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海外の対策事例と費用対効果-カリフォルニア州の取り組みを中心として-
加藤 順子 (金沢工業大学)
1.はじめに
近年、米国、EU、我が国が相次いてPM2.5の大気環境基準を設定・強化した。これは、PM2.5濃度が、心 肺系が原因の急性死亡や入院、慢性死亡に関係しており、それがかなり低濃度においても生じているこ とが示されたためである。各国ではこれから、基準を達成するために、PM2.5およびその前駆体の排出を 削減することが必要となってくる。わが国おいては、PM2.5を指標とする基準の設定が初めてなされたこと、
また、現状では基準が達成できない地域がかなり存在するとみられることから、基準達成のための排出削 減対策をどうするかが、喫緊の課題となっている。
本稿ではこれらの状況にかんがみ、米国におけるPM2.5排出削減対策の取り組みおよび費用対効果を、
カリフォルニア州の事例を中心に、簡単に紹介する。
2.米国における環境基準と基準達成のための枠組み 2.1 米国における環境基準
米国におけるPM2.5に対する大気環境基準を表1に示す。
表1 米国におけるPM2.5に対する大気環境基準
設定・改定年月 平均時間 基準 フォーム 1997年7月設定 24時間平均 65(µg/m3) 暦年98%値の3年平均値
年平均 15(µg/m3) 年平均値の3年平均値*
2006年9月改定 24時間平均 35(µg/m3) 暦年98%値の3年平均値
年平均 15(µg/m3) 年平均値の3年平均値*
*特定条件下で空間的平均を認める。条件は2006年基準の方が厳しい
基準の達成・未達成は州から提出されたモニタリングデータをもとに連邦の環境保護庁(EPA)により判 断される。モニタリングデータをもとにフォームに従って算出した値(デザインバリュー)が基準値を超える 場合は、未達成と判断され、「未達成地域」が指定される。未達成地域は通常、郡レベルで指定されるが、
都市部では、基準未達成の都市部とそれに寄与する周辺地域が指定されることがある。
2.2 州の実施計画
米国では、大気環境基準を達成することは州政府の役割であり、未達成地域を含む州は、基準達成 のための計画を記載した州の実施計画(SIP)を作成し、EPAに提出しなければならない。SIPでは、未達 成の指定後5年以内(場合により1-5年の猶予が認められる)に基準が達成できることを示すことが求めら れる。
大気中のPM2.5には前駆体から二次的に生成されるものも多く含まれている。SIPでは、PM2.5のみでな く前駆体(SOx、NOx、必要に応じてVOC、アンモニア)の発生源の評価も求められる。排出削減措置に は、達成に必要なすべての妥当な削減措置(RACM, Reasonably available control measures)(固定発生
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源に対するRACT(reasonably available control technologies)を含む)を含んでいなければならない。また、
州内のPM2.5およびその前駆体の排出登録の提出も義務付けられている。
SIPでは基準の達成を示すのに、モデルを用いることが要求される。PM2.5の場合は、二次粒子濃度も 問題となるため、光化学モデルを用いることが好ましく、多くの州や地区では地域的な光化学モデルを用 いているようである。ただし、モデルによる予測には不確実性があるため、モデル以外の情報も含めて全 体としての証拠の重みに基づいて達成を示すことが許されている。
カリフォルニア州ではSIP作成のための構成要素を図1のように示している。
この中でまず重要なものはモニタリングである。モニタリングにより基準未達成の場 所が明らかとなる。また、粒子の化学種の分析により示される、粒子の構成要素や、
濃度の季節的パターン、気象データから、発生源等が推定できるようになる。
排出登録はSIP作成にきわめて重要である。排出登録とは、特定の地理 的地域における大気汚染物質発生源と推定排出量のリストである。ここで 発生源とは大気汚染物質の排出が起こる一つの設備に振り向けられて いる。排出登録により、地域において、どこからどれだけの排出がある
かが明らかになるのみでなく、排出削減対策の対象となりうる設備も明らかになる。
