条約法に関するウィーン条約第60条に関する一考察(1): 歴史的変容、多数国間条約への適用および5項の意義
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(2) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). 第 1 章 問題の所在 条約法に関するウィーン条約(条約法条約)第 60 条が定めるのは、同条約 に定められる条約の終了および運用停止原因の 1 つである条約違反 1)および その結果として生じうる条約の終了および運用停止のあり方である 2)。第 60 条は、条約の終了・運用停止 3)の原因たる条約違反を条約の重大な違反に局 限し、条約違反の結果として生じる終了・運用停止のあり方を二国間条約と多 数国間条約の場合に分けて定めるとともに、同条に基づいて条約を終了・運用 停止させることができない場合についての適用除外の定めをおいた。. *博 士 (国際経済法学) (横浜国立大学) 。LL.M. (University of Ottawa).Email: [email protected] ** 本稿は、筆者が 2009 年に横浜国立大学大学院国際社会科学研究科に提出した博士論文を全 面的に改訂したものである。 1)条約法条約第 42 条 2 項は、 「条約の終了若しくは廃棄又は条約からの当事国の脱退は、 条約又はこの条約の適用によってのみ行うことができる。条約の運用停止についても、 同様とする」と定める。同項の意義は、条約の無効、終了原因に関する条約法条約の網 羅主義を明らかにする点にある。1966 年最終草案第 39 条(現第 42 条)に付された国連 国際法委員会(以下、ILC または委員会。 )のコメンタリーよれば、 「条文草案中に規定さ れている無効、終了、廃棄、脱退及び停止の各原因(根拠)は、条約自身の中に明示規 定のある特定の場合を除いて、そのような原因を全部網羅していることを示そうと意図 し て い る。 」 (YBILC 1966, vol. II, p. 237, para.(5) . 日本語訳 は、小川芳彦訳「資料国際法 委員会条約法草案のコメンタリー(4) 」 『法と政治』 (関西学院大学)第 20 巻第 1 号(1969 年)116 頁。 ) 第 42 条 2 項によって条約法条約が条約の無効、終了および運用停止の原因をすべ て網羅するという立場に対しては ILC の委員の中にも批判的な意見があった。例え ば、Rosenne は、第 42 条(発言当時の条文番号は、第 30 条。)が網羅的であるのは、 条約法上の無効や終了の原因に関してだけであって、国家承継法などの他の国際法 分野に存する原因に関しては、網羅的ではないとの見解を示した。(Rosenne, YBILC 1966, vol. I, pt. 1, p. 123, para. 25 (841st meeting). )ま た、陳 腐 化(obsolescence)お よび廃用(desuetude)が終了原因から除外されており、学説上、十分に網羅的でな い と い う 強 い 批判 が あ る。例 え ば、F. Capotorti, “L’extinction et la suspension des 106.
(3) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(1). 「第 60 条( 条約違反の結果としての条約の終了又は運用停止) 1 二国間の条約につきその一方の当事国による重大な違反があつた場合に は、他方の当事国は、当該違反を条約の終了又は条約の全部若しくは一 部の運用停止の根拠として援用することができる。 2 多数国間の条約につきその一の当事国による重大な違反があつた場合に は、 (a)他の当事国は、一致して合意することにより、次の関係において、条 約の全部若しくは一部の運用を停止し又は条約を終了させることがで きる。 (i) 他の当事国と違反を行つた国との間の関係 traités”, Recueil des Cours, tome 134 (1971-III), p. 519; I. Sinclair, The Vienna Convention on the Law of Treaties (2nd ed., Manchester University Press, 1984), pp. 162-165; P. Reuter, Introduction au droit des traités, (2ème édition, Presses Universitaires de France, 1985), p. 159. なお、廃用については、長谷川正国「国際法における廃用(desuetude)の一考察: 国際条約の廃用を中心にして」『福岡大学法学論叢』第 56 巻第 4 号(2012 年)539-577 頁に詳しい。 2)条約違反の結果として生ずる終了および運用停止は、当該条約違反を援用する国が国際 法上とりうる対応の 1 つに過ぎない。McNair は、条約違反の結果として、以下の権利が 条約の他の当事国に生ずるという。 (1)一方的廃棄(unilateral abrogation)権、 (2)条 約規定の履行の対抗的な停止、 (3)賠償請求のために仲裁または司法手続に訴える権利、 (4)賠償を確保するために必要な非軍事的措置をとる権利、 (5)条約上に規定された制 裁を援用する権利、および(6)一定の状況下において個人を訴追する権利である。Lord McNair, The Law of Treaties (Clarendon Press, 1961), pp. 539-540. ま た、Simma も、外交 的な対応や紛争の平和的解決などを含むより広い文脈において、第 60 条に規定された 終了および運用停止が条約違反の被害国にとっての 1 つの選択肢に過ぎないとする。B. Simma, “Reflections on Article 60 of the Vienna Convention on the Law of Treaties and Its Background in General International Law”, ÖZöR, vol. 20 (1970), p. 5. 3)以下、 便宜上、 終了および運用停止が 「および」で接続される場合には中黒(・)を用いる。 両者が「または」で接続される場合およびそれぞれが単独で使用される場合は、この限 りではない。 107.
(4) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). (ii)すべての当事国の間の関係 (b)違反により特に影響を受けた当事国は、自国と当該違反を行つた国 との間の関係において、当該違反を条約の全部又は一部の運用停止 の根拠として援用することができる。 (c)条約の性質上、一の当事国による重大な違反が条約に基づく義務の履 行の継続についてのすべての当事国の立場を根本的に変更するもので あるときは、当該違反を行つた国以外の当事国は、当該違反を自国に つき条約の全部又は一部の運用を停止する根拠として援用することが できる。 3 この条の規定の適用上、重大な条約違反とは、次のものをいう。 (a)条約の否定であつてこの条約により認められないもの (b)条約の趣旨及び目的の実現に不可欠な規定についての違反 4 1 から 3 までの規定は、条約違反があつた場合に適用される当該条約の 規定に影響を及ぼすものではない。 1 から 3 までの規定は、人道的性格を有する条約に定める身体の保護に関す る規定、特にこのような条約により保護される者に対する報復(形式のいかん を問わない。 )を禁止する規定については、適用しない。 」 条約法条約は、 「国の間の条約」について適用される(第 1 条)4)。その適 4)ILC による条約法の法典化に際して、法典化された条約法の対象を国家間の条約に限定 すべきか、または国際機構が当事者となる条約も含めるべきか、という問題については 委員会と特別報告者の間で見解の相違が度々見られた。最初の特別報告者 Brierly は、そ の第 1 報告書において、国際機構が当事者となる条約を条約法草案の対象範囲に含める こ と を 提案 し た(J. L. Brierly, Report on the Law of Treaties, DOCUMENT A/ CN.4/23, YBILC 1950, vol. II, pp. 226 and 228, paras. 25-27.) 。しかし、とくに ILC 第 51 回会合(同 会合では、Brierly の意向を受けて、交換公文と国際機構が当事者となる条約の取り扱 いの 2 点に絞って審議が行われた。Ibid., vol. I, p. 75, para. 2.)における Hudson 委員の発 言(Ibid.,p. 79, para. 55 b.)を受けて、Brierly は翌 1951 年の ILC 第 98 回会合の冒頭、条 文草案を国家間の条約に限定して起草し、国際機構への適用は別途検討することとした 108.
