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東アジアの国際商取引における構造変化と対応の在り方 : 通貨の多様化と商取引への活用

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東アジアの国際商取引における構造変化と対応の在

り方 : 通貨の多様化と商取引への活用

著者

美野 久志

雑誌名

商学論究

64

4

ページ

141-160

発行年

2017-03-10

URL

http://hdl.handle.net/10236/00025459

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 はじめに

1997年秋に生じたアジア通貨危機は、本来、関係する東南アジア諸国およ び韓国の輸出依存型経済構造と、ドルを軸とした為替制度を維持したことに よる自国通貨の過大評価、および、それを引き金とした輸出不振に起因する ものであるが、通貨・金融面からみれば、タイ・バーツのように為替管理体 制が脆弱なままでの投機的な資本取引に対する防護策の欠如、あるいは、韓

東アジアの国際商取引における

構造変化と対応の在り方

通貨の多様化と商取引への活用

− 141 − 要 旨 東アジア諸国では199798年に生じたアジア通貨危機の反省に基づき、 ドル中心から、自国通貨重視の為替・金融体制に移行した。この動きは、 ASEAN 等の東アジア諸国の社会・経済の多様性を反映したものであり、 これからの東アジア地域・各国との商取引では、アジア通貨(人民元およ びアジア各国の通貨)を活用することが貿易や事業発展のカギとなる。こ れとともに、東アジアでは、「取引の現地化」「調達・生産・販売の現地化」 「決済(通貨)の現地化」が進行しており、企業はこれに対応するため、 商取引方式、決済、通貨選択について自らが設計・選択を行い、商取引の 最適化を図っていく必要がある。

キーワード:アジア通貨危機 (Asian Financial Crisis)、東アジア社会・経 済の多様化 (Diversification of the Asian social and economic structure)、取引の現地化 (Localization of commercial transac-tions)、決済の現地化 (Localization of accounts’ settlement)、 商取引の最適化 (Optimization of business development)

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国のように原材料・部品等の工業用資材および技術における過度な対外依存 体質のために、急激な外貨準備の減少を招いたことへの準備体制が整ってい なかったことなど、為替・金融制度上の問題が根深く関係している。 こうした為替・金融上の課題に対処し、東アジアにおける貿易・経済発展 を確保するために、アジア通貨危機直後の2000年頃からアジア共通通貨構想 が日本を含むアジア金融界において検討された。その代表的な構想として、 APEC(アジア太平洋経済協力、以下、APEC という)共通通貨単位の提案 (Ⅱで論述)などがある。そこでは、APEC 通貨同盟の成立を最終目的に掲 げ、第一段階として APEC 共通通貨単位の発足を目指すものである。 しかし、こうしたアジア共通通貨に関する構想は、いずれも通貨・金融の 側面から検討を加えており、東アジアにおける現実の国際商取引、および、 そのトータルとしての東アジアの貿易実態を直視したものではなく、商取引 の現実から遊離した非現実構想であったために、具体性を帯びることなく、 そうした議論は次第に消滅していった。その経済的背景は、アジア通貨危機 以降、特にリーマンショック以降に東アジアにおける国際商取引を取り巻く 貿易・経済環境が構造的に変化したことにある。 19971998年のアジア通貨危機後の東アジアにおける国際商取引・貿易構 造を根本から変化させたのは、次の3つの要因である。

1)ASEAN の自由貿易体制としての ASEAN 自由貿易地域(以下、AFTA と いう)における域内関税の削減・撤廃が進捗し、2003年初頭までに ASEAN の先行6カ国1)では、de-facto の統一自由貿易市場が成立したこと。 2)2007年のサブプライム住宅ローン危機に端を発した世界的な金融危機 (いわゆるリーマンショック)を踏まえて、インドネシアやベトナムなど ASEAN 主要国の間に通貨防衛の意識が高まったことで、その具体的な政策 として対外決済における自国通貨(=現地通貨)の使用を禁止し、併せて、 国内取引決済に現地通貨の使用を義務付ける自国通貨優先主義を打ち出して、 1) シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ブルネイの6カ国。

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外部から波及してくる資本投機リスクを排除する動きが広がったこと。 3)日本企業をはじめとする先進各国企業の相次ぐ対東アジア投資によって、 企業経営における「グローバル化」「現地化」が進んだことから、国際商取 引において「取引の現地化」「調達・販売の現地化」「決済の現地化」が進捗 し、東アジアにおける調達・生産・販売の取引スキーム、および貿易取引と 決済において現地企業の経営・損益を重視する動きが深化した。これに伴っ て、「現地通貨を活用した取引」「現地通貨利用による為替リスクの少ない商 取引方式と決済」が拡大しつつあること。 本稿においては、上記の構造変化要因のうち、2)、3)を中心として具体 的検証を行い、まとめとして東アジアの商取引構造の変化に対して企業がど のように対応すべきかについて、若干の提言を行う。 1)先行研究とその問題点 19971998年のアジア通貨危機は、東南アジアおよび韓国における為替・ 金融体制の脆弱性に起因するとの議論が広がったことから、2000年代初頭か らリーマンショック前までの間にアジア共通通貨を将来的に実現させること で、投機的資本取引を防止し、為替と商取引の安定を志向しようとする考え 方が一部の金融関係者等の間で検討された。 その代表的な議論として、近藤健彦(2000)が提案した「APEC 共通通貨 単位」の創設構想がある2) 近藤は、APEC 共通通貨への道のりを6段階のステップによる積み上げと して設計し、最終的に APEC 共通通貨同盟を発足することを構想した。そ の第1段階として、APEC 共通通貨単位を創設することを提唱した。その基 本的コンセプトは、

