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小学校教員養成課程における音楽指導力向上のためのプログラム開発に関する研究 -実演家と大学教員との連携による教授・学習方法を考える-

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(1)Title. 小学校教員養成課程における音楽指導力向上のためのプログラム開発に 関する研究 −実演家と大学教員との連携による教授・学習方法を考える −. Author(s). 中西, 紗織. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第44号: 69-78. Issue Date. 2012-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/6868. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第44号(平成24年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.44(2012):69-78. 小学校教員養成課程における音楽指導力向上のための プログラム開発に関する研究 -実演家と大学教員との連携による教授・学習方法を考える- 中 西 紗 織 北海道教育大学釧路校音楽教育講座. Developing Programs for Improvement of Teaching Skills of Music in Elementary School Teacher Training: Searching Ways of Teaching and Learning by Collaboration of Performers and University Teachers Saori NAKANISHI Department of Music Education, Hokkaido University of Education, Kushiro Campus. 要 旨 本研究は,大学の小学校教員養成課程において教員を目指す学生が,小学校音楽科の目標を長い視野で展望し将来音楽 の授業で十分な指導力を発揮できる音楽指導力を身につけるためのプログラム開発を目的とする。研究をすすめるため に,実演家(今回は声楽家と作曲家)と大学教員が連携して集中的体験講座を行った。今回の体験講座で,実演家がその 専門分野について学生に直接指導するだけではなく,実演家のフィールドを学生が訪れることによって学びが深まること や実演家と大学教員の連携によって学生の音楽指導への視野がさらに広がることが確認された。実演家と大学教員の連携 のあり方も引き続き考え直していきたい。. はじめに. 楽師とその能楽師の「わざ」の世界をさしている。「本物」. 小学校学習指導要領音楽編には音楽科の目標として「表. に学ぶ,または「本物」を学ぶでもない。「本物」の中で. 現及び鑑賞の活動を通して,音楽を愛好する心情と音楽に. 学ぶとは,能の要素を断片的に扱った「流れ」のない学び. 対する感性を育てるとともに,音楽活動の基礎的な能力を. ではなく, 「流れ」の継承を含んだ能の本質の学びへの基. 培い,豊かな情操を養う」と記されている。本研究は,小. 盤が形成されることにつながる。このような学びの捉え方. 学校教育養成課程において将来教員を目指す学生たちが,. は,「本物」として「本物」の「流れ」を伝えている音楽. この目標を長い視野で展望することができるようなプログ. の実演家による教授・学習の場合にもあてはまるのではな. ラムを開発していくことを目的としている。. いか。本研究の出発点はここにある。. 1). これまでに筆者は,能において「わざ」 がどのように. 大学の教員養成課程における音楽の実技に関する指導で. 習得されていくのかということについて,そのプロセスの. は,声楽や器楽が主要なものであり,例えば,歌やピアノ. 2). 図式化と「流れ」 という概念による説明を試み,成人を. の技術習得に関することに集中して取り上げることが多. 対象とした能の学習プログラム試案を作成した(中西 . い。筆者は,音楽の実技をもっと総合的な能力として捉え. 2008)。そこからある程度かたちになってきたものを音楽. て,歌であればオペラという芝居の中で歌がどのような意. 教育の場にどのように生かしていくことができるかという. 味をもってどのように表現されるかということや,芝居の. ことを考え続けており,これまでの研究から,能の体験学. 中の声の表現でも日本の能における謡はどのように表現さ. 習実施にあたって次の二つの視点を重視すべきであるとい. れるかというようなことを考慮した上で,音楽実技の表現. う方向性を見出した。. の多様性を捉え直したいと考えている。そこで,本研究で. . は「音楽」と「身体」を合わせた多様な表現能力を身につ. ・「本物」の中で学ぶこと. けた存在として「実演家」と呼ぶ。. ・「流れ」を重視すること. 音楽の実技は,単に楽器や声による演奏に限ったことで はなく,音楽に自然に反応する身体の表現(舞踊・芸能・. 能の学習において「本物」とはプロフェッショナルな能. 演技など)にも深く関連する。 (ここではこれらのことを. - 69 -.

