名 目主義のなかで,国定説は,国家が法定 した ものを貨幣 とい うことか ら,蘇 果的には, 現在 の通貨制度 を言い当てている。しか し,それは, 結果 としてであっ て,理論的に貨幣の本質か らくるものではない。それゆえ,貨幣は, まさに, 貨幣 としての機能 を果た しているもの を貨幣である とす る職能学説 は本質 をつ いている
。そ して, これを徹底 的に推 し進めた ものである抽象説 は,相互の財 貨の価値比較がで きさえすればよい とい うものであ り,名 目主義の到達点であ
る。
これか らすると,電子マネーは,法定 されれば,当然 に,そ うでな くて も, 貨幣的機能 を具有 していれば,貨幣た りうることになる
。そ こで,貨幣の機能 を考 えてみると,第‑ は,価値 の交換機能である。電子 マネーは, まさに財物 を購入す ることので きる価値 であるか ら,当然 に備 えて いる。第二 は,価値尺度である
。い くら交換可能であって も価値 を比較で きな ければ意味がない。電子マネーはこれを備 えている
。第三 は,価値貯蔵機能で 注 1 4 メンガー 『 経済学の基礎概念』,山田正太郎訳,大村書店,参照
注1 5 ベンデイクセン 『 貨幣の本質』,大蔵省理財局訳,貨幣論叢第 1 号,参照
注1 6 ワ‑ゲマン 『 財政理論入門』
あ り,電子 マネーは,勿論,電子媒体 であるが、 価値 は保有 で きる
。それゆえ,電子 マネーは,職能学説や抽象学説,ない しは,指図証説で も貨 幣足 り得 る 。 む しろ,証券的な ものが貨幣以外 の価値物 とい う意味で は, もっ
とも指図証説が該 当す るか もしれない。
それゆえ,法律 的 にそれが貨幣であるか どうか とい うことと,貨幣 としての 経済的社会的意義 を有 していることは別であ り,実体 ( 実態) としては,貨幣 であるといい得 る。
1‑ 3 電子マネーの様 々なシステムの概観
しか し,電子マネー といって も様 々な ものがあ り,限 りな く貨幣に近い もの か ら,単 なる支払いの 1方式である とい うもの まであ る。それゆえ,電子マネー と言 う総称 を使用す ることに蒔蹄す る, または誤解 を生 む として,他 の名称 を 使用す る向 きもある
。た とえば,サ イバ ーキャッシュやデジタルマネーな どで ある 。 これは,電子マネー とは意味 は同 じであるが, さ らに,電子バ リュー と い うもの もある。 ( 注 1 7 ) 確 か に,誤解 を生 むのであれば,呼称 は変 えて もよ いが,一般 には分か りやすいため,電子マ ネーが広 く使 われている
。そ こで,電子マ ネーには,大 きく分 けて, 4 つのシステムがある。 さらに, 支払 い手段 としては,おお き く 2 つ に分 け られ,す なわち, I C カー ド利用 の もの と,イ ンターネ ッ ト利用 の ものである。さ らに, 現金代替 システム としては, 既存 の銀行 システムの中でのみ存在す るもの と,それ以外 で も存在す る ものの
2 様 ある。
オ ンライ ン型の長所 は,当然 に,オ ンライ ンで購買, 決済がで きることである。
また, 自宅 に居 なが ら,資金の移動か可能 となる
。また,紛失や盗難 に対す る セキュリテ ィが高い ことな どがあげ られ よう。これに対 して, Ⅰ C 型の ものは, 携帯が可能 なので,小銭 の替 わ りに持 ち運ぶ ことがで き,購入時の際のプライ バ シーが当然 に守 られることが優 れて居 る点 として上 げ られ よう 。 これ らを, 注 1 7 磯部朝彦監修 日立総合計画研究所編 『 電子マネーとオープン ・ネットワーク社
会』,東洋経済新報社,参照
228 商 学 討 究 第 47 巻 第 4 号 例
既存の銀行システムの中で流通 左以外で流通するもの
Ⅰ C カー ド 現 金 スマー ト.キャッシュ ビザ .キャッシュ モ ンデ ックス
インター ネッ ト 現 金 サイバーコイン e‑ キャッシュ 小切手 ペイメン トサービス チェックフリー
クレジット カー ド クレジッ トカー ドサービス
く 資料 日立総合研 究所 を参考 に作成) 図表 に示せ ば以上 の ようになる。
