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龍谷大學論集 479 - 009吉川 悟「システムズアプローチにおける下地作り過程 : 介入プロセスにおける文脈構成」

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(1)

システムズアプローチにおける下地作り過程

一一介入プロセスにおける文脈構成一一

τ伝 口 -E ・ E

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1

,はじめに

システムズアプローチに対する関心が高まり,多くの臨床場面で家族同席で はないが,家族を意識した面接がみられるようになっている。こうした傾向を 家族療法の普及という点から見れば,肯定的に捕らえられるが,家族療法の特 徴が指示的アプローチであるため,その実施にあたっては,治療者が留意すべ きことも多い。その最たるものは,治療者の認識論の転換である。この認識論 の転換が行われないままで,家族療法の実践に取り組むことは,治療として家 族療法を受けるクライエントらにとって大きなリスクを伴うo特に,治療者が 提示する「指示」というコミュニケーションの危険性が理解されないまま,方 法論として有効な家族療法が普及することは,家族療法に対する今後の社会的 な評価にも深く関連するからである。深刻に考えるならば,治療的アプローチ としての家族療法の効果に対する誤解を招くことにもつながりかねないと考え る。 家族療法の実施に伴う陥りがちな危険な「指示」として,家庭内暴力の事例 に「もっと暴力を振るいなさいJなどと逆説的な指示するこにより,患者の暴 力行為が激化したこと,境界例の事例に「あなたの症状は両親の対立や葛藤を 回避するために機能しているJ と症状を家族関係と結びつけることで,患者の 症状の悪化と家族での対立が顕在化すること,相互に憎悪の対象である父子に 「今ここで話し合いをしなさい」と指示し,激昂の末に殴りあいになったりす ることなど,数挙に暇がない。中堅の治療者であっても,治療者が無謀な介入 を行っているために,クライエントらの治療に対する動機づけを低下させてい るにもかかわらず,治療者が「あの家族は,変化に対する動機づけが足りなか ったのだ」とクライエント・家族にその貿任を転嫁するといった治療者の合理 化なども少なくない。 - 34一 龍 谷 大 学 論 集

(2)

これらのエピソードは,家族療法の介入方法を表面的に真似るだけで,それ ぞれの介入方法の有効性と限界を理解していないことに端を発している。家族 療法において指示的コミュニケーションの機能性を正しく理解しているならば, 安易にその指示を流用することによる弊害であることを理解するのはたやすい。 あまつさえ,クライエントらの状況を治療者が無効な「指示」をすることによ ってより悪化させていることを責任転嫁するなどは,なにをかいわんやであるo 本論では,家族療法の様々な立場での介入過程をより効果的に構成するため, 認識論の転換に関係の深い介入過程の構成の前段階に不可欠な「介入の下地過 程」について検討する。そして r下地過程」をもっとも効果的に構成するた めの概念として r文脈構成」の必要性に触れることとする。なお,本論で述 べる家族療法とは,精神分析的な家族療法,及び

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を含ま ないこととする。

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,問題の背景

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,認識論的転換 家族療法を新たに導入する場合,導入初期の段階では,家族療法の治療的効 果の有無を探るために r介入過程のありかた」や「介入技法Jなどの技術的 な習得に集中しであることが伺える(東ら

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)

0その際の情報源は,マスタ

ーセラピストの著書やビデオなどが利用されており,家族療法の重要な認識論 の転換に触れることが少ないことが指摘されている(古川 2006b)0 このように初期段階から介入技法をそれぞれ独立した技法として認識した場 合,新たな介入技法が紹介されるたびに,その技法だけが注目されかねない。 しかし,新しく提示された介入技法の多くは,実際には過去のマスターセラピ ストが既に行った治療的態度の二番煎じにすぎないことが多く見られる(吉川 2006a)0これらの誤解は,家族療法の初期の技法の効果に関する説明が,ま さに「治療者が変化させた」という立場から記載されていたものを r治療者 は家族の変化を増幅した」という視点や r治療者が家族に起こっていた変化 を強化したJ という視点で記載するという,いわば治療システムの相互作用の 説明言語だけが変遷していると思われる場合も少なくない(吉JII2008)。 こうした家族療法の導入初期の混乱は,様々なマスターセラピストの著書か ら介入技術を導入しようとしたときに起こった混乱である(白木

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)

。患 者・家族にとってより有効な治療的接近方法を模索し,それぞれの著書や事例 を検討した場合に,介入技法の技術的側面が強調されすぎているため,その介 システムズアプローチにおける下地作り過程(古川1) -35一

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入戦略の行使に必要な要件についての記述がほとんど見られない。マスターセ ラピストの著書では,派手な介入技法が満載されていながらも,そのための治 療システム形成の手続きゃ,具体的な面接の流れの構成方法などに関する記載 は少なく,ディレクティプでアクティプな介入技法の紹介が中心となっている。 これが家族療法の普及に大きく貢献している反面,その誤解を増幅することに なっていると考えられる。 治療的介入についての議論において無視できないのは,介入プロセス全般に 関与する「治療者の相互作用に対する認識のあり方J,いわば認識論そのもの だと考えられる。家族療法における認識論とは,理解すべき理論ではなく,治 療者のアセスメントの柔軟性につながるものの見方・考え方で,崎尾(1991) が「研究対象とすべきものの論理階型について検討する必要がある」と述べて いる点が重要である。しかし現状では,認識論的な混乱が生じている。その一 例は,石川(1989)の「一応家族が悪いということにしておく」という立場と, 東(1986)の「家族を問題として扱うのはよくない」という異なる提言である。 それぞれが認識論的転換を求めていながらも,強調すべき視点を変えているだ けであるにも関わらず,従来の認識論に留まる限り rこの両者のいずれが正 しいかJ といった議論が生じたり,あまつさえこの議論が認識論的変化の有無 に関与する重大事項である,といった混乱を生むものである。 こうした認識論が一般に理解されづらい要因には,言語の問題が顕著である。 言語を介して治療システムの相互作用を表現する場合,言語自体がもっ直線的 な認識論に基づく記載形式にならざるを得ないという問題である。「治療者が 話題

