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「国内エネルギー政策と地域エネルギー開発の可能性について」~ドイツの先行事例を参考に~

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「国内エネルギー政策と地域エネルギー開発の

可能性について」

~ドイツの先行事例を参考に~

東京都市大学 環境情報学部 学籍番号1231076 木幡尚也

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目次 序論 第 1 章 地域エネルギーへの注目 1.1 東日本大震災後の国内エネルギー政策の転換 1.2 地域のエネルギー自立の重要性と波及効果 1.3 大規模集中型エネルギーシステムと分散型エネルギーとの比較 第 2 章 海外先行事例 2.1 ドイツの電力政策の歴史と電力自由化の影響 2.2 市民参加型エネルギー政策のシュタットベルケの存在価値と事例 第 3 章 国内での事例 3.1 日本版シュタットベルケの可能性について 3.2 日本での進んでいる地域密着型エネルギー 第 4 章 結論 これからの地域エネルギー おわりに 謝辞 参考文献

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序論 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災による東京電力福島第一原発事故が契機となっ て、日本の原子力政策とエネルギー政策は大きな影響を受けた。事故以前に稼働していた 国内の54 基の全原子力発電所の稼働が停止しただけではなく、沿岸部の火力発電所の稼働 が停止した。これにより、東日本では一時的に電力危機に陥った。電力不足と震災後の電 力会社の対応を考えると、本来、電力の安定供給をされるとされてきた、一般電気事業者 が発電・送電・配電・小売りを統合して管理を行う地域独占型の大規模集中型発電システ ムには、大きな欠陥があったことが明らかとなった。政府もこれに対応してエネルギー政 策の抜本的な見直しを行うこととなった。その結果として、60 年ぶりの電気事業法の大改 正が行われ、昨年に電力小売全面自由化(以下、電力自由化)が施行された。新規事業者 の電力市場への参加の規制が緩和された。電力自由化によって、大手一般電力会社が独占 的に供給してきた約 7.5 兆円の電力市場が開放されることで自治体や地域エネルギー事業 者に大きな可能性が広がった。 しかし電力自由化によって、どのような電力市場が構成され、その中でどのような事業 者が市場で生き残るのかは十分に理解されていない。本論文では東日本大震災後のエネル ギー政策の転換の動向を紹介する。そして、日本に先駆けて電力自由化を行った、再エネ 大国と呼ばれている、ドイツのエネルギー政策の動向を参考にし、地域密着型エネルギー 事業者「シュタットベルケ」に注目する。そして、その結果をもとに、国内での地域エネ ルギー事業が増えていくための方法や課題について論じる。 また、国内での地域密着型エネルギー事業が増加することによって、公益的サービスが 安定し、事業に必要な人材や、これまで中央に流れていた資金の流用を抑えることによる、 地域内資金循環の高まり、地域の自立を促すことができると期待できる。また、長期的な 視野で考えると、雇用増加による地域の過疎化の解決や、地域の有効資源の利用による再 生可能エネルギーの普及が各自治体によって展開されることで、現状 6%の国内のエネルギ ー自給率増加の可能性となる。 これから地域密着型エネルギー事業の普及による価値について述べていく。国内のこれ までの電力供給体制の課題を検討し、地域分散型エネルギーの事ドイツのエネルギーの歴 史とエネルギー政策の特徴を考え、日本の政策と比較する。そして、その結果を元に、地 域のエネルギーの自立を促進するための課題を明らかにし、これからの地域エネルギーの 可能性について提言することを本論文の目的とする。

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第 1 章 地域エネルギーへの注目 1.1 東日本大震災後の国内エネルギー政策 2011 年 3 月 11日に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原発事故を契機となって、 日本の原子力政策とエネルギー政策は大きな影響を受けた。事故以前に稼働していた国内 の54 基の全原子力発電所が稼働停止しただけでなく、沿岸地域の火力発電所がのきなみ停 止し、東日本では電力危機に陥った。到来の電力供給は、発電・送電・配電・小売りを統 合した地域独占型の電力会社による大規模集中型の電力供給体制が担われて、このような 電力供給体制こそが電力の安定供給をもたらすとされてきた。ところが、震災直後は電力 会社間の融通が適切に行われず、全国的にみて必ずしも適切な電力供給が行われているわ けではないことが明らかになった。 福島原発事故発生当時の政権は民主党政権であったが、12 年暮れの衆議院選挙で自民党 が大勝した結果、自公政権に変わった。この政権交代の影響を受けつつエネルギー政策の 見直しが行われた。東日本大震災後に政策の焦点になったのは原子力の役割の見直し、も う一つ焦点が当てられたのは、エネルギー政策で重要な電力システム改革である。電力シ ステム改革が東日本大震災後に一挙に進んだのは、2 つの点で電力供給体制に欠陥があるこ とが明らかになったからである。 第 1 に、上記した本来の大規模集中型の電力供給体制が震災後に機能しなくなり、安定 的な供給を適切に行うことができないことが明らかにになった。 第 2 に、福島原発事故後に東京電力の経営実態が明らかにされたことである。政府が立 ち上げた経営財務調査委員会の報告書では、東京電力が過剰な投資を行っていた事、また 大口需要家を対象とした自由化部門に比して、小口を中心とする規制部門で多額の利益を 得ていたことが判明した。福島原発事故以前は、大規模集中型の供給体制が安定供給をも たらすと考えられてきたが、実際に調査してみるとこれとは全く正反対のことが行われて いたことが分かった。本調査の対象は東京電力のみであったが、他の大手電力会社も東京 電力と同じような経営体制をとっていたと考えられる。 つまり、今まで安定面・経済面で最も優れているとされてきた電力供給体制に大きな欠陥 があることがわかり、到来の電力供給体制を根本的に改める必要があることを政府に認識

