パーソナルカラーと購買アイテムによるファッション感度の判別
Distinction of Fashion Sensitivity Using Personal Color and
Purchasing Patterns
中原 孝信
1Takanobu NAKAHARA
1 ∗1
専修大学 商学部
1
Senshu University, School of Commerce
Abstract: In this research, we use purchase history data on EC sites of apparel and enumerate emerging patterns by adding information of personal color, which is proposed color psychology. In the computational experiments, we constructed a model that distinguishes between customers with high fashion sensitivity and low customers, and shows that by using patterns, we can improve prediction accuracy and make meaning interpretations.
1
はじめに
本研究は,アパレルを対象とした EC サイトの購買 履歴データを利用して,色を中心とした視覚情報から 顧客の感性を分析することを目的としている.感性は 視覚,味覚,嗅覚,聴覚,触覚の五感をレシーバーとし て外部からの刺激を感じ取る能力として捉えられてお り,特に視覚は脳が必要とする情報の 70%以上を収集 していると言われている [1].感性は経験によって変化 することが知られており,例えば苦味は生得的に毒物 のシグナルとして扱われてきたため,苦味を伴うコー ヒーやビールの嗜好は,その飲用経験によって不快か ら快への獲得と習慣化につながると言われている.ま た最初は興味のない音楽を繰り返し聞くことによって 好意を持つようになるなど,接触回数によって感性に 変化が生じる.これは単純接触効果 [2] と呼ばれ,接触 回数が増えることによって嗜好に変化が生じることが 影響している. 本研究では,ファッション感度の高い顧客と低い顧客 で,購入する衣類とその色にどのような違いがあるか を明らかにする.ファッション感度の高い顧客は低い 顧客よりも購買金額が高く売上に貢献しており,ファッ ション感度の高い顧客に特有の購買特徴を捉えること は,商品開発においても重要な情報になると考えられ る.最終的に,ファッション感度の低い顧客にそれらの 特徴的な要因を基にした外部刺激を繰り返し与えるこ とによって,ファッションに興味を持たせて,EC サイ トの売上増加につなげることが目的である.具体的に ∗連絡先:専修大学商学部 〒 214-8580 神奈川県川崎市多摩区東三田 2-1-1 E-mail: [email protected] は,ファッション感度の高い顧客と低い顧客をアンケー トにより特定し, その感度の違いによって選択される 衣類とその色の関係をモデル化し,分類モデルを構築 する.そして得られたモデルから,意味解釈の妥当性 を考慮した評価を行う. 本研究で利用した購買履歴データとアンケートデー タは経営科学系研究部会連合協議会が主催する平成 26 年度データ解析コンペティションより提供を受けた.以 降 2 節で提案手法について述べ,3 節ではデータを用 いた分類モデルの結果について述べ,4 節でまとめを 述べる.2
手法
本節では,最初に色情報として利用したパーソナル カラーについて説明し,その色情報を利用したパター ンマイニング手法とモデル構築について述べる. データに登録されている色情報は服の持つ色を完全 に表したものではなく,複数の色を持つ衣類の場合は その代表的な色だけが登録されている.しかし,服の 色を単色のテキスト情報だけで表現することは難しく, それらを鵜呑みにして分析しても正しい結果が得られ ない.そこで,不確実な色情報を扱えるようにするた めに,パーソナルカラーを利用した色の分類を行い,そ の分類を基に分析を行う. パーソナルカラー [3] は,色彩心理学や調和論を基 に発展してきた概念であり,その人の肌の色,目の色, 髪の色によく調和する色のグループを表している.図 1 はパーソナルカラーの4シーズン法を示している. 人工知能学会研究会資料 SIG-FPAI-B508-13 - 69 -Warm
ベース Cool シーズン Spring
カラー
Autumn Summer Winter
図 1: パーソナルカラーの4シーズン法 1つのカラーはWarmとCoolのベースと4つのシーズン の階層構造で表現される. パーソナルカラーでは,ベースカラーとして暖かい 感じの色を表すイエロー (ウォームベース) と,冷たい 感じの色を表すブルー(クールベース) のどちらかに全 ての色が属するという考えが前提で,それら2つの色 を基調色として扱う.更にウォームベースに属する場 合はスプリングかオータム,クールベースに属する場 合はサマーかウインターに分けられる.表 1 は色彩心 理学の研究によって示されている各シーズンの持つイ メージを表したものである. 表 1: パーソナルカラーとイメージ 個性のイメージ スプリング 明るい,若々しい,活発な,愛らしい, ポップな オータム 落ち着いた,粋な,大人っぽい,ゴージャ スな,洗練された サマー 静かな,さわやかさ,優しい,クール感, 優確な ウィンター シャープな,鮮やかな,澄んだ,高級な, モダンな そしてそれぞれのシーズンごとにカラーが割り当て られており,1 つの色は PCCS と呼ばれる明度と彩度 と色相環によって決められている.ただし1つの色が 異なる複数のシーズンに属する場合もある1.また,全 ての季節に似合う色として,白,黒,グレーはコモン カラーと呼ばれ,全てのシーズンに属している. 利用するデータの色情報は,「バーガンディー」のよ うに衣類の色名がテキストで入力されており,それら の名前と4シーズン法で扱う PCCS によるカラー情報 をマッチングさせる必要がある.本研究では,色の検 索サイトである「色検索大辞典」2を利用してマッチン グを行った.色検索大辞典では,色を表すテキストを 入力し,それに対応する RGB が得られるため,得ら れた RGB と最も近い RGB を持つ PCCS を特定した.
