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農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差 ― 2014年2月の降雪と雪害を事例に ―

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─ ─33 ( )33 業は,設備の導入と拡充によって,生産性の向上や市場 シェアの拡大を見込むことができるが,その一方で建設 コストや維持管理コストが上昇する可能性もあるトレー ドオフの関係を有する1)。パイプハウスのように小型の 園芸施設は,比較的容易に導入できるが,気象変化等に よる自然災害を被りやすい。ガラス室のように耐候性の 高い園芸施設は,気象災害の影響を受け難いが,自己資 金での建設は容易ではなく,維持管理コストも嵩む。施 設型農業はこれらリスクの軽減や解消を常に求められて きた農業部門である。 日本における園芸施設の面積的な拡大は,露地栽培に よる商品性や季節性という制約条件を一部で克服しなが ら,他産地や類似商品との競合を回避する多様な差別化 1.はじめに TPP(環太平洋経済連携協定)への参加表明と減反廃 止に象徴される市場開放・規制緩和の動きは,日本農業 を一層の市場経済化へとシフトし,グローバルな競争力 の強化を加速させている。そこでは,農業の産業として の効率性が追求されるとともに,農産物の安全で安心な 生産・流通・消費システムの構築も望まれる。農業生産 が合理化し効率化する過程では,様々なリスクが増大す る可能性もあるため,克服すべき課題は少なくない。 日本では,土地利用型農業を国際競争力の強化へ向け て大規模効率的経営へと転換するという主要命題がある が,国内農業の地域的分業の側面からは多様な農業形態 が維持され発展することも期待される。とくに施設型農

両 角 政 彦

This study attempted to identify those issues affecting agricultural mutual aid associations and farmers with respect to snow damage to horticultural facilities based on an understanding of nationwide trends in damage to agricultural facili-ties as observed at agricultural mutual aid associations along with regional differences in those trends. In Japan, horticul-tural facilities are extremely susceptible to weather-related damage, and even though they are the most common type of agricultural facility built, they have been frequently verified to continue to be subjected to the greatest levels of damage. Surveyed regions that suffered damage to horticultural facilities caused by snowfall in February 2014 were regions in which the damage rate in an average year is comparatively low. Regional differences in preliminary damage countermea-sures, damage management and post-damage accommodations were observed in these regions. Important issues affect-ing agricultural mutual aid associations and farmers sufferaffect-ing damage once every several tens of years were considered to consist of the following: 1) implementation of preliminary countermeasures through sharing of costs, 2) implementa-tion of comprehensive measures for changes in weather, 3) accommodaimplementa-tion of recovery following weather-related disas-ters through mutual aid, and 4) curtailment of extraneous investments and acceptance of the potential for damage. The selection of these issues is affected by climate and weather changes in each region, the weather susceptibility, locations and placement of horticultural facilities, and circumstances surrounding the installation of horticultural facilities.

Keywords : agricultural disaster compensation system, agricultural mutual aid associations, horticultural facilities, snowfall, snow damage, regional differences

キーワード:農業災害補償制度,農業共済組合,園芸施設,降雪,雪害,地域差

農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差

―2014年2月の降雪と雪害を事例に―

Damage to Horticultural Facilities and its Regional Differences in the Management of Agricultural Mutual Aid

― Case Study of Snowfall and Snow Damage in February 2014 ―

Masahiko MOROZUMI

(Received November 17, 2014)

Department of Geography, College of Humanities and Sciences, Nihon University, 3−25−40, Sakurajosui, Setagaya−ku, Tokyo, 156−8550 Japan

日本大学文理学部地理学科:

〒156−8550 東京都世田谷区桜上水3−25−40

日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要 No.50 (2015) pp.33−60

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─ ─34 ( )34 の手段として,政策的支援も受けて実現されてきた。産 地拡大政策の下で展開してきた施設園芸は,自然災害を 被った際に,経営状況によっては生産からの撤退や施設 の撤去という課題に直面する。農業災害の中でも園芸施 設被害は,生産環境を人為的に制御しようとしてきた人 工構造物が気象変化によって被害を受けるという特質が ある。毎年全国各地で何らかの原因によって園芸施設が 継続的に被害を受けており(村松ほか,1998),この発生 のメカニズムを地域ごとに解明する意義は大きい。 これら園芸施設被害の復旧軽減策として運用されてき たのが,農業災害補償制度における園芸施設共済であ る。園芸施設共済は,「資産保険」の性格を有する保険 制度として(両角,1974;山田,1974),施設園芸の拡大 期にあたる1970 年代に地域単位を基礎とする農業共済 組合で運用が始まった。しかし,施設園芸の縮小・再編 期には制度運用上の課題もみられる。自然災害では多く の場合,ほぼ同時期に産地内が同様の被害を受けること から,どのような地域単位でいかに共済制度を運用する のかについて,産地組織・農業者のリスクマネジメント の側面からも検討する余地がある。 気象変化による農業災害に関しては,これまでに多様 な分野で数多くの研究が蓄積されており,伝統的なテー マになっている。とはいえ,農業災害の発生の継続性を 考慮すると,統計資料の整備や情報の蓄積,分析手法の 開発,異なる研究視点からのアプローチ等によって,新 たな事前対策・発生対処・事後対応の意思決定に向けた 論点を提示することも可能になると考える。 以下,主として降雪による園芸施設被害に関する先行 研究とこれに関連した研究の成果について整理したい。 まず,園芸施設への雪害の実態について,現地調査を基 にその構造特性と対策までを明らかにした研究(山下・ 佐藤,1982;金谷・倉田,1985;濱嵜ほか,1995;村松 ほか,1998;森山・豊田,1999)が挙げられる。この中で, 村松ほか(1998)が,園芸施設雪害の主な原因について, ①屋根雪と屋根面の凍結などの原因で屋根雪の滑落が阻 害され,積雪荷重が増加して発生する被害,②豪雪時の 停電などにより融雪や消雪装置が機能しなくなり発生す る被害,③屋根から滑落した雪を処理することを前提に して設置された施設でも,適正な処理が出来なかった事 例,④パイプハウスは降雪する前に被覆材を撤去するな ど,事前の対応策が不十分な事例,以上の4 点にまとめ た。 園芸施設に関する工学的研究では,積雪荷重とその軽 減法(高橋ほか,1981)や,積雪荷重の見直しと新たな 構造を有するハウスの特性(豊田,1997),積雪荷重に対 する設計(田中ほか,1998)のほか,パイプハウスの積 雪荷重の耐力評価(川上ほか,2010)などに関する研究 がある。また,基礎土壌凍結と積雪荷重について実験を 基に分析した研究(深山ほか,1980)や,屋根雪重量の 評価と屋根雪滑落に関する研究(村松,1998)のほか, パイプハウスの耐雪補強方法(Moriyama et al.,2008; 森 山,2009;渡辺,2012)や省力的耐雪設計(森山, 2014)などが注目されている。これらの研究では,一般 社団法人日本施設園芸協会による「園芸用施設安全構造 基準(暫定基準)」(1997年版)の妥当性も議論の的になっ ている。 積雪そのものへの対処法として,地下水を利用した散 水融雪(大谷,1982;山辺ほか,1982)や温風送風式融雪 システム(古野ほか,2003,2006)と,これらを組み合わ せた多様な雪害対策(森山,2002;細野,2007)などが検 討されている。とくに細野(2007)が指摘する冬季無被 覆パイプハウスの被害対策の必要性も注目される。積雪 地帯で施設園芸を積極的に推進する立場からは,耐雪型 パイプハウスの周年的利用体系とその経営評価(亀田, 2001;亀田ほか,2006)や,耐雪型パイプハウスの周年 利用に対する意識調査(木村,2006)に関する研究もお こなわれている。これらの研究で焦点となるのは,雪害 対策を前提とした園芸施設の建設・資材コストやランニ ングコストの削減である。 園芸施設被害の復旧軽減策の一つが,園芸施設共済制 度の運用である。同共済制度の運用開始の初期段階から 施設園芸の特性に着目して議論が進められてきた2)(両 角,1974;山田,1974;湯浅,1979)。農業共済の役割を 明らかにした研究として,とくに長谷部・吉井編(2001) は,農業共済の総合的な研究成果に位置づけることがで きる。 これら諸研究は,農業災害全般に関わる広義のリスク マネジメント研究の中に位置づけることもでき,農業経 営の不確実性とリスクマネジメントに関する研究(南 石,1991,2011;天野,2000)や天候リスクマネジメント 研究(上原,2003;横内,2005)のほか,作物保険に関す る研究(Gil,2011)と農業全体のリスクマネジメント研 究(Barry,1984;Olson,2003,2010)などとの連携が求 められる。さらに,農業災害に対するリスクマネジメン トは,産地内外から様々な知識を蓄積し活用する必要が あり,農業経営組織のナレッジマネジメント研究(日本 農業経営学会・門間編,2011)にも深く関わる。 近年の園芸施設被害については,東北地方太平洋沖地 震による園芸施設被害に関する研究(石井,2011;石井 ほか,2012)や,台風対策に関する総括的な研究(玉城, 両 角 政 彦