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させた。そのために、到来の電力供給体制を変える電力システム改革が政府の方針となり、 二つの政権をまたいで政策の具体化が進んだ。以上のように一方では原子力政策の見直し が、他方では電力改革システムが進んだことが東日本大震災後のエネルギー政策の流れで ある。 1.2 地域エネルギー自立の重要性と波及効果 国内エネルギー政策の課題 現在の地球の人口は73億人であるが人口増加がさらに進み、途上国の経済成長が進ん でいくことより、今後、世界のエネルギー消費量は大幅な増加が見込まれる。特にアジア の発展途上国を中心に、化石燃料の利用が増え、世界のエネルギー需要量は 2035 年には 2011 年の役 1.3 倍になると言われ、限りある資源を巡って世界で資源獲得競争が激化されると 懸念される。日本は世界第5位のエネルギー大量消費国でありながら、国内内で使用して いる多くのエネルギーは他国からの化石エネルギーの輸入に依存している現状にある。準 国産エネルギーである原子力を含まないエネルギー自給率はわずか 5%と低く、この数値は OECD(経済協力開発機構)加盟国の 35 各国の中で 33 位という大変低い数値である。 これまで日本は世界的な先進国という優位な状況の中で、食料やエネルギーといった国 家が存続していくために必要不可欠なものは、金さえ出せば買える状況であった。そして 海外に依存している状況の中で活動してきた。円高安などの為替変動が動けば、食料やエ ネルギーの輸入は大きな影響を受けることは明らかである。国家として自立できる範囲を もっと広くしていていかないと、この先の日本が存続していくことは難しいと考える。エ ネルギー自給率を高めながら、安定的に国内で使用する事ができるエネルギー供給源を確 保することは国の最重要課題であると言える。 地域の自立の重要性 現在、地方経済の立て直しは、国と自治体が一体となって取り組むべき急務である。 これまで多くの人口減少に端を発する諸問題に対して、地域の活性化の政策が実施され てきた。福島原発事後の電力会社からの電力供給が止まった地域が東日本では多く発生し た。このような現状から、エネルギー・インフラなどの地域の生活に必要な基盤を地域が 自立して整えることで、国からの供給が止まった際でも、地域内だけで運営することが可 能になるよう、地域エネルギーの自給率を上げることは、地域経済にとってだけでなく、

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国の財政状況にとって考えてみても重要である。 国内の厳しい財政状況の中では地域の公益的サービス事業に際して、公的資金や補助金 を多くは投入できない状況であり、地方自治体の厳しい財政状況を鑑みると、自治体によ る下支えを継続することも今後ますます厳しくなっていく。これらによって地域の生活を 支えるサービスの撤退することが懸念される。生活サービスが衰退している地域は以前よ りも、地域は住みづらくなり、都市部に人口が流失するといった負のスパイラルが生じる。 この状況の中において、悪循環を断ち切り、公益的サービスを安定させて、地域の住みや すさを安定させていくためには、地域内で2 つの仕組みが必要になってくる。1 つめは、地 域から資金流用を抑えることによる「地域内経済循環の活性化」、2つめは、「税収以外の 財源を持続的に確保する仕組み」である。 地域の生活を支えるために、電力や熱供給などの生活のために必要なエネルギー事業を 地域内で展開する。収益性の高い生活に不可欠なエネルギーなどのインフラサービスと収 益性は低いが地域を支える上で不可欠なサービスとが複合した地域に密着する公益的サー ビス事業を行う、地域密着型のエネルギー事業が必要になってくる。一つのサービスだけ を提供するのではなく、様々なサービスを複合して提供していくような事業体が必要にな る。このような地域エネルギー事業体を構築することによって「地域創生」の足掛かりと なる。 大きなメリットとして、以下の3点に注目することができる。①事業収益の内部補填に よる地域全体の最適化である。地域内で必要不可欠なエネルギー事業などを行って得た収 益の一部を地域住民にとって必要な事業サービスに補填することによって、地域に対して 最適なサービスを提供することができる。②地域内の経済循環による活性化、到来は地域 外の企業に依頼していた事業を地域が新たな事業体の依頼し取り組むことによって、今ま で外部に支払っていた資金の流れが、地域内に向くことになり、また継続的に事業を行う ことにより事業を維持するための発注、また新たな雇用を地域内にもたらすことになるな ど、地域内の経済波及効果が見込まれる。③地域に根差した事業展開を行うことで、その 地域の特性を踏まえたサービスの在り方を考えることができる。 地域の省エネ活動、再生可能エネルギーの利用によって、地方におけるエネルギー供給 の自給率が高まり、エネルギー自立地域が増加することによってことは、日本社会が直面 している以下の問題の解決にもつながる。 ①地球温暖化による環境影響 ②原発事故などの被害とリスク ③資源・エネルギー価格の高騰 ④過疎化と地域衰退

