魚肉軟化に関与する中性システインプロテアーゼに関する研究
Studies on cysteine proteases active in neutral pH participated in fish muscle softening
2015年12月
長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科
目次
第1章 序論 ... 1
第2章 内在性プロテアーゼによるマダイ筋肉構成タンパク質の分解 ... 7
材料および方法 ... 8
1. 供試魚 ... 8
2. 試薬および実験機器 ... 8
3. プロテアーゼインヒビターの投与法 ... 9
4. 基質の調製 ... 12
5. プロテアーゼ活性の測定 ... 12
6. 統計学的解析 ... 14
7. タンパク質の定量 ... 14
8. SDS-PAGE ... 15
9. ポリクローナル抗体 ... 15
10. ウェスタンブロット解析 ... 15
結果および考察 ... 17
1. 25ºC保存における筋原線維タンパク質の分解 ... 17
2. 保存期間中の筋肉内在性プロテアーゼ活性および投与したプロテアーゼ インヒビターの阻害効果 ... 19
3. ミオシン重鎖の分解に対するプロテアーゼインヒビターの影響 ... 21
4. 筋原線維タンパク質の分解に対するプロテアーゼインヒビターの影響 ... 23
小括 ... 30
第3章 マダイ筋肉由来の内在性システインプロテアーゼの検索 ... 31
材料および方法 ... 32
1. 供試魚 ... 32
2. 試薬および実験機器 ... 32
3. 蛍光合成基質の調製 ... 34
4. カテプシンBおよびL活性の測定 ... 34
5. タンパク質の定量 ... 35
6. SDS-PAGE ... 36
7. N末端アミノ酸配列の分析 ... 38
結果および考察 ... 40
1. マダイ筋肉からの内在性システインプロテアーゼの検索 ... 40
2. マダイ筋肉からのカテプシンBの精製 ... 45
小括 ... 55
第4章 マサバ脾臓由来の中性域で働く内在性システインプロテアーゼの精製 および性状解析 ... 56
材料および方法 ... 57
1. 供試魚 ... 57
2. 試薬および実験機器 ... 57
3. 蛍光合成基質の調製 ... 58
4. プロテアーゼ活性の測定 ... 59
5. タンパク質の定量 ... 60
9. 筋原線維タンパク質の分解 ... 64
結果および考察 ... 66
1. マサバ脾臓からの中性域で働く内在性システインプロテアーゼの精製 ... 66
2. 最終精製標品の諸性質 ... 76
小括 ... 92
第5章 総合考察 ... 93
参考文献 ... 100
謝辞 ... 112
第 1 章 序論
食品の安全性や美味しさの決め手となるのが鮮度であり、特に水産物では鮮 度が商品価値の基準になるケースが多い。
鮮度評価に関しては、魚肉の硬度が重要な要因の一つとなる [1, 2]。一般的 に魚肉の鮮度低下に伴う軟化(魚肉軟化)は畜肉に比べて非常に速く、結果と して商品価値が下がってしまう [3, 4]。したがって、魚肉軟化現象の解明は、
水産業において重大な案件となっている。
鮮度の指標としては、時間的(品質が最高となった時点をスタートとする基 準的保存条件における経過時間)、生化学的(K 値、生菌数、トリメチルアミ ン、pH 等)、光学的(肉色、光沢等)、電気的(抵抗・インピーダンスの低下 等)、および力学的(硬度、粘着性等)性質の変化が挙げられる [1]。
このうち、力学的性質の変化に関する死後の筋肉軟化については、内在性プ ロ テ ア ー ゼ に よ る 筋 原 線 維 タ ン パ ク 質 や 細 胞 外 マ ト リ ッ ク ス (ECM:
extracellular matrix)構成成分等の筋肉構成タンパク質の分解が関与しているこ
とが知られており [6-11]、免疫組織化学的な実験によって、骨格筋中の Z 線の 水解がマダイ筋肉の死後軟化に関与していることも明らかとなっている [12]。 また、死後の筋肉軟化の早期にα-アクチニンが Z 線から解離し、その後水解 されることが報告されている [13]。更に、ECM の主要構成成分であるコラー
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ニジマス筋肉の冷蔵保存中に V 型コラーゲンが可溶化していることも確認され ている [15, 16]。
一方、水産物出荷の際、鮮度を保つための保存方法として、即殺、温度管理、
飼育管理等の手法が採られている。すなわち、貯蔵中の筋肉 ATP含量の低下、
死後硬直の進行や K 値の上昇を遅延させるため、一般的には、後頭部を撲殺す る方法や延随を刺殺する方法が即殺に用いられており,出荷前の魚を低温に順 化させることにより,死後変化の進行を遅らせる温度管理の手法も考えられて いる [17, 18]。加えて、養殖魚の運動飼育による体脂肪や筋肉タンパク質の性 状改良についても研究されている [19, 20]。
前述のように、死後の魚肉の軟化は畜肉に比べて非常に速く、水産食品学的 に大きな問題となっていることから、種々の研究がなされるとともに、鮮度低 下を抑制する様々な手法がとられているものの、未だに魚肉軟化に関する詳細 な機構については明らかになっていないのが現状である。
ところで、動物組織には細胞内小器官としてリソゾームが存在する。内在性 プロテアーゼの一つであるリソゾーム内のプロテアーゼは総称してカテプシン 群と呼ばれており、このうちシステインプロテアーゼ群が生体組織の死後にリ ソゾーム膜が破壊されることにより、筋肉タンパク質等の自己消化の主要プロ テアーゼとして働くと考えられている [21]。システインプロテアーゼには、ジ ペプチジルカルボキシペプチダーゼおよびエンドプロテアーゼ活性を有するカ テプシン B、強いエンドプロテアーゼ活性を有するカテプシン L、ジペプチジ ルアミノペプチダーゼ活性を有するカテプシン C、エンドプロテアーゼ活性を
有するカテプシンSがあり、このうちカテプシンBおよびLは酸性域で,カテ プシンCおよびSは中性域で働くことが知られている [22-26]。
また、生存中あるいは即殺直後の魚筋肉の pH は 7.2 付近の中性域であり、
その後はグリコーゲンの分解に伴う乳酸の生成によって pH は徐々に低下し、
一般的に死後硬直後の筋肉のpHは、赤身魚では5.7付近、白身魚では6.1付近 と言われている。なお、実際にマダイ普通筋を 25ºC で 15 日間保存した場合、
筋肉のpHは6.55~6.75であった(Figure 1)。
Figure 1 The changes of pH in red sea bream muscle during the storage period
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一方、魚肉の筋肉軟化に関与すると考えられる内在性プロテアーゼについて は、コイの筋原線維結合型セリンプロテアーゼ(MBSP:myofibril-bound serine protease) [27]、コイのカテプシンB [28]、サケのカテプシンL [29]、コイのカ
テプシン L [30]、ニベの可溶性セリンプロテアーゼ [31]、マダイの可溶性セリ
ンプロテアーゼ [32]、マダイのゼラチン水解性プロテアーゼ [33, 34]、大西洋 サケ、タラ等のゼラチン水解性プロテアーゼ [35]、マダイのコラーゲン水解酵
素 [36] 等、死後における魚類筋肉のタンパク質分解の要因として広く研究さ
れるとともに、筋原線維構成タンパク質に精製したプロテアーゼを作用するこ とによって水解されることが報告されている [27, 28, 31, 34, 36]。また、保存中 の筋肉硬度の低下は、ティラピアにおいて Leupeptin の潅流により阻害される ことが報告され [37]、メタロプロテアーゼインヒビターの静脈内投与によりヒ ラメ筋肉の強度が増すことも報告されている [38]。しかしながら、プロテアー ゼインヒビター投与後の生理的条件下での保存中の内在性プロテアーゼ活性や 筋肉タンパク質の水解および筋肉硬度の死後変化、並びに中性域で働く魚類シ ステインプロテアーゼの単離精製および筋原線維タンパク質への影響に関する 報告は少ない。
そこで本研究では、各種プロテアーゼインヒビター投与後の内在性プロテ アーゼ活性および筋原線維タンパク質の分解を確認することにより、生理的条 件下における魚類内在性プロテアーゼの筋原線維タンパク質への影響を検討す るとともに、内在性システインプロテアーゼ、特に中性域で働くシステインプ ロテアーゼに着目し、当該酵素を精製し、その性状を明らかにすることを目的 とした。
本論文の第 1 章では、序論として魚肉軟化のこれまでの知見を紹介し、本研 究の目的と意義、並びに本研究の概要について述べた。
第 2 章では、刺身として食する機会が多く、日本でポピュラーな水産養殖魚 であり、実験操作(薬剤投与および飼育)も比較的容易であるマダイを用いて、