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─ ─35 ( )35 2012)も蓄積されている。本研究の対象事例とした2014 年2 月の降雪による園芸施設被害に対しては,複数の産 地における被害の実態報告とその軽減法に関する研究 (深澤,2014)がおこなわれている。 以上のように,降雪による園芸施設被害に関する研究 は,①被害の実態把握と構造特性,②被災前の事前対策 としての補強法,③気象変化時の対処としての融雪法, ④被災後の事後対応としての共済事業の4 つの側面から 研究が進められてきた。ただ,実際の被害とその原因と の直接的な関係性と,被害発生の同時性を踏まえて地域 比較の視点から分析を試みた研究は,村松ほか(1998), 森山・豊田(1999),深澤(2014)の報告などに限られて いる。本研究は,農業共済事業を念頭に置きながら,気 象変化と園芸施設被害とを直接関連づけてこの問題を地 域的に分析するものである。 筆者らはこれまでに,農業災害補償制度下における全 国の園芸施設被害の状況を把握した上で,沖縄県で園芸 施設共済事業が開始された1989 年度から園芸施設被害 が収束傾向にあった2009 年度までを対象に,台風通過 にともなう強風による園芸施設被害の地域差とその要因 について,自然的環境と社会的環境の相互作用3)から明 らかにした(両角・森島,2012)。 本稿では,農業共済事業における園芸施設被害の全国 的動向と地域的特徴を把握した上で,園芸施設雪害の実 態と産地組織・農業者をめぐる課題について,事例地域 の比較を通して明らかにする。研究対象として,2014年 2 月 8 ∼ 15 日の降雪にともない発生した園芸施設の倒壊 被害に着目した。現地調査は,2014 年 2 ∼ 3 月に,埼玉 県北部地域,山梨県峡東地域,長野県諏訪地域で実施し, 市町村役場,農業共済組合,農業者,解体業者等に聞き 取り調査をおこなった。これら3 つの地域は,平年にお ける園芸施設共済の金額被害率が比較的低い地域であ る。 また本稿では,日本で園芸施設共済制度が本格的に運 用を開始された1979 年度から 2012 年度まで対象時期を 広げた上で,園芸施設被害の発生状況とその季節性と地 域性という時空間的な変化を重要視した。園芸施設への 雪害が,どのような時間的・空間的な状況の下で発生し, これを事前に想定し,対策・対処・対応をとることが一 律に可能であるのか否かについても若干の考察をおこ なった。 以下,2 章では,全国における園芸施設被害の発生状 況と地域的特徴を把握し,研究対象地域の園芸施設被害 の一般的な特徴を明確にする。3 章では,事例の 3 地域 における2014年2月の降雪と園芸施設雪害について,被 害状況と被害原因から明らかにする。4 章では,園芸施 設雪害の地域差と諸対応の実態を個別的対応・組織的対 応・制度的対応に分けて捉える。5 章では,全体を総括 した上で,産地組織・農業者の園芸施設雪害に対する課 題とその意味について考察する。 2.全国の園芸施設被害の発生状況と地域的特徴  2-1 園芸施設の設置状況と園芸施設共済制度 日本では1960 年代以降における農業基本法農政の下 で,農業構造改善事業をはじめとする政府補助事業等に よって,全国各地で園芸施設の建設が進められてきた。 図1 には,1979 年以降における園芸施設(ガラス室,ハ ウス)の設置実面積の推移を示している。園芸施設面積 は,1970年代後半に3万haを超え,景気の後退局面を迎 えた1990年代初頭を経ても増加傾向を保ってきた。1999 年のピーク時には5.4 万 ha まで拡大したが,2009 年には 4.9万haとなり,近年は漸減傾向にある。 園芸施設の新設面積率は,1979 年に 8.3%(2,537ha) を占めていたが,これ以降は1987 年に一端上昇に転じ たものの,全体としては低下する傾向にある。とくに 1990 年代半ば以降における新設面積率の急低下の状況 は,国内景気の大幅な後退や輸入農産物の増加などの影 響を伺わせる。2003 年以降には新設面積率が再び低下 し,2009年には1.3%(659ha)まで落ち込んだ。これは, 新設面積のピークであった1987 年の 24%に過ぎない。 これらの点は,雨よけ栽培施設等を除いた比較的高額の 園芸施設の新規導入や更新に対する投資を,農業者が近 年選択しない傾向にあることと,施設園芸産地が総体と して転換期を迎えていることを示唆している。 園芸施設共済の引受状況(加入状況)を図2 で確認す ると,共済開始年の1979 年における共済引受面積は 7.9 千haであり,共済引受面積率(推計)は26%であった4) 1980年代に園芸施設面積(ガラス室,ハウス,雨よけ栽 培)が急増するのに合わせるように,共済引受面積は 1983 年に 1 万 ha を超え,共済引受面積率も 1989 年に 30%を超えた。その後,共済引受面積は 1991 年に 2 万 ha を超え,共済引受面積率は1990 年代半ばから 2000 年 代初頭までの頭打ちの状況を経て,2003年以降に再び上 昇に転じた。共済引受面積率は2007 年にピークの 40% 弱まで上昇したが,その後は停滞する傾向にある。 この中で,園芸施設面積が2001 年をピークに減少に 転じたのに対し,共済への加入は一定の上昇傾向を保っ てきた点が注目される。これには,2003年度の園芸施設 共済制度の改正によって,「特定園芸施設撤去費用補償 方式の導入」,「多目的ネットハウス(プラスチックハウ 農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差