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また、各地域の財政基盤を強化する効果があり、更には、各地域で熱事業の使用などに よるエネルギー効率の向上による環境負荷の低減に役に立ち、国内のエネルギー自給率の 上昇につながると考えられる。 1.3 大規模集中型エネルギーと分散型エネルギーとの比較 地域内で自立した安定した地域エネルギーを供給するためには、今までの大手電力会社 が使用していた、大規模集中型エネルギーシステムを使用するのではなく、福島第一原発 事故後から注目されている、必要な分のエネルギーを各地域で供給する分散型エネルギー システムを使用する。大規模集中型エネルギーと分散型エネルギーはどのような特徴・課 題があるのかについて比較していく。 産業革命以来、世界はより快適な生活と活力のある経済活動のためにエネルギーインフ ラシステムを強化し続けてきた。その中核となったのが大規模集中型のエネルギーシステ ムである。大規模集中型のエネルギーシステムは、社会、経済の発展を支える基盤になっ た。我々の豊かな生活要素は例外なく大規模型電力システムの恩恵を受けている。福島第 一原発事故以来、日本では再生可能エネルギーへの期待が高まっているが、まだまだ産業 革命以来の内燃機を中核としたエネルギーシステムを代替するエネルギーとは程遠い。 大規模集中型のエネルギーシステムには 5 つの課題を内包している。①エネルギー効率 の低さ:大型発電所の発電効率は中小の発電所に比べて高いが、発電に伴う熱を有効活用 することができなく大量に放出する。理論的には排出する熱で発電することも可能である が、発電コストが高くかかる。②送配電に伴う損失:広大な送電網を経て需要家に辿り着 くまでに 3~5%程度の電力が失われる。③送電投資に伴う負担:遠隔地の大規模発電所と 需要地を結ぶ送配電整備のためには莫大な予算が必要となる。④市場性の低さ:大型の発 電設備を供給できる企業の数は限られていて、世界で数社が競う市場である。⑤供給者と 需要者の分断である。発電所の規模が大きくなると都心などの需要地から遠くはなれたと ころに建設されるので、需要家は自分が使っている電気がどこから来ているのか?に対し て関心がなくなる。こうした需要地と供給地との分断の末の起こったのが福島第一原発事 故であるといえる。原子力発電所は土地が安く、周辺の反対の少なく万が一事故が起きて も年に以外が及ばない地域に建設される。万が一事故が起きると、もともとあった需要地 と供給地との格差は一層拡大することになった。 上記した、需要家から遠く離れたところに巨大な発電所を建設する大規模エネルギーシ ステムに対して、需要家の近くに需要を満たすためだけの小規模の発電設備をつくって電 力を供給するシステムのことを分散型エネルギーシステムと言う。分散型エネルギーを導

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入すれば、上述した大規模集中型の課題は概ね解決することが出来る。(先の問題点①~⑤ に当てはめて考えていく。) ① 要家の近くに発電機を設置するので発電に伴って発生する熱を向上や農業施設のプロ セス、空調、給湯、などに使用することが出来る。②③送電網は必要ないか非常に小規 模になるため、送電によるロスは考えなくてもよく、送電線建設に伴う社会、経済的な 負担も発生しない。④発電設備が小さくなると設備の製作や建設を手がけられる企業の 数が増えるので市場競争が活発になる。市場の参加者が増える程競争が活発になり、今 日では大規模施設より割高と言われている中小型の発電設備の kw 当たりの料金も安く なることが見込まれる。⑤最重要であるのが分断されていた需要家と供給者との関係が 一気に縮まることである。 電力の供給者・需要者の一体となる効果について 分散型エネルギーシステムのメリットの中で最も重要な効果として、先に上記した、需 要家と供給者の関係が近いことが挙げられる。需要家との距離が近接・一体化することで エネルギー問題の解決にむけて2つの重要な役割が生まれる。1 つ目は、需要家が自分の使 用しているエネルギー源は何であるのかを理解し、意識することによる、エネルギーの「見 える化」できるシステムが生まれ、消費に関する自覚が生まれる。エネルギーに関する自 覚が高まれば、需要家はエネルギーコストが上がった際にでも、近接している太陽光、風 力、バイオマスなどを放置して、エネルギーが低コストであることだけを考える人は少数 となるだろう。 2 つ目は需要家が供給の事情に合わせようとすることだ。今までは、需要家が好きなだけ 使用したエネルギーを確実に供給することが正しいとされていた。これが供給責任と解さ れる向きもあった。分散型エネルギーであれば、エネルギー事業者によっての発電方法や 発電量はさまざま考えられる。例えば太陽光発電の依存度が高い需要家であれば、発電量 の小さいときにはエネルギー消費を控えると言った意識が働く人が出てくる。また多くエ ネルギー需要が集中する朝夕には家電製品の使用を控えようとする人もでてくるだろう。 こうすることで電力の供給リスクは低減される。供給責任とはこうした需要家の自発的 な行動を喚起することと合わせてエネルギー需給のバランスを取ることである。供給側だ けで供給責任をすべて果たそうとすることは、エネルギーリスクを高めることにつながる。 最近では需要家に抑制意識を与え、それを供給側に伝える仕組みとして、エネルギーマネ ジメントシステムの商品化が進んでいる。

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第 2 章 海外先行事例 2.1 ドイツの電力政策の歴史と電力自由化の影響 これからの日本の地域分散型エネルギー供給の可能性を考えるに当たり、海外の先行事例 としてドイツのエネルギー市場に注目する。ドイツは、少子高齢化と成熟化社会という日 本と共通した課題を抱えている。日本が分散型エネルギー供給でエネルギーの供給リスク を減らし地域エネルギーの独立を促す為のシステムの構築の取り組みを行う上で、参考に すべきことは多くある。 2007 年に電力自由化を踏み切った EU に先駆けて、1998 年に電力自由化を踏み切った。近 年では再生可能エネルギー活用と原子力発電の脱却を進めているドイツの取り組みには、 学ぶ点が多くあると考えられる。ドイツの自由化によってどのような市場がどのように動 いたのか、それに伴った政府のエネルギー政策の動向を見ていく。 ドイツのエネルギー政策の動向 ドイツに広域の送電網が整備されていなかった頃、各都市や農村部におけるエネルギーは、 地域の協同組合が運営する地域単位のシステムによって供給を支えてえてきた。このよう な事業体が 19 世紀後半からシュタットベルケ(Standtwerke)と呼ばれる“地元のエネル ギー供給会社“に発展し、エネルギー供給だけでなく公共サービス全般を担うようになっ てきた。 ドイツでは自由化前、発電・送電・小売を一貫で担う 8 大電力会社と、地域密着型のシュ タットベルケが電力を供給していた。1997 年 1 月に施工された第一次欧州電力指令を受け て、98 年より電力自由化が進められた。自由化により電力小売りを中心に、100 社以上を 超える新規事業者が参入した。それに対して既存の電力会社は、高めの託送料金(送配電 網の利用料金)を設定する一方で設備投資を抑えて小売価格を低く設定することでコスト 圧縮を図り、体力に任せて小売価格を低く設定することで迎え撃った。電気の託送料金が 民間事業者の交渉に任せられていたため、新規事業者は高めの託送料金を支払わされるこ ととなった。その結果、新規事業者の撤退・倒産が相次ぐ結果となった。ドイツに 800 社 存在すると言われていたシュタットベルケのほとんどが大手電力会社と合併することで、 大手電力会社の寡占化が進んだ。大手電力会社の側でも統合が進み、発送配電・小売を一 貫で担う大手電力会社は E.ON、RWE、EnBW、Vattenfall という 4 社に集約され、4 大電力会 社によるシェアは自由化前の 50%強~70%強へと高まった。

