小学校1年生の加法方略の進展の特徴についての一考察
†
湯澤 敦子
*・日野 圭子
**宇都宮大学大学院(現 鹿沼市立さつきが丘小学校)
*宇都宮大学教育学部
**Atsuko YUZAWA*, Keiko HINO**: A study on the progress of addition strategies of the first graders in the primary school.
* Graduate School of Education, Utsunomiya University
** Faculty of Education, Utsunomiya University (連絡先:[email protected] 著者2) 概要 本稿の目的は,小学校1年生の加法方略の進展の道筋を特徴づけることである.「繰り上がりのある加 法」では「10の構成に基づく計算の仕方」が指導される.一方,学習前から児童はインフォーマル算数とよ ばれる素朴な方略を用いて解決しており,学習後も素朴な方略から抜けきれない児童の存在が認められる. そこで本稿では,先行研究に基づいて加法方略のカテゴリーを設定し,公立小学校の1学級において児童の 加法方略とその進展を追跡した.その結果,児童の加法方略とその進展には予想以上の多様性があることが 分かった.本稿では,先行研究および実際の観察によって同定された,過渡的な加法方略(指および念頭で の操作)を組み入れた「加法方略の進展モデル」を提案し,指導への示唆を述べる. キーワード:加法,加法方略,小学校1年生,加法方略のカテゴリー,加法方略の進展モデル, 1.研究の意図と目的 本研究では,加法における解決方法を「加法方略」 と呼ぶ(主に計算の仕方を扱うが,文章題の解決も含 む).小学校1年の「繰り上がりのある加法」では,10 の構成に基づく加法方略について学習し,その方略を 用いて問題を解決できることが求められる.しかし, 児童は入学前からインフォーマル算数と呼ばれる素朴 な方略を用いて加法場面の解決を行っていることが知 られている1).つまり,小学校1年の算数で,今まで経 験している加法場面を「たしざん」という新しい概念 で学習し直しているということができる.一方で,学 年が上がっても素朴な加法方略から抜けきれない児童 の存在が認められる2). 小学校1年の児童はどのような加法方略を用いている のだろうか,また,児童の加法方略は,学習を通して どのように進展していくのだろうか.そこで,本研究は, 次の2点を目的として行った.①児童とのインタビュー を中心に,小学校1年生の加法方略の進展の道筋を特徴 付ける.②「繰り上がりのある加法」の単元でのデザ イン実験を通して,加法方略の進展を促しうる指導に 対する示唆を得る.本稿では,目的①に関して報告する. 2.研究の方法 まず,児童の加法方略を同定するため,「加法方略 のカテゴリー」について先行研究を調査し,整理 した.次に,栃木県内公立小学校1年(28名)の児 童を対象に,筆記調査(5月)と個別インタビューを 行った.個別インタビューでは,「和が10までの加法」 (6月),及び,「繰り上がりのある加法」(10月)の学 習前後の5,7,9,11月に,児童一人一人に課題を出 し,児童が解決に用いる加法方略を観察した.イン タビューで提示した課題は,「4+3」「2+6」「8+3」「4 +9」「8+7」であり,前の3題は4回とも,後の2題は 9,11月のみ実施した.教具は,おはじき,ブロック, 数図カードを用意し,必要に応じて使用できるよう にした.また,指の使用も認めた.インタビューで の児童の様子は小型ビデオカメラで記録した.それ らの結果を分析し,加法方略の進展の道筋について 考察した.なお,「和が10までの加法」,「繰り上がり のある加法」の学習中に児童が用いる加法方略を調 査するために,対象児を選び授業中の観察も行った. 