(3) 中 西 紗 織 ひとまず「身体表現」と呼んでおく。 )小学校において音. たう」といっても,「歌う」「謡う」「唄う」「詠う」のよう. 楽科の授業を行う場合,教師の音楽経験や学校教育という. に様々な「うたう」があるので,ワークショップの中で用. 時間や場所の制限のために,そこに「本物」の中で学ぶ環. いたいくつかの語については漢字を用いず,「ウタ」 「カラ. 境をつくりだすのは困難なことかもしれない。本研究は,. ダ」「コトバ」といった表記をする。. 小学校教育養成課程において,音楽や身体表現の教授・学 習方法のあり方のさまざまな可能性を探り,それをどのよ. カラダの音色(ねいろ),命の景色. うに教育の場に生かせるかということを考えていくもので. 「声」って何だろう?声とコトバとカラダとウタと「わ. ある。そのために,実演家と大学教員が協力連携してプロ. たし」と「あなた」はどんな風につながって,どんな風. グラム開発への方策を探りたいと考えている。. に伝え合う?. 2012年2月,海外の大学でも指導経験があり幅広い芸術. 〈講座の概要〉. 分野で活躍中の声楽家のきむらみか氏と,ピアニストとし. 音楽指導力向上のためのレクチャー&ワークショップで. ても活躍し特に歌曲と邦楽器の分野で活発な創作活動を. す。幅広い分野でご活躍の二人の先生方をお招きして,. 行っている作曲家高橋久美子氏を実演家(講師)として北. 講義や演奏を聴いたり体験したりしながら,声や身体に. 海道教育大学釧路校に招き,2日間の集中的体験講座(レ. よる表現や音楽創りについて学びます。. クチャー&ワークショップ,以下ワークショップ)を行っ た。学生8名,教員3名(筆者を含む)合計11名(1日だ. 実施日時,場所,参加者については次の通りである。実. けの参加者もあり)が参加し,声楽家と作曲家から直接指. 際に行った活動内容や講座の流れについては表1に示す。. 導を受けた。 3月には, 4名の学生が実演家のフィールド, 即ちきむら氏のレッスン場,高橋氏の作品発表のコンサー. 指導者:きむらみか,高橋久美子. ト会場を訪れた。きむら氏からは,声・息・身体を意識し. 受講者:北海道教育大学釧路校の学生計8名。3年生2名. たレッスンを受け,作曲家の作品発表コンサートはゲネプ. (男女),4年生6名(男2名,女4名)。8名中6名は音. ロから見学し, コンサート終了までのプロセスを体験した。. 楽研究室所属。そのうち5名は実演家による能の一日体験. 本稿では,研究をすすめるために行ったこのワークショ. 講座参加者であり,さらにそのうち4名と実演家による講. プの一部を紹介する。そして,そこで観察された活動の意. 座を受講していない1名は,筆者による能の謡の体験講座. 義や効果,参加者の体験がどのように音楽指導力に結びつ. を受講している。教員3名(男2名,女1名(筆者) ) 。. くかということについて分析,考察する。. 実施日時:2012年2月16日(木),17日(金). . 10:40 ~ 12:10,13:00 ~ 16:30頃(両日とも). 1.ワークショップについて. 実施場所:北海道教育大学釧路校 研究棟B B707演奏室. ワークショップ実施に先だって,筆者は,きむら氏,高 橋氏と三人で事前打ち合わせを行い,学生の状況や音楽に. 次に,2日間のワークショップにおいて,音楽指導力向. 関する知識や実技の習得程度を伝えた。受講学生のうち音. 上につながると思われる,特に重要な場面をいくつか取り. 楽研究室の6名は,筆者の指導でピアノの個人レッスンと. 上げ,考察を加える。. 能の謡の集中体験講座を受けており, 「身体」を通してわ かっていくというプロセスや人から人へ伝えるとうい視 点,声による表現の多様性,文化としての音楽への理解を 深めつつある。そのような状況からさらに学びが深まり発 展していくことを目指して,今回は, 「声」 「イキ」 「ウタ」 「カラダ」 「コトバ」 「音」 「音楽」 「伝える」等を実演家と 大学教員共通の鍵概念として,うたうこととつくることの あいだを行ったり来たりできる活動を考え,ワークショッ プ全体の計画を立てた。 1-1 大学でのワークショップ 受講生向けの案内(資料1)には「講師プロフィール」 の他に,下記のような講座タイトル「カラダの音色,命の 景色」(きむら氏の提案)や講座概要を記した。ここには あまり具体的なことは示さずに,実際のワークショップの 活動においてうたったり,楽器を演奏したり,表現したり する中で,指導する側も含めて参加者全員で何かをつくり あげていくことを意図した。なお,本稿では,例えは, 「う. - 70 -.

(4) 小学校教員養成課程における音楽指導力向上のためのプログラム開発に関する研究 資料1 ワークショップ案内. 表1 ワークショップ実施概要と全体の流れ 1 10:40 ~ 12:10 2 13:00 ~ 14:30 3 14:40 ~ 16:30頃. - 71 -.