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について話したJ という文章形式は,主語である治療者が恋意的にある 話題を意図を持って話したという認識を含むものとなるため,ある立場からは 「 ま さ に 操 作 」 と い う 意 味 を 含 む 表 現 形 式 と な っ て し ま う ( 池 上 1984, Bateson 1955 = 1986)。そこに「まさに戦略,まさに操作J という事実も,ま ぐれ当たりのような「治療者の気分J という事実も有り得ないにも関わらず, 文章の形式が誤解を与えているということを理解しておく必要がある。 こうした認識論そのものを記載するが困難であること,加えて複雑な相互作 用が起こっている過程を表現しようとすることは,従来の臨床的技法の活用と 同様に,ある種のパターナリズムを生み出す危険性がある (Foucault1963= 1969)。臨床の場の倫理的な立場から見れば,クライエントらの福祉を優先す るためにも,パラダイム転換が必要かつ重要な要件であると考える(吉川 2004)0 - 36一 龍 谷 大 学 論 集

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ー し こ と ば の 論 理 階 型

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が様々な認識論的誤謬について語っていることの中でも,心理療 法 に 直 接 関 連 す る 「 言 葉 の 問 題 」 と し て 論 理 階 型 に 関 す る 下 り が あ る

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1979= 1982) 0

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の『精神と自然』では「メンバーとクラ スは異なる階層に属する言葉」であることが述べられているが,ここでいう 「階層」を理解するためには,システムズアプローチでよく用いられている 「枠組み」といことを理解しなければならない。 「枠組み」とは,極論するならば「事象に付けられた名称J である(吉川ら 2001)0 われわれが日常何気なく用いている言葉は,それぞれが指し示してい る固有の事象やその断片,時間経過を含む長期的相互作用などであるo それら は,個々に言葉を用いている個人にとって固有のものであると同時に,社会的 に客体化した対象としても扱われるものである。心理療法の現場では,言葉を 客体化された対象を指し示すものとして扱いつつ,一部で内在化された体験を 外在化する手法のーっとして活用している。いわば,それらを治療者の主観的 判断に準じて使い分けているといっても過言ではない。 しかし,個々の客体化された言葉であったとしても,それらの指し示すもの には階層が存在しているo たとえば,

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の提示したクラスとメンパ ーの聞にも rrクラスヨメンバー』という集合における全体と部分の関係が存 在しているo クラスはメンパーという要素の集合であって,クラスがメンバー の要素にはなり得ない。 これと同様の関係が心理療法の場の言葉における混乱を指し示している。そ の実例は,以下の通りである。 思春期の子どもが母親からあれこれ苦言を呈されている場面の会話(遊佐 1984)0 子供:お母さんはいつも僕を子ども扱いする! 母親:だってあなたは私の子どもなんだから…・・ これは「子どもJ という言葉にお付る枠組みの差異を内包していながらも, その違いを容易には説明することができない例である。 不登校の子どものことを巡っての両親の会話(吉川 2006c)。 父親:メリハリのある生活のためには,朝にちゃんと起きることが必要だ と思います。 システムズアプローチにおける下地作り過程(吉川) -

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37-母親:でも,うちの子どもは不登校ですから,朝が起きれないのは当然な んです。 これは,母親の述べる「不登校Jならば「朝が起きれない」というのが正し い理解であれば r朝が起きれない」ならば「不登校」となるということにな ることになるo 家族療法の臨床場面においては,このような言葉の指し示す枠組みに着目し, その階層関係を常に意識し,システムズアプローチを実践している。こうした 何気ない言葉として活用されている言葉の枠組みの階層関係に着目することが 不可欠だからである。 2 - 3,治療的相互作用では何をどう扱っているか すべての心理療法で行われている「情報収集」は,何をしているのだろうか。 家族療法において行われる情報収集においても r患者の問題に関わる相互作 用とその状況に関わる情報を集めている」ということになるが,この表現はあ まりにも暖昧である。それは,それぞれの心理療法の立場によって症状論との 関係の中で着目する相互作用が異なるからである。多くの心理療法ではそれら を「相互作用」とは呼ぱず,個人の「心理過程J と称することが多い。それは, 個人心理学の上に多くの心理療法が成立しているからである。 治療的な相互作用では,その相互作用自体を変化の対象として言葉によって 働きかげるか,その相互作用に付してあった枠組みを変えるように働きかける か,いずれか,または同時進行である。いわば,相互作用自体を変化させると いう目的の相互作用を行っているか,相互作用を変化させるために枠組み変更 を行っているかである。 しかし,この表現には大きな誤解が生じる危険性がある。それは,治療者が 一方的に相互作用を扱っているのではなしある特定の相互作用に付与された 枠組みを事象とは関係なく信じてしまいかねないこと,また,自らが相互作用 の一方として存在していることを忘れてしまいかねないことであるo これは, 相互作用が生じている場面が,相互作用に関わるいずれかの意図だけで構成さ れるものではなく,あくまでも治療者は,その一部として存在し,結果として 相互作用を構成しているという立場を自覚する必要があるo - 38- 龍谷大学論集