排出登録のデータおよび排出削減措置のデータを用いてモデリングすることにより、大気質を予測す ることができる。しかし、モデルには様々な不確実性があるため、EPAでは将来のデザインバリューの予測 に相対反応係数(relative response factor, RRF)を用いることを進めている。RRFはモデルによる将来の 予測値と基準年における予測値の比であり、これを基準年のデザインバリューに乗じることにより、将来に おけるデザインバリューが求められる。このようなモデリングの結果、およびその他の情報を合わせて、基 準達成に十分な排出削減がえられているか、基準が達成できそうかどうかが評価される。そして、基準達 成に必要な削減措置を含んだSIPが最終的に作成されることとなる。
2.3 連邦による支援
基準達成の責任は州に存在するが、EPAは州によるSIPの作成を助けるために様々な支援を行ってい る。1997年に設定されたPM2.5の環境基準達成期限は2005年であるが、EPAは2007年、基準を達成で きなかった州のために、SIP作成に関するワークショップを開催した。その中で、州に対して、RACM、排出 登録、大気質のモデリング、排出削減対策等に対する手引きを示している。また、EPAのサイトには州を 支援するための様々な情報やツールが提供されている。
ワークショップ資料(http://www.epa.gov/ttn/naaqs/pm/pm25_implementation_presentations.html)
排出登録(http://www.epa.gov/ttn/chief/)
モデリング(http://www.epa.gov/ttn/scram/)
削減手段-固定発生源、広域発生源(http://www.epa.gov/pm/measures.html)
削減手段-移動発生源(http://www.epa.gov/otaq/stateresources/policy/pag_transp.htm)
費用対効果分析(http://www.epa.gov/ttnecas1/econtool.html)
3. 州における排出削減への取り組み 3.1 SIPに示された排出削減方策
2004年12月、カリフォルニア州ではサンホアキンバレーとサウスコーストの二つの地域が、1997年の PM2.5基準の未達成地域として指定された。いずれの地域も複数の郡にわたっているが、これらの地域は
モニタリング 排出登録 モデリング 削減評価
SIP
図1 SIP策定の枠組み
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それぞれ、サンホアキン大気汚染制御地区、サウスコースト大気質管理地区により管理されている。いず れの地域も年間基準値が未達成であり、24時間基準(1997年基準は65μg/m3)は満たしている。
図2 カリフォルニア州のPM2.5基準未達成地域とそのPM2.5濃度
カリフォルニア州大気資源委員会(CARB)はオゾンの8時間基準およびPM2.5基準の未達成の指定を 受けてSIPの改定に取り組み、2007年、これをEPAに提出した。このSIPには、州全体でのSIP戦略と、
サウスコースト地区において、基準達成期限である2015年1月1日までにPM2.5基準を達成するための 排出削減策が示されている。カリフォルニア州においては、移動発生源(連邦政府が優先的に規制する ものを除く)、燃料(燃料規格、ガソリン蒸気回収基準、蒸気回収システムの認証)、消費者製品、有害大 気汚染物質(ディーゼル粒子を含む)はCARBが所管しており、農薬規制局(DRP)は農薬、自動車修理 局(BAR)は州のばい煙チェックプログラムを所管している。大気汚染制御地区/大気質管理地区(合計 35地区)は固定発生源、広域発生源を所管しており、地区はその地区における大気質達成計画を策定 し、州のレビューを受ける。
カリフォルニア州は1998年、ディーゼル排ガス粒子を有害大気汚染物質に指定した。CARBは2000 年より、ディーゼルリスク低減プログラムを導入し、ディーゼル粒子削減に向けて様々な規制措置を導入 してきた。これらの対策の導入により図2に示したようにPM2.5濃度は低下してきている。また、2006年に は、港湾および物流からの排出削減計画を導入し、船舶からのSOx、大型トラックからのNOxの排出削減 に取り組んでいる。これらの対策によりPM2.5濃度は今後も低下することが予想されるが、SIPのためには、
