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第3章  アルミニウム合金材の接合法と継手の力学的特性 

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第3章  アルミニウム合金材の接合法と継手の力学的特性 

3.1  はじめに 

アルミニウム合金板や押出形材を用いて構造物を組立てるには,それらを接合する必要 がある.従来,アルミニウム合金部材の接合にはMIG溶接やTIG溶接が用いられてきた.

これらの溶接は溶融溶接であるため,6000系合金のような熱処理合金の場合には静的強度 や疲労強度が大幅に低下する1)

MIG溶接やTIG溶接に代わる接合法として摩擦攪拌接合2)(Friction Stir Welding,以下,

FSW とも呼ぶ)がある.摩擦攪拌接合は,英国の溶接研究所(TWI)で 1991 年に考案さ れた新しい接合法である.摩擦攪拌接合は,接合部が溶融してはいないので固相接合であ り,接合部の疲労強度が高いという特長がある.しかし,道路橋床版のように繰返し大き な荷重が作用する土木構造物に適用された例はまだない.そこで,適用のための前段階と して,ここでは摩擦攪拌接合の基本的な特性を明らかにする.

摩擦攪拌接合においても,接合部が溶融していないものの,熱が加わるため熱処理合金 の接合では静的強度が低下する.これを回避する接合法として,ボルトやリベットによる 機械的接合法がある.ボルトによる接合では,鋼製高力ボルトによる摩擦接合法が用いら れる.この接合法では,被締結材がアルミニウム合金であることから,部材のクリープに 起因するボルトの軸力低下,アルミニウム合金部材と鋼ボルトの線膨張係数の違いに起因 する温度によるボルトの軸力変化,アルミニウム合金部材表面におけるボルトの陥没およ び継手としてのすべり係数の確保という問題があるが,現場接合法として唯一のものであ ることから,これらを明らかにする必要がある.

リベットによる接合は,鋼の分野では補修以外には用いられることはなくなったが,鋼 製高力ボルトによる摩擦接合における,母材と添接板の接触面のすべり係数およびボルト 軸力低下の問題がないことから,アルミニウム構造物を組立てる際の,工場における接合 法として有効なものであると考えられる.摩擦攪拌接合は,長尺なアルミニウム合金部材 を平行に並べ,それらの長辺同士を長手方向に接合するには有効な接合法である.しかし,

接合装置の能力から,平行に並べるアルミニウム合金部材の数が制限される.この対策と して,摩擦攪拌接合で製造されたユニットをリベットで接合して組立てる方法が考えられ

(2)

る.リベットに使用する材料として,鋼ではなくてアルミニウム合金を用いることによっ て軽量化とともに異種金属接触腐食を回避することができる.

橋や社会基盤構造物は大型であり作用荷重が大きいため,部材を接合するリベットには 直径が22mm程度の大径のものが要求される.しかし,そのような大径のアルミニウム合 金製リベットの使用事例は国内ではまだない.そこで,耐食性と耐久性に優れ,冷間でか しめることができる大径のアルミニウム合金製リベットを実際に試作してその性能を検証 する.

図‑3.2  摩擦攪拌接合部の組織  接合部 

返り 

塑性流動域  攪拌部 

熱影響部  母材 

図‑3.1 摩擦攪拌拌接合の概念  接合方向 

回転方向 

ショルダー プローブ  回転ツール 

裏当て金  前進角

加圧力

(3)

3.2  摩擦攪拌接合 

3.2.1  接合原理 

図‑3.1に示すように,摩擦攪拌接合では2枚の板の接合面を突合せ,先端にプローブを 持つツールを回転させながら,ショルダーが被接合材の表面に接するまでプローブを接合 面に挿入する.接合面は,摩擦熱により軟化し,ツールの回転に引きずられて攪拌される.

その後,ツールを接合線に沿って移動させることによって接合面を一体化させるのが摩擦 攪拌接合の接合原理である.ツールには,3〜5°程度の傾きを付ける場合がある.この傾 きは,プローブの先端が接合方向に前進するように付けられるため前進角と呼ばれる.

摩擦攪拌接合は,MIG溶接のような溶融凝固が伴わないので固相接合方法に属する.摩 擦攪拌接合には,次の利点がある.

(1) 余盛が発生しない.

(2) 熱発生が少ないため残留変形が小さく,残留応力が低い.

(3) 疲労強度が高い.

(4) 機械で制御されるために高い再現性を有する.

(5) フィラー材が不要である.

(6) 騒音,スパーク,ヒュームならび他の環境破壊要因がない.

(7) 接合の準備が簡単である.

3.2.2  熱影響範囲 

摩擦攪拌接合においては,回転ツール先端のプローブによる攪拌およびショルダーとの 摩擦により熱が発生するので,熱処理合金の場合,接合線を中心として左右に軟化した熱 影響部が生じる.摩擦攪拌接合部の断面は,図‑3.2に示すように,プローブの形状に相当 する攪拌部,その両側の塑性流動域および熱影響部から成る.接合線の両脇にはショルダ ーから排出されたアルミニウムによって返りが発生する.

熱 影 響 範 囲 は 接 合 条 件 や ツ ー ル の 形 状 に 影 響 さ れ る . 摩 擦 攪 拌 接 合 線 に 直 角 な 断 面 (FSW-T)に関する 3 つの測定結果について,被接合材の仕様,ツールの形状および接合条 件を表‑3.1,接合線に直角な断面の両表面から 2mm 内部および板厚中央におけるビッカ ース硬さを図‑3.3に示す.硬さ測定時の圧子に載荷する荷重は1 Nである.図‑3.3の横軸 は,接合線を原点とする接合線に直角な方向の座標である.

(4)

図‑3.3(c)の接合線付近の硬さが高くなっているが,これは,摩擦攪拌接合時の冷却速度 が速かったため,結晶内に微細な析出物が再固溶することによって硬さが増したためであ る.それに対して,図‑3.3 の(a)と(b)では(c)ほど接合線付近の硬さに変化は見られない.

これは,摩擦攪拌接合時の冷却速度が遅かったため,結晶内に固溶する析出物が大きくな ったためである.図‑3.3 の(a),(b)および(c)の母材部の硬さの差は,形材製造時の冷却と 人工時効の違いによるものである.

熱影響範囲は,形材A が接合線を中心として左右にそれぞれ22mm,形材Bが 25mm,

形材Cが15mmである.MIG溶接の場合が25mmであるので3),摩擦攪拌接合の熱影響範 囲はMIG溶接のそれと同じかそれより狭い.

3.2.3  摩擦攪拌接合部の機械的性質 

前節の形材 A,BおよびCの材料であるA6005CS-T5の化学成分をJIS規格値とともに 表‑3.2 に示す.同表には,6000 系合金の中で強度が高いA6061S-T6 の化学成分の測定値 も JIS 規格値とともに示した.以降で述べる実験に使用したアルミニウム合金部材の機械 的性質については,その都度示す.