生理的条件下での保存中の筋肉タンパク質分解に対するプロテアーゼインヒビ ターの影響の検討を行った。すなわち、生きたマダイのキュヴィエ氏管よりプ ロテアーゼインヒビターを注入し、種々の内在性プロテアーゼ活性を阻害させ ることにより、筋原線維構成タンパク質の分解に関与する内在性プロテアーゼ の分解に関するプロテアーゼの特定を試みた。
上記第2章において、氷蔵中のマダイ筋肉軟化の初発はα-アクチニンの分解 であり、その分解にシステインプロテアーゼが主に関与することが確認された
ことから [39]、第 3 章ではマダイ筋肉中のシステインプロテアーゼの一つであ
るカテプシンファミリーに着目し、その検索および性状解析を行った。すなわ ち、マダイ筋肉粗抽出液の Z-Phe-Arg-MCA(カテプシン B、L および S の基 質)および Z-Arg-Arg-MCA(カテプシン B の基質)水解活性に及ぼす E-64
(システインプロテアーゼインヒビター)、並びに CA-074(カテプシン B に特 異的なインヒビター)の影響等を調べ、その結果について述べた。なお、マダ イ筋肉から、主なシステインプロテアーゼであると判断したカテプシン B の精 製を試みたものの単離精製には至らなかった。また、マアジ筋肉中におけるシ
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性状解析に留まっている。そこで次章では、赤身魚で筋肉 pH が低く鮮度低下 の早いマサバに注目するとともに、白血球由来カテプシン群の魚肉軟化への関 与を考慮して、白血球を多く含む脾臓より中性域で働くシステインプロテアー ゼの精製および性状解析を行った。
第 4 章では、マサバ脾臓より中性域で働くシステインプロテアーゼを精製し、
その性状解析を行った結果、酸性域で働く既知のカテプシン B とは異なる新し いタイプのカテプシンB様酵素であることを明らかにした。
最後に第 5 章では、これまでの結果を総括するとともに総合的な考察を行っ た。
第 2 章 内在性プロテアーゼによるマダイ筋肉構成 タンパク質の分解
本章では、保存中の魚肉軟化に関わる内在性プロテアーゼを特定するために、
保存に伴うマダイ筋肉構成タンパク質の分解に対する各種プロテアーゼインヒ ビターの影響を検討した。
第 1 章で述べたように、保存中の筋肉硬度の低下は、ティラピアにおいて
Leupeptin の潅流により阻害されることが報告され [37]、メタロプロテアーゼ
インヒビターの静脈内投与によりヒラメ筋肉の強度が増すことが報告されてい
るが [38]、生理的条件下におけるプロテアーゼインヒビター投与後の内在性プ
ロテアーゼ活性および筋肉タンパク質の分解を同時に解析することにより筋肉 の死後変化を解明しようとした報告は少ない。そこで本章では、マダイのキュ ヴィエ氏管より各種プロテアーゼインヒビターを注入し、生理的条件下に近い 状態で種々の内在性プロテアーゼ活性を阻害させることにより、筋原線維構成 タンパク質の分解に関与するプロテアーゼの特定を試みた。
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材料および方法
1. 供試魚
長崎市水産センターより入手した養殖マダイPagrus major(約300 g/尾)を 使用した。使用直前まで水槽で飼育した。
2. 試薬および実験機器
酵素活性測定用の蛍光合成基質として、以下のペプチド研究所製のものを使 用した。カテプシン B、C、L、S の活性測定用として、Benzyloxycarbonyl-L- phenylalanyl-L-arginine MCA(Z-Phe-Arg-MCA)を、トリプシン様酵素の活性測 定 用 と し て 、t-Butyloxycarbonyl-L-valyl-L-prolyl-L-arginine MCA(Boc-Val-Pro- Arg-MCA)を、キモトリプシン様酵素の活性測定用として、Succinyl-L-leucyl- L-leucyl-L-valyl-L-tyrosine MCA(Suc-Leu-Leu-Val-Tyr-MCA)を用いた。また、
カテプシン D 活性測定用として、SIGMA 社製のウシヘモグロビンを使用した。
プロテアーゼインヒビターとして、ナカライテスク社製の o-Phenanthroline、
ペプチド研究所製のLeupeptin、Pepstatin AおよびE-64、並びに和光純薬工業社 製のDiisopropyl fluorophosphate(DFP)を用いた。
電気泳動には、ゲル作製用試薬として、和光純薬工業社製の acrylamide およ び N,N,N’,N’-tetramethylethylenediamine(TEMED)、半井化学薬品社製の N,N’- methylenebisacrylamide(Bis)を用いた。SDS(Sodium dodecyl sulfate)-ポリア
クリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)用の標準タンパク質として Pharmacia LKB Biotechnology社製のElectrophoresis Calibration Kit (Low molecular weight;
14.4-94 kDa)、並びに BIO-RAD 社製の SDS-PAGE Molecular Weight Standards, (High Range;45-200 kDa)および Prestained SDS-PAGE Standards (Low Range; 17-110 kDa)を用いた。ブロッティングには、アトー社製のタンパク質転写膜
Clear Blot Membrane-P およびブロッティング用電極ろ紙、並びに SIGMA 社製
のゼラチン(Type A;Porcine skin)を用いた。
タンパク質の定量には、島津製作所製の UV-100-02 および日立サイエンスシ ステムズ社製の U-1100 Spectrophotometer(日立レシオビーム分光光度計)を 使用した。蛍光物質の定量には、日本分光工業社製の EP-770 を用いた。ブ ロッティング装置として、アトー社製のホライズブロット AE-6670 P/N 電気転 写装置を用いた。
その他の試薬は、和光純薬工業社製、ナカライテスク社製あるいは片山化学 工業社製の特級ないし一級試薬を用いた。
3. プロテアーゼインヒビターの投与法
投与液(プロテアーゼインヒビター)として、E-64(システインプロテアー ゼインヒビター)、Leupeptin(システイン、セリン、スレオニンペプチダーゼ
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アーゼインヒビター)を用いた。E-64およびLeupeptinは、それぞれ16 mMと なるように1.3%食塩液に溶解させた。DFP、Pepstatin Aおよびo-Phenanthroline は、それぞれ 32 mM、16 mM および 32 mM となるように Dimethyl sulfoxide
(DMSO)に溶解させた(Table 1)。
Table 1 Dose levels of inhibitors for injection
Inhibitor M.W. Conc.
(mM)
Dose level (mg/300 g B.W.)
E-64 375.0 16.0 3.0
Leupeptin 493.0 16.0 3.9
DFP 184.5 32.0 2.9
Pepstatin A 685.9 16.0 5.5
o- Phenanthroline 198.2 32.0 3.2
次に、供試魚を 100 ppm の MS-222 で麻酔したのち(麻酔剤を添加した海水 で遊泳)、各投与液(プロテアーゼインヒビター)0.5 mL をキュヴィエ氏管
(duct of Cuvie)に注入した(Figure 2)。投与量は、Takeichiらの方法 [42] を 参考に約300 gのマダイに8 µmol/body(16 mM × 0.5 mL)となるように各種イ ンヒビターを投与した。ただし、DFP については血中のセリンプロテアーゼ
(Thrombin [3.4.21.5]、Plasmin [3.4.21.7]、Kallikrein [3.4.21.8]等)の影響を考慮 して、またo-Phenanthrolineについては組織あるいは血中の遊離金属イオンを考 慮して、それぞれ16 µmol/body(32 mM × 0.5 mL)を投与した。比較対照とし て、1.3%食塩液を同様に投与した。食塩液およびプロテアーゼインヒビターは、
それぞれ3尾の供試魚へ投与した。
Figure 2 Injection technique of protease inhibitor
Several protease inhibitors (E-64, Leupeptin, DFP, Pepstatin A, and o- Phenanthroline) were injected at 3.0, 3.9, 2.9, 5.5, and 3.2 mg/body, respectively. The dose volume was 0.5 mL/body. The control group was injected with 1.3% physiological saline in the same manner.
