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デジタルカメラを活用した写真撮影調査の検討
― 社会動向,調査時の意識,撮影枚数の個人差について ― Examination of Photography Investigation Using Digital Camera:
About Social Trend, Consideration When Investigating and Individual Variation of the Number of Sheets of Taking a Picture
杉 本 興 運*
Koun Sugimoto
Ⅰ.はじめに
1.1 研究の背景
現代観光にとって「景観」は最も重要な要素の1つ である。いわゆる景勝地と言われるような地域では,
そこに存在する美しい景色を眺めるのが目的で,数多 くの観光者が多く訪れる。また,歴史的な観光都市で は,数々の文化遺産で彩られた趣きある街並が観光者 の関心を強く惹き付ける。そういった観光地を訪れる 観光者は,書籍やインターネットの観光案内に掲載さ れた風景写真に影響され,現地を訪れる場合も少なく ない。このことから,観光産業に従事する企業や自治 体にとって,景観は地域資源を外部にアピールし,観 光資源として成り立たせるために重要な役割を担って いると言える。
観光分野では,様々なアプローチから景観の研究が 行われてきたが,特に景観知覚に関するものは数多く 行われてきた。近年では,とりわけ現地体験を重視し た調査手法が重要視され始めている(Jacobsen 2007)。 Zube et al.(1982)は,地理,レクリエーション,環境 心理などの様々な学問分野から景観知覚に関する文献 をレビューし,それらを計量心理パラダイム,エキス パートパラダイム,認識論パラダイム,体験論パラダ イムの4つに分類している。このなかで,人間の現地 体験下における景観知覚を扱ったものは,人々が景観 に対して持つ意味を求める認識論と,景観の価値は人 間の行動と環境との相互作用によって生じるとする体 験論の2つのパラダイムである(奥2005)。観光・レ クリエーション行動は動態的なものであるため,それ を前提とした調査手法がいくつか提案されてきたが,
そのなかでも観光者の写真撮影に着目した研究は,観 光分野に従事する研究者たちの関心を集めてきた。そ 摘 要
本研究は,観光行動研究のための写真撮影調査にデジタルカメラなどの電子・情報機器を適用するにあたっ て,その意義および問題点について検討した。まず,最近の社会動向としては国内では使い切りカメラが市 場終焉となる一方,デジタルカメラの普及はめざましく,観光の際にも自身の所有するデジタルカメラを用 いるのが一般化しつつあることが推測された。次に,実際の調査において調査参加者への感想をとったとこ ろ,大多数はポジティブな気持ちで調査を楽しんでいる,人目が気になって撮影をためらうことはほとんど ない,デジタルカメラの操作を不慣れと感じる人はいない,といったことがわかった。また,デジタルカメ ラを使用して収集されたデータがどのような性質であるかをみたところ,撮影枚数を半無制限に確保できる ことにより,使い切りカメラよりも個人特性に応じた継起的な体験としてのデータを抽出することができた。
しかし一方で,集計結果に撮影枚数の個人差が影響し,偏りを生じることが何らかの問題となる可能性が示 唆された。そこで,カテゴリー別に分類した集計データそれぞれについて偏りの度合いをみたところ,総撮 影枚数が多いカテゴリーについては特に大きな偏りはみられなかった。その他のカテゴリーでは特定の個人 による大きな偏りがみられるものがあったが,それが問題となるかどうかは研究の目的や統計的にどのよう な見方をするかで異なるため,判断はできなかった。
*首都大学東京大学院都市環境科学研究科観光科学域
〒192-0397東京都八王子市南大沢1-1(9号館)
e-mail ultra guitar [email protected]
- 90 - もそも写真撮影は観光行動のなかで一般的によく行わ れる行為であるから,現実の余暇空間における観光者 の行動や関心対象を把握するのに極めて有効な手法で ある。
1.2 Visitor-Employed Photography