そ こで,今度 は,具体 的 に,最 も代 表 的 なシス テム を見 てみ よう 。
( 1 ) サ イバ ー キ ャ ッシュ社 の 「 サ イバ ー コイ ン 」 ( 注18)
サ イバ ーキ ャ ッシュ社 ( CyberCas h) は ,19 9 4 年 8 月 に設立 されたベ ンチ ヤ 企業 で あ り、主 に 3 つ の機 能 を もつ シス テム を有 す る。 それ は, ク レデ ィ ッ ト カー ドシス テムであ り,サ イバ ーチ ェ ックであ り,サ イバ ー コイ ンであ る。最 後 の ものが ,現金代 替 的 な機 能 を有 す る ものであ る。 これ を図表化 す れば,以
注 1 8 サ イバー キャッシュ社 の HP をみ る と, " Cybe rc a s hi spr o udt oi nt r od uc e Cybe rc o i n,a ni nno va t i vemi c r o ‑ pa yme nts e r vi c et ha te na bl e sc a s ht r a ns ‑ a c t i o nso ve rt hei nt e r ne t . I nt e r ne tme r c ha ntno w ha vea ne f f e c t i veme c ha n‑
i s m t os e l lma nye xi t i ng,Va lueadde ddi g it a lgo o dsa nds e r vi c e so ve rt heI n‑
t e r ne t ∴ とある。
下 となる 。
サ イバ ー キ ャ ッシュ社 内 にサ イバ ー キ ャ ッシュアカウ ン トとい う擬似 口座 を作 り,預金残 高 の裏付 けのあ るサ イバ ー コイ ンを発 行 して もらう。 そ して,消 費 者 はサ イバ ー キ ャ ッシュ コ ンシューマ ワ レ ッ トとい うソ フ トウエ ア を 自分 の
PC 上 にイ ンス ツール し,度数 分 をいれ て も らう。 これ に対 し,小 売 店側 は, サ イバ ー キ ャ ッシュマ ーケ ッ トキ ャ ッシュ レジス ター とい うソフ トウエ ア を入 れ てお き,消 費者 との売買 に よって度数 デー タを受 け取 る仕組 みであ る 。
( 2) モ ンデ ックス ( 注 19 )
英 国の民 間銀行 であ る Nat i onalWes t mi ns t erBank が 19 93 年 に開発 した電子 マ ネー の名 で あ る。これ は, I C カー ドを利用 した現 金代 替 シス テ ム で あ る
。この シス テム を図表化 すれ ば以下 となる。
注 1 9 モ ンデ ックスの HP をみる と, ' ' Mo nde xi se l e c t o r o ni cc a s ho nac a r d" とあ
り,そ して, " I ns t a ntc a s hi st hepr e f e re dme t hodo f. pa yme nta r o undt he
wo r l d, a c c o unt i g丘) r9 0pe rc e nto f a mt r a ns a c t i o n,No w s ma r tc a r d s ‑ s t o r i ng
e l e c t r o ni cc a s ho na ne nc r ypt e dmi c r oc hi p‑ a r es e tt or e vo l u li o ni s es pe nd i ng
ha bi t s " とい う。
230 商 学 討 究 第47 巻 第 4 号
これは,一国に 1 つのオリジネ一夕 ( 電子マネー発行主体) によって電子マ ネーを発行 させ ようとい うもので,銀行預金 と引 き換 えにそれ と同額の電子マ ネー ‑モ ンデ ックスバ リューを加盟銀行 にさせ る
。そ して, カー ド保有者 は ATM などを介 して銀行 口座か らモ ンデ ックスバ リューをカー ド上 にチャージ
し,商品購入 などに利用するものである
。そ して,消費者 はワレッ トというもので,個人間でバ リューの移転 をす るこ とがで きるのである