(5) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(1). 用上、条約は、 「国の間において文書の形式により締結され、国際法によって 規律される国際的な合意」と定義される(第 2 条 1 項(a) ) 。したがって、条 約とは、一義的には、 「国際的な合意」 、すなわち、2 以上の国の意思表示の 合致であるということができる 5)。かかる合意は、 「文書の形式により締結さ (YBILC 1951, vol. I, p. 136, para. 1) 。ところが、Brierly の後任の Lauterpacht およびその 後任の Fitzmaurice は、対象範囲に国際機構が当事者となる条約を含め、または含めるこ とを前提として、それぞれの条文草案を起草した(H. Lauterpacht, Report on the Law of Treaties, DOCUMENT A/ CN.4/63, YBILC 1953, vol. II, p. 90; G. G. Fitzmaurice, Report on the Law of Treaties, DOCUMENT A/-CN.4/101, YBILC 1956, vol. II, pp. 107 and 117, para. 3) 。そこで、再び ILC は、条文草案の起草を国家間の条約に限定して行い、国際機構が当 事者となる条約への適用については後に検討するという方針を確認した(Statements by Fitzmaurice and F. V. García-Amador, YBILC 1956, vol. I, p. 227, paras. 12 and 14.) 。に も か かわらず、Waldock も国際機構が当事者となる条約を条約法の対象範囲に含める条文草案 を 起草 し た(Humphrey Waldock, First Report on the Law of Treaties, DOCUMENT A/ CN.4/144, YBILC 1963, vol. II(以下、Waldock I) , pp. 31 and 32, paras. (3), (4).) 。条約法 の 対象範囲が国家間の条約に限定されたのは、ようやく最終草案作成の前年の会期であっ た(YBILC 1965, vol. I, 777th meeting, pp. 9-16, paras. 5-78; 810th meeting pp. 244-245, paras. 10-27; 811th meeting, p. 256, para. 104; 820th meeting, pp. 307-308, paras. 15-26.) 。See also J. Klabbers, The Concept of Treaty in International Law (Martinus Nijhoff Publishers, 1996) pp. 47-49. 5)条約法条約は、 「国際的な合意」そのものに関する定義をおかない。M. Fitzmaurice & O. Elias, Contemporary Issues in the Law of Treaties (Eleven International Publishing, 2005), p. 7. Anzilotti によれば、国際法の形式的法源は、意思表示によって構成される。したがって、 条約とは、 「2 以上の国家が各自相互的に一定の行態を執ることを合意したる意思の明示 的表示」と定義される。一又正雄訳『アンチロッチ国際法の基礎理論』 (厳松堂書店 1942 年)73 頁(ただし、旧字体、旧仮名遣い、漢数字を改めた。以下同書からの引用につい ては同じ) 。また、皆川は、第 2 条 1 項(a)を解釈し、次のように定義した。 「条約は、 その名称のいかんを問わず、2 または 3 以上の国の意思表示の合致または集中であり、そ の各々が他方に対して単一の文書または関連する 2 以上の文書において定められた行為 規範の拘束力を認めることに同意するものである」 。皆川洸「第 2 章国際法の法源」皆川 洸、内田久司編『講義国際法』 (青林書院新社 1982 年)42-43 頁。もとより、かかる伝統 的な条約の定義は、条約法条約に関する限りにおいて妥当する。 「南西アフリカ」事件判 決(先決的抗弁)において、ICJ は、 「委任は、事実上および法律上、条約の性格を有す 109.
(6) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). れ」6)、 「国際法によって規律される」7)ものでなければならない。 常設国際司法裁判所(以下、PCIJ)は、ロ チュス 号事件 に お い て、国際法 における意思主義を次のように表明した。 「国際法は、独立国間の関係を支配 する。ゆえに、国々を拘束する法の規則は、国々の意思、条約において表示さ れるか、または一般に法の原則を定めるものと認められ、かつ、これら独立団 る国際的合意である」とし、その一方の当事者は国際聯盟自身であるとした(I.C.J. Reports, 1962, pp. 331, 332.) 。現代国際法において、条約概念は国際機構を一方もしくは両方の当 事者とする条約にまで拡大され、条約とは 2 以上の国際法主体間の合意ということがで きる。E. Jiménez de Aréchaga, “International Law in the Past Third of a Century”, Recueil des Cours, tome 159 (1978-I), p. 36; 横田喜三郎『国際法 II〔新版〕 』 (法律学全集 56) (有斐 閣 1972 年)385 頁。この点に関して、Reuter は次のように定義した。 「条約とは、2 ま たはそれ以上の国際法主体に帰されるべき一致した意思の表明であり、国際法規則にし たがって法的効力を有すべきことが意図されたもの。 」Reuter, supra note 1, p. 33, para. 63. See also V. D. Degan, Sources of International Law (Martinus Nijhoff Publishers, 1997), pp. 357-358.なお、国家間で締結された文書が法的拘束力を有するかどうかの判断に際 し、国家の意図が有用な基準となりうるという見解として、Klabbers, ibid., pp.63-64. See also idem, “Not Re-visiting the Concept of Treaty” in A. Orakhelashvili & S. Williams eds., 40 Years of the Vienna Convention on the Law of Treaties (British Institute of International and Comparative Law, 2010), pp. 29-39. 6)条約法条約の適用上、口頭の合意は、条約とはみなされない。ただし、ILC が条約法条約 における適用対象を「文書の形式」により締結された条約に限定したのは、第 1 に、通 常、条約という語が文書の形式による合意を指すものとして用いられていること、第 2 に、 条約法の条文草案を簡単、明瞭なものとするためであった。したがって、条約法条約が 口頭による合意の国際法上の法的効力を否定したり、同条約に規定された諸原則が口頭 の合意に関して無関係であるといったことを意味するわけではない YBILC 1966, vol. II, p. 189, para. (7). See also ibid., p. 190, para. (3). 7)この文言は、国際法によって規律される国際的合意と、国家間において締結された合意 であっても当事国の一方の国内法または合意された第三国の国内法によって規律される 国際的合意とを区別するために設けられた。ILC は「国際法上の義務を創り出す意思」の 要素を付け加えるべきかどうかを検討したが、かかる意思は、 「国際法によって規律され る」という文言に読み込まれており、 追加する必要はないとされた。YBILC 1966, vol. II, p. 189, para. (6). 小川芳彦「 (資料)国際法委員会条約法草案のコメンタリー(1) 」 『法と政治』 (関西学院大学)第 18 巻第 4 号(1967 年)98-99 頁。 110.
(7) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(1). 体の共存を規制し、もしくは共同目的を追求するために確立された慣行におい て表示されるところの国々の意思から生じるものである」8)。慣習国際法およ び条約が形成される過程においては、相互主義が積極的な機能を果たす 9)。そ して、明示になされた国家の意思表示の合致に対して条約としての客観的な 拘束力を与えるのは、pacta sunt servanda 原則である 10)。条約法条約において、 8)P.C.I.J. Serie A, No. 10, p. 18. 皆川洸『国際法判例集』 (有信堂 1975 年)255 頁。 9)B. Simma, “Reciprocity”, EPIL, vol. 7 (1984), p. 400; 松井芳郎「国家管轄権 の 制約 に お け る 相互主義の変容」村瀬信也・奥脇直也編集代表『国家管轄権―国際法と国内法―』 (山本 草二先生古稀記念) (勁草書房 1998 年)43-44 頁。 10)国際法の形式的法源を意思表示によって構成する Anzilotti も、合意によって形成される 規範の拘束力の源を pacta sunt servanda 原則に求める。 「国家自身の間に黙示的又は明示的 合意の方法によって定立される規範 ・・・ これらの規範の拘束力は、国家は国家間に締結さ れたる合意を尊重せざるべからずという原則、即ち pacta sunt servanda の原則から生ずる」 。 D. Anzilotti, Cours de droit international, vol. I (trans. G. Gidel, R. Sirey, 1929), pp. 43-44; 一又『前 掲書』 (注 5)48-49 頁。また、Lauterpacht は、私法上の契約と条約の法的性質を論じる 中で次のように述べた。 「私法契約と国際法条約の法的性質は本質的に同一である。当事 者の自律的な意思が、契約と条約の両方において、法的関係―それは、その創出の瞬間か ら一当事者の任意の意思から独立のものとなる―を作り出す条件である。私法上の契約に 客観的な効力を与えるのが国家法であり、国際条約の客観的な効力を与えるのは国際法の 根本の 1 つである pacta sunt servanda 規則である。 」H. Lauterpacht, Private Law Sources and Analogies of International Law (Archon Books, Reprinted in 1970), p. 156. また、Kunz も条約が 法的な義務的効力を有するのは、 「諸国の一致した意思表示においてではなく、上位規範 たる pacta sunt servanda においてであり、それは諸国の一致した意思表示が条約形成手続 を通じて国際法の有効な規範を作り出すことを命ずるものである。 」Josef L. Kunz, “The Meaning and the Range of the Norm Pacta Sunt Servanda”, AJIL, vol. 39 (1945), p. 181. な お、 条約の拘束力の淵源に関する学説を整理したものとして、ハーヴァード草案第 20 条のコ メンタリーを参照した。Suppl. AJIL, vol. 29 (1935), pp. 986-989. ここで、pacta sunt servanda 原 則自体をどのように捉えるかという問題が残る。この点につき、Anzilotti は、 「この規範 自体の見地よりすればそれ以上の証明をなすことは出来ない。即ちそれは絶対的客観的価 値として、換言すれば、第一次的にして且証明し得ない仮説―人間の知識のすべての秩序 がそうであるように、この秩序も必然的にそれを基礎とするところの仮説―として受容せ られねばならない」という(一又、 『前掲書』 (注 5)49 頁。 ) 。また、Sinclair は、この原 則を「国際法規則の内容に法としての性格を与えるという意味」で法源(source)と捉え、 法を超えた性格(extra-legal in character)を有するという(Sinclair, supra note 1, p. 2.) 。 111.