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─ ─39 ( )39 ガラス室の面積が2,010ha に及び,全面積の 20.4%を占 めている。一方,ビニルハウスなどが該当する金属パイ プハウスは,北海道から沖縄県まで全国的に設置されて いる。また,雨よけハウスは,北海道・東北・関東・九 州地方の諸県に多く設置されており,地域ごとに偏在し ている。これらハウス種類別の設置の地域差は,各地域 の自然環境や主要な農作物の生産状況と,建設補助事業 の実施状況等に影響を受けていると考えられる。 さらに,図7 の都道府県別における園芸施設共済の引 受面積と加入率(推計)をみると,共済引受面積は全国 的に偏りがあることがわかる。引受面積が大きい上位の 都道府県として,北海道,熊本県,茨城県が挙げられ, ハウスの設置実面積(図6)とおよそ対応している。一方, 共済への加入率は,都道府県ごとに差があり,北海道が 高く,熊本県・茨城県は低くなっている。また,三重県 や高知県では80%を超えている一方で,近畿・中国地 方の諸県で30%以下と低くなっている。この要因とし て,以下のように園芸施設共済の金額被害率と面積加入 率との関係を挙げることができる。  2-4 園芸施設被害の地域性 図8 に示したように,都道府県ごとに金額被害率の上 値を示している。一方,ガラス室Ⅱ類やプラスチックハ ウスⅣ類乙,同Ⅴ類のように,1a当たり共済金額の高い 園芸施設は,相対的にみて金額被害率が低くなる傾向に ある。 これらの点は,プラスチックハウスⅡ類が農業者に とって低予算で比較的容易に導入可能である一方で,園 芸施設被害が発生しやすく共済加入の必要性も高い構造 特性を有することを表している。園芸施設共済への加入 は,通常4 ヵ月以上の期間で自由に設定でき,地域によっ ては2 ヵ月以上の短期加入が認められている。これは, 園芸施設内で生産される野菜,果樹,花きなどの作物の 生産形態や栽培暦(被覆期間)に合わせて,地域ごとの 条件に対応する必要があるためである。 図6 には,都道府県別におけるハウス種類別の設置実 面積を示している。全体では北海道・東北・関東・東海・ 九州・沖縄地方の諸県でハウスが多く設置されており, 山形県を除く日本海側や近畿地方の諸県で少なくなって いる。最も面積が大きいのは熊本県であり,5,947ha に 及び,全面積の9.6%を占め,以下,北海道,茨城が続 いている。ハウスの種類別でみると,主としてガラス室 などが該当する鉄骨ハウスは,関東・東海・九州地方の 諸県で比較的多く設置されている。とりわけ愛知県では 表1 園芸施設共済における特定園芸施設の区分と引受・被害状況(2012年度) 特定園芸施設の区分 主要部分の材質とその他の区分標準 引受戸数 (戸) 引受面積 (a) 1棟当た り引受面 積(a) 1a当た り共済金 額(千円) 金額被害 率(%) 屋根,外壁 骨格 その他 ガラス室I類 ガラス 木 ― 134 637 1.7 339 0.42 ガラス室Ⅱ類 ガラス 鋼材,アルミ材 ― 5,674 82,932 6.0 541 0.13 プラスチックハウスI類 プラスチックフィルム 木,竹 ― 916 12,390 9.3 181 0.23 プラスチックハウスⅡ類 プラスチックフィルム パイプ ― 153,108 1,248,410 2.5 90 2.92 プラスチックハウスⅢ類 プラスチックフィルム 鋼材,鋼材とパイプ プ ラ Ⅳ 類 甲, プ ラ Ⅳ類乙以外 27,626 478,552 10.4 196 0.62 プラスチックハウスⅣ類甲 プラスチックフィルム 鋼材,アルミ材 農水大臣が定める基 準に該当,プラⅣ類 乙,プラⅤ類以外 14,504 211,004 8.9 285 0.62 プラスチックハウスⅣ類乙 プ ラ ス チ ッ ク フ ィ ル ム (硬質フィルム) 鋼材,アルミ材 農水大臣が定める 基 準 に 該 当, プ ラ Ⅴ類以外 6,514 98,690 9.8 425 0.39 プラスチックハウスⅤ類 合成樹脂版,プラスチック フィルム(硬質フィルム) ― 農水大臣が定める 基準に該当 3,857 44,758 7.3 443 0.48 プラスチックハウスⅥ類 プラスチックフィルム(屋 根面のみ),通気性を有す る被覆材(屋根面のみ) ― プラⅦ類以外 6,689 122,523 2.8 64 2.31 プラスチックハウスⅦ類 通気性を有する被覆材 鋼材,アルミ材,コンクリート 農水大臣が定める基準に該当 838 51,936 27.5 23 1.61 (合計,平均) 219,860 2,351,832 3.7 164 1.10 注)引受戸数は延べ戸数。1棟当たり引受面積と1a当たり共済金額は全国平均。   共済金額と被害率は 「 特定園芸施設 」「 附帯施設 」「 施設内農作物 」「 撤去費用 」 の合計で算出。 資料) 農業災害補償法施行規則(最終改正:平成 23年6月22日農林水産省令第38号)第33条24項関係の別表,農林水産省『平成24年度 園 芸施設共済統計表』より作成。 農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差

