書評:環境問題と地域の自立的発展 : 神田嘉延編
著 : 高文堂出版社
著者
高橋 正弘
雑誌名
奄美ニューズレター
巻
9
ページ
21-22
別言語のタイトル
Environmental Problems and Autonomous
Community Development(Kanda Yoshinobu)
Reviewed by Takahashi Masahiro
奄美ニューズレター NO92004年8月号
■研究調査レビュー
書評:環境問題と地域の自立的発展
神田嘉延編著高文堂出版社
高橋正弘(財団法人地球環境戦略研究機関) 私は学生の頃から,曰本国内の僻地や離島 をよく旅をしてまわってきた。北海道の東部 に位置する根室や知床半島,小笠原の父島や 母島,日本海に浮かぶ小さな島々など,各地 の自然を堪能し満喫するために,これまで何 度となく訪問してきた。とりわけ沖縄県の与 那国島が私のもっとも好きな土地で,与那国 には必ず毎年訪問することにしている。初め て与那国を訪問したのが確か1991年のこと で,そのころの与那国はまだ道路の整備が完 了しておらず,島を一周する道路は途中で途 切れ,まだ完成していなかった。多くの道路 が未舗装で,バイクなどで島を回るのに苦労 したことを覚えている。それでも,与那国の 持つ自然,特に野鳥や昆虫などには無条件に 心引かれて,はるばる曰本最西端のこの島へ の訪問を積み重ねてきた。現在では与那国を 一周する道路が完成し,レンタカーなどで実 に極めて快適に島中をドライブすることがで きる。その分,ナマの自然は少しずつ減って きているような気がする。いたるところで農 地改良工事がすすめられている。そしてそれ らの土地はさとうきび畑となっていく。そう いった背景にあるのが実は沖縄振興特別措置 法なのだ,ということが本書を読んでようや く理解することができた。 さて,本書が主として扱っているメッセー ジは,僻地や離島といっても,それらの地域 の課題は全体的な経済や環境の変化と切り離 して存在する訳ではないし,また市場メカニ ズムを利用して開発を進めたり環境保全対策 を行ったりしても,離島や僻地においてはそ の効果はあまり期待できない,そのため僻地 や離島ならではの開発と環境保全のためのオ ルタナティブを探ろう,ということである。 本書は,まず僻地や離島という地理的に特殊 な問題を抱えた地域において,発展,経済, 環境,住民の学習といった課題のそれぞれに ついて,丁寧なフィールド調査を行ない,そ こで得られた事実や事例をふんだんに取り入 れながら,課題へのアプローチに取り組んだ 力作である。とりわけ奄美大島や沖永良部島, 沖縄の読谷村や北海道の浜中町などの事例に ついて,地域の実態を見つめる過程で,それ らの地域独自の課題や問題点を開発と環境の 視点から抽出し,新たな地域づくりのあり方 を紹介する,という方法で考察をおこなって いる。 都市部や発展途上国において,開発や環境 保護への取り組みをどのように導入するか, といった議論は今曰とても多く目にすること ができるけれども,先進国曰本の中にある僻 地や島喚部が,このような問題に直面し,そ のため困難な解決への模索を行なっていると いうことを,事例から解き明かしている点に 本書は高い評価を獲得することができるであ ろうと考える。ついつい私たちが見落としが ちな僻地や離島地域であるが,それを取り上 げてそこでの困難を明らかにし,その解決へ の道筋をつけた研究として,大変興味深い研 究書であった。 本書を読んで,ウォーラステインによる世 界システム論を思い出した。世界システム論 によると,資本主義的世界経済は「中心一準 周辺一周辺」の三層構造がその基本要素と なっている。そしてその枠組みで世界を分類 すると,欧米が「中心」に,欧米以外の先進 国や比較的豊かな開発途上国が「準周辺」に, 21No.92004年8月号 奄美ニューズレター まうという悪循環に陥っていってしまうこと になる。そこで,内発的発展や自立的発展と いう考え方が現れる。僻地や離島が他の地域 とも連携して多様』性をもちつつ発展していく ということが,これからの開発のあり方を考 える上で重要である。 しかしながら,僻地や離島などは,本土の 持つ論理とは異なるそれらの土地独自の論理 を持ち,本土の思考回路と断絶している部分 もある。そして,その断絶した僻地や島蝋部 ならではの思考,すなわち生活や環境への適 応の知恵によって,中央の考える発展への道 筋とは異なった,オルタナティブな開発や環 境保全の方策を新たに示していくことができ る。そういった僻地や離島独自の思考やその 風土のもとで得られてきた地域の知恵を,丁 寧に取り上げて扱うことで,今日の開発問題 の解決の一助とすることができるであろう。 そういえば,私がなぜ僻地や離島に心惹か れるかも,その土地ならではの自然の在り方 や生活のスタイルを見聞きしたり体験したり できることが楽しかったからである。僻地や 離島を旅していると,毎回必ず感嘆するよう な自然や人との出会いがある。それが旅をす る楽しみの最も大きなところであった。曰本 の国内では,「中心」もしくは「準中心」で生 活を構えている私が,「周辺」に行くことを楽 しみにして繰り返しているということは,ま さしく「周辺」で簗かれ守られてきた知恵を, 「中心」へと移転していく作業の-且を担っ ていたわけである。開発の問題や環境保全は, 中央政府や地方政府だけで解決できるもので はない。それぞれの土地に住む住民が,それ ぞれで努力していく必要がある。それらの努 力や努力へのアイデアが広く共有されれば, なお一層開発や環境の課題の解決につながっ ていくであろう。本書は,そういったことを 明確に意識することの端緒となる研究である。 開発途上国が「周辺」に,そして太平洋島蝋 国などが「周辺」のさらに最底辺に位置付け られるということになる。地理的に見て広い エリアに散在している島喚国などが資本主義 の利益の波の最も遠いところに位置しており, 人口や土地面積からも市場の規模が実際かな り小さいため,発展への大きな困難を押し付 けられているということが太平洋諸国の実態 である。世界システム論の「周辺」そしてさ らに「辺境」に位置付けられている国々の開 発が非常に遅れていることは,それらの国の 経済の実態を見れば明らかである。 この「中心一準周辺一周辺」の三層構造は, ややミクロ化して曰本国内に当てはめること が可能であろう。世界システムの枠組みを曰 本に適応してみると,東京や大阪などの大都 市を「中心」とした曰本における資本主義的 経済のシステムは,曰本本土の工業ベルト地 帯などの「準周辺」を経て,僻地や島蝋部を 「周辺」と位置づけ,中央突出型の経済シス テムを築いていることが理解できる。実際に 沖縄県の平均所得は全国で最も低い。つまり 日本の僻地や離島が置かれている状況は,世 界システム論において太平洋島唄国などが置 かれている状況と全く同様である。 本書で「農村の人々の暮らしを守るには, 多国籍企業の支配する国際的競争から地域が 自立していくことが求められる。国家施策が, 多国籍企業の国際的競争を推進しているなか