ダイポールアンテナを利用したコンクリートの比誘電率分布の推定
早田裕一郎
†田中
俊幸
†a)森山
敏文
†Estimate of Permittivity Distribution of Concrete by Using Dipole Antennas
Yuichiro SODA
†, Toshiyuki TANAKA
†a), and Toshifumi MORIYAMA
†あらまし 重大な事故を未然に防ぐためにコンクリート構造物の定期的な安全検査は重要である.安全検査の 中にコンクリートレーダを利用した鉄筋探査がある.コンクリートレーダを用いると鉄筋の位置は容易に推定で きる.現状では,探査においてコンクリートを均質媒質と仮定して推定している.しかし,コンクリートの比誘 電率は表面からの距離や打設からの経日によって変化する不均質媒質であるため,構造物の表面から鉄筋までの かぶりを正確に推定できない.我々はこれまでに,斜め切削開放終端同軸プローブ(OCP) を用いてコンクリー トの比誘電率分布や経日変化の測定を行ってきた.しかし,OCP による比誘電率の測定では,OCP の測定面に コンクリート中の細骨材が密着した場合,比誘電率の値が正しく測定できないことが分かった.本論文では,細 骨材に影響されない方法としてダイポールアンテナを利用した2 種類の比誘電率推定法を提案し,実測結果によ り提案手法の有効性について議論している. キーワード 電気定数計測,コンクリート,比誘電率分布,電磁波レーダ,ダイポールアンテナ
1.
ま え が き
近年,メンテナンスフリーと考えられていた鉄筋コ ンクリート建造物にも老朽化が見られ,建造物の保守 管理の為に各種の安全検査が行われている.安全検査 の一つに鉄筋コンクリート建造物内の鉄筋診断がある. 非破壊で鉄筋診断するためにコンクリートレーダが使 用される[1]∼[8].コンクリートレーダを使用すれば, 鉄筋の有無は容易に確認できるが正確なかぶりを推定 することは困難である.ここで,かぶりとは鉄筋表面 からコンクリート表面までの最短距離を言い,構造物 の耐久性や安全基準を満たすためのかぶりの最小値が 建築基準法によって定められている.鉄筋のかぶりを 正確に推定するためにはコンクリートの比誘電率の値 が必要である.しかし,コンクリートの比誘電率は未 知であるため,コンクリート診断者は経験に基づき, コンクリートを均質な比誘電率をもつ誘電体と仮定し てかぶりを推定している. しかしながら,コンクリートは不均質媒質であり, †長崎大学大学院工学研究科,長崎市Graduate School of Engineering, Nagasaki University, 1–14 Bunkyou-machi, Nagasaki-shi, 852–8521 Japan
a) E-mail: [email protected] コンクリート表面から深くなるに連れて比誘電率は大 きくなること,また経日とともに比誘電率は小さくな ることが知られている.したがって,コンクリート診 断の精度を向上させる上でコンクリートの比誘電率の 深さ依存性や経日変化を明確にする必要がある. 我々は,斜め切削開放終端同軸プローブ(OCP) [9] を用いてコンクリートの比誘電率を非破壊で測定し, 比誘電率の深さ依存性と経日変化について議論した後, コンクリート表面からの深さと経日を変数とした比誘 電率の近似関数を求めた[10].しかしながら,OCPを 用いた測定では測定面にコンクリートを構成する細骨 材が密着することにより,比誘電率の推定結果に影響 を受けることが明らかになった. 本論文ではコンクリート中の細骨材の影響を受けず にコンクリートの比誘電率を測定するために,ダイ ポールアンテナを利用した2種類の比誘電率推定法 を提案している.二つのダイポールアンテナをコンク リート内部に同じ深さで埋め込み,コンクリート中に おけるアンテナ間の伝搬特性であるS21の測定を行う ことで,埋め込んだ深さに対するアンテナ間の平均的 な比誘電率を推定している.一つの方法は,比誘電率 が既知の参照媒質とコンクリートとのS21の位相差を 利用して比誘電率を推定する方法であり,もう一つは,
S21を逆フーリエ変換によって時間波形に変換し,参 照媒質との伝搬時間の差から平均的な比誘電率を推定 する方法である.これまでに同様の方法でコンクリー トの比誘電率の推定を試みたが,参照媒質にコンク リートと比誘電率差が大きな空気を用いたため,S21 の相対的な比較が難しく,正確な推定結果が得られな かった[11].このことを考慮してコンクリートと比誘 電率差が小さい参照媒質を用いて,より精度の高い推 定を目指す.本手法の有効性を実測結果により明らか にしている.