3.加法方略のカテゴリー Fusonは,加法方略を4つのレベルに分けている3) 宇都宮大学教育学部教育実践紀要 第1号 2015年8月1日
(表1).表1から分かるように,レベル2をさらに2つ に分けるなど細かく分類している.一方,Murataは, FusonのL2とL3を一つのカテゴリーと見て,レベル を設定している4)(表2). 表 1 Fusonの加法発達モデル(1995) 表 2 Murataの加法方略のレベル(2004) また,MurataはレベルⅡからⅢへの過渡的な加 法方略「COAT」と「MTCO」を報告している(表3). 表 3 COATとMTCO(Murata, 2004) 平井は,表4のように加法方略をカテゴリーに分 けている5). 表 4 加法方略のカテゴリー(平井, 1991) 表 5 加法方略のカテゴリー
それぞれの分類を比較してみるとCount-all(CA), Count-on(CO),10の 構 成 に 基 づ く 方 略(COM) が基本であることがいえる.そこで,本研究では, Murataの3つのレベルを基本としながら,Fusonや 平井の分類も参考にすることにし,表5のような加 法方略のカテゴリーを設定した.ここで「続きで数 える方略」は,Fusonらが韓国の児童の1位数の加 法の10の構成を基にした解法を研究する中で,指を 用いた解決方略として報告されているもの6)であ る.本研究では,表5を用いて児童の加法方略を同 定していった. 4.調査結果 (1)全体的な結果 個別インタビューを通して,加法の学習前後の児 童の加法方略がどのように変容していくのかを観察 した.「4+3」(和が10まで),「8+3」(繰り上がりあり) の結果は図1,図2の通りである. 図 1 「4+3」の加法方略の変化(数字は人数) 図 2 「8+3」の加法方略の変化(数字は人数) これをみると,徐々にCAなどの素朴な加法方略 から,より進んだ方略へ人数が変化していることが 分かる.特に「繰り上がりのある加法」の学習後は, COMの加法方略を用いる児童が増えている.しか し,加法方略の変わらない児童も一定の割合で存在 する.特に,加法の指導後でもCOやCF/Uを用いる 人数が大きく変わらないことは,注目に値する. 個別インタビューでは,指の使用も認め,教具は 必要に応じて使えるようにした.全般的に学習が 進むにつれて,教具の使用から念頭操作への割合 が高くなった(図3).また,CA,COなどの素朴な 方略を使い続ける児童は,教具や指の使用が多く, COMに進んだ児童は念頭操作の割合が高かった. これらのことから,教具の使用から離れ,念頭操作 へ移行していくことが,加法方略の進展に関わって いることが分かる. 図 3 使用する教具の変化(数字は人数) (2)個々の児童の加法方略の変容の類型 4回のインタビューを通しての児童の加法方略の 変容を3つの類型(進展型(14),ゆっくり型(9), 行き来型(5))に分類した(括弧内は人数).本節 では,それぞれの型の児童の様子を例示して述べる. その際,「4+3」「8+6」の結果を中心に見ることと し,他の課題は参考とする.なお,表記は次の通り である. 〇指の表示 各指を次のように表す. 左手:L 右手:R 親指:1 人差し指:2 中指:3 薬指:4 小指:5 指を伸ばす:○数字で表す.(例:親指を出す①) 指を折る:●数字で表す.(例:親指を折る❶) 指を同時に出す:並べて表示する. (例:指を3本出す ②③④) 指を順に出す:カンマで区切る. (例:順に3本出す ②,③,④) 〇行動の順序:→でつなぐ.(例:指を3本出して, 次に2本順に出す L②③④→L⑤,①) 【進展型】 ① CAからCOMへの進展 No. 10の児童は,5月の時点で,CAの方略が観察 され,その後徐々に進展がみられた児童である.本 児は5月の時点で念頭操作により解決していた.数