(5) 中 西 紗 織 たちが前衛隊になって一緒につくることをしたいんで す。その体験を皆さんと共有したいんです。 集中講義受けたのに,3日目に何もできないと怒らない でください。今日はタネをまくだけ。いつ発芽するかわ からないんです。2日終わっても全然わからないかもし れない。3日目に突然わかるかもしれない。一ヶ月,一 年経ってもわからないかもしれない。先生になって教え ているうちに,あっあのことかって自分の中で確認でき るアイディアがあったら,それは自分のカラダを通して 次の人たちに伝えられますね。具体的には小学生かな。 きむら氏がここで指摘していることは,筆者の能の「わ ざ」習得に関する研究において「型」と呼んでいるものに 重なる考え方である。例えば,2日間の能の体験講座を経 れば,学習者は,なぞってできてくるものをとりあえず再 現することができるようになる。それをきむら氏は「カタ」 と呼んでいるが,これは,目で見てあるいは耳で聴いて具 体的に捉え模倣できるもので,筆者が「形」と呼んでいる ものである。つまりワークショップ冒頭できむら氏が提示 1-2 伝統とは何か. したのは,筆者の概念規定では「型」から「わざ」へと発. 1日目, きむらみか氏が今回のワークショップ冒頭で語っ. 展していく可能性のあるもの,つまりきむら氏の説明では. たことは,伝統とは何か,伝えるとはどういうことかとい. 「タネ」ということになる。この「タネ」は単に音楽の指. うことに関する非常に重要な話だった。以下にその内容の. 導力につながるだけではなく,まわりのいろいろなものや. 一部を記す。. ひととつながりながら「私」が自分のカラダを通して未来 へ受け継いていくものだときむら氏は言う。. きむら:受講生の一部の方々は能の実習をされたりして. カラダを通してわかる,カラダを通して伝えることの重. いますよね。今日も実習をやりますが,違うのは,能に. 要性については,生田久美子(1987,2011)もたびたび強. はカタがあるということを皆さん勉強している。2日間. 調していることである。このような伝統や伝えることの捉. の集中講座を経ればとりあえずカタだけなぞってでき. え方への気づきは,教員養成課程におけるプログラム開発. てくることがある。今日はそうではないんです。私が今. のために基盤となるものである。. 日やろうとしているのは,今あるカタではなくて,カタ は過去から継承するもの。これは伝統の大事な側面で. 1-3 日本語の語感とカラダ. す。伝統に二つの側面があります。過去から継承する。. きむら氏は, 「ハ」の音の体験からコトバとカラダの結. 誰が継承するの?伝統を受け継ぐっていうけれど。. びつきについて次のように語った。. 受講生:私たち?. . きむら:そうですね。そう,他の誰でもなくて私が受け. きむら:のどから出てきた音がどこかで邪魔されること. 継ぐのよね。ということは,私はどこに生きている?. で, 「ア」ではない音になる。一番初めに出てくるその. 受講生:今。. 音がたぶんハ行の音です。 「オーーー」って言っていた. きむら:はい。過去から。今いる私に受け継いで,その. のが,喉頭原音と言って,喉の一番深いところで,響き. 私はどこに向かっていますか?. になって,母音は口の形が変わることで出てくるけれ. 受講生:未来に向かっている。. ど, 「オーーー」って出てきているものが, 「ホーーー」. きむら:未来に向かってどうするんだろう?継承するだ. となるためには,奥で子音をつくっています。一番奥か. けではなくて,今生きている私が未来に向かって私の. ら出てくる子音は,エイチ系の音なんだけれども,ハ。. 人生と一緒に発展させていくものでしょう。発展とは変. アの次に出てくるのはハですよね。. 化させていくことです。同時に自分がつくっていくんで. 他に「ハ」で考えている音はありますか?一音だけでは. す。伝統は(私の)後ろの遠いところにあるのではなく. 何がある?. て,今私たちのところにやってきて,これを受けついだ. 受講生:葉っぱのハ。はしっこの端。刃物の刃。歯。. 私がどうやって別のカタにしていくかという,その責. きむら:はしっこ,断面,エッジです。歯は人間のから. 任があります。今日は,うしろにあるものではなくて,. だの内と外とを分けています。. これからどういうカタをつくっていくか,ここにいる人. 受講生:かじりとったものは取り込まれるという……. - 72 -.

(6) 小学校教員養成課程における音楽指導力向上のためのプログラム開発に関する研究 きむら:そうなんです。食べ物は,ここから前は単なる. 続いて,円形に座った受講者でさまざまなリズム回し遊. モノなんだけれど,ここから中に入ったら栄養になって. びを行った。そのうちの一つは,高橋氏がコンガで拍を刻. かみくだいていく。. むのにのせて,1拍ずつの手拍子を隣の人へ渡していくと. 受講生:消化するっていうことは,かみくだく,理解す. いうものである。ここでのルールは,1拍の中で誰かが1. るって意味ですよね。. 回ではなく「タタタ」と3回手拍子したら,4拍休んでか. きむら:そうです!カミクダクになるとかなり複雑な音. ら再び手拍子を続けていくというものだ。何周かするうち. の組合せになるけれど。 「カム」の「カ」は「ハ」の次. に,隣の人に渡す時に視線を送ったり,カラダごと隣の人. に出てくる子音です。 「カ」になると,舌根,口の奥と. へ手拍子を渡すような動きをしたりする者も出てきた。さ. 軟口蓋がはっきり合わさります。ここで初めてカタチに. らに,休みのところで4拍分うなづいたりカラダで拍を刻. なります。さっきからカタと言っているけれど,「カ」. んだりして,次第に全員のカラダが「ウン・ウン・ウン・. と,舌の先がしっかりあたって「タ」 。