2.
比誘電率の測定方法の検討
2. 1 OCPによる比誘電率測定の問題点 これまでの研究では,複数の斜め切削開放終端同軸 プローブ(OCP)をコンクリートに直接埋め込み,比 誘電率の表面からの深さ依存性や経日変化を明らかに した[10].しかしながら,OCPによる比誘電率の測 定では,図1の破線に示すように周波数を高くすると 水,セメント,細骨材からなるコンクリートの比誘電 率は単純に小さくならずに,振動しながら小さくなる 場合があった.一つの試験体には複数のOCPを埋め 込むが,比誘電率の周波数に対する振動幅と埋め込み 深さは無関係であった.この原因を断面積が8mm2程 度のOCP先端の比誘電率計測部に,断面積に対して 無視できない大きさの細骨材が接触している可能性が あると考え,細骨材をふるいに掛け,直径1mm以下 の細骨材だけを利用した試験体を作製し,比誘電率の 測定を行った.その結果,図1の点線に示すように比 誘電率の振動幅が小さくなることを確認した.更に水 とセメントだけからなるセメントペーストの試験体を 作製し比誘電率を測定すると,図1の実線に示すよう に比誘電率の値はほとんど振動せずに周波数が高くな るに連れて単純に減少することが分かった.以上より, OCPでコンクリートの比誘電率を測定する場合,数 多くのOCPを試験体に埋め込み,比誘電率の値の振 動が小さいものだけを比誘電率測定に使用すればよい と考えられる.しかしながら,比誘電率測定に使用で きないOCPの割合が高く,必要な深さの比誘電率を 必ずしも測定できないことは大きな問題である. 2. 2 ダイポールアンテナを利用した比誘電率測定 OCPによる測定では,OCP先端の計測部に接触す る媒質の比誘電率を測定するため,直接的に細骨材の 影響を受ける.そこで,1対のダイポールアンテナを コンクリート試験体に埋め込み,アンテナ間の媒質の 図 1 OCPによる比誘電率の測定結果 Fig. 1 Measurement results of OCP.図 2 ダイポールアンテナ Fig. 2 Dipole antenna.
図 3 ダイポールアンテナの S11周波数応答 Fig. 3 Frequency response of a dipole antenna.