(8) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). かかる国家の意思は「同意」として表示される 11)。 条約法条約における「同意」は、条約の生成から消滅までを支配する中心的 な要素に据えられる 12)。 「同意」は、まず、 「条約に拘束されることについての 国の同意」として表明される。国による同意の表明の仕方は、第 11 条から第 15 条までの各条文がこれを定める 13)。また、第 18 条(b)は、 「条約に拘束さ れることについての同意」の表明により条約の効力発生前に生ずる義務を定め る 14)。条約が第三国の権利または義務を創設する場合、当該第三国による「同 意」が不可欠となる 15)。さらに、条約の無効原因を定める第 46 条から第 50 条 までの各条文において、 「条約に拘束されることについての国の同意」の無効 11)条約法条約第 2 条 1 項(b)は、条約法条約上の用語法として、批准、受諾、承認およ び加入を「国際的な行為」とし、 「条約に拘束されることについての国の同意」は、こ れらの行為を通じて国際的に確定されると定める。なお、批准、受諾、承認、加入が「国 際的な行為」として定義されたのは、条約法条約が国内法(憲法)上の条約締結手続に は一切関わらないことを意図したものである。YBILC 1966, vol. II, p. 189, para. (9). 12)Ibid. 13) 「条約に拘束されることについての国の同意」の表明に関する手続および方法の決定おけ る交渉国の意思の重要性を考察したものとして、A. Bolintineanu, “Expression of Consnt to be Bound by a Treaty in the Light of the 1969 Vienna Convention”, AJIL, vol. 68 (1974), pp. 672-686. 14)第 18 条 に 定 め ら れ る 義務 は、1966 年最終草案第 15 条 の ILC コ メ ン タ リー(YBILC 1966, vol. II, p. 202, para. (1).)お よ び ハーヴァード 草案第 9 条(Suppl. AJIL, vol. 29 (1935), p. 658.)によれば、誠実(good faith)義務にあたるとされる。ただし、Brierly は、自 身の第三報告書第 7 条およびそのコメンタリーにおいて、かかる義務が国家実行のよっ て受け入れられているとは言いがたく、法典化の基礎としてはあまりに断片的で確定的 でないとして同条が定める規則を条約法として法典化することに反対した。J. L. Brierly, Third Report on the Law of Treaties-Articles Tentatively Adopted by the Commission at the Third Session with Commentary Thereon, A/CN.4/54 and Corr.1, YBILC, 1952, vol. II, p.54.。 15)第 34 条は、第三国に関する一般的な規則として、 「条約は、第三国の義務又は権利を当 該第三国の同意なしに創設することはない」と定める。 112.
(9) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(1). は、第 69 条 1 項に定められる条約の無効と同義である 16)。条約の終了および 運用停止に関しても「同意」の有無が決定的な要素となる 17)。他方で、後発的 な終了・運用停止原因による条約の終了または運用停止の場合、第 60 条 2 項 (a)の場合を除いて、文言上「同意」の要素が顕在化することはない。しかし、 条約法条約が定める手続上、他の当事国の同意は黙諾の形で求められる 18)。 先行する相手方の条約違反に対して、自国を条約義務から解放する一方的廃 棄権として発展してきた歴史的背景 19)をもつ第 60 条に関して、果たして同意 はどのような役割を担うのであろうか。とくに多数国間条約に関しては、その 形成のあり方が条約の継続的な適用に及ぼす影響とその範囲に関係する。従来、 この点に関して十分な研究がなされてこなかったように思われる。その原因の ひとつは、先行する違法行為に対抗する行為という点で類似性をもつ復仇およ び相互主義に基づく国際義務の不履行といった概念との混同やそれらとの対比. 16)第 69 条 1 項によれば、 「この条約によりその有効性が否定された条約は、無効である。 無効な条約は、法的効果を有しない」 。第 46 条から第 50 条までの各条文は、 「同意を無 効にする根拠として」それぞれの定める無効原因を援用する可否について定める。これ に対し、第 52 条および第 53 条は、それぞれ「・・・ 条約は、無効である」という定式を 用いる。第 51 条のみは、 「条約に拘束されることについての国の同意の表明は、・・・ い かなる法的効果も有しない」と定める。この点に関し、Capotorti は、第 46 条から第 50 条までの規定が条約の取消(annulation)について定め、第 51 条から第 53 条までの規 定が条約の無効性(nullité)について規定するものであると説明する。F. Capotorti, “Cours général de droit international public”, Recueil des Cours, tome 248 (1994-IV), pp. 175-200, esp. 177-179. 17)第 54 条は、条約の終了または脱退を行いうる場合として、 (a)条約に基づく場合、 (b) すべての当事国の同意がある場合を定める。また、条約の終了・運用停止における同意 の重要性を考察したものとして、R. Plender, “The Role of Consent in the Termination of Treaties”, BYIL, vol. 57 (1986), pp. 133-167. 18)Capotorti, supra note 1, pp. 562-564. 詳細は第 3 章において論じる。 19)詳しくは、次章において論じる。 113.
(10) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). を目的とした終了・運用停止概念の簡素化にあると考えられる。いわゆる対抗 措置論 20)は、国際法における自助のあり方を考える上で有益ではあるが、概 念論として比較可能な特徴を強調し、そうでない部分に十分な考察を加えない 傾向がある。また、一方的廃棄権または第 60 条に特化した研究 21)においても、 条約法条約の手続規則が第 60 条に与える影響が十分に検討されてきたといえ るか、疑問なしとしない 22)。 そこで、本稿は、次章から第 4 章において、一方的廃棄権から第 60 条に至 る歴史的展開を考察し、中世カノン法にまでさかのぼるその由来と一方的廃 棄権の形成ならびに手続および違反の重大性に関する考慮について検討する。 ILC による条約法の法典化の結果、それ以前の学説および実行において支持さ れた一方的廃棄権は、違反の重大性に関する考慮によってその適用が大きく制 限されただけでなく、条約法条約の手続規則に従うことによって、黙諾を通じ た同意を要する終局的または一時的な条約の消滅の過程へと変容したことを明 らかにする。従来の対抗措置論において、条約の終了・運用停止は、復仇およ 20)例 え ば、E. Zoller, Peacetime Unilateral Remedies: An Analysis of Countermeasures (Transnational Publishers, Inc., 1984); D. Alland, Justice privée et ordre juridique international (Pedone, 1994); 長谷 川正国「条約違反に対する対抗措置―条約法と国家責任法の交錯―」 (1) 、 (2) 、 (3・完) 『福 岡大学法学論叢』第 32 巻 3・4 号(1988 年) 、 第 34 巻第 2・3・4 号(1990 年) 、 第 35 巻第 1・ 2・3 号(1990 年); 山本良「条約の違反に対する対抗措置(1)―条約法条約第 60 条と一 般国際法上の復仇の関係に関する一考察―」 『宮城教育大学紀要』第 35 巻(2000 年) 。 21)例 え ば、B. P. Sinha, Unilateral Denunciation of Treaty Because of Prior Violations of Obligations by Other Party (Martinus Nijhoff, 1966); Simma, supra note 2; M. M. Gomaa, Suspension or Termination of Treaties on Grounds of Beach (Martinus Nijhoff Publishers, 1996); 経塚作太郎 「条 約違反と条約の終了―ウィーン条約法条約第 60 条の研究―」森川俊孝(編) 『紛争の平 和的解決 と 国際法』 (皆川洸先生還暦記念) (北樹出版 1981 年); 福田吉博「条約違反 と ウィーン条約法条約」 『法と政治』 (関西学院大学)第 35 巻第 1 号(1984 年) 。 22)例えば、上記脚注 21 に挙げた Gomaa の著作は、第 60 条と条約法条約の手続に関してもっ とも充実した研究の 1 つであるが、同手続を前提としてもなお、第 60 条に基づく対応を 一方的な条約の終了・運用停止とみなす。本稿は、 この点において同書と立場を異にする。 114.