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─ ─45 ( )45 施設の撤去とともに樹体の撤去も必要となり(写真7), 生産・出荷の再開までには長期間を要することになる。 図20 には,山梨中央農業共済組合における園芸施設 被害の推移を示している。通常時において棟数被害率は 10%未満であり,金額被害率も低く推移してきた。被害 が相対的にみて大きかった1985 年度と 2004 年度には, 棟数被害率が10%前後に達したが,金額被害率は顕著 に上昇しておらず,被害そのものは大きくならなかっ た。これが,2013 年度には棟数被害率が 42.0%に達し, 金額被害率も43.7%に達するという過去に経験したこと のない大きな被害を受けた。 (3)被害原因 甲府地方気象台によると,2014 年 2 月 8 日における降 雪量は45cm で,最深積雪量は 43cm であった。同月 14 日には降雪量が83cm に,最深積雪量は 85cm になり, 翌15 日には降雪量が 29cm に,最深積雪量は 114cm を記 録し,ほぼ1 週間に集中的な降雪があった。とくに最深 積雪量が上昇を続けた点が特徴的である。 図21 は,甲府地方気象台における 1979 年以降の降雪 と積雪の年推移を示している。2014 年における降雪と最 深積雪はともに過去最大であった。ただ,1984年の降雪 は100cm を超えており,1986 年と 1998 年の最深積雪も 50cm 前後に達している。しかし,これらの年に対応す る棟数被害率と金額被害率をみると,1985年度は被害が 相対的に大きかったが,他の年度は高いとはいえなかっ た20)(図20)。2014 年度の園芸施設被害は,降雪をある 程度経験する中で,極めて異常な規模で発生したと捉え ることができる。 図22 は,甲府地方気象台で観測された 1962 年以降に おける降雪量の上位3 ヵ年について,1 ∼ 4 月を日ごと に示したものである。これによると,1969 年には 3 月に ある程度の日数を置いて降雪があり,1984年には比較的 長期にわたり分散して降雪があったことがわかる。これ らに対して,2014 年は 2 月の短期間に集中的な降雪が あった。また,図23に示した2月における日ごとの降雪 と最深積雪をみると,平均では降雪はほとんどなく,最 深積雪も1cm 程度であった。これに対して,2014 年は, 2 月 8 日に降った雪が解けきる前に,同 14 日と翌 15 日に 連続して大降雪があり,最深積雪も急上昇したことが明 らかである。  3-3 長野県諏訪地域 (1)地域の概要 南信農業共済組合は,諏訪地域(岡谷市,諏訪市,茅 野市,下諏訪町,富士見町,原村),上伊那地域(伊那市, として1982 年度の 4.4%を挙げられるが,2013 年度は 30.9%に達しており,この点からも 2014 年 2 月における 園芸施設雪害の特異性を指摘できる。 (3)被害原因 熊谷気象台によると,2014 年 2 月 8 日における降雪量 は43cm で,最深積雪量も 43cm であった。同月 14 日に は降雪量が33cm に,最深積雪量は 35cm になり,翌 15 日には降雪量が27cm に,最深積雪量は 62cm を記録し, ほぼ1週間に集中的な降雪があった。 図16 は,熊谷地方気象台における 1979 年以降の降雪 と積雪の年推移を示している。これによると,2014年の 降雪と最深積雪は過去に例をみない状況であったことが わかる。例として,1984 年の降雪や 1998 年の最深積雪 は高い値を示しているが,これらの年に対応する棟数被 害率と金額被害率は必ずしも高くはなかった19)(図15)。 降雪と園芸施設被害の関係における差異の要因として, 降雪と積雪のあった期間とその他の気象条件が影響して いるものと考えられる。 図17 は,熊谷地方気象台で観測された 1962 年以降に おける降雪量の上位3 ヵ年について,1 ∼ 4 月を日ごと に示したものである。これによると,1969 年には 3 月に ある程度の日数を置いて降雪があり,1984年には比較的 長期にわたり分散して降雪があったことがわかる。これ らに対して,2014 年は 2 月の短期間に集中的な降雪が あった。また,図18に示した2月における日ごとの降雪 と最深積雪では,平均でほとんど降雪や積雪がみられな かった。これに対して,2014年は,2月8日に降った雪が 解けきる前に,同14日と翌15日に連続して降雪があり, 最深積雪も上昇したことが明らかである。  3-2 山梨県峡東地域 (1)地域の概要 山梨中央農業共済組合が管轄する区域は,峡東地域 (笛吹市,山梨市,甲州市),峡中地域の甲府市と中央市, 峡南地域の西八代郡市川三郷町,郡内地域の南都留郡富 士河口湖町であり,5市2町にまたがる(表2)。同区域で は,主として峡東地域において桃やブドウ等の果樹栽培 が盛んであり,比較的狭小な谷底部で水稲作等がおこな われている。2014 年 3 月現在,園芸施設共済棟数加入率 はおよそ45%であるが,共済加入棟数のうち 88%が峡 東地域に集中している(図19)。 (2)被害状況 峡東地域における園芸施設の倒壊は,単棟ビニルハウ スや連棟ビニルハウスで発生した(写真5,写真 6)。施 設果樹栽培は,永年性作物の特質を反映して,被災後の 農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差