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3,文脈構成

3 -1,治療的相互作用によって生じる文脈について 治療という場に限らず,日常的な会話においては,常にその会話を会話とし て成立させるための「文脈」が成立しているo 日常的な会話であっても,その 会話が成立するためには,常に

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についての会話」という理解がそれぞれ に求められることになる。たとえば, r A→B →C →D →

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n.という会話が成 立しているとすれば, rrA→

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n.という発話行為のつながりにおけるBが発せ られる前提は, Aによって制限されている(西阪 1990)。いわば, Aという話 題が指し示す枠組みの中のいずれかがBという発話行為と関連づけられたもの となっていることが基本となっている。こうした個々の発話行為のつながり方 がその会話の文脈を構成しており,加えて,そのいくつかの相互作用のまとま りによって生じている枠組みが,他の相互作用の枠組みとのつながりを構成す る要素となり,こうしてより大きな文脈が構成されることにつながっていると 考えられる (Leech1980= 1986)。 臨床場面の会話において rうまくいったケースは,会話がスムーズであっ たJ といわれたり r治療の展開に,首尾一貫した流れがあった」などという 印象が聞かれる。これらは,個々の細かな部分の相互作用によって構成された 文脈が,より大きな文脈を構成することとのつながりがわかりやすく,直接的 に関連していることが明確であることを示している(狩野 2002)。そして,結 果的に解決という状況を構成するための相互作用は,常にいずれかの文脈によ って構成された他の文脈との関連があることが明示されているからである。い わば,個々の発話行為と治療全体の流れが常に関連した階層性を構成している ことを示していると考えられる(吉川ら 2000)。 3 - 2,文脈構成の基本 こうした治療における相互作用に一定のつながりが構成されていることを本 論では「対話の文脈構成」と定義したいロ文脈は,家族療法における語用論的 認識に基づくコミュニケーション相互作用を理解するための指標であり,会 話・出来事の前後関係,行為の順序関係,エピソードの構成のされ方,状況設 定のあり方,行為の生じた場面の雰囲気などを指し示している (Watzlawick e

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al 1. 967 = 1998)0 そして,文脈構成とは,個々の出来事の関係やつながり 方によって,そこに新たな意味や出来事を作り上げる一連の手続きや全体の作 システムズアプローチにおける下地作り過程(吉JII) -39

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-業のことを示しているロシステムズアプローチでは,治療場面でのそれぞれの 発言のつながり方や関係を,ある窓図に基づいて一連のまとまりとするように つなげ続けていくことによって r発話行為・エピソード・関係性Jなどの多 様な階層にある枠組みを構成することを示している (Pearcee

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al.1980)0 こうした文脈構成をこれまでの家族療法における様々な方法論でどのように 活用されているかを考えた場合,以下のように整理することができる。ここで は,ある特定のメッセージや態度,対応などによって特徴的に治療的文脈を作 るのではなく,一定の相互作用を構成することによって,結果的にある特徴的 な状況設定を作り出そうとする行為の集まりを示すこととする。 ① MRIに 含 ま れ て い た 文 脈 構 成 (Watzlawicke

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al.1977)0 MRI (Mental Research Institute)では,あえて治療者は,頼りなく,丁寧 な姿勢を相手に示すという特徴的な治療関係を構成するために, one -down positionという治療関係を構成するための意図的な対応があり, この相互作用が特徴的な文脈構成を行った結果生じていると考えられる。 ②戦略的家族療法に含まれていた文脈構成 (Haley1976= 1985)0 戦略的 家族療法では,逆説的指示や課題設定が頻繁に活用される。そして,その 逆説的指示の妥当性を示すためには,クライエントや家族との間で指示の 論拠を巡って了解を得ることが不可欠となる。その了解を得るためにクラ イエントや家族の相互作用の特徴的な部分に着目させるため,意図的に情 報を絞って共有するという文脈構成が成立していると考えられる。 ③ 構 造 的 家 族 療 法 に 含 ま れ て い た 文 脈 構 成 (Minuchin1974= 1984)0 構 造的家族療法では,夫婦や同胞などのサプシステム聞の関係に挑戦するた めに,現状の関係のあり方についてリアレイミングをすることが挑戦する 前の相互作用に必ず含まれている。それは,単純に現状の相互作用のあり 方に挑戦することによって生じる治療関係の困惑を回避する複線であり, この場面の相互作用が特徴的な文脈構成になっていると考えられる。 ④ 象徴的・体験的家族療法に含まれていた文脈構成 (Whitakere

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al. 1978= 1990)。象徴的・体験的家族療法では,強固にパターン化している 構造への挑戦をするため,現状のパターン化した相互作用についてのメタ フォリカルな逸話を提示するo これは,指摘すべき対象となる構造につい ての話題を直接的に取り上げるのではなく,比喰的に指適することによっ て情緒的な安堵感を生み出すために用いられているo この逸話を提示する 相互作用が特徴的な文脈構成となっていると考えられる。 - 40一 龍 谷 大 学 論 集

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⑤ ミラノ・システミック・アプローチに含まれていた文脈構成

