関する実践報告
―利用者アンケートの分析から―
山田 貴将
要 旨
This paper reports on study abroad advising service launched by Office for International Affairs of Nanzan University in June, 2020. The first half explains the background, implementation, publicity, and schedule of the new service. The second half presents the results and analysis of a questionnaire administered to 34 freshmen using the service. The data shows 1) many students lack a specific purpose but rather have a vague admiration for studying abroad, 2) 64.7% prefer the US, 3) the majority have not yet selected a particular university to attend, 4) many students have language and financial concerns (73.5% and 58.8% respectively), and 5) the majority wish to study abroad as sophomores for approximately one year. The questionnaire also shows that 94.1% of the students expressed satisfaction with the advising service. Finally, four areas of potential improvement are discussed: 1) expansion of opportunities, 2) a more efficient booking and contact system, 3) follow-up advising, and 4) augmenting advisor’s knowledge base.
1.はじめに
本学は,1974 年に海外留学制度を構築し,これまで 3,000 人以上もの学 生を海外に派遣してきた。2007 年に制定された南山大学国際化ビジョンに おいて,派遣留学者数の拡大が目標として掲げられ,そのための体制整備が
着実に進められてきた。ここ数年間においては,長期留学(交換留学及び認 定留学)だけでも毎年安定的に 120 名以上を超える学生が参加しているが, 今後も,より多くの学生に海外留学の機会を提供するためには,新規協定校 の開拓や魅力的なプログラムの開発などを更に推進していくのと同時に,留 学に関心を持ち始めた学生に対し可能な限り早い段階から着実にリーチし, 学生の心の中で芽生え始めた留学に対する興味関心の芽を一緒になって育て ていくパーソナルで細やかなアプローチが欠かせない。 トビタテ!留学JAPAN「海外留学に関するアンケート調査」によると, 81.6%もの大学生が「大学時代に海外留学をした方がいいと思う」と答えて いる。しかしながら,実際に留学をする学生は,年間 115,146 名に留まって いる(独立行政法人日本学生支援機構 2018 年度日本人学生留学状況調査)。 文部科学省統計要覧(令和 2 年版)に記載されている平成 31 年度の大学在 籍者数が 2,918,708 人であることを基準にして考えると,この人数は在籍学 生全体のわずか 3.95%であり,非常に限られた数の学生しか在学中に留学 を実現できていない現状が見えてくる。
2.海外留学アドバイジングサービスの始動