2.1
モデル構築
分類モデルを構築するにあたって,本研究では目的 変数としてファッション感度の高い顧客群を正例とし, 1例えば,バーガンディーという色はスプリングとオータムに属 する. 2http://www.colordic.org/search/ 低い顧客群を負例と定義した.ファッション感度の高 低は,ファッションに関する 4 項目のアンケート結果 を利用することで定義した.具体的には,「服装は個性 を発揮するための手段のひとつだと思う」,「ファッショ ンは,ライフスタイルの一部だと思う」,「他人のファッ ションチェックをよくしている方だ」,「服装が自分の価 値を高くも低くもすると思っている」という 4 つの質 問を対象にして,3 つ以上の質問に Yes と回答してい れば高感度 (678 人),4 つ全ての質問に No と回答して いれば低感度 (471 人) として定義した. そして,説明変数として衣類とパーソナルカラーの 関係を表した変数を用いることで,ファッション感度 の高低によって選択している商品とパーソナルカラー の違いを表すモデルを構築する.具体的には,説明変 数として,顧客の購入した商品とその商品のカラーを 表した 2 値変数を設定する.例えば,ワインレッドの T シャツを買ったことがある顧客は,「T シャツ ワイン レッド」という変数の値が 1 となり,購入のない顧客 の値は 0 となる.その際にパーソナルカラーの階層構 造を利用したアイテムを生成することで階層分類を考 慮したパターンの抽出を行う.例えば,ワインレッド はベースが Cool でシーズンが Winter に属することか ら,「T シャツ Cool」,「T シャツ Winter」という変数 を同様に作成する. ファッション感度の高低それぞれに特徴的な購買パ ターンを発見するために,支持度 (support) と増加率 (GR: Growth Ratio) を用い,それらの値がユーザの設 定した最小支持度および最小増加率以上となる顕在パ ターン (emerging patterns) を列挙する. 支持度と増加率の定義は次のとおりである.顧客を トランザクション,そして商品とカラーのペアをアイ テムと考え,正例,負例のトランザクション集合をそ れぞれ Dp,Dnで,また Dpにおいてアイテム a, b が 共起する部分集合を Occp(a, b) で表す.Dpにおける 2 つのアイテム a, b の支持度 supportDp(a, b) は,式 (1) に示されるように,アイテム a, b の共起確率として定 義される. supportDp(a, b) = |Occp(a, b)| |Dp| (1) また,Dp における 2 つのアイテム a, b の Dnに対す る増加率 GRDn→Dp(a, b) は,式 (2) のとおり定義され る.これは,負例での共起確率に対する正例での共起 確率の比であり,1.0 より大きければ,アイテム a, b は 正例に特徴的な共起パターンと言える. GRDn→Dp(a, b) = supportDp(a, b) supportDn(a, b) (2) 同様の考えを負例にも適用し,正例と負例それぞれ に特徴的な顕在パターンを列挙する. - 70 -モデルを構築するための説明変数は、列挙された顕 在パターンとそれ以外にファッションに関するアンケー ト項目や性別などのデモグラフィック属性を利用する. 利用した説明変数の一覧を表 2 に示す. 表 2: モデルに利用した説明変数一覧 説明変数 説明 ア ン ケ ー ト 関 係 (97項目) 参加したイベントに関する質問,ファッ ションの課題,ファッション観,ファッ ション変化,幸福感,人生重視価値,意 識,購入時期 各シーズンの購入 割合 顧客ごとに購入割合を合計すると1に なる 顕在パターン(23 項目) 正例21件,負例2件(最小GR=1.1, 最小support=0.1で列挙) 性別 男女 年代 10 代,20代前半,20 代後半,30 代前 半,30代後半,40代以上 分類モデルにはロジスティック回帰モデルを用いる. 分類モデルにおける目的変数を y∈ {0, 1}(0:負例,1:正 例),p 個の説明変数ベクトルを x = (x1, x2,· · · , xp) と すると,ロジスティック回帰モデルは式 (3) で表される. Pr(y = 1|x) = f(β⊤x + β0 ) (3) f (·) はロジスティック関数であり,f(a) = 1/(1 + exp (−a)) で定義される.β,β0は,それぞれ回帰係数 ベクトルと定数項であり,これらは訓練サンプルから 推定する.また,最終的なモデルは AIC を最小化する 変数増減法による変数選択を行った.変数選択には分 析結果の解釈が容易になることに加えて,手元のデー タへの過剰適合を抑制し予測性能が向上するなどの利 点がある.