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こうした状況を踏まえ、政府は 2005 年に高価格の委託料金を是正するために送電会社の 分離を行うための規制をエネルギー法で設定したが、大手電力会社が圧倒的なシェアを確 保する市場情勢は変わっていない。 このように、ドイツの、自由化は新規参入の活性化という意味では、大きな成果を上げら れなかった。価格抑制・低減という面でも成果は芳しくない。新規事業者の撤退に伴って 価格競争が落ち着くと共に、設備投資抑制に伴う予備威力の低下で電力市場は買い手に不 利な市場となった。これに 1 次エネルギーの高騰、CO2 排出権取引価格の上昇、再エネ政策 に伴う価格転嫁などの外部要因が加わり、近年小売価格は大きく上昇している。 ドイツの自由化で大手事業者だけが市場を掌握できたわけではない。当初、自由化によっ て激減すると予測された“地元のエネルギー供給会社”のシュタットベルケは、多く生き 残り、出資比率の低い関係会社分も含めると、現在でも電力小売りの 2 割強以上のシェア を保っている。ドイツの小売電力市場では、価格を売りに新規参入者が多数登場した 2000 年でも電力購入先を変えた需要家の割合が産業用 41%、家庭用5%と、家庭部門の低さが注 目される。加えて、ドイツ電気協会が 2004 年 6 月に発表した電話調査では家庭需要家の 96% が地元電気事業化を信頼していることが明らかとなり、ドイツの家庭の変更率の低さを裏 づけた。 このように、欧州で大手電力会社の勢力が拡大した市場の中でシュタットベルケは地元の 暮らしの中に必要とされ、選ばれ続けている。自由化によって世界最大級の電力会社を生 み出した競争市場の中で、依然としてシュタットベルケは電力供給のニーズを維持し続け た。これは、規模の経済が働くと考えられがちな電力事業で、コストだけでは自由即でき ない需要家のニーズがあり得ることを示唆している。(エネルギーの自治なくして脱原発な しー日本経済センター) 2.2 市民参加型エネルギー政策のシュタットベルケの存在価値と事例 ・シュタットベルケとは シュタットベルケとは 19 世紀後半以降、水道、公共交通、ガス、熱供給、電力事業、通 信など、個人・民間では手当てできない地域エネルギーと生活インフラのインフラ整備・ 運営を行うために、ドイツ各地で発展してきた小規模の地域密着型の事業体のことである。 はじめから市がインフラサービス会社を設立し事業を拡大していったケースもあれば、 当初は民間事業者が営んでいたインフラ事業を市が事業継続・拡大のために買い取ったケ ースもある。また、複数の事業会社を吸収合併するなどして総合的な生活インフラサービ ス会社として発展したケースもある。発展の経緯は異なるが、現在ドイツで電力事業を手 がけるシュタットベルケは 900 社以上存在する。電力・熱・ガス・交通・水道・公共施設

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管理といった複数の事業を手掛ける大手のものから、水道事業だけを手掛ける小規模のも のまで様々な事業形態がある。 出資構成を見ると、自治体がドイツの法律上拒否権を行使できる 25%以上の出資を行う のが一般的であるが、市が 100%出資しているケースやシュタットベルケがホールディング スカンパニーとなり、子会社が民間企業や近隣のシュタットベルケなどから出資を受けて 各事業の運営を行うケースとある。経営に関しては、自治体から独立した体制を有し、人 材も独自採用となっている。 電力事業については、1 社もしくはグループとして発電・配電・小売り事業すべて営む方 式と、1 社で発電・配電・小売のいずれかを営む方式がある。小売り顧客が 10 万以下の場 合は、同一会社が発電・配電・小売を実施してもよいが、顧客数がそれ以上の場合は配電 部門を分社化することが義務付けられている。そのため、大手のシュタットベルケでは、 配電部門を分離し配送電子会社として所有する場合が多い。 シュタットベルケの存在価値 電力自由化後に、激しい市場状況の中、劣勢になると予測されていたシュタットベルケ に一定のニーズを維持できていることは、一定以上のコスト競争力と非コスト要因である、 地域密着型のサービスをもっていたからである。こうした強みを発揮できる事業環境があ った点も見逃せない。 シュタットベルケでは大手の電力会社に対抗するために、どのようなコスト競争力も持 ち得ているのか。様々な要因が考えられるが、その中で主要な以下の 4 点の要因を取り上 げる。 1 点目は、市場調達を活用した調達コストの低減である。 ドイツでは電力の卸売市場が充実しているため、シュタットベルケは市場からコスト競 争力のある電力を調達することができる。ドイツの市場取引を通した全電力消費量を占め る資エアは 14%であり、2013 年に全国の取引量が 1.3%に増加した日本と比較して、遥かに 高い。そうした市場状況の中でシュタットベルケは自身の持つ地域内での発電所を保有し ているが、それに固執することなく、単価と卸売市場の取引額を比較したうえで、需要と のバランスを見ながら最適調達を行うことができる。更に、他のシュタットベルケと連携 し、電力の共同調達を行うことで、一層のコスト削減を図ることも可能である。 2 点目は、熱事業である。 熱事業ができることは、需要家に近接した電源をもつシュタットベルケの大きな強みで ある。自身の発電所から発生した熱を供給することで設備ベースの収益拡大を図ることが できる。また、市場調達と合わせることで電気供給率の高い発電設備を優先的に稼働させ

