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宇都宮大学教育学部教育実践紀要 第2号 2016年8月1日
環境ゲーム作製における学習効果の研究
†
田村 翔太
*
・久保田善彦
**
真岡市立真岡東小学校
*
宇都宮大学教育学研究科
**
TAMURA Shouta*, KUBOTA Yoshihiko**:
Study of learning to create environment games
K e y w o r d s : G a m i f i c a t i o n , E n v i r o n m e n t
learning, Card Gaming, Board Gaming
* Moka Higashi Elementary school
** Utsunomiya University Graduate School of
Education
(連絡先:[email protected] 著者 2)
概要
近年,ゲームの学習利用は,関心を集めている。本研究では,学習者が環境ゲームを作製することと,作
製したゲームをプレイすることの効果を検討した。その結果,環境ゲーム作製及び実施の授業実践によって,
生徒の環境問題に対する興味・関心を高めることができた。今回の研究は,3Rボードゲームの作製及び実施,
CO2削減カードゲームの作製及び実施の計4つの実践を行った。各実践で,生徒がイメージする環境保全行
動は具体化した。加えて,作製活動における意識調査の結果から,作製にある程度の難易度を感じることは,
理解を向上させる可能性が示唆された。
キーワード:ゲーム学習,環境学習,カードゲーム,ボードゲーム
1.はじめに
授業にゲームを取り入れることは,「ゲーム=勝
ち負けのある遊び」を巡って教室の中に様々なコ
ミュニケーションが生まれ,それに伴って連帯感・
充実感・達成感を生む効果があるとされている(上
條2012,上条2014,神田ら2007)。また,「遊戯性を伴っ
たゲーム(class game)をおこなう」ことは,アクティ
ブ・ラーニングの一形態としても注目できる(池田
2013)。
学習に関するゲーム教材の開発及び利用に関する
先行研究は,池尻ら(2011)の「日本史の政策を現
代の問題解決に応用する学習ゲームのデザインと評
価」,奥田ら(2013)の「協力関係の効果を学ぶ交換
取引ゲーム教材の開発と実践」などがある。カード
ゲーム教材の開発と学習効果に関する研究がほとん
どである。近年では市販のカードゲーム教材も多い。
ゲーム学習は,既成もしくは開発したゲームをさ
せるだけではない。教室では児童生徒がクイズや
ゲームを作る活動も行われてきた。これまで,児童
生徒が作問をすることの研究(平田2012)はあるが,
ゲームの作製活動の評価はあまり行われていない。
児童生徒らによるゲーム教材の作製に関する先行研
究は, 散見の限り,阿部(2015)による質的研究の
みである。その他の研究,特に量的研究は見当たら
ない。そこで本研究では,児童生徒ら自身がゲーム
を作製することの学習効果を調査する。
2.生徒が作製する環境ゲームの開発
(1)CO2削減カードゲーム
①作製方法
資料を参考にしながら,「CO2を削減できる行動」
とその「反対の行動」を配布されたカードに書き込
む。その行動によってCO2がどの程度増減するのか
も,書き込む。更に,その行動を表すようなイラ
ストも描く。作製したカードをエコカード(自分た
ちだけでできるCO2削減できる行動),エゴカード
(CO2の排出量を増やす行動),スーパーエコカード
(エコ技術)に分類する。
②ルール
作ったカードを班ごとにまとめて山とし,裏向きの
まま1人1枚ずつ順番に引いていく。エコカード,エ
ゴカード,スーパーエコカードのどれを引くかによっ
てカードのやり取りが異なる。エコカードを引いた
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場合,自分の前に表向きにだし,手持ちのカードに
加える。エゴカードを引いた場合,引いたカードを
含めて,手持ちのカードを全て捨てカードとして山
の隣に捨てなければならない。スーパーエコカード
を引いた場合,引いたカードを手持ちカードに加え,
さらに捨てカードを全て手持ちカードに加える。山