カタチにする。. ウン」という間(ま)で同調してくる。これについて高橋. カタイんです。. 氏は次のように述べた。. せっかく「カ」って出てきたのにモヤモヤにすると,例 えば「カユ」。ご飯のおかゆ。あるいは感覚的にもそう. 休符なんだけれど,エネルギーはちゃんとあって,次の. ですよね。 決定的にイタイのではなくて, カユイ。 (中略). 人に渡すエネルギーも発している感じです。結構緊張し. 小学校で皆さんが先生になった時,子どものコトバは音. ますね。みんな,ウン・ウン……って数えている。音は. 楽になっていく,カラダのリズムになっていく,カラダ. 無いんだけれど,音楽がある。そこで数えているみんな. のカタチになっていく。所作があなたの体型をつくりま. の気持ちが共有されているのがはっきりわかるでしょ. す。コトバはカラダを育てます。. う。何も,こんなにこんなに(コンガを激しくたたいた り,カラダを大げさに動かしたりする)しなくても,こ んな簡単なことで音楽づくりは体感できるんです。. カラダとコトバの結びつきについては,斎藤孝(2000) が「からだ言葉」や身体感覚, 「身体知」というコトバによっ て説明している。きむら氏は,音楽の実演家の立場から,. ここで重要なことは,第一に,音の無い間のところも緊. 子どものコトバやカラダと音楽とのつながりについて語っ. 張したエネルギーに溢れていて「流れ」が強く意識されて. ている。この日の受講生の多くもきむら氏の語る語感の話. いること,第二に,人から人へ渡していくその間も含めて,. について強い関心を示し,ある学生は感想文に「 『は』は. すべてが音楽になっているということ,第三に,音楽は発. 『は』で音としてしかとらえていませんでしたが,文字ひ. 信する自分と受け取る相手がいてこそ生まれ出るものであ. とつひとつに意味があって,それをとらえると自然とその. るということを受講者全員が体験したということである。. ような声の出し方になっているのだと,何となくですが,. 佐藤公治は次のように言っている。. 実感することができてとても面白かったです」と書いた。 筆者も同じように感じた。カラダが意識を持ってコトバ. 音楽に限らず美術も含め多くの芸術は芸術家個人が孤. をハナスとき,そのコトバが力や動きをもって伝わってい. 立した世界の中で行っているのではなく,直接,間接. くことを実感させることにつながる体験である。. を問わず他者との関わりの中でそれは生まれている。 (2012,2). 1-4 声,コトバ,音,音楽をつくる 音楽をつくる活動の導入として,高橋氏による音楽の要. 「芸術家」の芸術活動に関することであるが,ごく一般. 素に関するワークショップがあった。. の人間が音楽づくりを行う場合にもあてはまることであ る。高橋氏も指摘する通り「こんな簡単なことで音楽づく. リ ズ ム っ て 何?っ て 聞 か れ た 時 に( パ ン と 手 を た た. りは体感できる」のであり,自分と相手の間に音楽やいろ. く),これはリズムではない。そこでおしまい。でも例. いろなものが生まれてくることをまさに体感できるのは,. えばこれが(タン タタン)となったら,これは,拍子. このようなワークショップの意義であるといえよう。. は別として,リズムですよね。 (中略). 次に,音楽にのせて,意味をなさない音の声(例えば,. 次に,リズムの中の拍や拍子。今日は音楽を通してコ. プ・ボなど)やカラダの動きも取り入れて即興的なウタを. ミュニケーションをとることが目的なので,学校の音楽. つくった。受講者はワークショップ会場となっている演奏. の勉強のようなやり方ではなくて。 「いち」 で強く, 「に」. 室の中を歩き回り,ウタっていくうちに,お互いに自然に. 「さん」が弱く(手拍子)で隣の人にまわしてみよう。. 同調したり反駁したりという場面ができた。. これが拍子です。ただ三つずつ並んでいたら単なる拍。. これについては,2日目にきむら氏が以下のように説明. でも,あるところにアクセントがあって,ずっと持続さ. した。. れていく,これが拍子。. 高橋先生がやったことは,わずかな規則をつくりなが. . - 73 -.

(7) 中 西 紗 織 ら,つまり規則はカタなんですけれど,簡単なカタをつ くって,それを皆さんを通して,カタがわかったなとい う頃に即興が始まりました。あれは皆さんがつくってい る新しい音楽なので, 未来に向かっていくものです。 (中 略) カタはこわすためにある。規則,校則っていうのがあ るでしょう。私,中学生の頃に,なにを言ったかって いうと規則は破るためにあると。心理学的にもそうな んだけれど,そのためには規則をまず勉強しないといけ ない。規則さえ守っていればあとはその外で何をして も自由なの。でも規則,初めのルールを決めておかなけ れば,そもそも破りようがない。自由はないんですよ。 昨日だってそうでしょう。実はカタをやっていたのね。 写真1 ウタと伴奏のカタの学習. ちょっとずつちょっとずつ。 ただ大事なことはカタで終わってほしくない。今言った ように破るためにあるから,必ずそこを見据えてその先 へ行くためにカタを勉強しているんだって,そのことを 忘れたくないなって私は思う。 音楽をつくる,作曲することにつなげるためには,まず カタからという示唆的なコトバであり,筆者の研究におけ る能の「わざ」の習得過程とも重なってくる。きむら氏に よると,歌唱共通教材の弾き歌いを今回の内容に入れたの も,ウタと伴奏のカタを学ぶためだという(写真1)。音 楽をつくることの意味や効果について,指導する側が明確 な展望を持っていないと, 「音楽づくり」の意味が希薄に なってしまう。このことは音楽を指導する上で指導者がき ちんと把握しておかなくてはならないことである。高橋氏 が示してくれた活動ときむら氏の説明は,学生たちにとっ. 