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ることや、季節や風土を考えて再生可能エネルギーの柔軟な利用を行うことができるので、 企業として収益の拡大を図ることも可能である。前章で取り上げたが、地域で生み出され た熱は地域でしか利用することができない。大手電力会社の大規模集中型システムの発電 方式では、発電に伴う熱が膨大であるために、有効利用することは難しい。このように電 力と熱事業の有効利用は大手電力会社に対する有効な競争力となる。 3 点目はインフラの利用環境である。 シュタットベルケは、配電網を所有するケースと市内ケースがある。後者の場合でも、 発電した電力を市場へ販売する際や、近隣需要家に販売する際に安価に配電網を活用でき る。この点は他地域の電源でも同じだが、シュタットベルケには熱供給配管も低コストで 活用できるというメリットがある。ドイツの熱供給配管は、1970 年代のオイルショック時 に国の支援により整備され、現在では多くが償却を終えているため、日本での熱供給事業 で問題になる熱配管の投資回収負担が大きく軽減されている。 4 点目は一定の事業規模である。 シュタットベルケは、地域電力会社であるといっても、日本の特定規模電気事業などと 比べ、遥かに大きな事業規模を持っている。日本では特定施設・特定需要家向けの発電・ 小売事業の考え方が自家発電から初辰したのに対して、シュタットベルケは地域電力会社 に端を発しているために、地域の配電網を利用したより画的な事業展開をしているからだ。 その結果、各戸を訪問して省エネルギーサービスを行、自身の熱から熱供給を行うなどの シュタットベルケならではの事業を行いながらも、大都市では大手電力会社にも遜色のな い経済性も追求できる。 一定の競争力と顧客の密着性、これらはシュタットベルケがサービス事業者として選ば れるための必要条件であるが、市民が見出すシュタットベルケの最大の意義は、地域の貢 献だろう。 しかしながらコスト競争力はシュタットベルケの主要な差別化要因ではない。その強み は、むしろ非コスト要因の競争力に拠るものである。それが地域密着型のサービスである。 需要家と近接、あるいは一体化している距離を活かし、単なる電力供給に留まらない、 地域の要望も最も重視した考え、需要家に様々なサービスを提供しているからである。例 えば Duisburg 市の Stadwerke Duisburg Ag は、家庭にコンサルタントを派遣してエネル ギー消費診断を行う、サーモグラフィーを活用した断熱材評価を行う、などのサービスを 提供している。また、Manheim 市の MVV Energie は、家庭の電気配送電であっても障害が 発生したら技術者を派遣する、停電によって冷蔵庫内の食品が損傷を受けた場合には損出 額の補填を請求できる。など信頼感や安心感を高めるためのサービスを打ち出している。 顧客に省エネをされるということは、電力会社にとっては収益上プラスにならないが、よ

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り長期的な顧客との関係維持を重視する姿勢を打ち出している。ただの電力会社であれば 赤字偉業は切り離せばおいが、公共出資のシュタットベルケは、地域のために運営すると いう役割を持っているため、赤字事業であっても市民にとって不可欠な事業は高収益事業 から収益補填によって維持されている。また、市民側もその点を理解しているために、シ ュタットベルケに対するロイヤリティーを抱きつつ、シュタットベルケの販売電力を選択 している。 シュタットベルケが市民から選ばれる理由として、地域密着型のサービス以外にもシュ タットベルケが存在することによる地域資源の活用や、地域雇用の創出などの点で貢献し ていることも大きな要因となっている。 シュタットベルケは、地域の水力発電所やバイオマス発電などの運営、廃棄物処理炉や コジェネレーションから発生する熱の利用度による地域資源を有効活用しているため、地 域内での資金循環が生まれる。 Standwerke Duisburg AG の調べでは、1 ユーロ(100 セン ト)の電離欲の支払いについて、大手電力から電力を購入した場合の Duisburg 市への資金 還流が 12 セントしかないのに対して、党シュタットベルケからの購入の場合には 29 セン トになるとされている。 地域雇用の創出にも大きく貢献している。市内のシュタットベルケにより、直接雇用、 間接雇用、誘発雇用を合わせて 5600 人分の雇用が創出されているという。大手電力会社の 場合、管理職を中心に大都市や他地域から人材が送り込まれてくるので、地域に対してこ れだけの雇用貢献を果たすことは難しい。 このように、市民のシュタットベルケへの支持は、コストだけは充足することができな い多くの需要家のニーズの存在を示唆している。需要家は系統上で繰り広げられる競争に より生み出されているサービスのみを求めているわけではないということである。 第 3 章 国内での事例 3.1 日本版シュタットベルケの可能性について 前章で取り上げた“シュタットベルケ”は一定の地域に存在するのではなくドイツ全土 に浸透している。これは日本の各地で地域エネルギー事業を展開できることを示している。 地域密着型エネルギー事業者のシュタットベルケを国内で展開するには必要な政策や整備 が幾つか必要となる。これからそれらを述べていきたい。もちろん、ドイツでの熱導管敷 設の経緯、そして電力事業が運営されていたなど、日本ではそのままでは、適応すること ができない部分や政策の準備に時間を要するものなども存在する。 ドイツの事例と比較して事例を参考に、国内で地域密着型サービス会社、日本版のシュ