を指やブロックなどの具体物が無くても,数字を見 ながら数えることができた. その後,7月には,「2+6」を「6+2」と置き換え て考え,その方が簡単であると述べた.また,「8+ 3」の課題については,念頭操作を試みるが,3つ分 を数え足していくことがうまくできずに,指を手掛 かりに考えていた.これは,被加数が8で大きい 場合,2加える(+2)ことと3加える(+3)ことは, 児童にとって難しさが違うことを示している.8の 続きを3つ分数えるときに,具体物の手がかりがな い場合は,「8,9,10,11」と数えるのと同時に「(8), 1,2,3」とダブルカウントしなければならない.2 つならどうにかできても,3つはまだ難しいという ことである. №10:「4+3」CA(頭) 5月 「7」(説明を求める) 「心の中で,1,2,3,4,5,6,7」 №10:「2+6」CO(頭) 7月 「さっきと同じ,6,7,8」 (どうして頭でできたか聞く) 「ちょっと簡単」 №10:「8+3」CO(指) 7月 「じゅう・・・」 「ちょっと難しかったから,最初,指で8で,9, 10,頭で覚えて,10の次は11」 №10:「8+3」COM(頭) 11月 「11」(説明を求める) 「8から2をたして10だから,そのあまりの10に 1個たして11だから答え11」 しかし,本児は,11月には念頭操作で「10の構成」 に基づく加法方略を用いることができ,説明もでき ていた.授業中にも9を10に置き換えて考えるなど, 10の構成に基づく加法方略がみられた.加法方略は 素朴であるが,早い段階から念頭操作を行っていた 点が,進展に寄与したと考えられる. ② CA以外の方略からCOMへの進展 No. 18の児童が「4+3」の計算に使った方略は, COM(5)(5月)→CO(7月)→COM(5)(9月)で あった.9月の時点で念頭操作ができた.その際の 説明では,指を用いていたが,指の動きからも,5 のまとまりを意識していることが分かった.また「8 +3」の方略は,CO(5月)→CO(7月)→不明(9月) →COM(11月)であった.11月の時点で念頭操作 で解決した.説明を求めると指を用いたが,途中か らは言葉のみで説明ができた.数を用いた説明がで きるようになってきていることが分かる. №18:「4+3」COM(5)(頭) 9月 「4+3は7」(説明を求めると指使用) 「4出して(R②③④⑤)3だから(L②③④)そ れで,1個使ったから(R①)こっち(L❹)2 個になるから(右手に左手を重ねて)7」 №18:「8+3」COM(頭) 11月 「11」(説明を求めると) 「8で(R①②③④⑤L②③④)3があるから,3 の2を取ってね.それで1個あるから11」 本児は,「4+3」では「4に3の1を使う」と表現した. 「8+3」でも「8で,3個あるから3の2を取る」と「4 +3」の時と同様に考えていることが分かる.まと める単位が5から10に変わっただけである.このよ うに,5のまとまりを意識している本児は,10のま とまりへの移行が容易であったと考えられる. 【ゆっくり型】 ① CAの継続的な使用 No. 27の児童は,CAの段階が長く,9月になって COが見られるようになってきた.5月の時点での数 え方を見ると,指の扱い自体に慣れておらず,一つ 一つ丁寧に確かめながら数える様子が観察された. 7月になり,CF/Uの方略も使われるようになった. 指の扱いもスムーズになってきた.徐々に念頭操作 になっているが,指を折って数を確かめる様子は引 き続き観察された.そして,11月になり,COの方 略も使えるようになった.加数が大きくなるときは, 被加数を指で出した後,加数のみ出して数えるとい う方法をとっていた.以上より,本児は,数に慣れ てきた時期であり,答えを出すにはCOの方略を用 いることで確認している段階であると考える.