インヒビターの投与後、海水を入れた水槽へ供試魚を移し、インヒビターが 筋肉中の毛細血管へ十分に移行するよう、一定時間遊泳させた。投与後の放置 時間は、ヒトにおける血液循環は一般的に約 1 分間であることから、インヒビ ターの筋肉組織への浸透を考慮して、30 分間とした。その後、Seki らの方法
[43] を参考にして断頭法により供試魚を致死させ、内臓を除去した。処置後の
供試魚は10 mM NaN3に数秒浸漬し、更に10 mM NaN3を浸み込ませたろ紙に
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4. 基質の調製
蛍光合成基質(Z-Arg-Arg-MCA、Z-Phe-Arg-MCA、Boc-Val-Pro-Arg-MCA、
Suc-Leu-Leu-Val-Tyr-MCA)は DMSO に溶解し、10 mM 溶液を調製した。これ を DMSO で 10 倍希釈し、1 mM 溶液を調製し、凍結保存した。使用に際して は、この1 mM溶液を融解後、適宜蒸留水で希釈した。
1%酸変性ヘモグロビンは以下の方法により調製した。ウシヘモグロビン 1 g に蒸留水と適当量の0.05 N HClを加え十分に溶解し、次に1 M NaOHでpH 3.5 に調整後、蒸留水または微酸性溶液に一晩透析し、次いで 0.1 M 塩酸緩衝液
(pH 3.5)で100 mLにメスアップし、基質として用いた。
5. プロテアーゼ活性の測定
1 g の背部普通筋を採取し、2 倍量(v/w)の 2% KCl 溶液を加え、ポリトロ ンホモジナイザー(KINEMATICA 社製)でホモジナイズし、遠心分離(6,000
rpm、20 分間)し、その上清を粗酵素液として各種プロテアーゼ活性の測定に
用いた。
カテプシン B + L 活性の測定は、過去に実施したカテプシン L の測定方法
[30] に従って、Z-Phe-Arg-MCAを基質として行った。すなわち、測定溶液は、
0.1% Briji-35 250 µL、5 mM EDTA含有0.4 M酢酸緩衝液(pH 5.5)200 µL、20 mMcysteine 100 µL、酵素活性測定用試料250 µLの計0.8 mLとした。この測定 溶液を37ºCで1分間プレインキュベーション後、基質として25 µM Z-Phe-Arg-
MCA を200 µL 添加し、37ºCで 10 分間反応させた。これに反応停止液として
0.1 Mモノクロロ酢酸含有0.1 M酢酸緩衝液(pH 4.3)1.5 mL加えて反応を停止
させ、生じた 7-amino-4-methylcoumarin(AMC)の蛍光を Ex 380 nm、Em 450 nm の波長で測定した。酵素活性は、1 分間に 1 µmol の AMC を遊離する力価 を1 Unitとした。
カテプシンC + S活性の測定は、カテプシンB + L活性測定に準じてZ-Phe-
Arg-MCA を基質として行った。ただし、使用緩衝液は、5 mM EDTA 含有 0.4
Mリン酸緩衝液(pH 7.0)とした。この測定溶液を37ºCで1分間プレインキュ ベーション後、基質として25 µM Z-Phe-Arg-MCAを200 µL添加し、37ºCで10 分間反応させた。これに反応停止液として0.1 Mモノクロロ酢酸含有0.1 M酢 酸緩衝液(pH 4.3)1.5 mL 加えて反応を停止させ、生じた AMC の蛍光を Ex 380 nm、Em 450 nmの波長で測定した。酵素活性は、1分間に1 µmolのAMC を遊離する力価を1 Unitとした。
トリプシンおよびキモトリプシン様酵素活性の測定は、Boc-Val-Pro-Arg- MCA および Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-MCAを基質とし、それぞれ 35ºC および 55ºC で実施した。測定溶液は、50 mMホウ酸緩衝液(pH 8.0)800 µL、酵素活性測
定用試料100 µL の計0.9 mLとした。この測定溶液を測定温度で1分間プレイ
ンキュベーション後、50 µM の基質 100 µL を添加し、10分間反応させた。こ れに反応停止液(メタノール:1-ブタノール:蒸留水=7:6:7、v/v)1.5 mL 加え
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カテプシンD活性の測定は、Haraら [44] の方法に従って、1%酸変性ヘモグ ロビンを基質として実施した。すなわち、測定溶液は、0.1 M 酢酸緩衝液(pH 3.5)1,250 µL、酵素活性測定用試料250 µL、10 mg/mLの基質500 µLの計2 mL とした。この測定溶液を37ºC で 60分間反応させた。これに反応停止液として
8%トリクロロ酢酸2 mL加えて反応を停止させ、30分間放置後遠心し、上清の
遊離ペプチドをLowry法 [45] で測定した。酵素活性は、1分間に 1 µmolのチ ロシンを遊離する力価を1 Unitとした。
6. 統計学的解析
各酵素活性について、平均値と標準偏差を求めた。分散分析の手法として群 間差および個体差を要因とした二元配置分散分析[46]を、2群間比較の方法とし てt検定を用いた [47]。いずれも有意水準は5%とした。
7. タンパク質の定量
BCA 法 [48] によりタンパク質の定量を行った。測定には、Pierce Chemical 社製のBCA Protein Assay Kitを用いた。測定ごとにBSAを用いて標準曲線を作 成した。
8. SDS-PAGE
Weber らの方法 [49] に従って、7.5% 2-mercaptoethanol(2-ME)を用いた還 元条件下で SDS-PAGE を行った。50 mg の背部普通筋に 8 M 尿素および 2%
SDSを含む20 mMトリス-グリシン緩衝液(pH 8.0)1 mLを加えホモジナイズ したのち、2-ME 75 µLを加えホモジナイズした。沸騰水浴中で5分間煮沸して SDS 化を行ったのち、試料 250 µg を SDS-PAGE に供し、泳動を行った。泳動 後のゲルは、クマシーブリリアントブルー(CBB)R-250で染色した。
9. ポリクローナル抗体
α-アクチニン [50]、β-コネクチン、トロポニン I およびトロポミオシン抗 血清は、数種のカラムクロマトグラフィーによってマダイから精製された筋原 線維構成成分をそれぞれラットに投与して作製した。各抗血清は0.5 M NaCl含
有 20 mM トリス-塩酸緩衝液(pH 7.4)で適宜希釈して、ウェスタンブロット
解析に使用した。
10. ウェスタンブロット解析
筋原線維タンパク質のウェスタンブロット解析は、Cao ら [51] の方法に
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体と反応させ、ペルオキシダーゼで標識したヒツジ抗ラット IgG をオーバレイ し、Konica Immunostaining HRP Kit(コニカ社製)で染色することにより検出し た。分子量は、同様に転写した SDS-PAGE スタンダード(Bio-Rad 社製)によ り推定した。
結果および考察
1. 25ºC保存における筋原線維タンパク質の分解
25ºCで保存したマダイ筋肉(プロテアーゼインヒビター非投与)の筋原線維 タンパク質の分解は SDS-PAGE により解析した。その結果、大部分のミオシン 重鎖が保存開始後 2 ないし3 日で分解された(Figure 3)。したがって、魚筋肉 タンパク質の分解に及ぼすプロテアーゼインヒビターの影響を検討(筋原線維 タンパク質の自己消化を評価)するために、供試魚は 25ºC で 2 日間保存する ことが妥当であると考えられた。
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Figure 3 Degradation of myofibrillar proteins of the red sea bream during storage at 25°C
250 µg of the muscle sample was loaded to each lane on a 5-15% gradient SDS- polyacrylamide gel. Lane M, molecular weight standards.