 アジア共通通貨構想に関する先行研究と国際商取引の

環境変化

2) 近藤健彦(2000) アジア太平洋共通通貨論』JETRO

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(1) ドル、円、人民元、韓国ウォン、タイ・バーツなど APEC 参加主要国 の通貨カクテル(バスケット)とする。(2) 当面、価値表示の単位としての み使用し、APEC 域内の貿易・投資の表示単位として使用する。ただし、民 間企業等の取引当事者が貿易や投資の表示単位として使用するかどうかは、 「契約の自由の原則」に任せる、というものである。 この構想には、共通通貨という壮大な考え方において根本的に欠如してい る課題があった。それは、まず、国際商取引とは貨物・サービスの移動を伴 う実需に基づく取引であり、価値表示の単位としてのみ使用することは商取 引の現場での利便性・実現性がきわめて低いことがある。次に、ドル、円、 人民元、韓国ウォンはいずれも経済強者の通貨であるが、東アジア、特に東 南アジア諸国の通貨は途上国の通貨として、経済的に弱い諸側面を有するも のである。アジア共通通貨単位を APEC 参加主要国の通貨カクテルとして 構想することは、東南アジア諸国の経済的劣位の側面を直視しておらず、ア ジア通貨危機の反省を織り込んでいないという問題を内包している。また、 何よりも、緩やかな経済協力を志向している多数の APEC 加盟国の通貨を 包括的に括るような通貨単位は現実性が乏しいという問題を含んでいる。 こうしたことから、アジア共通通貨構想は fade-out し、東アジアの国際 商取引および貿易の現実に即した商取引方式と貿易決済が行われる状況へと 移行していった。 2)東アジア諸国の非共通性・多様性への配慮 この流れを受けて、宿輪純一(2006)3)は、EU や NAFTA(北米自由貿易 協定)の域内における加盟国の GDP 格差は10倍以内であるが、ASEAN 各 国内では域内経済格差が大きい。また、一人当たり GDP においても、シン ガポールの一人当たり GDP はミャンマーの約100倍以上(2005年当時)も あると述べており、東アジアは「非共通性」(共通性の低さ)、「多様性」に 3) 宿輪純一(2006) アジア金融システムの経済学』日本経済新聞社

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配慮した経済運営がなされるべきと指摘した。 また、西村陽造(2012)4)は、アジア各国間の所得水準格差が大きい中で、 アジア通貨危機以前のようにドルにリンクするような固定的な相場制度を採 ることは、為替相場のミスアラインメント(均衡相場からの乖離)を拡大さ せることにつながり、アジア通貨危機、さらにはリーマンショック以降にお いて、東アジア諸国が為替・金融制度の安定的運用を通じて経済の持続的な 成長を図ろうとした動きに資するものではない。そうした反省を踏まえて、 東アジア諸国は(当該国の通貨を過大評価することになりかねない)ドルに リンクするような為替制度は望ましくなく、所得水準や各国の経済実態を反 映させるような柔軟な為替体制、即ち、各国の実情に基づく制度(為替フロー ト制など)を採るべきであるとしている。 こうして、アジア通貨危機直後に一部で議論されたアジア共通通貨に関す る構想は否定され、東アジア各国の経済、所得、産業力、貿易実態に見合っ た各国別の為替・金融制度を採用すべきとの見解が東アジアで一般化していっ た。 筆者は、2013年と2014年にベトナム、香港においてアジア通貨および人民 元の動向に関するフィールドワークを行ったが、その結果として、東アジア では各国の貿易・経済の実態に基づいた為替・金融制度が採用され、貿易と 経済の成長のための安定的な為替体制が取られていることを確認した。 3)WTO から FTA への傾斜と国際商取引の環境変化 2008年7月の WTO ドーハラウンド交渉(2001年から交渉開始)の決裂に よって、東南アジア、中国、韓国などが対外貿易政策を従来の WTO 中心主 義から自由貿易協定、経済連携協定(以下、総称して FTA という)の締結 に向けて一斉に走り出したために、企業経営のグローバル化・現地化と相俟っ 4) 秦忠夫・本田敬吉・西村陽造(2012) 国際金融のしくみ』(第4版)有斐閣アルマ。 西村陽造は本書の第12章「アジア通貨圏の現状と将来」を担当しており、本稿の該当 の論述では、同氏の見解を参照している。