本学国際センターでは,留学に関心のある学生と実際に行くことのできる 学生の間に存在する大きなギャップを埋めるために大学としてできることは ないだろうかと議論を重ね,入学後なるべく早い段階から学生に接触し,留 学を具体的に考えるきっかけを提供することが肝要であろうとの認識の下, 6 月よりコロナ禍で来学すらできていない 1 年生を対象として個別留学アド バイジングサービスの提供を開始することとなった。 国際センターとして新たな取組となる本留学アドバイジングは,筆者が 1 名で担当することとなり,表 1 に示されている要領で実施した。 コロナ禍で学生は来学できない状況ではあったが,国際センター派遣留学部門の協力の下,以下のオンラインでの留学関連イベントで多くの学生に向 けてタイムリーに情報提供を行うことができた。 1.「新入生のための留学ガイダンス」(5 月 20 日) オンライン(ZOOM)での実施にも関わらず 400 名近くの新入生の参加 があった。ここで,留学アドバイジングサービスの概要について説明をした。 同時に,留学に関する質問を受け付けた。 2.「新入生向け第 1 回オンライン留学探求セミナー」(5 月 27 日) 1.「新入生のための留学ガイダンス」同様,ZOOM での開催となったが, 130 人以上もの学生が参加した。留学の意義・目的,留学に必要な英語語学 試験(TOEFL,IELTS),英語学習法,留学先国などについてアドバイスを行っ た。併せて,個別留学アドバイジングの日程及び申込方法についての詳細な 情報提供を行った(図 1 参照)。 これらのイベントにおける周知活動が効果的に行われたことにより,予定 通り 6 月 5 日(水)13:00 からの初回留学アドバイジングを迎えることが できた。以下表 2 の通り,6 月 3 日~ 8 月 5 日までの 10 週間に 36 名の利 表 1 実施曜日・時間 毎週水曜日・13:00~17:00(授業開講日) 対象者 留学に関心を持っている1年生 相談可能内容 留学の目的,派遣留学プログラム(交換,認定,短期等), 語学学習,留学先での勉学,帰国後のキャリア,等 所要時間 1人45分間程度 相談方法 個別対面式(コロナ禍によりZOOMにて実施) 実施場所 アドバイザー研究室( 〃 ) 申込方法 アドバイジング実施日の1週間前までに留学アドバイザーに 直接メールにて申込
図 1 表 2 6月3日 6月10日 6月17日 6月24日 3名 4名 4名 3名 7月1日 7月8日 7月15日 7月22日 7月29日 4名 3名 4名 3名 4名 8月5日 合計 1週平均 4名 36名 3.6名
用があった。 利用学生の率直な声を聞き,より良いサービスの提供につなげていくため に,36 名の学生を対象にしたアンケート調査を実施し,内 34 名から回答を 得た(回答率 94.4%)。アンケートの質問項目は以下の通りである。 Q1.所属学部・学科を選択して下さい Q2.今回は何について相談しましたか Q3.留学希望先(国・地域名)を選択して下さい Q4.留学したい大学が決まっている場合,志望大学名を記入して下さい Q5.留学の目的は何ですか Q6.検討している留学の形態を 1 つ選んで下さい Q7.検討している留学の期間を 1 つ選んで下さい Q8.何年次に留学したいですか。1 つ選んで下さい Q9.留学をするにあたって不安なことは何ですか Q10―1.今回の留学アドバイジングについての満足度をお聞かせ下さい (5 -非常に満足,4 -やや満足,3 -満足,2 -やや不満,1 -非常に不 満から 1つを選択) Q10―2.そう感じた理由をご記入ください Q11.本学における留学アドバイジングサービスをより良いものにする ために,ご意見をお聞かせ下さい 尚,アンケート実施に当たっては,個人情報の取り扱いについて協力者から 同意を得ている。
3.結果及び分析
3―1.学部・学科内訳:Q1「所属学部・学科を選択して下さい」 先ずは,留学アドバイジングを利用した学生の学部・学科の内訳について 見てみたい。表 3 が示すように,経済学部と法学部を除く 6 学部 11 学科と 非常に多様な専攻の学生からの利用があった。割合を見ると,外国語学部英 米学科の利用者が 23.5%となっており他学科より多いが,通常,本学で国 表 3 学部 学科 学科別 学部別 人数 割合 人数 割合 人文学部 キリスト教学科 1 2.9% 2 5.9% 人類文化学科 1 2.9% 心理人間学科 0 0% 日本文化学科 0 0% 外国語学部 英米学科 8 23.5% 15 44.1% スペイン・ラテンアメリカ学科 4 11.8% フランス学科 1 2.9% ドイツ学科 1 2.9% アジア学科 1 2.9% 経済学部 経済学科 0 0% 0 0% 経営学部 経営学科 4 11.8% 4 11.8% 法学部 法律学科 0 0% 0 0% 総合政策学部 総合政策学科 6 17.6% 6 17.6% 理工学部 システム数理学科 2 5.9% 2 5.9% ソフトウェア工学科 0 0% 0% 機械電子制御工学科 0 0% 0% 国際教養学部 国際教養学科 5 14.7% 5 14.7% 合計 34 100% 34 100%際関連のイベントを行う場合の同学部の参加者に占める割合よりは低くなっ ており,その分他学部他学科からの学生が本サービスを利用していることが 分かる。