3
結果
ファッション感度の高い顧客 678 人と低い顧客 471 人を対象に前節で示した方法によりモデルを構築した. モデルの構築はデータ・セットから訓練データとテスト データを 9 対 1 の割合でランダムにサンプリングして テストサンプル法で実施した.予測精度は 78.1%で,3 比較的高い正解率を示している.表 3 は,変数選択に よって選ばれた変数の一覧を示している.感度の高い 顧客に顕著な変数としては,ファッション観が上位に きており,ファッションはアイデンティティーを表現す るものや,人からどう見られるかを気にしたり,新し いファッションにチャレンジしたりするなどファッショ ンに対する高い意識が現れている.一方で感度の低い 顧客は,店員や友人の意見を聞いて服を選んだり,何 32 つの顧客集合をランダムに選択した場合の正解率は 59%であ る. を着ればいいかが判断できなかったりと,ファッション に対する意識の低さが現れている.図 2 は,モデルに 出現している感度の高い顧客に特徴的なパターンを 4 つと感度の低い顧客に特徴的なパターンを 2 つ示して いる. Tシャツ/ カットソ ニット/セータ シャツ/ブラウス パンツ スニーカ パーカー 図 2: 選択された顕在パターンの一覧 各パターンの出現アイテムにチェックをつけている.行が パターンで列は衣類カテゴリとその色を示している. ファッション感度の低い顧客に顕著なパターンであ る「低感度 1」はホワイトの T シャツ/カットソー,「低 感度 2」はグレーのニット/セッターをそれぞれ購入し ているパターンであり,いずれも単一の衣類だけを購 入し,またその色はコモンカラーであるホワイトとグ レーを選択している.ファッション感度の低い顧客は, どんな服にでも合わせやすい無難な色を選択している ことがわかる. 一方でファッション感度の高い顧客に顕著なパター ンが持つ特徴は,複数の衣類カテゴリと多様な色を選 択しており,またパターンには異なるレベルのアイテ ムが出現している.これは階層分類の効果によるもの である.例えば高感度 9 は,サマーシーズンに該当す る色のシャツ/ブラウスとパンツ,そしてブルー系のパ ンツを購入している.また,高感度 13 は,フォームカ ラーのスニーカーとクールカラーのパーカーを購入し ている.このようにファッション感度の高い顧客は,白 やグレーの衣類を単独で購入するのではなく,パーソ ナルカラーを考慮したトータルコーディネートを意識 した衣類を購入していることがわかる.4
終わりに
本研究は,アパレルの EC サイトに関する購買履歴 データを利用し,色情報を扱う方法としてパーソナル カラーによる顕在パターンの利用方法を提案した.ア パレル系のデータでは色の扱いが問題になり,単色のテ キスト情報をそのまま扱った分析から適切な結果を得 ることは難しい.本研究で提案したパーソナルカラー を利用した階層分類を用いることで,意味解釈が可能な 高精度の分類モデルを構築できることを示した.ファッ ション感度の高い顧客は,流行やコーディネートに関 - 71 -表 3: 最終的に選択された変数 説明変数 詳細 係数 P値 5%有意 Q8 8 ファッション観 ファッションは自分のアイデンティティの表現だと思う 2.6851 0 * Q8 14 ファッション観 自分のファッションが人からどう見られているか気にする方だ 2.1953 0 * Q8 5 ファッション観 ファッション動向に敏感な方だ 1.7848 0 * Q8 11 ファッション観 できるだけ新しいファッションにチャレンジするようにしている 1.5204 0.0008 * Q8 16 ファッション観 服を買うことが気分転換やストレス解消になっている 1.3391 0 * Q8 6 ファッション観 周りの人とは違った服装をする方だ 1.2825 0.0006 * Q8 12 ファッション観TPOに合った服装を選ぶよう気をつかっている 1.1888 0 * 高感度19 パンツ ベージュ 1.0774 0.0172 * Q8 20 ファッション観 服の品質や機能が気に入れば,ブランドは気にしない方だ 0.9669 0.0002 * Q8 29 ファッション観 特定の好きなブランドがある 0.8722 0.0011 * 高感度13 スニーカーWarmパーカーCool 0.7384 0.115 高感度18 Tシャツ/カットソー 冬 パンツ グレー系 