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て、取引の現地化が一段と進むという国際商取引上の構造変化が現出した。 ASEAN の FTA である AFTA において、先行6カ国は2003年までにモノ の貿易における通常品目の関税を5%以下に削減した。これと相俟って、 2008年12月には「日本・ASEAN」FTA が発足し、日本企業が AFTA 加盟国 に生産拠点や販売・サービス法人を設置する動きが一段と進展していった。 こうした一連の新たな商取引環境の構造変化によって、タイ、インドネシ ア、マレーシア等の AFTA 域内に集積した日系生産法人の間で企業内貿易 (あるいはグループ企業間貿易)が拡大し、「関税低減メリットを享受でき る ASEAN 域内国から調達し、ASEAN 域内で生産し、ASEAN 域内で販売す る」域内貿易が広範に行われるようになった。そこでは、調達・生産・販売 など取引の現地化、アジア統括拠点や東アジアの貿易金融センター(シンガ ポール、香港)を中核とした「現地取引完結型」の商取引が一般に行われる ようになり、同時に、取引の実行においては「為替リスクのない現地通貨に よる決済」が広範に行われるようになるという変化が現れた。 1.アジアの貿易・通貨体制の変化と日本企業のアジア事業展開 2015年67月にギリシャの債務問題が再燃し、債務返済に対する懸念、 ギリシャの EU 離脱とその欧州経済への負の影響が世界的に問題となった。 EU 加盟国はインフレ率、財政水準、為替の状況、長期金利などの収斂基準 を満たせば、直ちにユーロを導入することとされる。これによれば、2004年 以降に EU に加盟したブルガリア、ハンガリー、チェコなど産業の発展度が 独、仏、伊の水準に達していない国々も収斂基準を満たせばユーロ導入を促 されることになり、ユーロ圏の安定度は却って脆弱になる可能性を内包して

 アジアの貿易・通貨体制の変革:

実需原則と貿易の自由化を第一とする

∼単一通貨ユーロ中心の EU と、各国経済の実情に

配慮する東アジア∼

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いる。こうした社会経済的に課題を抱える欧州では、ユーロ圏の単一通貨で あるユーロを主な貿易の決済通貨としており、ギリシャ問題に象徴されるよ うに、ユーロ圏の社会経済上の不安定要素が顕在化すると、それが欧州全体 の金融の不確実性につながり、貿易の発展に対してマイナスの影響を与える 可能性が強まる。 一方、アジアにおける貿易取引とその取引決済(通貨選択)は、リーマン ショック以降に劇的に変化し、「ビジネスのグローバル化に対応するために」、 「商取引の態様に応じて効率的な決済を行うために」、「取引・為替リスクの 軽減のために」、さらには、「企業グループ全体の利益の向上のために」、ド ル、円、人民元、アジア通貨を複合的に利用する方式にシフトしてきている。 アジアにおける貿易・通貨体制の基本は、第一に「実需原則」であり、経 済運営のベースとなるものは貿易という実需であって、域内経済の自由化に ついては、貿易という実需を拡大するために極力自由化を進める一方で、 「為替や金融のシステムについては、貿易を補完するものとして必要な範囲 で自由化を行う」ことを基本とするように変化した。つまり、アジアの貿易・ 通貨体制は、「貿易の自由化、自由貿易市場の形成に対しては先進的に統合 の方向に進む」一方で、「金融システムについては、これを安定的に発展さ せるために、必要な自由化を漸進的に進める」という考え方を徹底しており、 為替・金融の自由化は実需原則に抵触しない形で慎重に進められている。第 二は、「二度とアジア通貨危機を起こさないことを原則とし、この原則の下 でゆるやかに金融の自由化を行う」ことを金融制度上の基盤としたことであ る5)。1997 98年のアジア通貨危機では、タイ、インドネシア、韓国が通貨・ 経済危機に見舞われ外貨準備が枯渇したために、これら関係国の内外企業で は生産用投入財の輸入に支障を来すなど深刻な経済の停滞に陥った。また、 20082009年のリーマンショックがアジアに波及した際には、基軸通貨であ るドルの信任が揺らいだために、アジアで広く貿易決済手段として使用され 5) 2015年5月18日の関西学院大学・東京商工会議所共催セミナーにおける日本銀行国際 局審議役の清水季子氏の基調講演を参照。

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ていたドル建て取引で多くの関係企業が為替差損を蒙るなど、「ドル建て取 引を基本とするアジアの取引構図を見直す」動きが急速に拡大していった。 その象徴的な事象が人民元の国際化であり、中国は2009年7月より人民元建 て経常取引における人民元の使用を推し進めている。その後、ASEAN 諸国 などでは、アジア通貨危機およびリーマンショックで得た教訓を生かし、か つ、自国経済の防衛と自国通貨の保護のために「国内取引における自国通貨 使用義務」の方針を相次いで打ち出してきたことから、アジアにおける国際 商取引は、従来東アジアビジネスで使用されてきたドルと円のほかに人民元 とアジア通貨を加えて、通貨を複合的に使用する時代に入ってきた。 2.「点の配置」から「面の展開」への変化 この流れを決定的にしたのは、「チャイナ・プラス・ワン」と称される ASEAN 等の東アジア諸国への日本企業の事業拡大である。1990年代におけ る中国の市場経済システムの導入、さらには2001年末の中国 WTO 加盟によ る市場開放と貿易自由化措置が実行に移されるのと軌を一にして、日本企業 は中国めがけてラッシュしたが、WTO 加盟効果の一巡、中国沿海部におけ る賃金・生産コストの上昇等によって中国生産のメリットが薄れる一方、 AFTA の成熟、日本と ASEAN 諸国との二国間 FTA の相次ぐ発効によって、 東南アジアにおける日本企業の「プラス・ワン」の生産拠点設置が進んだ。 さらに日本企業の東アジア展開の構図を変えたのは、2010年1月までに実施 された 「ASEAN・中国」FTA におけるノーマルトラック品目の関税撤廃、 ASEAN・中国一貫物流ルートの開拓などによって、ASEAN・中国という約 20億人の統一的な自由貿易市場が段階的に形成され、日本企業の東アジア進 出が「点の配置(ASEAN 各国等への個別生産基地の設置)」から、「面の配 置 (ASEAN、中国を含む東アジアへの広域的な事業ネットワークの展開)」 へ大きく変化したことが与って大きい。こうした流れを一層推し進めること になったのは、香港とシンガポールを中心とする貿易・金融統括拠点(また はアジア統括拠点)を設置する動きが、大手企業のみならず中堅・中小企業