上述した南山大学国際化ビジョンで謳われている派遣留学者数の増 加をより高いレベルで実現していくためには,外国語学部や国際教養学部な どと言ったいわゆる国際系学部だけではなく,これまで派遣留学の実績が比 較的限定的であった学部の学生への積極的な働きかけが欠かせない。今回の 留学アドバイジングはそのための一つの有力な方法であると考える。 3―2.相談内容:Q2「今回は何について相談しましたか」 相談内容については複数回答とし,以下,図 2 の結果を得た。 ここでは,主要な相談内容として挙げられた項目の中から,「留学先(国・ 地域)について」,「留学の目的について」,「漠然とした不安から」について 取り上げる。先ず,「留学先(国・地域)について」は,73.5% もの学生か らの相談があった。しかし,自分が行きたい国や地域がはっきりしていない, とはいったいどういうことなのだろうか。後述される 3―3「希望留学先」に 図 2 ָཻʤࠅʀஏҮʥͶͯ͏ͱ ָཻదͶͯ͏ͱ റષͳͪ͢҈͖Δ ָમ;Ͷͯ͏ͱ ࠅޢྙͶͯ͏ͱ ଖۂޛΫϡϨΠͶͯ͏ͱ ඇ༽Ͷͯ͏ͱ ͨଠ ૮಼༲
おいてアメリカへの留学を希望する割合が 64.8% となっていることと矛盾 するように思われる。それに対する 1 つの解釈として,3―3 は複数回答であっ たため,アメリカにどうしても行きたいと考えている学生以外の「とりあえ ず」アメリカを選んだ学生が相当数いる可能性がある。言い換えると,どう してもアメリカにだけ行きたいと考える学生は実は少なく,多くの学生は, 英語圏であればそれほど行先にこだわらないと考えているのだろう。英語圏 に滞在しながら英語を学び異文化を体験することが主目的であれば,特定の 国や地域に絞り込む必要がないため,かえってどこの国や地域を目指したら よいのか分からないと悩む学生が多く,このような結果につながったのでは ないかと推察される。 次に,「留学の目的について」を見てみたい。留学に行こうと考えている 学生の内,70%近くが何のために留学をするのかということについて明確 な考えを持っていないのは何故なのだろう。実現したい目的があるから海外 留学へ行くのではないとしたら何のために行くのだろう。上述したように, 本学 1 年生の場合,特にこれを実現したいからというよりもむしろ,何とな く英語を学んだり異文化を体験するために海外留学に参加したいと考える学 生が多い。留学アドバイジングを通じて感じたことなのだが,そのような学 生は,漠然とした海外(とりわけ英語圏)への憧れが動機となって海外留学 を志している傾向が強い。しかしながら,実際に留学準備を進めていく過程 で,留学(とりわけ交換留学)の切符を手に入れることは容易なことではな く,立ち止まって改めてなぜ留学するのかその目的を明確にする必要性に気 付き始めた結果として,7 割近くの学生がアドバイザーに留学の目的につい て相談したのではないかと思われる。 最後に,「漠然とした不安から」について考えてみる。以前のデータとの 比較ができないため全くの憶測でしかないが,本項目が非常に高い値を示し ているのは,一つにはコロナ禍が大きく影響しているのではないかと考えら れる。コロナ禍にあって,大学における国際交流は足止めを余儀なくされて
いる。留学を志し,そのための具体的準備をしていきたい気持ちはあるもの の,コロナ禍の影響を受け渡航が禁止になったらどうしたらいいのかと不安 に思う学生が多くなっているのであろう。 3―3.希望留学先(国):Q3「留学希望先(国・地域名)を選択して下さい」 希望留学先(国)については複数回答とし,表 4 の結果を得た。 複数回答ではあるものの,34 名中 22 名(64.7%)もの学生がアメリカへ 表 4 地域 国(一部,地域) 人数 割合 英語圏 アメリカ 22 64.7% カナダ 15 44.1% オーストラリア 13 38.2% イギリス 7 20.6% ヨーロッパ (イギリス以外) スウェーデン 2 5.9% ドイツ 2 5.9% ベルギー 2 5.9% オランダ 1 2.9% スペイン 1 2.9% フランス 1 2.9% アジア マレーシア 3 8.8% 中国 2 5.9% フィリピン 2 5.9% タイ 2 5.9% インドネシア 1 2.9% 香港 1 2.9% 台湾 1 2.9% 南米 アルゼンチン 1 2.9% ブラジル 1 2.9% ペルー 1 2.9%