観光者に一連の観光行動のなかで風景写真を撮影し てもらい,回収した写真を分析する手法は「VEP: Visitor-Employed Photography」と呼ばれる。これは,特 定の観光空間における来訪者の体験質を評価するため に必要な,遭遇した事物の視覚的かつ直接的な記録と しての情報を収集するのに,非常に有効な手法である
(Haywood 1990)。もともとは,Cherem and Driver(1983) が自然地の来訪者を対象に,多くの人々が共通して撮 影する写真(コンセンサス景観)を抽出するために用 いたのが先駆的な例であり,後に都市や農村部などの 様々な地域で行われるようになった。
Taylor et al.(1995)はロッキー山脈の来訪者を対象 に,地域資源としての水辺景観の重要性を把握するた めにVEPを利用した。Haywood(1990)は都市域の来 訪者による地域評価のための診断ツールとしてVEPの 適用を提案した。Mackay and Couldwell(2004)やGarrod
(2009)は観光地に対するイメージを調査することへ の応用を試みた。
このように,様々な目的に利用されてきたVEPであ るが,その本質は観察者自身が視点を選ぶというとこ ろにある。それは得られた反応がその時にその場で体 験された現実の風景や出来事であり,活動を終えた時 点で記憶に基づいて行うアンケート調査などと対照的 である(Chenoweth 1984)。つまり,VEPは観察者自身 の生態的な側面を強く重視した調査手法であるといえ る。
なお,VEPは研究の目的や撮影をする被験者の属性 によって,様々に異なった名前が使われている場合が ある。例えば,住民を対象にしたものは REP: Resident-Employed Photography (Stedman et al. 2004),
Visitor-EPやResident-EPよりもさらに広い意味として
「志願者」を対象にしたものは VEP:Volunteer- Employed Photography (Garrod 2008)と呼ばれる。その 他には Photo Elicitation(Loeffler 2004,Kerstter and
Bricker 2009)といったものがある。日本では写真投影
法(Yamashita 2002,奥 2005)という名で,主に造園 学などの計画系分野で研究が蓄積されてきた。
これらの手法の有効性について,人々のレクリエー ション行動を景観体験 1)という概念から行動科学的に
分析した奥(2005)は,次のように述べている。「現実 のレクリエーション活動下では,体験時には漠然とし た感興を抱きながら,長期記憶としては残らないよう な,不鮮明な景観体験,あるいは短期的な景観体験が ある。そして,包括的な体験の良否にとっては,こう したレベルの景観体験の蓄積も非常に重要であると考 えられる。このような,オンサイトで連続的に生じる 景観体験の把握に関しては,インタビューや質問紙を 用いた言語による体験の抽出と比較して,写真投影法
(VEP)が有効である。」つまり,VEP を利用するこ とで,事後に行うアンケートなどでは捉えきれない不 鮮明な体験の記憶を,写真という媒体に記録すること が可能なのである。
1.3 従来のVEPの問題点と利点
Chenoweth(1984)はVEPの潜在的な問題点につい て以下の4つを指摘している。
1)被験者の行動を制約する可能性
2)被験者が調査の終盤で余ったフィルムを意図的に使 い切ろうとする
3)特定の目立つものばかりが撮影される可能性 4)カメラを配布することによって普段と違う環境の見
方をする可能性
この見解に対して奥(2005)は,実際の調査ではこ れらが特に問題になることはなかったと報告している。
その上で,VEPの手法に関しての利点を次の4つに集 約している。
1)被験者自らが環境を映像によって容易に表現できる 2)多量にサンプルを回収できる
3)被験者の行動をあまり制約しない
4)被験者に必要とされる能力による制約が極めて小さ い
以上より,先行研究におけるVEPの特徴と議論され てきた問題点および手法上の利点について概観してき た。本稿ではさらに従来の研究で使用されてきた使い 切りカメラのデメリットについて補足したい。まず,