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等にまで広がり、それぞれの企業がアジアで取り組む貿易取引の商流(貿易 当事者間の契約、インボイス発行等の契約履行業務、貿易決済)と物流業務 を分離・履行する「商流と物流の分離」が、取引スキームとして広く行われ るようになったことが、東アジアにおける取引の仕組みを大きく変化させる トリガーとなった。 日本企業のアジア展開におけるネットワーク型事業構造へのシフトによっ て、従来のような輸出・輸入という直線的な取引形態は、「ネットワーク型、 網の目型の取引形態」にシフトし、また、これに伴って二国間型の取引形態 から、アジアに展開するグループ企業間(例えば、兄弟会社間)による「海 外間取引(三国間取引)」 の形態を持つ複合的な取引形態へと発展している。 貿易決済および決済通貨に関して言えば、二国間取引中心の取引形態では、 従来ドル建て、または円建てという一つの国際通貨で取引全体の決済を行う ことができたが、アジアにおいて複合的な取引形態が拡大するにつれ、取引 決済においても、これに人民元、アジア通貨を加えて、複数の通貨を利用す る取引方式へと変化しつつある。東アジアの商取引・決済方式は、ドル、円、 人民元、アジア通貨という多様な通貨を取引の実態に合わせて活用し、その 取引が企業グループの事業拡大と経営効率向上のために最適化される「商取 引における通貨多様化の時代」に入ったと指摘することができる。

 ASEAN の社会・経済の多様性と、貿易・経済の構造変化

1.AEC の発足と段階的貿易自由化 ∼各国経済の実情を反映∼ EU は、超国家的な組織運営がなされ、ユーロはその中心的な単一通貨と しての役割を果たしている(ただし、EU にはユーロ圏非加盟国がある)。 EU では、欧州委員会が政策提案や政策執行機関として政府の役割を果たす とともに法案の提出権を持ち、欧州議会は超国家レベルでの立法を担当し、 欧州理事会は最高意思決定機関として EU の方針や政策の大綱を決定する (個別・具体的な政策決定は閣僚理事会による)。こうして、EU は米国型 の連邦制のような政治運営がなされ、ギリシャ問題で示されたように、そこ

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では貿易・為替政策などの面でも国家主権が制限されることが多い。 一方、ASEAN 加盟諸国は、AFTA という地域貿易協定を通じて域内の広 域貿易自由化に取り組んでいるが、ASEAN 各国は、国家主権を ASEAN に 移譲しているわけではない。ASEAN には統合的な行政機構はなく、AEC に ついては ASEAN 事務局内に ASEAN 経済共同体部という事務組織を持つに 過ぎない6)。ASEAN の貿易自由化への取組みは AFTA から2015年末に発足 した ASEAN 経済共同体(ASEAN Economic Community、以下、AEC とい う)に移行したが、AEC における貿易自由化はあくまで加盟各国において 関係法令の制定や行政措置等を通じて国内措置として実施されるものであり、 「ASEAN の貿易自由化は、各国の経済・産業の実情や経済発展の段階に応 じて実施される段階的自由化の特徴を持つ」ものである。 2.ASEAN の社会・経済の多様性と経済活動 EU が欧州連合として1993年11月に発足することができた背景として、欧 州の中に存在する幾つかの共通の土壌がある。一つは民族的な同質性、共通 の宗教であるキリスト教、次に、1950年のシューマン宣言に盛られた「二度 の世界大戦で荒廃した欧州を復興させ、平和を実現する」という過去の歴史 的体験に対する反省と復興への共同認識、さらには欧州域内の市民に対し 「ヨーロッパの市民」という人間的・社会的同質性概念を普遍化させたこと などである。こうした非政治的共通性が欧州結束の土壌となっている。 一方、ASEAN やアジアには民族的、宗教的、歴史的(戦争体験を含む)、 あるいはアイデンティティ上の同質性は薄い。アジアの民族は漢族、ジャワ 族、マレー系、インド・アーリヤ系などの多種に及び、宗教は仏教、イスラ ム教、キリスト教、ヒンドゥー教など多岐にわたる。 筆者は、2013年から2年連続でベトナム訪問の機会を得た際に、日系銀行