写真2 小鼓のチ・タ・プ・ポで対話する. ても非常に示唆的で印象的だったようで,カタと自由とい うことについて,今まであまり考えたことがなかったが意. 2.実演家のフィールド訪問. 識していかなくてはというような内容のコメントも見られ. 大学でのワークショップを受けた学生4名が実演家の. た。. フィールドを訪問し,次のような活動を行った。. 1-5 ショウガとカラダ. 2-1 きむらみか氏のレッスン場でのグループレッスン. 小鼓のショウガ「チ・タ・プ・ポ」を実際に小鼓を打ち. 指導者:きむらみか. ながら体験した時,向き合った二人がまるで対話している. 受講者:北海道教育大学釧路校音楽研究室の4年生4名(男. ようになった(写真2) 。出発点は楽器のショウガである. 子1名,女子3名)。. が,ショウガを楽器の「コトバ」と解釈すると,創作とい. 実施日時:2012年3月2日(金)14:00 ~ 16:00. う視点からこれは非常に興味深い活動だと考えられる。つ. 実施場所:沙羅舎(東京都三鷹市下連雀). まり,私たちにとっては意味のない(と思える)コトバで. 内容:①野口体操のぶらさげ,しりたたき,②コンコーネ. も,その音や感覚によって自然とカラダが反応して,表現. 第5番,③ロッシーニ《猫のデュエット》,④小学校の歌唱. するカラダが立ち現れるという現象である。これは,高橋. 共通教材「春がきた」 ,⑤声帯の動く仕組みを模型によっ. 氏が現代曲においてウタの一部としてショウガを取り入れ. て理解する. て作曲したことにもつながってくる(ワークショップにお いては《月に聲澄む》の一部を聴いた) 。このことについ. 4人とも1年生の時に授業で野口体操を体験している。. ては,機会をあらためて追究したい。. 今回は,声を出す,ウタをウタうためという視点からの脱 力やカラダほぐしは新たな体験であり,あらためてカラダ の緊張を解くのに役立つ体操であることを全員実感したと いうコメントが見られた。ある学生は「野口体操の脱力は,. - 74 -.

(8) 小学校教員養成課程における音楽指導力向上のためのプログラム開発に関する研究 声を楽に出すためにとても役に立つことを知ることができ. 三味線独奏:杵家七三 独唱:青山恵子(客演) (客演指. た」と書いている。またもう一人の学生はレポートの中で. 揮:苫米地英一). 次のように述べている。 高橋氏が所属する日本音楽集団は1964年創立。伝統的な 木村先生のレッスンでは,他の受講生の方とご一緒させ. 日本の楽器である箏・尺八・三味線・琵琶・小鼓・笙・篳. ていただいた。小学校の先生も受講しており,音楽と身. 篥などによる和楽器オーケストラである。 現在では定期. 体の関連について義務教育の現場においても重要視さ. 演奏会を中心に,全国各地での公演や学校での音楽鑑賞. れていると考えることができる。野口体操も行い,自. 会,録音・放送・映画・演劇等さまざまな分野で演奏活動. 分が大学1年で学んだこととリンクさせることができ. を行い,世界各地で演奏活動を行ったり,海外のオーケス. た。これも小学校音楽ではなかなか取り上げられずにい. トラや音楽家と共演している。文化庁芸術祭大賞,第2回. ると考えられる。しかし,体育や休み時間の遊びのよう. 音楽之友社賞,レミー・マタン音楽賞をはじめ,様々な賞. に音楽もまた身体を通して表現することを考えると,子. を受賞。(以上,日本音楽集団HPより抜粋 http://www.promusica.or.jp/index.html). どもたちにしっかりと音楽と体をリンクさせることの. 学生たちは,第205回定期演奏会のゲネプロから本番ま. 大切さを伝えたいと思った。. でを見学させていただき,普段なかなか目にすることのな この学生はまた,語感やコトバをカラダと結びつけて捉. い邦楽器も間近に見る機会に恵まれた(写真3,4). えることの重要性についてもふれていた。大学でのワーク ショップの体験をふまえて,再びこの時「春がきた」をウ タって,「ハ」が「始まり」や「破」という物事の発端に なる音であることを再認識して,音楽の表現も変わったと 言っている。学習者が繰り返し体験して,さまざまな学び をつなげていくことの重要性も確認することができる。 また,呼気圧によって声帯が震動する動きを再現した模 型は,声が出る仕組みを説明する上で大変わかりやすいも のである。子どもに説明する際に,自分でもつくってみた いという感想も聞かれた。 2-2 高橋久美子氏の作品発表のコンサート 日本音楽集団第205回定期演奏会 日時: 2012年3月4日(日)15:00開演 写真3 ゲネプロの舞台袖. 会場:津田ホール(東京千駄ヶ谷) 孤と群 ~協奏曲特集~ 【 1】 シ ャ コ ン ヌ ~ 邦 楽 器 の た め の ~( 安 達 元 彦 / 1971) Chaconne - for Japanese Instruments 篳篥独奏:西原祐二 (指揮:田村拓男) 【2】尺八協奏曲~ 風の歌を聴け (川崎絵都夫/ 2010) Shakuhachi Concerto "Hear the Wind Sing" 尺八独奏:元永拓 (客演指揮:苫米地英一) 【3】琵琶協奏曲~ 祇園精舎 (秋岸寛久/ 2005) 琵琶独奏:久保田晶子 (指揮:稲田康) 【4】箏協奏曲~ 挿頭花ーかざしー (高橋久美子/委嘱 初演) Concerto for Koto and Japanese String Instruments: "Kazashi". 写真4 客席からのゲネプロ見学. 箏独奏:桜井智永 【5】 三味線と声のための協奏曲 ~江戸小咄へのオマー ジュ~ (福嶋頼秀/委嘱初演) Syamisen and Vocal Concerto,Hommage for Edo Comic Tale. - 75 -.