(11) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(1). び相互主義として合法化される先行する違法行為に対する同等の対抗的な違法 行為と対比されて論じられてきた 23)。しかし、条約の終了・運用停止は本来 的に違法行為としては把握されず、また、条約法条約の手続規則に服すること により、一方的な対応とは異質の条約法上の同意形成過程として把握されるの ではないかと考えられるのである。後半の第 5 章から第 7 章は、とくに多数国 間条約に焦点を当て、法典化以前の学説および実行の分析を通じて多数国間条 約に特有の問題点を明らかにすると共に、ILC による条約法の法典化過程にお いて明らかになった Fitzmaurice と Waldock の見解の相違を対比し、第 60 条 2 項に定められた個別的および集団的対応の意義を検討する。最後に、第 8 章 および第 9 章において、第 60 条 5 項が定める適用除外の意義について考察す る。これらの考察を通じ、第 60 条に基づく終了・運用停止が条約法上の対応 として条約法条約に法典化されたことの意義を明らかにする。. 第 2 章 条約違反を根拠とする条約の終了・運用停止規則の歴史的展開 第 1 節 条約違反を根拠とする終了・運用停止規則の由来 条約法条約第 60 条 に 法典化 さ れ た 終了・運用停止規則 の 由来 は、し ば し ば frangenti fidem, non est fides servanda( 「信義 を 破 る 者 に は、信義 を 守 る 必要 はない」 )24)や inadimplenti non est adimplendum( 「約束を履行しない者に対し 23)See e.g. Simma, supra note 2. 24)邦訳にあたって、次の文献を参照した。小粥太郎「フランス契約法におけるコーズの理 論」 『早稲田法学』第 70 巻 3 号(1995 年) 、31 頁、山下りえ子「フランスにおける契約 解除法制 に つ い て」 『比較法』 (東洋大学比較法研究所)31 号(1994 年) 、105 頁、Ch. Szladits, “Discharge of Contract by Breach in Civil Law”, American Journal of Comparative Law, vol. 2 (1953), p. 336. この法諺は、カノン法学者 Huguccio de Pisa によって定められた とされる。G. Boyer, Recherches historiques sur la resolution des contrats, Presses Universitaires de France, 1924, pp. 225-226, 410. 115.
(12) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). ては、約束を履行する必要はない」 )25)または exceptio non adimpleti contractus ( 「同時履行の抗弁」 )26)に求められる 27)。第 60 条の法典化過程において特別 報告者を務めた Waldock は、その報告書および発言において、inadimplenti non est adimplendum を引用した 28)。また、ILC 第 693 回会合において発言した de Luna や Amado は frangenti fidem, non est fides servanda に 言及 し た 29)。さ ら に、 25)邦訳にあたって、 次の文献を参照した。松井芳郎「国際法における 『対抗措置』の概念」 『法 政論集(名古屋大学) 』154 号 (1994 年 )、348 頁、 長谷川「前掲論文(1) 」 (注 20)470 頁。 26)この法諺は、17 世紀末から用いられるようになったといわれ、その初期には exceptio non impleti contractus と表現されていたという(S. Williston, “Dependency of Mutual Promises in the Civil Law”, Harvard Law Review, vol. 13, No. 2 (1899), p. 99, fn. 1.) 。な お、ローマ 法における同時履行の抗弁の変遷については、船田享二『ローマ法』第 3 巻私法第 2 分 冊債権、岩波書店、1970 年、150-151 頁。こ の 法諺 に は 類似 の 表現 と し て exceptio non rite adimpleti contractus が あ る と い う(Sinha, supra note 21, p. 60. )が、こ れ は 18 世紀 中ごろから用いられるようになったものであり、被告側に挙証責任を求めたことに特 徴的であったという(Williston, ibid., p. 101.) 。その一方で、ローマ法は、少なくとも売 買に関しては履行遅滞に基づく契約解除を認めなかったといわれる。原田慶吉『ロー マ 法』改訂版、有斐閣、1955 年、171 頁 ; R. Zimmermann, The Law of Obligations: Roman Foundations of the Civilian Tradition (Clarendon Press, 1996), pp. 800-802 and fn. 133. 27)Simma, supra note 2, pp.35-36. See also, Separate Opinion of Judge Simma, I.C.J. Reports, 2011, p. 702, para. 17 at http://www.icj-cij.org/docket/files/142/16829.pdf. 28)Sir Humphrey Waldock, Second Report on the Law of Treaties, DOCUMENT A/CN.4/156 and Add. 1-3, 20 March, 10 April, 30 April and 5 June 1963, YBILC 1963, vol. II(以 下、 Waldock II), p. 76, para.14; YBILC 1963, vol. I, p. 131, para. 29. 他 方 で、Waldock の 前 任の Fitzmaurice は、その条文草案およびコメンタリーにおいて、本文中で引用したよ うな法諺を用いず、より直接的に国内法上の原則に起源を求めて、次のように述べた。 「他方当事者に契約を終了させる権利を付与する根拠としての根本的な違反は、国際法 のほとんどの諸権威により認められている。しかし、それは、おそらく基本的に英米法 (common law)における 1 つの法理であるため、国際平面においては大陸法(civil law) の法学者よりも英米法の法学者によって容易に受け入れられてきた」 。G. Fitzmaurice, Second Report on the Law of Treaties, DOCUMENT A/CN. 4/107, 15 March 1957, YBILC 1957, vol. II(以下、Fitzmaurice II) , p. 52, para. 113. 29)De Luna, YBILC 1963, vol. I, p. 128, para. 3; Amado, ibid., p. 130, para. 20. Amado は、条 約の安定性にかかわる pacta sunt servanda 原則に対比される信義誠実原則として frangenti fidem non est fides servanda に言及した。 116.
(13) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(1). 対抗措置について論ずる論文や ILC の報告書などでは、しばしば exceptio non adimpleti contractus に言及される 30)。 これらの法諺は、互換的に用いられることもあるが 31)、内容の違いが指摘 されることもある 32)。Boyer によれば、frangenti fidem, non est fides servanda は 契約解除 の 法理 に 通 じ、exceptio non adimpleti contractus は 一時的 な 不履行 を 正当化する同時履行の抗弁の由来ともいわれる 33)。また、inadimplenti non est adimplendum や exceptio non adimpleti contractus に 関 し て は、こ れ ら が 第 60 条 に基づく終了・運用停止とは異なる規則を構成すると主張されることもあ る。例えば、Jiménez de Aréchaga は、紛争の平和的解決のための手段が講 30)E. g., P.-M., Dupuy, Droit international public (Dalloz, 1992), p. 216; G., Abi-Saab, “Cours général de droit international public”, Recueil des Cours, tome 207 (1987-VII), p. 293; S. Bastid, Les traités dans la vie internationale (Economia, 1985), p. 204.ま た、最近 で は、1995 年 9 月 13 日暫定協定の適用事件(ICJ, 2011 年 12 月 5 日)において、ギリシアは、原 告であるマケドニア旧ユーゴスラビア共和国(FYROM)の主張を全面的に争ったが、代 替的に、たとえ FYROM の NATO 加盟に対する拒否権の行使が暫定合意に違反すると しても、その違法性は、先行する原告国の違法行為によって阻却されると主張し、その 根拠として、exceptio non adimpleti contractus、条約法条約第 60 条および国家責任法上の 対抗措置 を あ げ た。I.C.J. Reports, 2011, pp. 680-682, paras. 114-122 at http://www.icj-cij. org/docket/files/142/16827.pdf 31)Gomaa, supra note 21, p. 117; Simma, supra note 2, pp. 35-36; J. Nisot, “L’exception ‘non adimpleti contractus’ en droit international”, RGDIP, tome 74 (1970-II), p. 668. ま た、Sinha によれば、これら 3 つの法諺は、frangenti fidem, non est fides servanda から inadimplenti non est adimplendum、exceptio non adimpleti contractus へと具体的な規則の内容を伴いつつ発展 してきたものと理解される。Sinha, supra note 21, p. 60. 32)例えば、Zoller によれば、inadimplenti non est adimplendum は、一国の規則の遵守が他 国の遵守に条件付けられていることを意味し、exceptio non adimpleti contractus は、一 方当事者が契約を履行しない場合に他方当事者に対して履行しない権利を付与するこ とを意味するという違いがある。さらに、これらはいずれも存在する条約の不履行を 正当化するに過ぎず、条約の法的存在に影響を与える終了・運用停止とも異なるとい う。Zoller, supra note 20, pp. 15, 27, 30-31. 33)Boyer, supra note 24, pp. 255-257. 117.