の留学に関心を持っていることは注目に値する。8 国立大学の工学部生及び 大学院生を対象にした「日本学生の留学に関する意識調査」では,アメリカ への留学に関心を示した学生は 39.5% に留まっていることからも,本学 1 年生のアメリカ留学への関心の高さが伺える。 アジアの時代と言われて久しい。「アメリカ留学一強時代からの激変。昨 年対比で日本人留学生数が増加 ~『一般社団法人海外留学協議会(JAOS) による日本人留学生数調査 2019』調査レポート~」では,アメリカへの日 本人留学生が年々減少している一方で,フィリピン,シンガポール,マレー シアなどの東南アジアへ留学する日本人の数が増加していることが報告され ている。しかしながら,本学 1 年生の希望留学先を見る限り,アメリカの強 さは依然として圧倒的である。 3―4.留学したい大学:Q4「留学したい大学が決まっている場合,志望大学 名を記入して下さい」 「留学したい大学が決まっている場合,志望大学名を記入して下さい」とい う問いに対して以下の回答が寄せられた。
Arizona State University(アメリカ) Purdue University(アメリカ) TU Dortmund University(ドイツ)
Pontifical Catholic University of Peru(ペルー) Catholic University of Cordoba(アルゼンチン)
34 名の調査協力者からわずか 5 大学しか挙げられなかったことについて, どのように考えればよいのだろうか。先ず,対象学生はまだ 1 年生というこ ともあり,専門分野の授業の履修も少ないことが要因として考えられるだろ う。また,3―5「留学の目的」とも関係してくるが,本調査対象者の場合,
何となく英語を学びながら異文化体験をしたいという非常に漠然としたニー ズが基となって留学を希望しているケースが多い。つまり,ある特定の大学 でしか手に入らない経験を必ずしも求めている訳ではないので,留学したい 大学名を聞かれても具体名が挙がってこないのであろう。 3―5.留学の目的:Q4「留学の目的は何ですか」 留学の目的については複数回答(3 つまで)とし,図 3 の結果を得た。 先ずは,留学の目的として挙げられた項目のうち,「語学力(英語)の向 上のため」(61.8%),「異文化体験をしたいから」(44.1%)の 2 点を取り上 げる。先にも述べたが,本調査対象者の全体的傾向として,英語力の向上と 異文化体験を留学の目的に据えているケースが多い。一方,「専門分野の研 究のため」が 20.6%,「その国・地域が魅力的だから」が 17.6% と非常に低 くなっている。このことから,特定の国に行き,ある特定のテーマに関する 研究を行いたいというアカデミックな動機からではなく,とにかく一度海外 に出て,英語を学び異文化を体験したいという統合的動機に基づいて留学に 参加したいと考えている学生が多いことが分かる。 図 3 ޢָྙʤӵޢʥͪΌ ҡชԿରݩΝͪ͢͏͖Δ গཔΫϡϨΠͪΌ ࣙΝௗͦͪ͠͏͖Δ ݜڂͪΌ ޢָྙʤӵޢҐʥͪΌ ͨࠅʀஏҮ͗ຳྙద͖ͫΔ ཻ ָָཻదద
3―6.留学の形態:Q6「検討している留学の形態を 1 つ選んで下さい」 留学の形態に関しては,「交換留学」,「認定留学」,「短期留学」,「その他」 の内から,単一回答を求め,図 4 の結果が得られた。 先ず,67.6%もの学生が「交換留学」を希望していることが分かる。国内 8 国立大学の学生を対象にした「日本人学生の留学に関する意識調査」では, わずか 14%の学生しか交換留学(1 年以内)を望んでいないことからも, 本学学生における交換留学の位置づけは非常に高いと考えられる。 3―7.留学の期間:Q7「検討している留学の期間を 1 つ選んで下さい」 留学の期間に関しては,「1 年以上」,「1 年〔10 カ月以上〕」,「半年〔ワン セメスターも含む〕」,「2 カ月~ 3 か月」,「1 カ月」,「1 カ月未満」の中から 単一回答を求め,図 5 の結果を得た。 図 4 ިָཻ ఈָཻ غָཻ ͨଠ ཻ ָָཻܙܙସସ
「1 年」(44.1%)と「半年」(32.4%)を合わせると,76.5%もの学生が半 年以上もの長期間の留学を希望している。 3―8.希望留学年次:Q8「何年次に留学したいですか」 留学希望年次については,「1 年」,「2 年」,「3 年」,「4 年」から単一回答 を求め,図 6 の結果を得た。 図 5 図 6 Ω݆ Ω݆ʛ͖݆ ʤൔ೧ʦϭϱιϟ ηνʖʧʥ ೧ʦΩ݆Ґʧʥ ೧Ґ ཻ ָָཻغغؔؔ ೧ ೧ ೧ س سָָཻཻ೧೧࣏࣏
