漢字の書字に困難を示す児童に対する聴覚記憶の強さと継次型方略を活用した漢字書字指導
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第70巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 70, No.1. 令 和 元 年 8 月 August, 2019. 漢字の書字に困難を示す児童に対する聴覚記憶の強さと 継次型方略を活用した漢字書字指導 五十嵐靖夫・森川 佳奈 北海道教育大学函館校 障害児臨床研究室. Teaching for Children Who Have Difficulty Writing Kanji Using the Strength of Auditory Memory Capacity and Successive Processing Strategy IGARASHI Yasuo and MORIKAWA Kana Department of Special Education,Hakodate campus,Hokkaido University of Education. 概 要 本研究は漢字の書字のみに困難を示す児童に対して,青木・勝二(2008)が行った,音声言 語リハーサルに加えて,3画以上の大きな構成要素を補完させる「構成要素再生課題」を実施 し,その指導の効果について検討することを目的とした。既習の漢字について,指導から2週 間後の書字テストで正答率が90%であったことから本指導は有効であったと考えられる。しか し,未修得の漢字については正答率が70%程度にとどまり,対象児にとってなじみのない部首 や構成要素を用いて分解を行うと,記憶されにくい可能性が考えられた。今後は,学習漢字の 指導を行う前に,構成要素や部首についての指導を行う必要性や,対象児に負担をかけずに漢 字を構成要素に分解する作業を行わせるような方法を検討していく必要がある。. Ⅰ 問題と目的. ている。また,舟橋・村瀬(2008)による漢字習 得に関する意識調査によると,「漢字の練習が嫌. 漢 字 の 習 得 に つ い て, 総 合 初 等 教 育 研 究 所. い」又は「楽しさを感じない」理由に,「覚えら. (2005)が実施した「教育漢字の読み・書きの習. れない」 「書く量が多い」などが挙げられている。. 得に関する調査」によって,小学校3年生以降で. これらのことから,漢字の書字が困難になる背景. 漢字の無答率が増えることが明らかになった。こ. には,画数や学習漢字の増加に加えて,練習して. のことから,学年が上がるにつれて障害のない子. もなかなか覚えられないことによる学習者の意欲. どもでも漢字を十分に習得できていない現状が考. の低下が挙げられる。. えられる。川村・三浦(2012)は,漢字学習につ. 発達性学習障害の中でも,漢字の習得に困難を. いて学年が上がるにつれて画数が多くなり,複雑. 示す児童は少なくなく,学習障害のある児童生徒. で抽象的な意味の学習漢字が増えることを指摘し. に対する支援や対応が課題として挙げられる。小. 103.
(3) 五十嵐靖夫・森川 佳奈. 学校における「読む,書く」の文字を媒介とした. 字部分見せカード,既習漢字やカタカナなどを組. 授業は,読み書きが苦手な児童にとって,理解が. み合わせて漢字を捉える合成カードを用いて指導. 容易ではなく,上野(2000)は, 「読み,書き」. を行った結果,正答率が上昇したことを報告して. を苦手とする発達性学習障害は,LDの学習のつ. いる。これらのことから,目で見て漢字を捉える. まずきの中でも最も問題として出やすく,またそ. ことが得意な児童生徒には,粘土教材や漢字パズ. の指導の難しさが指摘される領域であるとしてい. ル,書き出しや部首による手がかりを用いた指導. る。読み書き困難など特別なニーズを有する児童. など,漢字を視覚的にとらえる支援が有効である. 生徒の指導や支援について,田中・惠羅・馬場. と述べられている。. (2010)は, 一斉授業で通常行われる教育方法や,. 聴覚的な能力の強さを活用した研究には,佐藤. 経験則に依拠した指導では効果が得られにくいこ. (1997),青木・勝二(2008),春原ら(2005),. とを指摘している。漢字の書字に困難を示す子ど. 藤吉ら(2010)がある。佐藤(1997)は,構成行. もに対して,個々の認知特性を活かした指導が有. 為の苦手さが漢字視写の困難をもたらしていると. 効であるという報告は多くなされ,特に継次処理. 考えられる学習障害児に対して,漢字を構成する. と同時処理,視覚的記憶・視覚推理能力又は聴覚. 十の要素(宮下,1989)を用いて漢字の形態をと. 記憶・聴覚的理解の強さを活かした指導が多くあ. らえる指導を行った。視覚的記憶の苦手さを補っ. る。藤田ら(1998)は,継次処理,同時処理に差. た指導の結果,書き取りの成績が向上したことを. がある場合に,得意な認知処理方略を用いた指導. 明らかにした。また,春原ら(2005)は,漢字の. を行うことで,学習に取り組みやすくなるとし,. 成り立ちを児童生徒が想起できる部分に分解した. それぞれ5つの指導方略を提唱している。. 後,音声言語化して覚える聴覚法を用いて指導を. 継 次 処 理 の 強 さ を 活 か し た 指 導 に, 舟 橋 ら. 行い,聴覚法の方が視覚法に比べて指導効果が持. (2008)がある。舟橋ら(2008)は,漢字を段階. 続することを明らかにした。. 的にフェードアウトさせていくプリント教材を用. 聴覚的な能力の強さを活用した指導として,青. いて指導を行った。その結果,段階的な学習で取. 木・勝二(2008)は,聴覚優位な発達障害児に対. り組んだ漢字の正答率が非支援漢字に比べて10%. して,漢字を構成要素に分解した後,言語化する. 以上高くなったことを明らかにしている。同時型. 音声言語リハーサルと,部分的な間違いに注目さ. 方略を用いた指導には,川村ら(2012) ,三浦ら. せるため1画から2画の書字活動を加えた部分再. (2009) ,望月(2001)がある。川村ら(2012)は,. 生課題を実施した。音声言語リハーサルと部分再. 通級指導教室に通う児童を対象に,漢字の一部を. 生課題による指導の結果,空欄エラーは消失し,. 隠して全体像をイメージさせる教材や,過不足の. 学習に使用した学習漢字の8割以上の未修得漢字. ある漢字を提示し,間違い探しを行う教材などを. の書字が可能になったことを報告していることか. 用いて指導を行った結果,漢字の書字が可能に. ら一定の効果が表れることがわかる。音声言語リ. なったことを報告している。. ハーサルによる聴覚法は,聴覚的短期記憶を活用. 視覚的な能力の強さを活用した研究には,佐囲. できる点で優れている方法であると考える。しか. 東 (2009) , 川村・三浦(2012)がある。佐囲東(2009). し,部分再生課題で,1画から2画の漢字の一部. は,視覚的な記憶が優位なアスペルガー障害のあ. を削除し,再生させる課題を実施したにも関わら. る児童に対し,粘土を用いて操作を行わせる指導. ず,遅延再生時には「配置」,「微細」などの部分. を行い,漢字の書字の正答率が高まったことを明. 的な間違いが見られる。そのため,音声言語リハー. らかにした。また,川村・三浦(2012)は,視覚. サルと部分再生課題による指導においては「配. 的細部への注目を向けることが得意な学習障害児. 置」,「微細」等の書字エラーを減少させるための. に対し,漢字パズルや細部に注目させるための漢. さらなる指導方法の工夫が必要である。青木・勝. 104.