表‑3.2に対応する材料の母材と摩擦攪拌接合部の機械的性質の測定値を表‑3.3に示す.

同表にはA6061S-T6の機械的性質の測定値も示した.引張試験片の形状は JIS 14B号試験 片である.母材の試験片は,形材の押出方向から採取した.表‑3.3 に示す FSW-T は摩擦 攪拌の接合線が試験片の軸方向中央に位置するように,接合線に直角な方向から採取した 試験片であり,FSW-Lは接合線方向が試験片の軸方向と一致する方向から採取した試験片 である.

表‑3.1  摩擦攪拌接合条件

ツールの形状 接合条件 材質・質別 形材 形材 板厚

(mm) ショルダー

径 (mm) プローブ

径 (mm) 前進角

(度) 回転数

(rpm) 移動速度 (mm/min)

A 中空 12 25 6 3 1200 350

B 0 700 100

A6005CS-T5 C

平板 10 20 10

3 890 200

(5)

      表‑3.2 6000系合金の化学成分 (%)

材質・質別 形材 Si Fe Cu Mn Mg Cr Zn Ti A

測定値

0.51〜

0.53 0.16 0.08〜

0.09

0.14〜

0.15 0.69 0.01 0.01 0.02〜

0.03 B

測定値 0.77 0.16 0.01

以下 0.17 0.71 0.07 0.01

以下 0.09 C

測定値 0.81 0.15 0.01

以下 0.15 0.73 0.07 0.01 以下

0.08 A6005CS-T5

JIS規格値 0.04〜

0.9 0.35 以下

0.35 以下

0.50 以下

0.40〜

0.8

0.30 以下

0.25 以下

0.10 以下 測定値 0.69 0.22 0.36 0.03 0.99 0.09 0.02 0.020 A6061S-T6

JIS規格値 0.40〜

0.8 0.7 以下

0.15〜

0.40

0.15 以下

0.8〜

1.2

0.04〜

0.35 0.25 以下

0.150 以下 図‑3.3 摩擦攪拌接合部(FSW-T)の硬さ分布

FSW接合線に直角な方向の座標 (mm) 熱影響範囲

(a) 形材 A

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 40

50 60 70 80 90 100 110 120

(mm)

 さ (HV)

:上面から2mm内部

:肉厚中央

:下面から2mm内部

(b) 形材B

熱影響範囲

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 40

50 60 70 80 90 100 110 120

接合線を原点とした座標 (mm)

(Hv)

:上表面から2mm内部

:板厚中央

:下表面から2mm内部

FSW接合線に直角な方向の座標 (mm)

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50

60 70 80 90 100 110 120

FSW接合線に直角な方向の座標 (mm)

(Hv)

:上面から2mm内部

:板厚中央

:下面から2mm内部

硬さ  (Hv)

熱影響範囲

FSW接合線に直角な方向の座標 (mm)

(c) 形材C

(6)

表‑3.3 6000系合金の母材と摩擦攪拌接合部の機械的性質の測定値

材質 部位 板厚 (mm)

引張強さ (MPa)

0.2%耐力 (MPa)

伸び (%)

ヤング係数

(GPa) ポアソン比

母材 10 270 246 7.9 70.5 0.31

FSW-T 12 217 111 69.3 0.33

A6005CS-T5 形材A

FSW-L 12 218 128 29.8 69.1 0.34

母材 10 298 272 15.3 71.6 0.31

A6005CS-T5

形材B FSW-T 10 198 110 70.0 0.33

母材 10 311 283 14.3 71.5 0.31

A6005CS-T5

形材C FSW-T 10 210 121 70.5 0.33

母材 15 309 292 12.0 71.5 0.31

FSW-T 15 229 138 72.8 0.34

A6061S-T6

FSW-L 15 232 156 22.7 69.5 0.32

母材および摩擦攪拌接合部の引張強さと0.2%耐力は,A6061S-T6がA6005CS-T5より高 い.FSW-TとFSW-Lについては,A6061S-T6およびA6005CS-T5ともに,引張強さはほぼ 同じであるが,0.2%耐力は FSW-L が FSW-T より 10〜15%高い.摩擦攪拌接合部は,

A6061S-T6およびA6005CS-T5ともに,母材に対して,引張強さが65〜80%,0.2%耐力が 40〜47%まで低下する.

6000系アルミニウム合金の疲労特性については5章で述べる.

図‑3.4 残留応力測定用の試験体

250

FSW 400

FSW

1700

(7)

3.2.4  残留応力 

摩擦攪拌接合部の残留応力の測定には,中空形材2本の上下フランジを突合せて摩擦攪 拌接合した図‑3.4に示す試験体を用いた.試験体の長手中央の上下フランジの外表面に5 連の2軸ひずみゲージを貼り,切断法により応力を開放して残留応力を測定した.プロー ブ挿入側表面の,接合線方向と接合線に直角な方向の残留応力を図‑3.5に示す.

摩擦攪拌接合部のプローブ挿入側表面に生じた接合線方向の残留応力は,接合部近傍で 引張応力が高く,接合線から15mm離れた位置で引張応力が最大の 70MPaになった後,そ こから離れるに従って応力が低下する.接合線から25〜30mm離れた位置で応力は圧縮に 転じる.表‑3.3から,接合線方向の0.2%耐力が128MPaであるので,接合線方向の引張残 留応力は0.2%耐力の55%である.他に,摩擦攪拌接合による接合線方向の残留応力が,摩 擦攪拌接合部の0.2%耐力の45〜100%であったとの報告もある4).MIG溶接の同残留応力 が0.2%耐力程度に達する4)のに対し,摩擦攪拌接合の残留応力はそれより低い.

接合線に直角な方向の残留応力は,接合線から35mmまでは圧縮応力である.

-5 0 5 10 15 20 25 30 35

-60 -40 -20 0 20 40 60 80

(mm)

σ (MPa) 上フランジ上面 下フランジ下面

(b) 接合線直角方向残留応力

FSW接合線に直角な方向の座標 FSW中心

(a) 接合線方向残留応力 FSW中心

-5 0 5 10 15 20 25 30 35

-60 -40 -20 0 20 40 60 80

(mm)

σ (MPa)

上フランジ上面 下フランジ下面

FSW接合線に直角な方向の座標

図‑3.5  摩擦攪拌接合部のプローブ入側表面の残留応力 

(8)

3.3  鋼製高力ボルトによる摩擦接合 

3.3.1  鋼製高力ボルト継手のクリープによる軸力低下 

(1)試験体 

図‑3.6に示すように,3枚で 1 組のアルミニウム合金板を重ね,それらに直径 24.5mm のドリル孔を開け,M22の鋼製高力ボルトで締結した.板厚15mmの中央の板は母材を想 定し,板厚 8mmの両側の 2枚の板は添接板を想定している.これ以降,板厚 15mmの中 央の板を母材,板厚 8mm の板を添接板と呼ぶ.試験体は 6 体製作した.試験体 1〜3 の A5083P-Oおよび試験体4〜6のA6061P-T6の母材と添接板の引張試験結果を表‑3.4,応力

‑ひずみ曲線を図‑3.7に示す.ここで,アルミニウム合金名に記されたPは圧延板であるこ とを示す.

