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パーソナルデータの利活用における技術および各国法制度の動向:3.日本の個人情報保護法改正の状況

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(1)特集 パーソナルデータの利活用における技術および各国法制度の動向. 基応 専般. 日本の個人情報保護法改正 † の状況. 3. 森 亮二 英知法律事務所. 継続され,2014 年 6 月には,検討の結果を受けて,. 改正大綱. 法改正の内容をより具体的に示した「パーソナルデ.  我が国の個人情報の保護に関する法律(以下「個. ータの利活用に関する制度改正大綱」(以下「改正. 人情報保護法」 )は,2003 年 5 月に成立し,一部が. 大綱」)が公表された. 同月に,残部が 2005 年 4 月に施行された.その後,. 年 9 月においては,改正大綱に対するパブリックコ. たびたび改正の必要性が議論されてきたが,実際に. メントの結果を受けて,政府において改正法の条文. 改正の作業が始まるのは,成立より 10 年余を経過. 化の作業が進められているところである.. した,2013 年まで待たなければならなかった.具.  本稿は,法改正の内容を明らかにした「改正大綱」. 体的なきっかけとなったのは,時の政権が,ビッグ. の内容について紹介することを目的とする.改正大. データの利活用の価値を重視して,パーソナルデー. 綱には,大要以下の 7 つのことが書かれている.第. タ利活用の環境整備に向けた号令をかけたことで. 1 は匿名化したデータの流通,第 2 は個人情報の範. ある.. 囲の拡大,第 3 は現行法の義務規定の見直し,第.  2013 年 6 月,政府の IT 総合戦略本部は,「世界. 4 は改正法を所管する政府の機関である「第三者機. 最先端 IT 国家創造宣言」を決議し,その中で「ビ. 関」,第 5 はグローバル化への対応,第 6 はその他. ッグデータ」のうち,特に利用価値が高いと期待さ. の制度改正事項,第 7 は継続的な検討課題である.. れる,パーソナルデータの取扱いについて,その利. 以下,これらについて順に説明する.. 活用を進めるための事業環境整備を進めることとし.  なお,上記の第 1 ないし第 7 は,筆者が改正大綱. た.IT 総合戦略本部は,この成長戦略に基づいて,. の内容を整理して分類したものであり,改正大綱の. 2013 年秋には,個人情報保護法の改正についての. 実際の構成とは若干異なっている.たとえば,上記. 検討を行わせるため「パーソナルデータに関する検. 7 つのうち,改正大綱は,第 2 の個人情報の範囲の. 討会」 (以下「パーソナルデータ検討会」)を設置し. 拡大と,第 3 の義務規定の見直しを 1 つの項で扱い,. た.パーソナルデータ検討会は,まずは法改正の方. その標題を「基本的な制度の枠組みとそれを補完す. 向性について検討し,同年 12 月に,検討の結果を. る民間の自主的取り組みの活用」としている.改正. 受けた「パーソナルデータの利活用に関する制度見. 大綱の実際の表記と内容の対応については,表 -1. 直し方針」が公表された. ☆1. .. ☆2. .本稿脱稿時である 2014. を参照されたい..  その後もパーソナルデータ検討会による検討は †. 本記事の著作権は著者に帰属します.. ☆1. 正確には,パーソナルデータ検討会が案文を作成し,IT 総合戦略 本部に提出し,IT 総合戦略本部が正式なものを決議して公表して いる.. ☆2. 脚注 1 に同じ.. 情報処理 Vol.55 No.12 Dec. 2014. 1353.