使い切りカメラは撮影枚数が 27 枚などと制限されて おり,撮影行為をためらうといった心理的制約がかか る可能性がある。また,商品購入や写真の現像依頼を する必要があるため,被験者が多くなればなるほどコ ストが大きくなる。そして,収集できるのは写真の画 像のみであって,その写真がどこで撮影されたのか,
いつ撮影されたのかといった,撮影の地点と時刻の情 報が精確にはわからない。
- 91 - 1.4 研究の目的
最近ではデジタルカメラや,iPhoneに代表されるカ メラ機能付きのスマートフォンなど,電子・情報機器 に類するカメラが多く登場している。収集したデジタ ルの写真データには,Exifという撮影地点の位置情報,
撮影した日時,使用したデジタルカメラの機種に関す る情報,撮影行為に関する情報などの様々な情報が記 録されている。近年では地理情報システムの登場によ り,撮影地点をポイントデータとしてデジタル地図上 に出力すれば,専門のソフトウェアで様々な用途に活 用できる。例えば,インターネット上ではFlickrなど の写真コミュニティサイトが登場し,デジタル写真に 位置情報を付加してWebGISにデータを貼り付け,過 去の旅行先で出会った風景や出来事をオンラインアル バムとして一般公開して楽しむ人々が増えてきた。こ
のようにWebGISの発展によってデジタル写真を使っ
た様々なコンテンツが充実し,観光行動のなかでデジ タルカメラを使用することが以前に増して重要な要素 となっている。このことから、使い捨てカメラに代わ り,社会的に潜在的ニーズの高いデジタルカメラを VEPに活用する意義は充分にあると考えられる。
したがって,本稿ではデジタルカメラを用いたVEP の検討を行い,その利点および問題点について検証す る。今回は,事例として石神井公園,井の頭公園,日 比谷公園の3つの都市公園で実施した調査をもとにす る。
まず次章では,VEPにデジタルカメラを使用する必 要性を,社会動向の視点から考察する。続くⅢで実際 の調査の流れを概観し,調査終了後に行ったアンケー ト結果をもとに,調査参加時の心象やデジタルカメラ の操作能力などを把握する。そしてⅣでは,収集した データのもつ有効性について検証する。具体的には,
撮影枚数の個人差が集計結果にどういった影響を与え,
それがどの程度問題となるのかについて考察する。な お,調査時にはGPSロガーを同時に使用し,後に撮影 地点の空間分布の分析を行ったが,それについての方 法論的検討は,紙面の都合上,別紙にゆずることとす る。
Ⅱ.デジタルカメラと使い切りカメラ
2.1 性能
デジタルカメラは静止画像を電子的に記録するカメ ラである。フィルムの代わりにCCD2)を用いて画像を デジタル信号に変換し,記憶装置にデータを記録する。
画像データの記録形式は,一般的にJPEGの拡張規格 であるExif形式が使用される。Exifは画像メタデータ のフォーマットであり,カメラの機種,撮影時の条件 に関する情報が含まれている。また,一般的なデジタ ルカメラの種類には,レンズの交換が可能で比較的高 価な一眼レフカメラと,レンズ交換が不可能で比較的 廉価なコンパクトカメラがある。
一方,使い切りカメラはあらかじめ装填されたフィ ルムを使い終わると,カメラごと現像処理に出す,極 めて安価なカメラ3)である。フィルムカメラや銀塩カ メラとも呼ばれる。1986年に富士写真フイルム(現富 士フイルムホールディングス)が「写ルンです
(QuickSnap)」を発売したのが最初である。操作はい
たってシンプルで,シャッターボタンを押す,フィル ムを巻くという操作で,被写体を次々と撮影できる。
2.2 普及率と総出荷数
内閣府の消費者動向調査の「主要耐久消費財等の普 及率(一般世帯)」によると日本国内におけるデジタル カメラの普及率は、2009年に71.5%となり,現在はほ とんどの世帯がデジタルカメラを所有していることに なる(図1)。その値はビデオカメラより高く,携帯電 話よりは低い。また,パソコンの普及率が同年代に 74.6%という結果から,パソコンとデジタルカメラの 普及率はほぼ同程度の値となり,デジタルカメラの普 及率の高さがよくわかる。
図1 国内における各種電子機器の普及率の推移(内閣府の 統計資料より作成)