(9) 中 西 紗 織 2-3 実演家のフィールド訪問を体験した受講生のコメ ントやレポートより. この講座を受講した学生からは,能の謡について大きく 分けて次の三つのことに関するコメントが顕著だった。. 紙幅の都合により一部しか取り上げることができない. ○発音・発声. が,学生のレポートの一部を紹介する。ここでは,筆者が. ○間(ま). ワークショップ以前に行った, 「声」と「身体」に焦点を. ○謡と舞の結びつき. あてた能の謡の体験講座との関連において,考察を加え る。レポートの一部を紹介する学生4名は, 実演家のフィー. 次に,今回のワークショップを受講した学生のレポート. ルド訪問も体験し,今回のワークショップの前に筆者が. から抜粋する。. 行った能の体験講座を受講しており,そのうちの3名は, さらにそれ以前に行った能の実演家による一日体験講座を. 今回のレクチャー,ワークショップを体験して,自分. 受講している。筆者が行った体験講座の概要を次に示して. の音楽に関する指導力の足りなさと子どもたちに伝わ. おく。. りやすい指導の仕方のヒントが得られたと考えていま す。前半のワークショップでは,私は「ふるさと」の伴. 指導者:中西紗織. 奏をし,弾き歌いをしました。自分ではなんとなく弾. 受講者:北海道教育大学釧路校音楽研究室の学生7名。3. けるだろうという意識でいましたが,実際に弾いて歌っ. 年生3名(女子) ,4年生4名(男子1名,女子3名)。7. てみると声と伴奏が一体になっていないような気がし. 名のうち6名は2011年2月に行った能の実演家による体験. ました。高橋先生から,本伴奏でなくコードと歌の旋律. 講座受講者。. だけで弾いてみてごらんと指導をいただきそのように. 実施日時:①2011年11月2日(水)14:40 ~ 16:10,②. してみると,本伴奏では弾けていた「ふるさと」が簡単. 11月9日(水)14:40 ~ 16:10,③11月10日(木)18:00. な伴奏になると途中で間違ってしまい上手く弾くこと. ~ 20:00. ができませんでした。そこから分かったのは,私は楽譜. 実施場所:北海道教育大学釧路校 ①研究棟(B)B704中. を見てでしか伴奏をしておらず,身体を通して音楽を発. 西研究室,②研究棟(C) プレイルーム,③研究棟(B). すことができていないということです。自分の身体から. B703講義室. 音楽を感じ,それを身体でならそうとするとどのような. 目的:声の多様な表現を知る。模倣して習得する学習方法. 場面でもしっかり演奏することができるはずです。私は. に慣れ, 能の発声法について理解する。 今後の目標として,. それができていないのだと思いました。ピアノは弦を叩. 仕舞《鶴亀》の地謡の役と舞う人(シテ)の役のどちらも. けば音をならすことができます。しかし,身体でならそ. できるようになることを目指す。一人が仕舞を舞ったら他. うとしないと,その音はひとり歩きしてしまい,子ども. の全員が地謡を担当し, 「声」と「身体」がどのように結. たちが歌いにくい伴奏になってしまうのだと感じまし. びついて表現につながっていくかについて考える。3日間. た。そのため,音と音の間を伴奏者自身が感じ,伴奏そ. の指導の留意点としては,できるだけ説明をせずに,学生. のものに頼らず,それを子どもたち自身も感じることが. たちが実際に謡ったり身体を動かしたりする時間を多くと. できるような音楽をつくっていく必要がある(筆者注:. れるように心がけた。. 下線は本人による)と思いました。それに加え音と音の. 内容: (上記の実施日時と対応). 間を大切にするということを自分自身がワークショッ. ①能《鶴亀》の物語,構成,特徴. プをもって経験することができたので,漠然と気持ちを. 仕舞という奏演形式について. 込めてと指導をするのではなく音と音の間に気を付け. 謡を模倣する方法で,仕舞《鶴亀》の謡を区切りながら. た,具体的な指導方法をしていきたいなと考えていま. 謡う( 『観世流仕舞型付』使用). す。. ②仕舞《鶴亀》の謡復習 所作体験――カマエ,ハコビ,サシコミ・ヒラキ. 筆者が行った能の謡の講座においても,学生たちは間. 仕舞《鶴亀》の冒頭部をシテと地謡の二つのグループに. (ま)について体験したが,そのことにも通じるコメント. 分かれて演じる. である。音楽が単に要素だけで成り立っているわけではな. ③謡復習. いということへの深い理解と,そこに基づいた工夫があっ. 仕舞の冒頭部をシテと地謡の二つのグループに分かれて. てこそ具体的な指導方法へ結びついていくことだろう。学. 演じる. 生がその展望を持てたことは大きな成果であると考えられ. ツヨ吟・ヨワ吟音階,謡本の記号についての説明. る。. 映像資料を観る 【映像資料①】仕舞《鶴亀》 シテ:野村四郎(観世流). 高橋久美子先生のレッスンでは,リズム遊びのようなも. 【映像資料②】ツヨ吟, ヨワ吟, 大ノリ拍子 大槻文蔵(観. のや詩を曲に合わせて朗読するなどを行った。間違いは. 世流). ないからどんどん挑戦しようということで取り組んだ. - 76 -.