(2) 特集 パーソナルデータの利活用における技術および各国法制度の動向. 匿名化したデータの流通  匿名化したデータ. ☆3. を本人の. 「第3制度設計」各項の標題. 目的・基本理念. 同左. Ⅱ. パーソナルデータの利活用 を促進するための枠組みの 導入等. 個人データを匿名化することにより,現行法上本人 同意が要求される第三者提供等を,容易に行うこと ができるようにする.. Ⅲ. 基本的な制度の枠組みとこ れを補完する民間の自主的 な取り組みの活用. 個人情報の範囲の拡大,機微情報の取扱い禁止, 義務規定の見直し等を行う.新しいルールの策定 については,自主規制ルールを活用する.. Ⅳ. 第三者機関の体制整備等に よる実効性ある制度執行の 確保. 番号法に規定される特定個人情報保護委員会の所 掌事務にパーソナルデータの取扱いに関する事務 を追加して,改正法の法執行を行う第三者機関と する. Ⅴ. グローバル化への対応. 域外適用,執行協力,他国との情報移転. Ⅵ. その他の制度改正事項. 小規模事業者,学術研究目的の適用除外. Ⅶ. 継続的な検討課題. 紛争処理体制,プロファイリング,PIA,名簿屋 対策. 同意なく,かつ安全に流通させる ことができれば,プライバシーの 保護と情報の利活用の双方を実現 できることとなる.鉄道会社が乗 降履歴を第三者提供しようとして 批判された事件も,このような制 度があれば起こらなかったであろ う.改正大綱はこの制度を具体的 な改正内容の第一に掲げて法改正 の「目玉」としている.問題は,. 内容. Ⅰ. 表 -1 改正大綱の表記と内容. 匿名化情報の加工方法であるが, これについては,当初,データベースの性質・中身. ル策定に消費者を含めたさまざまな利害関係者が参. を問わない一般的な匿名化の手法が想定されてい. 加する,いわゆる「マルチステークホルダプロセス」. た.たとえば,「氏名は ID に変換,生年月日は月. を採用することとされた.. まで,勤務先は業種のみ,住所は市区町村まで,メ.  技術の進歩が速く,さまざまなデータベースが利. ールアドレスは削除,購買履歴は変更不要…」とい. 活用される現状では,政府が事業分野ごとに調査を. うような一定の加工手法を,あらゆるデータベース. 行って匿名化の手法を一から考えるのはいかにも非. に適用し,それで足りるとするやり方である.この. 効率である.実際の事業内容や取り扱う情報の性質. 点について,パーソナルデータ検討会は,その下に. をよく理解している業界団体などがルールを考える. ある唯一の作業部会である技術検討ワーキンググル. ことには一定の合理性があるといえるであろう.も. ープ(以下「技術検討 WG」 )に対して,匿名化の. っとも,共同規制もマルチステークホルダプロセス. 手法に関する検討を依頼した.技術検討 WG の答. も,我が国初の試みであり,「消費者側と事業者側. えは,前記の想定に反し, 「あらゆる個人情報を匿. で合意に到達することができるのか」「第三者機関. 名化する汎用的手法は存在しない」というものであ. は事業の性質に応じた自主ルールの妥当性を判断す. った.さらに検討した結果,改正大綱は,匿名化の. ることができるのか」といった懸念があることも事. 手法を「事業等の特性に応じた適切な」ものとする. 実である.. ため,具体的な匿名化の手法を法律で一律に定める.  なお,匿名化情報の第三者提供に際しては,提供. のではなく,民間団体が自主ルールを策定し,これ. 者と受領者のそれぞれが一定の法的義務を負うこ. を第三者機関が認定するといういわゆる「共同規制」. とが想定されている.技術検討 WG の報告書では,. の方法を採ることとした.共同規制とは,法規制と. 提供者には第三者機関への届出義務を,受領者には. 自主規制の中間的なものであり,本件のように,政. 匿名化したデータを特定の個人を識別できるものに. 府によって認定を受けた自主ルールが法律に類似す. 戻すこと(再識別化)を禁止する義務を,それぞれ. る効力を有することになるものがその一類型である.. 課すことが提案されたが,改正大綱では,「特定の. また,自主ルールの公平性を確保するために,ルー. 個人を識別することを禁止するなど適正な取扱いを 定める」との表現にとどまっている.. ☆3. 1354. 改正大綱では「特定性低減データ」の用語が用いられている.. 情報処理 Vol.55 No.12 Dec. 2014.  .