2. 保存期間中の筋肉内在性プロテアーゼ活性および投与したプロテアー ゼインヒビターの阻害効果
25ºC で保存したマダイ筋肉中の各酵素活性を測定した。その結果、骨格筋
(対照群)において、ライソゾーマルシステインプロテアーゼであるカテプシ
ンB + LおよびカテプシンC + S活性は2日間残存しており、E-64投与により
保存期間を通して有意に阻害された。また、対照群では、トリプシンおよびキ モトリプシン様酵素は保存中残存しており、DFP 投与により 1 日保存において 有意に阻害された。加えて、対照群では、アスパルティックプロテアーゼであ るカテプシンD活性は保存期間中検出され、Pepstatin A投与により1日保存に おいて有意に阻害された(Figure 4)。これらの結果は、2 日間の保存期間中に 内在性プロテアーゼ活性は維持していたこと、キュヴィエ氏管からの各種プロ テアーゼインヒビター投与は筋肉中の毛細血管へ到達しており、目的のプロテ アーゼを阻害していること、更に内在性プロテアーゼは保存期間中に筋原線維 タンパク質に作用する可能性があることを示唆するものであった。
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Figure 4 Protease activity and protease inhibition in the red sea bream muscle during storage at 25°C
Enzyme activities were shown as relative activity (%) compared to the activity without injection of protease inhibitors at Day 0, which was defined as 100%. All data represent means ± SD. *: Significant differences from the control (p<0.05).
3. ミオシン重鎖の分解に対するプロテアーゼインヒビターの影響
25ºC、2 日間保存のミオシン重鎖へのプロテアーゼインヒビターの影響を
SDS-PAGE により確認した。その結果、ミオシン重鎖の分解は、セリンプロテ
アーゼインヒビターである Leupeptin および DFP、並びにメタロプロテアーゼ インヒビターであるo-Phenanthrolineで完全に阻害された(Figure 5)。ミオシン 重鎖の分解は、E-64でやや阻害されたが、Pepstatin Aでは阻害を受けなかった。
本結果は、マダイ筋肉において、ミオシン重鎖は主にセリンプロテアーゼおよ びメタロプロテアーゼにより分解されることを示唆するものであった。なお、
ミオシン重鎖を分解する酵素として、コイ、ヨーロッパフナ(curcian carp)、エ ソおよびシログチ由来の筋原線維結合型セリンプロテアーゼ(MBSP)が報告 されている [27, 51-53]。また、シログチの筋形質画分由来のトリプシン様酵素 がミオシン重鎖を分解することも報告されており [31]、Liangら [54] はブリ筋 肉中に筋原線維結合型EDTA感受性プロテアーゼ(MBESP)も見出している。
加えて Okamoto ら [55] は、イカ筋肉より、イカのミオシン重鎖を分解するメ
タロプロテアーゼであるミオシナーゼ I および II を精製し、その性状解析を 行っている。これらのことから、本研究におけるマダイのミオシン重鎖の分解 は、MBSP、トリプシン様酵素、あるいはミオシナーゼ様酵素に起因した可能 性が考えられた。
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Figure 5 Effects of protease inhibitors on degradation of MHC
250 µg of the muscle sample was loaded to each lane on a 5-15% gradient SDS- polyacrylamide gel. Lane M, molecular weight standards.
4. 筋原線維タンパク質の分解に対するプロテアーゼインヒビターの影響
25ºC、2日間保存のα-アクチニン、β-コネクチン、トロポニンIおよびトロ
ポミオシンの分解に及ぼすプロテアーゼインヒビターの影響をウェスタンブ ロット法により解析した。
1) α-アクチニンの分解
α-アクチニンは2日間の保存により分解産物がラダー状のバンドとして検出 されたことから、プロテアーゼによる限定分解を受けていることがわかった。
このようなα-アクチニンの限定分解は、システインプロテアーゼインヒビター であるE-64のみで阻害された(Figure 6)。本結果は、システインプロテアーゼ が、保存中のマダイ筋肉におけるα-アクチニンの限定分解に関与していること を示唆するものであった。なお、コイおよびウサギの筋肉において、細胞内 Ca2+依存性システインプロテアーゼであるカルパインに起因してα-アクチニン が Z 線から解離しているとの報告もある [56, 57]。カルパインに加えて、シロ ザケ由来のカテプシンBおよびLが魚筋肉構成タンパク質を分解しているとい う報告があり [14]、更にコイ由来のカテプシン L がミオシン重鎖やα-アクチ ニン等の筋原線維タンパク質を分解していることが確認されている [58]。一方、
本研究では、上記のように、マダイ筋肉の保存中に、システインプロテアーゼ のみでα-アクチニンが限定分解された。したがって、これらの報告および本研 究の結果から、カルパインやカテプシン群等のシステインプロテアーゼによっ
24
Figure 6 Effects of protease inhibitors on degradation of α-actinin during storage were analyzed by western blot.
250 µg of the muscle sample was loaded to each lane on a 5-10% gradient SDS- polyacrylamide gel and transferred to the membrane.
2) β-コネクチンの分解
β-コネクチンの分解は、Leupeptin、DFP および o-Phenanthroline で阻害され た(Figure 7)。本結果は、セリンプロテアーゼおよびメタロプロテアーゼが、
保存中のマダイ筋肉におけるβ-コネクチンの分解に関与していることを示唆す るものであった。なお、タイチンとも呼ばれるコネクチンは、分子量約 3,000 kDa の骨格筋の収縮に関わる巨大な弾性タンパク質であり、ミオシンに連結し、
筋肉の収縮・伸長時に、ミオシンフィラメントをサルコメア中央に保持する役 割を持っている。また、そのN末端はZ線に、C末端はミオシンフィラメント
(M 線)に結合している。Tsuchiyaら [59] は、α-アクチニンが Z 線から可溶 化および解離した結果、コネクチンの分解が起こると報告している。したがっ て、本研究で認められたセリンプロテアーゼおよびメタロプロテアーゼによる β-コネクチンの分解には、システインプロテアーゼによるα-アクチニンの限 定分解の結果として起こる Z 線からのα-アクチニンの可溶化が関与している 可能性が考えられた。
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Figure 7 Effects of protease inhibitors on degradation of β-connectin were analyzed by western blot.
250 µg of the muscle sample was loaded to each lane on a 2% gradient SDS- polyacrylamide gel and transferred to the membrane.
3) トロポニンIおよびトロポミオシンの分解
トロポニンIの分解は、Leupeptin、DFPおよびo-Phenanthrolineで顕著に抑制 され、E-64 で軽度に阻害された(Figure 8)。一方、トロポミオシンの限定分解 は、非保存と比較して、低分子量の分解産物として観察され、DFP および o- Phenanthrolineで阻害された(Figure 9)。本結果は、保存中のマダイ筋肉におい て、セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼおよびシステインプロテアーゼ がトロポニン I の分解に、セリンプロテアーゼおよびメタロプロテアーゼがト ロポミオシンの限定分解に関与していることを示唆するものであった。このよ うに、フィラメントを構成するトロポニン I およびトロポミオシンについては、
主にセリンプロテアーゼおよびメタロプロテアーゼが関与することが判明した。
筋原線維結合型セリンプロテアーゼである MBSP はトロポミオシンを分解する ことが確認されていることから [51]、魚類では、MBSP のような不溶性画分に おける内在性プロテアーゼが、これらの筋原線維タンパク質に作用している可 能性が考えられた。一方、フィラメントを形成するアクチンについては、筋肉 の保存中のタンパク質分解は明らかでなかった(Figure 3)。本事象は、保存中 のマダイ筋肉における内在性プロテアーゼの影響を評価するに当たり、基質と して適切でないことを示唆するものであった。
28
Figure 8 Effects of protease inhibitors on degradation of troponin I were analyzed by western blot.
Proteins in a 250 µg of the muscle were separated by SDS-PAGE (12% gel) in each lane and transferred to the membrane.
Figure 9 Effects of protease inhibitors on degradation of tropomyosin were analyzed by western blot.
Proteins in a 250 µg of the muscle were separated by SDS-PAGE (12% gel) in each lane and transferred to the membrane.