(10) 小学校教員養成課程における音楽指導力向上のためのプログラム開発に関する研究 が,即興で行うことが多かったので,人それぞれの違い. な面からも説明できるプロセスであり,学生が実演家の. を見ることができ,とても刺激になった。東京でのレ. フィールドを訪れたことで, 「滲み込み型」によって学ん. クチャー&ワークショップでは先生が創られた曲が実. だ学びが強化され深まったといえる結果が出た。. 際に演奏されているところを見学した。同じことを行っ たわけではないが,釧路では作曲の基礎や過程の一部を. 3-2 声・コトバ・カラダ・音楽. 知ることができ,東京ではその集大成を見ることがで. 今回のワークショップで,受講生全員がそれぞれの立場. きた。一部分を知ることも必要だが,一つの流れを一通. や感じ方,考え方によって,声・コトバ・カラダ・音楽の. り知ることで,初めの部分と最後の部分のつながりがわ. つながりを自分の体験として実感したことが感想などから. かったり,それぞれの活動の意味が見えてきたりすると. わかる。声・コトバ・カラダ・音楽が一つにつながるプロ. 考える。今回は釧路と東京でレクチャー&ワークショッ. セスを体験することの重要性を再認識し,このプロセスを. プを行っていただき,作曲の始まりやきっかけの部分を. 音楽指導力向上のためのプログラムに組み入れていくこと. 知り,最後に完成したものを見ることができたことで活. が必要である。. 動の流れを学ぶことができた。これはやはり,先生方に 来ていただく機会と,伺う機会を設けたからこその学び. おわりに. だと考えるので,今後も大事にしていくべきだと考え. 小学校教員を目指す学生のための音楽指導力向上のため. る。. のプログラム開発に関する本研究の特色は,第一に,音楽 実技において「音楽」「身体」「伝えるプロセス」を音楽指. 今までに学んだことが「流れ」をもって生き生きと学生. 導力に結びつく鍵概念として捉えていること,第二に,実. の経験に生きたと感じられるコメントである。さまざまな. 演家から直接学ぶと同時に実演家のフィールドを学習者が. 角度から学びを深めていくには,これだけの方法ではまだ. 訪問して「本物」の中で学ぶ重要性を体験すること,そし. 足りないところが多くあるだろうが,今回は少なくとも,. て第三に,実演家と大学教員が連携して,よりよいプログ. 実演家のフィールド訪問という活動を取り入れたことで,. ラムを構築することである。そこから展望できるのは,教. 大きな効果が見られたといえよう。. 員養成課程で学ぶ学生たちが未来に向かってしっかりとし た目的や見通しをもって音楽指導力について考え続けてい. 3.音楽指導力向上のためのプログラム開発に向けて. くことである。. 以上のことを踏まえて,本章では音楽指導力向上のため. 今回の活動で,指導者のフィールドを学習者が訪れるこ. のプログラム開発のための現時点での方向性を明確にして. とによって学びが深まることや実演家と大学教員の協力連. みたい。. 携によって学習者の音楽指導への視野がさらに広がること が明らかになった。実演家と大学教員の協力連携のあり方. 3-1 「滲み込み型」の教育(学習). も引き続き考え直していきたいと考えている。. 辻本雅史は身体を通して何かを習得していくことについ. 音楽教育の視点から「音楽」 「身体」 「伝えるということ」. て次のように説いている。. に着目し,プログラム開発のための今後の課題として次の 三点をさらに明らかにしていきたい。. 手習塾の学習は,一定の手本を模範として模倣し,それ. 1.実演家が伝えようとしているものは何か。実演家と学. に習熟して身体的に獲得していく課程であった。つま. 習者の間でやりとりされているものは何か。. り,文字を書くということに関するあらゆる知識を, 「わ. 2.音楽実技の習得において「音楽」と声,コトバ,カラダ,. ざ」や「術」として,あるいは「礼」として,身につけ. はどのように関わり,どのような重要性をもっているか。. る学習であった。しかも自学自習を原則としていた。こ. 3.音楽実技の習得において,学習者に対して実演家と大. のように見てくれば手習塾の学習は, 「教え込み型」の. 学教員はどのように関わり,実演家と大学教員がどのよう. 教育ではなく, まぎれもなく「滲み込み型」教育(学習). に連携することが有効か。. であったといってよい。 (辻本 1999,38). きむらみか氏と高橋久美子氏にご指導いただいたワーク ショップは,実に多様な,さまざまな課題を含んだもので. 手習塾においては,師匠は教えることのできること,つ. あり,今回はその中のほんの一部を取り上げたに過ぎな. まり模倣の範囲内しか教えない。他は「自学自習」だとい. い。これについては,あらためてまた別の角度から分析・. う。自ら学習を重ねカラダを通してわかっていくプロセス. 考察を行いたい。. を徹底的に踏ませる学習プロセスは,日本の伝統音楽や伝 統芸能の世界によく見られるものであるが,この方法は,. 付記. カラダを通して身につける音楽の実技や創作の能力につい. 本稿で取り上げたワークショップは,北海道教育大学学. ても共通するところがあるといえよう。. 長裁量経費により補助を受け実施。お忙しい中釧路と東京. 今回,学生たちが体験したプロセスはまさにこのよう. でのワークショップにおいてご指導くださったきむらみか. - 77 -.