№27:「4+3」CA(指) 5月 (R②,③,④,⑤→L②,③,④)少し見て「7」 「4 (R②③④⑤)と3(L②③④)出して,1,2,3,4,5,6,7」 (一つ一つ数えている) №27:「8+7」CO(指) 11月 「8出して(L①②③④⑤R②③④)1,2,3,4,5,6,7(L ①,②,③,④,⑤,R②,③)あれ?」(もう一度「7」 のみ出して)「8出して,9,10,11,12,13,14,15」 ② CF/Uの継続的な使用 No. 5の児童は,7月からCF/Uの方略を使い続け ていたが,加数を数えたすときの数のとらえ方に変 化が見られた.7月の段階では「8+3」をするのに, 8に2を加えた後に,あと一つあるからと指を動かし, もう一度同じ動きをしながら数え直していた. 9月では,8の次に「1,2」と出した後,もう一つ あり,それを出して3つ分になると考えている.そ の後の数え直しはなかった. №5:CA(指) 5月 「8最初に数えて」(R②③④のみ出して,目で 追いながら)9,10,11」 №5:CF/U(指) 7月 「8でしょう(L①②③④⑤R②③④)」次に右 手を広げ「こうやってもう一つあると(L②) 11になる」 そのあと全てを数え直す №5:CF/U(指) 9月 「まず8出して(L①②③④⑤R②③④),1,2(R ⑤,①)で,もう一つあるから,だして3になる から11になる」 №5:CF/U(指) 11月 「まず8出して(L①②③④⑤R②③④)まず2 を出して(R⑤①)1個出せば11」 11月になると,「1,2」ではなく,まず「2」と述 べていた.8に2出す「2」がまとまりとしてとらえ られている.また,3出すうちの2出したので残りが 1というように数の分解もスムーズに行われていた. このように,同じ方略であっても,数のとらえ方の 変化が見て取れる例もある. 【行き来型】 ① COMの試みによる誤答 No. 16の児童は,指や数図を使用している時には CAやCF/Uを用いて正答を得ていたが,念頭操作 を試みるようになってから誤答が目立つようになっ た.11月の時点で,COM(5)やCOMの方略を試みて いる. №16:「8+3」COM(頭) 11月 「8の3のところの2を入れて6.」 和が10までの加法は解決できているが,繰り上が りのある加法は,COMを試みるがために誤答になっ ていた.8の補数の2を入れるところまでは分かっ たが,3から2を引くのではなく,8から引いてしま いその結果の6が答えであると言っている.これは, 念頭での数の扱いが十分できないためと考えられ る. ② 早い時期での自動化 No. 3の児童は,早い時期に自動化に進んでいた. しかし,実際にどう考えるかを問うとCO の方略を 用い,授業中の観察でもCOであることが多かった. 授業中の発話では,COMの方略についての理解が うかがえるものが多いが,実際に使うのは,COで あり,理解することと,実際に使うこととの間には, 時間的な差異が見られた. 5.加法方略の進展モデル 児童の観察から加法方略の進展の道筋を考える と,大方はCA→CO→COMのように進展していく ものの,その途中に位置づく加法方略(指および念 頭での操作)が幾つかあることが分かる.本節では, これらの過渡的な方略が進展にどう関わっているか を考察する.そして,過渡的な方略を組み入れた「加 法方略の進展モデル」を提案する. (1)続きで数える方略(CF/U) 図 4 CF/UとCOの違い(「4+3」の場合) CF/Uは,被加数を指で表し,その続きの指から 加数分数える方略である(図4).この方略を用いる 児童は,被加数と加数が和に組み込まれていること は理解している.つまり,被加数の続きに加数分加