2 年次 64.7%,3 年次 32.4%となっている。これらを 3―7「留学の期間」 と 3―8「留学の形態」と合わせて考えると,本学 1 年生の大多数は,「2 年次」 に「交換留学」で「1 年間」海外留学に行きたいと考えていると言えるだろう。 3―9.留学にあたって不安なこと:Q9「留学をするにあたって不安なことは 何ですか」 「留学するにあたって不安なこと」は複数回答とし,図 7 の結果を得た。 ここでは,「留学をするにあたって不安なこと」に関して,「語学力につい て」(73.5%)と「費用について」(58.8%)について考えてみたい。先ず,7 割以上もの学生が語学力について不安を抱いているが,その背景として, 67.6%もの学生が交換留学を希望していることがあると考えられる(3―6. 留学の形態より)。短期語学留学であれば,現地では語学そのものの学習に 注力していればよいが,交換留学の場合は,現地語によるコミュニケーショ ンが可能であるという前提で,現地大学の学部で提供されている専門科目の 履修が求められる。留学生として特別扱いされることなく,現地の学生と同 図 7 ޢָྙͶͯ͏ͱ ඇ༽Ͷͯ͏ͱ म৮ಊ࣎غ ؾࠅޛָसɼୱҒसಚͶؖ͢ͱ घକ͘൧ࡸ͠Ͷؖ͢ͱ ָཻͲਫ਼Ͷͯ͏ͱ ָཻͲਕؔؖܐͶͯ͏ͱ ͨଠ ཻ ָָཻͶͶͪͪͮͮͱͱ҈҈͵͵͞͞ͳͳ
じ教室で専門科目を学んでいくことに対して,「本当にやっていけるのだろ うか」という漠然とした不安につながるのだろう。 また,費用については,58.8% もの学生が不安だと感じている。これは, 留学を決断するときの阻害要因として留学未経験者の 68.0%が「留学にか かる費用が高く負担が大きかった」と答えている事実とも符合する(「留学 に関するアンケート調査」)。一方,3―2「相談内容」のデータからは,実際 に費用について相談した学生は 20.6% に留まっていることが分かる。多く の学生が留学費用について不安に感じているにも関わらず,ごく一部の学生 しか実際にアドバイザーにその不安について相談をしていないのはなぜであ ろうか。留学費用についてアドバイザーに相談するためには,世帯全体の収 入等,かなりプライベートな情報を提供していかなければならないことが一 つの要因として考えられる。 留学の実現に向けては費用の問題を解決しないわけにはいかない。今後の 対策として,国際センターの職員や留学アドバイザーに尋ねなくとも,学生 が自らウェブ上で入手できる留学費用に関する情報を増やしていくことが求 められるだろう。留学費用に関する有益な情報を幅広く収集・整理し,可能 な限りウェブ上にオープンにしておくことによって,学生がタイムリー且つ 容易にアクセスできるようになれば,費用に関する不安も軽減されるのでは ないかと思われる。 3―10.満足度:Q10「今回の留学アドバイジングについての満足度をお聞 かせ下さい」 筆者が 6 月上旬から 10 週間に渡り取り組んだ留学アドバイジングに対す る満足度に関して,「非常に満足」,「やや満足」,「満足」,「やや不満」,「不満」 の中から単一回答を求め,以下,図 8 の結果が得られた。「非常に満足」,「や や満足」,「満足」を合計すると 94.1%となり,手探り状態で始めたにも関 わらず,かなり高い評価が得られたと考えている。
以下は,上記満足度に対して,「そう感じた理由をご記入ください」とい う問いに対する自由回答である。 【満足度 1】いろいろなことを知ることができた。 【満足度 2】質問に対する答えてくださっただけでなく,他にもさまざまな お話を聞かせていただき,視野を広げてくださったと感じたから。 【満足度 3】大変 になって話していただいた。 【満足度 4】 に相談にのっていただいた。コロナ禍で直接会って相談で きない中でも,媒体を通して相談にのっていただいた。 【満足度 5】自分では全く分からなかった基準が外部からの意見を聞くこと で多少なりとも明らかにすることができた。 【満足度 6】自分の選択肢には無かった留学先を教えていただけたから。 【満足度 7】自分の状況を考慮して頂きながら,疑問に思っていたことなど を に教えて頂けたから。 【満足度 8】 に話しを聞いてくださったことで不安が少し緩和し,留学 前後についてのお話も聞けたので有意義な時間だったから。 親身 親身 丁寧 熱心 図 8 ඉͶຮଏ ˍ ΏΏຮଏ ຮଏ ΏΏຮ ཻ ָָཻΠΠχχώώζζϱϱήήຮຮଏଏౕౕ
【満足度 9】話をよく聞いてくれたのと, になって考えてくれたからで す。 【満足度 10】不安が軽減されたから。 【満足度 11】現在,夏休みで価値観がかなり変わり,相談させていただいた 時のように 1 年留学したい!や,アリゾナ州立大学に行きたい!とは思って いませんが,相談させていただいた時は本気で行きたかったのでかなり励ま していただいたり具体的なお話をさせていただけました! 【満足度 12】色々な人を例にして相談内容について考えてくださって気持ち が楽になったが,すべてがあいまいに終わってしまった気がして,そのあと もなかなか前進できる状態になっていないから。 