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─ ─52 ( )52 かった。 以上の3 つの農業共済組合による共済金の支払い状況 には,被害状況に応じて差があるものの,いずれも組織 的対応によって災害補償を実行した。これらの農業共済 組合を含めた都道府県単位における1a 当たり共済掛金 をみると(図30),農業者の費用負担には地域差があり, 東北・北陸地方や,東海・近畿地方の諸県,中国・四国 地方の諸県などで高くなっている。中でも費用負担が最 も大きいのが沖縄県の5,092 円であり,費用負担が最も 小さい山梨県の410円のおよそ12倍となっている。本研 究の対象地域とした埼玉県,山梨県,長野県は,全国的 にみて1a 当たり共済掛金が低い県であり,農業者の共 済の費用負担が比較的小さい県であった。共済の費用負 担は過去の被災状況や共済への加入状況に左右されてお 億円を超え,共済金支払財源は通常の保険金で90.0%ま で支払った。しかし,手持掛金(保険金残金)では補填 しきれず,法定積立金(大災害時対応資金)と特別積立 金(無事戻し金,損害防止事業費等)を使用したが,そ れでも充足することができなかった。最終的にはその他 資金(組合業務費)を使用して,5.1%を補填することに よって,共済金の支払いを完遂するに至った。これは, 2014 年 2 月の降雪による同組合管内の園芸施設被害が, 通常の共済の想定を遥かに超え,園芸施設共済事業のみ ならず,共済組合の事業運営全体に影響するほど甚大で あったことを示している。 山梨中央農業共済組合では,支払共済金の総額が2 億 円弱に達し,共済金支払財源は通常の保険金で90.0%ま で支払った。しかし,埼玉北部農業共済組合と同様に, 手持掛金(保険金残金)では補填しきれず,法定積立金 (大災害時対応資金)と特別積立金(無事戻し金,損害防 止事業費等)を使用しても充足することができなかっ た。最終的にはその他資金(組合業務費)を使用して, 4.1%を補填することによって,共済金の支払いを完遂 するに至った。山梨中央農業共済組合管内の園芸施設被 害は,埼玉北部農業共済組合ほどの被害ではなかった が,通常の共済の想定を超え,共済組合の事業運営に影 響するほど甚大であった点では,埼玉北部農業共済組合 と酷似した状況であったといえる。 南信農業共済組合29)では,支払共済金の総額が1億円 を超え,共済金支払財源は通常の保険金で90.0%まで支 払った。しかし,上記の2 つの共済組合と同様に,手持 掛金(保険金残金)では補填しきれず,法定積立金(大 災害時対応資金)とその他資金(組合業務費)を使用し て共済金の支払いをおこなった。南信農業共済組合管内 の園芸施設被害は,埼玉北部農業共済組合や山梨中央農 業共済組合ほどではなかったが,通常の保険金で共済支 払いを完遂できなかった点では被害が小さいとはいえな 表4 農業共済組合における園芸施設共済金支払財源(2013年度) 埼玉北部農業共済組合 山梨中央農業共済組合 南信農業共済組合 保険金 1,401,450,737 (90.0) 175,162,797 (90.0) 121,884,134 (90.0) 手持掛金充当額 2,998,035 (0.2) 258,728 (0.1) 2,955,196 (2.2) 法定積立金充当額 54,312,305 (3.5) 7,177,763 (3.7) 10,454,109 (7.7) 特別積立金充当額 18,952,083 (1.2) 4,028,579 (2.1) 0 (0.0) その他 79,455,067 (5.1) 7,997,520 (4.1) 133,891 (0.1) 実支払共済金 1,557,168,227 (100.0) 194,625,387 (100.0) 135,427,330 (100.0) 注 ) 単位:円。 ( )内は共済金支払財源別の構成比(%)。 その他には組合業務費からの補填等を含む。 資料)各農業共済組合資料より作成。 0 400km (円) 5,000 2,000 1,500 1,000 500 図30  都道府県別の園芸施設共済「プラスチックハウスⅡ 類」の1a当たり共済掛金(2012年度) 注) 共済掛金は組合員等の費用負担を表す。 資料) 農林水産省『平成24年度 園芸施設共済統計表』より作成。 両 角 政 彦

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─ ─53 ( )53 ④農業用機械及び付帯施設の取得(被害前と同程度), ⑤倒壊した施設の撤去,以上である。補助率は,①∼④ が再建・修繕補助率10 分の 3 から 2 分の 1 へ引き上げ, ⑤が定額助成10分の10とされた。 これらは緊急的な災害補償・復旧支援となる制度的対 応であり,恒常的な組織的・制度的対応となる園芸施設 共済のような事前の費用負担をともないなおかつ任意保 険とは異なっている。緊急的な制度的対応は,政府・地 方自治体による被災後の全体的な措置であり,共済への 加入の有無を問わない。大災害時にはこれら政府・地方 自治体による緊急支援策が発動する可能性が高いため, 事前の費用負担をともなう共済事業との制度上の整合性 を図ることも求められる。 以上の園芸施設被害への個別的・組織的・制度的対応 は,いずれもリスクマネジメントに向けた安全性の確保 とコスト負担というトレードオフの関係をどのように調 整するのかにかかっている。消極的農業者は,園芸施設 の耐用年数が経過し,粗放的に経営をおこない,生産か らの撤退を視野に入れる場合もある。一方,意欲的農業 者は,園芸施設の耐雪・耐風補強や融雪設備の設置等に よる投資と負債リスクの回避との調整が課題となる。ま た,農業者を対象とした一律の復旧支援は,地域内に不 公平感を生み,新たなコンフリクトを生じる可能性があ る。意欲的農業者に不公平感やモチベーションの低下を 招きかねない制度的対応のあり方を検討していく必要が ある。 5.おわりに 本稿では,農業共済事業における全国の園芸施設被害 の発生状況と地域的特徴を把握した上で,園芸施設雪害 の実態と産地組織・農業者をめぐる課題について,事例 地域の比較を通して明らかにした。その際に,被害発生 の季節性と地域性という時空間的な変化を重要視し,気 象変化と園芸施設被害とを直接関連づけて地域的な分析 をおこなった。 全国における園芸施設面積は増加から減少へ転じてお り,施設園芸は転換期を迎えている。園芸施設被害は全 国各地で継続的に発生している一方で,この復旧軽減策 として農業共済組合が運用してきた園芸施設共済への加 入は停滞傾向にある。園芸施設被害の発生状況を分析す ると,その季節性と地域性が明らかになり,比較的強度 の劣る園芸施設が最も多く建設されながら,最も多く被 害を受け続けてきたことが改めて確認された。 研究対象地域として選定した3 つの地域は,いずれも 平年における園芸施設被害率と共済掛金率が低い地域と り,各々の地域性を反映して園芸施設共済が組織的に運 用されてきた。 さらに,被災後の組織的対応として,自治体や農協で は園芸施設の解体にともない発生した資材の廃棄措置を とっている。調査対象地域においては,市町村行政によ るパイプ類の回収(写真22)や,農協によるビニル類の 回収(写真23)がおこなわれた。これらは,農作物被害 とは異なる園芸施設被害に特有の課題であり,組織的・ 制度的対応が求められる。  4-4 園芸施設雪害への制度的対応 農林水産省は今回の農業被害を対象として,2014 年 2 月24 日に決定した支援対策に追加対策を講じ,3 月 3 日 に以下のプレスリリース(「農業用ハウス等の再建・修 繕への助成」の「被災農業者向け経営体育成支援事業」 を一部抜粋)をおこない30)2014年度予算と2013年度補 正予算とを合わせて合計52.29億円を計上した。 基本方針として,「今回の大雪により地域の基幹産業 である農業が壊滅的な被害を受けていることに鑑み,産 地の営農再開及び食料の安定供給に万全を期すため,以 下のとおり,地方公共団体の復旧支援を後押しするため の,今回の豪雪に限った特例的な措置を講ずる。再建・ 修繕に係る補助率を10分の3から2分の1に引き上げる。 残りの部分に対する地方公共団体の補助に関し,その7 割について特別交付税措置を講ずる。これらにより,農 業者の負担を最小化できる仕組みを構築する(地方公共 団体の補助が10分の4となった場合には,農業者の負担 は10 分の 1 となる)」としている。また,再建・修繕の 場合には,「併せて自己負担で強度の向上,規模拡大等 をおこなうことは可能」とした。 倒壊した園芸施設の撤去については,「農業者負担の ないよう定額助成(地方負担を含めて10分の10相当)と する(地方公共団体が2 分の 1 相当を負担することを前 提に,国が2 分の 1 相当を補助。地方公共団体には特別 交付税措置(地方公共団体の負担分の8 割)を講ずる)」 とした。さらに,撤去については,「市町村が実施する 環境省の災害廃棄物処理事業の対象となるが,農業者が 速やかに撤去し経営を再建しようとする場合には,本事 業の利用が可能」としている。 助成の対象者は,「地方公共団体による支援・融資を 受けて,被災施設の復旧等,又は倒壊したハウス等を撤 去し農業経営を継続しようとする農業者」とし,以下の 5 つを具体的な助成内容とした。①施設の復旧又は被害 前と同等の施設の取得,②施設修繕に必要な資材購入, ③①と一体的に復旧し,又は取得する附帯施設の整備, 農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差