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タットベルケの実現にむけて電力自由化、固定価格買い取り制度以外にもいくつかの条件 が必要になる。地域密着型エネルギー事業を導入する地域は以下の活動を行わなければな らない。以下の条件が日本版シュタットベルケの実現には必要である。 3.2 日本版シュタットベルケに必要なもの 公共団体が主体となって、民官共同による長期的な投資の回収を行うことが地域エネル ギー必要となる。インフラ事業では投資回収の為、長期的な資金を集める仕組みが必須課 題である。 ① エネルギー供給に必要なインフラの整備 前章のドイツの地域エネルギーの事例を参考にしながら、国内版のシュタットベルケを 普及させるための仕組みづくりとして、これまでの大規模エネルギーシステムを中心とし てきたインフラ体制から、分散型の地域エネルギーが主体なるためには、いくつかのイン フラ整備が必要になる。 熱供給事業の整備 ドイツでシュタットベルケが大手電力会社との差異がある大きな要因として、熱導管イ ンフラを利用した、エネルギーの地産池消に注目できる。大きな力になっていることを前 章で紹介した。日本での地域エネルギーの転換のためにこうした長期的な収益につながる 地域内で発電することで、発生したエネルギーを地域で有効利用することによって、エネ ルギーの「地産池消」を行い、大手電力会社と差をつける方法になる。 これまでの日本の熱供給事業では、国の支援はあったものの熱配管を民間資産として整 備してきたことが事業としての拡大の抑制してきた大きな原因の1つである。熱配管の法 的耐用年数は17年に設定されているが、日本の実績を見ても、実際には40~50年の 利用が可能である。こうした長期利用が可能な資産について、地域では公共資産として整 備したうえで、長期の返還期間を前提とした利用料が算定される。熱配管を、下水道管、 水道管と同等の公共財とであると考えれば、自治体が起債等で、資金調達したうえで整備 を進め、のちに国が交付税を上乗せするなどの財政面での支援方法を行う仕組みが考えら れる。 配電網の拡充・中立性の確保 またドイツと日本とで大きく違う環境として、市が配送電網を所有している点がある。 つまり電気事業者から市に対して電力事業者から託送料金が入ってくる。それによって完

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全民間運営を行うことも可能になる。 配送電を、一部の電力会社が独占して所有していると、会社にとって有利になるように 新規事業者に対して不当な扱いをすることが考えられる。これはドイツの電量自由化後に、 大手電力会社が所有している配送電の託送料金を高く設定したことにより、新規事業者の 撤退・倒産が進み、大手電力会社の寡占がさらに進んだ、背景からも考察できる。 そうした事例を繰り返さないために、国内の送電部門では、既存の電力会社にも一部とな ることのない中立的な立場をとる必要があるとされ、送配電部門の中立化に当たって、発 送電分離の改変をおよそ 2020 年までにすすめる方針である。 ② エネルギー需要家の確保 地域エネルギー事業の長期的な経営を行うと考えた際に、安定的に資金回収が可能とな る、需要家の確保が必要な課題になる。ベースとなる需要をいかに確保することが重要で あると考える。そこで、自治体が事業者に関与することが重要な方法になる。自治体が所 有している、市庁舎をはじめに図書館、学校、病院、公営プールなどで電力を使用するこ とによって、安定的な地域エネルギー事業への需要家になることにより、初期段階で安定 的なロイヤリティになると考える。また地域住民や自治体、地域事業者にとって地産エネ ルギーを購入することによって自治体の再生が健全化され、地域活性化につながる。 ③ 低コスト燃料の調達 エネルギー事業の競争の小さい地方部では、大手電力会社が需要家に対して安い燃料の 供給を行うとは限らないため、燃料が高止まりする可能性がある。そのため地域エネルギ ー事業者は安定して低コストの燃料を確保することが重要な課題となる。 ④ 支援制度 これまでのエネルギー供給に関する資金の整備はエネルギー供給会社の事業から得られ る範囲で整備するものと考えられてきた。地域エネルギー事業は、地域資源の有効利用や 地域での経済的な支援のみならず、公共施設を中心に地域エネルギーのセキュリティを高 めることにも資する。しかし、到来のエネルギーの資金回収の考え方を使用すると、エネ ルギー効率の低さ・コストの高さから、熱事業・未利用エネルギーを利用することは困難 であった。これまでの資金回収のやり方かに固執することは、多様なエネルギー供給のあ り方を制約する。地域に利益が存在するのなら、エネルギー事業に用いられる資産でも、 道路、下水道、などのエネルギー以外の地域の資金に投入されてもよいのではと考える。 地域の自立的なエネルギー事業を普及するにあたって、長期的な視野を持ち、柔軟な公費