。それゆえ,一度銀行か ら引 き下ろす とその後 は資金の移 動は本人以外 はその履歴は分か らな くな り,取引の匿名 は守 られている
。2 電子マネーの課題 2‑1 経済学的課題
電子マネーには様 々なシステムやバ リエーシ ョンがあることは,すでにみて きた。
ここでは電子マネーの多様 な課題 を議論 してみたい。その第一は,経済学的 課題 とい うものである
。電子マネーは,限 りな く通貨に近い ものか ら,その機 能の一部のみを担 うのみで,通貨 とは呼べ ない ものもある。 しか し,経済学的 に議論 されるものは,やは り限 りな く通貨に近い存在形式の ものを対象 とする
。なぜ なら,それが経済的影響が もっとも大 きいか らである 。
経済学では,その初期か ら貨幣に関する議論はあったことはすでにみて きた。
それは,大 きく分けて 3 つの段 階にその議論は集約で きうる。
その第一は,金属貨の時代である。これは,それ自体 に希少価値があるゆえ, その素材 自体が経済的価値 をもつ ものである。
第二が,管理通貨制度の時代である
。これは,国家が通貨の価値 を保障 し, 管理するというものであ り,それゆえ,それは何 によって価値が表現 されてい て もよかったのである
。それゆえ, もっとも軽 くて,持 ち運びが便利で,相 当 程度の耐久性のある素材である紙が素材 として選択 された。
そうい う意味では,管理通貨制度の もとでは本来的に,価値の表象物が何で
あって もかまわない し,紙が選択 されたの も便宜的理 由によろう
。そ うである な らば,紙幣の替わ りに,電子データであって もいっこうにか まわないであろ
う 。
これ と似 た考 えに,電子マネーは,い く種類 かの貨幣の一つ,た とえば, 5 万円紙幣の発行の替 わ りに,電子マネーを発行す ることは全 く経済価値 的に同
じであると言 えな くもない。 なぜ な ら, これは貨幣価値の媒体 の差で しかない か らである
。確かに現在 も,紙幣 もあれば金属貨 ( コイ ン) もあるので,そ こに電子的な 価値 を意味す る電子デー タ‑電子マネーが加 わって も何 の不思議 はない。ある とすれば,紙幣 も金属貨 も一応,有体物であるのに対 して,電子マネーはそれ 自体 は電子的デー タにす ぎない とい う差異 はあるが,金融 当局が管理可能であ れば,本質的差異 は無い と考 えるのが妥当であろうc
Lか し, これ らはあ くまで も電子マネーの発行主体が金融 当局, 日本で言 え ば, 日本銀行が発行する場合 に限 られる
。そ こで, ここではモ ンデ ックスのよ うな発行主体が金融 当局以外 の機 関が発行す る場合 を議論 しよう ( 注 20 )。
この時には,大 きく分 けて 2 つの問題が生 じることが予想 される
。第一 は,マネーサ プライの問題である。金融 当局 は,管理通貨制度では通貨 の価値 の維持管理の責任 を持つ。 しか も,それは経済の根幹 をなすゆえ,モノ と貨幣の価値 の コン トロールを意味す る
。す なわち,金融政策 としてのマネー サプライの量 をコン トロールす ることを通 じて,貨幣価値,逆 に言 えば,モノ の価値 をコン トロールす ることを意図 している
。経済学が教 える と通 り,マ ネーサ プライが増加すれ ば, LM 曲線 は右 下 に シフ トし,金利の低下 と国民所得 の増大 をもた らす。それゆえ,マネーサプラ イの変動 は大 きな経済的影響 をもた らす と考 え られるので重要である
。注2 0 電子マネーの発行主体が金融当局であれば,いわば, 5 万円札や 1 0 万円札を発
行することとなんらかわらず,マネーサプライのコントロールは従来とは変わ
らないであろう。しかし,個人の手に届いたとき,今後は金融機関を介さずに
電子マネーの流通が始まる可能性や流通速度の予測はつきにくくなるのでない
だろうか。
232 商 学 討 究 第47 巻 第 4 号
そこで,電子マネーを発行 した らマネーサプライが どうなるのか とい う問題 を考 えてみよう 。
電子マネーが民間発行主体か ら発行 されると,マネーサプライは原則的に増 加 し,それによってインフレになる可能性がある