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─ ─54 ( )54 するのか,地域ごとにとり得る対策・対処・対応が異な ると考えられる。それは,園芸施設被害を規定する基本 構造に示したように(図31),地域ごとの気候・気象の 変化と園芸施設の立地・配置の違いによって園芸施設に 求められる耐(候)性が異なり,それぞれの経緯で産地 組織・農業者が園芸施設を設置してきたことによる。 また,被害がある一定の規模を超えた場合には,政府・ 地方自治体が緊急支援策を発動する可能性も高いため, 共済制度の相互扶助の原則とその社会的意義が問われる ことにもなる。そこでは,地域内の公平性や地域間の公 平性をいかに調整するのか,新たな課題が浮き彫りとな る。こうした園芸施設被害に関わる課題がある一方で, 露地栽培による作型が雪害を回避し(写真24),いち早 く生産を再開している状況は示唆的である。これは,施 設型農業そのもののあり方を地域ごとに再検討する時期 にきていることも示しているといえよう。 なお,本研究では,園芸施設被害に対する降雪と積雪 に着目したが,これらの日変化と積雪に影響を及ぼす気 象変化(気温,風向,風速等)については分析に至らな かった。また,雪害を受けた園芸施設の立地・配置と分 布状況,さらに園芸施設の経過年数によっても耐候性が 異なることが指摘されており31),これらは産地の成長・ 再編過程と密接に関わっている。以上の点は今後の研究 課題としたい。 付記 本研究をおこなうにあたり,市町村役場,農業共済組合, 農業者,解体業者の皆様に多大なるご協力をいただきまし た。厚く御礼を申し上げます。本稿の内容の一部を,日本地 球惑星科学連合2012 年大会(於 . 幕張メッセ国際会議場), IGU Kyoto Regional Conference 2013(於.国立京都国際会館), 2014年経済地理学会関東支部7月例会(於.国士舘大学)で発 表した。 して位置づけられた。以下,2014 年 2 月の降雪による園 芸施設被害の状況と共済の対応をまとめたい。 埼玉県北部地域(埼玉北部農業共済組合管内)では, 周年耕作(野菜,花き)が一般的であり,園芸施設金額 被害率は31%に達した。降雪は過去にある程度経験し てきたが,被害規模が甚大であり,被害想定は困難で あった。共済掛金率が低いうちは,共済加入が必須とな る。 山梨県峡東地域(山梨中央農業共済組合管内)では, 永年性作物(果樹)の栽培が一般的であり,園芸施設金 額被害率は44%に達した。降雪は過去にある程度経験 してきたが,被害規模は過去に例が無く,想定は極めて 困難であった。共済掛金率が低いうちは,共済加入が妥 当である。 長野県諏訪地域(南信農業共済組合諏訪支所管内)で は,一部で周年耕作(野菜,花き)がおこなわれ,園芸 施設金額被害率は9%であった。降雪は過去に次ぐ規模 で,被害は過去最大であったが,ある程度の想定も可能 であった。共済加入や耐雪補強等の通常の事前対策が必 要となる。 これら3 つの地域における被害への対策・対処・対応 の関係について整理すると,埼玉北部農業共済組合管内 は,山梨中央農業共済組合管内ほど被害想定が困難で あったとはいえないが,南信農業共済組合諏訪支所管内 よりは共済加入の意思決定や降雪時の対処行動が困難で あったと捉えることができる。 このように数十年に一度の被害を受けた産地組織・農 業者が,園芸施設被害を想定し回避するのにあたり,コ ストを負担し事前対策をとるのか,気象変化への対処を 万全に整え実行するのか,共済制度に依存し被災後に復 旧対応を図るのか,諸投資を抑えて被害をある程度受容 政 策 法制度 耐性 耐性 気候・気象 変化 産地育成 補助事業 産地組織 農業者 園芸施設 (農作物) 建設 保有 回避,維持 補償,再建 ・ 立地・配置 変化 共済組織 災害補償 共済事業 撤去,撤退 図31 園芸施設被害を規定する基本構造(予察) 注 ) 被害原因とステークホルダーを簡略図示。 資料)両角・森島(2012)に加筆。 ※地域特性・地域差・時間差を加味した構造図へ ※位置条件 地形,周辺遮蔽物,防風性 横軸:時間軸 縦軸:空間軸 図31 園芸施設被害を規定する基本構造(予察) 注)被害原因とステークホルダーを簡略図示。 資料)両角・森島(2012)に加筆。      両 角 政 彦

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─ ─55 ( )55 1) 深山ほか(1980)が,寒冷地における園芸施設への積雪 荷重に対する安全性と経済性の両立による構造設計の必 要性という基本的問題を指摘している。 2) 農業災害補償制度および園芸施設共済制度に関する先行 研究の成果については,両角・森島(2012)を参照。 3) 自然・環境と人間・社会との相互作用系については,

