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第4章 関税政策の進化

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(1)

著者 ユベール エスカット, 猪俣 哲史

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization (IDE‑JETRO) http://www.ide.go.jp 

シリーズタイトル その他 

雑誌名 東アジアの貿易構造と国際価値連鎖 : モノの貿易

から「価値」の貿易へ 

ページ 33‑43

発行年 2011

章番号 第4章

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL http://hdl.handle.net/2344/00049223

(2)

関税政策の進化

・アジアの国・地域の実行関税(applied tariffs)は相対的に低く、現在も低下しつつあ る。

・香港やマカオなどアジアの一部の地域は、輸入が完全に非課税である。

・アジアの貿易は半製品が大半を占めており、これらの実行関税は最も低い。

・非関税措置がゆえに、関税の低さが必ずしも貿易自由化の度合いを示しているとは限

らない。

(3)

1 節 WTO に対するアジアの関税公約の概要

 前章で検討したように、インフラの改善を通じた取引 費用の低減は、アジアにおける国際価値連鎖の発展の鍵 である。そして、貿易促進におけるもう一つの軸は、関 税の引き下げである。WTOは自由貿易交渉の中で市場 参入と関税の問題を重視してきた。具体的には「譲許」

水準(

bound level)、すなわち加盟国が正式に公約す

る上限関税の引き下げと、交易関係の透明性向上を交渉 の目的としている。

 WTOに対する加盟国の関税公約は、加盟国が特定の 輸入品に課すことのできる譲許関税(bound duty)と、

譲許することを正式に合意した製品の数または割合(譲 許の範囲)を設定する。WTO加盟国153ヶ国のうち、

111ヶ国は品目の90%以上に譲許関税を設定している。

アジアでは、日本と台湾がほぼ最大限の譲許の範囲と低 い譲許関税水準を設定している。また、譲許の範囲が90

%を大きく下回るとしても、譲許製品を免税にしている

のはアジアで香港とマカオだけであることにも触れてお くべきだろう。

 図

1

は、WTO全加盟国(欧州連合は一つの加盟国と して表示)の関税公約の概要を、譲許の範囲と譲許関税 水準で示したものである。左の縦軸は加盟国の平均譲許 関税水準を、右の縦軸は譲許の範囲を示している。譲許

1

WTO

加盟国の譲許関税公約(%)

(出所)WTO(2010a)。

0

Japan China Indonesia Malaysia

Korea, Rep. of

India Singapore

Philippines Hong Kong

(China) Chinese

Taipei Viet Nam

Thailand 20

40 60 80 100 120 140 160 180

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

Average bound duty Binding coverage

All WTO members

MEMBERS WITH AT LEAST 90% BINDING COVERAGE

(sorted by increasing average bound duty) MEMBERS WITH LESS THAN 90% BINDING COVERAGE (sorted by decreasing binding coverage)

Binding coverage Average Bound duty

(4)

2

世界の最新の実行関税

( % ) (

出所

) WT O ( 2010 a )。

15.0% + No available dat a

7.5% - 10.0%

2.5% - 5.0% 12.5% - 15.0% 5.0% - 7.5%

Duty free - 2.5% 10.0% - 12.5%

Range of MFN applied duties

in selected Asian economies in rest of the W orld

(5)

3

アジアの特定の国・地域における

MFN

実効関税の引き下げと年間貿易成長率、2001〜2009年(%)

(出所)WTO

統合データベースと国連商品貿易データベース。

*Joined the WTO after 2001.