(4) 聴覚記憶の強さと継次型方略を活用した漢字書字指導. 二(2008)の研究では,部分再生課題において, 書字が1画から2画と少なかったために,漢字を 構成要素のまとまりとして捉えることが難しく, 全体の形を捉えにくかった可能性やどこにどの要 素を配置すればよいのか記憶されにくくなってし. Table1−1 KABC-Ⅱの結果(認知尺度) 認知総合尺度111(106-116) 継次尺度121 同時尺度105 計画尺度90 学習尺度113 (114-127) (96-113) (82-99) (104-120) 下位検査 下位検査 下位検査 下位検査 評価点 評価点 評価点 評価点 数唱 16 絵の統合 9 物語の完成 13 語の学習 13 語の配列 15 近道さがし 13 パターン推理12 語の遅延再生12 手の動作 9 模様の構成 10. まった可能性が考えられる。そのため,3画以上 の大きな構成要素に注目させ,漢字が構成要素の 集まりでできていることに気づいて漢字を捉える ことができるような指導方法を加える必要がある と考えた。 そこで本研究では,漢字の書字のみに困難を示. Table1−2 KABC-Ⅱの結果(習得尺度) 習得総合尺度103(99-107) 語彙尺度102 読み尺度124 書き尺度79 算数尺度87 (96-108) (117-129) (72-88) (82-93) 下位検査 下位検査 下位検査 下位検査 評価点 評価点 評価点 評価点 表現語彙 9 ことばの読み13 ことばの書き 8 数的推論 8 なぞなぞ 7 文の理解 15 文の構成 5 計算 8 理解語彙 15. し,聴覚記憶が強く,継次処理が得意な児童に対 して,青木・勝二(2008)が実践した聴覚記憶の. 認知尺度の結果から,継次尺度が同時尺度に対. 強さを活かした音声言語リハーサルによる指導. し,有意に高い(5%水準)。また,読み尺度が. と,漢字の部分を大きな構成要素として捉えさせ. 高く,他の3つの尺度と比べ有意差が見られる. るために,数画の書字活動を加えて構成要素を補. (5%水準)。書き尺度の「ことばの書き」が評. 完させる指導(以下,構成要素再生課題)を組み. 価点8であり,他の下位検査よりも低い傾向にあ. 合わせた指導を行い,その指導の効果を検討する. ることから,漢字の書きに困難を示していること. ことを目的とする。. が推測される。さらに,小野ら(2017)を参考に クラスター分析を行った。小野ら(2017)によれ. Ⅱ 方 法. ば,クラスターとはKABC-Ⅱの下位検査を束ね て作成した尺度のことであり,クラスター分析と. 1.対象児の実態. は尺度の標準得点に基づく一連の個人内比較と個. A市内小学校通常学級に在籍する5年生B児. 人間比較を指す。対象児の場合は下位検査「物語. で,小学校1年時に広汎性発達障害の診断を受け. の完成,近道さがし,模様の構成,パターン推理」. ている。漢字の読みには問題はなく,漢字の書字. で構成されるクラスター〔問題解決能力〕と「語. のみに困難を示している。漢字の書字については,. の学習,数唱,語の配列」で構成されるクラスター. 「読むのは得意だけど書けない。」と話しており,. 〔記憶・学習能力〕の2つのクラスターの標準得. 漢字書字に苦手意識を持っている。. 点の差が,有意でまれな差と判定され,〔問題解 決能力<記憶・学習能力〕となった。. 2.研究の倫理的配慮 研究参加にあたり,筆者から保護者へ口頭で研. ⑵ WISC-Ⅳの結果. 究内容の説明を行い,研究参加の承諾を得た。. 10歳 1 カ 月 時 に 実 施 し たWISC-Ⅳ の 結 果 を Table 2に示す。なお,信頼区間は90%信頼区間. 3.心理アセスメントの結果. であり,標準得点の後に示す括弧内の数値は測定. ⑴ KABC-Ⅱの結果. 誤差範囲である。. 9 歳 6 ヵ 月 時 に 実 施 し たKABC-Ⅱ の 結 果 を. 言語理解とワーキングメモリーが他の指標に比. Table1−1,Table1−2に示す。なお,信頼. べて高いことから,耳で聞いて記憶,理解するこ. 区間は90%信頼区間であり,標準得点の後に示す. とが得意であることが推測される。下位検査の中. 括弧内の数値は測定誤差範囲である。. でも,符号と記号探しが平均より低いことから,. 105.