(14) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). じられ、それが進行中である場合における対応として、法の一般原則たる inadimplenti non est adimplendum が条約法条約の厳格な条件に優位し、 被害国 (the aggrieved party)は暫定的に条約の履行を停止することできると主張する 34)。 また、Crawford & Olleson によれば、exceptio non adimpleti contractus は条約法 に属する規則とみなされるものの、具体的な条文としては法典化されておらず、 条約解釈を通じて条約義務の相互的性質に読み込まれる条件と解釈される 35)。 これに対して、Gomaa は exceptio non adimpleti contractus を条約法ではなく国家 責任法上の対応として位置づける 36)。これらの見解によれば、inadimplenti non est adimplendum や exceptio non adimpleti contractus は条約の一時的な不履行を正 当化する何らかの規則を構成するとも考えられる。 34)Jiménez de Aréchaga, supra note 5, p. 81. こ の 主張 は、inadimplenti non est adimplendum に 基づく暫定的な停止措置が第 60 条と異なることを示唆するものの、それが条約法上の 措置として位置づけられるのか、それとも、それ以外の法領域に位置づけられるのか自 明ではない。長谷川「前掲論文(1) 」 (注 20)481-483 頁。 35)J. Crawford and S. Olleson, “The Exception of Non-performance: Links between the Law of Treaties and the Law of State Responsibility”, Australian Year Book of Interntaional Law, vol. 21 (2001), pp. 55-74; また、Simma は、1970 年の自身の論文(前掲注 2)が、重大でな い違反の場合に、第 60 条が適用できない状況において、exceptio non adimpleti contractus の適用の余地があると主張した(Sep. Op. Simma, supra note 27, p. 704, para. 22) 。これ に対して、暫定協定事件判の際に提出した個別意見では、自覚的に自身の見解を修正 し、条約法上の対応は、第 60 条が排他的に条約違反の結果を定めるため、同時履行の抗 弁に基づく条約の運用停止がなされる余地はないと論じた。 (Ibid., pp. 704-708, paras. 2229.)なお、この点に関して、Simma の議論は、あくまでも exceptio non adimplet contractus が条約法上の対応であることを前提としていることに留意しなければならない。同時 履行の抗弁が条約法の対応でないとするならば、適用の余地は残されると考えられる。 J. Crawford, Second report on State responsibility, Document A/CN.4/498 and Add.14, YBILC 1999, vol. II, p. 81, para. 327; Filippo Fontanelli, “The Invocation of the Excetion of Non-Performance: A Case-Study on the Role and Application of General Principles of International Law of Contractual Origin” Cambridge Journal of International and Comparative Law, vol. 1(1), 2012, pp. 133-134. 36)Gomaa, supra note 21, p.119, fn.129. Gomaa に よ れ ば、exceptio non adimpleti contractus は、復 仇などとともに国家責任法上の対応とみなされる。 118.
(15) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(1). 終了・運用停止が条約の法的存在に影響を与えると考えるなら 37)、それは一 時的な不履行ではなく、契約法上の解除権に類する対応と捉えることができる。 しかし、契約解除の法理といっても各国法制におけるあり方は多様であり、契 約解除の法理と終了・運用停止規則の単純な類推は避けなければならない 38)。 しかも、上述した法諺は契約法上の解除権や同時履行の抗弁権など異なる制度 へと発展しているため 39)、終了・運用停止規則と直接的に結びつけることで 異なる諸概念との混同を招くことにもなりかねない。. 第 2 節 条約違反を根拠とする終了・運用停止規則の展開―一方的廃 棄権の正当性根拠 講学上、ILC による条約の法典化以前の条約違反を根拠とする終了・運用停 止 は 一方的廃棄(unilateral denunciation)と 称 さ れ、一当事国 に よ る 条約違 反は他方の当事国に違反された条約を廃棄しまたはそれから脱退する権利を 生じさせると考えられてきた(一方的廃棄権)40)。以下では、契約に関する原 37)Zoller, supra note 20, pp. 15, 27, 30-31. 38)Sinha は、各国の民法および契約法の規定を包括的に比較し、一方的廃棄権が法の一般 原則としての確立していると主張する。しかし、かかる分析において、例えば、解除権 が形成権として構成される日本民法の規定と解除のために裁判所への解除請求が求めら れるフランス民法の規定の違いをどのように考えるべきかという点には触れていない。 Sinha, supra note 21, pp. 58-76. 39)See also G. H. Treitel, Remedies for Breach of Contract. A Comparative Account (Oxford, Clarendon Press, 1987), pp. 310–311. 40)一方的廃棄権の用語は、終了・運用停止規則の歴史的展開においては、ILC による同規 則の法典化以前の国際法学者の論文・著書および政府高官らの見解においてしばしば用 いられた。しかし、従来その概念の明確な定義づけはなされてこなかったように思われ る。 「unilateral denunciation」の語を自身の著書にも用いた Sinha もその定義を明確にし ておらず、単に一方当事国の条約違反を理由に他方当事国が当該条約を廃棄する権利と いったきわめて漠然とした理解にとどまる (Sinha, supra note 21) 。なお、Sinha の研究は、 119.
(16) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). 則が国際法上一方的廃棄権として受容され、正当とみなされた要因を大きく 2 つに分けて整理する 41)。その 1 つは条約にも双務契約と同様に黙示の条件(la condition sous-entendue)ま た は 解除条件(la condition résolutoire)を 読 み 込 一方的廃棄権に関するまとまった研究として、取り扱われた学説および事例の量など一 定の有用性を有するものの、一方的廃棄権をほぼ無条件に承認した時代錯誤な結論なら びに分析の様式および緻密さの欠如といった点に関して Marek から辛辣に批判された (Book Review by K. Marek, Harvard International Law Journal, vol. 10 (1969), p. 407.) 。 小川芳彦「条約 の 一方的廃棄」国際法学会編『国際法辞典』 (鹿島出版会 1975 年)に よれば、一方的廃棄とは「・・・ 国家が自由意思に基づいて同意を与えた条約を、他の当 事国の意向を無視して一方的に廃棄または脱退すること ・・・」 (同書 345 頁。 )を意味する。 一方的廃棄(権)に対してもっとも批判的な立場を示したハーヴァード草案によれば、 「国家が、単に自国の一方的行為により、自国と条約を侵害したとみなされる国との間で 条約を終了させること」 (Suppl. AJIL, vol. 29 (1935), p. 1077.)とされる。なお、終了と廃棄 の定義について、McNair の用語法によれば、終了とは、 「単に条約が終了すること」を意 味し、廃棄(denunciation or abrogation)は、 「合法か否かを問わず、自身がもはや条約 に拘束されていないとみなす旨の通告を行う当事国の行為」をいう(McNair, supra note 2, p.491, fn.1.) 。したがって、廃棄は、それ自体が一方的な性格を有していると考えられ、ま た終了と廃棄の関係については、廃棄は終了のプロセスであり、終了は廃棄を含むと解 される(A. Aust, Modern treaty law and practice (Cambridge University Press, 2000), p. 224; 長谷川正国「条約の廃棄」国際法学会編『国際関係法辞典』 (三省堂 1995 年)429 頁。 ) 。 41)従来の研究において、第 60 条の法典化前史の整理の仕方には次のようなものが示され てきた。例えば、Simma は、 「伝統的アプローチ」と「現代的アプローチ」に分けて整 理する。 「伝統的アプローチ」とは、条約を「二辺的契約(bilateral compact) 」あるい は「相互依存的または条件付の義務を含む契約」として観念し、その相互依存性ゆえに、 あらゆる違反が一方的な終了・運用停止をもたらすと考える立場である。これに対し、 「現代的アプローチ」は、多数国間条約の増大の結果として、救済の必要性を認めつつ も条約関係の安定を考慮し、一方的廃棄権の無限定の適用から生ずる危険性を強調して 違反の重大性や条約の可分性、手続的要件を考慮する立場である。Simma, supra note 2, pp. 26-28. また、Gomaa は、主に違反の重大性を考慮するかどうかを基準に限定説と非 限定説に学説を分類する。Gomaa, supra note 21, pp. 5-12, 75-79. 本稿では、そうした分類 の有用性は否定しないが、一方的廃棄権が受容された正当化根拠が何であったのかとい う観点から整理する。これにより、なぜ条約の重大な違反を根拠として国家間の合意た る条約が廃棄されうるのかという根本的な問いに対するアプローチが可能になると考え るからである。 120.