0.7084 0.1167 Q8 19 ファッション観 古くなったものでも使えるものは使う方だ 0.7074 0.0095 * Q8 3 ファッション観 着るものを決める時は,異性の目を意識する方だ 0.6686 0.0773 Q8 27 ファッション観 自分が気に入ったアイテムを色違いでそろえているものがある 0.6594 0.0154 * 高感度9 シャツ/ブラウス 夏 パンツ 夏 パンツ ブルー系 0.6342 0.1304 Q2 11 意識 買い物の際にブランドを意識する方だ 0.6038 0.0002 * Q3 6 人生重視価値 個性(独自性,異質,異能,特殊,あるがまま等) 0.591 0.0002 * Q8 1 ファッション観 芸能人や有名人のファッションを真似してみることがある方だ 0.59 0.0853 * Q8 17 ファッション観 家での普段着には気をつかわない方だ 0.5352 0.0311 * Q1 3 2015年参加イベントBBQ・アウトドア 0.5318 0.0487 * Q3 16 人生重視価値 身近な評価・必要性(褒められる,必要とされる等) 0.4553 0.0082 * Q3 17 人生重視価値 富(金,財産,貯金,豪遊,金もうけ等) 0.3132 0.0794 Q6 7 購入時機 旅行・イベントの前 0.2607 0.0708 Q9 1 ファッション変化 ファッションに対する興味 0.2126 0.076 Q3 14 人生重視価値 歴史(老舗,伝統,遺跡,文化等) -0.218 0.1487 Q3 7 人生重視価値 最先端(科学,テクノロジー,IT,流行,先駆者等) -0.2982 0.0712 Q2 12 意識 時間をかけても安いものを探すように努力している -0.3433 0.0165 低感度1 Tシャツ/カットソー ホワイト系 -0.4705 0.1493 男性 -0.5912 0.0713 Q3 1 人生重視価値 安定(安心,保守的,磐石等) -0.6723 0.0005 * Q1 4 2015年参加イベント 音楽フェス -0.6783 0.0333 * Q8 2 ファッション観 服を選ぶ時は,店員や友人の意見を聞いてから決める方だ -0.708 0.0252 * Q7 5 ファッション課題 状況に応じて何を着ればいいかわからない -0.7081 0.0495 * Q1 8 2015年参加イベント ハロウィンパーティ -0.7413 0.0757 低感度2 ニット/セーター グレイ系 -0.7883 0.0152 * Q7 2 ファッション課題 ブランドの違いがわからない -1.1195 0.0602 Summer -6.4492 0.0381 * する意識が高く,複数のファッションアイテムとパーソ ナルカラーを意識した色の選択を行っていることが明 らかになった.一方でファッション感度の低い顧客は, 友人や店員の意見を聞いたり,状況に応じた服の選択 ができないことがわかった.また購入する商品は単一 のカテゴリで白やグレーなどのコモンカラーを選択し ている.売上を向上させるためには,トータルコーディ ネートとパーソナルカラーを考慮したファッション情 報を提供し,繰り返し接触させることでファッションに 関する感性を育てていく必要がある.
謝辞
本研究は,H28 年度,専修大学卒の櫻田佳祐氏との共 同研究の成果を加筆修正したものである.また本研究の 一部は,これまで取り組んできた宇野 CREST プロジェ クトの研究成果であり,また JSPS 科研費 JP15K17146, 16H02034 の助成を受けたものです.参考文献
[1] Hult´en, Bertil. Sensory Marketing: Theoretical and Empirical Grounds (Routledge Interpretive Marketing Research), Taylor and Francis, p.175, (2015).
[2] Zajonc, Robert B. “ Attitudinal effects of mere exposure ”. Journal of Personality and Social Psychology 9 (2, Pt.2): pp.1–27. doi:10.1037/h0025848. (1968).
[3] 神山 瑤子, 長坂 信子,「パーソナルカラーの教科 書」, 新紀元社,(2004).