(5) 五十嵐靖夫・森川 佳奈. Table 2 WISC-Ⅳの結果. ⑵ 指導Ⅱ期の対象漢字 指導Ⅰ期の聞き取りの際に,B児が学習した漢. 全検査(FSIQ)113(107-118) 言語理解121. 知覚推理102. ワーキング メモリー 133. 処理尺度78. (VIQ) (PRI) (WMI) (PSI) (112-126) (95-109) (123-137) (73-89) 下位検査 下位検査 下位検査 下位検査 評価点 評価点 評価点 評価点 類似 11 積み木模様11 数唱 19 符号 5 単語 16 絵の概念 11 語音整列 13 記号探し 7 理解 14 行列推理 9. 字について「C大学での勉強を通して,漢字を書 けるようになったとは感じるけど,普段はあまり 使わない。」と発言していたことなどから,B児 が学校生活の中で漢字を書けるようになったと感. 視覚的な短期記憶能力の弱さや不器用さが疑われ. じられる経験をすることが必要だと考えたため,. る。しかし,手の動作の評価点が9であることか. 指導Ⅱ期の対象漢字を第5学年の未修得漢字38字. ら,視覚的短期記憶能力の弱さよりも,不器用さ. とした。. の方が漢字書字に影響を与えている可能性が考え られる。また,符号よりも記号探しの評価点が高. ⑶ 書字エラーの分析. いことから,記号探しよりも符号の方の操作が複. テスト実施後,誤答について書字エラーの分類. 雑であること,視覚情報が多いものが苦手である. を行う。書字エラーの分類は,青木・勝二(2008). こと,目を上下に動かすよりも,目を左右に動か. が分類した書字エラーの分類に基づいて行う。た. す方が負担が少ないことなどが考えられる。. だし,青木・勝二(2008)には定義されていない 「音韻」エラーの分類に関しては,石井ら(2003). 4.場所及び期間. に基づいて分類を行う。青木・勝二(2008)と石. C大学において平成30年7月から平成31年2月. 井ら(2003)に基づいて分類できない書字エラー. まで週1~2回,30分程度の指導を行う。. は「その他」に分類する。また,構成要素の一部 は正しく書けたが,他の構成要素が何も書かれて. 5.指導の手続き. いないものに関しては,新たに「一部」という書. ⑴ 指導前テストによる漢字書字能力の評価. 字エラーの名称を付けて書字エラーの分類に加え. ①指導前テストの対象漢字と指導Ⅰ期の指導漢字. た。漢字書字エラーの分類と判定基準をTable 3. 漢字を書くことが苦手な対象児にとって,複数. に示す。. 回に分けてベースラインを測定することは,負担 が大きくなると考えたため,指導前の漢字の習得 状況を測るために一度のみ指導前テストを実施す る。岡本(2014)は,漢字指導の研究動向を分析 し,漢字習得に困難を示す児童は,当該学年より も1学年以上下の漢字習得が困難である割合が高. Table 3 漢字書字エラー分類と判断基準 分類 判定基準 空欄 何も書かれていないもの 形象 各構成要素はあいまいだが,全体の形がとらえられているもの 配置 構成要素の配置が誤っているもの 要素 構成要素自体に誤りがあるもの 過不足 余分な書き足しや書き抜かしがあるもの 微細 構成要素は正しいが,接合部など細部に誤りがあるもの 音韻 正答の漢字の読みと類似した音韻の読みをもつもの 一部 構成要素の一部は正しく書けたが,他の構成要素が何も書かれていないもの その他 上記以外のもの. いことを指摘している。また,B児のKABC-Ⅱ の「ことばの書き」の評価点が8で,相当年齢が. ⑷ 指 導. 8歳9カ月であること, 「ことばの書き」の問題. ①指導Ⅰ期. で1,2年生の漢字の正答率は100%であるのに. 対象児は漢字の書字に苦手意識をもっているた. 対し,3年生の漢字では60%,4年生の漢字では. め,漢字の学習をするにあたって抵抗感の少ない. 正答率0%となっており,3年生以降の漢字に困. と考えられる「読むことができるが,書くことの. 難を示していることが推測される。以上のことか. できない漢字」を指導対象とする。青木・勝二. ら指導Ⅰ期で取り扱う漢字を,B児が指導前テス. (2008)の研究の手続きを参考に,音声言語リハー. トで読むことができて,かつ書くことができな. サルを行うことに加え,部首等の大きい構成要素. かった第4学年の学習漢字の漢字72字とする。. を補完する「構成要素再生課題」を組み合わせた. 106.
(6) 聴覚記憶の強さと継次型方略を活用した漢字書字指導. 指導を行う。指導Ⅰ期の指導の流れをTable 4に 示す。 Table 4 指導Ⅰ期の指導の流れ 指導の流れ 1)漢字を構成要素に分解する。 2)音声言語リハーサルを行う。 3)構成要素再生課題を行う。 4)直後再生を行う。 5)遅延再生1(指導1週間後)を行う。 6)遅延再生2(指導2週間後)を行う。 7)漢字書字テストの評価を行う。. Fig. 1 構成要素再生課題の例(泣). 4)直後再生を行う 指導直後,指導した漢字について書字テストを 行う。問題は指導前テストで出題した問題文と同 じものとする。問題文の書字させたい漢字の横に ふりがなをふり,マスの中に書字をさせる。. 1)漢字を構成要素に分解する A4用紙に460ポイントで学習する漢字を提示. 5)遅延再生1(指導1週間後)を行う. し,漢字をB児の知っている構成要素に分解させ. 指導1週間後,指導した漢字についての書字テ. る。分解の印は赤ペンでB児が書くものとする。. ストを行う。問題は,指導前テスト,直後再生で. 構成要素の分解の仕方はB児自身に考えさせる。. 用いたものと同じものを用いて書字テストを行う。. 2)音声言語リハーサルを行う. 6)遅延再生2(指導2週間後)を行う. アセスメントの結果から,B児は聴覚的な短期. 初回の指導から2週間後,指導前テスト,直後. 記憶が強いため,聴覚的な短期記憶を活用できる. 再生,遅延再生1で用いたものと同じ問題を用い. 音声言語リハーサルによる指導を行う。青木・勝. て書字テストを行う。. 二(2008)が実施した音声言語リハーサルの方法 と同様に,B児が分解した構成要素を言語化し, 分. 7)漢字書字テストの評価を行う. 解した構成要素を音声で繰り返し復唱する。繰り. 指導終了後,直後再生,遅延再生1,遅延再生. 返す回数はB児と相談し,5回復唱することとし. 2のすべての書字テストで,正誤の評価を行う。. た。音声言語リハーサルした言葉をメモに残し,B. 漢字書字の正誤の判定は小学校国語科の教科書. 児が分からなくなった際に確認できるようにした。. (教育出版)及びKABC-Ⅱのマニュアルを参考に, 筆者とC大学大学院生で行う。正誤の判定や書字. 3)構成要素再生課題を行う. エラーの判定が筆者とC大学大学院生とで一致し. 分解した構成要素を基に,筆者が作成した8. なかった場合,一致するまで話し合い,判定を行っ. cm×8cmのマス目を用いて構成要素を補完す. た。指導終了後,直後再生,遅延再生1,遅延再. る。青木・勝二(2008)の先行研究で1画から2. 生2のすべての書字テストで書くことができた漢. 画の部分再生課題では遅延再生時に部分的な間違. 字を習得できたと判断する。. いが見られたことから,より大きな構成要素に注 目させるために3画以上の構成要素の補完をさせ. ②指導Ⅱ期. る「構成要素再生課題」を実施する。再生させる. 指導Ⅰ期で,画数が多い漢字になるにつれB児. 構成要素は基本的に3画以上とするが,偏が亻. が構成要素の分解を行う際に立ち歩く様子が頻繁. (人偏)のようにそれ以上大きな構成要素として. に見られるようになってきた。これは,B児にとっ. 捉えることが難しいものは除く。構成要素再生課. て,画数が多かったり,複雑な漢字を分解したり. 題の例をFig. 1に示す。. することが負担になっているためであると考え,. 107.