以上、α-アクチニンの限定分解には、内在性システインプロテアーゼのみが 関与していることが確認された。一方、内在性のセリンプロテアーゼおよびメ タロプロテアーゼは、広く筋原線維タンパク質(ミオシン重鎖、β-コネクチン、
トロポニン I、トロポミオシン)に作用することが確認された。すなわち、魚 筋肉の自己消化の初発段階であるα-アクチニンの限定分解には内在性システイ
30
小括
2 日間の保存期間中、内在性プロテアーゼ活性は維持されており、その活 性はキュヴィエ氏管から投与した各種プロテアーゼインヒビターにより阻 害されることが確認された。
ミオシン重鎖、β-コネクチン、トロポニンI、トロポミオシンの分解は、
主にセリンプロテアーゼおよびメタロプロテアーゼが関与することから、
MBSP、トリプシン様酵素、あるいはミオシナーゼ様酵素に起因した可能 性が示唆された。
α-アクチニンの限定分解には、システインプロテアーゼが関与すること から、保存中のマダイ筋肉軟化の初発段階にシステインプロテアーゼが深 く関与する可能性が示唆された。
第 3 章 マダイ筋肉由来の内在性システインプロテアーゼ の検索
本章では、魚肉軟化の初発段階に関わる内在性システインプロテアーゼを精 査するために、筋肉中のシステインプロテアーゼの一つであるカテプシンファ ミリーに着目し、マダイ筋肉から検索して性状解析を行った。
第1章で述べたように、筋肉軟化の初発はα-アクチニンの分解と考えられて いる [13]。加えて第 2 章において、保存中のマダイ筋肉では、Z 線の構成タン パク質であるα-アクチニンの分解に内在性システインプロテアーゼが関与して いることが確認された [39]。これらのことから、内在性システインプロテアー ゼが魚肉軟化の初発段階に関わっている可能性が示唆された。一般的に、筋肉 に含まれるシステインプロテアーゼとしては、カテプシンファミリー(カテプ シンB、H、L、S およびC等)が挙げられ、特に、エンドタイプの酵素である カテプシンBおよびLは魚肉軟化に伴うタンパク質分解の初発に関与する可能 性が考えられる。しかし、マダイ筋肉においては、カテプシンBおよびLの存 在比、構造および性状は未だ不明である。そこで本章では、魚肉軟化のメカニ ズム解明の一環として、マダイ普通筋における内在性システインプロテアーゼ を検索するとともに、主なシステインプロテアーゼであると判明したカテプシ ンBの精製を試みた。
32
材料および方法
1. 供試魚
長崎県産養殖マダイ Pagrus major は平成 26 年 9 月 18 日に即殺されたもの を長崎県長崎市の長崎漁港水産加工団地協同組合より購入し、実験に供した。
2. 試薬および実験機器
酵 素 の 精 製 に は 、Amersham Pharmacia LKB Biotechnology 社 製 の SP- Sepharose、GE Healthcare 社製の AKTAexplorer 10S に接続した HiLoad 16/26 Superdex 75 prep grade(GE Healthcare) お よ び Mono S 4.6/100 PE(GE Healthcare)を用いた。
酵素活性測定用の基質として、以下に示すペプチド研究所製の蛍光合成基質 を用いた。すなわち、カテプシン B および L の活性測定用として Z-Phe-Arg- MCA を、カテプシン B の活性測定用として Benzyloxycarbonyl-L-arginyl-L- arginine 4-methylcoumaryl-7-amide(Z-Arg-Arg-MCA)を用いた。
システインプロテアーゼインヒビターとしてペプチド研究所製の E-64 を用 い、カテプシン B に特異的なインヒビターとしてペプチド研究所製の CA-074 を用いた。
シ ス テ イ ン プ ロ テ ア ー ゼ の 活 性 化 剤 と し て 、 ナ カ ラ イ テ ス ク 社 製 の L- cysteineおよびethylenediaminetetraacetic acid(EDTA)を用いた。
SDS-PAGE 用ゲルの作製には、ナカライテスク社製の電気泳動用特製試薬ア クリルアミドモノマー(acrylamide)、Bis、電気泳動用過硫酸アンモニウム
(APS)および TEMED を用いた。SDS-PAGE 用の標準タンパク質として BIO- RAD 社製の SDS-PAGE Molecular Weight Standards(Broad Range)を用いた。
電気泳動装置には、マリソル社製のマイクロスラブ電気泳動装置を用いた。泳 動ゲルの画像解析は、アトー社製の AF-6981 FXCP ATTO COMBOⅡ を用いた。
マダイ筋肉のホモジナイズには、日音医理科器械製作所製のヒスコトロンホ モジナイザーを用いた。タンパク質の定量には日立サイエンスシステムズ社製 の U-1100 Spectrophotometer(日立レシオビーム分光光度計)を用いた。酵素活 性測定には、SHIMADZU 社製の RF-1500 SPECTRO FLUORO PHOTOMETER を用いた。酵素の濃縮には、Amicon 社製の濃縮機(セントリコン YM-10)、
MILLIPORE 社製の YM-10 限外濾過膜を用いた。N 末端アミノ酸配列の分析
には、島津製作所製全自動タンパク質一次構造分析装置 PPSQ-33A Protein Sequencerを用いた。Polyvinylidene Difluoride(PVDF)膜はMILLPORE 社製の ImmobilonTM- PSQ Transfer Membrane を用いた。
その他、クロマトグラフィー用の試薬、あるいは酵素の諸性質を調べる際の 試薬は、ナカライテスク社、和光純薬工業社、関東化学社製の特級または一級 試薬を用いた。
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3. 蛍光合成基質の調製
Z-Phe-Arg-MCA および Z-Arg-Arg-MCA のそれぞれ市販品 1 バイアル(5.3 mg)を開封し、DMSO 850 µL に溶解し、10 mM 溶液を調製した(凍結保存)。 これを更に蒸留水で 正確に10 倍希釈して 1 mM に調製した(凍結保存)。こ の溶液を使用する際、蒸留水で25 µMとなるように希釈した。
4. カテプシンBおよびL活性の測定
カテプシン B および L 活性の測定方法は Kirsche らの方法 [60] および Yoshidaらの方法 [40] を参考に行った。
Z-Arg-Arg-MCA の水解活性は以下の反応系で測定した。すなわち、5 mM
EDTA 含有 400 mM 酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)200 µL、40 mM
cysteine 50 µL(終濃度2 mM)、蒸留水500 µL、酵素液50 µLを混合し、40ºC で1分間プレインキュベーション後、基質として25 µM Z-Arg-Arg-MCAを200 µL 添加(終濃度 5 µM)し、40ºC で 10 分間反応させた。これに反応停止液
(100 mM モノクロロ酢酸、70 mM 酢酸、30 mM 酢酸ナトリウム混合液)を 1.5 mL加えて反応を停止させ、生じたAMCの蛍光をEx 380 nm、Em 450 nm の波長で測定した。対照実験は、酵素液の代わりに蒸留水を用いた。
Z-Phe-Arg-MCA の水解活性は以下の反応系で測定した。すなわち、5 mM
EDTA 含有 400 mM 酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)200 µL、40 mM
cysteine 50 µL(終濃度2 mM)、蒸留水500 µL、酵素液50 µLを混合し、50ºC
で1分間プレインキュベーション後、基質として25 µM Z-Phe-Arg-MCAを200 µL 添加(終濃度 5 µM)し、50ºC で 10 分間反応させた。これに反応停止液
(100 mM モノクロロ酢酸、70 mM 酢酸、30 mM 酢酸ナトリウム混合液)を 1.5 mL加えて反応を停止させ、生じたAMCの蛍光をEx 380 nm、Em 450 nm の波長で測定した。対照実験は、酵素液の代わりに蒸留水を用いた。
5. タンパク質の定量
タンパク質の定量は Lowry らの方法 [45] に従った。試料 0.4 mL にアルカ
リ銅液 2 mL を加えてただちに撹拌し、37ºC 水浴中に 20 分間放置して発色さ
せたのち、15 分間以上静置して600 nm の吸収を測定した。なお、同時にブラ ンクとして試料の代わりに蒸留水 0.4 mL を用いて同様に操作した。アルカリ 銅液は、2%の酒石酸カリウム(C4H4O6K2・1/2H2O)と1%の硫酸銅(CuSO4)を
1 : 1 の割合で調製した混合液1 mLを0.1 M水酸化ナトリウムで調製した2%炭
酸ナトリウム(Na2CO3)溶液50 mLに加えて、用時に調製した。フェノール試 薬は市販品を2倍希釈した。