Matthews and Herbert(2008)を参考にした。本稿もこ の考え方を基に構成している。 4) 沖縄県のみ園芸施設共済事業が 1989 年度に開始されて いる。 5) 農林水産省『平成 24 年度 農業災害補償制度 園芸施設共 済統計表』による。 6) 被害額=特定園芸施設の価額×損害割合+附帯施設の 価額×損害割合+施設内農作物の価額×損害割合 7) 共済金=損害額×共済金額÷共済価額 8) 詳しくは,農林水産省『農業災害補償制度年報』等を基 にした両角・森島(2012)を参照。 9) 共済金額は,「特定園芸施設等ごとに,共済価額に共済 規程等で定めた最低割合(100 分の 40 から 100 分の 60 の 範囲内)を乗じて得た金額を下らず共済価額の100 分の 80を超えない範囲内において園芸施設共済掛金率等一覧 表に掲げる金額のうちから組合員等が申し出た金額」 (農林水産省『平成24年度 農業災害補償制度 園芸施設共 済統計表』による)である。 10) 共済価額は,たとえば特定園芸施設「ガラス室」の場合, 「再建築価額×時価現有率」で算出される。詳細につい ては,農林水産省『園芸施設共済統計表』を参照。 11) 損害額=被害額−残存物価額−賠償金等 12) 園芸施設共済において,「組合等は,特定園芸施設等ご とに,共済事故によって組合員等が被る損害の額が3 万 円(共済価額の10 分の 1 に相当する金額が 3 万円に満た ないときは,当該相当する額)を超える場合にそのつど 共済金を支払うもの」(農林水産省『平成24年度 農業災 害補償制度 園芸施設共済統計表』による)である。 13) 注8)を参照。 14) 園芸施設の構造特性の多様化について,共済の試験実施 前の段階で,山田(1974)が,「施設の構造材質等が種々 区々であるほか,日進月歩で発達する施設について具体 的な事例により適正な評価方法を確立」する必要性に言 及している。 15) 詳しくは,宮城県における農業共済組合の資料等の分析 によって,風水害と震災との差異を明らかにする必要が ある。 16) 共済掛金率は,「園芸施設共済の共済目的等による種別 ごと及び農林水産大臣の定める地域ごとに,農林水産大 臣が過去一定年間の被害率を基礎として定める園芸施設 基準共済掛金率を下回らない範囲内において,組合等が 共済規程等で定める率」(農林水産省『平成24年度 農業 災害補償制度 園芸施設共済統計表』による)である。こ 注 こでは,「園芸施設再保険料基礎率」が「原則として過去 20年間における地域別の被害率を基礎として」設定され ていることを考慮し,2009 ∼ 2011 年度に設定された共 済掛金率を基準に,1989 ∼ 2008 年度までの 20 年間の金 額被害率を算出し,両者の相関関係を分析した。 17) 農林水産省が 2013 年 11 月∼ 2014 年 7 月におこなった調 査結果による。 18) 園芸施設共済棟数加入率は,「園芸施設」の定義によっ て異なるため,これを厳密に特定するのは困難である。 ここでは,農業共済組合への聞き取り調査に基づき,お よその数値を示した。 19) 気象庁データは当該年 1 ∼ 12 月であり,農業共済組合 データは当該年4 月∼翌年 3 月である。本稿では,気象 庁データ年を共済組合資料の前年度のデータと対応させ て分析をおこなった。 20) 気象庁データと農業共済組合データの対応関係について は,注19)を参照。 21) 長 野 県 web サ イ ト http://www.pref.nagano.lg.jp/nosei/ happyou/140228press.html(2014 年 3 月 10 日検索)によ る。 22) 『長野日報』2014年3月4日付による。 23) 気象庁データと農業共済組合データの対応関係について は,注19)を参照。 24) 農業共済組合が一般に公表している統計・資料には,通 常,園芸施設被害の原因が記載されていない。南信農業 共済組合では,被害原因を「風害」,「火災」,「病害」,「雪 害」,「落雷」,「雹害」等に区分した上で,市町村ごとに 被害棟数を記載している。同組合の資料は,農業災害の 被害原因を地域的に分析する上で重要な資料となる。 25) 表2の園芸施設共済〔被害〕には,2014年2月に発生した 降雪以外の2013 年度内の園芸施設被害が全て含まれて いる。 26) 聞き取り調査およびJA 信州諏訪広報委員会(2014)『月 刊ジャスミン3月号』(121号)による。 27) 例として,埼玉県深谷市の法人経営体は,ビニルハウス が多数倒壊し,国内で園芸施設資材の調達が困難であっ たため,被災から4 週間後に中国へ金属パイプを直接買 付けに向かった(聞き取り調査による)。 28) 注26)を参照。 29) 南信農業共済組合における園芸施設共済の共済金支払財 源は,同組合諏訪支所管内に限定した集計が困難であっ たため,組合全体の数値を示した。 30) 農 林 水 産 省 web サ イ ト http://www.maff.go.jp/j/press/ keiei/saigai/140303_1.html(2014 年 3 月 21 日検索)によ る。 31) 山下・佐藤(1982)が,園芸施設雪害の規模と園芸施設 の耐用年数との関係に触れ,被害の不可抗力の側面に言 及している。 農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差