(7) 五十嵐靖夫・森川 佳奈. 指導Ⅱ期では漢字の分解の仕方を筆者から提示す. が3字,「音韻」が5字となっている。青木・勝. ることとした。そこで指導Ⅱ期の指導の流れの最. 二(2008)及び石井ら(2003)の分類に当てはま. 初は,指導Ⅰ期で「1)漢字を構成要素に分解す. らない形態エラーなどの「その他」のエラーが11. る。 」であったものを「1)分解の仕方を確認する」. 字である。. に変更した。提示した分解の仕方に納得がいかな い場合にのみB児に分解の仕方を考えてもらい,. 2.指導の結果. B児の分解の仕方を採用することとする。また,. 指導Ⅰ期,指導Ⅱ期共に1回につき5字を上限. 指導Ⅱ期で取り扱う漢字は,学校生活の中で漢字. に指導を行った。時間やB児の集中できていない. を書くことができたという経験をさせるため,B. 様子を考慮し,指導Ⅰ期の第3,12,13回目,指. 児がこれから学習する第5学年の未修得漢字38字. 導Ⅱ期の5,8回目は指導漢字を4字とした。. とする。音声言語リハーサル,構成要素再生課題 は指導Ⅰ期と同様の手続きで実施する。. ⑴ 指導Ⅰ期 ①直後再生の結果 指導直後に行った直後再生の結果をTable 7に. Ⅲ 結 果. 示す。. 1.指導前テストの結果. 指導全15回で,直後再生は全問正しく書字する. 指導前テストの漢字の読み誤りの割合と漢字の. ことができ,正答率100%を示している。解答用. 書きの正誤の割合をTable 5に示す。. 紙を机上に置くと,すぐに書字を始めることが多. Table 5 漢字の読みと書きの正誤の割合 問題数. 正答数(割合). 誤答数(割合). 読み. 182字. 178字(97.8%). 4字(2.2%). 書き. 178字. 67字(37.6%) 111字(62.4%). 指導前テストの書字エラーの割合をTable 6に 示す。 Table 6 指導前テストの書字エラーの割合 正誤 正答 誤答 空欄 形象 配置 要素 過不足 微細 音韻 一部 その他 合計. 反応数 67 111 56 3 0 7 0 3 5 26 11 178. 割合(内訳) 37% 63% (31%) (2%) (0%) (4%) (0%) (2%) (3%) (15%) (6%) 100%. かった。分解が複雑な漢字については思い出すこ とに多少時間を要するときもあったが,思い出し て書字することができていた。 Table 7 直後再生の反応数と割合 正誤 正答 誤答 空欄 形象 配置 要素 過不足 微細 音韻 一部 その他 合計. 反応数 72 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 72. 割合(内訳) 100% 0% (0%) (0%) (0%) (0%) (0%) (0%) (0%) (0%) (0%) 100%. ②遅延再生1の結果 指導1週間後に行った遅延再生1の結果を Table 8に示す。 遅延再生1では,指導漢字72字のうち,58字正. 漢字の書きの指導前テストでは,全178字のう. 答で,正答率80%となっている。書字エラーとし. ち67字正答で,正答率37%となっている。書字エ. て多かったのは,「空欄」,「要素」,「一部」の書. ラーとして最も多かったのは, 「空欄」の56字で. 字エラーである。遅延再生1では「形象」, 「配置」,. ある。次いで26字と「一部」エラーが多かった。. 「過不足」,「微細」のエラーは出なかった。指導. そのほかの書字エラーは「要素」が7字,「微細」. 回数が増えていくにつれて,遅延再生1で漢字を. 108.