にカードが無くなった時点で,手持ちのカードが最
も多かった人が勝者となる。なお,このルールは,アー
テック社の「エコロジーカードゲーム」を参考にした。
(2)3Rボードゲーム
①作製方法
資料を参考にして,「自分たちで取り組める3R行
動」とその「反対の行動」を出し合う。各行動を配
布された付箋に一つずつ書き込む。3R行動を書き
込んだ付箋には,進むことができるマス目の数も書
く。3R行動とは反対の行動を書き込んだ付箋には,
戻らなければならないマス目の数を書く。付箋を台
紙に並べ,マス目として用いる。付箋と付箋の間に
適当に数のマス目を書き込む。
②ルール
すごろくと同じ要領でゲームを進める。付箋に
書かれたイベントをこなしていき,最初にゴール
にたどり着いた人が勝者となる。なおこのゲーム
の作製方法とプレイルールは資源・リサイクル促
進センターの「3Rすごろく(http://www.cjc.or.jp/
j-school/d/d-2-2.html)」を参考にした。
3.研究の方法
(1)対象
栃木県A中学校1学年1クラス,計29名(8班)
(2)実践の期日
10月30日(1時間目),11月17日(2時間目)
(3)授業実践の流れ
(4)評価の方法
①環境保全行動に関する知識の変化
プレテスト,ポストテストにおける単語連想法の
回答の変化から評価する。なお,単語連想法の結果
は,紙面の都合上省略した。
②環境ゲームの作製及び実施に対する意識
ゲーム作製及び実施への情意面や効果に対する質
問紙調査の結果を5件法で評価する。
③環境問題に対する興味関心の変化
プレテスト,ポストテストの環境問題に対する意
識調査の回答の変化から評価する。
5.ゲーム作製活動の結果と考察
(1)単語連想法で書くことができた単語数の平均
値の比較
CO2削減カードゲーム作製グループ,3Rボードゲー
ム作製グループそれぞれが,単語連想法で書くこと
ができた単語の個数の平均値を,プレテストとポス
トテストで比較した。その結果,図1の通りとなる。
CO2削減カードゲーム作製グループは,ポストテ
ストで得点が向上した。一方,3Rボードゲーム作
製グループは,大きな変化はない。
(2)単語連想法に出現した単語内容(3R)
3Rボードゲーム作製グループが,ゲームを作製する
前の3Rに関する単語連想法で書いた単語の内容と,作
製した後の単語連想法で書いた単語の内容を比較した。
その結果,個数の平均値はく変化しないが,内容
の種類(項目の数)は増加した。プレテストで「む
だづかいをしない」や「リサイクル」などの大きな
枠組みでの単語が多かったのに対し,ポストテスト
は,それらが減り,「ごみを肥料にする」「ビニール
袋をもらわない」「いらない布を雑巾に」などのよ
り具体的な環境保全行動の数が増加した。
(3)単語連想法に出現した単語内容(CO2)
表1 実践の流れ
図1 単語連想法に出現した単語数の比較
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CO2削減カードゲーム作製グループが,ゲーム作
製前後で行った,CO2削減に関する単語連想法の内
容を比較した。
ゲーム作製によって,単語の個数だけではなく,
内容の種類(項目の数)も増加した。「冷蔵庫に物
を詰めすぎない」「シャワーの時間短縮」「テレビを
こまめに消す」「使わない電化製品のプラグを抜く」
など具体的な行動が増加した。
(4)ゲーム作製に関する意識調査
ゲームの作製の終了後,作製に関する意識調査ア
ンケートを実施した。その結果が図2である。
どの項目においても高い得点を示した。「難しさ」
と「学習内容に対する理解」はゲームによる差が見
られる。「難しさ」は,カードゲーム作製グループ
がボードゲーム作製グループを上回る。「学習内容
に対する理解」もカードゲーム作製グループがボー
ドゲーム作製グループを大きく上回っていることか
ら,ゲーム作製の難易度がある程度高いことにより,
理解を促進できると推測できる。
6.ゲーム実施活動の結果と考察
(1)単語連想法で書くことができた単語の平均値
の比較
CO2削減カードゲーム実施グループ,3Rボード
ゲーム実施グループが,単語連想法で書いた単語の
個数の平均値を,プレテストとポストテストで比較
した(図3)。
作製活動とは異なり,両ゲームともに同程度増加
している。
(2)単語連想法に出現した単語内容(3R)