(3) 3 日本の個人情報保護法改正の状況. 2014年5月版技術検討WG報告書. 個人情報の範囲の拡大. 個人情報に該当するものを除き,生存する個人に関する情報であって,次 に例示するもの及びこれに類するものを含む情報.  現行法においては,個人識別性が個人 情報の要件とされている.しかしながら,. ① パスポート番号,免許証番号,IPアドレス,携帯端末ID等の個人また は個人の情報通信端末(携帯電話端末,PC端末等)等に付番され, 継続して共用されるもの. 具体的な場面において,個人識別性があ るか否か,はっきりしないことが多いた. ② 顔認識データ,遺伝子情報,声紋ならびに指紋等,個人の生体的・身体 的特性に関する情報で,普遍性を有するもの. め,さまざまな問題が起きていた.改正. ③ 移動履歴,購買履歴等の特徴的な行動の履歴. 大綱は,個人情報の範囲に関するグレー 当初は「準個人情報」という名称が提案されて いた.. ゾーンをなくすために,個人情報の範囲 を拡大することとした.個人識別性がな い情報(誰の情報か分からない情報)に. 図 -1 個人情報の範囲拡大に関する当初事務局案. ついても,一定のものを個人情報として. 2014年5月版技術検討WG報告書. 法の保護対象とすることとしたのである.. 本人または本人の所有物との密接性.  この問題についても,パーソナルデー. 一意性/単射性. . タ検討会から技術検討 WG に検討の依 頼がなされた.技術検討 WG は, 「特定. 共用性. をすべて満たすもの. 不変性. の個人が識別されること」が権利侵害の おそれを格段に高めることに着目し, 「特. . 検討の結果,当初事務局案(図-1)の①(個人または個人の端末に付番され たID)と②(身体的特性情報)を採用し,③(移動履歴等)は継続検討へ.. . ただし、改正大綱の表現は,「指紋認識データ,顔認識データなど個人の身体 的特性に関するもの等のうち,保護の対象となるものを明確化し・・」となっ ており,②のみが明記され①が「等」に含まれている .. 定の個人が識別される」おそれは,多く の場合,当該個人に関する多量・多様な 情報が収集されることによって生じるこ とから,そのような情報の収集を可能に. 図 -2 個人情報の範囲拡大の要件. する識別子として機能し得るものを新た な保護対象とすべきであるとした.多量・多様な情. 旨から,「保護の対象となるものを明確化し,必要. 報を収集し得る識別子の要件についても検討した結. に応じて規律を定めることとする」とされており,. 果,①本人または本人の所有物と密接性があるこ. 政令等に規定されることになるものと思われる.た. と,②一意性/単射性がある(識別子と本人が 1 対. とえば,これまで,ブラウザの閲覧履歴を収集する. 1 対応である)こと,③共用性がある(複数の事業. サードパーティクッキーは,個人識別性がないため. 者または複数のサービスで共通に利用されるもので. 個人情報ではなかったが,改正法の下では,これも. ある)こと,④不変性がある(本人が簡単に変更し. 個人情報として法の保護の対象となり得ることにな. たり利用停止させたりできない)こと,の 4 つのす. る(以上につき,図 -1,図 -2 を参照).. べてに該当する場合がこれにあたるとした..  .  4 つのすべてを満たすものとして,①指紋や顔認 識データなどの個人の身体的特性に関するものと,. 現行法の義務規定の見直し. ②パスポート番号やスマートフォンの ID など,個. ■■規制緩和. 人や個人の情報端末に付番された ID の,2 つのカ.  現行法の義務規定のうち,まず規制を緩和するも. テゴリが新たに個人情報として保護の対象となるこ. のとしては,前記「匿名化したデータの流通」の章. ととなった.2 つのカテゴリのうち具体的に何が保. で述べた本人の同意なく匿名化データを流通させる. 護対象となるかについては,グレーゾーン解消の趣. ことはその筆頭である.このほかに,利用目的の変. 情報処理 Vol.55 No.12 Dec. 2014. 1355.