(8) 聴覚記憶の強さと継次型方略を活用した漢字書字指導. Table 8 遅延再生1の反応数と割合 正誤 正答 誤答 空欄 形象 配置 要素 過不足 微細 音韻 一部 その他 合計. 反応数 58 14 4 0 0 5 0 0 1 4 0 72. 割合(内訳) 80% 20% (6%) (0%) (0%) (7%) (0%) (0%) (1%) (6%) (0%) 100%. 正答率100パーセントを示している。直後再生の 際には,迷うことなくスラスラと漢字を書字する 様子が見られた。間違えることなく書字できた後 には,満面の笑みで筆者を見つめてくることが多 く,うれしそうな表情を見せていた。 2)遅延再生1の結果 遅延再生1の正答率は80%となっている。時間 の関係上,一回の指導で4字しか指導できなかっ. 書字できない際に筆者にヒントを求めてくること. た3,12,13回目は1問誤答で正答率75%を示し. が増えた。その際には筆者が作成した漢字の分解. ている。指導回数が増えていくにつれて,漢字を. の仕方が書かれた教材を用いて,分解の仕方を確. 書字できない際に分解の仕方を確認したいと筆者. 認し,マスの中に書字するようにした。. に伝えてくることが増えた。. ③遅延再生2の結果. 3)遅延再生2の結果. 指導2週間後に行った遅延再生2の結果を. 遅延再生2の正答率は90%となっている。その. Table 9に示す。. 際には,前回間違ったところに気をつけて書字し たり,分解の仕方を口に出しながら書字したりす. Table 9 遅延再生2の反応数と割合 正誤 正答 誤答 空欄 形象 配置 要素 過不足 微細 音韻 一部 その他 合計. 反応数 65 7 2 0 0 0 0 1 0 4 0 72. 割合(内訳) 90% 10% (3%) (0%) (0%) (0%) (0%) (1%) (0%) (6%) (0%) 100%. 遅延再生2では,指導漢字72字のうち,65字正 答で90%の正答率となっている。書字エラーとし て最も多かったのは,「一部」の書字エラーで,. る様子が見られた。 ④遅延再生2で正答した漢字と誤答した漢字 遅延再生2で正答した漢字と誤答した漢字を Table 10に示す。 Table 10 正答した漢字と誤答した漢字 正答. 誤答. 老 辺 以 好 札 令 完 付 功 加. 求 候 康 祝. 初 改 共 仲 労 臣 希 望 児 末 帯 衣 周 固 差 挙 健 利 努 灯 別 芽 官 念 例 季 果 底 冷 卒 材 牧 法 城 松 省 栄 勇 浅 残 害 郡 席 案 訓 孫 徒 倉 笑 清. 径 的 連. 副 票 菜 機 典. 4字である。次いで「空欄」エラーが2字となっ ている。 「形象」, 「配置」, 「要素」, 「過不足」, 「音. 遅延再生2では,指導漢字全72字のうち,正答. 韻」のエラーは出なかった。遅延再生2では,漢. が65字,誤答が7字であった。習得できた漢字で. 字を書字した後に,分解の仕方を解答用紙の空い. は,「械」や「差」などを除き,ほとんどの漢字. ているスペースに書き出す様子や,わからなかっ. を3つ以内の構成要素に分解していた。「菜」,. た際に筆者に分解の仕方を確認したいと伝えてく. 「清」などの画数の多い漢字でも正しく書字する. る様子が見られた。. ことができていた。. 1)直後再生の結果. ⑵ 指導Ⅱ期. 指導全15回において,直後再生では全問正解し,. ①直後再生の結果. 109.
(9) 五十嵐靖夫・森川 佳奈. 指導直後に行った直後再生の結果をTable 11に. 訳としては「空欄」が4字,「要素」が1字,「微. 示す。. 細」が1字, 「一部」が6字であった。書字エラー Table 11 直後再生の反応数と割合 正誤. 反応数. 正答 誤答 空欄 形象 配置 要素 過不足 微細 音韻 一部 その他 合計. 35 3 1 0 0 0 1 1 0 0 0 38. 割合(内訳) 92% 8% (2.7%) (0%) (0%) (0%) (2.7%) (2.7%) (0%) (0%) (0%) 100%. としてもっとも多かったのは,「一部」の6字で ある。遅延再生1では,なかなか思い出すことが できずに筆者に分解の仕方を確認したいと伝えて きて「空欄」エラーになったものや,部首等の一 部のみが書字できた「一部」エラーが目立った。 指導Ⅱ期に入り,B児が漢字を書けないと感じて から筆者に分解の仕方を確認したいと伝えてくる までの時間が短くなったように感じられる。 ③遅延再生2の結果. 指導全8回で,「空欄」,「過不足」,「微細」の. 指導2週間後に行った遅延再生2の結果を. 書字エラーが表れた。正答率は92%となってい. Table 13に示す。. る。書字エラーの内訳としては, 「空欄」が1字, 「過不足」が1字,「微細」が1字であった。分 解の仕方が複雑な漢字「承」が問題で出てきた際 には, 「この漢字が最初に出てきてよかった。」と 発言し,早々と書字する様子が見られた。しばら く考え込んで思い出そうとする漢字もあったが, そのような際には最終的に自分の力で思い出すこ とができていた。指導Ⅱ期の直後再生では,指導 Ⅰ期では見られなかった漢字細部の書字エラーが. Table 13 遅延再生2の反応数と割合 正誤 正答 誤答 空欄 形象 配置 要素 過不足 微細 音韻 一部 その他 合計. 反応数 28 10 1 0 0 3 0 0 0 5 1 38. 割合(内訳) 73% 27% (3%) (0%) (0%) (8%) (0%) (0%) (0%) (13%) (3%) 100%. 5.4%を占めるという結果になった。 遅延再生2では,指導漢字34字のうち,28字正 ②遅延再生1の結果. 答で73%の正答率となっている。書字エラーの内. 指導1週間後に行った遅延再生1の結果を. 訳としては, 「空欄」が1字, 「要素」が3字, 「一. Table 12に示す。. 部」が5字,「その他」が1字であった。遅延再 生2でも部首等の一部分のみが書字できない「一. Table 12 遅延再生1の反応数と割合 正誤 正答 誤答 空欄 形象 配置 要素 過不足 微細 音韻 一部 その他 合計. 反応数 26 12 4 0 0 1 0 1 0 6 0 38. 割合(内訳) 67% 33% (11%) (0%) (0%) (3%) (0%) (3%) (0%) (16%) (0%) 100%. 部」エラーが多かった。遅延再生2でも,問題用 紙を提示するとスラスラと書字する様子が見られ た。マスの中に書字が収まらない様子が見られた 際には,消しゴムで消してから,書き直すよう求 めた。 ④遅延再生2で正答した漢字と誤答した漢字 遅延再生2で正答した漢字と誤答した漢字 Table 14に示す。. 遅延再生1では,指導漢字38字のうち,26字正. 遅延再生2では,指導漢字全38字のうち、正答. 答で,正答率67%となっている。書字エラーの内. が28字,誤答が10字であった。習得できた漢字の. 110.