(11) 中 西 紗 織 先生,高橋久美子先生に心から感謝申し上げます。東京で. 現時点で以下のように概念規定している。. のワークショップでは両先生方のフィールド見学のために. ・ 「形」――能の謡や舞の稽古において模倣の対象となる. 特別な御配慮をいただきました。日本音楽集団の関係者皆. 形態。具体的に認識,分析,記述できる身体技法。例えば,. 様にも心から感謝申し上げます。また,釧路校でのワーク. 一つ一つの所作単元,サシコミ・ヒラキ。. ショップに参加してくださった学部生の阿部華鈴さん,荒. ・ 「型」――能の稽古において「形」の模倣を繰り返すこ. 木輝さん,砂野夏未さん,木村比呂香さん,齋藤環希さん,. とによって修得あるいは教授されていく一定の演じ方。能. 佐藤朋弥さん,佐藤由衣さん,田中千秋さん,そして,富. 全体を通して連なる「形」の意味連関の中で理解され捉え. 田俊明先生,山本俊介先生,ワークショップ実施を支えて. られるもので, 目指すべき方向性を自ずと促す性質を持つ。. くださった皆様に心から感謝申し上げます。砂野さん,木. ・「わざ」――「わざおぎ(俳優)」の語源としての「神を. 村さん,佐藤朋弥さん,佐藤由衣さんは「実演家のフィー. 招(お)ぐわざ」の「わざ」,すなわち,神や人を楽しま. ルド訪問」として東京でのワークショップにも参加してく. せる謡や舞を始まりとしている芸において常に目指される. ださいました。重ねて感謝申し上げます。. 自由な表現。従って,身体技能や技術に限る概念ではなく, 「形」や「型」の習得の先に見えてくる表現のあり方を主. 【引用・参考文献】. 体的に追求することができる能力も含めた概念であり,社. 生田久美子(1987)『 「わざ」から知る』 (認知科学選書. 会的,文化的,歴史的背景と深く結びついている。能によっ て人と通じ合うことができたり,そのことを楽しんだりす. 14)東京大学出版会。 生田久美子,北村勝朗編著(2011) 『わざ言語――感覚の. ることができる能力も含めた概念とする。 2). 共有を通しての「学び」へ』慶應義塾大学出版会。. 能の「わざ」の習得に関する研究において,筆者は指. 斎藤孝(2000)『身体感覚を取り戻す――腰・ハラ文化の. 導者の働きかけによって学習者の学習プロセスが自然と自. 再生』 (NHKブックス893)日本放送出版協会。. 発的に次の段階へと進んでいくプロセスを「流れ」という. 佐藤公治 (2012) 『音を創る, 音を聴く―音楽の協働的生成』. 概念によって説明し, 「流れ」が生じる意味と重要性につ. 新曜社。. いて述べてきた(中西 2008,2010)。. 白川静(2005)『字訓新訂』平凡社。 辻本雅史 (1999) 『 「学び」 の復権――模倣と習熟』 角川書店。 中西紗織(2008) 「能における『わざ』の習得に関する研 究――事例分析からの学習プログラムの開発を通して ――」東京藝術大学大学院音楽研究科,2007年度博士 学位論文。 中西紗織(2010) 「能における『わざ』の習得――『流れ』 が生じるプロセスに着目して――『釧路論集:北海道 教育大学釧路校研究紀要』第42号,163~171頁。 野口三千三(2003) 『原初生命体としての人間――野口体 操の理論』岩波現代文庫。 柳生力,山田隆(2006) 『からだと音』アガサス。 ジーン・レイヴ,エティエンヌ・ウェンガー(1993)佐 伯 胖, 福 島 真 人 訳『 状 況 に 埋 め 込 ま れ た 学 習 ―― 正 統 的 周 辺 参 加 』 産 業 図 書。 (Lave, J. & Wenger, E. 1991 Situated Learning: Legitimate Peripheral Participation. Cambridge : Cambridge University Press.) (釧路校講師). 1). 能の学習者が演劇としての能を理解し,演技の技法や. 自然かつ自由に演じる方法を身に付けていくプロセスにお いては,「形」「型」 「わざ」の順に修得が進むと筆者は捉 えており,これらの習得内容に方法原理として「守・破・ 離」を対応させ,このプロセスの解明を試みてきた(中西 2008) 。本研究において「形」 「型」 「わざ」については. - 78 -.

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参照

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