さらに,図2のデジタルカメラと使い切りカメラの 国内出荷数の推移をみると,2009年度のデジタルカメ ラの出荷数の前年比が87.7%と落ち込みをみせたこと からも,日本国内では市場が成熟し,買い替えサイク
- 92 - ルが長期化する傾向になったことが読み取れる。また,
2005 年から 2009 年まで使い切りカメラの出荷数は 年々急速に減少している一方で,デジタルカメラは増 加し,2009年にはほぼ同程度の出荷数となった。デジ タルカメラの方が圧倒的に高値であるにも関わらず,
このような推移をみせていることからも,現在ではデ ジタルカメラのニーズが高いという傾向が読みとれる。
2,000万画素以上のデジタル一眼レフ,コンパクトカメ
ラ,カメラ付き携帯電話,動画機能の搭載など,デジ タルのカメラ機能の高機能化や多様化が進んでいるこ とが要因の1つであろう。
図2 デジタルカメラと使い切りカメラの国内出荷数の推移
(CIPAと日本カラーラボ協会の資料より作成)
普及率と出荷数の動向をみる限り,現在の社会的な 認知として写真撮影にデジタルカメラを使うことが一 般的になったといえる。そのことは人々の余暇活動に も当然影響してくるため,一連の観光行動のなかで写 真を撮る際に,自身が所有するデジタルカメラを使用 するのが当たり前のことになったと推測できる。
安価で手軽に扱えることから不特定多数の来訪者に 配布しやすいため,従来のVEPでは使い切りカメラを 使うのが主流であった。しかし,デジタルカメラの急 速な市場拡大と普及という社会動向を考慮すると,将 来的には使い切りカメラの生産自体が現在よりもさら に縮小する可能性がある。それと呼応するかのように,
デジタルカメラが低廉化することになるだろう。そう なれば,VEPにデジタルカメラを使用するのが標準化 することにつながるかもしれない。また,前にも述べ たが,デジタルカメラで撮影した画像データには様々 な情報が付加されており,様々な情報システムと連携 することで,より発展性のある研究が行える。
このように,時代の流れや研究の発展可能性を考え
れば,VEPにデジタルカメラの活用を検討する必要性 があることは明白である。
Ⅲ.調査の流れと調査参加者の感想
3.1調査の流れ
調査の流れを図3に示す。大きくわけて,事前準備,
現地調査,研究室での作業に分けられる。なお,場所 は東京都の都市公園である石神井公園,井の頭公園,
日比谷公園の3カ所で調査を行った。
図3 調査の流れ
まず事前準備であるが,志願者を募り,20代から60 代の学生および社会人の男女に協力してもらった。各 公園それぞれ10人,12人,13人である。志願者には 当日にデジタルカメラを持参してくるように伝えた。
現地の集合場所に到着した順に,GPS ロガー,志 願者がそれぞれに持参したデジタルカメラ,園内の地図 を携帯させ,スタートとした。石神井公園と井の頭公 園の場合はそれぞれ2つの回遊コースを設定したが,日 比谷公園では園内および園内に接触する周辺の路面上 であれば自由に移動および休憩ができるようにした。
なお,撮影行為に心理的制約がかからないよう撮影枚 数は個人の自由とした。
散策を終え帰ってきた志願者から順に,GPS ロガー,
デジタルカメラの写真画像データ,地図を回収した。そ の後,井の頭公園と日比谷公園に関しては,特に印象 に残った場所や出来事を把握するためにアンケートを とった。
そして後日,研究室での作業において,写真のデー タ集計とその統計解析および撮影地点の空間分析を行 った。ここで,写真のデータを集計するにあたり,様々
- 93 - なバイアスを除くためにいくつかの操作をした。まず,
個人の撮影行動の中で同じ対象や構図の写真が連続し ていた場合,最初のもの以外は分析対象から外した。
また,何を撮影したのか客観的な判断が難しい写真に 限って,本人に直接確認をとった(井の頭公園と日比 谷公園のみ)。さらに,明らかにネガティブな要素を撮 影したとわかる写真や,間違えて撮影したと申告され た写真は破棄した。それらの操作の後,撮影地点をポ イントデータとしてデジタル地図上に出力し,地理情 報システムを用いて空間分析を行った。
3.2調査参加者の感想