比誘電率測定を試みる.この方法ではアンテナ近傍の 媒質から受ける影響は小さく,アンテナ間の平均的な 比誘電率を測定することになるため,細骨材の影響を 抑えることができる. 送信アンテナと受信アンテナに使用した放射素子の 長さが3cmのダイポールアンテナを図2に,空気中及 びコンクリート中のダイポールアンテナのS11周波数 応答の大きさを図3に示す.コンクリートの比誘電率 は10程度であるため,空気中に対してコンクリート 中では共振周波数が約1/3になっていることが分かる. コンクリートの比誘電率推定法として二つの方法を 提案する.一つはコンクリート中と参照媒質中から得 られた伝搬特性S21の位相差から比誘電率を推定する 方法で,単一周波数に対する比誘電率を推定できる. もう一つは,S21に周波数重み関数を掛けて逆フーリ エ変換することで時間応答に変換し,伝搬時間差から 比誘電率を推定する方法である.重み関数の中心周波 数を変えることで,比誘電率の周波数特性を得ること ができるが,重み関数の帯域幅に対する重み付き周波
数平均値であることに注意が必要である.二つの方法 では求められる比誘電率の意味が異なるので,必要に 応じて推定方法を選択するべきである. (a) 位相差を用いた比誘電率の推定方法 二つのダイポールアンテナを距離d [cm]だけ離して 正対させて配置し,受信界を測定する.背景媒質が空 気であればアンテナ間の伝搬による電磁波の位相変化 量はθ0 = 2πd/λである.ここでλは真空中の波長で ある.同じアンテナを同様に比誘電率εrの測定媒質に 配置すると,位相変化量はθob =√εr2πd/λとなる. これより,背景媒質の比誘電率は次式で求められる. εr= 1 + λ 2πd(θob− θ0) 2 (1) 位 相 差 で 比 誘 電 率 を 推 定 す る 場 合 ,位 相 の 周 期 は2πなので,比誘電率を正しく推定するためには −π < θob− θ0< πが望ましい.このとき条件 d < λ 2(√εr− 1) (2) を満たす必要がある.通常のコンクリートの比誘電率 は6∼12なので,アンテナ間の距離dは d < 0.2λ (3) でなければならない.最近のコンクリートレーダでは 1GHz∼4GHzが主に利用されるため,4GHzに対して 式(2)が満足されるためには,アンテナ間隔は1.5cm 以下に設定しなければならない.更に,図3より空気 中において放射素子の長さが3cmのダイポールアン テナでは1GHz∼4GHzの電磁波はほとんど放射され ていないことが分かる.これより,1GHz∼4GHzに おいてθ0の測定結果には多くの誤差が含まれる可能 性があり,比誘電率の推定に大きな影響を与えること が予想される.そこで,既知の比誘電率εrrefをもつ 参照媒質を導入する.参照媒質の比誘電率は被測定媒 質の比誘電率に近い値が望ましい.このとき,媒質の 比誘電率は次式で推定される. εr= √ εrref+ λ 2πd(θob− θref) 2 (4) 測定媒質に近い比誘電率をもつ参照媒質を使用すれば, 測定媒質と参照媒質でアンテナの放射特性に大きな差 違を与えないため,位相変化量の誤差を抑制できるだ けでなく,式(5)のようにアンテナ間の距離を長くで き,アンテナ間の多重反射を抑えることができる. d < λ 2|√εr− √εrref| (5) (b) 伝搬時間差を用いた比誘電率の推定方法 測定されたS21周波数応答に放射させたいパルスの 周波数重み関数を掛け,逆フーリエ変換を利用して時 間応答に変換し,参照媒質と測定媒質の伝搬時間の差 から比誘電率を推定することを考える.本研究ではパ ルスの重み関数として式(6)で与えられる最大値で規 格化されたガウシアンパルスの3階微分を使用して いる. G3(f, fc) = f fc 3 exp − π2 a (f 2− f c2) a =2 3π 2 fc2 (6) ここで,fcはパルスの中心周波数である.式(7)に測 定した周波数応答S21を時間波形に変換するための逆 フーリエ変換を示す. p(t, fc) = 2Re ∞ 0 S21(f )G3(f, fc)H(f )ej2πftdf (7) ここで,H(f )は H(f ) = ⎧ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎨ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎩ 1.0 , f < fs 0.54 + 0.46 cos f − fs fmax− fsπ , fs≤ f ≤ fmax 0.0 , fmax< f (8) で与えられ,G3(f, fc)に含まれる周波数成分が測定 可能な最高周波数fmaxを超過したときに,G3(f, fc) が不連続にならないための周波数フィルタである.本 研究ではfmax= 6.0GHz,fs= 5.0GHzとしている. 比誘電率がεr の媒質中を伝搬する電磁波の速さv は真空中の光の速さをcとするとv = c/√εrで与えら れる.比誘電率εrrefの参照媒質中の伝搬時間をTref, 比誘電率εrのコンクリート中の伝搬時間をTobとす ると,コンクリートの比誘電率は次式で与えられる. εr=√εrref+c d(Tob− Tref) 2 (9) ここで,Tob− Tref は伝搬時間差,dは伝搬距離で
ある.また,式(6)のパルス関数の中心周波数を変え ることで,比誘電率の近似的な周波数特性を得ること ができる.