6) ASEAN 事務局には、ASEAN 経済共同体 (AEC) 部と、ASEAN 安 全 保 障 共 同 体 (ASPC) 部、ASEAN 社会・文化共同体 (ASCC) 部、地域社会法人部の4つの部局が ある。

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関係者から「インドシナや東南アジア諸国は、お互いに他国への違和感があ り、互いの社会習慣を受け入れないところがある」7)とのコメントを得た。 それは民族的・宗教的・社会生活上の相違、また、第二次大戦時に受けた植 民地支配の影響(言語、文化など)から来ていると考える。 もう一つ、注目しておかなければならない点は、ASEAN を含む東アジア 域内の経済格差に関する問題である。アジア諸国の一人当たり国民所得(一 人当たり GDP)をみると、5万ドル超のシンガポール、1万ドル超のマレー シア、5,000ドル超の中国、タイ、3,000ドル水準に達したインドネシア、フィ リピン、1,0002,000ドル前後のベトナム、インド、1,000ドル以下のインド シナ地域(ミャンマーなど)と所得水準が大きく異なる(第 1 表)。経済の 発展度合いからみれば、一人当たり国民所得が3,000ドル水準以上の国々は 中進国の領域に来ており、こうした経済力が備わってきた諸国と、一方で、 国民所得が1,000ドル以下の国々とでは経済力・産業力の点で開きがある。 貿易の自由化は、比較優位性のある国の産業については当該産業を発展させ、 比較劣位にある産業についてはこれを衰退させるか、市場退出を余儀なくさ せる比較競争力と深く関わっているので、優位性のある産業を多く持つタイ (自動車など)やマレーシア(電気電子など)は貿易の発展が早く広く、そ うではないインドシナ諸国では急激な貿易自由化は未成熟産業の成長の芽を 削いでしまう恐れがある。経済発展度合いの異なる諸国の集合体が ASEAN であり、こうした経済力の異なる諸国が経済目的のために集合した地域経済 連携 (AFTA) においては、各国の経済的相違に配慮して自由化を行うこと が、結果として、 地域全体の貿易と経済発展を促進するという目的に適うも のとなる。 また、上記のヒアリングでは、アジアにおける社会・経済の多様性に関連 して、「アジアが社会慣習的に互いに異質な側面を持つことによって、タイ・ バーツ、インド・ルピー、インドネシア・ルピアなどアジア主要国の通貨は、 7) 2013年3月、ベトナム・ハノイでのフィールドワークにおける当時の三井住友銀行ハ ノイ支店幹部との面談による。

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それぞれの立場で、それぞれのニーズに従って使われていくことになるので はないか」との示唆に富むコメントがあった。アジア諸国の社会・経済上の 多様性は、それぞれの国における国民生活ばかりではなく、経済活動にも異 質な面をもたらしている。

 多通貨決済へとシフトする東アジアの商取引

1.「取引の現地化」と「決済(通貨)の現地化」 ユーロ圏19カ国の単一通貨ユーロを中心に経済やビジネスを運営する欧州 と異なり、アジアでは社会・経済的な多様性が、国際商取引の決済(通貨選 択)に影響を及ぼしている。 まず、ベトナムでは2013年12月26日付のベトナム中央銀行通達(32/2013) 第1表 アジア主要国の経済状況(2013年) 注 : ASEAN の GDP は 上 表 中 7 カ 国 の 合 計 。 一 人 当 た り GDP は 同 ASEAN 7カ国の人口613百万人で計算。貿易収支、外貨準備高は同 じく7カ国の合計値。

出所:IMF-World Economic Outlook 2014年4月、ADB、三菱東京 UFJ 銀 行(国際業務部)編(2014) 新版アジア進出ハンドブック』東洋 経済新報社 国 名 GDP (10億㌦) 一人当たり GDP (㌦) 貿易収支 (億㌦) 外貨準備高 (億㌦) 中 国 9,181 6,747 2,592 38,396 タ イ 387 5,676 64 1,613 ベトナム 171 1,901 0 256 ミャンマー 61 1,006 8 70 インドネシア 869 3,509 −41 964 シンガポール 296 54,781 617 2,729 マレーシア 312 10,549 223 1,334 フィリピン 272 2,790 79 757 インド 1,726 1,504 −1,903 2,765 ASEAN(注) 2,368(注) 3,863(注) 792(注) 7,723(注)

