プラズモニックチップによる増強2光子励起発光
著者
大村 祐貴
2019 年度 修士論文要旨
プラズモニックチップによる増強 2 光子励起発光
関西学院大学大学院理工学研究科 環境・応用化学専攻 田和研究室 大村 祐貴 【緒言】我々のグループでは,プラズモニックチップと呼 ばれる波長オーダーの周期構造を持つ金属薄膜基板を蛍光 顕微鏡観察と組み合わせることで簡単に高感度な蛍光イメ ージングが行えることを示してきた。同心円状のBull’s eye 構 造プラズモニックチップ(図 1)では,顕微鏡下の対物レンズ による多様な角度成分の光を有効に利用した増強1 光子励起 発光(1PE)を観察することができた1)。2 光子励起を用いた研 究は顕微鏡イメージングの解像度向上の手法としても進め られており,これを局在型プラズモンで増強させる研究も行 われているが,一般的に2 光子励起の光源は非常に高いエネルギーを有するパルスレーザーで, その場検出や医療現場への応用には課題が残る。本研究はプラズモニックチップと微弱な CW レーザー光を用いて近赤外光による2 光子励起発光増強を目的とする。そして,これまで例のな い格子結合型表面プラズモン共鳴アシストの2PE について報告する。 【実験】UV ナノインプリント法を用いて Bull’s eye 構造(ピッチ 600 nm)のレプリカを作製した。 Rf-スパッタ法を用いてレプリカ上に金属薄膜を,Ti(~ 1 nm),Ag(52.5 ± 13 nm),Ti(~ 1 nm),SiO2(~20 nm)の順に成膜し,プラズモニックチップを作製した。表面修飾されたチップに CdSe 量子ド ット(QD655)を固定し,落射あるいは透過蛍光顕微鏡で 1PE と 2PE を計測した。落射蛍光顕微鏡 では,光源は2PE 用の Nd: YVO4レーザー(λ = 1064 nm)と 1PE 用の半導体レーザー(λ = 488 nm)
あるいはハロゲンランプを,対物レンズは 100 倍,発光計測にはフォトアヴァランシェ(レーザ ー用)あるいは CMOS カメラ(ハロゲンランプ用)を使用した。透過蛍光顕微鏡では,光源は半導 体レーザー(λ = 945 nm, 垂直入射)を用い,対物レンズに 20 倍(NA: 0.45)あるいは 100 倍(NA: 0.95) を,蛍光フィルタにはQD655 フィルタ(発光波長: 648 – 663 nm)を使用した。 【結果と考察】プラズモニックチップおよびガラス基板上に調製されたQD655 凝集体は,1064 nm の近赤外レーザーで励起し,これらはそれぞれ QD655 の発光強度を照射光強度に対してプ ロットした(図 2)。二次関数によくフィッティングできたため, 2PE であると考えられた。比較 対象としてSilica ナノビーズを固定したプラズモニックチップ上の発光強度を観察したが,非常 に小さい値で,照射光強度に対して一定値を示した。以上より,このQD655 の発光に銀の第二 次高調波発生や入射光による散乱光は含まれていないと考えられた。488 nm レーザーで励起さ 5 µm 図1 Bull’s eye 構造 プラズモニックチップのAFM 像
れたQD655 の発光強度を照射光強度に対し てプロットすると一次関数でフィッティン グできた。得られたフィッティングの係数 を用いて 1 光子励起と 2 光子励起下のプラ ズモニックチップ増強度(EF) の相対比を求 めたところ,EF(2PE)は EF(1PE)の 2.0 倍であ るという関係が明らかになった。これは電 場強度のプラズモンによる増強度,入射角, 方位角成分のプラズモン結合寄与率から妥 当な結果と考えられた。またハロゲンラン プ励起による 1PE の結果より,プラズモニ ックチップ増強度 EF(1PE)が 3.2 と評価でき たので2PE におけるプラズモニックチップ増強度 EF(2PE)の値は 6.4 と評価できた。 次に,プラズモン増強度をより効率よく利用するた め,プラズモニックチップ上に固定された QD655 を 92 Wcm-2のより微弱な半導体ファイバーCW レーザーで裏 面照射した。ガラス基板上では観察できなかった発光が Bull’s eye 構造の中心においてのみ確認された(図 3)。こ の輝点を照射光強度に対してプロットしたところ,二次 関数でフィッティングでき,2 光子励起発光であると考 えられた。パターン中心では面内のプラズモンが全方向 からの伝搬によって集中し,局所的な増強電場が形成さ れるために発光が得られたと考えられた。また,輝点の 発光軸がレーザーの偏光軸に一致していることもプラズモン増強電場による 2PE であることを 示唆した。落射系の2PE の結果をもとに,透過系で検出したガラス基板上の QD655 の発光強度 を計算すると,検出器のノイズレベル以下であったため,ガラス基板上で検出不可能である結果 と一致した。よって,プラズモニックチップを用いた伝搬型プラズモン共鳴アシストの増強2PE を示すことができた。 【謝辞】共同研究していただいた大阪市立大学の細川千絵教授,光硬化性樹脂をご提供いただい た東洋合成工業株式会社に感謝いたします。
1) K. Tawa et al., Opt. Express, 2017, 25, 10622.
図2 1064 nm における照射光強度 に対するQD655 の発光強度プロット 図3 レーザー偏光に依存した 2 光子励起発光像 100 µm 0 12 24 0 3 6 Emission inten sit y /10 4cps Irradiation intensity /MWcm-2