表‑3.4 アルミニウム合金板の機械的性質(JIS 14B号引張試験片,各3本の平均値)

試験体 アルミニウム 合金

板厚 (mm)

引張強さ (MPa)

0.2%耐力 (MPa)

伸び (%)

ヤング係数

(GPa) ポアソン比 8 309 146 23.6 72.7 0.31 1〜3 A5083P-O

15 309 160 22.4 72.7 0.34

8 329 311 16.4 70.7 0.32 4〜6 A6061P-T6

15 324 310 14.9 71.6 0.32

図‑3.6 試験体 200

200

φ24.5ドリル

8 15 8

(単位 mm)

(9)

2 枚の添接板の,母材に接する面に対して,アルミニウム建築構造製作要領 5)に従って 表‑3.5に示すブラスト処理を施した.ブラスト後の添接板の表面粗さはRz 31.3〜47.4µm であった.母材の表面にはブラスト処理を施していない.ボルト軸力の測定には,ひずみ ゲージ専門メーカーから購入した,図‑3.8に示すボルト軸力計を用いた.ボルト軸力計の 呼びはM22,機械的性質による等級はF10Tである.図‑3.8に示すように,ボルト軸力計 には,軸方向に 2枚,その直角方向に 2枚,合計4枚のゲージ長 2mmのひずみゲージが 貼付されており,使用環境温度は 0〜50℃である.使用したナットの機械的性質による等 級はF10でM22,使用した座金の機械的性質による等級はF35で,外径が44mm,内径が 23mm,板厚が6mmである.

表‑3.5  添接板のブラスト条件 ブラスト材 アルミナ粉 F60

空 気 圧 力 0.4 MPa 使用ノズル 内径 9 mm

吹 付 距 離 150 mm 吹 付 角 度 75 度

吹 付 時 間 120 秒 / (281×115)mm2

= 3.71×10-3 秒/mm2 (a) A5083P-O

(板厚 8mm)

図‑3.7  アルミニウム合金板の応力‑ひずみ曲線 (b) A5083P-O

(板厚15mm)

(c) A6061P-T6 (板厚8mm)

(d) A6061P-T6 (板厚15mm)

10 20 30

100 200 300 400

0

ε  (%)

σ  (MPa)

10 20 30

100 200 300 400

0

ε  (%)

σ (MPa)

10 20 30

100 200 300 400

0

ε  (%)

σ (MPa)

10 20 30

100 200 300 400

0

ε  (%)

σ (MPa)

(10)

室温 25℃の状態で,図‑3.6 の試験体を鋼製高力ボルトで締付けた直後から鋼製高力ボ ルトの軸力測定を開始すると同時に,図‑3.9に示す恒温槽に試験体を入れ,各試験体のア ルミニウム合金板の表面に設置された熱電対により計測された温度が 23℃〜26℃になる ように恒温槽の温度を制御した.

鋼製高力ボルトに導入した初期軸力は,試験体1と4に,道路橋示方書6)で規定される F8Tの設計ボルト軸力165kNの10%増しの181.5 kN,試験体3と6に,F10Tの設計ボル ト軸力205kNの10%増しの225.5 kN,および試験体2と5に,F8TとF10Tに対する初期 導入軸力の平均値の203.5 kNである.これらの初期導入軸力の識別を容易にするために,

181.5 kN,203.5 kNおよび225.5 kNの初期導入軸力をそれぞれF8T,F9T,F10Tと呼ぶ.

鋼製高力ボルトの軸力測定を2006年1月11日に開始し,2007年2月8日に終了した.

試験の全日数は393日である.試験途中,試験開始70日後の2006年3月22日〜25日と,

321日後の2006年11月28日〜12月1日の 2回,恒温槽の温度を 0 ℃から50 ℃の範囲で 変化させて鋼製高力ボルトの軸力の変化を測定した.

(2)鋼製高力ボルトの軸力低下の測定結果 

  鋼製高力ボルト締結後の軸力Nの測定結果を図‑3.10に示す.同図の推定式については,

表‑3.8に示す.軸力Nを初期導入軸力 N0で除した軸力残存率N / N0を図‑3.11に示す.

各図の横軸t は,鋼製高力ボルト締結後の経過日数である.さらに,鋼製高力ボルト締結 後0,1,10,100,200,300および393日後の鋼製高力ボルト軸力残存率を表‑3.6に示す.

0日に対する値は初期導入軸力であり,393日は試験終了日である.

図‑3.8  ボルト軸力計 1.5

4‑φ2

10 15 70

(単位 mm)

ひずみゲージ

図‑3.9  試験体が置かれた恒温槽

(11)

  図‑3.11(a)に示すA5083P-OのF9Tおよび図‑3.11(b)に示すA6061P-T6のF10Tの軸力残 存率が,前者では第1回目の温度変化試験後,後者では第 1回目と第2回目の温度変化試 験後に不安定な挙動を示している.この原因については不明である.両者に対して,(3)

で与える表‑3.8 に示す鋼製高力ボルトの軸力残存率の推定式から得られる関係を破線で 示している.

同様に,表‑3.6のA5083P-OのF9TとA6061P-T6のF10Tに対しては,100日以降の軸 力残存率に,表‑3.8に示す鋼製高力ボルトの軸力残存率の推定式が与える値を記載してい る.これらの2ケースに対して推定式を用いることの妥当性については(3)で述べる.

図‑3.10  鋼製高力ボルトの軸力Nの変化 (a) A5083P-O

0 100 200 300 400 160

170 180 190 200 210 220 230 240 250

t (日)

N  (kN)

F8T F9T F10T 測定結果  推定式

(b) A6061P-T6

0 100 200 300 400

160 170 180 190 200 210 220 230 240 250

t (日)

N  (kN)

F8T F9T F10T 測定結果 推定式

図‑3.11 鋼製高力ボルトの軸力残存率N/N0の変化 (a) A5083P-O

1回温度変化試験

0 100 200 300 400

0.9 0.92 0.94 0.96 0.98 1

t (日) N / N0

測定結果 F8T F9T F10T F9T推定式

(b) A6061P-T6 1回温度変化試験

2回温度変化試験

0 100 200 300 400

0.9 0.92 0.94 0.96 0.98 1

t (日) N / N0

測定結果 F8T F9T F10T F10T推定式

(12)

図‑3.10と図‑3.11が示すように,鋼製高力ボルトの軸力Nおよび軸力残存率N / N0は,

ボルト締結直後,急激に低下し,その後は穏やかに低下する.鋼製高力ボルトの軸力残存 率は,表‑3.6に示すように,ボルト締結 393 日後,A5083P-O においては 0.925〜0.956,

A6061P-T6においては 0.960〜0.968 であり,A5083P-O の軸力残存率の低下が A6061P-T6 のそれより大きい.そしてA5083P-Oにおいては,初期導入軸力が大きくなるに従って軸 力残存率の低下が大きくなるが,A6061P-T6においては,軸力残存率が初期導入軸力の大 きさに依存する度合いが小さい.A5083P-O において,初期導入軸力が大きくなるに従っ て軸力残存率の低下が大きくなる原因は,初期導入軸力が大きくなるに従って A5083P-O のクリープの影響が大きくなるためであると考えられる.

