カウンセリングにおける沈黙についての文献研究
‑沈黙の意味分類とカウンセラーの対応について‑
学校教育専攻 教育臨床コース 糸 林 剛 志
1 問題と目的
カウンセリングにおける沈黙の重要性はこれ までの研究で数多く指摘されてきた。本来クラ イエントの語りの場であるカウンセリングにお いて,あえて語られない「沈黙Jには,言葉に 出来ない深い意味様相が含まれていると考えら .れる。そして,その語られない意味について推 察し,共に感じ理解することができることで,
カウンセラーのクライエント理解はより深いも のになると思われる。しかし,カウンセラーに とって沈黙を十分離卒することは,言葉で表現 されていないために困難である。特に,初学者 のカウンセラーにとって 沈黙は戸惑うことが 多い。しかし,これまで、沈黙における対応につ いて明確な文献は呈示されてこなかった。
そこで本研究ではこれまで、の研究を元に,可 能な限り多様なクライエントの沈黙の意味様相 乙沈黙時におけるカウンセラーの対応につい て分類,考察することを目的とする。
2 クライエントにとっての沈黙意味
① r~間』としての沈黙J :何となく会話が途 切れてしまっただけで、あったり,会話のキュー としての意味を持っていたりするもので,内的 な意味があまりないものである。しかし,会話 のテンポや話し方という視点で見ると間のとり 方によってその人らしさが表れてくると言えよ
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②「関わりの中での沈黙J:カウンセラーと
指導教員 山下一夫
の関係(二者関係)による意味あいをもっ沈黙 である。
沈黙にはカウンセラーとの一体感,協丘を感 じるもので、あったり,分離,断絶を感じるもの で、あったりする。両極端の意味であるが,どち らの意味もあり得ることが示された。この接近 もしくは分離の方向性は,関わりの中での沈黙 において基本的方向性はどちらに向いているか を考える際に有用であろう。
また,カウンセラーへの転移や抵抗の意味の 沈黙や,クライエント自身が沈黙と関連して記 憶している過去の重要な人物との関係の再現と して生じている沈黙もある。カウンセラーに対 してあえて話さないことで攻撃や非難を示して いるものや,話をすること自体を拒否している 沈黙もある。また,語ることは自身の秘密を話 すことになり,暴かれる不安や恥ずかしさを感 じる不安もあるために沈紫することもある。こ のような場合,直前のカウンセラーの発言やこ れまでの話題の中で,クライエントの信頼をな くしていなし1かどうか再考する必要があること もあるだろう。また,その否定的感情自体をテ ーマに話し合うことも重要である。
マイナスの感情だけでなく,カウンセラーに 対する同一視や融合感覚を向けている場合もあ る。この一体感は受容の体験とも言えるが,妄 想的なものである場合もあり注意が必要である。
また沈黙としづ現象自体,カウンセラー,ク
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ライエント双方の関係性を現している一種の行 動化,エンアクトメントとして捉えることが出 来る。沈黙自体,双方の複雑な関係性により生 まれている可能性が高い。沈黙が何故生まれた かを関係性の視点からその意味を再考すること により新たな発見や瑚卒が生まれるだろう。
③「クラエント自身の沈黙J: クラエント主 導でクライエントのみで終始し,一者関係、の中 で生じた沈黙である。
言葉にならない想いをなんとか言葉にしよう として自分の内面に向き合っている沈黙があるo このような沈黙はフォーカシングの過程に似て いる。自己の内面の感覚を言語化しようとして いる沈黙はカウンセリングにおける重要な過程 である。洞察や気づきへの準備段階とも言える だろう。また,沈黙の中で自己の変容過程が進 行しているとも言えるだろう。
また,圧倒的な感情の波にのまれて否応なし に沈黙させられている場合もある。悲しみゃ喜 び、によって言葉を失うこともあるだろう。
さらに,ただ時間を休んでいるような,一見 意味のない沈黙もありうる。しかしインキュベ ーションの沈黙として捉えると,このような沈 黙の時間が次の洞察へのあたため過程となって いる場合もある。あせらずじっくり沈黙とつき あうこともまた重要である。
3 沈黙への対応
沈黙への対応を考える際に,まず事前に知る ことが出来る情幸授から沈黙を推察することがで きる。クライエントの病態水準や,主訴内容,
知的水準,性格傾向などを知っておくことで沈 黙時の理解が進むだろう。
沈黙が生じたその時に注目すべき点がいくつ かある。最も手がかりとなるのは,直前の会話 内容や発言,関係性などであろう。その中に沈
黙のきっかけや誘因となったものがある可能性 は高い。また,沈黙の時のノンパーノ〈ノレ・コミ ュニケーションに注目すると,顔の表情や姿勢 などからその意味を推察できるかもしれない。
具体的な対応については,支持的か介入的か の軸により分類した。沈黙の解釈を伝える,
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しいえjで答えやすし、閉ざされた質問をす る,沈黙に関連した連想、を求める,開かれた質 問をする,などは介入的でカウンセラー主導に なってしまう恐れがある一方,沈黙し停滞して いる場面を好転させることもできる。それに対 し,直前のクライエントの発言を言い換える,繰り返したりすることで会話を促進させる,領 きや「うんJ
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ええJといったクライエントの会 話の流れを妨げない最小限の励まし,クライエ ントの沈黙を尊重しカウンセラーも沈黙を守る 抑制,沈黙をクライエントと共に味わう共有,などは支持的であり 沈黙による洞察体験の促 進や受容的な雰囲気の創出などの効果がある。
しかし,沈黙にただ落ち込んでしまい関係が破 綻する可能性もある。いずれの対応にも一長一 短があり,沈黙の意味を理解した上で効果的な 対応を考えるべきだろう。また,この対応を一 通り把握しておくことで対応の幅がでるだろう。
カウンセリング初期においては,カウンセリ ングへの抵抗やよくわからなさから鞘敷的な沈 黙が生じる場合が多い。そのため,話しやすい 関係性作りなどに注力し,ある程度沈黙しない ように誘導していく必要があるだろう。
4 総括
沈黙の意味や対応について幅広く呈示するこ とができた。しかし,沈黙の意味や対応はより 深く考察することができ 表面的理解では得ら れないものが大きい。さらなる検討が必要とさ れる。
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