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1974)0ミラノ・システミック・アプローチでは,治療的介入の手段 として

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を家族に提示する。これは,ストーリー仮 説を肯定的に取り扱うため,その仮説を作り上げるための円環的質問法に おいて,家族の時代ごとのストーリーを構成する必要があるo この仮説設 定のための相互作用が特徴的な文脈構成になっていると考えられる。 ⑥ ソリューション・フォーカスド・アプローチに含まれていた文脈構成

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1987) 0ソリューション・フォーカスド・アプ ローチでは,すでに構成されている解決を語らせるために例外を探索する 質問が多様に用いられている。その中でもこれまでの悲惨な経緯を扱う

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は,当時の問題への対処を聞き出すために用いられる ものであるo これによって自らが深刻な問題に対して例外的な対処方法を 行っていることが自覚できるようになるo この例外を生み出している話題 となる相互作用が特徴的な文脈構成となっていると考えられる。 このように,これまでの多くの臨床実践においては,特徴的な介入技法を有 効にするため,多彩な文脈構成が見られる。ただし,これらの文脈構成につい ては,それぞれの立場の治療者が主張するものではなく,逐語記録から想定さ れている介入技法に至るまでの治療的対話を分析した結果,その存在が明確に なったものであるo 3 - 3,社会構成主義と文脈構成 社会構成主義

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は,家族療法の世界に大きな転換をも たらした。それまでの治療者からの窓意的な相互作用の構成を基本ととして成 立した家族療法からの大きな転換であり,もはや家族療法ではなく,ナラティ ヴ・セラピーと称されるようになった。しかし,すべてのナラティヴ・セラピ ーが文脈構成を意識したものではなく,

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が提供 したいくつかの特徴的な治療的対話の構成方法が,本論で述べる治療的な文脈 構成であると考えられる白

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が提供した究極の文脈構成

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は,治療者が治療場面において治療的対話の作り上げる対話の特 徴に注目し,これまでのような単純なアセスメントではなく,問題を象徴化す る「問題の外在化

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を提唱している(Wh

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システムズアプローチにおける下地作り過程(吉111) -41

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-al.1990

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1992)。これは,問題となる部分をクライエントとの間で共有し, それを外在化するために象徴的な「名前」をつけ,その名付けられた部分をク ライエントと分離した形式で話題を構成するというものである。それは,問題 がクライエントにどのような影響を与えているのか,そしてクライエントがそ の問題にどのように影響を与え得ることができるのかを話題とするものであり, これを「影響相対化質問

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と呼んでいる。

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問題の外在化」について

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意味も仮定するいかなる表明も 解釈的である」とし,問題をマップし,その問題をアナロジーとして象徴化し, 解釈的枠組みができるだけ多様に取り入れられるようにすべきであるとしてい るo そして r問題の外在化Jの手続きについての留意点を,以下のように整 理している。 ① 人々の人生と人間関係に対する問題の影響をマップするようにクライエ ントらを励ますことo ・「外在化」とは,人々にとって耐えがたい問題を,客観化または人格化 するように人々を励ますことである ② 問題の「存続J に対するクライエント自身への影響をマップするように 援助すること0 ・「問題のしみ込んだ描写

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がクライエン トらにとってのドミナント・ストーリー

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となっているo ・クライエントらが自由に新しい問題がしみこんでいないオルタナティ ヴ・ストーリー

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が描写できるようにすること o ③ 「外在化」によって問題を客体化・人格化させる ・個人に内在化され r問題のしみ込んだ描写」の中でのみ扱われていた 問題を,他から影響しうる存在として対話の中に引き出すこと。 このように羽市

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,M.は

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問題の外在化」の実体は

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外在化」にあるの ではなく,影響相対化質問にある(前掲

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と述べているo そして,問題 が外在化され,対話の文脈にクライエントとの整合性が共有されている限りに おいては,そこで交わされる対話の前提となる枠組みには,人々がどのように 問題に影響され,影響しているかという下位の文脈を決定するものであるとし ているo こうしたWh

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の提唱したナラティヴ・セラピーは

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問題の外在化」 が象徴的な介入技法であると見なされる傾向が強いが,実質的な相互作用を構 成するためのキーとなる概念は,やはり「影響相対化質問」を繰り返すことに - 42ー 龍 谷 大 学 論 集

(10)

よって作られた文脈構成そのものである。

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が提供した究極の文脈構成

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は,心理療法において当然視されていた構造化されたアセス メントのための質問を重視せず,治療者一クライエントらの治療関係において 生じるこれまでにない文脈構成に着目したと考えられる。

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は, 患者が問題を持つことによって生じた体験について語ることは,クライエント にとっての独自のローカルな意味・対話

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であって, 一般的なことばと異なる扱いをする必要があるとしている

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2001)。そのためには,多くの心理療法で行われている構造化されたアセスメ ントのための質問によってクライエントらと対話するのではなく,治療者が 「無知の姿勢

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で対応することによって,治療者にと ってのそれまでの経験と理解の仕方を絶えず新しい解釈に変わり続けるための 原動力となると述べている

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は,自らの治療に対する姿勢として「無知の姿勢」があるべ き姿であるとしつつも

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治療 における質問は,今話されたことに突き動かされて出てくる」べきものである としている。そして,自らのナラティヴ・セラピーに対する姿勢として,以下 のように述べている