(3)鋼製高力ボルトの軸力残存率の推定式 

図‑3.10に示す鋼製高力ボルトの軸力残存率と経過時間の傾向から,両者に対して次式 を仮定する.

tβ α N

N

=10 0

(3.1)

ここに, α,β : 定数

t : 経過日数 (日)

表‑3.6 鋼製高力ボルトの軸力残存率

A5083P-O A6061P-T6 試験体1 試験体2 試験体3 試験体4 試験体5 試験体6

日数

F8T F9T F10T F8T F9T F10T

0 1 1 1 1 1 1 1 0.978 0.961 0.952 0.978 0.970 0.974 10 0.973 0.956 0.943 0.973 0.970 0.969 100 0.962 0.947 0.934 0.968 0.970 0.960 200 0.962 0.947 0.930 0.968 0.966 0.960 300 0.956 0.942 0.930 0.968 0.966 0.960 393 0.956 0.942 0.925 0.968 0.966 0.960

*:表‑3.8に示す鋼製高力ボルトの軸力残存率の推定式が与える値

(13)

式(3.1)は次のように変形される.

t β N α

N log log

log log

0= +



− (3.2)

/ ( log [

log − N N0)]とlogtをそれぞれ縦軸と横軸に採った図上に,鋼製高力ボルトの軸力 の測定値をプロットした結果を図‑3.12 に示す.図‑3.12 において,直線性を示すプロッ ト点に対して最小自乗法を適用することによって得られるαβの値を表‑3.7に示す.

-4 -2 0 2 4

-3 -2 -1

log t log [ -log (N / N0) ]

測定結果 F10T F9T F8T 近似式 F10T F9T F8T

-4 -2 0 2 4

-3 -2 -1

log t log [ -log (N / N0) ]

測定結果 F10T F9T F8T 近似式 F10T F9T F8T

(a) A5083P-O (b) A6061P-T6 図‑3.12  log

[

−log

(

N/N0

) ]

とlogtの関係

1回温度変化試験 1回温度変化試験

表‑3.7 αβの値ならびにt1t2の値 アルミニウム

合金 試験体 適用軸力 α β t1  (日) t2  (日) 9.39 ×10-3 1.231×10-1 393 1 F8T

9.39 ×10-3 1.223×10-1 7.68 ×10-2

69.7 2 F9T 1.599×10-2 7.93 ×10-2 8.68 ×10-4 69.7 2.13 ×10-2 6.71 ×10-2 393 A5083P-O

3 F10T

2.12 ×10-2 6.44 ×10-2 5.79 ×10-4

69.7 1.179×10-2 5.25 ×10-2 393 4 F8T

1.183×10-2 4.95 ×10-2 1.452×10-1

69.7 1.130×10-2 5.41 ×10-2 393 5 F9T

1.143×10-2 5.96 ×10-2 3.47 ×10-4

69.7 A6061P-T6

6 F10T 1.197×10-2 6.49 ×10-2 7.52 ×10-4 69.7

(14)

同表には,最小自乗法を適用した部分の経過時間の最初 t1および最後 t2も示してある.

図‑3.11に示すように,A5083P-O の F9TとA6061P-T6のF10Tの軸力残存率が第1回目 の温度変化試験後に不安定な挙動を示したので,両者の t2を,第1回目の温度変化試験を 行う前までの経過時間である69.7日とした.A5083P-OのF8Tと F10Tおよび A6061P-T6 の F8Tと F9Tの t2に対しては,試験終了日である 393日と,第 1回目の温度変化試験を 行う前までの経過時間である 69.7 日の両者とした.A5083P-O の F8T と F10T および A6061P-T6のF8TとF9T の各場合において,t2が69.7日に対するαβの値は,t2が393 日に対するそれらの値にほぼ等しい.したがって,A5083P-O のF9TとA6061P-T6のF10T については,69.7 日までの経過時間に対して最小自乗法を適用して得られたαβの値を 用いて経過時間393日までを推定することができる.

表‑3.7 のαβの値を式(3.1)に代入して得られる M22 鋼製高力ボルトの軸力残存率の 推定式を表‑3.8 に示す.表‑3.8 の鋼製高力ボルトの軸力残存率の推定式と測定結果の比 較を図‑3.10に示す.図‑3.12 において,t が t 1より小さい領域で,表‑3.6 のαβの値 を代入した式(3.2)が与える直線が測定値から離れているが,図‑3.10 では,鋼製高力ボル トの軸力残存率の推定式が測定結果をよく近似している.これは,図‑3.12 では縦軸と横 軸に対数が採られ,ゼロに近い値が対数表示によって強調されるが,対数を外した数値の 差は小さいからである.

A6061-T6のアルミニウム合金押出形材(母材の厚さ15mm,添接板の厚さ10mm)が,

M20 の溶融亜鉛めっき鋼製高力ボルト F8T を用いてナット回転法により締結された場合 の,50年後の鋼製高力ボルトの軸力残存率が0.9であることが報告されている7).この値 は,21ヶ月の軸力残存率の測定結果を外挿することによって得られたものである.

表‑3.8 の鋼製高力ボルトの軸力残存率の推定式の適用範囲は 393 日までであるが,50 年後の軸力残存率を推定できると仮定すると,A6061P-T6の50年後の鋼製高力ボルトの軸 力残存率は F8Tに対して 0.956である.既往の研究 7)の軸力残存率が本研究の軸力残存率 より低いのは,既往の研究では鋼製高力ボルトが溶融亜鉛めっきされており,座金とボル ト・ナットの接触部,座金とアルミニウム合金板の接触部,およびボルトのねじとナット のねじの接触部に亜鉛の膜が存在することによる鋼製高力ボルト自身のリラクセーション による軸力低下が主原因であると考えられる.

(15)

表‑3.8 M22鋼製高力ボルトの軸力残存率の推定式 アルミニウム

合金 試験体 適用軸力 N0  (kN) 0≤t ≤393(日)

1 F8T 181.5 0.00939 0.1231

0 10 t

N N =

2 F9T 203.5 0.01599 0.0793

0 10 t

N N = A5083P-O

3 F10T 225.5 0.0213 0.0671

0

10 t

N

N

=

4 F8T 181.5 0.01179 0.0525

0

10 t

N N =

5 F9T 203.5 0.01130 0.0541

0 10 t

N N = A6061P-T6

6 F10T 225.5 0.01197 0.0649

0 10 t

N N =

(16)

3.3.2  温度による軸力変化 

試験開始70日後と321日後の2回,恒温槽の温度を0〜50℃の範囲で変化させて,鋼製 高力ボルトの軸力を測定した.各試験体のアルミニウム合金板の表面に設置した熱電対に より温度測定を行った.