大気質の予測モデルを用いて2015年の達成期限までにPM2.5の環境基準を達成できることを示す必要 がある。サウスコースト地区では大気質の予測モデルとしてCAMxを用いてモデリングを行った。
EPAはSIPの作成にあたって、まず、大気質基準が達成された時に許容される汚染物質排出量
(carrying capacity)を確認し、これを目標として排出抑制対策を策定することを求めている。サウスコース
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ト地区におけるPM2.5およびその前駆物質(SOx、NOX、VOC)のcarrying capacityと現在の規制(ベース ライン)での2014年における排出量の推定値を表2に示す。ベースラインでのレベルはcarrying capacity を超えており、新たな削減対策を導入することにより、表に示される排出削減目標を達成する必要があ る。
表2 PM2.5達成戦略(NOx、VOC、PM2.5、SOX排出削減目標)
NOx VOC PM2.5 SOx
2014年ベースライン 654 528 102 43
carrying capacity 454 467 87 19
排出削減目標 200 61 15 24
サウスコースト地区におけるPM2.5の分析によると、PM2.5の50%以上はNOxやSOxの排出に起因する 二次粒子であった。したがって、CARBはSIPにおいて、サウスコースト地区におけるPM2.5基準の達成の ために、NOxやSOxの主要な排出源である移動発生源からの排出削減に重点を置いた。
表3にCARBの提案している排出削減措置と各汚染物質の排出削減量を示す。CARBはこれらの排 出削減措置の導入により、NOxでは122t/d、VOCでは46t/d、PM2.5の直接排出では9t/d、SOxでは
20t/dの排出削減が図られると推定している。
一方、地区においては、施設の改良、製品輸送関連、市場誘導、広域発生源対策、排出増加の管理、
移動発生源関連の各分野に対する措置を提案している。そのうちで削減幅が推定できているものを表4 に示す。
これらの対策による削減を合計しても、排出削減目標は、達成できなかった。さらに、地区によるモデリ ングの結果、これらの対策を採用しても2014年におけるPM2.5濃度は15.7μg/m3となり、わずかではあ るが、基準を達成することができないことが明らかになった。
地区はこのギャップを移動発生源対策の強化により埋めることを提案したが、CARBはその対策は費用 がかかりすぎるとして、直接排出されるPM2.5を削減し、それによりPM2.5濃度を0.7μg/m3低減することを 提案した。木材燃焼は1.5μg/m3程度寄与していると推定されるが、11月から2月に木材燃焼を禁止す ると、RubidouxのPM2.5濃度が0.9μg/m3低下することがモデリングにより示された。さらに商業調理は0.5 μg/m3程度の寄与があることも示された。したがってこれらの施設での排出を20%低減することにより0.1 μg/m3の濃度の低減が図れる。さらに粉塵に対する低減策を強化することにより、ギャップである0.7μ g/m3を上回る削減が達成され、基準達成が可能であるとCARBは推定している。
3.2 削減対策の費用対効果
カリフォルニア州では、大気汚染低減措置の採用に際して費用対効果を考慮することが明示的に求め られている。したがって、SIPの策定にあたり採用された新たな排出削減措置についても費用対効果の分 析が行われている。
コストの算出は、直接的算出のほかに、費用効果の推定と排出削減を掛け合わせて間接的に行ってい る場合もある。州全体におけるVOC、NOx、PM2.5の削減措置に対する費用対効果を表5に示す。2014 年における年間直接費用は州全体で4623.1(m$)、サウスコースト地区で1328.6(m$)と推定されている。
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表3 CARBが提案している排出削減措置とサウスコーストにおける各汚染物質の排出削減量(t/d)
提案している新たな削減措置 NOx VOC 直接排出
PM2.5 SOx
乗用車 14.4 17.7 0.3
ばい煙チェックの強化(BAR) 12.0 10.5 0.2
廃車の増大 2.4 2.8 0.05
改質ガソリンプログラムの改善 4.4
大型トラック 47.3 5.1 3.0
使用中大型トラックの清浄化の強化 47.3 5.1 3.0