【満足度 13】留学を目指すにあたって自分が知らなかった様々な基本的なこ とを知ることができ,自分が知りたかったことが聞けて,就職に関するアド バイスももらえたから。 【満足度 14】先生自身の経験をもとに話を広げてくださり,米国だけでなく, アジアやその他国についても興味が湧いたこと。以前は交換留学のみしか考 えていなかったが,より様々な道があり,学びたいことをより専門的に学べ る道がわかったこと。大学院などの道も提示してくださったので,さらに広 い視野で留学について考えることができるようになったこと。 【満足度 15】 に相談に乗っていただけたから。 【満足度 16】休学することなく留学する方法など,様々なアドバイスをして いただけたことです。留学や研究についてのアドバイスやお話を伺うことが できたことです。 【満足度 17】留学したいとただ漠然に思っていただけだったのが,留学アド バイジング後は留学のプランが固まってきて,留学の実現に対する不安もあ る程度解消されたから。 【満足度 18】不安に思っていたことについて一つ一つアドバイスを頂けたか ら。 親身 親身
【満足度 19】自分の具体的な相談内容が曖昧な中でもそれに合わせて様々な 選択肢をいただけた。 【満足度 20】 で優しい対応をしてもらえた。 【満足度 21】計画を明確に立てることができたり,気になっていたことを に聞いてくださったおかげで先に進むことができました。 下線部を中心に上記の回答を分析した結果,筆者は,個別留学アドバイジ ングを通じて,次の 5 つの機能を果たすことができたのではないかと考える。 尚,括弧内の数字は,満足度に関する自由回答の内,1 から 5 の各機能と関 連のあるものの番号である。 (1)情報提供(1,6,7,13,16,18) (2)視野拡大(2,14) (3)不安緩和(8,10,12,17,18) (4)客観性付与(5) (5)具体化(11,17,19,21) (1)「情報提供」は文字通り,相談者が求める,又は相談者に必要だろう思 われる情報を提供することであり,これは留学アドバイジングにおけるコア・ ファンクションであろう。しかしながら,筆者は,留学アドバイジングは単 に情報提供をする機会であってはならないと考えている。実際に,利用者か らの意見では(1)以外の機能に関してよりポジティブな言及が多かったこと は筆者にとっては幸いなことであった。(2)「視野拡大」は,相談者がアドバ イザーとの会話のキャッチボールの中で自らの視野を拡げていくプロセスの ことである。(3)「不安緩和」は,コロナ禍で多くの学生が強い不安感にさい なまれている現状において特に求められる機能であろう。(4)「客観性の付 与」とは,学生が自分だけの閉じられた世界で考えたことに対して,客観的 丁寧 親身
な視点から気づきを与えることである。また,(5)「具体化」は,学生がぼん やりとイメージしていることをより鮮明に描き直し,実際の行動につなげて いく支援をすることを意味する。 今後,アドバイジングセッションを実施していく際に,これら 5 つの機能 のどこにフォーカスすべきかを意識すると,相談者にとってより有益なアド バイジングを提供することができるようになると考えられる。問題は,相談 者がどのフェーズにいるかによって 1 から 5 のどの機能にフォーカスすべ きかが変わってくることである。留学を志している学生は,以下の 4 つの フェーズに大別できる。 第 1 フェーズ-留学に関心を持ち始めた 第 2 フェーズ-留学を実現したい 第 3 フェーズ-留学を充実した経験にしたい 第 4 フェーズ-帰国後の勉学,キャリアについて考えたい 留学アドバイザーは,相談者が第 1 から第 4 フェーズのどこにいるのか を事前に把握しておき,当日のセッションにおいて上記(1)から(5)のどの 機能にフォーカスしてくいくかを選択していかなければならない。それを怠 ると,相談者にとって物足らなかったり,又は消化不良のセッションになっ てしまう恐れがある。以下は,実際に筆者のアドバイジングセッションを物 足らないと感じたと思われる利用者からの声(満足度 12)である。 すべてがあいまいに終わってしまった気がして,そのあともなかなか前進で きる状態になっていない この相談者は,第 2 フェーズ(留学を実現したい)にいた可能性が高い。 筆者がそのことに気が付かずに,大多数の他の学生同様第 1 フェーズ(留学