試験開始 70日後の第 1回目の設定温度の履歴および試験開始 321日後の第 2回目の設 定温度の履歴を図‑3.13に示す.図の縦軸と横軸にそれぞれ設定温度T(℃)と経過時間 t

(h)が採ってある.恒温槽の温度を設定した後,試験体の温度が安定するまで待ち,次 の温度に設定する直前に鋼製高力ボルトの軸力を測定した.

鋼製高力ボルトの軸力変化∆Nと温度差∆Tの関係の一例を図‑3.14に示す.両者は直線 性を示すので,両者の関係に次式を仮定し,最小自乗法によって算出された係数abの 値および決定係数R 2の値を表‑3.9に示す.

b T

a N

= + (3.3)

0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30 33 0

10 20 30 40 50

T ()

t  (h)

0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30 33 0

10 20 30 40 50

T ()

t  (h)

(a) 第1回目

図‑3.13  設定温度の履歴

(b) 第2回目

-30 -20 -10 0 10 20 30

-10 -5 0 5 10

ΔT     (℃)

ΔN   (kN)

図‑3.14  鋼製高力ボルトの軸力変化と温度差の関係[試験体3]

(a) 第1回目 (b) 第2回目

-30 -20 -10 0 10 20 30

-10 -5 0 5 10

ΔT     (℃)

ΔN   (kN)

(17)

式(3.3)のaは単位温度の変化に対する鋼製高力ボルトの軸力変化率である.aと温度変 化試験開始直前の導入軸力Nの関係を図‑3.15に示す.試験体5の第 2回目の温度変化試 験のaの値が他の値より幾分低いが,これを除けば,aの値に大きな差は見られない.す なわち,単位温度の変化に対する軸力変化率は,A5083P-OとA6061P-T6の材料の違いに 影響されず,F8TからF10Tまでの初期導入軸力の大きさの違いによっても影響されない.

表‑3.9 において,aの最大値は 0.197 kN/℃である.したがって,M22 の鋼製高力ボル トで締結されたアルミニウム合金板摩擦接合継手の単位温度の変化に対する軸力の変化 率を0.197 kN/℃とする.

表‑3.9 係数 abの値および決定係数の値

1回目 2回目 アルミニウム

合金 試験体 適用

軸力 a (kN / ℃)

b

(kN) R 2 a (kN / ℃)

b

(kN) R 2

1 F8T 0.177 -0.40 0.994 0.165 -0.11 0.999 2 F9T 0.193 -0.69 0.981 0.170 -0.10 0.997 A5083P-O

3 F10T 0.197 -0.57 0.978 0.172 -0.11 0.999 4 F8T 0.187 -0.51 0.988 0.172 -0.02 1.000 5 F9T 0.187 -0.02 0.931 0.138 0.00 0.999 A6061P-T6

6 F10T 0.195 -0.17 0.992 0.181 -0.17 0.998

160 180 200 220 240

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

N (kN)

a (kN / ℃)

図‑3.15  aNの関係

A5083P-O 1回目

A6061P-T6

A5083P-O 2回目

A6061P-T6

(18)

道路橋示方書 6)では,鋼構造の設計に用いる基準温度に対する温度変化の範囲を±30℃

としている.アルミニウム合金板を鋼製高力ボルトで締付ける場合,温度変化に対して鋼 製高力ボルトの軸力が低下するのは,ボルト締結時から温度が低下する場合である.

そこで,ボルト締結100年後における,基準温度から30℃低下した場合のボルト軸力残 存率を表‑3.10 に示す.表‑3.10 において,Ndは設計ボルト軸力,N100は表‑3.8 に示す 軸力残存率の推定式から計算した締結100年後のボルト軸力,∆NT=30は温度が 30℃変動 した場合のボルト軸力の変化である.

表‑3.10から,A5083P-Oの場合の軸力残存率は90%を下回るが,A6061P-T6では90%以 上になる.したがって,被締結材がA6061P-T6の場合,締付けボルト軸力を道路橋示方書 の規定どおり設計ボルト軸力の10%増しとすることにより,締付け100年後においても設 計ボルト軸力を確保することができる.

表‑3.10 ボルト締結100年後における最低ボルト軸力残存率

アルミニウム 合金

適用

軸力 d

N (kN) N100 (kN) ∆NT=30 (kN)

軸力残存率

d T

N N

N100=30

F8T 165 152.5 0.888

A5083P-O

F10T 205 185.6 0.877

F8T 165 157.4 0.918

A6061P-T6

F10T 205 194.1

5.9

0.918

3.3.3  被締結材の表面の変形特性 

鋼製高力ボルトの軸力低下試験が終了した後,ボルトを除去して,添接板の座金側表面 および添接板と母材との接触表面を観察した.初期導入軸力が最も大きいF10Tについて,

添接板のボルト頭側表面の写真を図‑3.16に示す.図‑3.16(a)に示すように,A5083P-Oの 添接板には,座金と接触する表面に円形のへこみが観察された.そこで,接触式の輪郭形 状測定機の接触子を,円孔の中心を通って添接板の表面を直線状に移動させることによっ て,添接板のへこみの形状を計測した.へこみが始まる場所とへこみが最大の場所の,表 面に垂直な方向の距離をへこみの深さと定義する.添接板の変形の測定結果を表‑3.11 に 示す.同表の挿入図に示すように,φAの内側でδAの変形が生じ,φAからφBのδBの変

(19)

形まで急激に減少し,φBから外側ではわずかな傾斜が観察された.φAとφBは,F8T,

F9T,F10T の初期導入軸力の大きさによってそれぞれほとんど変化しないが,δAδBは 初期導入軸力が大きくなるに従って大きくなる.φBは約40mmであり,座金の外形44mm より小さい.これは,座金が曲げ変形することによって,座金の表面全体が添接板に接触 していないためである.

A6061P-T6 の添接板では,輪郭形状測定機による計測でへこみは検出されなかった.

図‑3.16(b)に示すように,ボルト孔周りに金属光沢が失われた円形の領域があり,その外 側に金属光沢が存在する.座金の外径に相当する部分に,ボルト締結時に座金の外縁によ って付けられたと考えられる接触キズが見られる.表‑3.12 に示すように,金属光沢が失 われた領域の外径は,初期導入軸力の大きさに影響されず,約 39.5mmである.前述した ように,A5083P-O の添接板が座金と接触する領域の外径が約 40mm であったことを考え ると,A6061P-T6の添接板のボルト孔周りの金属光沢が失われた領域は,座金との接触に よって生じたものである.