3.
試験体の作製と参照媒質の設定
3. 1 試 験 体 図4に作製したコンクリート試験体の形状とダ イポールアンテナの配置を示す.試験体の大きさは 35 × 30 × 35cm3,配合比は 水 :セメント:細骨材= 1 : 2 : 6である.ダイポールアンテナは,図4 (b)の ように試験体中にアンテナ間隔を5cmとして上下方 向に3本並べて表面から同じ深さに埋め込んでいる. 埋め込み深さは2,4,6,8cmとしているため,埋め 込まれたアンテナの総数は12本である.図4 (c)は 試験体を上から見た断面図である.なお,アンテナの 放射素子は全て水平になるように配置している.同じ 埋め込み深さのアンテナは3本あるので,中央のアン テナを送信アンテナ,上下のアンテナを受信アンテナ として各埋め込み深さで二つの経路の伝搬を測定でき る.伝搬距離が5cmであるアンテナ間のS21周波数 応答をベクトルネットワークアナライザ(VNA)を用 いて0.3GHz∼6.0GHzの周波数帯域で測定する.ま た,アンテナの同軸部分の長さを含めて装置の校正を 行っている.コンクリート試験体の比誘電率測定は, コンクリート打設後に型枠を取り除いた10日目から 開始した. 3. 2 参 照 媒 質 2. 2 (a), (b)で議論した提案手法では参照媒質の選 択が重要である.研究当初は空気を参照媒質としてコ ンクリートの比誘電率を推定していた[11]が,空気 とコンクリートとの比誘電率差が大きいだけでなく, 図3で示すように空気中とコンクリート中でダイポー ルアンテナの放射特性が変わってしまうため,正確に 比誘電率を推定することが困難であった.本研究では, 比誘電率をコンクリートの比誘電率に近い値に調節で きるシリコーンと離型剤の混合物を参照媒質として選 択した.コンクリートの比誘電率を考慮して,周波数 3.0GHzで比誘電率がおよそ8.0となるように,シリ コーン混和物とシリコーン用離型剤を100 : 55の割合 で混合し,結合の様子を見ながらシリコーン用硬化剤 を適量加えて型枠に流し込み,数日乾燥させ参照媒質 を作製している.なお,参照媒質に使用した材料の型 番は表1に示している. 図5 (a)に作製した参照媒質を用いたS21の測定の 図 4 コンクリート試験体 Fig. 4 Device under test (DUT).表 1 参照媒質の材料
Table 1 Material for reference medium.
図 5 参 照 媒 質 Fig. 5 Reference medium.
様子を示している.断面10cm × 10cm,長さ5cmの 参照媒質を三つ作製し,二つのダイポールアンテナ を参照媒質で挟むことにより,参照媒質中で伝搬距離 が5cmのS21を測定して参照データとしている.図 5 (b)にはOCPを用いて測定した参照媒質の比誘電率 を示す.図より設定通りに周波数3.0GHzで比誘電率 が約8になっていることが分かる.
4.
比誘電率の推定結果
4. 1 位相差を用いた比誘電率の推定結果 図6に図4に示した埋め込み深さ4cmで中央のアン テナを送信,上部のアンテナを受信とした打設後20日 目のS21周波数応答の振幅と位相特性を示す.図6 (b) より比誘電率が大きいコンクリートの位相の方が参照 媒質の位相よりも傾きが大きくなっていることが確認 できる.また,1.6GHz以下の周波数帯域では電波の放射が弱く,雑音が多く含まれるため位相が乱れてい ることが確認できる.位相特性の差から式(4)を用い て比誘電率の推定を行う場合,位相は2π周期で不連 続になるため,位相が連続になるように補正が必要で ある. 図7に中央のアンテナを送信,上部を受信とした 打設後20日目の比誘電率の推定結果を示す.図より 周波数が高くなるに連れて比誘電率は単純に減少し ていないことが分かる.比誘電率の値が2.3GHz及び 3.3GHzで急激に大きくなっている原因は,参照媒質 の位相特性が該当周波数の付近で単純減少していない 図 6 打設後 20 日目の S21周波数応答 Fig. 6 Frequency response of 20 days after cast.