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投入のあり方が検討されるべきである。 ⑤ 分散型エネルギー事業者どうしの協働体制の確立 電力自由化や Fit 制度(固定価格買い取り制度の略称:再生可能エネルギーの普及を図 るため、電力会社に再生可能エネルギーで発電された電気を一定期間、固定価格で買い取 ることを義務付けた制度)などの規制緩和が進んでおり、2020年には配送電、熱供給 等の規制緩和も進んでいる。運用する電力会社と分散電源を持っている新規事業者が前向 きに連携することできなければ欠かせない。そこで大手電力会社と小規模電力事業者との 間で、中立的な立場の広域機関の新設が期待される。広域機関は新規電源の受付や情報の 公開、また複数の小規模発電所や系統電力と小規模発電所など、連携を高めるためのネッ トワークづくりを期待できる。 ⑥ 市民合意の形 自治体が地域エネルギー導入の意思決定において、住民は積極的に自治体の討論、意思 決定に参加していくことは重要な課題である。福島原発事故を契機に、改めてエネルギー 政策にスポットがあてられるまで、大規模型発電システムの利用が浸透し、エネルギー供 給者と需要者の意識や責任には大きな乖離が存在した。電力システム改革によって、電力 自由化や Fit 制度など、需要家がエネルギー供給者に対して目を向けることが多くなった。 現在、これから展開していく新規電力事業者、地域エネルギー事業を取り入れる自治体は、 これから住民と話しながら、政策を進めていくことが必須課題である。 自治体と事業者の透明性を明らかにし、エネルギー政策を導入した時の利点や生活に関 する影響をしっかり伝えることが重要である。市民との交渉には大きな労力と時間を要す るが、公共出資の市民インフラ事業のシュタットベルケ”を形成していくには必要である。 3.3 国内の事例 これまでドイツのシュタットベルケを国内で進めていくためにはどのような条件を必要 とするかについて調べてきた。本章では国内の地域エネルギーの先行事例として長野県飯 田市における官民協働型の地域エネルギー事業について紹介する。 飯田市では「分散型エネルギー自治」を掲げ、自然エネルギーを利用した持続可能な未 来のまちづくりを目指しており、省エネルギー事業・再生可能エネルギー事業に取り組ん でおり、全国で再生可能エネルギー導入を条例化した初めての自治体である。 飯田市は、長野県南部の中山間地域にある市で、南アルプスと中央アルプスの間に天竜 川が流れている美しい地域である。全国 2 位の日射量を持ち、太陽光発電、太陽熱利用シ

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ステムの促進に取り組んできた。自然エネルギーに関して飯田市の名が注目されてきたの は「おひさま進歩エネルギー」の協働である。事業者は市民出資型の太陽光発電事業スキ ーム開発し、市としては、牧野光朗市長の英断によって 20 年間の公共施設の目的使用許可 を与えるなどの、日本において、民間と行政が共同した本格的な地域エネルギー事業の先 駆けとなった。 2007 年の「第 5 次基本構想後期基本計画」でも省エネルギー・新エネルギーを活用の推 進を重点項目として位置づけ、2009 年の「第 1 次環境モデル都市構想」の中では太陽光や 木質バイオマスを推進する政策を展開してきた。さらには、メガソーラー事業などを官民 共同で手がけるなかで課題を明確にしていったことが、総合的かつ具体的な課題井解決対 策を込めた「飯田市再生可能エネルギー導入による持続的な地域づくりに関する条例」の 策定につながっている。この飯田市条例には、まちづくり委員会や地域グループ等による 前エネルギー事業の立ち上げを行いやすくするための様々な工夫が組み込まれている。飯 田市条例では、全国の試みとして、自然エネルギー資源から生まれるエネルギーを「市民 の総有的財産」として、市民にこの権利の行使を保証している。これにより市民自らが主 体となって、地域づくりをしていくことを可能にしている。 飯田市と協働しながら地域エネルギー事業をおこなっている「おひさま進歩エネルギー 株式会社」ではその他にも取り組みとして、今まで培ってきた経験を活かしたコンサルテ ィングサービスを行っている。そこでは、再生可能エネルギー・省エネルギー設備設置を 行うだけでなく、他地域での事業設立や新規立ち上げのサポートやコンサルティングなど の事業支援を行っている。 このような市民を活動の中心に考えて、持続可能なエネルギー供給を進めている飯田市 の事例は国内版の”シュタットベルケ”と呼ぶことが可能であると考える。 第 4 章 まとめ これからからの日本の地域エネルギー 国内では電力・ガスの自由化や Fit 制度などエネルギー市場の規制緩和が進んでいる。 この状況の中で、これからの日本で期待されるのは、市場競争力の底上げによって、既存 の大手電力会社の管轄的な領域を超えた競争の活性化に加え、他業種からの参入による「電 力」を超えた競争により、新たなイノベーションが生み出されることである。こうした市 場での競争を通じて、需要家に低廉で質の高いエネルギーサービスを提供されることが期 待される。そのために様々な強みを持った市場を形成することが必要である。 需要家は現在存在している系統上で求められているサービスだけを追い求めている訳で はないと言うことを地域密着型の企業のシュタットベルケが世界でシェアのある大手電力 会社の台頭する市場の中で生き残れたという事例から思い起こさなければならない。需要

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家に向けたエネルギーサービスとしては、飯田市での事例で行っていたような土地や風土 を利用した地域資源の活用、それまでは発電の際に捨てるはずであった熱を利用する、熱 供給による地域資源の好循環、地域における雇用創出等が考えられる。地域エネルギーを 各地域の需要家の特徴あるニーズを捉えて事業を行う事によって電力市場の底上げにつな がり、かつ需要家の電力会社のイメージを大手電力会社に対して事業体制の変化を促すこ とができる。全国にある 1700 の自治体が地域エネルギーを確立させて、国からエネルギー 供給を安定させることは、地域財政の基盤を安定させ、国の持続的な社会の形成につなが ることになる。 また、地域エネルギー事業で必要であることは、地域主導による分散型エネルギーと既 存の大規模集中型エネルギーシステムの利点・欠点を考慮し、エネルギー供給体制に役割 分担を与えることであると考える。これまで地域エネルギーシステムを全国に取り入れる ことで、地域の財政基盤の安定や、再エネ事業の取り組みによる自給率の向上などの可能 性について述べてきたが、分散型システムと大規模型との補完関係をつくることによって、 分散エネルギーで「できること」「できないこと」をはっきりと分けることで、各エネルギ ーのシステム価値が再認識され、大規模型のエネルギーシステムを所有している大手電力 会社にとって、新たな開発指標を生むことができるので尖鋭的な進化が可能になる。 ドイツで電力自由化後のドイツの事例もそうだが、大規模型のシステムと対立関係を生 む必要はない。つまり「地域に分散型エネルギーシステムがあれば大規模集中型システム は必要なくなる」という考え方である。半年ぶりに電気事業法の改正によって電力市場の 関心が急速的に高まっていて、分散型エネルギーシステムには大きな期待が高まっている が、重要なのは、大規模集中型も分散型エネルギーシステムもニーズを充足させる手段の 1 つであることを考慮しなければならない。 感想 東日本大震災を契機になり電力事業法の改正は、需要家がこれまでの供給体制に不安を 持ち、エネルギーへの注目が大きな要因である。本論文では地域分散型エネルギー の必要導入性についてドイツとの自由化の歴史と“シュタットベルケ”と比較し述べるこ とで、国内での地域エネルギー導入の条件を述べてきた。これから地域エネルギーを導入 していくため、また現状で政策変更をおこなった、電力自由化や Fit 制度などを成功させ るためには自治体や事業者が透明性を持ち、個人、また地域単位で、需要家が常にエネル ギー施策に対して目を向けて、自身の使用している電力供給について考え理解することで 供給した電力に対して責任を持つことが重要である。そしてこれから更に化石燃料の調達 が難しくなる前に、各地域が持続可能なエネルギー供給体制を取れるような政策を考えて