一方,添接板と母材との接触面においては,A5083P-Oの試験体および A6061P-T6の試 験体ともにへこみは観察されなかった.しかし,図‑3.17に示すように,添接板のブラス ト面の,ボルト孔を中心として約50mmの直径内が,それ以外の部分と光沢が異なってい た.添接板と母材との接触部は,ボルト孔を中心として直径50mmの範囲である.

添接板と座金との平均接触面圧および添接板と母材との平均接触面圧を表‑3.13 に示す.

添接板の表面における平均接触面圧を算出する際の接触部の外径として,A5083-Oの試験 体 に つ い て は ,表 ‑3.11 の ボ ル ト 頭 側 と ナ ッ ト 側 の φB の 値 の う ち の 小 さ い 方 の 値 , A6061-T6の試験体については,表‑3.12に示す金属光沢が失われた領域の外径のボルト頭 側とナット側の値のうちの小さい方の値を採用している.

添接板のボルト頭側表面

(b) 試験体6[A6061P-T6,F10T]

(a) 試験体3[A5083P-O,F10T]

金属光沢有無の境界 座金外縁の接触跡

(20)

表‑3.12 A6061P-T6の添接板の,座金側表面の金属 光沢が失われた領域の外径

試験体 初期導入

軸力 部    位 外形 (mm) ボルト頭側 40.3 4 F8T

ナット側 39.0 ボルト頭側 39.1

5 F9T

ナット側 39.0 ボルト頭側 39.6

6 F10T

ナット側 39.4 表‑3.11 A5083P-Oの添接板の座金側表面の変形

試験体 初期導入軸力 部位 φA (mm) φB (mm) δA (µm) δB (µm) ボルト頭側 36.9 39.9 70 0 1 F8T

ナット側 37.3 40.8 100 6 ボルト頭側 35.9 40.4 120 9 2 F9T

ナット側 36.5 40.4 100 3 ボルト頭側 35.3 41.2 170 5 3 F10T

ナット側 36.4 41.7 170 7

ナットの座 φ33

15

δA

δB

ボルト頭の座 φ33

ボルト孔φ24.5

φA φB φ100

8

座金  外径:44       内径:23       厚さ: 6

8

(単位 mm)

(21)

添 接 板 と 母 材 の 接 触 面 に お け る 平 均 接 触 面 圧 を 算 出 す る 際 の 接 触 部 の 外 径 は , A5083P-Oの試験体およびA6061P-T6の試験体ともに 50mmとしている.接触部の内径に ついては,座金の内径が23mm,ボルト孔の径が 24.5mmであるので,両者とも 24.5mmと している.

表‑3.13 に示すように,A5083P-O の試験体では,添接板と座金との平均接触面圧が 234MPa〜265MPaであり,表‑3.4に示すA5083P-Oの添接板の0.2%耐力146 MPaをはる かに超えている.そのために,A5083P-O の試験体では,座金直下の添接板にへこみが生 じたと考えられる.

他方,A6061P-T6 の試験体では,平均接触面圧が 256MPa〜303MPa であり,表‑3.4 に 示すA6061P-T6の添接板の 0.2%耐力311 MPaを超えない.そのために,A6061P-T6の試 験体では,座金直下の添接板にへこみが生じなかったと考えられる.

表‑3.13 平均接触面圧

添接板と座金との接触部 添接板と母材との接触部 アルミニウム

合金 試験体 初期導入

軸力 接触面積 (mm2)

平均接触面圧 (MPa)

接触面積 (mm2)

平均接触面圧 (MPa)

1 F8T 779 234 122

2 F9T 810 254 138

A5083P-O

3 F10T 862 265

1492

153

4 F8T 723 256 124

5 F9T 723 284 137

A6061P-T6

6 F10T 748 303

1492

152 (a) 試験体3[A5083P-O,F10T] (b) 試験体6[A6061P-T6,F10T]

図‑3.17 添接板のブラスト表面[ボルト頭側]

(22)

A5083P-Oの試験体では,添接板と母材との平均接触面圧が,表‑3.4に示す添接板およ び母材の 0.2%耐力程度であり,A6061P-T6 の試験体では,それが,表‑3.4 に示す添接板 および母材の 0.2%耐力よりはるかに低い.そのために,添接板と母材との接触部には,

A5083P-Oの試験体とA6061P-T6の試験体ともにへこみが生じなかったと考えられる.

鋼製高力ボルトによる摩擦接合継手に使用するアルミニウム合金板に対する機械的性質 で,米国の設計基準である AA8)が 105MPa 以上,欧州の設計基準である Eurocode 99)が 200MPa 以 上 の 0.2%耐 力 を 要 求 し て い る . 本 研 究 の 試 験 体 で 使 用 さ れ た A5083P-O と A6061P-T6の添接板の0.2%耐力はそれぞれ146MPa,311MPaである.A5083P-Oの0.2%耐 力が,AAに規定される105MPa の0.2%耐力より高いにもかかわらず,添接板にへこみが 生じた.添接板のへこみは,鋼製高力ボルトの座金を曲げ変形させるので,座金を塑性化 させる可能性がある.さらに,添接板のへこみは添接板の疲労強度を低下させる恐れがあ る.したがって,今後,鋼製高力ボルトの初期導入軸力と添接板のへこみの関係を明らか にし,添接板に対して要求される機械的性質を設定する必要がある.

(23)

3.4  アルミニウム合金製リベット 

3.4.1  アルミニウム合金リベット材 

リベットは,棒の片方の端に頭を成形し,被接合部材に開けられた孔に他方の端を通し,

反対側に突出した棒の端を圧縮してかしめ頭を成形することにより部材を接合するもので ある.被接合部材に開けられた孔はリベットの軸径より大きいが,圧縮されることにより リベットは孔に充満する.このようにリベットは過酷な塑性変形を受ける.また,使用さ れる場合には耐食性も必要であることから,本研究ではリベット材として A2117-T4 の押 出棒を用いた.

日本アルミニウム協会が制定したアルミニウム合金土木構造物設計・製作指針案10)では,

リベット材としてA5056BD-O,A5N02BD-OおよびA6061BD-T6を規定している.これら のアルミニウム合金ならびにA2117-T4の化学成分と機械的性質をそれぞれ表‑3.14および 表‑3.15に示す.

リベット材としてA2117-T4の押出棒を選定した理由を次に記す.

(1) 表‑3.14に示すように,A5056と A5N02 はMg を 3%以上含む.3%以上の Mgを含む A5056-OとA5N02-Oを冷間で頭成形やかしめ成形して加工硬化させると,剥離腐食や 応力腐食割れを起こす可能性がある 11)

(2) A2117は,2000系合金の中ではCuの含有量が少ないので耐食性がよい.また,Mgの 含有量も少ないので,耐応力腐食割れ性もよい.

(3) 表‑3.15に示すように,A6061-T6 は伸びが小さいので冷間で頭の成形が困難であるこ とが予想される.

(4) 表‑3.15 に示すように,測定された A2117-T4 の押出棒の強度と伸びは,線材である A2117W-T4に対してJIS H 404012)で規定される規格値より高い.