精製操作中、カラムクロマトグラフィーにおけるタンパク質の溶出パターン を調べる際には、UV法にて280 nm の吸収を測定した。
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6. SDS-PAGE
Laemmliの方法 [61] に準じてSDS-PAGEを行った。
SDS-PAGE 用ポリアクリルアミドゲル 2 枚分の溶液組成を Table 2(分離ゲ
ル)および Table 3(濃縮ゲル)に示した。
Table 2 Resolving gel composition per 2 plates for use in SDS-PAGE
Resolving gel (%) 15
44.4% acrylamide solution (mL) 5.1
Distilled water (mL) 2.2
0.75 M Tris-HCl buffer, pH 8.8 (mL) 7.5
10% SDS (µL) 150
TEMED (µL) 12
25% APS (µL) 50
Total volume (mL) 15.12
Table 3 Concentrating gel composition per 2 plates for use in SDS-PAGE
Concentrating gel (%) 4
30% acrylamide solution (mL) 1.00
Distilled water (mL) 2.65
0.25 M Tris-HCl buffer, pH 6.8 (mL) 3.75
10% SDS (µL) 75
TEMED (µL) 6
25% APS (µL) 25
Total volume (mL) 7.506
氷上で三角フラスコに 30%ポリアクリルアミド溶液、蒸留水、分離ゲル作製
用緩衝液(又は濃縮ゲル作製用緩衝液)、10%SDS、重合促進剤である TEMED を混合し、超音波脱気を約 10 秒間行った後に重合開始剤である 25%過硫酸ア ンモニウム(APS)を添加した。気泡が入らないように静かに混合した後、あ らかじめ組み立てておいたスラブ電気泳動用ガラス板に、ピペットを用いて分
離ゲルを 6.5 mL 注ぎ込んだ。更に、ゲル面を乱さないように静かに蒸留水を
重層し、室温で約 30 分間重合させた。ゲルと蒸留水の境界が明瞭に見えてき たら、重層していた蒸留水を取り除き、少量の濃縮ゲルでゲル面を洗った後で、
濃縮ゲルを重層し、コームを差し込んだ。これを更に約 30 分間室温で重合さ せた。
サンプルは凍結乾燥し、できるだけ少量の蒸留水に溶解した後、サンプル:
SDS 化緩衝液 = 1 : 1 で混合し、沸騰浴中で 5 分間煮沸した。還元状態で
の SDS-PAGE を行う場合は、サンプルに SDS 化緩衝液を加える際に、2-ME
を終濃度7.5% になるように加え、沸騰浴中で5分間煮沸した。
電気泳動は泳動用緩衝液を用い、ゲル 1 枚当たり 15 mA の通電にて行った。
なお、操作は室温で行った。
泳動後のゲルは、クマシー染色液(50%メタノール、10%酢酸、0.1%CBB R- 250)で染色した。その後、50%メタノール-7.5%酢酸溶液で脱色し、7%酢酸溶 液中で保存した。
38
7. N末端アミノ酸配列の分析
精製酵素の N 末端アミノ酸配列の決定は、自動エドマン法で行った。タンパ ク質を安定させるために試料を失活させて分析に用いた。ここでの操作は、す べてゴム手袋を着用して行い、特級試薬および超純水を用いた。
SDS-PAGE 後、目的タンパク質を PVDF 膜に転写し、プロテインシークエン
サーで分析した。その際に使用した試薬をTable 4に示した。
Table 4 Reagents
Buffer A 0.3 M Tris, 20%methanol Buffer B 25 mM Tris, 20%methanol
Buffer C 25 mM Tris-boric acid buffer (pH 9.5), 20% methanol Stain solution 50% methanol, 10%acetic acid, 0.1% CBB R-250 Decoloring solution 90% methanol
タンパク質の PVDF 膜への転写の前処理は、以下の方法により行った。すな わち、SDS-PAGE 後のゲルを適当な大きさに切り取り、緩衝液 C に浸し15分 以上振盪して電気泳動用緩衝液由来のグリシンを出来る限り取り除くとともに、
平衡化を行った。次に、PVDF 膜をゲルと同じ大きさに切り、メタノールに数 秒間浸した後、緩衝液 C に浸し 5 分間以上振盪して膜を平衡化した。緩衝液
A、BおよびC を約20 mLずつ入れた別々の容器に、ゲルよりひと回り大きい
ブロッティング用電極濾紙を2枚ずつ予め浸しておいた。
目的タンパク質の PVDF 膜への転写は、以下の方法にて行った。すなわち、
ブロッティング装置の陽極電極(下側)を緩衝液 A で軽く湿らせ、その上に 緩衝液 A に浸した濾紙 2 枚、その上に緩衝液 B に浸した濾紙 2 枚を置いた。
その上に緩衝液 C で平衡化した PVDF 膜 1 枚、平衡化したゲル、緩衝液 C に浸した濾紙 2 枚の順に、気泡が入らないように注意して重ねた。その上に緩 衝液 C で軽く湿らせた陰極電極を重ねた。室温で約 2 時間 30 分、0.8 mA / cm2 で通電し、ブロッティングを行った。ブロッティング後、PVDF 膜につい て洗浄用緩衝液(25 mM 塩化ナトリウム含有 10 mM ホウ酸ナトリウム緩衝液
(pH 8.0))中での振盪 5 分間を 3 回、その後、蒸留水中での振盪 5 分間を 3 回、それぞれ繰り返すことによって PVDF 膜に付着しているグリシンを除 去した。
PVDF 膜上のタンパク質の検出および分析は、以下の方法にて行った。すな
わち、PVDF膜をCBB染色液(50% メタノール, 10% 酢酸, 0.1% CBB R-250) により染色後、90%メタノールで数秒間脱色することにより、ブロッティング されたタンパク質を青色のバンドとして検出した。バンドを切り取り、プロテ インシークエンサーに供して分析した。
40
結果および考察
1. マダイ筋肉からの内在性システインプロテアーゼの検索
1) 粗酵素液中のカテプシンBおよびL活性
マダイの背部普通筋に4倍量の 20 mMトリス-塩酸衝液 ( pH 7.0 ) を加えて ホモジナイズし、これを遠心分離(9,000 rpm、30分間)して得られた上清を粗 酵素液とした。得られた粗酵素液を用いて、Z-Phe-Arg-MCA(カテプシン B、 LおよびSの基質)およびZ-Arg-Arg-MCA(カテプシンBの基質)水解活性を 調べた。さらに、カテプシン B と L の存在比を明らかにするために、Z-Phe-
Arg-MCA および Z-Arg-Arg-MCA 水解活性に及ぼす E-64(システインプロテ
アーゼインヒビター)並びに CA-074(カテプシン B に特異的なインヒビ ター)の影響を調べた。その結果、Z-Phe-Arg-MCA 水解活性は E-64 により 68.7%、CA-074 により 60.5%が阻害され、Z-Arg-Arg-MCA 水解活性は E-64 に より 81.8%、CA-074 により 74.6%が阻害されたことから(Figure 10)、マダイ 筋肉中のシステインプロテアーゼは主にカテプシンBであることが判明した。
Figure 10 Effect of cysteine protease inhibitors on the enzyme actyvity
(a): The activities of the crude extract were measured using Z-Phe-Arg- MCA at 50ºC for 10 min at pH 5.5. (b): The activities of the crude extract were measured using Z-Arg-Arg-MCA at 40ºC for 10 min at pH 6.0.
42
2) 粗酵素液中のカテプシンB活性に対する温度およびpHの影響
次に、マダイ筋肉の粗酵素液の Z-Arg-Arg-MCA および Z-Phe-Arg-MCA 水解 活性(主にカテプシン B 活性)に対する温度および pH の影響を確認した
(Figure 11-14)。その結果、カテプシンBの最適温度および最適pHは、Z-Arg- Arg-MCA に対して 40ºC および 6.0 であり、Z-Phe-Arg-MCA に対して 50ºC お よび 5.5 であったが、常温付近(20~30ºC)および魚体死後の筋肉中の pH で ある中性域でも酵素活性を保持していた。
Figure 11 Effects of temperature on Z-Arg-Arg-MCA hydrolyzing activity
The activities of the crued extract were measured using Z-Arg-Arg-MCA at several temperatures for 10 min at different pH 6.0.