(4) 特集 パーソナルデータの利活用における技術および各国法制度の動向. 更について本人の同意が必要とされていたものを,. の課題とされていた.改正大綱は,この点について,. オプトアウトで足りるとすることが提案されている.. 現行法の要件に加えて, (a)本人通知事項を第三者. 現行法は,個人情報の取得については,きわめて緩. 機関に提供することを義務づける, (b)第三者機関. やかな規制になっている.事業者が取得する個人情. は届出のあった本人通知事項の一部を公表する,な. 報をどのような利用目的で利用するかについては,. どの要件を追加することを提唱している.. 取得に際して本人に対する通知等が義務づけられて.  以下は私見であるが,「オプト」アウト(「選択し. いるだけで,本人としては,好むと好まざるとにか. て」外れる)という以上,消費者に実質的な選択の. かわらず,個人情報を取得した事業者に所定の利用. 機会を与えることが重視されるべきである.具体的. 目的で利用されてしまう.それに対して,すでに個. には,本人通知事項を本人の知り得る状態にした後. 人情報を取得済みの事業者が,利用目的を変更しよ. に,しばらくオプトアウト期間を設けてその間は第. うとすると,本人の同意という個人情報保護法上最. 三者提供を控えることや,本人に通知可能な場合に. も厳しい制約を受けることとなる.この不均衡の解. は,本人への通知を義務づけるなど,実質的な選択. 消という点で,利用目的変更の要件をオプトアウト. の機会を与える手段が検討されるべきである.. に落とすことは一定の合理性がある.ただ,消費者.  規制強化の第 2 は,同じく第三者提供の本人同意. 側からは不安の声も上がっており,法案化にあたっ. 原則の例外である共同利用に関するものである.こ. てさらに議論があり得るところである.. れについて改正大綱は,「現行法の解釈に混乱が見.  . られる」として,共同利用の利用者全体が「1 つの. ■■規制強化. 事業者と同じであると本人が捉えることができる場.  次に,現行法の規制を強化するものとしては,次. 合のみ」認められる制度であることを明確にする形. の 3 点がある.第 1 は,第三者提供の本人同意原則. での運用の徹底を図るとしている.現行法の条文の. の例外であるオプトアウトに関するものである.現. 表現上は,共同利用者が社会的に見て「1 つの事業. 行法は,あらかじめ,①第三者提供すること,②提. 者と同じ」であるような単一性のある集団であるこ. 供される情報の種類,③提供の手段,④求めに応じ. との要件が読み取りにくい.そのため,運用上,な. て提供停止することの 4 点の事項(以下「本人通. んら単一性のない,ばらばらの企業よりなる企業集. 知事項」 )を本人に通知し,または本人の容易に知. 団において共同利用が行われることもあった.この. り得る状態にしておけば,本人の同意がなくとも第. 点を改める趣旨である.. 三者提供することができるとしていた.このような.  規制強化の第 3 は,保有個人データの本人関与. オプトアウトによる第三者提供は,実運用において,. ,②第 についてである.現行法①第 25 条(開示). 本人の知らないところで第三者提供が粛々と進めら. 26 条(訂正等)および③第 27 条(利用停止等,以. れる状況を招来しており,名簿屋による個人情報販. 下,あわせて「本人関与の各規定」という)は,い. 売の「口実」. ☆4. ともなっている.他方で,第三者. ずれも本人からの請求がある場合に,個人情報取扱. 提供は,プライバシー侵害の原則的形態であるため,. 事業者が当該本人にかかる保有個人データを①開示. プライバシーに配慮するまじめな事業者としてはオ. し,一定の場合には②その内容の訂正,追加もしく. プトアウトによる利活用を図ることは困難であった.. は削除または③利用停止もしくは消去を行うことを. このように,オプトアウトによる第三者提供は,弊. 義務付けたものである.本人関与の各規定について. 害が顕著な一方で利便性の低いものとして,現行法. は,従来からその請求権性について議論があった. すなわち,請求権性肯定説は,開示,訂正等,利用. ☆4. 1356. 「オプトアウトによる第三者提供の手法をとっている」と主張する ことにより,名簿屋は,適法に第三者提供を行っていることの体裁 を作ることができる.. 情報処理 Vol.55 No.12 Dec. 2014. 停止等の本人からの求めについて,通常の私法上の 請求権であると解するのに対して,請求権性否定説.