図 7 打設後 20 日目の比誘電率
Fig. 7 Relative permittivity of 20 days after cast.
ことによる.すなわち,コンクリート試験体では受信 強度と位相は1.6GHz以上の周波数に対して連続的に 変化しているのに対し,参照媒質では2.35GHz及び 3.38GHzにおいて受信強度が急激に小さくなってい る.この落ち込みは,アンテナ間の直達波と参照媒質 表面での反射波とが打ち消し合うことが原因だと考え られる.参照媒質の伝搬特性を測定したアンテナは試 験体に埋め込まれているため,参照データの測定をや り直すことはできない.また,埋め込み深さ6cmの 5.0GHz以上,8cmの5.0GHz付近では,他の埋め込 み深さの比誘電率と異なる傾向を示している.これは 5.0GHz以上の周波数においてS21の振幅が−50dB 以下と非常に小さくなり,雑音の影響を受けやすく なっているからだと考えられる.それらの周波数帯域 での位相特性は他の埋め込み深さの位相特性のように 単純減少していないことを確認しているが,紙面の都 合上ここでは省略している.今後は参照データの測定 において,表面からの反射波の影響を受けないように サイズを拡大した参照媒質を作製し,位相の不連続性 を取り除く予定である. 位相を利用した比誘電率推定では,使用したダイポー ルアンテナのコンクリート中のS11の大きさ(図3)が −5dB以下となる1.3GHz∼6.0GHz,及びS21の大き さ(図6)が−50dB以上となる1.4GHz∼4.8GHzの 共通範囲である1.4GHz∼4.8GHzが有効な周波数範 囲である. 4. 2 伝搬時間差を用いた比誘電率の推定結果 図8 (a)及び図9 (a)に図6で示した参照媒質と深 さ4cmに対するS21を式(7)の逆フーリエ変換により 時間関数に変換したときの時間波形を,図8 (b)及び 図9 (b)にはそれぞれ時間波形を求めるときに使用し たパルスの重み関数G3(f, fc)を示す.図8,図9の 図 8 中心周波数 1.5GHz に対する時間応答 Fig. 8 Time response forfc= 1.5GHz.
中心周波数fcはそれぞれ1.5GHz及び3.0GHzであ る.図より,コンクリート試験体の深さ4cmに対す る時間応答波形は参照媒質の時間応答波形と比べて極 値を与える時間が遅くなっていることが分かる.これ はコンクリートの比誘電率が参照媒質の比誘電率に比 べて大きくなっていることを表す.比誘電率推定に必 要な時間遅れは最初に表れる極値を利用している.ま た,図8, 9より中心周波数が高くなると時間応答の振 動周期と時間差が小さくなっていることが分かる. 図10に埋め込み深さが2,4,6,8cmで中央のア ンテナを送信,上部のアンテナを受信とした打設後20 日目のパルスの中心周波数に対する比誘電率の変化 を示す.図8, 9 (b)で示すようにパルスの重みの帯域 幅は一定ではないので,単純に横軸を周波数とみなす ことはできないが,全ての埋め込み深さに対して周波 数の増加によって比誘電率が単純に減少する傾向にあ ることは十分に確認できる.また,1.5GHz以下及び 4.5GHz以上で比誘電率の変化の割合が不連続になっ ていることが分かる.この理由は,1.5GHz以下では 電波の放射が弱いため,4.5GHz以上では,中心周波 数が4.5GHzの場合,パルスの電力が1/2となる周波 数が6.1GHzとなり,本研究に用いたVNAの測定可 図 9 中心周波数 3.0GHz に対する時間応答 Fig. 9 Time response forfc= 3.0GHz.