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において、「ベトナム国内における外貨使用の制限」を通知して国内取引に おける外貨建て決済を禁ずるとともに、同国内における外貨建て取引の許容 範囲に係る例外リストを公示した。それによれば、「すべての国内取引につ いて外貨建て支払を禁止し、ドン払いとする」こと、および、外貨建て取引 (契約等への表示を含む)を許容する範囲として、別表のような例示を挙げ ている。この通達は、2014年2月10日から施行された。 ベトナムでは、従来、米国経済への依存度が高く、国内でもサービス取引 を中心にドル払いが広く通用していたが、現地通貨主義を取ったことは、こ れまでの通貨政策を転換するものである。 次に、2015年3月31日には、インドネシア中央銀行が「インドネシア共和 国域内におけるルピア使用義務について」を通達し、国内での現金取引のみ ならず、現金以外のすべての国内取引に対するルピア使用を義務付けた。こ れによって、2015年7月からインドネシア国内取引はすべてルピアでの支払 決済が行われることになった。さらに、直後の同年5月27日にはミャンマー 中央銀行が、米ドル現金の引き出し上限の引き下げに関する通知を同国内の 市中銀行に、また、「国内決済におけるミャンマー・チャット使用の周知依 頼」を要請する通知を連邦政府省庁と地方政府あてに出した。これはサーキュ ラーレターの形を取っているので、「可能な限りミャンマーの通貨であるチャッ トを国内取引で使用する」よう関係者に要請する内容となっている。 ベトナム国内取引における外貨建て取引の許容範囲(主な項目)(別表) 出所:香港・中国・東南アジア法令情報サイト ・通関 ・外貨を取扱う金融機関 ・外国投資の資本金拠出 ・輸出入 ・ベトナム内の国際輸送業者による見積・契約上の外貨建て金額の記載 ・EPE 企業(輸出加工型企業)による製造・生産・組立のためのベトナム国 内市場からの物品の購入。EPE 企業同士の外貨建て取引も認められる。 ・外国人労働者に対する給与等の支払 ・(ベトナムの)居住者による非居住者への商品販売、サービスの提供

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以上のような国内取引に現地通貨の使用を義務付けるか、あるいは、その 使用を誘導する動きを総合的な流れとして括ると、東アジアでは、「現地の 通貨を使う商取引」が拡大しているということであり、日本企業はこれを国 際商取引における構造変化として革新的に捉えていくことが必要である。 2.アジアの活力を取り込むための国際商取引の在り方 1)アジアの内需をターゲットとした市場対応 海外各国の経済発展度合いを計る際には、一人当たり国民所得が3,000ド ルを超えると安定経済成長のステージに入り、耐久消費財への需要が市場に 出てくるとされる。一人当たり国民所得が5,000ドルを超えると自動車への ニーズが高まる。ASEAN 諸国では、インドシナの CLMV 4カ国を除き、先 行6カ国は一人当たり国民所得が3,000ドルか、または、それ以上の所得水 準に達しており、今後、さらなる市場の成長を見込むことができる。今後、 ASEAN 諸国は、耐久消費財へのニーズの拡大に加えて、自動車、住宅など より高いレベルの消費市場としてクローズアップすることになる。中国は 2013年に一人当たり GDP が5,000ドルを超え、自動車において世界最大の市 場となった。人口が NAFTA や欧州を超える ASEAN の市場は、これから本 格的な消費市場として立ち上がると考えるべきである。アジアの成長性、活 力とは、アジア各国における「国内消費市場の拡大」であり、日本企業のア ジア進出では「アジアの内需をターゲットとした事業展開」8)が今後重要と なる。これを日本企業のビジネスに取り込むためには、「国内取引における 現地(各国)通貨の使用義務」に対応していかなければならない。 花王は、2010年代に入ってからアジアの内需拡大に焦点を当てた事業展開 を拡大している。同社は、1990年代に市場経済化が進行していた中国で、 1997年、上海市内に上海花王化学を設立していたが、2012年12月には中国遼 8) 2015年5月関西学院大学・東京商工会議所共催セミナーにおけるプレゼンテーション で、三菱東京 UFJ 銀行執行役員の新家良一氏が最近の日本企業の海外進出形態とし て指摘した。

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寧省に化学品の生産拠点を竣工させた。一方、アジアへの本格的な事業進出 は2012年以降に始まる。花王インドネシア化学が、2013年7月にジャカルタ 郊外で新工場を稼働させ、既存の工場設備を新工場に移設したことに加え、 2014年6月には花王インドネシアが日用品第2工場を稼働させた。花王のア ジア戦略は、その事業方針「アジア・アセアン地域においては、インドネシ ア、中国などの成長国を最重点戦略地域と位置付ける」という考え方に現れ ている。 2)現地通貨を活用した東アジア市場への対応 花王のアジア事業戦略を特徴づけるのは、生産拠点がある中国、インドネ シアを同時に需要地としていることで、基本的に「地産地消」型の事業戦略 である。インドネシアは、グローバルな成長を目指す花王にとって重要な市 場の一つと位置づけた上で、将来的にはインドネシア国外にも製品を送り出 すグローバルな生産拠点としていくとの考えである。これによって、インド ネシア国内での取引は、国内からの原材料・中間製品等の仕入れ、工場従業 員への給与支払、販売代金の回収において、すべて「ルピア」を利用して行 うことになり、現地通貨ルピアの膨大な資金需要が発生する。 2015年3月に商工中金の国際金融関係者にヒアリングしたところによれば、 「従来、アジア進出の日系現地企業に対する融資は、ドル建て、または、円 建てで現地法人に直接融資することが多かったが、(リーマンショックを契 機とする円高後は) 現地法人の為替リスクを防止するため、現地通貨建て に切り替えたい』との依頼を受けることが多くなった」とし、これによって 「アジアの現地通貨建て融資の要請が増えている」と説明している。特に、 中間所得層が増えているインドネシアについては、「インドネシア国内では、 今後、ルピアの資金需要が増えてくるであろう。これまでは、ドル、円で資 金の需給を賄うことができたが、日本企業の対インドネシア投資の増加、同 国内における消費の拡大などが複合的な要因となって、ルピア建ての資金需 要が拡大している」と強調している。日本のメガバンク、商工中金等の金融