えたものが和であるということである.COの児童 が,それぞれの指で示した数を被加数の続きから数 えるのに対し,CF/Uは,指の出し方が続いている ところが違う.数詞を続きで言うのか,指を続きで 出すのかでどちらの方略を選ぶかが決まってくると 考える. また,CF/Uは,補数をまとまりでとらえられる かどうかでCF/U①とCF/U②に分けることができ る(図5).CF/U①の児童は,被加数「7」に続い て指を出しているのに対し,CF/U②の児童は,補 数の「3」はまとまりで数えている. 図 5 CF/U①とCF/U②の違い(「7+5」の場合) また,CF/UとCOMには次の関係が見られる. 「8+3」 CF/U 8,1,2,3 → 10と1 ※途中,「10のまとまり」を意識している. COM 8+3 → 8+2+1 CF/Uの方略を用いる児童は,被加数の8に3を加 える場合,8に3つ続くということは理解している. つまり,数の続きを意識しているわけである. そこで,8の次に3つ指で出していくが,ここで 「10」になった時に指は全て開かれてしまう.実際, CF/Uを用いる児童には,「もう1本の指がある」や 「あと1つ」などの発話が見られた.つまり,「10と1」 ということが,指の使用によって意識されつつある わけである.この場合,加数が小さいので「あと1 つ」がイメージしやすいが,加数が大きくなると指 を使って(例えば,開いた指を折り返すなど)解決 している.具体物に頼って数える段階ではあるが, 10を意識できることが10の構成に基づく方略COM へつながっていくと考える.このことから,CF/U →COMの道筋が見えてくる. (2)5のまとまりの方略(COM(5)) 個別インタビューの中で,図6のような加法方略 が観察された.被加数「4」と加数「3」を左右の 指でそれぞれ出し,その後加数の1を被加数の方に 移動して「5のまとまり」をつくる方略である. 図 6 5のまとまりの方略COM(5)(「4+3」の場合) 先のCF/UとCOM(5)の間には,次のような関係 が見られる. 「6+2」 CF/U 6,1,2 → 5と3 COM(5) 6+2 → 5+1+2 ※考え方は違うが結果としての指の形は同じ CF/UとCOM(5)は,「4+3」のような被加数と加 数が5以下の場合は,指の使い方に明確な違いがで るが,「6+2」のような5を越える数がある場合,考 え方は上に示した通り違うが,一見同じような結果 になる.CF/Uの方略を用いる児童は,まだ,5の まとまりの意識は低いと思われるが,指を使うこと で,5(指を全て開いた形)で区切りを感じること になり,COM(5)へ移行するきっかけになるのでは ないかと考える. (3)COMへの過渡的な方略COAT COATは,Murataが報告している過渡的な方略 である(表3).今回の研究でも,これに近い方略を 用いる児童が観察された.更に,数の捉え方の違い からCOATには2つの場合を区別できる. 「8+5」を例に見ていくと,COAT①の場合は, 被加数を出したうえで補数を確認するが,COAT② の場合は,加数から補数分を直接引くことで,「10 といくつ」の「いくつ分」が残りの指の形で表すこ とができ,手続きが1つ短縮できているのである.
「8+5」 COM 8+5 → 8+2+3=13 COAT① 8を出して,補数の2を確認する.次 に5を出して,2指を折って残りの3を確認する. →10(8の方)と3(残りの指)で13 COAT② 5を出して,「(8),9,10」と数えな がら,2指を折る.残りの3を確認する.→10(で きている)と3(残りの指)で13 ※補数や数の分解を行う際に,指を使用する. 観察した児童の中には,はじめCOAT①で解決し ているが,次第にCOAT②を使い始める者がいた. このように児童は,自分がやりやすい方法を経験の 中から編み出していくのである.また,この児童は 指を使用していた.指の使用が10の構成の理解に有 効である例であると考える. (4)CF/UとMTCOの関係 Murataが報告しているもう一つの過渡的な方略 MTCO(表3)がある.これは,CF/Uと以下のよ うな関係があると考える. 「8+6」 CF/U 8,1,2,3,4,5,6→10と4→14 (8出して,続けて6出す指の形で10と4 で14) MTCO 8,1,2 1,2,3,4→10と4→14 (8出して,2出すと10.