写真撮影は現地で出会った関心対象を直接記録する のに最も有効な手段であるが,データの収集のために は志願者に多くの時間を割いてもらわなければならな い。それゆえ,調査中の心象や調査に参加したことで 普段とは違った心理変化があるか否かを把握すること は重要である。それにより,調査手法や使用機器の改 善などにも役立ち,より良質なデータを収集すること ができるであろう。そのため,調査終了後にその場で 志願者に対し,調査に参加した感想などのアンケート をとった(日比谷公園のみ)。項目は全部で8項目ある
(図4)。感動強度として「楽しかった」,「新鮮な気分 になった」,「刺激的だった」,疲労の度合いとして「疲 れた」,周辺環境に対する配慮として「人目が気になっ た」,「緊張した」,そして調査機器の操作に関する項目 に「デジタルカメラの操作を不慣れと感じた」,「撮影 行為を頻繁にためらった」を設定した。それぞれの項 目ごとに,「強くそう思う」,「そう思う」,「どちらとも 言えない」,「そう思わない」,「強くそう思わない」の 5 段階評価のうち,当てはまるものに丸印を書き込む 形式である。
図4 調査終了後の感想
「楽しかった」の項目では「そう思う」と答えた人 が最も多く11人であった。「そう思わない」,「強くそ う思わない」と答えた人がいなかったことから,調査
自体は喜んで協力してもらえていた。このことは先行 研究でも指摘しており,大きなメリットの1つと言え る。「新鮮な気分になった」は7人が「そう思う」と答 えており,「そう思わない」としたのは4人だった。「刺 激的だった」は評価が分散した。人数が少ないことも あって,この項目からは確からしいことはわからない。
「疲れた」に関しては,「そう思わない」が最も多か った。日比谷公園では平均して1時間程度の調査だっ たが,その程度の長さでは疲れたと感じる人は少なか った。しかし,総合的な評価ではなく,現地体験下に おいて疲労感は微量なりとも変動し,それが評価にな んらかの影響を与える可能性もある。
さて,周辺環境への配慮のうち,「人目が気になった」
と「緊張した」は,「そう思わない」と「強くそう思わ ない」がそれぞれ6人ずつであった。また,調査機器 の使用に関する項目のうち「撮影行為を頻繁にためら った」では「そう思わない」と「強くそう思わない」
を合わせて8人,「どちらとも言えない」が4人となっ た。このことから,調査中に人目を気にしすぎた結果,
撮影行為をためらうような心配は少ないと言える。
最後に,「デジタルカメラの操作を不慣れと感じた」
では,「(強く)そう思う」と答えた人は1人もいなか った。この時の調査は3人にデジタルカメラを貸しだ し,その他は自らの所有するものを持参したが,機器 によって撮影枚数などに影響がでるような傾向は見受 けられなかった。そもそも,一般に売り出されている デジタルカメラを購入している限り,機種によって大 幅な操作性の違いはないと考えられるし,デジタルカ メラの普及率が高いことから,個人の操作能力に顕著 な差はないと思われる。
以上よりわかったことを以下にまとめる。
・調査へは,楽しい,新鮮といったポジティブな気分 で参加してもらえる。
・人目が気になること,デジタルカメラの使用を不慣れ と感じること,それらが原因で撮影行為を頻繁にため らうといったことは少ない。
Ⅳ.個人の撮影枚数の影響
4.1 撮影枚数の個人差
図5が志願者別の写真撮影枚数である。石神井公園,
井の頭公園,日比谷公園では全員の総撮影枚数はそれ ぞれ678,448,538枚,最も少ない人でそれぞれ22, 14,18枚,最も多い人でそれぞれ149,76,85枚,そ の差それぞれ127,62,67枚であった。また,平均撮
- 94 - 影枚数はそれぞれ約68,37,44枚,標準偏差はそれぞ れ約43,23,22であった。従来のように撮影可能枚数 に制限のある使い切りカメラを使用した場合は,20数 枚以下の範囲で全員収まるのだが,それと比べると撮 影枚数の個人差が顕著に表れた。この結果から重要な ことは,みな同じ領域内を調査しても,多くのものを 評価対象とみなす人もいればそうでない人もいるとい
うことである。したがって,撮影枚数に制限のある使 い切りカメラではそういった個人特性の違いを細かに 分析することは難しい。一方で,半無制限に撮影が可 能なデジタルカメラは志願者に対し撮影枚数に関する 心理的抑制をかけないため,より継起的な体験として のデータを抽出していると考えられ,個人特性をより 詳細に把握することができるであろう。
図5 各公園における志願者別の写真撮影枚数