。それに対 して, 2 つの異論が考 えられ よう
。まず,電子マネーは本来的に小 口の支払いない しは決済に用い られるので,それがマネーサプライの増加 を導 いた として も,その効果 は限定的であると考 える とい うものである。 ( 注 29) 確かに,小 口の決済用であれば,市場にあるマネー量か らすれば当初は絶対量 において無視 しても差 し支 えないか もしれない。 しか し,電子マネーが毎年, 一定量発行 されれば,電子マネーの絶対量は増加する 。 また,電子マネーの要 求が市場の中で大 きくなれば,当然,発行量が大 きくな り,金融当局の発行量 に比 して限界的に増加すれば,その市場 内での割合 は増加 し,ひいては,無視 できない量 になる可能性は否定で きない。なぜ なら,金融当局 と電子マネーの 発行主体 は異 なっているのであるか ら,当局の管理が どこまで及ぶかは定かで はないか らである。 とくに,電子マネーの発行主体が複数になれば,その予測 は一段 と困難になる
。なぜ なら,た とえば,電子マネーの発行限度額 を定めて いれば稔量は把纏で さようが,逆 に需要が個別的に区々であれば,全体で どの くらい発行 されたのかは不明 となるか らである 。 すなわち,金融当局は,民間 の発行主体の結果のモニタリングに応 じて,マネーサプライを勘案 しなければ ならな くな り,発行行動が受け身になる可能性がある。それは,当然に,金融 当局の弾力的で機動的な政策発動 を阻害する可能性が否定で きないのではない だろうか。
そこで,すでに外国では電子マネーの発行量 をモニタリングするシステムを 作 り,運用 している。 ( 注 21 )
勿論,モニタリングのみではな く,大 きな金融政策の発動 を必要 としている ときには,民間の発行 を抑制する権限を金融当局は持つべ きであろう。
注21 カナダでは,現に実施されていると言われている
。しか し,これはあ くまで一国のなかでのみのコン トロールの可能性である。
これが,外国 との間で,電子マネーが流通 し始めるとどうなるであろうか。電 子マネーの必要性 は,すでに見て きた とお り,多 く存在す るが,その重要なも の として, 外国 との取引 との関係で最 も有用性 を発揮する。なぜな ら,たとえば, 外国とのインターネ ッ トを介 しての通販の場合,代金 を電子マネーを通 じて行
えば,安全かつ確実であるか らである。その とき,海外 との電子マネーのや り
取 りが活発化すれば,一国内の電子マネー量はあるときは増大 し,あるときは
減少す ることになろう
。このような取引が中小の海外 の企業 とお こなえば,敬
引量は把握で きないので, 電子マネー量は一層把握で きない。しか も, た とえば,
モ ンデ ックスの ように個人の I Cカー ドの中に入れることがで きるシステムで
あれば,それを大 きくしたいわば個人的なデジタルバ ンク ( 電子個人銀行)が
可能であ り,現在,国内にどれだけの電子マネーが流入 したかは把撞がはなは
だ困難であるといわざるを得 ないであろう
。勿論,電子マネーはまさにソフ ト
ウエアによって作 り出されたデータであるので,同 じシステムを利用 して も,
発行 された国家 ごとにその履歴 を付加することはなんで もないことである。 し
か し,いわば国籍のついた電子マネーが どこにあるのかの所在 を突 き止めるこ
とはこれで も解決 しない。そこで,流通経路 をソフ トウエアで補足 し, まさに
手形の ように経路 を付加す るとい うことも可能であろう
。しか し, これで も最
終的にどこにあるのかはモニタリングシステムを完備 しなければで きない。勿
蘇,これ自体 もデー タが国際間を行 き来するたびに量の計測 を行 えば可能であ
るが,それは事実 として不可能であるだけではな く,制度的にも困難が付 きま
とう 。 なぜ なら, もしある一定の量 を超 えた ら制限す るとすると, 自由な取引
自体の制限にもなるか らである
。これはデジタル情報の制限であるとい うこと
もさる事なが ら,電子マネーの背後 には正常の取引があ り,電子マネーの取引