(10) 聴覚記憶の強さと継次型方略を活用した漢字書字指導. Table 14 正答した漢字と誤答した漢字 正答 誤答 布 在 属 輸 責 賛 暴 製 任 績 測 居 故 災 均 舌 妻 舎 団 肥 鉱 銅 承 税 銭 酸 液 衛. 検 往 復 犯 墓 編 . 仏 版 預 幹. た。このことから,B児の書字エラーとして多い のは,「空欄」エラーと「一部」エラーであるこ とがわかる。石井ら(2003)は,「空欄」エラーに ついて「誤書字の中でも重度の書字困難を表す」 と述べている。このことからも,B児が漢字を書 かずに空欄のままにすることは漢字書字の大きな. 中には,自分の舌をやけどした経験があると話し. 課題であることがわかる。指導前テストの実施. ていた「舌」や,テレビの天気予報などで見たこ. 中,書くことができなそうな漢字があった時,B. とがあると話していた「暴」という漢字があった。. 児は考えずに,「もういいよ。」と解答用紙を筆者 に渡してくることがあった。また,わからない漢. Ⅳ 考 察. 字があった際,「一部でもいいからわかるところ があったら書いてみよう。」と声を掛けると,鉛. 1.指導前テスト. 筆を動かして一部分でも書字しようとする様子が. 指導前テストは,対象児が「読めて書けない漢. 見られた。以上の書字エラーの結果と指導前テス. 字」を選定するために行った。B児自身が,漢字. トでの児童の様子から,B児が漢字の書字に対し. を書くことを苦手だと感じており,第4学年の漢. て慎重に取り組む性格であることや,「漢字を間. 字を一度にテストすることはB児の負担になると. 違えて書くぐらいなら書かない方がよい。」と考. 考えたため,1回につき,10字を上限にして指導. えている可能性が考えられる。. 前テストを実施した。 ⑶ 漢字書字の特徴 ⑴ 漢字の読みテストの結果とテスト時の対象児 の様子. B児が指導前テスト等で書字をする様子を見て いると次のような様子が見られた。1点目は「筆. 指導前テストの読みでは,全182字中178字を正. 圧が弱いこと」である。筆圧が弱く,何度か重ね. しく読むことができていた。間違えた読みは「唱. て書く様子が見られた。2点目は「書き終わりを. える」 , 「富んだ」,「刷る」,「良い」の4字であっ. 払うような書字が目立つこと」である。書字の際. た。このことから,B児は第4学年の学習漢字の. に,「はね」,「はらい」が長くなっている書字が. 読みは,ほぼ正確にできていることがわかった。. よく見られた。以上の2点が起こる原因として,. また,迷うことなくスラスラと漢字の読みをこな. 「鉛筆に適切な力をかけることができていないこ. していった様子からも,B児は漢字の読みには困. と」,「書字の勢いを抑えることができずに流れで. 難を示していないことがうかがえる。. 漢字を書いてしまっていること」が挙げられ,こ れらはB児の不器用さに起因するものである可能. ⑵ 漢字の書きテストの結果とテスト時の対象児. 性が考えられる。. の様子 書きの指導前テストの結果,正答した漢字は. 2.指導Ⅰ期の指導について. 178字中67字で,正答率37%であった。反応数は. ①音声言語リハーサルについて. 空欄エラー56字,形象エラー3字,要素エラー7. 音声言語リハーサルで分解の仕方を復唱する回. 字,微細エラー3字,音韻エラー5字,一部エラー. 数について指導の最初の回でB児と話し合い,5. 26字となっている。書字エラーの中でも特に,構. 回復唱することに決めた。Ⅰ期の指導では,すべ. 成要素の一部は正しく書けたが,他の構成要素が. ての漢字で5回復唱することができており,復唱. 何も書かれていない「一部」エラーが26字と多かっ. することを嫌がる様子は見られなかった。B児自. 111.
(11) 五十嵐靖夫・森川 佳奈. 身も何回復唱したか数えながら復唱を行ってお. いているところに漢字の書字を試す行動が見られ. り,5回行うということを意識しながら音声言語. た。佐々木・渡辺(1983)は,空書行動の出現と. リハーサルを行うことができていたことから,音. 機能についての研究の中で,空中に書字するより. 声言語リハーサルで分解の仕方を復唱すること. も紙面に空書する方が文字想起を促すことを報告. は,B児にとって大きな負担がなく実施できるも. している。本研究の中で,B児が自身の指を使っ. のであると考えられる。しかし,構成要素に分解. て空書をすることは無かったが,構成要素再生課. する際と同様に,指導の回数を重ねていくにつれ. 題,直後再生,遅延再生1,遅延再生2において. て立ち歩きながら復唱する様子も見られたことか. 自分の手で書字(筋運動的表象)を繰り返したこ. ら,復唱することに集中していない場面もあった. とが漢字を想起する手がかりとなり,問題用紙に. 可能性が考えられる。. 書字を試みるという行動につながった可能性が考 えられる。佐々木・渡辺(1983)は空書行動の機. ②構成要素再生課題について. 能についての実験から,課題解決の際にすべりの. 指導を開始してまもなく,B児から問題を裏返. 良い白紙上に指で書字する群(紙上空書群)の方. しにして提示してほしいと要望があった。B児に. が,空書をしない群(空書禁止群)や書字面のな. なぜ裏返して提示してほしいのか尋ねると,「裏. い空中への空書行動を求めた群(空書群)よりも. 返してすぐじゃ意味がないと思った。 」と答えて. 平均正答漢字数が多かったことを指摘している。. おり,課題に意欲的に取り組めていたと思われ. 紙上への空書が想起を促す可能性があることか. る。筆者が構成要素再生課題の用紙を裏返しに提. ら,B児の指導においても指を使って紙上に空書. 示し,B児が用紙をひっくり返して問題に取り組. する感覚を利用した指導が有効である可能性が考. むことによって,音声言語リハーサルをした言葉. えられる。. を頭の中で復唱したり,足りない構成要素に注目 しやすくなったりし,集中して取り組むことがで. ④指導Ⅰ期の書字エラーの推移. きたと考えられる。野崎・市川(1997)は,漢字. 遅延再生1と遅延再生2で同じ間違いをしてい. のような複雑な図形的要素を数多く含んでいる文. るのは,「求」「候」「径」「連」の4字である。そ. 字について, 「筋運動感覚的な表象がその記憶の. のうち,3つ以上の構成要素に分解した漢字は. 一助となることが示唆される」と述べていること. 「求」「候」「径」である。3つ以上の構成要素に. から,構成要素再生課題においても,B児が実際. 分解した漢字でエラーが残ったことから,一つの. に自分の手で書字を行うことによって,漢字の記. 漢字について,3つ以上の構成要素に分解すると. 銘が促された可能性が考えられる。. 思い出しにくくなる可能性や,一つ一つの構成要. また,構成要素再生課題では,3画以上の構成. 素に対する情報量が多くなると記憶されにくくな. 要素の書字を行ったが,B児はすぐに構成要素を. る可能性が考えられる。また,B児自身が「求」. 補って書字することができていたことから,構成. を分解する際に,「分解しにくい漢字だね。」と発. 要素再生課題はB児にとって負担がほとんどなく. 言していたことから,無理やり分解したために構. 実施できるものであり,一部の構成要素をもとに. 成要素や配置などがばらばらになり,記憶されに. 漢字の全体像を想起しやすくなった可能性が考え. くくなってしまったことが推測される。また,遅. られる。. 延再生時に「連」を「速」,「祝」の偏を「しめす 偏」にするか「ころも偏」にするか迷っている様. ③指導Ⅰ期全体を通して. 子が見られたことから,形の似ている漢字や既習. 遅延再生1と遅延再生2では,思い出せなかっ. の漢字の影響を受けてしまい,書字エラーにつな. たり迷ったりしている漢字があると問題用紙の空. がっている可能性も考えられる。. 112.