(17) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(1). む見解であり、もう 1 つは国際社会の分権的性格に根ざした自力救済の必要性 を考慮し、条約違反に対する復仇の一形態として正当化する見解である。 17 世紀、ウェストファリア条約によりヨーロッパ諸国を中心に近代国際社 会が形成され、その水平的な社会を規律する法秩序として国際法が出現した 頃の国際法学者は、双務契約と同様の黙示の条件または解除条件を条約にも 読み込むことで、 条約違反による条約の廃棄を根拠づけた。条約の各条項は 「条 件の力(la force d’une condition) 」42)を有し、条約の拘束力が当事国による 履行に条件付けられるため、一方当事国の条約違反はただちに他方当事国に 条約を廃棄させる権利を生ぜしめると考えられたのである。また、18 世紀に おいても、一方的廃棄権の妥当性は、条約の双務性それ自体に求められた 43)。 この当時の国際関係が主に二国間条約によって規律されていたためと考えら 42)一又正雄訳『グ ローチ ウ ス 戦争 と 平和 の 法』第 2 巻(復刻版)、酒井書店、1989 年、603 頁 か ら 引用。な お、括弧内 の 仏語表記 は、H. Grotius, Le droit de la guerre et de la paix; nouvelle traduction, précédée d’un essai biographique et historique sur Grotius et son temps ; accompagnée d’un choix de notes de Gronovius, Barbeyrac, etc. ; complétée par des notes nouvelles mise au courant des progrès du droit public moderne, et suivie d’une table analytique des matières, par P. Pradier-Fodéré (Guillaumin et cie, 1867), tome II, p. 265, §XV から引用した。また、Zouche も同様に 「条件の力(the force of a condition)」に言及した。R. Zouche, An Exposition of Fecial Law and Procedure, or of Law between Nations, and Questions concerning the Same: wherein are set forth matters regarding peace and war between different princes or peoples, derived from the most eminent historical jurists, vol. II, trans. J. L. Brierly, Carnegie Institution of Washington, 1911, p. 111. なお、Grotius が双務契約に黙示の条件を読み込んだことを 指摘するものとして、Zimmermann, supra note 26, p. 803. 43)Wolff は、二国間で結ばれた条約を 2 人の私人の間で締結された契約になぞらえて説明 し、 条約義務が 「条件付の義務(conditional obligation) 」であるため、 一方当事国の違反は、 他方当事国が条約から脱退することを正当化すると主張した。Ch. Wolff, Jus Gentium Methodo Scientifica Pertractatum, trans. Joseph H. Drake, (Classics of International Law, No. 13, vol. II, Clarendon Press, Oxford, 1934), pp. 225-226. Vattel は、契約と条約の類推に依 拠しないものの、一方の当事国による条約の実施が他方当事国の履行に依存することを 121.
(18) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). れる 44)。 19 世紀から 20 世紀前半にかけても、条約と契約の類推に基づき、条約の 双務性を根拠に一方的廃棄権を承認する見解が有力であった 45)。その一方で、 国際法において一方的廃棄権が受け入れられるべき根拠を国際社会と国内社 指摘した。 「自国の約束は、他方の当事国が条約規定を実施するであろうということを条 件としてのみなされるものであるから、そうでない場合に条約を放棄することは、間違 いなく正当化される。 」E. de Vattel, The Law of Nations or the Principles of Natural Law, Applied to the Conduct and to the Affairs of Nations and of Sovereigns, translation of the edition of 1758 by Ch. G. Fenwick; with an introduction by Albert de Lapradelle, (Classics of International Law, No. 4, vol. III, Carnegie Institution of Washington, Washington, 1916), p. 177. 44)この点に関し、経塚は、 「グロチウスの時代の条約は、二国間の契約的・双務的条約が中 心であり、従って、条約の条項は、相互条件で拘束力を保有するものであり、同時履行の 抗弁権が公平の見地から根拠とされていることが考えられる」と考察した。経塚「前掲論 文」 (注 21) 、302 頁。なお、Grotius ら初期の国際法学者の見解は契約類推に依拠したも のではないという主張もある。E. Raftopoulos, The Inadequacy of the Contractual Analogy in the Law of Treaties (Hellenic Institute of International and Foreign Law, 1990), pp. 77-119. た だ し、 Raftopoulos の解釈に対しては、強い批判もある。D. W. Greig, “Reciprocity, Proportionality, and the Law of Treaties”, Virginia Journal of International Law, vol. 34 (1994), pp. 365-366, fn. 266. 45)例えば、Wildman は次のように論じた。 「条約は、ひとまとまりの契約である。そのす べての条文は依存しあい、条件の力(the force of conditions)を有しているため、その いずれか一つの違反も条約全体の違反であり、被害国(the party injured)の選択におい て無効とされる。 」R. Wildman, Institutes of International Law, (Benning, London, 1830), p.110. Kent もまた「あらゆる種類の条約は、権限ある当局によって結ばれたなら、私的契約が 個人を拘束するように、国家に対して義務的となる。 」として、私的契約の解釈に適用さ れるのと同一の規則および推論の方法が適用されると主張した。その上で、条約違反は 被害国(the injured party)の裁量による条約の一方的廃棄をもたらすと論じた。J. Kent, Kent’s Commentary on International Law: Revised with notes and cases brought down to the present time, (J. T. Abdy (ed.), Deighton, Bell and Co., 1866), pp. 418-419. See also H. W. Halleck, International Law, or, Rules regulating the intercourse of states in peace and war (D. van Nostrand, 1861), p. 862. ただし、一方的廃棄権に対する懐疑論も有力な学者によって示されていた。Fauchille, Traité de droit international public (Rousseau & Cie., 1921), p.388; Ch. Rousseau, Principes généraux du droit international public, tome 1 (A. Pedone, 1944), p. 539; J. L. Brierly, The Law of Nations (6th ed. by H. Waldock, Clarendon Press, 1963), pp. 327-328. なお、Gomaa によれば Fauchille の見解は懐疑論というよりも、一方的廃棄権否定論と解される。Gomaa, supra note 21, p. 76. 一方的廃棄権否定論については、第 3 章第 1 節において詳論する。 122.