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いくことが国の責務であると思う。地域エネルギーの自立によって、国内の経済発展やイ ンフラ基盤はより安定した物になることをこれからも注目して期待したいと思う。 謝辞 本論文を作成するにあたり、ご指導を頂いた本学 枝廣淳子教授には心より深く感謝して います。また日頃の議論を通じて多くの知識や示唆を頂いた枝廣研究室の皆様に感謝致し ます。

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参考文献リスト ①井熊均 著(2014 年)『<シリーズ電力最大編>電力小売全面自由化で 動き出す分散型エ ネルギー』(日刊工業新聞社) ②「海外ビジネス最前線 ドイツのシュタットベルケ 電気もガスも水道もシェア伸ばす 地 域密着型の総合インフラ事業」『日経エネルギー』12 号(2016 年 1 月出版)p22-2 ③川除隆広「先導的な地域エネルギー事業に取り組む 地域の研究機関・大学とシュタット ヴェルケの連携 : ザルツブルグ SIR、シュツットガルト工科大学」『クリーンエネルギー』 8 号(2015 年 8 月)p45-50 ④大島型一「電力システム改革と原子力延命策」『経済』No.251 新日本出版社編(2016 年 8 月) ⑤大平佳男「地域産業との連携による再生可能エネルギーの新展開(最終回)地域産業と再 生可能エネルギーの連携の展望」『文化連情報』460 号 p44-47 ⑥松井英章「電力自由化と地域エネルギー事業 : ドイツの先行事例に学ぶ」『JRI レビュ ー』Vol9.No.10(2013 年) ⑦滝口信一郎「地方創生とエネルギー自由化で立ち上がる地域エネルギー事業-ドイツ・シ ュタットベルケからのしさと地域経済への効果-」『JRI レビュー』Vol.9.No.10(2013 年) ⑧松井英章「日本版シュタットベルケ(1)ドイツに学ぶ地方公益サービス : もはや限界、 地域単位で事業一本化へ」『金融財政 business : 時事トップ・コンフィデンシャル+』10541 号(2015 年 12 月 7 日)p14-17 ⑨青山光彦「日本版シュタットベルケ(2)ドイツ流公益サービスの萌芽 : 地域資源・資産 活用し成功例も」『金融財政 business : 時事トップ・コンフィデンシャル+』10544 号(2015 年 12 月 17 日)p14-17 ⑩山崎新太「日本版シュタットベルケ(3)新公益サービス、事業化の要点 : 官民連携し地

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産地消で稼げ」『金融財政 business : 時事トップ・コンフィデンシャル+』10545 号(2015 年 12 月 24 日)p4-8

⑪平沼光「特集 地域エネルギーの持続的活用に向けて(中)地域が主役のドイツの再生可能

エネルギー事業 : 経済循環を促す市民エネルギー協同組合とシュタットベルケ」『地方行

政』10686 号(2016 年 12 月 5 日)p10-14

⑫ STADTWERKE JAPAN「シュタットベルケとは」,http://www.stadtwerke.jp/about/

2016 年 1 月 10 日 ⑬超リアルタイムビジネスが変える常識:松尾 康男「ドイツの地域電力会社“シュタッ トベルケ”が示す電力業界の未来――第 1 回:大手電力会社を凌ぐシュタットベルケの地 域密着型サービス」http://www.sapjp.com/blog/archives/12367 2016 年 12 月 ⑭DIAMOND online 「電力システム改革の本質」【後編】ドイツの“地元”電力会社「シュ タットベルケ」に学ぶ:松井英章http://diamond.jp/articles/-/42290 ⑮ energy navi 「 地 域 エ ネ ル ギ ー の 参 考 に な る ド イ ツ ・ シ ュ タ ッ ト ベ ル ケ 。」 http://energy-navi.com/%e5%9c%b0%e5%9f%9f%e3%82%a8%e3%83%8d%e3%83%ab%e3%82%ae%e3 %83%bc%e3%81%ae%e5%8f%82%e8%80%83%e3%81%ab%e3%81%aa%e3%82%8b%e3%80%82%e3%83%89%e 3%82%a4%e3%83%84%e3%83%bb%e3%82%b7%e3%83%a5%e3%82%bf%e3%83%83/#i-4 ⑯おひさま進歩エネルギー株式会社hp<http://ohisama-energy.co.jp/>

⑰Japan Business Press 「全国初、再生可能エネルギー導入を条例化した飯田市」 <http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39860?page=2>

参照

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