を規制す ることは,通常の取引の制限にもなるか らである。 ( 勿論,通常の貨
幣で支払 うことは妨げ られないが,そうすれば,本来,電子マネーを導入 した
意味が無 くなるのではないだろうか) しか も,マクロ的に限度 を超 えたか らと
言って,個別的取引の制限が発生することは理論的にみて もおか しい。なぜな
234 商 学 討 究 第47 巻 第 4 号
ら,それ以前の取引行為 はすべて許 されているのに,たまたま限度 に達 したか らとい う理 由で個別行為が禁止 されるのは理不尽であろう
。ただ,実体 的取引の裏付 けのある電子マネーのや り取 りではマネーサプライ が生 じない とい う考 えもある
。なぜ な ら,電子マネーの発行量 と等 しい リアル マネー ( ここでは従来の通貨 をい う) の裏付 けがあるので,マネーサプライの 増加 にはつ なが らない とす る説 もある
。しか し,た とえば, 1億 円のデジタルマネーを発行者が発行 した場合 ,か り にリアルマネー として 1 億 円分預金ない しは発行主体 に預託 していた として, 一国内には, 2 倍 の貨幣価値が発生 したことには間違いない。 しか も,預託 さ れた リアルマネーを金融当局が償却すればマネーサプライの増加 はないが,演 託 された金 は普通 は,そ こに眠 らせ るのではな く,他の資金 として利用 される が普通であろう
。そ うすれば,電子マネーの外 にリアルマネーが市場 に出回る ことにな り,結果 として,マネーサプライは増加す るのではないだろうか。 こ れに対 して,金融当局がなん らかの制限を行 うことは考 え られるが,償却以外 での利用の制限は現実的には不可能であるとみることもで きる。 しか も, もし 電子マネー分の リアルマネーの償却 をすれば,結果 として,電子マネーの流通 量お よび リアルマネーに対す る比率 を高めて しまうことにな り,マネーサプラ イの制限に関する上記の比率が少 ない とい う理由づけが意味のない ものになる のである。
勿論,現実的にはこの ような影響がす ぐにでることはないであろうが,金融 政策の実効性 に関する理論やオプシ ョンの一つに電子マネーの考 え方 も十分 に 勘案 して,政策立案 していかな くてはな らない度合 いが高 まることは事実であ ろう。そ して,金融当局の金融 システム‑のガバナ ビリテ ィを電子マネーによ る不確実性 の増大 によ り,弱めて しまう可能性 は否定で きないのではないだろ うか。
今度は,マネーサプライに関するもう一つの議論である,貨幣の流通速度 に 関す る問題 を考 えてみ よう。
紙幣である貨幣が電子マネー化す ることによって,飛躍的に,貨幣の流通速
皮が増す可能性がある 。 流通速度 を取 り込んだ式 として以下の ような貨幣数量 説の一つであるフィッシャーの交換方程式がある。 ( 注 22)
PT ‑ MV p‑A T
これ による と,流通速度 Ⅴ の速度が大 きくなる と,マネーサ プライの量が 増加 しな くて も,イ ンフ レを招 くおそれがある
。この式 は一般 的には Ⅴ が一 定であることを前提 に,マネーサプライの増加 による物価 との関係 を見 ようと
した ものである。それゆえ,流通速度が一般 に速 くなる傾向にある現在 ( 注 23) , 流通速度 を一定 と仮定す ることはで きない。しか も,流通速度が速 くなるので, それ との掛 け算 である M xV は,当然 に畢 む ことになる。そ うなれば,左辺 の取引量が一定であれば,物価 は どうして も理論的には上昇することになる
。これ に対 して,「 決済 システムはそれ 自体独立 して存在 しているわけではな く,経済全体 の活動 の 1 ステ ップにす ぎないのであ るか ら ,」 貨幣流通量 は増 加 しない とい う説 もある
。しか も,それ を補強す る理 由 として,「 小 口の決済 で用い られる限 り,インフレの懸念 よりも,省力化 による決済効率の向上の効 果の方が大 きい」 とす る考 えもある。 ( 注 24)
ここで議論 しているのは,流通速度 と物価 の問題であ り,流通速度の上昇の 効果 を相殺す るには, M を小 さ くしてや らない と, P は大 きくなると考 える