残りを数えて4. 10と4で14) ※8の補数分の2を加数の6から引くと4であるが, それを数えて確認する. CF/Uは,指を続きで数えることで残りの指が4 本あることが分かる.中には,もう一度残った指を 数える児童もいる.一方,MTCOは,10をつくっ た後の残りを数える方略である.これは,今回の研 究では,対象児Dに何回か観察された.指を使って 解決した後「あと残りがいくつか」を確かめている 様子であった.しかし,他の児童にはほとんど観察 されなかった.これは,分解した残りは指の形で判 断できることから,児童にとってそれほど難しいこ とではないためと考える. 10の構成を基にした加法方略(COM)では,加 えられる数の補数がいくつであるかを知るというこ とと,加える方の数を分解するという2つのステッ プが必要になる.繰り上がりのある加法では,そこ が難しいとMurataも指摘している.COATに近い 方略を用いている児童の方が多く観察されているこ とから,特に,指を使う児童にとっては,補数がい くつかを知るということが難しく,その一方で,指 をうまく使えば,分解した後の残りの数は指の形で 分かるのであろう.この事例から,10の補数をまと まりとしてみること,加数から補数を引いた残りを 自動的に求められることの2つが出来るかどうかが COMへの移行につながると考える. (5)加法方略の進展モデルの提案 図7は,上述した過渡的な加法方略を組み入れた 「加法方略の進展モデル」を示している.吹き出し に書かれている内容は,その道筋を通るのに必要と 考えられる知識や理解である. 図 7 加法方略の進展モデル (6)対象児の加法方略の進展の特徴 「繰り上がりのある加法」の学習を通して観察し た対象児の観察の結果をこのモデルにあてはめると 加法方略の進展の道筋は図8 ∼図11のようになる. これを見ると,どの児童もCA→CO→COMへと速 やかには移行していないことが分かる.児童の進展 の特徴としては,どの児童もCF/Uを通っているが, B児のようにCOを経ない場合もある.C児は,計算 &$ &20 㸩 㸻㸩㸩㸩 㸻㸩㸩㸩 㸻㸩 㸻 &)8ղ մ &)8ձ &2 մ &20⿕ 㸩 㸻 㸻 㸻 &20ຍ 㸩 㸻㸩㸩 㸻㸩 㸻 &20 Ѝ ')5 㸩 㸻㸩㸩 㸻㸩 㸻 ᩘࡢ⥆ࡁࡀศࡿ ᑐ ᑐᛂ 㡰ᗎ↓㛵ಀ Ᏻᐃࡋࡓ㡰ᗎ ᇶᩘᛶ ᢳ㇟ᛶ ࡢ୰ ᇙࡵ㎸ࡲࢀࡓᩘ ࡢࡲࡲࡾ ᩘࡢྜᡂศゎ ࡢࡲࡲࡾ ࡢ⿵ᩘ㛵ಀ ᩘࡢྜᡂศゎ ᇶᩘᛶ ᇶᩘᛶ 07&2 㸩 ࡣ࠶ ࡛ ࡽ ࢆ ྲྀࡗ࡚ ࠕࠖ &2$7 㸩 ࠕոࠖ ࡽ ࢆ ྲྀࡗ࡚ ࡛ ᩘࡢᛕ㢌᧯స ᩘࡢྜᡂศゎ ࡢ ࡲࡲࡾ
の仕方を考える場面では,COM(加) (常に加数を 分解する)の考えを述べていたが,個別インタビュー では,COのままであった.一方,COM(5)を経て いるB児とD児はCOMの方略を多様に用いて考えて いた.このことから,「数をまとまりで捉える」と いう基数性の理解と活用が,加法方略の進展に重要 な関わりを持っていると考えられる. 図 8 対象児A(行き来型)の加法方略の進展の道筋 図 9 対象児B(進展型)の加法方略の進展の道筋 図 10 対象児C(ゆっくり型)の加法方略の進展の道筋 図 11 対象児D(進展型)の加法方略の進展の道筋 6.指導への示唆 児童達の様子を長期にわたって追跡することで, 児童が指導前から様々な加法方略を使っているこ と,「10の構成に基づく加法方略(COM)」の指導 をした後でも,児童が用いる加法方略には多様が存 在することが明らかになった. 特に,素朴な加法方略に留まる「ゆっくり型」の 児童は,数の扱いに慣れていないため,具体的な操 作が必要な段階の児童であるといえる.これらの児 童が念頭操作へ移行するためには,ある程度の時間 が必要と考えられる.また,COなどの方略で解決 できるため,COMへの移行を促すためには,何ら かの介入が必要であると考える. また,「行き来型」のNo. 3の児童のように,早い 時期に自動化されてしまい,数についての理解がど の段階であるかが見えにくくなっている児童がいる ことが分かった.