(5) 呼び径22mmのリベットの軸径は,21.8〜22.8mmと許容差が1mmあるので13),素材に 引抜線を使う必要はなく押出棒で十分である.

2000 系 ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 は 自 然 時 効 硬 化 を 起 こ し , 強 度 は 増 す が 伸 び が 減 少 す る.

A2117-T4の押出棒の,溶体化処理後のビッカース硬さの変化を図‑3.18に示す.A2117-T4 の硬さは約150 時間で最高に達する.表‑3.15に示すA2117-T4の押出棒の機械的性質は,

押出棒を製造してから150時間以上経過後の測定値である.A2117-T4リベットは,1週間 を経ても伸びが大きい.

(24)

表‑3.15 リベット用アルミニウム合金の機械的性質 アルミニウム合金 直径

d (mm)

引張強さ (MPa)

0.2% 耐力

(MPa) 伸び (%)

A2117-T4 棒 測定値 d=22 307 156 34

A2117-T4 線 JIS H 4040 3<d≦10 ≧265 ≧125 ≧18 A5056BD-O JIS H 4040 3<d≦100 ≦315 ≧100 ≧20 A5N02BD-O JIS H 4040 d≦25 ≧225 − ≧20 A6061BD-T6 JIS H 4040 3<d≦100 ≧295 ≧245 ≧10

図‑3.18 A2117-T4の溶体化処理後の硬さ変化

ビッカース硬

表‑3.14 リベット用アルミニウム合金の化学成分 ( %)  アルミニウム

合金 Si Fe Cu Mn Mg Cr Zn Ti

測定値 0.31 0.15 2.5 ≦0.01 0.34 ≦0.01 ≦0.01 ≦0.01 A2117

JIS ≦0.8 ≦0.7 2.2〜

3.0 ≦0.20 0.20〜

0.50 ≦0.10 ≦0.25 ≦0.05 A5056 JIS ≦0.30 ≦0.40 ≦0.10 0.05〜

0.20

4.5〜

5.6

0.05〜

0.20 ≦0.10 ≦0.05 A5N02 JIS ≦0.40 ≦0.40 ≦0.10 0.30〜

1.0

3.0〜

4.0 ≦0.50 ≦0.10 ≦0.20 A6061 JIS 0.40〜

0.8 ≦0.7 0.15〜

0.40 ≦0.15 0.8〜

1.2

0.04〜

0.35 ≦0.25 ≦0.15

(25)

3.4.2  リベットの製作と機械的性質 

リベットの規格には,JIS B 1213「冷間成形リベット」13)とJIS B 1214「熱間成形リベッ ト」14)があり,アルミニウム合金製リベットは前者に規定されている.ここでいう冷間成 形とは,リベット製作時に冷間で頭部を成形することを意味し,冷間で被締結部材のかし め成形を行うことを意味するものではない.本研究で対象とした,軸径が22mmのリベッ トの形状を図‑3.19に示す.リベットの形状は,JIS B 1213「冷間成形リベット」で規定さ れる丸リベットの形状に従っている.

リベットの製作時に,頭部の成形を冷間で行うには 2つの方法が考えられる.押出後に 自然放冷したA2117-T1の押出棒に冷間で頭部を成形した後にT4処理(溶体化処理)する 方法と,A2117の押出棒をT4処理後に冷間で頭部を成形する方法である.2つの方法で試 作したリベットの断面のマクロ組織写真を図‑3.20(a)と(b)に示す.図‑3.20(a)は頭部成形後 にT4処理したリベットの断面のマクロ組織写真,図‑3.20(b)はT4処理後に頭部成形した リベットの断面のマクロ組織写真である.T4処理の条件は,495℃に 2 時間保持後に水冷 するものである.頭部の成形時には,成形後にリベットを金型から抜き易くするため,ど ちらの場合も押出棒を170℃に加熱した.

図‑3.20(a)では,首下から若干離れた場所に粗大な結晶が生じている.この部分には加 工ひずみが十分に作用しなかったため,T4処理で核生成が十分でなく粗大な再結晶が生じ ている.頭の部分には大きな加工ひずみが作用したので,T4処理で微細な再結晶が生じて いる.首下から十分離れた軸の部分にはほとんど加工ひずみが作用しなかったため,T4処 理によって再結晶は生じていない.粗大結晶が生じたリベットを軸方向に圧縮すると,粗 

図‑3.19  呼び22のリベットの寸法

(a) 冷間加工後にT4処理した場合

(b) T4処理後に冷間加工した場合 図‑3.20 リベット断面のマクロ組織

(26)

                 

大結晶が生じた箇所の軸表面の円周各部に軸方向の割れが発生する.図‑3.20(b)には粗大 な 結 晶 は み ら れ な い の で , 圧 縮 を 受 け て も 割 れ は 発 生 し な い . 以 上 か ら , 本 研 究 で は A2117-T4の押出棒に冷間で頭部を成形することにした. 

製作後のリベットの軸径は22.3〜22.4mmで,JIS B 1213「冷間成形リベット」で規定さ れる許容値の 21.8〜22.8mm 以内にあった.製作後のリベットから採取した試験片の機械 的性質を表‑3.16に示す.試験片の形状は,頭部も含めた全長115mmのリベットから削り 出した,全長115mm,平行部の長さおよび直径がそれぞれ40mm,6mmのJIS 14A号試験 片である.製作後のリベットの引張強さと伸びは,表‑3.14に示すA2117-T4押出棒とほぼ 同じである.

3.4.3  リベットに要求されるじん性 

JIS B 1213「冷間成形リベット」に従ってリベットの頭部と軸部のじん性を調べた.頭部 に要求されるじん性は,図‑3.21に示すように垂直線に対して10度傾斜した試験用治具の 孔にリベットを差し込み,座面が平面に密着するまで常温で頭部を打撃した後,頭部と軸 部との付け根に切損,首下丸み部に割れがあってはならない.

軸部に要求されるじん性は,リベットの軸部から軸部の直径の 1.5 倍の長さの試験片を 採取し,長さが軸部の直径の3分の1になるまで常温で軸心方向に圧縮を加えた後,扁平 になった試験片の周辺に割れが生じてはならない.本研究では,軸部の直径が22mmであ るので,長さが33mmの丸棒を長さが7.3mmまで圧縮することになる.

試験の結果,頭部および軸部に切損や割れはみられず,リベットに要求されるじん性が 満たされていることが確認された.両試験結果のうち軸部の結果を図‑3.22に示す.