(5) 3 日本の個人情報保護法改正の状況. 4. ☞ 内閣官房「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱について」より 図 -3 本人関与に関する請求権の付与. は,本人からの求めは,私法上の請求権ではなく,. 分,前科・前歴等に関する情報を含む個人情報の取. 公法上の権利にとどまるとする.後者によれば,取. 扱いを禁止するものである.社会的身分については,. 扱事業者が請求に応じない場合の効果としては,主. 企業の役員であることや大学生であることといった. 務大臣による法執行があるのみで,本人は,裁判所. 人の社会的地位・状態全般がこれに含まれるわけで. に救済を求めることはできない.この点について争. はなく,あくまでも社会的差別の原因となり得るも. われた東京地裁平成 19 年 6 月 27 日判決(判例時. のに限られる.また,取扱いの禁止については,必. 報 1978 号 27 頁)が,請求権否定説に立ったため,. 要な例外規定が設けられることとされており,たと. 実務上,請求権否定説が有力となっていた.改正大. えば,反社会的勢力の構成員であること/あったこ. 綱は,この点を改め, 「裁判上の行使が可能である. とは,ここにいう社会的身分にあたり得るが,企業. ことを明らかにするよう開示等の請求権に関する規. 活動における反社会的勢力排除の文脈においては,. 律を定めることとする」として,改正法においては,. 例外規定の対象になるものと推測される.. 本人に請求権があることを明らかにすることとした.  第 2 に,情報の集積,突合,分析により特定の個. (図 -3 参照) .. 人が識別される場合における規制が提案されている. 個人情報ではなかった情報が,事業者の内部におけ. ■■規制の新設. る情報集積等により,個人情報となる場合には,個.  改正大綱においては,現行法にない新たな規制の. 人情報の取得にあたるから,現行法の取得に関する. 導入が 4 点提案されている.第 1 は,機微情報の. 規制の対象となることは当然である.この提案はそ. 取扱い禁止である.機微情報の取扱い禁止は,すで. の点の確認にとどまるものではなく,内部における. に業種別のガイドライン等には見られたものであり,. 情報集積等による個人識別性の獲得を制限する趣旨. 社会的差別の原因となり得る人種,信条,社会的身. を含んでいる.前記「匿名化したデータの流通」の. 情報処理 Vol.55 No.12 Dec. 2014. 1357.

(6) 特集 パーソナルデータの利活用における技術および各国法制度の動向. 章で述べたとおり,匿名化したデータの受領者につ. 権限を与えることとしている.現行法において法執. いては,匿名化したデータを特定の個人を識別でき. 行権限を有する各府省大臣との関係については,①. るものに戻すこと(再識別化)を禁止する義務を課. 役割分担の明確化を図ること,②重畳的な法執行を. すことが提案されているが,このような要請は,匿. 回避して効率的な運用を行うこと,とされている.. 名化データの受領者に限られた話ではない.特定の. ②の重畳的な法執行については,パーソナルデータ. 個人が識別されるようになることによって,権利侵. 検討会において,複数の国家機関による法執行に対. 害のおそれが格段に高まる以上,必要もなく,個人. する懸念. 識別性のない情報に個人識別性を獲得させる行為は,. り,この点に配慮したものである.. 制限されることが合理的である..  事業者に対する法執行の手段としては,現行法上.  第 3 に,個人情報の保存期間に関する規制が提. の,助言,報告徴収,勧告,命令に加えて,新たに,. 案されている.保存期間については,一律に定める. 指導,立入検査,公表等を行うことができるとされ. ことなく,保存期間の公表の在り方について検討す. ている.. るとされている.情報の性質やその利用目的が千差.  また,①新たに採用される共同規制の枠組みに関. 万別であることを考えれば,保存期間自体の法定は,. して,民間団体が作成した自主ルールの認定を行う. 適当とは言いがたい.その一方で,保存期間を公表. こと,②認定個人情報保護団体等の監視・監督,③. する義務を事業者に負わせることは,事業者にとっ. 国際協力,④後述する越境移転の第三者認証に携わ. て大きな負担ではなく,かつ透明性の確保に資する. る民間団体の認定・監督も第三者機関の役割である.. ものと考えられる.もっともこの点については,パ.  . ーソナルデータ検討会において,公表義務を課され ることについての事業者側の反対意見があったこと. が事業者側から表明されたところであ. グローバル化への対応. も考慮して,「公表の在り方について検討する」と.  