に関心を持ち始めた)にいると判断し,(2)「視野拡大」や(3)「不安緩和」を 中心としたアドバイジングを展開した可能性がある。それらが全く無駄だっ たわけではないのだろうが,この学生は,恐らくより具体的な情報を必要と していたのであり,その意味では,(1)「情報提供」と(5)「具体化」により フォーカスしたアドバイジングを展開すべきだったと考えらえる。限られた 時間の中でより効果的なアドバイジングを実施するためには,相談者がどの フェーズいるのかを正確に把握し,その上で,(1)から(5)のどの機能に フォーカスすべきかを考えるべきであろう。 また,上記 24 の自由回答において,「親身」,「熱心」,「丁寧」という言 葉が 8 回も出てきたことは,留学アドバイジングにおけるヒューマンな側面 の重要性を示している。知識やスキルもさることながら,親身に相談に乗ろ うとするアドバイザーの謙虚で熱心な態度は,相談に来る学生にとって非常 に重要な要素であることを改めて実感した。 3―11.課題:Q11「本学における留学アドバイジングサービスをより良い ものにするために,ご意見をお聞かせ下さい」 Q11 の問いに対して,11 件の回答が寄せられた。 【課題 1】留学を検討している学生にとって大変有意義な話を聞くことがで きる貴重な機会であると思いました。より多くの学生がこの機会を利用でき るようになればと思っております。 【課題 2】今回はワンセッションでの相談会でしたが,定期的に相談出来た らいいなぁと思っています。また私は,国際寄宿舎にも興味があり,留学だ けではなくそれらについても教えていただきたいです。 【課題 3】持っている知識以上に得たものがなかったので自分が持ってる知 識以上の自分に合ったプランを提案するなどしたら向上するとおもう。
【課題 4】ZOOM ではなく実際に会って話を聞けたらいいです。 【課題 5】事前に自分のことを記入するフォームなどがあればより濃い話が できるのではないかと思います。 【課題 6】予約状況を確認できるとうれしいです。 【課題 7】奨学金についてより詳しい情報が欲しかったです。 【課題 8】メールの確認を忘れて回答が遅くなってしまい,申し訳ないです。 【課題 9】相談したかった内容を話すことができたので満足している。 【課題 10】連絡を可能な限り迅速に行いたい。 【課題 11】アドバイジングのあともメールで気にかけてくださったので,次 に疑問が出てきたときに相談しやすく,ありがたいと思いました。また,留 学に関連して,本学で受けると良い授業のことなども教えてくださり,視野 が広がりました。 下線部を中心にこれらを分析することによって以下の 4 つの課題が明らか になった。尚,括弧内の数字は,上記Q11 に対する自由回答の内,以下の 4 つの課題に関連するものの番号である。 (1)機会の拡大(1,2) 現時点では,本学国際センターにおいて留学アドバイジングを担当してい るのは筆者 1 人だけである。他の国際教育交流業務や教育研究の合間を縫っ て 1 週間当たり半日(4 時間)の時間を捻出し,4 名のアドバイジングを行 うのがやっとの状況である。学生の留学に対する興味関心の芽を一緒になっ て育てていくためには,きめ細やかで丁寧なアドバイジングが欠かせない。 今後,本学がより多くの学生に海外留学の機会を提供していく上で,留学ア ドバイジングの果たす役割は大きい。人件費増など解決すべき問題もあるが, 留学アドバイジング提供日時の拡大が求められると考える。
(2)効率的な予約・連絡システムの導入(5,6,10) これまで,利用者はE メールで直接アドバイザーに申込を行い,アドバ イザーは申込を一件ごとに手作業で処理し,予約完了のメールを送信してき た。このような手作業に依存するやり方は非常に手間暇がかかるだけではく, ミスも引き起こしやすい。今後の留学アドバイジング利用者の量的拡大も視 野に入れつつ,よりシステマティックな予約・連絡のシステムの導入が望ま れる。 (3)フォローアップの実施(2,11) 留学アドバイジングは,一度きりの利用に限定されるべきではない。利用 者が抱える問題は,動的であり置かれた状況によって刻一刻と変化する。初 回のアドバイジングでは語学試験の点数が足らないことに悩んでいた利用者 が,その 2 か月後に,目標スコアを獲得して,具体的な大学選択に関して頭 を抱えているという状況も大いに想定され得る。 また,留学へ行くことが決まってからも何らかの問題を持つ利用者もいる。 実際,交換留学の場合,学内選考合格後出発まで通常約 8 カ月もの期間があ る。岩城(2017)は,「留学決定後から渡航までの間もさまざまな困難や悩 みがあり,それに対する教育的指導や助言などが必要である」と述べ,留学 決定後も継続的にフォローアップを実施していくことの重要性を指摘してい る。留学アドバイジングサービスをより実りあるものにするためには,一度, 留学アドバイジングを受けた利用者がその後も継続的にアドバイザーに連絡 を取ることができる仕組みを構築していかなければならない。 (4)アドバイザーの能力向上(3) 留学アドバイザーは多くの留学希望学生にとってファーストコンタクトと なるため,学生に対する影響度は大きい。相談者に,課題 3「(自分が)持っ ている知識以上に得たものがなかった」のように感じさせることのないよう,