物流発生源 49.4 0.7 3.6 20.1
船舶補助エンジンの陸上電源供給および清浄技術 18.5 0.3 0.4 船舶の主エンジンおよび燃料の清浄化の強化 20.0 2.4 19,7
港湾トラックの近代化 2.0 0.5
清浄な長距離機関車の導入促進 4.3 0.7 0.2
既存の港湾艇の清浄化 4.6 0.2
オフロード設備 10.5 2.7 2.6
使用中オフロード設備の清浄化の強化 10.5 2.7 2.6 使用中農業設備の清浄化の強化 NYQ NYQ NYQ その他のオフロード発生源 0.4 6.6
レクリエーション用ボートの新たな排出基準 0.4 4.2 オフロードRV車の排出基準の拡大 2.4
追加の蒸発ガス排出基準 NYQ NYQ
陸上貯蔵タンクの蒸気回収 NYQ NYQ
広域発生源 12.9
消費者製品プログラム 12.9
農薬:DPRによる規制 NYQ
提案している新たな削減措置による排出削減 122 46 9 20 NYQ:not yet quantified
表4 地区が提案している排出削減措置とサウスコーストにおける各汚染物質の排出削減量(t/d) 提案している新たな削減措置 NOx VOC 直接排出
PM2.5 SOx
2003年改定大気質管理計画の未着手分
ガソリン移動・拡散施設の排出削減 3.7
木材燃焼暖炉および薪ストーブからの排出削減 1.0
熱源が下にある大型グリルからの排出削減 1.0
新たな制御措置
潤滑油からの排出低減 1.9
Non-RECLAIMオーブン、ドライヤー、ファーネスから 3.5
39 のNOx削減
RECLAIMからのSOxのさらなる削減 3.0
スペースヒーターからのNOxのさらなる削減 0.8
施設の近代化 1.6 2.0 0.4
家畜廃棄物からの排出抑制 0.8
石油精製所パイロットプログラム 0.7 0.4 小型自動車高排出車確認プログラム 0.4 0.8
中型自動車高排出車確認プログラム 0.5 0.5
提案している削減措置による排出削減 6.8 10.4 2.8 3.0
表5 州全体におけるVOC、NOx、PM2.5の削減措置に対する費用対効果
州全体での措置 平均費用/効率
(2006年 $/ton)
推定削減 量(NOx)
推定削減 量(VOC)
推定削減 量(PM2.5) ばい煙チェックの強化(より厳しいカットポイント) 3020 4.1 1.6
レクリエーション用ボートの新たな排出基準 4754 1.3 14.3
消費者製品プログラム 4852 30.6
低圧蒸発試験 5427 8.2
既存の港湾艇の清浄化 4964 16.3 0.8
船舶の主エンジンおよび燃料清浄化の強化 7533-8092 94.4 11.7 清浄な長距離機関車の導入促進 10082 40.5 3.8 1.3
廃車の増大 11426 4.8 5.9 0.1
オフロードRV車の排出基準の拡大 13385 20.1
使用中オフロード設備の清浄化の強化 13600-20899 27.8 7.1 6.6 改質ガソリンプログラムの改善 14253 16.0
ばい煙チェックの強化(高走行車両) 15280-15773 3.3 1.0
ばい煙チェックの強化(軽/中型ディーゼル車) 18600 1.1 0.1 ばい煙チェックの強化(古い車両の点検) 21303 14.5 6.3
ばい煙チェックの強化(モータサイクルの点検) 22780 1.1 4.1
使用中大型トラックの清浄化の強化 31789 193.8 22.3 12.7
港湾トラックの近代化 32536 2.0 0.6
船舶補助エンジンの陸上電源供給および清浄 技術
42866 26.0 0.4
ばい煙チェックの強化(目に見える煙の試験) 54782 0.4
参考文献
Air Resources Board : Air Resources Board’s Proposed State Strategy for California’s 2007 State Implementation Plan. April 26, 2007. (http://www.arb.ca.gov/planning/sip/2007sip/2007sip.htm ) South Coast Air Quality Management District Governing Board: Final 2007 Air Quality Management Plan.
June 2007. (http://www.aqmd.gov/aqmp/07aqmp/index.html)