だが,撮影可能枚数を半無制限に確保したことで,
写真撮影の回数が個人によって大幅に異なり,集計 したデータが多くの写真を撮影した人に極端に偏り すぎてしまう心配がある。そもそもそれが問題とな るかどうかは研究の目的やデータの扱い方によって 異なるという指摘もできるが,少なくとも集団とし てのデータ,すなわち集計したデータを分析のため に扱う際には,特定の個人によるデータの偏りは信 頼度をそこねる危険性がある。したがって,撮影枚 数の個人差が集計したデータにどれくらい影響し,
またどこまで問題となるかについて検証する必要性 がある。
4.2 集計結果に対する撮影枚数の個人差の影響 前項を受け,本項ではカテゴリー別に分類された 写真の集計結果に対し,志願者の撮影枚数の個人差 がどの程度まで影響しているのかをみる。写真の分 類方法は図6のフローにしたがった。明確な主興味 対象が確認できる場合に,〈人間〉4),〈動物〉,〈植 物〉,〈管理物〉,〈構造物〉,そして空間的な広がりを 認識しているものに対し,〈園路景〉,〈水景〉,〈広場 景〉とした。
カテゴリー別に集計した撮影枚数の棒グラフが図 7 である。石神井公園では〈水景〉,〈園路景〉,〈植 物〉が,井の頭公園では〈水景〉,〈構造物〉,〈園路 景〉が,日比谷公園では〈構造物〉,〈植物〉,〈人間〉
が,全体的な傾向としてよく認識されていることが
わかる。また,それぞれについて各志願者がどのく らいの割合を占めているかを図示したのが図8であ る。また,表1に各公園におけるカテゴリー別の最 も撮影枚数が多かった志願者と,その撮影枚数,占 める割合,期待値との誤差をまとめた。
石神井公園では最も総撮影枚数が多かった〈水景〉
(179枚)では,多かった人で志願者a4が25.7%, 少なかった人で志願者a6が1.7%を占めていた。も し10人全員が179枚を均等な割合で占めたと仮定す ると,1人当たりの枚数(期待値とする)は17.9枚 でその割合は10%となるはずだから,割合の誤差は 最も高い人で 15.7%である。本研究では偏り具合の 尺度基準として,誤差20%を超えるものに偏りが大 きい,20%以下で15%より大きければ偏りは中程度,
それ以下なら偏りは小さいとみなす 5)。これに従う と,〈水景〉は特定の志願者による偏りの影響は,あ まり高くないと言える。
図6 写真の分類フロー
撮影枚数
- 95 - 図7 各公園におけるカテゴリー別の写真撮影枚数
図8 カテゴリー別の写真撮影枚数の集計データに対する各志願者の占める割合
表1 各公園におけるカテゴリー別にみた最多撮影枚数の志願者と各種データ 撮影枚数が最も多かった
志願者と各種データ
カテゴリー
人間 動物 植物 管理物 構造物 園路景 水景 広場景
石神井公園 志願者 a5 a5 a5 a5 a5 a4 a4 a9
撮影枚数(枚) 22 8 24 21 17 35 46 7 占める割合(%) 40.7 22.9 26.1 25.6 23.0 29.9 25.7 24.1 期待値との誤差(%) 30.7 12.9 16.1 15.6 13.0 19.9 15.7 14.1
井の頭公園
志願者 b11 b1 b10 b10 b1 b11 b11 b10 撮影枚数(枚) 9 5 18 17 12 27 19 6 占める割合(%) 19.1 27.7 36.0 28.3 15.0 34.1 20.0 37.5 期待値との誤差(%) 10.8 19.4 27.7 20.0 6.7 25.8 11.7 29.2
日比谷公園 志願者 c1 c4 c9 c6 c9 c7 c6,c9 c7,c9
撮影枚数(枚) 17 12 17 18 22 12 9 6 占める割合(%) 22.1 21.8 21.8 24.3 18.2 27.3 23.7 15.0 期待値との誤差(%) 14.4 14.1 14.1 16.6 10.5 19.6 16.0 7.3 :誤差が20%より大きい :誤差が15%より大きく20%以下
同様にして,その他のカテゴリーで撮影枚数が多 い順に誤差の値が最も高い人をみてみる。〈園路景〉
は志願者a4で19.9%,〈植物〉は志願者a5で16.1%,
〈管理物〉は志願者a5が15.6%,〈構造物〉は志願 者a5が13.0%,〈人間〉は志願者a5が30.7%,〈動 物〉は志願者a5が12.9%,〈広場景〉は志願者a9が