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0 ① 治療的質問,会話的質問こそがセラピストの専門性を発揮する道具であ る0 ・セラピストが理解の途上に留まることで,患者から教えられることにつ なカまること。 ② ローカルな語議とローカルな会話が新たな物語の空間のために用いられ るものである0 ・一人称で語られることは,ローカルであり,特別な意味規定を常に含む ものであるo ③ 治療的質問とは,可能性の領域に踏み込み未知の事項と予見できない方 向性を導く0 ・治療者からではなく,患者が見ている現実からの質問を投げかけること が有効である。 ④ 個々の治療的質問は,物語の再構成のための部分である。

• 1

つの有効な質問を考慮するのではなく,有効な多くの質問を行うこと システムズアプローチにおける下地作り過程(吉川1) -43

(11)

-が必要である。 ⑤ セラピストは,治療の場で語られる経験や物語が解答となるような質問 を見出す0 ・ローカルな中での問いと答えの繰り返しで,理解や物語ができあがる。

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は,治療者の「無知の姿勢」による治療的対話は,クライエ ントらのある決まった理解や物語に対する基本的な姿勢であり,この「無知の 姿勢」によってクライエントらと治療的な対話を続けることによって rいま だ語られていない物語

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に向けて,クライエントらの ストーリーが変わりはじめるきっかけとなると述べている。 このような治療的質問は,対話の文脈(患者のローカルな意味や対話を理解 しようとすること)が決定されているため,治療者のいずれのメッセージであ っても,そこで交わされている対話の前提には r自分の体験を語りなおす」 という上位の文脈を決定するものとなっていると考えられる。その意味では, 治療的な文脈構成として最も顕著な手続きを簡潔に示しているのが治療的質問 であると考えられる。

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,いくつかの文脈構成のあり方

文脈構成のあり方を検討した場合 rある話題」から目的となる「別の話題」 への自然な対話による話題の移行が基本であるo しかし,重要なことは,そう した話題の推移によって構成される文脈そのものが,一定の指向性を持つよう に内容的な意味構成をおこなう必要がある。 臨床場面での対話を前提とすれば,クライエントにとって葛藤的内容につい ての話題に対しては,ある種の緊張が伴うこととなる。そこでは,あえて話題 を回避しようとする策動や,話題を表面的に扱うに留めようとする策動などが 見られる。こうした葛藤への直面化の回避は,その文脈によって異なる意味づ けが構成されるものであるo例えば r母子の不要な心理的密着」を憂慮して いる母親にとっては,母子関係についての話題が提示されることによって,不 要な緊張が生じる。それは,母親自らが心理的距離を変更する必要を知的には 理解していながらも,無意識的にそれによって生じる自らの孤立感故に話題を 回避してしまうのである。しかし,母子間の心理的距離の調整とともに,母親 の孤立感に対する共感的意味や,代理的な孤立感回避の方略が文脈の中に構成 されてるならば,それによって母子間の心理的距離の調整についての話題を扱 う意味が大きく異なることとなる。それは,母親自身の孤立感をも含めて対応 - 44- 龍谷大学論集

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するのだという新たな意味構成を文脈から感じ取ることができるため,無意識 的な回避などの方略が不要となるからである。 このように文脈構成は,治療場面でのクライエント らの不要な無意識的策動 や,治療者からの直接的な働きかけによって生じる抵抗などを阻止することが でき,クライエントらにとっても新たな変化に対する多様性を提供できる可能 性があることを示している。ただし,こうした文脈構成をおこなうことは,意 識的に個々の話題を操作するに留まらず,それによって生じる意味がどのよう なものになるかを考慮しながら行う必要があるため,治療者としての話術的な 訓練が不可欠なものであると考える。 こうした話術的訓練においては,治療者の発話行為レベルで,自らが「文脈 構 成」を行えるようにするため,以下のことに留意し続けられるようにするこ とが必要となる。 ① 提示されている枠組みの関連性を常に掌握すること。 ② そこで扱われている話題に関連する枠組みを活用して,話題変更を自由 に

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子うこと。 ③ 話題変更をすることで生じる文脈的意味について参照し,それを治療的 文脈として構成できること。 ④構成された文脈を治療的文脈に置き換えるためには,常にクライエント らの日常事象を話題として扱えるようにすること。 ただし,文脈構成は治療者が一方的に話題提供を行うことではないため,ク ライエントらが治療者の提示した話題に対してどのように反応するかは,確定 的なものではない。したがって,これらの話題の構成を適切に行いうるかどう かが目的なのではなく,クライエントらが自由に反応した話題を含めて治療的 文脈を構成できるようにすることで,クライエン卜らのローカルな意味と,治 療関係において客体化された言葉の意味のそれぞれが結果的に文脈を構成する のだと考えるべきである。 4 -1,最も単純な文脈構成 単純な文脈構成の基本について考えるところからはじめたい。「ある話題」 が「何かの話題」に移行する際には,それぞれの話題で扱われている枠組みを 意識することが不可欠となる。違和感のない話題の移行では,基本的に「今の 話題で扱っている枠組み」について話題が提供され,その枠組みと関連・隣 接・類似する枠組みに僅かずつ移行していることとなる。その移行した枠組み システムズアプローチにおける下地作り過程(吉}l1) -45