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機関、HSBC の情報などを総合すると、日系企業による現地通貨建ての資金 需要が高まっている国は、中国と、タイ、インドネシア、マレーシア、ベト ナム、インド、また直近では、フィリピン、ミャンマーなどである。

 まとめ

1.「貿易の実需原則」に基づく商取引・決済と通貨多様化への対応 アジア各国の経済運営の基本的グラウンドは、「貿易取引の実需を原則と し、実需拡大に向けてあらゆる貿易自由化措置を採る」であり、一方、為替・ 金融システムについては「実需原則の下に必要な自由化措置を(可能な範囲 で)漸進的に行う」ことである(第2表参照)。 アジア通貨や人民元に関してアジアの関係各国が行っている現地通貨主義 的な運用は、「対外的にはドル、円などの外貨、対内的には現地通貨を利用 すること」を基本としつつ、実際の企業活動においては、「取引当事者がど の通貨を使用すべきか(貿易では外貨、国内取引では現地通貨)について、 それぞれの契約に対応した決済と通貨選択を行うよう誘導している」と考え るべきであろう。 これからは、日本企業がアジア事業展開を進めるに応じて、アジア通貨と 総称される現地通貨を利用して商取引を進める必要度が高まる。東南アジア 最大の有望市場とされるインドネシアで、「国内取引における外貨取引の禁 止、ルピア使用義務の徹底」という状況変化が生じたことを受けてどのよう にビジネス展開を進めればよいか、新たな対応が必要となってきた。また、 アジアにグループ企業の拠点を複数配置しているような事業展開では、現地 法人の採算を重視して、アジアに展開する企業グループ全体として事業の拡 大と利益の向上を図るという戦略が採られる。有望市場が広がるアジア諸国 では、当該国の消費市場にいかに浸透していくか、市場を獲得するためにど のような取引システム(モデル)を採用するか、どのような決済方法と通貨 選択を行うか、について十分に検討し、当該市場に最適な取引のスキームと 決済方法(通貨選択)を企業自らが設計し作り上げていく必要がある。こう

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して、現地日系企業の事業展開では、経営の現地化に沿うように、「取引の 現地化」「決済・資金調達の現地化」「通貨の現地化」への取組みを進展させ ることが企業経営上、肝要な対応となっている。 第1図では、インドネシアに生産または販売の拠点(現地法人)を配置し た場合に、為替リスク負担が少なく、かつ、当該市場獲得を中心とした事業 展開に適した取引モデルを運転・設備資金調達のスキームを含めて示してい る。ポイントは、運転・設備資金調達を現地通貨建て(取引モデルではルピ ア)とすることである。製品の生産資材あるいは販売用物品の購入に充てる 資金の調達については、親会社(日本)の保証によって、日本の取引銀行か ら現地提携銀行に信用状を発行し、これに基づいてインドネシアの現地銀行 からA企業の現地法人Bにルピア建てで融資を行う。B社は製品等を同国内 第2表 アジア主要国における外国為替上の規制 出所:三菱東京 UFJ 銀行資料、三井住友銀行資料、みずほ銀行資料、各国の為替管理 情報などから作成。 中 国 シンガ ポール タ イ インドネ シア ベトナム マレーシ ア フィリピ ン 通貨 人民元 シンガポー ルドル バーツ ルピア ドン リンギッ ト ペソ 為替制度 管理変動 相場制 為替フロー ト制 為替フロー ト制 変動相場 制 クローリ ングペッ グ制 管理変動 相場制 変動相場 制 国内の外 貨建て決 済 保税企業 の外貨決 済は可 規制なし 非輸出企 業は不可 原則不可 原則不可 EPE 企業 間は可 非輸出企 業は不可 国内決済 の外貨は 制限あり クロス ボーダー 決済 人民元、 外貨いず れも可 SG ド ル 、 外貨いず れも可 バーツ、 外貨いず れも可 ルピア建 ての対外 支払いは 不可、受 け取りは 可。外貨 建て決済 は可 ドン建て の対外支 払いは不 可、受け 取りは可。 外貨建て 決済は可 リンギッ トの対外 支払いは 不可、受 け取り可。 外貨建て 決済は可 ペソ建て の対外支 払いは不 可、受け 取り可。 外貨建て 決済は可 為替管理 実需原則、 規制あり 原則自由 実需原則、 規制あり 実需原則、 規制あり 実需原則、 規制あり 実需原則、 規制あり 実需原則、 規制あり