(12) 聴覚記憶の強さと継次型方略を活用した漢字書字指導. 2.指導Ⅱ期の指導について. ことから,なじみのない部首を分解に用いるとあ. ①音声言語リハーサルについて. まり効果が期待できないこと,B児が知っている. 指導Ⅱ期の音声言語リハーサルについては,指. 構成要素を用いて分解を行うことの必要性が示唆. 導Ⅰ期と同様の流れで実施したため,復唱を嫌. された。. がったり,復唱回数についてB児から変更してほ しいと要求してきたりすることはなかった。復唱. ③指導Ⅱ期の書字エラーの推移について. しながら立ち歩く様子が見られた際に,筆者から. 直後再生では,「微細」や「過不足」などの細. B児に対して「繰り返す回数が5回で多いのな. 部のエラーが表れたのに対し,遅延再生時には「一. ら,3回にしようか。」と声を掛けたことがあっ. 部」(「往」の「行人偏」のみ,「犯」の「わく」. たが,B児は5回復唱すると筆者に伝えてきた。. のみを書字など)の書字エラーが目立った。また,. このことから,5回という復唱回数はB児にとっ. 直後再生,遅延再生1,遅延再生2のすべてで誤. て指導Ⅰ期から取り組んできている約束事のよう. 答するという漢字が存在した。これは既習の漢字. なものであり,なんとか5回復唱しようと考えて. を取り扱った指導Ⅰ期では見られなかったことで. いることが推測される。このようなB児の様子か. あり,未修得漢字の学習特有のものであると言え. ら,5回という復唱回数はB児にとって適切な回. る。これらが起こった要因として,印象に残りや. 数であり,あまり負担にならずに実施できている. すい部首に注目が行き過ぎてしまった可能性が考. ものであると推測される。. えられる。指導Ⅱ期の遅延再生2で,正答率が 73%に留まったことから,未修得の漢字について. ②指導Ⅰ期との違い. は遅延再生時に書字エラーが残るという課題が. 指導Ⅱ期では漢字の分解の仕方を筆者から提示. 残った。. することとした。筆者から分解の仕方を提示する ようになったことで,B児は分解の仕方を考える 負担が少なくなったと思われる。しかし,指導Ⅰ 期に比べ,B児が指導漢字を注視している時間が 短くなったように感じた。直後再生においても,. Ⅴ 今後の展望 ⑴ 部首を用いた分解や,分解する構成要素につ いて. 「微細」や「過不足」のエラーが出たことからも,. 本研究では,指導Ⅰ期でB児自身に分解の仕方. 漢字の細かい部分を十分に捉えきることができな. を考えさせ,指導Ⅱ期では,分解の仕方を筆者か. かったために,細部の書字エラーに繋がった可能. ら提示した。指導Ⅱ期の指導において,B児に. 性があると考えられる。筆者が分解の仕方を提示. とってあまりなじみのない部首や構成要素を用い. する際には,漢字を捉えやすいよう,部首名を用. て分解の仕方を確認すると,遅延再生時に書字エ. いて分解を行うことを意識した。これは指導Ⅰ期. ラーが多く残った。このことから,対象児にとっ. でB児に漢字の分解の仕方を考えさせた際,部首. てなじみのない部首や構成要素を用いて分解を行. を用いて分解する様子が頻繁に見られたことや部. うと構成要素等の情報が記憶されにくくなってし. 首名を正しく言うことができていたりする様子か. まう可能性が考えられた。そのため,筆者から分. らこのような指導を取り入れた。その結果,B児. 解の仕方を提示する場合には,対象児が知ってい. は分解の仕方を受け入れ,スムーズに音声言語リ. る構成要素を用いて分解を行うことが必要である. ハーサルに移ることができていたように感じられ. と考えられ,対象児の知っているもので分解を行. た。しかし,あまりなじみのない「しかばね」や. うための指導法をさらに検討していく必要がある。. 「けもの偏」などの部首を使用した際には,遅延. 分解に用いる部首や構成要素の名称などを学習. 再生時に書字できていない様子が見られた。この. してから,漢字指導に移るのであれば,部首や構. 113.