3Rボードゲーム実施グループが,ゲームを実施
する前の単語連想法で書いた単語の内容と,実施し
た後の単語の内容を比較した。
単語連想法によって書くことができた単語の内容
の種類は,ゲーム実施前後で変化はなかった。しか
し,ほとんどの項目で,その数が増加している。一
部の生徒の理解にとどまっていた3R運動を,より
多くの生徒が理解できたと考えられる。
(3)単語連想法に出現した単語内容(CO2)
CO2削減カードゲーム実施グループが,ゲーム実
施前後のCO2削減に関する単語連想法で書いた単語
の内容を比較した。
単語連想法によって書くことができた単語の個
数,単語の内容の種類,ともに増加した。「使って
いない家電のプラグを抜く」「電気をこまめに消す」
「冷蔵庫を何度も開け閉めしない」などの具体的な
環境保全行動が増加した。
(4)ゲーム実施に関する意識調査
ゲーム実施後,,実施に関する意識調査アンケー
トを実施した。その結果が図4である。
「楽しさ」の項目ではCO2カードゲーム実施班が
3Rボードゲーム実施班を上回っている。その他の
項目ではすべて3Rボードゲーム実施が高い得点を
示した。
ほとんどの項目ではゲーム間の差はない。「難し
さ」に関しては差が見られ,ボードゲーム実施班が
図2 ゲーム作製に関する意識調査
図3 単語連想法に出現した単語数の比較
図4 ゲーム実施に関する意識調査
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カードゲーム実施班を大きく上回っていた。「学習
内容に対する理解」の項目は,「難しさ」ほどの差
はない。このことから,ゲーム製作とは異なり,実
施の難易度の高さと,学習内容に対する理解に相関
があるとはいえない。
7.ゲーム作製及び実施による環境問題への意識の
変化
授業実践の前後で行った環境問題に対する意識調
査の結果を比較した。
プレテストとポストテストの意識調査の結果を比
較したところ,どちらの問においてもポストテスト
で得点が向上した。このことから,環境ゲームの作
製及び実施によって,環境問題への意識が高まった
ことが分かる。ただし,図5からも,ポストテスト
の得点が4.00ある。天井効果によって,ポストテス
トでの得点の伸び率が低かったことが推測できる。
8.授業実践のまとめ
今回の環境ゲーム作製及び実施の授業実践によっ
て,生徒の環境問題に対する興味・関心を高めるこ
とができた。
また,今回の研究は,3Rボードゲームの作製及
び実施,CO2削減カードゲームの作製及び実施の計
4つの実践を行った。各実践で,生徒がイメージす
る環境保全行動は具体化した。
加えて,作製活動における意識調査の結果から,
作製にある程度の難易度を感じることは,理解を向
上させる可能性が示唆された。
9.今後の課題
今回の実践では,環境問題に対する意識の変化に
関して,ゲームを作製及び実施した後での調査と
なった。それぞれの活動の効果を個別に研究してい
く必要がある。
実践前後の結果に関して比較はされているが,差
があったかどうかを正しく知るために統計処理をす
る必要がある。
引用・参考文献等
上條晴夫:協同型学習ゲームで学力が高まる! , 学
事出版, 2012
上條晴夫:学習ゲームの可能性,学びのしかけで学
力アップ!学習ゲームの極意, 明治図書, 2014
神田和子・黒田伊由子:「思考力」が伸びるゲーム
学習, 総合法令, 2007
池尻良平・本郷和人・山内祐平:日本史の政策を現
代の問題解決に応用するゲーム学習のデザイン
と評価,日本教育工学会報告集, 2011(1), 247-250,
2011
奥田麻衣・山本裕子:協力関係の効果を学ぶ交換取
引ゲーム教材の開発と実践,日本教育工学会論
文誌, 37, 201-204, 2013
阿部隆幸:小学校社会科における学習カードゲーム
の効果に関する事例的研究,臨床教科教育学会
誌, 15(3), 1-8, 2015
平田豊誠・松本伸示:理科授業における場面解決作
問指導における思考過程 : 問題推敲時の思考が
問題に表出されることによる表現力としての
評価可能性の検討, 教育実践学論集, 13, 229-238,
2012
付記
本 研 究 は,JSPS科 研 費26282030,26590228の 助
成を受けたものである。
平成28年 3月29日 受理
図5 環境問題に興味はあるか
図6 環境問題について考えているか