0 5

-5 10 15 20

25 30

25 20 15 10 5 0 -5

Tariff reduction Annual trade growth

Singapore Taipei, Chinese* Thailand Viet Nam*

China* MalaysiaIndonesia Korea, Rep. of

Japan Philippines

Hong Kong (China) India

Overall Tariff

Reduction Overall Annual Trade

Growth (right axis) Tariff reduction in motor

vehicles and parts Annual trade growth in motor

vehicles and parts

税率は加盟国が

WTO

協定の下に正式に約束した税率だ

が、実際にはそれよりも低い税率を適用する場合も多い。

こ の よ う な実 際の関 税 水 準を「実 行 税 率

」(applied tariffs)と呼ぶ。

2 節 アジアの実行税率

 WTOの最恵国待遇(most favoured nation: MFN)原則 に基づくアジアの実行税率は概して低く、たいていは

5

〜10%である(MFN

実行税率水準については図

2

を参 照)。MFN原則は、いずれかの加盟国が提示する最善の 関税条件の恩恵を、すべての

WTO

加盟国が受けられる よう徹底することによって国間の差別を防いでいる。イ ンドと韓国の実行税率はそれぞれ12.9%と12.1%であり、

低い実行税率のパターンから若干逸脱している。ただし インドは実行税率の引き下げを続けており、2009年の平 均税率は2001年の水準より19.5ポイント低い。

 図

3

は、アジアの主要な貿易国が実行税率を大幅に引 き下げたことを示している。関税全体を2001年の水準か ら最も大きく引き下げた中国、インド、ベトナムは、年 間貿易成長率が最も高い国々でもある。インドネシアや フィリピンなど一部の国は、関税をわずかに引き上げた。

ただしこれらの国々は、自動車とその部品の貿易を主軸 に地域の価値連鎖で中核的な役割を果たしており、2001 年での実行税率はすでに相対的に低かった。当時、中国 の税率は16.9%、インドは25.7%だったが、インドネシ アは6.3%、フィリピンは4.8%だった。マレーシアでさ え18.6%の関税を課していた。

(6)

4

アジアの特定の国・地域における2009年のオーバーハング(%)

(出所)WTO(2010a)。

Binding overhang Applied tariffs 0

10 20 30 40 50 60

Taipei, Chinese Hong Kong (China)Japan

India Viet Nam

Malaysia Korea, Rep of.

Singapore China

Philippines

Indonesia Thailand

 譲許関税は、予期せぬ関税引き上げのリスクから輸出 型企業を保護する。多くのアジア加盟国は公式には高い 関税を掲げているが、すでに見てきたように、実際には はるかに低い

MFN

税率を適用している。インドと、ウ ルグアイ・ラウンドで多角的貿易体制に加わった東南ア ジ ア諸 国 連 合(Association of Southeast Asian Nations:

ASEAN)10ヶ国は実行税率と譲許税率の差(オーバー

ハング)が最も大きい(図

4 )。

3 節 アジアの貿易を促進する地域貿易協定

 アジアは高度に統合された貿易圏であり、域内の取引 は増加している(2009年の貿易の58%を占める:図

5 )。

さらに、アジアの域外市場は多様化しており、伝統的な 貿易相手国である米国や欧州諸国以外の地域とも取引を 進めている。米国と欧州連合を除く域外貿易の割合は、

2001年の12.9%から2009年の18%へと増加した。

 アジアの国・地域間で締結されている多くの地域貿易 協定は地域の統合に寄与してきた。ASEAN自由貿易地 域(ASEAN Free Trade Area: AFTA)は、ほぼ完全に非 関税地域である。AFTAの共通実効特恵関税(common

effective preferential tariff: CEPT)

の も と、2010年 に

ASEAN 5

ヶ国(インドネシア、マレーシア、フィリピ

ン、シンガポール、タイ)は取引される製品の99%以上 に対して非課税措置を開始した(タリフライン)。ベト ナムは2015年をめどに共通実効特恵関税をゼロにする予 定である。また、ASEAN諸国は、中国、インド、日本、

韓国などと自由貿易協定を結んでおり、いずれも施行段 階にある。アジアのほとんどの国は最低でも1件の地域 貿易協定を締結している。シンガポールは財について18 件の地域貿易協定を締結しており、インドネシア、マレ ーシア、フィリピン、タイ、ベトナムは、AFTA以外に

6

件以上の地域貿易協定を締結している(図

6 )。

(7)

5

アジアの地域別財貿易

、 2001 、 2009

( % ) (

)「

イントラ

アジア

12 」

とは

中国

香港

インド

インドネシア

日本

韓国

マレーシア

フィリピン

シン ガポール

台湾

タイ

ベトナムで構成される

。 (

出所

国連商品貿易データベース

Note: “Intra-Asia 12” comprises China, Hong Kong (China), India, Indonesia, Japan, the Republic of Korea, Malaysia, the Philippines, Singapore, Chinese Taipei, Thailand and Viet Nam.