図‑3.21  頭部じん性試験

表‑3.16 成形したリベットの機械的性質の測定結果 引張強さ

(MPa)

0.2%耐力 (MPa)

伸び (%)

298 172 33

図‑3.22 軸部じん性試験前後の試験片

(27)

3.4.4  リベットのかしめ 

本研究で用いたリベット材 A2117-T4 と同程度の機械的性質を有する A5056-Oのリベッ トを加熱後,リベッティングハンマーでかしめ成形する方法では,リベットの軸部の直径 が20mm以上になるとかしめ成形することができない15).そこで,リベットによる被締結 材のかしめは,冷間の状態でプレス機により行った.リベットのかしめ頭としては,一般 に半球頭または平頭が用いられる.半球頭の成形荷重は,平頭のそれの2倍以上高くなる ので16),本研究では,プレス機の容量を下げるために平頭を採用した.

リベットの孔径と平頭の形状については,米国アルミニウム協会が制定したAA基準 17) に規定されている.リベットの呼び径を d とすると,AA 基準では,冷間でかしめる場合 のリベット孔径は1.04d以下,平頭の直径は1.4d以上,高さは0.4d以上と規定されている. 

本研究で対象とするリベットの呼び径は22mmであるので,リベット孔径は22.88mm以 下,平頭の直径は30.8mm以上,高さは 8.8mm以上になる.以上から,図‑3.23に示すリ ベット孔径 d1を22.8mm,かしめ頭の直径D を 32mm,高さ Hを 10mmとした.図‑3.23 において,かしめる板を上から順に上板,中板,下板と呼ぶ.

リベットの孔への充満度を調べるために,図‑3.24(a)に示すように,アルミニウム板を3 枚重ね,それらを図‑3.24(b)に示すように3本のリベットでかしめた.アルミニウム板は,

3枚ともにA5083P-OおよびA6061P-T6の2種類である.かしめ厚さは16mmと31mmの 2 種類である.板の材質と調質および板厚を表‑3.17 に示す.使用した被締結材である A5083P-OとA6061P-T6の機械的性質を表‑3.18に示す.

             

図‑3.23 かしめたリベットの断面 上板

中板 下板

(28)

リベットをかしめる場合のリベットの首下長さ Lは,かしめ厚さを G として,図‑3.23 のかしめ前の破線部の体積とかしめ後の軸部と頭部の体積が等しいという仮定を用いた次 に示す式(3.4)から求めた. 

                                 

表‑3.17  被締結材の種類とかしめ板厚

板厚 (mm) かしめ板厚 (mm) 被締結材 t1 t2 G=2t1+t2

4 8 16

A5083P-O

8 15 31

4 8 16

A6061P-T6

8 15 31

表‑3.18 機械的性質の測定値(JIS 14B号試験片) 被締結材 板厚

(mm)

引張強さ (MPa)

0.2% 耐力

(MPa) 伸び(%) 4 317 150 23 8 303 147 28 A5083P-O

15 300 148 29 4 331 291 14 8 297 266 17 A6061P-T6

15 327 298 21 図‑3.24  リベットによる締結材

(b) 板の寸法 (a) 板厚

ダイ

ダイ

(29)

                               

2 2 12

d H D G

L=d +                      (3.4)

式(3.4)から求められるかしめ厚さ16mmと31mmに対するリベット首下長さは,それぞ れ38.3mm,54.5mmになる.リベットの首下をこれらの長さに切断し,孔にリベットを挿 入する.図‑3.24(a)に示すように,リベットの球形の頭を金型で支え,反対側のリベット 軸先端を平らな金型で,高さが10mmになるまで圧縮してかしめ頭を成形する.かしめ頭 の成形荷重は,かしめ厚さが16mmの場合に500kN,31mmの場合に550kNであった.成 形されたかしめ頭を図‑3.25に示す.かしめ部の断面を図‑3.26に示す.リベットは孔に充 満していることが分かる. 

かしめ頭の直径の測定結果を表‑3.19に示す.かしめ頭の高さの測定値は全て 10mmで あ っ た . 重ね た 3 枚の 板 の 各 板の 板 厚 中 央に お け る リベ ッ ト 孔 の拡 が り の 測定 結 果 を  表‑3.20に示す.図‑3.26,表‑3.19および表‑3.20から次のことが分かる. 

(1) 被かしめ材の材質に関して 

A5083P-Oでは,かしめ頭が板に陥没し,板が面外に曲がる挙動が観察される.この  (a) A5083P-O

かしめ厚31mm

(b) A5083P-O かしめ厚 16mm

(c) A6061P-T6 かしめ厚31mm

(d) A6061P-T6 かしめ厚 16mm 図‑3.26 かしめ後の断面

図‑3.25 かしめ頭

(30)

                                                           

表‑3.20 リベット孔の拡がりの測定値

かしめ後の孔の直径と拡がり  (mm) 被締結材 かしめ厚(mm)

場所 直径 拡がり

上板 22.9 0.1

中板 24.0 1.2

16

下板 24.6 1.8

上板 23.1 0.3

中板 23.6 0.8

A5083P-O

31

下板 24.7 1.9

上板 23.0 0.2

中板 23.2 0.4

16

下板 23.5 0.7

上板 23.1 0.3

中板 23.3 0.5

A6061P-T6

31

下板 23.6 0.8

表‑3.19  かしめ頭の直径の測定値

かしめ頭の直径(mm) 図‑3.23 (b)における位置 被締結材  かしめ厚(mm) 

左側  中央  右側 

16 31.9 31.9 32.0

A5083P-O

31 31.7 31.7 31.7

16 32.4 32.3 32.3

A6061P-T6

31 31.6 32.4 31.9

(31)

                 

挙動は板厚が薄い方が顕著である.A6061P-T6 では,このような挙動は観察されな い.リベットのかしめによる孔の拡がりは,A6061P-T6 より A5083P-O の方が大き い.このため,かしめ頭の径は A6061P-T6 より A5083P-O が小さい.これらは,

A5083P-Oの0.2%耐力がA6061P-T6のそれより低いためである. 

(2) かしめ厚さに関して 

かしめ頭の径とかしめによる孔の拡がりに対して,かしめ厚さの違いによる影響は 小さい. 

(3) かしめ厚さ方向のリベット孔径に関して 

孔の拡がりは,表‑3.20に示すように上板,中板,下板の順で大きくなる.これは,

か し め 頭 側 の 材 料 の 半 径 方 向 の 拘 束 が 緩 い た め で あ る . 中 板 の 径 の 拡 が り は , A5083P-O では 1.0mm,A6061P-T6では 0.5mm である.前者の径の拡がりは,後者 の2倍である.これは,A5083P-O の0.2%耐力が A6061P-T6のそれより低いためで ある.

3.4.5  アルミニウム合金製リベット継手のせん断特性 

(1)せん断強さ 

本研究で製作した 2117 アルミニウム合金製リベットのせん断強さを明らかにするため に,静的引張せん断試験を行った.試験体の形状と寸法を図‑3.27 に示す.試験片の全長 と幅はそれぞれ 861mm,115mm,母材の板厚は 15mm,添接板の板厚は 8mm で,厚さの 合計は31mmである.

アルミニウム合金土木構造物設計・製作指針案10)では,母材および添接板の材端と材縁 図‑3.27 静的引張せん断試験体

参照

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