グローバル化への対応として,改正大綱が問題と. の表現にとどめたものと思われる.. するのは,①外国事業者に対する法適用,②執行協.  第 4 は,厳密には規制の新設ではないが,分か. 力,③越境移転(国外への/からのデータ移転)の. りやすい本人の同意の取得方法について,自主規制. 3 つである(図 -4 参照).. ルール等を活用することにより改善を図ることとさ.  まず,①外国事業者に対する法適用は,私見にお. れている.事業者側では,利用規約等に書いておけ. いてはこの中で最も重要な問題である.現在,日. ば本人の同意があったものとして扱ってよいと考え. 本国民のパーソナルデータは,Facebook や Google. がちであるのに対して,利用規約を読むことがない. といった外国事業者によって保有されており,その. のが通常である消費者側は,それでは納得しがたい.. ような外国事業者に対して法の適用があることをは. この認識のギャップは,利活用を阻む要因となって. っきりさせなければ,十分に国民のプライバシーを. いる.分かりやすい同意の取得方法を検討すること. 守ることはできない.条文上,外国事業者に対する. は,喫緊の課題である.. 法適用とその要件を明記することが必要である..  .  次に,②執行協力とは,外国の法執行当局との法. 第三者機関. 執行に関する協力関係の構築のことであり,前記の 外国事業者に対する法適用を実効化するためにも必.  改正大綱は,現在は「番号法(行政手続における. 要なものである.改正大綱では,第三者機関が,外. 特定の個人を識別するための番号の利用等に関する. 国の法執行当局に対し,その法執行に資する情報を. 法律) 」を所管している特定個人情報保護委員会に. ☆5. 対して,改正後の個人情報保護法に関する法執行の. 1358. ☆5. 情報処理 Vol.55 No.12 Dec. 2014. 具体的には,主務官庁,消費者庁,第三者機関等によって,別々に 報告の徴収を受けること等に起因する負担についての懸念である..

(7) 3 日本の個人情報保護法改正の状況. 5. ☞ 内閣官房「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱について」より 図 -4 グローバル化への対応. 提供することが提案されている.. やり取りすることが可能となる..  さらに,③越境移転については,まず前提として,.  具体的な仕組みとして想定されている APEC の. パーソナルデータの利活用のためには,国境を越え. CBPR(Cross Border Privacy Rules)も,国際的. たデータ移転は不可欠であることと,同時にそのよ. な第三者認証の仕組みであり,事業者が APEC の. うな移転は,安全性の保証がなければ実現不能であ. プライバシールールに適合しているかどうかを審査. ることを認識する必要がある.国外への移転につい. して認証するものである.認証を受けた事業者は,. て,改正大綱は,外国事業者にパーソナルデータ等. 参加国間でのパーソナルデータの越境移転を行うこ. を提供等しようとする場合,外国事業者が必要・適. とが可能になる.日本は,APEC により 2014 年. 切な安全管理措置を採るように契約による義務づけ. 4 月に CBPR への参加を認められた.ただ,日本. などをすべきであるとする.また,この文脈でのパ. が米国,メキシコに次ぐ 3 番目の参加国であり,こ. ーソナルデータの提供には,外国事業者から提供さ. の仕組みの適用範囲は,現状では限定的なものに. れたデータ等を含むとされており,国外からのデー. とどまっている.CBPR については,EU の BCR. タ移転においても安全管理が確保されるべきことが. (Binding Corporate Rules)との間の相互運用に向. 明記されている.. けた検討が行われていることに留意すべきである..  さらに改正大綱は,越境移転を可能にする仕組み. CBPR も BCR も,一定の基準を満たすことが確認. として,国際的な第三者認証の仕組みに参加するこ. された企業等にパーソナルデータの越境移転を許す. とを提案している.統一的なルールが存在し,各国. 仕組みであり,仮に相互運用が実現されれば,グロ. の審査機関の水準が確保できれば,審査機関によっ. ーバルなレベルで円滑な越境移転を実現できること. て認証を受けた事業者間で(どの国に属する事業者. となるが,その実現の可能性は高いとはいえない .. であるかにかかわらず)パーソナルデータを安全に.  . 1). 情報処理 Vol.55 No.12 Dec. 2014. 1359.