図 10 打設後 20 日目の比誘電率
Fig. 10 Relative permittivity of 20 days after cast.
能な最高周波数である6.0GHzを超過するため,正確 にパルスの時間波形を形成できなかったためだと考え られる. 時間遅れを利用した比誘電率推定では,アンテナの 周波数応答に加えて,パルスの重み関数の周波数帯域 を考慮して1.5GHz∼4.5GHzが有効な周波数範囲で ある.なお,1.5GHz以下の周波数の比誘電率を求め たい場合は,アンテナの放射素子を長くする,4.5GHz 以上の周波数の比誘電率を求めたい場合は,より高周 波を測定できるVNAを利用し,更にアンテナ間隔を 短くすることで対応できる.
5.
比誘電率分布の経日変化
本論文では2種類の比誘電率推定法を用いてコンク リートの比誘電率の周波数特性を推定した.その結果, 伝搬時間差を用いた推定法では,周波数の増加によっ て比誘電率の値が単純に減少する周波数分散特性を確 認できたので,これ以降は,伝搬時間差を用いた推定 法による比誘電率の値の経日変化を求めることにする. なお,パルスの中心周波数は3.0GHzに固定している. 図11に打設から150日目までの埋め込み深さごと の比誘電率の値の経日変化を示す.図の●は中央と 上部のアンテナ(経路1),▲は中央と下部のアンテナ 図 11 比誘電率の経日変化(経路2)でのS21による推定結果である.また,実線 は二つの経路に対する平均値を利用して求めた対数関 数による近似曲線である.図より経日とともに比誘電 率の値が減少していることが分かる.埋め込み深さが 2cm及び4cmで,経路1 (Upper)による比誘電率は 経路2 (Lower)による比誘電率と比べて常に小さい値 を取っている.これは,コンクリート打設時に中央の アンテナが下方向に曲がってしまい,経路1の長さが 経路2の長さに比べて長くなったので比誘電率の値が 小さく推定されたのではないかと考えられる.埋め込 み深さが6cm及び8cmに対しては,経路にかかわら ず近似曲線を中心に測定点がばらついている.しかし, 全ての埋め込み深さに対して経路1あるいは経路2の どちらか一つに着目すると,深さが6cm及び8cmの 経路2による測定結果が他と比べて経日による振動幅 が大きいことが分かる.これは下側のアンテナの放射 素子が水平でなくなり,受信パルスの形状が変わった ことが原因だと考えられる.対数近似曲線の式を以下 に示す. εr(x) = ⎧ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎨ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎩ −0.679 ln(x) + 12.49 for d = 2cm −0.584 ln(x) + 12.32 for d = 4cm −0.333 ln(x) + 12.24 for d = 6cm −0.542 ln(x) + 12.35 for d = 8cm (10) 変数xは打設からの経過日数であり,1以上の値であ る.近似式の定数部分は打設後1日の比誘電率の推定 値であるため,埋め込み深さにかかわらず同様の値を とっていることが分かる.理論的には埋め込み深さd が浅くなるに連れて比誘電率の値は小さくなるため, 近似対数関数の係数はdが小さくなるほど負の大きな 値になるべきである.しかしながら,d = 6cmのと きは比誘電率の値がd = 8cmよりも大きくなってい る.この理由は,試験体にコンクリートを打設する際 にd = 6cmのアンテナは放射素子の向きが水平では なくなったからだと考えられる. 図12に打設後からの日数を10,20,30,60,150 としたときの比誘電率の深さ依存性を示す.図より, 打設から10日の比誘電率分布は表面からの深さに依 存していないが,日数が経過するに連れて,表面から 浅い部分の比誘電率が小さくなっていることが確認で きる.ただし,図12も式(10)と同様に,埋め込み深 さが6cmのときの比誘電率が8cmよりも大きな値を 示している.この理由を確かめるために図13に打設 図 12 比誘電率の特性
Fig. 12 Characteristic of relative permittivity.