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文脈構成の考え方

【基礎編】

図-1 を持つ話題には,新たに関連・隣接・類似する枠組みが存在しており,元の話 題とは異なる新たな話題につながる枠組みを扱う必要がある。 これらの細 か な 作業の中では,各々の話題によって提示された枠組みの上 位・下位の枠組みを常'に参照し続けることが前提となる。これを象徴化すると, 図 1のようになると考えられる。 この図は文脈構成の結果から示したものであって,現実の対話においては, ①治療者が主体的に枠組み設定を行うもの,②治療者と患者の対話の中で互い に枠組み設定を変え続けるものがあり,①は従来からの家族療法で活用されて いるものであり,②はシステムズアプローチやナラティヴ・セラピーなどで活 用されているものである。

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2

,高度な文脈構成 文脈構成を高度にすれば,連続する話題設定やエピソードの集まりによって, 文脈を構成し,そこに意味を作り上げようとすることになる。これは,単純な 文脈構成である「ある話題」から「別の話題」への移行を,自然な対話によっ て展開しながらも,その過程で隣接する枠組み問の中位と下位の枠組みだけを 用いて話題を構成し,ある部分の上位の枠組みだけをあえて提示しないという 手続きを経ることである。 この作業では,各々の話題によって提示された枠組みの中位・下位の枠組み をランダムに参照し続けながらも,あえて一部分の上位の枠組みを回避し,代 わりに下位の枠組みを積極的に話題の中に持ち込もうとすることである。これ -46一 龍谷大学論集

(14)

文脈構成の考え方

【実践編】

ーーーーーーーーーー四ーーーーーーーーーーーーーーーーーー・怪 図-2 を象徴化すると,図-2のようになると考えられる。 これは,その部分の上位の枠組みに対するクライエントらの抵抗が予測され たり,話題回避が見られる可能性が高い枠組みに関連する部分についてのみ, あえてできるだけ下位の事象レベルの話題だけを提示し続け,あえてその話題 の上位の枠組みに一切触れないようにするという手続きを行うことである。こ れによって,あえて回避した上位の枠組みは,クライエントらにとってその枠 組みを意識できるようにはしながらも,限定的な意味を付与しないようにする 際に用いるものである。 治療者とクライエントらとの対話においては,互いに「連関する枠組み設定 に即した話題を続けている」だけでありながらも,文脈的にはそこに隠されて いる上位の枠組みが文脈的な拘束力を持ってクライエントらに伝わることとな る。これは,ある一定の話題を「あえて語れないように話題をつなぐこと」に よって,クライエン卜らにとってある程度の自由さを持って受け入れられる文 脈的拘束力になるからである。 4 -3,高度な文脈構成 より高度な文脈構成は,最も臨床的に見られる方法ではあるが,論理的に説 明をする場合,複雑な手続きになる。通常の文脈構成を行いながらも,あえて 核心的な部分まで,下 位・中位の枠組みのみを話題として取り上げ続ける。そ こでは話題展開に種々含まれる枠組みを連続しつつ,あえて決定的な治療的文 脈を構成しないようにする。そして,対象となる枠組みについては,結果的に システムズアプローチにおける下地作り過程(吉)11) -47

(15)

園盟

文脈構成の考え方

【高度応用編】

図-3 直接的な話題として取り上げのであるが,それまでにその話題に関連する下 位・中位・上位のすべての枠組みについての話題設定を行うことで,対象となる 核心的テーマについての話題を回避できなくするように文脈構成を行うことで ある。 この作業では,各々の話題によって提示された枠組みの中位・下位の枠組み をランダムに参照し続けながら,むしろ文脈的意味を絞らないようにすること が重要で、ある。その上で,あえて一部分の枠組みと話題を直接的に扱い,核心 的な枠組みから話題が外されないように文脈構成を行うことである。これを象 徴化すると,図

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3

のようになると考えられる。 これは,核心的テーマに関する部分までは,特別な印象を与えず,核心的な 部分についての枠組と話題だけを強調することで,他の文脈との対比が結果的 になされるようにする。これは,吉川が治療的拘束として提示した手続きと類 似するものである(吉)11

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9

1)。 ここで示した高度な文脈構成は,システムズアプローチの実践において治療 的介入の際に必然的に行われている「下地作り過程」と同様である。治療者が 積極的に何かの指示やアドパイスを与えるのではなく,クライエントらが治療 者との対話の中から自らの可能性として選択し, 話題として提示した内容その -48ー 龍谷大学論集

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ものが変化のための課題としてアレンジされて提示されるという手続きが,シ ステムズアプローチの治療的介入である。したがって,文脈構成をどのように 窓意的に扱うかによっては,ナラティヴ・セラピーに見られる文脈構成も,治 療者側のある種の恋意的戦略として考えることもできるものだと考えるo

5,システムズアプローチの介入過程に関する 4つの指標

家族療法は, 1981年のGurman,A. S.らの分類で約8つの派閥 (Gurman et. al.1981),日本で最も著名な遊佐の分類で3つ以上の派閥(遊佐 1984)が あるとされている。これらは,それぞれが家族療法の立場でありながらも,治 療に対する強調点が異なり,治療システムの相互作用を示すための用語にも, それぞれ微妙な違いがあるからである日しかし,基本的にそれぞれのアプロー チは,家族療法の認識に準じた治療的展開を基本としている(吉川ら 1993)。 本論では,これらの家族療法の介入過程に焦点、をあわせ,そこに共通する視 点、を見出した。それは, ① 治療システムの相互作用の特徴に準じた介入過程の選択があること。 ② 介入プロセスの前段階に,選択された介入のための下地作りの過程が必 要なことo ③ 介入プロセスを持続するためには,可変的な対策が常時治療者に要求さ れること。 ④初期介入による変化に対応した,介入戦略の変更の可能性を治療者が介 入戦略自体に組み込んでいることo の