14.1%であった。〈その他〉は枚数自体が極端に少な
いため,分析から外す。これらから,6 つカテゴリ ーについて志願者 a5 の誤差が最も大きいという結 果になった。これは志願者a5の総撮影枚数が多いた め結果的に生じたことだが,期待値との誤差が最大 で20%を超えるものは〈人間〉しかなかった。した がって,〈人間〉の集計結果は特定の個人の影響が比 較的強く,その他のカテゴリーについては特に著し
撮影枚数
- 96 - い偏りがあるとはいえない。〈人間〉についても,撮 影枚数自体が54枚と比較的小さいため,サンプル数 を増やして再度行えば偏りが打ち消される可能性も 十分にある。また,人々の活動は流動的なものであ るから,別の日に調査を行えば全く違う結果になる ことも予想される。
次に井の頭公園の場合である。最も総撮影枚数が 多かった〈水景〉(95 枚)では,多かった人で志願 者b11が20.0%,少なかった人で志願者b8が3.2%
を占めていた。もし12人全員が95枚を均等な割合 で占めたと仮定すると,期待値は7.9枚でその割合 は8.3%となるはずであるから,割合の誤差は最も高
い人で 11.7%であり,偏りの度合いは高くない。同
様にその他のカテゴリーで,誤差が最も高い人とそ の値をみてみる。〈構造物〉は志願者b1が6.7%,〈園 路景〉は志願者 b11 が 25.8%,〈管理物〉は志願者 b10が20.0%,〈植物〉は志願者b10が27.7%,〈人間〉
は志願b11が10.8%,〈動物〉は志願者b1が19.4%,
〈広場景〉は志願者b10が29.2%であった。これよ り,〈園路景〉,〈植物〉,〈広場景〉が誤差を 20%よ り超えているため,これらは比較的偏りが大きいと いうことになる。
そして最後に日比谷公園の場合である。最も総撮 影枚数が多かった〈構造物〉(121枚)では,多かっ た人で志願者c9が18.2%,少なかった人で志願者c11 が3.3%を占めていた。もし13人全員が121枚を均 等な割合で占めたと仮定すると,1 人当たりの枚数 は9.3枚でその割合は7.7%となるはずだから,割合 の誤差は最も高い人で10.5%ということになる。よ って,最も総撮影枚数の多い〈構造物〉では特定の 志願者による影響は比較的小さいと言える。同様に して,誤差が最も高い人とその誤差の値は,〈植物〉
で志願者c9が14.1%,〈人間〉は志願者c1が14.4%,
〈管理物〉は志願者c6が16.6%,〈動物〉は志願者 c4が14.1%,〈園路景〉は志願者c7が19.6%,〈水景〉
は志願者c6とc9が16.0%,〈広場景〉は志願者c7 とc9が7.3%であった。これらをみると,どのカテ ゴリーでも誤差が20%を超えることはなかったこと から,日比谷公園の場合は集計結果に特定の個人の 撮影枚数が大きく影響しているとは言えない。なお,
個人の撮影行動の中で同じ写真が連続撮影された場 合に最初のもの以外を分析対象から外してあるため,
分類をさらに細分化して集計した場合も同様の傾向 になると考えられる。
さて,3 つの公園それぞれについて,カテゴリー
別の集計結果に特定の個人による偏りがどの程度生 じているのかみてきた。その結果,3 箇所とも総撮 影枚数の最も多いカテゴリーに関しては,特定の個 人による偏りの影響はあまりみられなかった。この ことから,最も撮影枚数の多いカテゴリーは,多く の人に共通して強く認識されやすい景観資源のタイ プであり,それはその余暇空間の特性に応じて異な る。石神井公園と井の頭公園は〈水景〉,日比谷公園 は〈構造物〉が最も多く認識されやすい。その他の カテゴリーについては,石神井公園が1つ,井の頭 公園が3つ,期待値との誤差が20%以上になる個人 データを含んでおり,特定の個人による偏りが大き かった。
Ⅴ.まとめ
本稿では,VEPへデジタルカメラを適用するにあ たっての方法論的検討を行った。まず,デジタルカ メラを観光や景観知覚の研究へ適用することの意義 について社会動向の側面から考察した。最近は国内 における使い切りカメラの市場は事実上終焉し,静 止画撮影のために用いられるカメラ類の総出荷数の ほぼ全てをデジタルカメラが独占している。また,
デジタルカメラの普及率はパソコンと並んで高く,
WebGIS などに代表されるインターネットの発達に