図 13 打設後 150 日目の S21周波数応答 Fig. 13 Frequency response of 150 days after cast.
表 2 比誘電率の 1 日当たりの平均減少率 Table 2 Average decrease rate of permittivity.
後150日目のS21周波数応答の大きさを示す.図より, 深さが6cmの受信強度は4cmの受信強度に比べて多 くの周波数で同程度の値を示しており,深さが8cmの 受信強度と比べて10dB程度大きくなっていることが 分かる.これより,深さ6cmに埋め込んだダイポール アンテナの放射素子の向きが平行になっておらず,参 照波との伝搬時間の比較が正確にできなかったのでは ないかと考えられる. 表2に各埋め込み深さに対する比誘電率の1日当 たりの平均減少率を示す.1日当たりの平均減少率は 図11の比誘電率の経日変化を利用し,対象期間に対 して比誘電率の変化を線形近似したときの傾きである. 線形近似は経路1と2で得られたデータを利用して求 めている.式(10)による対数関数近似とは異なり,打 設後41∼150日の期間では比誘電率の減少率は,40
図 14 打設後からの比誘電率の平均減少率 Fig. 14 Average decrease rate from after cast.
日以前の減少率に対して1/5以下になっていることが わかる.この結果は文献[10]に示すOCPを利用した ときの比誘電率の推定結果と類似している. 図14に打設後10∼20日,10∼30日,10∼60日, 10∼90日,10∼150日の期間の1日当たりの平均減 少率の埋め込み深さに対する変化を示す.10∼60日の 期間以降の平均減少率は,表面から深くなるに連れて 一様に小さくなるという一般に考えられている変化を している[12].本研究では,比誘電率の推定に試験体 と参照媒質との位相差や伝搬時間差を利用しているた め,正確な比誘電率を推定する為には,参照媒質での 伝搬測定と同じアンテナの配置で試験体に対する伝搬 測定を行わなければならない.したがって,ダイポー ルアンテナを試験体に埋め込んだときに放射素子の向 きやアンテナの位置が変われば,受信パルスの形状が 変化し,比誘電率の値に誤差が含まれることになる. しかしながら,参照媒質での受信パルスの形状やコン クリート中の放射素子の向きと位置は経日変化しない ため,比誘電率の経日変化量はコンクリート自体の比 誘電率の変化だと考えられる.したがって,60日以降 の比誘電率の平均減少率は深さ6cmを含めて深さと ともに単純に小さくなっているのだと考えられる.
6.
む す び
本論文では,コンクリート構造物中の鉄筋探査の精 度向上のために,コンクリートの比誘電率の深さ依存 性と経日変化を明らかにすることを目的として,ダイ ポールアンテナを用いた比誘電率の推定法を提案した. 先に提案した斜め切削開放終端同軸プローブ(OCP) による推定では,プローブの先端部分に細骨材が密着 した場合,正しい比誘電率の値を求めることは困難で あったが,ダイポールアンテナを使用することで,細 骨材の影響を受けずに比誘電率の値を求めることがで きることを示した.また,試験体にダイポールアンテ ナを指定通りに埋め込むことができた場合には,アン テナ間の平均的な比誘電率の深さ特性及び時間経過特 性を測定できることを示した. 今後の課題は,参照媒質のサイズの拡大,試験体に アンテナを埋め込むときの精度の向上,アンテナを埋 め込む本数を増やし,埋め込み深さに対してより多く の測定データから深さ特性の近似式を求めることであ る.更に得られた比誘電率の近似関数を用いて,鉄筋 探査の精度を向上させることも重要な課題である. 謝辞 本研究の一部は科研費(基盤研究(C):課題 番号26420461)の助成によることを付記し,謝意を表 する. 