Figure 12 Effects of pH on Z-Arg-Arg-MCA hydrolyzing activity
The activities of the crude extract were measured using Z-Arg-Arg-MCA at 40ºC for 10 min at different pHs (pH 4.5-6.0, 0.1 M CH3COOH- CH3COONa buffer; pH 6.0-8.0, 0.1 M KH2PO4-Na2HPO4 buffer).
44
Figure 14 Effects of pH on Z-Phe-Arg-MCA hydrolyzing activity
The activities of the crude extract were measured using Z-Phe-Arg-MCA at 50ºC for 10 min at different pHs (pH 3.5-6.0, 0.1 M CH3COOH- CH3COONa buffer; pH 6.0-8.0, 0.1 M KH2PO4-Na2HPO4 buffer).
2. マダイ筋肉からのカテプシンBの精製
1) 粗酵素液の抽出
マダイ筋肉からの内在性システインプロテアーゼの精製手順を(Figure 15)に 示した。精製はカテプシンBの精製 [28, 40] を参考にして行った。なお、精製 操作は通常4ºC以下で行った。
46
マダイの背部普通筋 111g に 4倍量の 20 mMトリス-塩酸緩衝液 ( pH 7.0 ) を加え、ホモジナイズした。これを遠心分離(9,000 rpm、30分間)し、得られ た上清を粗酵素液とした。
次に、粗酵素液をマグネティックスターラーで撹拌しながら、50%飽和にな るように硫酸アンモニウムを加えた。2 時間静置後、遠心分離(9,000 rpm、30 分間) し、得られた上清に同様の操作で 80%飽和になるように硫酸アンモニ ウムを加えた。硫酸アンモニウムを完全に溶解した後、さらに 2 時間静置し、
遠心分離(9,000 rpm、30分間)して沈殿したタンパク質を回収した。この沈殿 タンパク質を2 mM 2-ME含有50 mM 酢酸-酢酸ナトリウム(pH 4.5)で溶解し た。その後、同緩衝液で一晩透析し、不溶物を除去するために遠心分離(9,000
rpm、30分間)を行った。得られた上清を硫安塩析画分とした。
2) SP-Sepharose陽イオン交換クロマトグラフィー
得られた硫安塩析画分143.5 mLについて、凍結融解により生じた沈殿を除く ために遠心分離(12,000 rpm、20 分間)し、得られた上清を 2 mM 2-ME 含有
50 mM酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)で一晩透析した後、同緩衝液で平
衡化した SP-Sepharose カラム(2.64 × 45 cm)に供した。未吸着タンパク質を 同緩衝液で溶出させた後、吸着タンパク質を同緩衝液に 0-2 M塩化ナトリウム を加えたリニアグラジエント法で溶出させた。吸着画分に現れた Z-Phe-Arg- MCA および Z-Arg-Arg-MCA 水解活性(0.5 M NaCl 付近)のピークを SP- Sepharoseカラム溶出試料として回収した(Figure 16)。
なお、Yoshidaらは、マアジ筋肉のカテプシン Bは同カラムに吸着し、0.5 M
NaCl 付近でカラムから溶出したと報告している[40]。したがって、本酵素はカ テプシンBに近い性質であると考えられた。
48
Figure 16 SP-Sepharose column chromatography
The ammonium sulfate fraction was applied to a SP-Sepharose column (2.64 × 45 cm) equilibrated with 50 mM acetate buffer (pH 4.5) containing 2 mM 2-ME and eluted adsorbed fractions by the same buffer with NaCl.
3) Superdex 75ゲル濾過
得られた SP-Sepharose カラム溶出試料を、YM-10 膜を用いた限外濾過にて
濃縮した後、2 mM 2-MEおよび 0.15 M塩化ナトリウム含有50 mM酢酸-酢酸 ナトリウム緩衝液(pH 4.5)で平衡化したSuperdex 75 カラム(320 mL)に供 した。その結果、Z-Phe-Arg-MCA および Z-Arg-Arg-MCA に対する水解活性の ピークが検出されたことから、本ピークを Superdex 75 カラム溶出試料として 回収した(Figure 17)。
Figure 17 Superdex 75 column chromatography
The active fraction from SP-Sepharose column was applied to a Superdex 75 column (320 mL) equilibrated with 50 mM acetate buffer (pH 4.5) containing 2 mM 2-ME and 0.15 M NaCl.
50
4) Concanavalin A Sepharose 4B アフィニティークロマトグラフィー
Superdex 75カラム溶出試料を蒸留水で一晩透析し、2 mM NaCl、1 mM CaCl2
および1 mM MnCl2含有50 mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)で平衡化した
Concanavalin A Sepharose 4B アフィニティーカラムクロマトグラフィー(1.7 mL)に供した。未吸着タンパク質を同緩衝液で溶出させた後、吸着タンパク質 を同緩衝液に 1 Mメチルマンノシドを加えたステップワイズ法で溶出させた。
その結果、未吸着画分に夾雑タンパク質が溶出し、1 Mメチルマンノシド 付近 にカテプシン B 活性(Z-Phe-Arg-MCA および Z-Arg-Arg-MCA 水解活性)の ピークが得られた(Figure 18)。得られたピークを回収し、マダイ背部普通筋カ テプシン B様酵素の最終精製標品とした。
Figure 18 Concanavalin A Sepharose 4B column chromatography
The active fraction from Superdex 75 column was applied to a Concanavalin A Sepharose 4B column (1.7 mL) equilibrated with 50 mM acetate buffer (pH 4.5) containing 2 mM NaCl, 1 mM CaCl2 and 1 mM MnCl2 eluted adsorbed fractions by the same buffer with 1 M methyl mannoside.
5) マダイ筋肉からの最終精製標品の精製結果
マダイ背部普通筋からの最終精製標品の精製結果をTable 5に示す。マダイ筋
肉111 gから4.68 mg の最終精製標品が得られ、精製倍率は236.57倍、回収率
は20.54%であった。
Table 5 Summary of purification of cathepsin B-like enzyme Purification step
Total protein
Total activity*
Specific
activity* Purity Yield (mg) (Units) (Units/mg) (fold) (%) Crude extract 4814.83 398.64 0.08 1.00 100
Ammonium sulfate fraction 1941.35 71.20 0.04 0.44 17.8
SP-Sepharose 22.91 20.72 0.90 10.92 5.18
Superdex 75 4.16 32.57 7.82 94.44 8.15
Concanavalin A Sepharose 4B 4.68 81.88 17.50 236.57 20.54
* Enzyme activity was measured using Z-Phe-Arg-MCA at 50ºC for 10 min at pH 5.5.
なお、今回の精製では、上記のように比較的高い最終精製標品の回収率
(20.54%)であった。本事象については、精製中のカテプシン B 画分(硫安塩 析画分、SP-Sepharoseカラム溶出試料およびSuperdex 75カラム溶出試料)を酸 性条件下(pH 4.5)で保存していたことから、シスタチン等の内在性システイ ンプロテアーゼインヒビターが酸性条件下において外れやすくなり、これによ り最終精製標品の総活性が高値を示したことに起因したものと考えられたが、
詳細は不明であった。
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6) 最終精製標品の純度検定
最終精製標品を SDS-PAGE による純度検定に供した。その結果、還元条件 下において、62 kDa , 54 kDa , 49 kDa , 42 kDa , 35 kDa , 31 kDa , 17 kDa , 13 kDa ,
9 kDa の 計 9 本のタンパク質バンドがみられ、単離精製には至らなかった
(Figure 19)。一方、コイのカテプシン B は二本鎖構造であることが報告され
ている [28]。また、哺乳類におけるカテプシンBのプロセシング機構は既に解 明されており、一本鎖型がライソゾーマルシステインプロテアーゼによって二 本鎖型になることが報告されている [62-64]。加えて、マアジ筋肉カテプシンB において、28 kDaおよび6 kDaのタンパク質バンドがそれぞれカテプシンBの 重鎖と軽鎖であることが確認されている [40]。これらのことから、本章ではカ テプシン B の単離精製には至らなかったものの、得られたタンパク質バンドの うち、31 kDa および6 kDaのものがそれぞれマダイ背部普通筋におけるカテプ シンBの重鎖および軽鎖であると推測された。
Figure 19 SDS-PAGE of final purified preparation
Right lane: final purified preparation sample was loaded on a 15% SDS- polyacrylamide gel. Left lane: molecular weight standards.