アドバイザーは,常に最新の情報を入手しておく必要がある。一方,河合 (2005)は,留学アドバイザーに求められる役割として,知識の伝達よりも,
学生が自分自身で考えられるようにサポートすることの重要性を説いてい る。それでは,相談者の自主性を高めるためにはどうすればよいのだろうか。 Carson & Mynard によると,言語学習アドバイバイザーには以下の役割が求 められている。
“Helping learners to identify goals and make learning plans”(Carson & Mynard, 2012: 16)
(学習者が目標を定め,学習計画を作成する支援をする)
英文中の,learners を「相談者」,learning plans を「留学実現に向けた計画」 と読み替えることによって,「相談者が目標を定め,留学実現に向けた計画 を作成するのを助ける」と解釈することができ,留学アドバイジングの文脈 に応用することができる。今後,アドバイジングを通じて,学生が自分自身 で考え,目標を定め,主体的に留学を実現していくことを促していけるよう, 留学アドバイザーとしての能力・スキルを高めていきたいと考えている。
4.結論
本研究では,本学における留学アドバイジングについて概説した上で,留 学アドバイジングを利用した 1 年生 34 名に実施したアンケート結果の報告 及び分析を行った。その結果,本学 1 年生の留学に関して,1)特定の目的 の達成ではなく,英語圏の文化への漠然とした憧れから留学を志す学生が多 い,2)アメリカへの留学希望者が 64.7% と圧倒的に多い,3)具体的に行 きたい大学が決まっていない学生が多い,4)「語学力」と「費用」について不安を感じる学生が多い,5)大多数の学生が「2 年次」に「交換留学」で「1 年間」留学をしたいと考えている,といった傾向が確認された。また,本留 学アドバイジングサービスに対する満足度は 94.1% であり,初の試みとし ては非常に順調な滑り出しとなったと言えるだろう。一方,より良い留学ア ドバイジングサービスを提供してくための課題として,1)機会の拡大,2) 効率的な予約・連絡システムの導入,3)フォローアップの実施,4)アド バイザーの能力向上,が挙げられた。 今回のアンケート調査への協力者は 34 名であり,上記の結果を一般化す ることはできないが,実際に筆者の留学アドバイジングを受けた本学 1 年生 が,留学に対してどのようなイメージや価値観を持っているのか,その傾向 の一端を明らかにすることができたのではないかと思う。今回得られたデー タが,今後,更に魅力的な留学支援プログラムや国際教育交流に係る授業等 を企画・開発していく上で,何らかの参考になれば幸いである。
参考文献
岩城奈巳(2017).「交換留学決定後から出発までの学生支援に関する考察」『名 古屋大学国際教育交流センター紀要』4, 27―33. 河合成雄(2005).「海外派遣留学アドバイジングのあり方についての試論」『神 戸大学留学生センター紀要』11, 87―97. トビタテ!留学JAPAN「海外留学に関するアンケート調査」 〈https://tobitate.mext.go.jp/newscms/img/news/120_1_ie9fCQ8Fd0fA9Hf2.pdf〉 (2020 年 9 月 30 日最終アクセス) 日本学生支援機構(2018).「2018(平成 30)年度日本人学生留学状況調査結果」 8 大学工学教育プログラム・グローバル化推進委員会・国際協力部会(2008).「日 本人学生の留学に関する意識調査」 ベネッセコーポレーション(2009).「留学に関するアンケート調査」『留学生・ 海外体験者の国際における能力開発を中心とした労働・経済政策に関する調 査研究』, ベネッセ教育研究開発センター文部科学省(2020).文部科学統計要覧(令和 2 年版)(大学・学生数) 〈https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/002/002b/1417059_00003.htm〉 (2020 年 12 月 18 日最終アクセス)
Mynard, J., & Carson, L. (2012). Advising in Language Learning. Dialogue, tools and context. Harlow, England: Pearson.