ことはあながち間違いではないのではないだろ うか。
次 に, これ まで,金融 当局 は,直接貨幣供給量 M をコン トロールで きる と 考 えていた。貨幣供給 メカニズムでは,中央銀行が直接的にコン トロールで き る貨幣であるハ イパ ワー ドマネーが重要である。そ こで,ここでは,電子マネー が発行 されるときのハ イパ ワー ドマネーによるマネーサプライのコン トロール の可能性 を考 えてみ よう 。 ハ イパ ワー ドマネー とは,中央銀行 の債務項 目であ 注 2 2 フィッシャー, Ⅰ. 『 経済原論』,参照
注 2 3 井堀利宏 『 入門マクロ経済学』新世社,参照
注 2 4 注 1 7 と同書参照
236 商 学 討 究 第47 巻 第 4 号
る現金通貨 と市中銀行 による中央銀行への預け金 とを加 えたものをいう。市中 銀行は,預金の支払いにあてる現金を 1 0 0 % 準備す る必要はない。
なぜ なら,銀行は現金で持 っていて も何 ら収益 を生み出さないか らである。
それよりも, より多 くの現金 を貸 し付 けようとする
。しか し,中央銀行 は市中 の銀行 に支払い準備のため現金 を中央銀行 に預 け金 という名 目で保有する。 こ れを,預金準備金 と言 う
。そ して,現金通貨の増加が預金準備率の逆数倍の預 金通貨 をもた らすプロセスは信用創造 とよばれ,マネーサプライの大 きさを決 定することになる。
そ こで,ハ イパ ワー ドマネー : H ,貨幣僕給 : M,公衆 の保有現金 : C , 預金 : D ,銀行の現金保有 :Ⅴ,中央銀行‑の預け金 :R とす ると,
M ‑C + D H ‑C + Ⅴ + R
とな り,その両者の比 をとると,
C
M D 1
H C V R
D D D
この比率が安定 していれば,ハ イパ ワー ドマネーを通 じて,貨幣供給量 は操 作で きることになる。
ここでは,上記の 3 つの右辺の項 を議論することによって,マネーサプライ の間題 を考えてみよう
。① 昔 は,中央銀行の預 り金 ・預金比率であるが, これは法定準備率 に等 し
いか ら,政策変数であ り,法定準備率 を引 き上げると,この値 は,上昇 し,
ひいては,左辺が低下することになる 。
②意 は, 銀行の現金 ・預金比率であ り,銀行が支払い準備のための法定準 備 を超 えて, どれだけ現金 を必要 とす るかは,取引需要 としての貨幣需要 とパ ラレルに考 えることがで きる。金融機関の技術革新 によって銀行が より効率的 に現金 を管理で きるようになれば,この値 は低下すると考 えられている。現 に, 我が国の場合 は,この比率は低下傾向にある
。③音 は,公衆 の現金 ・預金比率 であ り, これ も,金融機 関の技術 革新 に よって低下す ると考 えられている 。 なぜ な ら,金融取引における機械化 は現金 の保有 を節約する方向に働 くか らである。 この式は,この項の減少関数である か ら, この値が低下することによってハイパ ワー ドマネーに対するマネーサプ ライの比率 は増大す ることになる 。
これ らを元 にして,電子マネーの発行 にもとづ く,マネーサプライ‑の影響 はどうであろうか。第一に関 しては, これは金融当局の政策変数 なので, コン
トロール可能であるといえよう 。 第二 に関 しては, これまでの技術革新 と同様 な効果が電子マネーで も発揮で きるゆえ,この比率は低下傾向を維持す るよう に思われる。第三に関 しては,公衆の現金 と預金の比率であるが,これ までは, CD/ATM の増加 によって,現金での保有 は減少 していった と考 えられるが, 電子マネーは,どうであろうか。まず,公衆が現金 をあま り保有 しない理由は, 現金の管理 に不都合があったか らである。なぜな ら,家 に大 きなお金 を置 くこ
とによる盗難や火災 などの危険があった。 これに対 して,電子マネーは,保管 場所 を取 らず,かつ暗号化 によって他者が引 き出す ことが事実上 に不可能にす
ることもで きよう . しか も,電子データであるので,オンライン型の場合であ ノ れば,受け渡 しの都合上, 自分の保存媒体 に,保有 して置 くことは十分 に考え