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7) 最終精製標品中のタンパク質バンドのN末端アミノ酸配列
プロテインシークエンサーを用いて、カテプシン B の重鎖および軽鎖である と推測される二つのタンパク質(31 kDa および6 kDa)のN末端アミノ酸配列 の分析を試みたが、その決定には至らなかった。その一因として、N 末端のブ ロッキングが考えられたが、N 末端のデブロッキングを試みるに必要なタンパ ク質量が残っておらず、その詳細は不明であった。
また、最終精製標品のタンパク質量が少ないことに加え、保存中の酵素活性 の失活が激しく、インヒビターの影響、最適温度および最適 pH、筋原線維タ ンパク質への作用等、種々の性状解析が不能となった。酵素活性の失活の原因 としては、酵素を構成するタンパク質の立体構造(conformation)が深く関与す る。本章で得られた最終精製標品では、凍結融解操作、最終精製標品中のタン パク質濃度あるいは塩濃度、保存溶媒の pH や目的酵素あるいは他の酵素によ る作用等により立体構造が不可逆的に大きく変わり、失活した可能性が考えら れた。このように、今後マダイ背部普通筋からカテプシン B の精製を行い、諸 性質を解析するためには、精製方法や酵素液の保存方法について詳細な検討を 行う必要性が明確となった。
小括
マダイ筋肉粗抽出液の Z-Phe-Arg-MCA 水解活性(主にカテプシン B、L および S の基質)は E-64(システインプロテアーゼインヒビター)によ
り 68.7%、CA-074(カテプシン B に特異的なインヒビター)により
60.5%が阻害され、Z-Arg-Arg-MCA水解活性(主にカテプシンBの基質)
は E-64により 81.8%、CA-074 により 74.6%が阻害されたことから、マダ イ筋肉中のシステインプロテアーゼは主にカテプシン B であることが判 明した。
マダイ筋肉粗抽出液中のカテプシン B の最適 pH および最適温度は、Z- Phe-Arg-MCAに対して5.5および50ºCであり、Z-Arg-Arg-MCAに対して 6.0および40ºCであったが、魚体死後の筋肉中のpH である中性域および 低温度帯でも酵素活性を保持していた。
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第 4 章 マサバ脾臓由来の中性域で働く内在性システイン プロテアーゼの精製および性状解析
本章では、魚肉軟化に関わるプロテアーゼのうち、自己消化の初発段階に関 与する可能性が考えられる、中性域で働く内在性システインプロテアーゼを研 究対象とした。
第 3 章で述べたようにマダイ筋肉において内在性システインプロテアーゼ
(カテプシン B 様酵素)の存在が確認されたが、その濃度が少なく単離精製が 困難であった。また、マアジ筋肉におけるシステインプロテアーゼ(カテプシ
ン B)の存在 [40] や鮮度低下の早い魚種として知られているマサバ筋肉中に
中性域で働くシステインプロテアーゼの存在が報告されているが [41]、その精 製も同様に困難であり、部分精製標品による性状解析に留まっている。事前に マサバ各種臓器中における中性域でのZ-Phe-Arg-MCA水解活性(主にカテプシ ン S 活性)を粗酵素液を用いて調べたところ、脾臓の酵素活性(比活性)が最 も高かった(次いで比活性の高かった肝臓の約 10 倍)。そこで本章では、赤身 魚で筋肉 pH が低く鮮度低下の早いマサバに注目するとともに、白血球由来カ テプシン群の魚肉軟化への関与を考慮して、白血球を多く含む脾臓より中性域 で働く内在性システインプロテアーゼを精製し、その性状解析を行うとともに、
筋原線維タンパク質の分解に対する内在性システインプロテアーゼの影響を検 討した。
材料および方法
1. 供試魚
長崎市三重魚市場より入手したマサバScomber japonicusを用いた。脾臓を摘 出後、実験に供した。
2. 試薬および実験機器
酵素の精製には、Amersham Pharmacia LKB Biotechnology社製のS-Sepharose Fast Flow、Sephacryl S-200HR、Q-Sepharose Fast FlowおよびMono Q HR 5/5、並 びにBIO-RAD社製のBio-Sil SEC 125を用いた。
中性域で働くシステインプロテアーゼ活性測定用の基質として、以下のペプ チド研究所製の蛍光合成基質を用いた。すなわち、カテプシンL および S活性 用にZ-Phe-Arg-MCA を、カテプシンB 活性用にZ-Arg-Arg-MCA を、カテプシ ンH活性用にL-Arginine 4-methylcoumaryl-7-amide(Arg-MCA)を用いた。
プ ロ テ ア ー ゼ 阻 害 剤 と し て 、 和 光 純 薬 工 業 社 製 の Nα-tosyl-L-lysine chloromethyl ketone hydrochloride(TLCK)、半井化学薬品社製のo-Phenanthroline、 ペプチド研究所製の Antipain、Leupeptin、Pepstatin A および E-64、並びに MERCK 社製のPefabloc SCを用いた。
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SDS-PAGE用ゲルの作製には、和光純薬工業社製のacrylamide、TEMEDおよ
び 過 硫 酸 ア ン モ ニ ウ ム 、 並 び に ナ カ ラ イ テ ス ク 社 製 の Bis(N,N’- methylenebisacrylamide) を 用 い た 。SDS-PAGE 用 の 標 準 タ ン パ ク 質 と し て Pharmacia LKB Biotechnology 社 製 の Electrophoresis Calibration Kit(Low molecular weight)、並びに BIO-RAD 社 製 の Prestained SDS-PAGE Standards
(Low range)を用いた。PVDF 膜は MILLPORE 社製の ImmobilonTM- PSQ Transfer Membrane を用いた。
マサバ脾臓のホモジナイズには、日音医理科器械製作所製のヒスコトロンホ モジナイザーを用いた。タンパク質の定量には日立サイエンスシステムズ社製 の U-1100 Spectrophotometer(日立レシオビーム分光光度計)を用いた。酵素活 性測定には、JASCO 社製の FP-770 と SHIMADZU 社製の RF-1500 SPECTRO
FLUORO PHOTOMETER を用いた。酵素の濃縮には、Amicon 社製の濃縮機
(セントリコンYM-10)およびYM-10 限外濾過膜を用いた。N末端アミノ酸配 列の決定にはApplied Biosystems社製のProcise 492 Protein Sequencerを用いた。
その他、クロマトグラフィー用の試薬、あるいは酵素の諸性質を調べる際の 試薬は、和光純薬工業社製あるいはナカライテスク社製の特級試薬を用いた。
3. 蛍光合成基質の調製
Z-Phe-Arg-MCA、Z-Arg-Arg-MCA およびArg-MCA をそれぞれDMSOに溶解 し、10 mM溶液を調製した。次に、これを蒸留水で正確に10倍希釈(1 mM)
し、凍結保存した。この溶液を使用する際、蒸留水で25 µMとなるように希釈
した。
4. プロテアーゼ活性の測定
プロテアーゼ活性の測定法はPangkey [26] およびKirsche [65] らの方法を参 考に行った。
カテプシン S 活性は以下の方法により測定した。すなわち、2 mM EDTA 含 有100 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)730 µL、40 mM cysteine 50 µL
(終濃度2 mM)、酵素液20 µLを混合し、37ºCで1分間プレインキュベーショ
ン後、基質として25 µM Z-Phe-Arg-MCAを200 µL添加(終濃度5 µM)し、
37ºCで 10分間反応させた。これに反応停止液として100 mMモノクロロ酢酸-
70 mM酢酸-30 mM酢酸ナトリウム混合液を1.0 mL加えて反応を停止させた。
ついで 1.0 mL の蒸留水を加えて、生じた AMC の蛍光を Ex 380 nm、Em 450
nmの波長で測定した。酵素活性は、酵素液1 mLが1分間に1 µmolのAMCを 遊離する力価を1 Unitとした。
カテプシン L 活性は以下の方法により測定した。すなわち、2 mM EDTA 含 有100 mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)730 µL、40 mM cysteine 50 µL(終
濃度2 mM)、酵素液20 µLを混合し、37ºCで1分間プレインキュベーション後、
基質として25 µM Z-Phe-Arg-MCAを200 µL添加(終濃度5 µM)し、37ºCで