文 献 [1] 三加 崇,藤田 学,浅井 洋,玉置一清,斯波明宏,“鉄 筋探査機器の測定精度の評価,”三井住友建設技術開発セ ンター報告,vol.2, no.3, 2004. [2] 中村英佑,森濱和正,山口順一郎,松塚忠政,“鉄筋径 を利用した非破壊試験による比誘電率分布とかぶりの推 定,” JCIコンクリート工学年次論文集,vol.27, no.1, pp.1801–1806, March 2005.[3] 竹田宣典, 原泰造,十河茂幸,“かぶり,鉄筋位置の非破 壊試験における測定誤差に関する検討,”コンクリート工学 年次論文集,vol.27, no.1, pp.1807–1812, March 2005. [4] 国土交通省大臣官房技術調査課,“非破壊検査によるコン クリート構造物中の配筋状態及びかぶり測定要領,” March 2012. [5] (独) 土木研究所,“電磁波レーダー法における鉄筋の位 置とかぶり測定が困難な場合の対処方法,” http://www. pwri.go.jp/jpn/results/offer/conc-kaburi/kaburi. taisyo.pdf, 2007. [6] (独) 土 木 研 究 所 ,“電 磁 波 レ ー ダ ー 法 に よ る 比 誘 電 率 分 布 (鉄 筋 径 を 用 い る 方 法) お よ び か ぶ り の 求 め 方 ,” https://www.pwri.go.jp/team/structure/download/ kaburi.pdf, 2007. [7] 田中俊幸,眞弓雄一郎,竹中 隆,“時間フィルタ法と複鉄 筋探査への応用,”コンクリート工学年次論文集,pp.1817– 1822, July 2006. [8] 田中俊幸,眞弓雄一郎,竹中 隆,“電磁波レーダを用 いた鉄筋の位置・半径とコンクリートの比誘電率の同時 推定,” JCIコンクリート工学年次論文集,vol.29, no.2, pp.775–780, July 2007.
[9] 道山哲幸,二川佳央,鍬野秀三,“刺入性の優れた終端開
放同軸プローブによる半固体状媒質の複素誘電率測定,”
信学論(C),vol.J93-C, no.5, pp.167–174, May 2010. [10] 田中俊幸,遠江一仁,森山敏文,竹中 隆,“コンクリート 構造物の比誘電率分布の推定,”信学論(C),vol.J99-C, no.9, pp.440–447, Sept. 2016. [11] 遠江一仁,永野弓太郎,田中俊幸,竹中 隆,森山敏文, “コンクリートの電気定数測定法に関する一検討その 2,” 信学技報,MW2014-125, Nov. 2014.
[12] 山口順一郎,森濱和正,前川 聡,飯田洋志,“電磁波 レーダ測定におけるコンクリートの比誘電率とかぶり測 定,” JCIコンクリート工学年次論文集,vol.26, no.1, pp.1875–1880, March 2004. (平成 28 年 7 月 29 日受付,12 月 1 日再受付, 29年 7 月 14 日公開) 早田裕一郎 (学生員) 2015長崎大・工学部卒.2016 同大大学 院博士前期課程在学中.現在,電磁波を利 用した非破壊検査に関する研究に従事. 田中 俊幸 (正員) 1984長崎大・工・電子卒.1989 九大大 学院博士後期課程了.同年長崎大学工学部 講師に着任.現在,長崎大学工学研究科准 教授.以来,電磁波レーダを利用した非破 壊検査装置の研究開発に従事.工博.電気 学会,コンクリート工学協会各会員. 森山 敏文 (正員) 1972年 1 月生,94 年新潟大学工学部情 報工学科卒,98 年同大大学院博士課程修 了.博士(工学).98 年 4 月富士通株式会 社入社,03 年∼05 年独立行政法人通信総 合研究所専攻研究員,06 年独立行政法人 宇宙航空研究開発機構招聘研究員,07 年 長崎大学工学部電気電子工学科助手,現在同大大学院工学研究 科准教授.