指導者は,空で答えが言えるから 大丈夫と考えるのではなく,加法の場面以外も含め て,数のとらえがどの段階であるかを確認する必要 がある. 提案した「加法方略の進展モデル」を用いて児 童の進展の特徴を見ると,CA→CO→COMの間に 多様な道筋を通ることが分かる.特に,CF/Uや COM(5)の方略は,過渡的な方略として,次の方略 へつながって行く例が観察された. 10の構成に基づく方略(COM)を理解し,用い るようになるには,「10のまとまりをつくればよい」 という概念形成をいかにしていくかが必要である. また,10の補数関係を知ることが大切であることも よく知られている.しかし,補数が言えれば解決で きるといった簡単なことではない.10の構成に基づ
く加法方略(COM)を用いることができるように なった児童を見ていくと,課題に応じて使い分け る者もいれば,同じ加法方略(COM(加))を用い る者もいる.今回の調査では,5のまとまりの方略 (COM(5))を用いていた児童Bや児童Dは,10の 構成に基づく方略も多様(COM(加),COM(被), COM(五二))に用いることができていた.ここか らは,今回のモデルで位置づけた過渡的な加法方略 を,指導者は児童の中に見出し,他の方略へとつな げて行くような手だてを準備しておく必要があるこ とが分かる.どの方略を用いるかで,指導の方針を 立てることが出来ると考える. 7.今後の課題 今後の課題として,次の3点を挙げる. ・ 加法方略の進展モデルについては,道筋につい ての検討がまだ十分ではない.特に道筋を通る 際に必要な知識理解について更に考える. ・ 対象児の道筋を表すことができたが,加法方略 の変容の類型との関連についての考察がまだ不 十分である.対象児のデータの分析を更に進め るとともに,他の児童の加法方略の進展とも照 らして,進展モデルについて考えていく. ・ 個別インタビューでは,素朴な方略(CA,CO など)を用いる児童は具体的な教具を用いるこ とが多く,10の構成に基づく方略を用いる児童 は,徐々に教具の使用から抜けていくことが観 察された.今後,加法方略の進展と使用する教 具についての考察を行う. 参考文献 1)丸山良平・無藤隆. (1997).「幼児のインフォー マル算数について」『発達心理学研究』8(2), pp.98−110. 2)湯澤敦子・日野圭子. (2014). 「児童の加法・減法 の方略の進展を促す指導についての研究−学年 が進んでも素朴な方略を使い続ける児童の考察 から−」『科教研報』28 (5), pp.19-24.
3)Fuson, K. C. (1992). Research on learning and teaching addition and subtraction of whole numbers. In G. Leinhardt, R. Patnam, & R. Ahattrup (Eds).
(pp. 53-187). Hillsdale, NJ: Erlbaum.
4)Murata, A. (2004). Paths to learning
ten-structured understandings of teen sums: Addition solution methods of Japanese Grade 1 students. (2), pp. 185-218. 5)平井安久. (1991). 「整数の初期段階における足算 ストラテジーに関する一考察―繰り上がりのあ る計算におけるストラテジーについて―」『日 本数学教育学会誌』73(4),pp. 44-51.
6)Kwon, Y., & Fuson, K. C. (1992). Korean children s single-digit addition and subtraction: Numbers structured by ten.
(2), pp. 148-165.