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で販売し、回収したルピア資金によりルピア建てで返済する。これによって、 現地法人B社は、原材料等のインドネシア国内からの仕入れ、製品等の国内 販売、融資受け入れと返済においてすべてルピア建てで決済を行うことがで きるので、この間の為替リスクはほぼ存在しない。ルピアという通貨は、外 為市場において為替変動リスクに晒されることがあるが、B社は、為替リス クを懸念することなく国内の販売活動に注力することができる。 アジア市場における取引の現地化、決済・資金調達の現地化、通貨の現地 化は着実に進展している。人口が多く、これからの有望市場とされるインド では、2014年10月に規制緩和が実施され、インド国内に支店を有しない外資 系金融機関がインドの銀行等とのスワップ契約を通じてインド・ルピーを調 達し、インド進出の日系企業に融資することが認められた。2015年8月には、 このスキームを利用して、日本電産が国際協力銀行 ( JBIC) から、ルピー建 ての融資を受けると発表した。「取引の現地化」「決済・資金調達の現地化」 「通貨の現地化」は、今後の東アジアビジネスにおける事業、取引を推進す 第1図 現地法人重視、企業グループに有益なアジア事業展開 (インドネシア現地法人による取引モデル) 出所:3メガバンク、商工中金、千葉銀行などへのヒアリングから筆者作成 ①ルピア建て(円払い) 日本の銀行 アジアの現地銀行 (在インドネシア) アジア現地法人B (在インドネシア) 輸出取引②円建て A企業 国内 販売 日 本 ルピア ルピア 輸入取引①ルピア建て (円払い) ②円建て 現地法人への 保証請求 ルピア建て 融資 ルピア建て 返済 (スタンドバイ・クレジット) 信用状(信用保証) 保証料 業務提携

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る上で日本企業が是非とも取り組むべき課題である。 2.取引・決済の設計と商取引の最適化 アジア通貨危機以前の国際経済では、国際商取引にドルを使う、あるいは、 円を使うといった一直線の通貨選択に疑問を挟む余地は少なかった。しかし、 いま、それが劇的に変化していると考えるべきである。 広州とタイのバンコクに生産現地法人があるB企業(自動車部品製造)で は、広州工場への原材料供給(輸出)と半製品の買取り(輸入)を、香港法 人を貿易拠点として、「親会社(日本)―香港法人」間の輸出入取引を円建 て、「香港法人―広州現地法人」間を人民元取引で行っている。円と人民元 に係る為替リスクは香港法人が負担する。また、B企業とバンコク現地法人 の間では、スタンドバイ・クレジットの利用により、タイ現地法人の資金調 達に対し「現地通貨建て(バーツ)借り入れ、現地通貨建て(同)返済」を 行うことによって、同法人のローンに掛かる為替リスクを現地でヘッジし、 「為替リスクの少ない現地経営」を実現している。 B企業グループ全体からみると、「円と人民元とアジア現地通貨(本ケー スでは、バーツ)を複合的に活用」しつつ、現地法人に為替負担の少ない取 引方式を設計することで、「経営の現地化」と「事業損益の最適化」に対応 していると言える。 これからの国際商取引では、企業グループ全体の付加価値向上が命題であ る。これを遂行するには、東アジアで事業を行っている、あるいは事業を始 めようとする企業が「事業目的を実現する最適の取引・決済方式と通貨を自 ら設計・選択する」ことを今後の事業・国際商取引の発展のために提唱した い。人民元やアジア各国の通貨などアジア通貨を活用する取引方式を企業自 らが作り上げ、取引実績を積むことが、東アジアにおける取引・決済(通貨 選択)の多様化への対応として有効になると考える。 また、政策面においては、日本企業の東アジアにおける今後の事業展開を 円滑化・発展させるために、人民元の供給拡大、および、東アジア各国にお

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ける現地通貨調達の促進を図るような関係各国中央銀行や民間銀行の業務協 力、東アジアの貿易金融センターにおける貿易・決済手続きの簡素化・電子 化・迅速化など、さらなる国際商取引環境を改善するための政策や取組みが 官民双方において持続的に行われるよう提言しておきたい。 (筆者は関西学院大学フェロー) 参考文献

HSBC, ‘news-and-insight 2013 internationalizing-the-rmb.’ March 2014 HSBC, ‘news-and-insight 2013 Frankfurt-makes-its-mark-with-rmb.’ March 2014

FTA ビジネス研究会編著 (2014)『FTA / EPA でビジネスはどう変わるか』東洋経済新報 社 桑田良望(2012) 2012年版 中国の金融制度と銀行取引』みずほ総合研究所 近藤健彦(2000) アジア太平洋共通通貨論』JETRO 宿輪純一(2006) アジア金融システムの経済学』日本経済新聞社 滝井光夫・福島光丘編著(1998) アジア通貨危機』日本貿易振興会 秦忠夫・本田敬吉・西村陽造(2012) 国際金融のしくみ』(第4版)有斐閣アルマ。 みずほコーポレート銀行編(2013) 2013年版 外資系企業に対する中国の外貨管理』みず ほコーポレート銀行中国営業推進部 三菱東京 UFJ 銀行国際業務部編(2014) 新版 アジア進出ハンドブック』東洋経済新報 社 参考資料等 関西学院大学・東京商工会議所 共催セミナー第1回資料編『人民元とアジア通貨の活用 で、アジアの活力を取り込む 、 2015年 5 月

JETRO 貿易投資相談 Q&A「ACFTA(中国 ASEAN 自由貿易協定)の特恵関税適用」 日本貿易振興機構

JETRO 編「ASEAN−韓国自由貿易協定 (AKFTA) の物品貿易協定」日本貿易振興機構、 2013年8月

JETRO 編「ASEAN−インド自由貿易協定 (AIFTA) の物品貿易協定 (AITIGA)」日本貿易 振興機構、2013年8月

参照

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