(19) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(1). 会の構造的な差異に見出す考え方も散見されるようになった。国際社会の分 権性を強調する論者によれば、国際社会は国家の上位に位置する裁判機関お よび相手方に履行再開や賠償の支払いを強制する権限ある機関を有しないこ とから、国家が条約を廃棄し自身を条約上の義務から解放する手段も認めざ るを得ないという 46)。条約の双務性という内在的な要因に加えて国際社会の 分権的性格という外在的要因が考慮されることで、契約関係の均衡を消極的 に回復する一方的廃棄権の正当化根拠は、国際法における自力救済の必要性 に見出されたと考えられる。 また、この頃の一部の有力な論者は、一方的廃棄権と国際法上の復仇を結び つける考え方を示した 47)。一方的廃棄権を復仇と捉えることで、その正当性は 条約の双務性ではなく、相手方の先行する違法行為とそれに対する自国の反応 の間の均衡に求められることになる。同時に、この時期のナウリラ事件で示さ れた定義 48)に沿って、復仇に当たる行為が本来違法であるものの先行する相 46)J. P. A. Françis, Règles générales du droit de la paix, Recueil des Cours, tome 66 (1938-IV), p. 167; W. E. Hall, A Treatise on International Law (6th ed., J. B. Atlay ed., Clarendon Press, 1909), p. 343; H. Bonfils, Manuel de droit international public, 4th ed. (P. Fauchille ed., Arthur Rousseau, 1905), p. 480; J. K. Bluntschli, Le droit international (trans. by C. Landy, Guillaumun et Cie., 1870), p. 244; F. von Liszt, Le droit international (trans. by Gilbert Gidel, A. Pedone, 1927), p. 187. See also S. B. Crandall, Treaties: Their Making and Enforcement, 2nd ed. (John Byrne & Company, 1916), p.456. 47)P. Fauchille, supra note 45, p. 388; H. von Widmer, Der Zwang im Völkerrecht: Ein Abhandlung und kritische Darstellung des Sanktionsproblems im internationalen Leben (R. Noske, 1936), pp. 4546; L. Reitzer, La réparation comme conséquence de l’acte illicite en droit international (Librairie du Recueil Sirey, 1938), p. 84. なお、20 世紀後半においても、条約法条約が成立する以前 には、一方的廃棄権を復仇として正当化する見解がみられる。P. Guggenheim, Traité de droit international public, tome I (Librairie de l’Université, Georg & Cie S. A., 1953), p. 117; G. Schwarzenberger, A Manual of International Law, 4th ed. (Stevens, 1960), p. 25. 48) 「復仇は被害国が自らの手で正義を行う行為であり、加害国による国際法に違反する行為 に対して―請求が不成功に終わった後に―対抗する行為である。これは二国間の関係にお いて国際法のさまざまな規則の遵守を一時的に停止する効果を有する。復仇は国家間関係 に適用可能な人道的経験および誠実の諸原則により制限される。復仇はもし国際法に違反 する事前の行為が動機を提供しなかったならば違法である。 」RIAA, vol. III, p. 1026. 123.
(20) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). 手方の違法行為によりその違法性が阻却されるべき行為と考えるなら、一方的 廃棄権に基づく条約の廃棄もまた本来的に違法な行為とみなされるであろう。 しかし、一方的廃棄権と復仇を結びつける立場に対しては、有力な反論も 提起 さ れ た。1934 年 に 国際法学会(l’Institut du Droit International)が 採 択した「平時復仇の制度」に関する決議第 2 条 2 項は、復仇概念に含まれな い措置の 1 つとして「義務に関する法の一般原則に由来する、国際関係に適 用可能な措置」をあげた 49)。同決議に関する報告者であった Politis は、ナ ウリラア事件仲裁判決において示された定義に沿って、復仇を「国際法の通 常の規則に違反する強制措置」と定義し、 「国際法の通常の規則に違反しな い強制措置」を復仇の定義から除外した 50)。かかる強制措置として復仇の定 義から除外された措置の中に報復などと並んで「違反された合意の廃棄、相 手国の不履行を根拠とする条約義務の履行拒否」があげられた 51)。これら の措置が復仇から除外されたのは、対抗行為の違法性が阻却されて合法化さ れる復仇に対して、一方的廃棄権に基づく廃棄は本来的に違法性を伴う行為 とはみなされなかったためである。復仇の概念から除外された一方的廃棄権 は、国内私法原則の条約関係への適用として法の一般原則の 1 つとみなされ た 52)。こうして、国際法学会の決議に関する限り、復仇と一方的廃棄権はそ の行為の違法性に関して明確に区別された 53)。こうして、一方的廃棄権を復 仇と結びつける考え方は十分な支持を得られないと考えられる 54)。 49)AIDI (1934), p. 708. 50)Ibid., pp. 60-61. 51)Ibid., p. 84. 52)Ibid., p. 648. 53)山本「前掲論文」 (注 20)53-54 頁。 54)長谷川「前掲論文(1) 」 (注 20)469-483 頁、Simma, supra note 2, pp. 24-25. た だ し、近 年の研究においても、復仇と第 60 条に基づく終了・運用停止を明確に区別すること には批判もあり、両者が概念上および実行上ある程度重なり合うと指摘される。R. 124.
(21) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(1). 第 3 節 第 60 条 相手方の契約の不履行に伴う契約上の不均衡を解消し契約当事者を救済 する規則は、現代の契約法体系においてほぼ普遍的に認められ、また国際 関係においても適用可能な規則として承認されてきた 55)。かかる規則は、 原則として相互的・双務的な義務に関して適用可能とされ 56)、その展開の 過程で、二国間条約に関して妥当する規則とみなされてきた。二国間条約 を念頭に発展してきた一方的廃棄権は、その適用に関する種々の制限の考 慮を受けつつ成熟し 57)、条約法条約第 60 条 1 項に法典化された 58)。条約 法条約第 60 条に法典化された終了・運用停止規則は、国際法の基本原則で ある pacta sunt servanda 原則およびこれを支える信義誠実原則 59)の当然の P. Mazzeschi, “Termination and Suspension of Treaties for Breace in the ILC Works on State Responsibility”, in M. Spinedi and B. Simma (eds.), United Nations Codification of State Responsibility (Oceana Publications, Inc., 1987), pp. 70-73; T. O.Elias, The Modern Law of Treaties (1974), pp. 114. この点については、第 4 節も参照されたい。 55)Dissenting Opinion of M. Antilotti, Diversion of Water from the Meuse, Series A/B No.70 (1937), p.50. 56)Individual Opinion of M. Hudson, ibid. p. 77. 57)一方的廃棄権への制限(手続および違反の重大性の考慮)に関しては、第 3 章および第 4 章において詳論する。 58)Commentary to draft article 57, YBILC, 1966, vol. Ⅱ. pp. 253-254, paras. (1)-(5). 59)ICJ は、一方的宣言によって引き受けられた国際義務の拘束性の認定の文脈において であるが、信義誠実原則と pacta sunt servanda 原則の関係について、つぎのように論 じた。「源泉のなんたるとを問わず、法的義務の創設および履行を支配する基本原則 の 1 つは、信義誠実の原則である。・・・ まさに条約法上の合意は守らなければならな いという規則そのものが信義誠実に基礎を置いているように、・・・」。I.C.J. Reports 1974, p. 268, para. 46, p. 473, para. 49. 皆川洸(資料)「核実験 に 関 す る 事件」『国際法 外 交 雑 誌』 第 74 巻 第 4 号(1975 年)389 頁。 ま た、Amado は、pacta sunt servanda 原則を条約の法的安定性に関する原則として理解し、その対をなす信義誠実原則の表 明 と し て frangenti fidem, non est fides servanda を 理解 し た(YBILC 1963, vol. I, p. 130, para. 20.)。 125.
(22) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). 帰結とみなされる 60)。 ILC による条約法の法典化において条約違反を根拠とする終了・運用停止規 則に関する条文草案を起草した Fitzmaurice と Waldock は、それぞれのアプ ローチは異なるものの、いずれも条約がもつ性質(内在的要因)に同規則の適 用可能性の根拠を求めた点で共通する。Fitzmaurice が起草した条文草案に採 用された考え方によれば、同規則は相互的、相互依存的な義務にのみ適用可 能であって、一体的、絶対的義務への適用は認められない 61)。同規則の妥当 性を条約義務の相互性および相互依存性に求める考え方は、条約の双務性に正 当性を見出した初期の学説に通じる。これに対して Waldock は、およそあら ゆる条約は廃棄可能であり、義務の性質にかかわらず、終了・運用停止されう るという立場をとった 62)。条約を契約的観念において把握し、その法的存在 の相対性に着目するこのアプローチは、ILC の 1966 年最終草案第 57 条(現第 60 条)に明確に示された 63)。Fitzmaurice が条約の双務性を基礎に、同規則の 妥当性を個別の条約義務の性質に還元しようと試みて条約の類型化を行ったの に対し、Waldock は条約の契約的観念を法典化された条約法体系全体を支え る 1 つの基礎とし、すべての条約の廃棄可能性を推定することで、同規則の適. 60)De Luna, YBILC 1963, vol. I, p. 128, paras. 3, 4. また、Tunkin は、より明確に、pacta sunt servanda 原則そのものの言い換えに過ぎないとみなした(ibid., para. 80.) 。ただし、第 60 条が定める規則の捉え方によっては、pacta sunt servanda 原則に反するという理解が 示される。Sicilianos は、復仇と第 60 条の対比において、両者がともに、先行する違法 行為の存在がなければ国際法に反する行為であるとし、第 60 条の場合にはそれが条約 の不履行を伴うものであれば、pacta sunt servanda 原則に反することになるという。L.A. Sicilianos, “The Relationship Between Reprisals and Denunciation or Suspension of a Treaty”, EJIL, vol. 4 (1993), p. 343. 61)Fitzmaurice II., supra note 28, p. 31. 62)Waldock II, supra note 28, p. 73. 63)YBILC 1966, vol. II, p. 253. 126.