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─ ─56 ( )56 天野哲郎(2000)『農業経営のリスクマネジメント―畑作・露 地野菜作経営を対象として―』農林統計協会. 石井雅久(2011)「東北地方太平洋沖地震による宮城県太平洋 岸の園芸施設の被災状況」『畑地農業』634,2-8. 石井雅久・奥島里美・森山英樹・相澤正樹(2012)「平成 23 年(2011年)東北地方太平洋沖地震による宮城県沿岸部 の園芸施設の被害状況」『農村工学研究所技報』 213,89-103. 上原絢子(2003)「農業分野への天候リスクマネジメント導入 可能性に関する一考察」『農業情報研究』12(4),337-346. 大谷博実(1982)「積雪地帯におけるパイプハウスの融雪につ いて」『滋賀県農業試験場研究報告』24,165-168. 金谷 豊・倉田 勇(1985)「「59豪雪」による施設ハウスの被 害事例」『北陸農業研究資料』12,174-179. 亀田修二(2001)「中山間地積雪地帯における耐雪型パイプハ ウスの周年利用体系と経営評価」 『施設園芸』43(3),42-46. 亀田修二・木村順二・清水達夫(2006)「耐雪型パイプハウス を利用した野菜・花きの周年輪作体系の確立」『鳥取県 園芸試験場報告』7,9-18. 川上暢喜・鍵谷俊樹・徳原 功(2010)「載荷実験による農業 用パイプハウスの鉛直雪荷重に対する耐力評価」『岐阜 県中山間農業研究所研究報告』6,18-25. 木村順二(2006)「鳥取県中山間地におけるハウス野菜生産者 の耐雪型パイプハウスの冬期利用実態と周年利用に対す る意識調査」『鳥取県園芸試験場報告』7,29-36. 高橋久三郎・小林一雄・村松謙生・大沼匡之・鴨田福也 (1981)「園芸施設に対する積雪荷重とその軽減法」『北陸 農業試験場報告』23,197-234. 豊田裕道(1997)「園芸施設における積雪荷重の見直しと新構 造ハウスの傾向」『第12回農業施設研究会』,25-40. 田中礼治・松本芳紀・羽倉弘人(1998)「園芸施設の積雪荷重 に対する設計について」『日本雪工学会誌』14(4),19-23. 玉城 麿(2012)「南西諸島における園芸施設の台風対策に関 する研究」『沖縄県農業研究センター』6,1-59. 南石晃明(1991)『不確実性と地域農業計画―確率的計画法の 理論,方法および応用―』大明堂. 南石晃明(2011)『農業におけるリスクと情報のマネジメン ト』農林統計出版. 日本農業経営学会・門間敏幸編(2011)『知識創造型農業経営 組織のナレッジマネジメント』農林統計出版. 長谷部正・吉井邦恒編(2001)『農業共済の経済分析』農林統 計協会. 濱嵜孝弘・岡田益己・小沢 聖(1995)「1994 年 1 月 29 日に 岩手県北部沿岸で発生したパイプハウスの雪害―構造上 の問題点と対策―」『農業気象』51(1),53-56. 深澤大輔(2014)「2014.2.14-15の大雪によって関東甲信地域 で見られた農業用ハウスの被害の実態とその軽減のため の提案」『日本雪工学会誌』30(2),114-118. 古野伸典・佐瀬勘紀・石井雅久(2006)「連棟ハウスの温風送 風式融雪システムにおける最大融雪能力の推定と能力向 上のための試算」『農業生産技術管理学会誌』 13(1),29-34. 古野伸典・佐瀬勘紀・石井雅久・川村啓造・阿部 清(2003) 「積雪地域における連棟ハウスの融雪システムの評価」 文  献 『農業施設』33(4),225-231. 細野達夫(2007)「多雪地帯(北陸)における施設園芸ハウス の降雪対策の知恵」『施設と園芸』137,31-33. 深山一弥・村尾重信・足立一日出・福中 斉(1980)「北海道 における園芸施設の基礎土壤凍結と積雪荷重に関する研 究」『北海道農業試験場研究報告』127,135-160. 村松謙生(1998)「園芸施設の設計用屋根雪重量の評価」『北 陸農業研究資料』37,1-16. 村松謙生・田中礼治・羽倉弘人(1998)「園芸施設の雪害」『日 本雪工学会誌』14(2),29-34. 森山英樹(2002)「プラスチックハウス骨格構造の風雪害対 策」『農耕と園芸』57(11),80-83. 森山英樹(2009)「風荷重および積雪荷重に対するパイプハウ ス設計技術の高度化に関する研究」『農業施設』40(2), 103-104. 森山英樹(2014)「パイプハウスの省力的設計・補強とその省 エネ化」『農業および園芸』89(1),123-128. 森山英樹・豊田裕道(1999)「1998年1月の大雪時における東 北地方南部太平洋側の園芸施設の被災特徴について」 『農業施設』30(2),205-214. 両角和夫(1974)「いよいよ始まる畑作物共済及び園芸施設共 済の試験実施」『aff農林省広報』5(3),28-32. 両角政彦・森島 済(2012)「農業災害補償制度下における園 芸施設被害と農業共済組合」『日本大学文理学部自然科 学研究所 研究紀要』47,77-116. 山下 進・佐藤義和(1982)「園芸施設の豪雪による被害につ いて」『農業土木試験場技報A土地改良』28,35-60. 山田栄司(1974)「畑作物共済と園芸施設共済の試験実施―畑 作物共済および園芸施設共済に関する臨時措置法―」 『時の法令』851,48-54. 山辺 守・山本純男・宮田茂之・井ノ山助信・横谷政志・宮 野清治(1982)「園芸施設の融雪方法に関する研究」『石 川県農業試験場研究報告』12,33-51. 湯浅昌治(1979)「施設園芸と園芸施設共済」『農業と経済』45 (13),37-44. 横内絢子(2005)「農業分野における天候リスクマネジメント 技術導入に関する一考察」『農業および園芸』80(7), 751-758. 渡辺秀雄(2012)「爆弾低気圧に勝った最強のハウス」『現代 農業』91(11),76-83.

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(25)

─ ─57 ( )57 写真1 園芸施設(連棟ビニルハウス)の倒壊 (深谷市,2014年3月10日撮影) 写真3 園芸施設の支柱の破損と作物(ユリ)被害 (深谷市,2014年3月10日撮影) 写真2 園芸施設(鉄骨ビニルハウス)の倒壊 (深谷市,2014年3月10日撮影) 写真4 園芸施設の支柱基礎の破損 (深谷市,2014年3月10日撮影) 写真5  園芸施設(単棟ビニルハウス)の倒壊と作物(ブドウ) 被害(甲州市,2014年3月9日撮影) 写真6  園芸施設(連棟ビニルハウス)の倒壊と作物(ブドウ) 被害(甲州市,2014年3月9日撮影) 農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差

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─ ─58 ( )58 写真7 園芸施設撤去後のブドウ園 (笛吹市,2014年3月9日撮影) 写真9 園芸施設(鉄骨ファイロンハウス)の倒壊 (原村,2014年3月14日撮影) 写真8 園芸施設(単棟ビニルハウス)の倒壊 (富士見町,2014年3月15日撮影) 写真10 企業的経営体の園芸施設の倒壊 (富士見町,2014年3月14日撮影) 写真11 雪害を回避した園芸施設(ガラス室) (富士見町,2014年3月14日撮影) 写真12 雪害を回避した園芸施設(アクリルハウス) (深谷市,2014年3月10日撮影) 両 角 政 彦

(27)

─ ─59 ( )59 写真13  パイプ補強により倒壊を回避した園芸施設(ビニル ハウス)(甲州市,2014年3月9日撮影) 写真14 加温により倒壊を回避した園芸施設(ビニルハウス) (甲州市,2014年3月9日撮影) 写真16 ビニルを巻取り倒壊を回避した園芸施設 (茅野市,2014年3月14日撮影) 写真15 ビニルを裂き倒壊を回避した園芸施設 (茅野市,2014年3月14日撮影) 写真17 ビニルを外し倒壊を回避した園芸施設 (茅野市,2014年3月14日撮影) 写真18 園芸施設内の融雪剤(籾殻燻炭)の散布 (原村,2014年3月14日撮影) 農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差

(28)

─ ─60 ( )60 写真24 露地栽培により雪害を回避したブドウ園 (山梨市,2014年3月9日撮影) 写真19 倒壊した園芸施設の撤去作業(解体業者) (深谷市,2014年3月10日撮影) 写真21  倒壊した園芸施設の撤去作業(援農ボランティア) (山梨市,2014年3月9日撮影) 写真20 倒壊した園芸施設の撤去作業(家族労働力) (甲州市,2014年3月9日撮影) 写真23 園芸施設の倒壊にともない廃棄されたビニル類 (山梨市,2014年3月9日撮影) 写真22 園芸施設の倒壊にともない廃棄されたパイプ類 (深谷市,2014年3月10日撮影) 両 角 政 彦

参照

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