よって,デジタルの写真画像データを使用した様々 な楽しみ方ができるようになっている。このことか ら,観光行動のなかで行う写真撮影に際してもデジ タルカメラを使うのが一般的になっていることが推 測された。よって,社会動向からみてVEPへデジタ ルカメラを適用する意義は大きいと言えるだろう。
次に,調査時の意識,周辺環境に対する配慮,デ ジタルカメラの操作能力について把握するため,日 比谷公園で実際に調査に参加した人々に対してアン ケートを行い,そのデータを分析した。その結果,
調査自体は楽しんで参加してもらえる,人目が気に なって撮影行為をためらうことはあまりない,デジ タルカメラの機種や個人の操作能力が撮影行為に極 端に影響することはない,ということがわかった。
最後に,撮影枚数の個人差が集計結果に与える影 響の度合いについて検証した。デジタルカメラを使 用することで,個人のより継起的な体験としてのデ ータを抽出できた。しかし,撮影枚数に大きな個人 差が生じることとなった。このことについて,カテ ゴリー別にデータを集計し,それぞれのカテゴリー
- 97 - について特定の個人の撮影枚数がどれだけ大きく寄 与しているのかをみた。その結果,どの公園の場合 も撮影枚数の最も多いカテゴリーに関して特定の個 人の影響によるデータの偏りはみられなかった。そ の他のカテゴリーに関して,日比谷公園はどれも大 きな偏りはなかったが,石神井公園では1つ,井の 頭公園では3つのカテゴリーについてみられた。
しかし,データの偏りが問題となるかどうかを判 断することは難しい。なぜなら,同一空間内を調査 する被験者を限りなく多くしていったときに,被験 者の総撮影枚数は正規分布などの標本分布に限りな く近づくと考えられるため,撮影枚数に個人差が生 じることは統計上問題とならないかもしれない。仮 に,調査時に撮影枚数を制限したとしても,逆に偏 りが大きくなる可能性もある。また,研究の目的や 視点によって個人差を問題とする必要のない場合も あるだろう。いずれにせよ,今回の結果で重要なこ とは,撮影枚数の多いカテゴリーは個人的な偏りが 少なくなるが,それは観光者たちが最も共通に認識 しやすい景観資源のタイプであったがために生じた ということである。 このように,VEP によって,
ある観光空間内で多くの観光者に共通して評価され やすい景観資源のタイプを,定量的な分析から抽出 し,またその妥当性を検証することができた。
今回は 10 人前後という比較的少ない人数の調査 結果をもとにしているため,その再現性に疑問を投 げかける声もあるだろう。しかし,本調査ではこの 程度の人数であっても様々なことを把握することが できたし,集計した写真データの内容がそれぞれの 調査地における観光者の景観認識パターンの性格を よく反映していたため,再現性は高いと思われる。
今後は,本稿で扱わなかったデジタルカメラ,GPS ロガー,GIS を応用した撮影地点の空間分析の手法 についても検討する予定である。
注
1)「人が環境と自らの行動との相互作用に伴い,周囲の環 境に対して風景としての意味を与え,評価の対象とみなす こと」と定義される。
2)電荷結合素子(CCD: Charge Coupled Device)と呼ばれ,
画像を電気信号に変換する際に必要な半導体素子である。
3)ごく最近では使い切りデジタルカメラが登場し,デジタ ルカメラと使い切りカメラという用語からは両者の厳密 な区分はできなくなった。しかし,使い切りデジタルカメ ラはPCへの画像転送ができず,店舗に持ち込んでプリン
トするタイプであるため,使い切りカメラの延長とみなせ る。しかし,本研究における使い切りカメラとは従来の使 い捨てのフィルム式カメラのことを指しているため,使い 切りデジタルカメラの出荷数の情報は扱わない。
4) 分類したカテゴリーには〈 〉の記号を用いる。
5)各カテゴリーにおける撮影枚数比率の実測値と期待値 との誤差が最大のものの平均値が,石神井公園,井の頭公 園,日比谷公園それぞれで約17.3,18.9,14.1であったた め,それらの値の範囲を目安に,偏り度合いの尺度基準を 任意かつ段階的に設定した。
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(投稿:2010年11月8日)
(受理:2011年2月1日)