中学生のアサーション育成が社会的スキルに及ぼす影響
一社会科公民的分野の授業実践を通して‑
学 校 教 育 専 攻 生 徒 指 導 コ ー ス 井 上 佳 奈
1 .問題と目的
21世紀を迎え,我が国の社会状況は著しい変 化の中で、閉塞性を帯び、ている。学級崩壊等の 新 しい荒れ"や非行,いじめ,不登校の増加,一 日の家庭での学習時間がゼロの子どもが約
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割 いる等の 学びからの逃避"と称される事態の 背景には,子どもたちが現代社会の中で充実感 を持って生きていると実感しにくくなっている こと,自らが大人になっていく道標を見通すこ とができないこと等の状況があると考えられる。そこで,筆者は次世代を担う中学生が学校生活 及ひ守士会に適応し,他者と協力し,連帯しなが ら生きるために何が重要であるかを検討した。
その結果,学校教育の場において教師の適切な 指導のもと体験等を含んだ集団活動を取り入れ ることは,円滑な友人関係を促し,学級・学校 での 居場所"づくりに役立つと考え,そのた めの 社会的スキル の重要性を柱に研究を進 めた。
本研究では,社会的スキルを「人間関係を形 成し,維持・向上させ,互いに問題解決しよう とする態度や能力」と定義し,これを向上させ るために アサーション育成 話し合い活動'¥
社会科公民的分野"に着目した。そして,ア
指 導 教 官 田 中 雄 三
サーションを「自分も相手も大切にした自己表 現J,Iお互いの権利を尊重し,よりよい解決を 求める態度」と定義し,そのためには,①「相 手の気持ちを尊重する力J,②「自分の思いや考 えを友人や家族を含め 社会一般に受け入れら れる方法で表現する力J,③「対人関係で問題が 生じたときに仲間といっしょに解決策を考えて いく力Jを育成することが必要と考えた。
本研究では,これら 3つの力を育成する場と して,話し合い活動を中心とした社会科授業を 設定し,そこで培われたアサーションが中学生 の社会的スキルにどのような影響を及ぼすのか を検討することを目的とした。
2 .
対象と方法対象はA県B中学校第3学年35名(男子 15 名,女子20名)を実験群とし, B中学校と同規 模であるA県C中学校とA県D中学校の第3学 年合計33名(男子15名,女子18名)を統制群
とした。
実験群には特設単元の形で,単元名を「アサ ーションと私たちの人権jとし,小集団(班) での話し合い活動を中心にした社会科授業を全 12回行った。授業前後には, 4件法からなる質 問紙調査(中学生用社会的スキル尺度)を行い,
実験授業が生徒の社会的スキルに及ぼす影響を 測定した。また,授業を通して生徒の思いや心 の変容を把握するためと,次回の授業に生徒か らの要望等を反映させることを主なねらいとし,
振り返りシートによる授業評価を毎回行った。
3.結果と考察
1 )質問紙調査の結果アサーション育成を目 的とした実験授業は,学級全体及び男女別では,
社会的スキルの向上に効果をもたらすことがで きなかった。
2 )
上位群では「向社会性Jにおいて,得点が 低くなる傾向が認められた (pく.10)。3 )
下位群では尺度の全体得点が高くなる傾向 があり (pく.10), I向社会性」においては,得点 上昇に有意差が認められた (pく
.05)。4 )
振り返りシートの評価項目による授業評価 は,6
項目いずれも「よくあてはまるJ,もしく は「ややあてはまる」が大半であり,生徒は高 い評価をしていた。5)自由記述では, 12回の授業のうち, Iさば くで遭難したときにどうするかJI欲しいもの と必要なものJI子どもの権利条約Jの3つの 教材を,生徒は特に肯定的に評価していた。
6)自由記述のカテゴリ一分析より,各授業の ねらいはほぼ達成されていた。
これらのことから 今回実施した社会科公民 的分野の授業は,学級全体としては社会的スキ ル向上をもたらすことはできなかったが,下位 群の生徒には効果をもたらすことができたと考 えられる。また, アサーション育成のために必 要な能力"のうち「発表する力JI伝える力JI評 価する力Jについては今回の授業だけでは十
分育成されたとは言えない。これら 3つの力は スキルトレーニングの部分と重なるものであり,
教科学習だけではアサーション育成が難しい要 因の1つである。したがって,今後はスキルト レーニングを重視する面と 今回のようにアサ ーションの意義と内容を重視する面とを明確に 区別して,授業のねらいを設定するのが望まし いと考える。
4.
今後の課題
本研究では,社会的スキル向上をねらいとす るアサーション育成のための授業として,社会 科公民的分野における話し合い活動という場を 設定した。
中学生の社会的スキル向上のためには,各教 科・領域の特性を踏まえ,アサーション育成に 必要な具体的な能力を,授業を通して培うこと が必要である。そのためには,中学校の教育課 程においては,アサーションの意義と内容を各 教科の時間を中心に理解させ,スキルトレーニ ングを重視した授業を特別活動等を中心に展開 するのがよいと考える。そして,それぞれに培 われた能力を 総合的な学習の時間"での生徒 の活動を通して深化・統合させるとともに,系 統的な授業を展開するための年間指導計画の作 成が必要であると考える。
また,新教育課程の全面実施により授業時数 が削減され,時間の確保という点で難しい状況 が予想されるため,各教科の教材や活動レベル で共通事項を見出して単元を構成するクロスカ リキュラムの実施や,朝の会・帰りの会の活用 等,全教育課程を通してアサーション育成を図 ることが必要であると考える。