られ よう 。
しか し, この場合,利子が付かないので,預金に回す ことは今 も将来 もかわ
らない とす る考えもあろう 。 それ もこれ も,銀行 を介 しない電子マネーのや り
取 りの方が,手数料等がかか らないので,経済的にメリッ トがあるとなれば,
ある程度,預金は減 る可能性 はある
。しか も,預金 による利子 よりも,経済的
238 商 学 討 究 第 47 巻 第 4 号
に有利 な電子マネーを使 った金融商品が出現す ることも考 え られ,預金 は減 ら ない とは一概 には言えないのではないだろうか。
最後 に,通貨発行益の問題 を考 えてみ よう
。市中の銀行が電子マネーを発行 すれば, ‑それぞれが貨幣発行 に もとず く利益 を得 られる とすれば,発行益 を獲 得す るために電子マネー発行業 に多数の銀行や有力企業が進出す る可能性 はあ る。 この場合,従来 日本銀行が行 っていた発行益が民間に流出 して行 く恐れは 当然 にある 。 これ に対 して,「 電子マネーに対 して,準備率が適用 されている 限 り,金融機関が発行で きる電子マネーの鎗量 は中央銀行が供給す る準備預金 総量の信用乗数倍 に しかな り得 ない」 とい う意見 もあ り,電子マネーの出現 に よって,金融政策の効果がな くな りは しない とい う意見 もある。( 注 25 ) ただ, この論者 も副作用 として,インターバ ンク金利の上昇 を上 げている。 しか し, これ に対 しては,「 準備率 を上げて乗数の値 を小 さ くしてやれば,イ ンターバ ンク金利だって常識的な水準 に収 まる」か ら,由 とす る。 ( 注 26)
これに対 しては,このように通貨発行益 を押 さえるために準備率 を上げる と, 今度 は借用乗数は激減 し,マネーサプライは大 きく減少す る。そ うなれば,準 備率の変動が,大 きな制約 を受 けることになるのではないだろうか。
ここで,以上 に挙 げた 3 つの代表的なマネーサプライに関す る方程式 を稔合 的に考 えてみ るとどうなるであろうか。 まず,第一の理論では,所得の流通速 度が上がるので,貨幣の量 は増大す ることになるか ら,物価の上昇 を抑 えるた めには, M を下げる必要があ り,第二では ,3 つの要因が複合的に重 なるので, 一概 には言 えそ うにないが, R を引 き下 げれば,マネーサ プライの増大 は押
さえ られ よう。第三 に関 しては,発行益 の相殺 させ るため に,や は りR を上 げることが余儀 な くされる
。とい うことは,理論的には,電子マネーの発行が行 われていて も,マネーサ プライのコン トロールは出来る といえよう。 しか し,一部の電子マネーの発行
注 2 5 岩村充,『 電子マネー入門』,日本経済新聞社,参照
注 26 注 25 と同書参照
益 を奪 うために,全体の準備率 を上げることはで きるのであろうか。 また,全 体の銀行の準備率が上がると,電子マネーを扱わない銀行は,貸 し出 しの量が 大幅に制限され,銀行経営が果た して維持 されるのであろうか。
どちらにして も,金融 システムや金融経営に対する金融当局の予測不可能性 が高 まることは間違いないであろう。
2‑ 2 法律的課題
( 1) 紙幣類似証券取締法 との関係
日本銀行法第 29 条第 2 項によって,公私一切の取引に無制限に,通用する力, すなわち,強制通用力 を有す る貨幣を発行で きる権限を有する機関は, 日本銀 行 に限るとしている。 この法律が維持 されるか ぎり,電子マネーは,貨幣 と法
的には認め られない と言えよう。
しか し,これは電子マネー 自体の有効性 を否定 した ものではな く, 日本銀行 自体が電子マネーを発行するのであれば,現行法上問題がない。
この法 と対 となっている紙幣類似証券取締法がある
。これによって,貨幣は 取 り締 まられているが,これは,徳川時代の藩札 などの貨幣 を中央集権的近代
国家 としての明治政府が,国家 に通貨発行権 を一元的に管理するために設け ら れた法律であるので, これをもって電子マネーを全面的に禁止 した ものではな い といえよう。勿論, この法律の名称か らして,紙幣を対象 としてお り,電子 マネーは電子的データなので本来関係ない とする説 もあるが,本法律 の趣 旨か