53.3% 11.2%

13.0%

18.0% 4.5%

Intra-Asia 12 United States Other Asia

Europe

Rest of the World Europe United States

Rest of the World Intra-Asia 12 Other Asia

2001 US$ 3.2 Trillion US$ 7.3 Trillio n 2009

12.9% 50.5% 14.4% 18.5% 3.7%

(8)

O

に通知され効力を持つ財の地域貿易協定

地域別協定数

) ) WT O

地域貿易協定データベース

20-24

6-10

1-2 15-193-5

No notification 25-3011-14

Number of notified Regional Trade Agreements on goods

Japan 11 Thailand 10

Republic of Korea 6 Chinese Taipei 3Hong Kong (China) 2 Philippines 8

Viet Nam 7 Malaysia 8 Indonesia 7

Singapore 18

India 12

China 9

(9)

7

アジアの農産物関税と工業製品関税、2009年(%)

(出所)WTO(2010a)。

4 節 産業ごとに大きく異なるアジアの関税

 アジア諸国において工業製品の関税(1)は農産物の関 税よりも低い(図

7 )。インドと韓国は農産物の関税が

世界で最も高い10ヶ国の中に含まれており、韓国の農産 物関税は工業製品関税の平均の

7

倍を超える。日本の工 業製品関税は比較的低いが、農産物関税はアジアの開発 途上国と同水準である。

 アジア地域の貿易で半製品がその大半を占めている状 況は、アジア諸国の関税の実態に反映されている。半製 品の関税は原材料や加工品の関税よりも低い。韓国とタ イの場合、半製品の関税は原材料の関税の

3

分の

1

未満 である。農産物については、アジアのほとんどの国・地 域で、原材料の関税が高い水準にとどまっている(図

8 )。だが、傾斜関税(輸入品の加工度が高ければ高い

ほど税率を高くする制度)を示す兆候は見られていない。

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

Philippines Indonesia

Republic of Korea China

Thailand Viet Nam

Chinese Taipei Malaysia

India Japan

Agriculture Industry

(10)

8

アジアの特定の国・地域における傾斜関税率、2009年(%)

(出所)WTO

統合データベース。

5 節 グローバルなサプライチェーンのもと での有効保護率

 傾斜関税の問題と密接に関係するのは、有効保護の概 念である。関税率の傾斜が急であれば、完成品を生産す るすべての企業が安く買って高く売ることができるので 高い保護の恩恵を受ける。ところが、中間財を生産する 企業は関税保護の恩恵をほとんど受けず、その一方で輸 入する必要のある加工品に対しては高い関税を払わなけ ればならない。この場合、有効保護率(effective protec-

tion rate: EPR)は低くなり、場合によっては、原材料に

対して支払う関税が生産される製品の名目保護率を上回 り、負の保護率になることすらあるかもしれない。

 一国の生産システムが国際サプライチェーンに組み込 まれると、より多くの貿易取引が中間財で占められるよ

うになるため、それまで有効であった保護措置が「無 効」になるだろう(第

8

章を参照)。東アジアと米国で は、各産業の連関構造にしたがって計算される有効保護 とそれに対応する関税率は時間とともに低下している。

しかし、繊維・衣料、自動車、一部の食品産業などいく つかの部門は、今も高水準の有効保護率の恩恵を受けて いる(図

9 )。ただし、2005年のデータによると、過去

数十年とは異なり、現在では負の保護になることは比較 的まれである。全体として、実行税率引き下げの動きは、

負の保護の低減に役立っている。

 高度に保護された産業の有効保護率は、時間とともに 低下する傾向がある。1995年の

EPR

水準と1995年から

2005年の変動の相関率は、すべての産業と国々において

比較的大きい負の値(−0.7)であり、一層中立かつ平 坦な関税構造に向かう傾向を示している。

Raw Semi-processed Processed 0

5 10 15 20 25 30 35

Malaysia Indonesia

Republic of Korea China

Viet Nam Japan

Chinese Taipei Philippines

India Thailand

(11)

6 節 低関税率の利点を弱める非関税措置

 関税率が全体的に低下している一方で、いわゆる非関 税措置(non-tariff measure: NTM)の使用の増加によっ て貿易自由化への流れが牽制されている。非関税措置は、