4

つの指標である。 なお,これは文脈構成の部分にも示したように,それぞれの立場の家族療法 による逐語録や面接のVTRなど,できるだけ面接での事実関係と,掌握でき る限りの情報を重視し,そこからそれぞれの治療システムでの相互作用の特徴 を簡略化したものから得たものである。 5 - 1,治療システムの相互作用の特徴に準じた介入過程の選択があることo 治療的介入プロセスを拡大解釈するならば,治療開始とともに治療者がクラ イエントらに影響を与える段階から始まると考えられる。しかし,一般的解釈 における治療的介入段階は,ある程度の治療システムが形成され,介入のため の情報収集・仮説設定などの作業が整ったと思われるアセスメントの後に行わ れるものであるo システムズアプローチにおける下地作り過程(吉JII) -49

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-この時点での治療システムは,それまでの情報収集のためになされた治療者 とクライエントらとの相互作用によって,ある程度「システム」としての特定 の構造や機能を形成していることになるo仮に,十分な配慮に基づいたジョイ ニング過程を経た後に,仮説設定のための情報収集を行うという定式的対応を 行ったとしても,決まった治療システムが形成されるわけではない。それは, ジョイニングの段階からクライエントらに治療者ができるだけ合わせるという 主旨に基づいて治療システムを形成しているからである。したがって,あるク ライエントらに対しては治療者が権威的になり,クライエントらが従属的にな るという特徴を示したり,その逆もあり得る。また,面接の場が笑いに満ちた ものとなる場合もあれば,たいへん強い緊張を苧んだままとなっている場合も 少なくない。 このように,介入過程の前段階で治療システムがある程度形成されているこ とは,不可欠な条件ではある。しかし,同様にその治療システムは一定の決ま った特徴を示すものではなしむしろクライエントらと治療者の相互作用によ って作り上げられた特徴を持つものである。いわば,介入過程までの治療者と クライエントらの相互作用によって形成された治療システムは,それぞれに必 然的な違いが生じることになる。 こうした治療システムの違いを視野に入れるならば,治療者がその特性に準 じた介入過程の選択を行うことが不可欠な要素であることは間違いない。いわ ば,治療システムにとって適切な介入過程を選択的に構成すれば良いことにな るo しかし,介入過程の選択は,単に治療システムの特性によって決定される ものではなく,むしろそれぞれの事例毎に治療者が設定した仮説に準じてどの 部分に働きかけることが適切であるかを考慮するものであり,治療的有効性を 考慮、した介入過程を構成する必要がある。 この前提に則るならば,介入過程の前段階までに構成されたそれぞれの治療 システムの特性をある程度変更し,より有効な治療的介入を行使できるように する必要があることとなる。しかし,治療システムは,治療者だけでは容易に 変化させられるものではないロ介入過程の前段階ですでに形成されている治療 システムの特徴は r有効な介入プロセスの選択の基準」となると考えられる。 いわば,治療者にとって有効性の高い介入方法であったとしても,そこまでに 構成された治療システムの特徴に準じて介入方法が限定されると考えられるの であるo - 50- 龍谷大学論集

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5 - 2,介入プロセスの前段階に,選択された介入のための下地作りの過程 が必要なこと。 まず r下地」について明確にしておきたい。どのような介入プロセスであ っても,治療者が情報収集を終えたからといって,突然のごとく介入を開始す ることは少ない。例えば,ミラノ派のポジティプコーノテーションであっても, 既に情報収集段階での変化が起こっている。それは「問題の焦点をずらすJ, いわばディフォーカスという形での介入の下地過程を含んでいると考えられる。 他にも,多くの逆説的介入では,現在の改善すべき問題を強化される課題が設 定されるため,その逆説課題を行うことにどのような意味があるのか論拠を示 すことが求められるo このような介入の「下地Jの特徴は,治療システムに介入プロセスのための 「文脈」を構成するという効果が最も重要であるo 「介入プロセスの下地作り」 によって起こる僅かづつの変化は,治療システムの相互作用にある種のルール を規定することになったり,介入プロセスのある程度の「見通し」を明らかに したり,治療関係の維持のためのリスク回避など,今後の展開における予測可 能性が高くなるからである。 具体的な「下地」は,治療システムでの情報が順次限定され,そこに新たな 変化の情報が組み込まれ,治療場面において要請されている変化のポイントが 明確になっていくo それに伴ってクライエントらには,期待と不安という矛盾 する感情が強くなり,結果的に困惑した状況になることも少なくないと思われ る。それを解消するためには,初期段階から積み重ねられてきた治療関係での 信頼感を基礎として,実質的な僅かな変化の繰り返しが層を成していくような 構造を構成することで,クライエントらが安心を持てるような治療システムで 新たな変化を引き起こす焦点が設定されていくと思われる。 5 - 3,介入プロセスを持続するためには,可変的な対策が常時治療者に要 求されることo 治療的介入は,治療者のシナリオ通りに進むことより,シナリオの書換えが 必要なことの方が多いのが普通であるo 介入プロセスでは,治療者が予定・予 測したとおりにクライエントらが反応するということはありえなし} o いくら治 療者がある程度の予測を用いて介入過程の柔軟性を確保しようとしたとしても, それでも予測通りの反応が生まれるものではない。しかし一方では,ある程度 の介入プロセスを持続させることによって,変化が生じやすくなるという場合 システムズアプローチにおける下地作り過程(古川) -51