(13) 五十嵐靖夫・森川 佳奈. 成要素が記憶されにくいことが原因で漢字を思い 出せないようなことはなくなると考えられる。し. Ⅵ 謝 辞. かし,部首や構成要素は多く存在するため,教え. 本研究の実施にあたり,ご協力いただいたBさ. ていく優先順位を考えることや,新しく部首や構. んと保護者の方に記してお礼を申し上げます。. 成要素の名称を覚えることによる対象児への負担 を考慮していく必要性などが考えられる。 ⑵ 漢字を言語化する指導の可能性について 指導中に指導漢字に関して,B児が自身の経験 を話すことが何度か見られた。具体的には,「賛」 の漢字の指導の際に,音声言語リハーサル,構成. Ⅶ 引用文献 1)青木真純・勝二博亮(2008) :聴覚優位で書字運動に 困難を示す発達障害児への漢字学習支援,特殊教育学 研究,第46巻,第3号,pp.193-200. 2)藤田和弘・青山真二・熊谷恵子(1998) :長所活用型 指導で子どもが変わる-認知処理様式を活かす国語・. 要素再生課題に加えて, 「夫が二人と貝と書くん. 算数・作業学習の指導方略-,図書文化社,pp.14-17.. だね。 」と聴覚法を用いて漢字を捉えたこと, 「舌」. 3)藤吉明江・宇野彰・川崎聡大・田口智子・春原則. という漢字の指導の際に「前にストローで熱い飲 み物を飲んだら,舌をやけどしたよ。」と漢字と. 子・福島邦博(2010) :漢字書字困難児における方法別 の書字訓練効果-単語属性条件を統制した単語群を用 いた検討-,音声言語医学,第51巻,pp.12-18.. 自身の経験を結びつけて話す様子が見られた。こ. 4)舟橋宏紀・村瀬忍(2008) :漢字の習得に困難のある. の2字について遅延再生時に書字エラーが表れな. 児童への漢字書字教材の検討,岐阜教育大学教育学部. かったことから,聴覚法や,漢字をストーリー化 して覚える方法がB児にとって有効である可能性 が示唆された。春原ら(2005)は,音韻認識力, 視覚的認知,視覚的記憶力に低下が見られる発達 性読み書き障害児3名を対象に,視覚法と聴覚法. 研究報告人文科学,第57巻,第1号,pp.209-219. 5)春原則子・宇野彰・金子真人(2005) :発達性読み書 き障害児における実験的漢字書字訓練-認知機能特性 に基づいた訓練方法の効果-,音声言語医学,第46巻, pp.10-15. 6)池田和博(2013):日本版KABC-Ⅱマニュアル,丸 善出版,pp.161-163.. の訓練効果の検討を行った。その結果,音声言語. 7)石井麻衣・雲井未歓・小池敏英(2003) :学習障害児. の記憶力が良好である場合には,見て写しながら. における漢字書字の特徴-誤書字と情報処理過程の誤. 覚えるだけでは十分に漢字書字が獲得できず,聴. りとの関係について-,LD研究,第12巻,第3号,. 覚法が有効なルートとして機能した可能性がある ことを明らかにした。また,藤吉ら(2010)は漢 字書字に困難を示す8歳の男児に対し,視覚法と 聴覚法の訓練方法の検討を行い,聴覚法が視覚法 に比べて正答率と維持率に関して有意に高い結果 が得られたことを明らかにした。また,音声言語 化したことが,形態認知を助け,捉えた形を保持 することにも有効であった可能性を指摘してい る。このことから,聴覚法で漢字を捉える指導法. pp.333-343. 8)川村修弘・三浦光哉(2012) :書字障害と疑われる小 3男児に対する通級指導教室での漢字指導,K-ABCア セスメント研究,第14巻,pp.19-29. 9) 教 育 出 版(2015): ひ ろ が る 言 葉 小 学 国 語 5 下, pp.92-119,pp.157-160. 10)三浦光哉,布澤春爛(2009) :認知処理様式の特性を 活かしたLD児への漢字指導,宮城教育大学特別支援教 育総合研究センター研究紀要,第4巻,pp.17-29. 11)宮下久夫(1989) :漢字の組立を教える,太郎次郎社. 12)望月美佳(2001) :自信を無くしている子の漢字指 導,K-ABCアセスメント研究,第3巻,pp.33-40.. を用いることで,聴覚的な記憶力の強さを活用し. 13)野崎浩成・市川伸一(1997) :漢字学習支援システム. ながら,負担が少なく漢字を覚えることが可能に. の開発 漢字の構造理解と筋運動感覚の獲得,日本教. なるのではないかと思われる。. 育工学雑誌,第21巻,第1号,pp.25-35. 14)岡本邦広(2014) :漢字書字に困難のある児童生徒の 指導に関する研究動向,国立特別支援教育総合研究所 研究紀要,第41巻,pp.63-74. 15)小野純平・小林玄・原伸生・東原文子・星井純子. 114.
(14) 聴覚記憶の強さと継次型方略を活用した漢字書字指導. (2017):日本版KABC-Ⅱによる解釈の進め方と実践 事例,丸善出版,pp.17-21. 16)佐囲東彰(2009):アスペルガー症候群を有し漢字習 得に困難がある児童への書字指導-継次処理能力と同 時処理方略の有効性の検討-,上越教育大学学校教育 センター教育実践研究,第19巻,pp.195-200. 17)佐々木正人・渡辺章(1983):「空書」行動の出現と 機能-表象の運動感覚的な成分について-,教育心理 学研究,第31巻,第4号,pp.273-282. 18)佐藤曉(1997):構成行為および視覚的記憶に困難を 示す学習障害児における漢字の書字指導と学習過程の 検討,特殊教育学研究,第34巻,第5号,pp.23-28. 19)総合初等教育研究所(2005):教育漢字の読み・書き の習得に関する調査と研究,総合初等教育研究所, pp.1-10. 20)田中栄美子・惠羅修吉・馬場広充(2010):小学生に おける読み書き困難の主訴とWISC-Ⅲの関連性-読み 書き困難の主訴の有無による比較-,LD研究,第19巻, 第2号,pp.167-173. 21) 上 野 一 彦(2000): 学 級 担 任 の た め の L D 指 導 Q&A,教育出版,pp.57-68.. . (五十嵐靖夫 函館校教授) . . (森川 佳奈 函館校大学生). 115.
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奥付の記載が西暦の場合にも、一貫性を考えて、 []付きで元号を付した。また、奥付等の数
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