(8) 特集 パーソナルデータの利活用における技術および各国法制度の動向. 法改正においては対応しないとの含意がある.しか. その他の制度改正事項. しながら,改正大綱公表後にベネッセコーポレーシ.  その他の改正事項の第 1 は,小規模事業者の取扱. ョンの情報漏えい事件が発生したため,上記の各論. いの変更である.取り扱う個人情報によって識別さ. 点のうち,特に名簿屋対応に関しては,微妙な状況. れる特定の個人の数が 5,000 以下である場合の個人. 「い となっている.消費者委員会は,2014 年 9 月 9 日,. 情報取扱事業者としての適用除外の規定を廃止する. わゆる名簿屋等に関する今後検討すべき課題につい. ことが提案されている.. ての意見」を公表した.これは,消費者委員会が改.  その他の改正事項の第 2 は,情報の性質や取扱い. 正大綱に対する意見として 2014 年 7 月 15 日付で公表. の態様による適用除外の新設である.① CD-ROM,. していた「 『パーソナルデータの利活用に関する制度. 電話帳やカーナビゲーションシステム等他人の作成. 改正大綱』に関する意見」のうち,名簿屋に関する. にかかる(他人が作成した)データベースを利用す. 部分についてより具体的に述べたものであり, (a)特. る場合や,②自治会や同窓会等の構成員内部で連絡. 定可能性が低減されていない個人情報の移転につい. 網を作成し共有する場合について,適用除外とする. ての第三者機関等の関与, (b)名簿等の個人情報リス. こととされる.. トを入手・保有する事業者の責任の明確化, (c)情報.  その他の改正事項の第 3 は,学術研究目的の取扱. のロンダリングを許さないトレーサビリティの確立,. いに関する適用除外の拡大である.すでに現行法第. (d)不正の手段により流出した個人情報の削除, (e). 50 条 1 項 3 号において,大学その他の学術研究機関. いわゆる名簿屋に対する規制の各視点について,よ. 等が,個人情報を学術研究の用に供する目的で取り. り具体的に意見を述べたものである.継続的な検討. 扱う場合には,現行法の取扱事業者の義務規定は適. 事項のうち,名簿屋については,今回の法改正にお. 用しないこととされている.適用除外がこの限度の. いて何らかの措置がなされる可能性が残っている.. ものである限り,学術研究機関等に個人情報を提供.  . しようとする一般の事業者は,自身が学術研究機関 等ではないため,適用除外を受けられない.そのため, そのような一般の事業者が個人情報の提供を躊躇す.  2014 年 9 月現在,政府において法案化の作業が. る結果,学術研究機関等を適用除外とした趣旨が達せ. 進められており,2015 年 1 月以降,可能な限り早. られないおそれがあることが指摘されていた.そこ. 期に法案を国会に提出することとされている.. で,学術研究の目的で個人情報を学術研究機関等に.  私見であるが,「パーソナルデータの利活用に関. 提供しようとする一般事業者が,提供に躊躇を感じ. する制度見直し方針」に記述されたとおり,法改正. ることがないよう,一定の措置を検討することとした.. の主要な課題は,グレーゾーンをなくすことと,プ.  . ライバシー保護を図る個人情報保護法とすることの. 2 点である.これらについて後退することなく,改. 継続的な検討事項. 正作業が進められることが望ましい..  継続的な検討事項としては,①新たな紛争処理体 ☆6. 制,②プロファイリングの問題. ,③プライバシー. 影響評価(PIA) ,④名簿屋の問題,の各論点が挙げ られている.一般に, 「継続的な検討事項」とは,基 本的には将来検討すべき課題のことであり,今回の ☆6. 1360. 今後について. Web アクセスデータなどの蓄積から,本人の知らない所で個人の 趣味・嗜好などに関する情報が形成されてしまう問題のこと.. 情報処理 Vol.55 No.12 Dec. 2014. 参考文献 1) 石井夏生利 : 個人情報保護法の現在と未来,勁草書房,p.229 以降参照 (2014). (2014 年 9 月 16 日受付) ▪森 亮二 [email protected]  「パーソナルデータに関する検討会」委員,「電子行政オープンデー タ実務者会議 ルール・普及 WG」委員,日本広告審査機構審査委員 会委員,インターネットホットラインセンター法律アドバイザーなど を務めている..

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