(23) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(1). 用の正当性を見出した。このような違いが見られるものの、いずれの立場も条 約がもつ性質(相互・相互依存性および廃棄可能性)という内在的要因に妥当 性基盤を見出している点で共通する。 ILC のコメンタリーが強調するように、第 60 条に基づいて生ずる権利は、 「根拠を援用する権利」 (条約法条約第 45 条)に過ぎない 64)。このことは、第 65 条以下に定められる手続にしたがって終了・運用停止原因たる重大な違反 を援用し、相手方への通告、異議申立の有無の確定、紛争の解決などの手続を 経ることによってのみ終了・運用停止の法的効果を生じさせることができるこ とを意味する(第 42 条、第 65 条 1 項、2 項および第 67 条)65)。それが示唆 するところは、第 60 条に基づいて条約を終了・運用停止させることは、もは やかつての一方的廃棄権とは質的に異なる、当事国間の同意を基礎とする条約 の消滅プロセスにほかならないということである。信義則に照らしてかかる解 釈の妥当性は問題となりうるであろうが、制度論的にはこのような結論に至ら ざるを得ないのではないだろうか。この点については、次章で検討する。. 第 4 節 小括:対抗措置論における条約の終了・運用停止の位置づけ 国際法学会の「平時復仇の制度」に関する決議とそれをめぐる議論は自力救 済の諸手段の間の区別の問題を提起したが、今日の対抗措置論はその延長線上 64)Commentary to draft article 57, YBILC, 1966, vol. 2, p.254, para.(6). 65)M. E. Villiger, Commentary on the 1969 Vienna Convention on the Law of Treaties (Martinus Nijhoff Publishers, 2009), pp. 741-742. この点につき、二国間条約の場合、 「当事国は『違反を援用す る権利』を持つにとどまるから、・・・ かならずしも違反国に対する廃棄通告のみで確定的 にその条約を終了させることはできない。この権利は、違反国になお条約廃棄の是非につ いて争う余地を残している点で、完全な一方的廃棄権よりも弱い権利といえる」という。 小川芳彦「条約の一方的廃棄」田畑茂二郎、石本泰雄編『ハンドブック国際法』 (有信堂 高文社、1975 年)211 頁。他方で、長谷川は「条約の終了および運用の停止につき規定す る 60 条の場合には、1 項の二国間条約の終了の場合にのみ一方的廃棄権が認められる」と いう。長谷川正国「条約の廃棄」国際法学会編『国際関係法辞典』 (三省堂 1995 年)429 頁。 127.
(24) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). にあって、ILC による条約法および国家責任法の法典化作業を受けてとくに活 発に議論されてきた。 対抗措置論において条約の終了・運用停止規則を捉える学説は、同規則の妥 当性基盤として条約の性質ではなく相互主義の適用を強調する。その代表的な 論者である Simma によれば、国際法の一般原則としての相互主義は、その抽 象的な性質ゆえにそれを結晶化する具体的な規範の存在を前提とし、その消極 的機能を担うのが復仇と条約法にその素材の所在を有する(sedes materiae)終 了・運用停止規則である 66)。 また、相互主義がそれ自体として先行する違法行為に対する反応を構成す る自律的な法概念であると主張する論者もある。ILC による条約法の法典化に おいては、Fitzmaurice がその報告書において相互主義および復仇を条約の終 了・運用停止規則とは別個の対応として、 別々の条文として起草した 67)。また、 先に引用した Jiménez de Aréchaga や Crawford & Olleson が論じた一時的な 条約の不履行もその適用の 1 つのあり方と考えられるであろう 68)。彼らの主 張した一時的な条約の不履行は、第 60 条に基づく終了・運用停止がその法的 効果を有するまでの間、その手続的要件にとらわれることなく、暫定的かつ 即時的に条約上の義務を回避する手段としての意義を有する 69)。その対応は、 66)Simma, supra note 2, p. 8. また、復仇と終了・運用停止規則が相互主義の結晶化として、 国際社会に不可欠の制度として存在するのは、集権的な執行メカニズムが欠如している ためである。 67)G. Fitzmaurice, Fourth Report on the Law of Treaties, DOCUMENT A/ CN. 4/ 120, 17 March 1959, YBILC 1959, vol. II(以下、Fitzmaurice IV) , pp. 45-46. 68)Jiménez de Aréchaga, supra note 5, p. 81; Crawford & Olleson, supra note 35, pp. 55-74. 69)Zoller, supra note 20, p. 21.1995 年 9 月 13 日暫定協定の適用事件に関する判決において、 ギリシアは exceptio non adimpleti contractus に基づく不履行には、事前の通告などの手続 を踏む必要がないと主張した。 (Counter-Memorial of Greece, pp. 172-174, paras. 8.22-8.26 at http://www.icj-cij.org/docket/files/142/16356.pdf.) 128.
(25) 条約法に関するウィーン条約第 60 条に関する一考察(1). 先行する違法行為との同一性または等価性によって制限され、条約違反に対し ては違反された条約の同一または対価関係(quid pro quo)をなす等価の義務 の一時的な不履行によって構成される 70)。 即時性と等価性(または同一性)によって性格づけられる相互主義と異な り、復仇は即時的には実施しえず、救済の要求が満たされなかったことが要 件となる 71)。また、復仇行為と先行する違法行為との間には等価性(または 同一性)ではなく均衡性が求められる 72)。このような違いがある一方で、次 の 2 点において共通する。 第 1 に、相互主義および復仇としてとられる行為は、本来的には義務の不履 行を伴う違法な行為であり、先行する違反の存在などそれぞれの一定の条件を 満たす限りにおいて違法性が阻却され、合法とみなされる 73)。第 2 に、相互 主義および復仇に基づく条約義務の不履行はいずれも条約の法的存在そのもの には影響を与えない 74)。 相互主義および復仇に対して、第 60 条に基づく終了・運用停止は、先の「平 時復仇の制度」に関する決議によれば、本来的に合法な行為である。そのため、 70)Ibid. p. 17. 71)また、復仇は違反国による賠償や履行の再開などがなされた場合には、即時に終了され な け れ ば な ら な い。AIDI (1934), pp. 708-711; K. J. Partsch, “Reprisals”, EPIL, vol. 9 (1986), pp. 330-335. 72)Zoller, supra note 20, pp. 41-43. 73)ナウリラ事件仲裁判決は、違法行為が復仇として正当化されるためには、先行する違 法行為 の 存在 と 請求 が 不成功 に 終 わった こ と が 必要 と し た。RIAA, vol. II, p. 1026; J. Crawford, Third Report on State Responsibility, UN Doc. A/CN.4/507/Add.3, p. 20, para. 324. また、ガブチコヴォ・ナジマロシュ計画事件において、ICJ は、Variant C の実施を対抗 措置とみなすスロヴァキアの主張を検討した際、国際違法行為が対抗措置として正当化 されるための条件として、先行する国際違法行為の存在および履行の再開や賠償の請求 がなされたことをあげた。I.C.J. Reports 1997, pp. 55-56, paras. 82-84. 74) 2001 年国家責任法条文草案第 2 章コメンタリー (4)、YBILC 2001, vol. II, pt. 2, pp. 128-129. 129.
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第1条
第 98 条の6及び第 98 条の7、第 114 条の 65 から第 114 条の 67 まで又は第 137 条の 63
国連海洋法条約に規定される排他的経済水域(以降、EEZ
契約約款第 18 条第 1 項に基づき設計変更するために必要な資料の作成については,契約約 款第 18 条第
ISSJは、戦後、駐留軍兵士と日本人女性の間に生まれた混血の子ども達の救済のために、国際養子