らすれば,あま り説得的ではない。
む しろ,この法律制定当時は,紙幣 しか貨幣はな く( 少額の金属貨は除いて), それゆえ,類似の紙幣を作 り出す ことを禁 じた もの といえよう。その意味では, 現在で も,電子マネーは日本銀行が発行 していないのであるか ら,類似か否か
の議論以前の問題 といえよう
。( 2) プリペイ ドカー ド法の問題
上記の法 と関係のあるものに,プリペイ ドカー ド法がある
。これは,前払式
証券の発行 に関 しての法律であるが,この法律 の制度以前 には,プリペイ ドカー
240 商 学 討 究 第 47 巻 第 4 号 ドが貨幣かをめ ぐり,議論があった。
しか し,プリベー ドカー ドは,「 何 にで も」,「どこで も」,「だれで も」 の貨 幣基準の 3 要素 と換金の可能性か らして,使用状況が限定的なので,貨幣 とは 言 えない と考 えられていた。
ここで, 電子マネーは,どうであろうか。た とえば, 電子マネーのなかでももっ とも貨幣に近いモ ンデ ックスを例 にとると,この一般性,普遍性 に関 しては 2 重の意味があるように思われる
。た とえば,買 うことので きる商品には限定が 無 く, どこの店 で も ( 加盟店であるが),だれ とで も電子マネーは譲 り渡す こ
とがで きる点では,汎用性 は極めて高い。
しか し,これが具体的な事業展開をみると限定があるようにもみえる。なぜ な ら, どこで もに関 して言えば,加盟店 しか使用で きない し,だれ とで もに関 して言えば,た とえば,電子マネーを他の消費者 に渡す ときには相手が I Cカー ドを持 っていなければで きない。その意味では, これは一部の参加者のための 現金代替機能を果たす情報データによるや り取 りであると言 えな くもない。た だ,この とき, このシステムが多 くの人の支持 を受け,広範 に利用 されれば, 貨幣的色彩 をよ り鮮明にするように思われる。
( 3) 出資法の問題
これは,銀行 な どの法律 によって特別 に規定 されてい る人 もしくは法人が 人々か らお金 を運用 目的で集める,いわゆる 「 預か り金」を禁 じた法律である
。そこでこれを満たす要件 は 4 つある。( i )不特定かつ多数の相手か ら ,(i i) 金銭の受け入れを行い, ( i i i )元本の返還が約 されてお り, ( i v) 主 として,預 か り主のために,行われることである。 これに対 しては,電子マネーは,現金 の預 け入れ と同時に,反対給付 として電子マネーを得 るので,金銭の単なる受 け入れ とは異 なる。なぜ な ら,電子マネーは単に預か りを証明する証書ではな
く,価値の移転であるか らである。
また,元本の返還が約 されていることは一般 には無 く ( そ うすることも出来
ようが),電子マネーの移転 とともに現金 ( 元金)は相手方に移 ると言えよう
。最後 にこのシステムは,主 として預 け主のため とは言 えない。む しろ,両者 のために,行 われる ものである。 これか らす る と,一見す る と出資法 と関係が あるように思われるが,関係が無い と言 えよう。 ( 注 27 )
2‑3 社会的国家論的課題 ( 1) プライバ シーの問題
電子マネーに関 して もプライバ シーの問題がある
。電子マネーの技術的問題 に関 しては,勿論,偽造 されないために,電子データの暗号化が欠かせ ないが,
もし誰 にも本人以外 には解読出来 ないシステムであれば, どうであろうか。一 見,最 も安全でいい ようであるが, これが一度,犯罪 に利用 されると,大 きな 問題 を生 む。 なぜ な ら,暗号の他者か らの解読 を困難 にすれば, I Cカー ドや PC内に犯罪 にまつわるお金が入 っていて も,証明で きない ことになる。いわ ゆる,マネーロンダリングが不可能 になるのである
。そ こで,アメ リカは電子 デー タを暗号化す る I C チ ップをあ らゆる電子機器 に装着 し,デー タのセキュリテ ィを高める計画 を企 図 した。その計画 は,「クリッ
パ