政策的に重要な事項へあてられるものであるが、一方で、

輸入制限につながる可能性を持つ行政措置である。非関 税措置には、ライセンス供与や輸入量制限から、衛生管 理や植物検疫まで、あらゆる措置を含めることができる。

9

米国と特定のアジアの国・地域における2005年の有効保護率(%)と1995〜2005年の変化

(注)10ヶ国の有効保護率の単純平均。

(出所)IDE-JETRO

WTO

のデータをもとに作成。

Effective protection rate 2005 Rate of variation 1995-2005 0

10

-40

-60 20

-30

-50 30

-20 40 50 60 70 80 90 100

Iron ore Non-metallic ore and quarrying Knitted products

Electronics and electronic products Beverage

Non-ferrous metal Tires and tubes Wearing apparel

Ship-building Crude petroleum and natural gas Meat and dairy products Non-food crops

Other metallic ore Other made-up textile products

Forestry Plastic products Motor vehicles Milled grain and flour

-10

Leather and leather products

All products (simple average)

各国政府はさまざまな理由から非関税措置を用い、貿易 政策の手段として使用する場合もある。2007年に複数の 機関の専門家で構成される調査チーム(2)は非関税措置 を以下のように定義した。「非関税措置は、財の国際貿 易に対して貿易量または価格、あるいはその両方を変え る等、なんらかの経済的効果を及ぼす可能性のある、通 常の関税以外の政策措置である。」

 表

1

は、一般的に使用される非関税措置の概要である。

だいたいにおいて、透明性と非差別の原則が、非関税措

(12)

置やその他の貿易政策を

WTO

の管轄下で評価するため の唯一の基準である。したがって、表

1

の通商争議の統 計は、非関税措置あるいはその他の貿易手段そのものの

「合法性」よりも、これらの貿易手段が WTO

の原則に したがっているかどうかという問題にかかわっている。

[注]

(1)WTOの定義に基づく非農業部門を指す。WTO農業協定 表

1

一般的に実施される非関税措置と特定の

WTO

加盟国が関与した通商争議の事例

(出所)Martinez et al.(2009)と WTO(2010a)。

NON-TARIFF MEASURES DISPUTE SETTLEMENT

WTO member Licensing, prohibition and quantity controls

Technical measures including santary and phytosanitary measures

Price control of which antidumping

Number of requests for consultation in disputes

where member is complainant/respondent

China 7/20

Hong Kong (China) 1/0

India 19/20

Indonesia 5/4

Japan 14/15

Republic of Korea 14/14

Malaysia 1/1

Philippines 5/6

Singapore 1/0

Chinese Taipei 3/0

Thailand 13/3

Viet Nam 1/0

の付属書1(www.wto.org/ agriculture)に掲載されてい ない全ての製品を対象とする。

(2)調査チーム(Multi-Agency Support Team)はUNCTADに よって編成され、非関税措置の分析を行ういくつかの組 織の専門家で構成される。

(13)

図 7 アジアの農産物関税と工業製品関税、2009年(%) (出所)WTO(2010a)。第4 節 産業ごとに大きく異なるアジアの関税 アジア諸国において工業製品の関税(1) は農産物の関税よりも低い(図7)。インドと韓国は農産物の関税が世界で最も高い10ヶ国の中に含まれており、韓国の農産物関税は工業製品関税の平均の7倍を超える。日本の工業製品関税は比較的低いが、農産物関税はアジアの開発途上国と同水準である。  アジア地域の貿易で半製品がその大半を占めている状況は、アジア諸国の関税の実態に反映されている。半
図 8 アジアの特定の国・地域における傾斜関税率、2009年(%) (出所)WTO 統合データベース。 第 5 節 グローバルなサプライチェーンのもと での有効保護率  傾斜関税の問題と密接に関係するのは、有効保護の概 念である。関税率の傾斜が急であれば、完成品を生産す るすべての企業が安く買って高く売ることができるので 高い保護の恩恵を受ける。ところが、中間財を生産する 企業は関税保護の恩恵をほとんど受けず、その一方で輸 入する必要のある加工品に対しては高い関税を払わなけ ればならない。この場合、有効保護

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