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-も存在する。これを前提とするならば,治療者は常にアドリプ的な対応を含め て「可変的な介入プロセスを維持するための対策」を持ち続けなければならな いことになる。 多くの事例では,治療者の介入に対してクライエントらは,治療システムを 混乱させようとしているかのような反応や言動などが様々に起こる。治療者は その治療システムの混乱に対する対策を持っていることが必要で,最も望まし いのは「事前に対策を練ること」ではなく,治療者が気づいた段階でできるだ け早期に「自然に対応する」ことだと思われる。これは,介入プロセスでの治 療関係の困惑は,治療的介入の内容の価値を左右するものになるからであるo なぜならば,それまでの治療関係が良好であったとしても,やはり治療的介入 はクライエントらにとってある面の脅威となる可能性のあることだからであるo したがって,できる限りそれまで構成してきた治療関係を維持するためには, 可変的な対策を早期段階で行使できるようにすることが不可欠である。 5ーし初期介入による変化に対応した,介入戦略の変更の可能性を治療者 が介入戦略自体に組み込んでいることo 治療者は,介入内容の変更の必要性を,介入開始前の戦略に組み込んでおく ことが有効な事前対処となる。家族療法の戦略設定は,これまでは「どのよう な介入を用いるか」という選択が中心となってきた。しかし,どの逐語録や面 接記録からも明らかなのは,介入開始段階での介入戦略がその後も変更してい ないと思われる事例はないと考えられる。 仮説設定から介入戦略決定までのプロセスでは,基本的な仮説自体が変化し たり,クライエントらにとって焦点化している問題が変化するなど,治療者に とってもクライエントらにとっても,流動的な変化を受け入れていく必要があ る。特に治療者にとっては,介入戦略の設定段階から,治療システムにおける 変化や,クライエントらの変化に準じて,自らの設定した介入戦略を柔軟に変 更し得るような戦略の設定が必要である。その柔軟性を維持するためには,介 入の下地段階での治療の展開予測をある程度でもできるようにしておくことが 不可欠である。なぜならば,それによって求められる戦略そのものの柔軟性は, ある程度限定的なものとして設定できるからである。 5 - 5,介入プロセス全般にかかわる考慮 こうした複雑なプロセスごとの考慮を必要とする介入戦略を構築するために - 52- 龍谷大学論集

(20)

は,介入過程を支える「下地」を作ることが重要であることはいうまでもない。 くわえて,その下地過程で治療者が行うべきことの前提には,文脈構成を適切 におこなえることが必要であると考えられる。 治療というある種の対人操作が許容される場の倫理的判断からすれば,指示 的・操作的治療であったとしても,治療者が変化を「導入する」ことは許され ても,変化を「決定する」ことは許されないと考えるべきである。それは,変 化の目標に応じた介入プロセスを行使するという行為そのものが,基本的なク ライエントらの目標を変化させてしまう行為であり,変化の要求自体を一変さ せることにつながっているからである。いわば,クライエントらの設定した目 標に対する介入行為を船の航海にたとえるならば,クライエントらの初期の変 化の対象は,あくまでも目的の港そのものではなしその目標に近づくための 灯台であり,いつもでも灯台を目指した治療は,永遠に港には停舶できないこ とを示していると考えられる。 治療的に共有した目標自体を変化させるものであるということ,これは介入 プロセスの持つ普遍的な矛盾であると思われる。変化の最終決定権がクライエ ントらに帰属するかぎり,その変更があるならば,治療者はそれに従って「介 入戦略の変更J という戦略を行わねばならないことが当然のこととして受け入 れるべきであると考えるo

6

, 結 論

家族療法のパラダイムは,多くの批判と共に,初期の「治療者が家族を変化 させる」という表現から r家族の変化を増幅する」という表現へ,そして 「既存の変化を強化する」という表現へ変化し,現在では「変化の過程を支え る」としEう転換を迎えているo これは,家族療法の認識論の広がりを意味する ものであり,その意味でも軽率に介入プロセスにおける介入技法だけを流用す ることは,むしろ危倶すべき問題であると考える。 その意味では,文脈構成という基本的技法の獲得ともに,治療における介入 過程をできるだけ下地過程でのみ留め,クライエントらの求めている目標の変 化に柔軟に対応できるようにすることが,より有効な治療的働きかけを促進す るための一つの指標になると考える。 しかし,一方では,短期的にパラダイムの変化を得ることは,たいへん困難 なことであることも事実であるo本論において述べた「介入プロセスの矛盾」 などについては,認識論的誤解を解くための指標であり,今後も新たな視点、で システムズアプローチにおける下地作り過桜(古川1) -53ー

(21)

の認識論的転換の必要性がわかるための臨床的留意項目を整理することが,シ ステムズアプローチの誤解を再生産しないためにも必要なことであると考えるo 参考文献 Anderson, H. Goolishian, H.: Human systems as linguistic systems: Prelimi -nary and evolving ideas about the implications for clinical theory. Family Process. Vol.27, No.3. pp. 371-393.1988

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キーワード シ ス テ ム ア プ ロ ー チ 下 地 治 療 シ ス テ ム 文 脈 構 成 介 入 戦 略

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(注)